北朝鮮が2019年7月25日、午前6時少し前に20分程時間をずらして2発の飛翔体を発射したと、2019年7月25日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。記事は韓国軍合同参謀本部発表の情報を元にしている。飛行距離は約430キロ。
〈発射された飛しょう体がミサイルかどうかは今のところ明らかになっていませんが、米韓両軍は飛しょう体の種類や発射の目的について詳しい分析を急ぐとともに、追加の発射に備えて警戒監視を続けています。〉と伝えている。要するに発射飛翔体に関わるデーター分析と可能性としてある次の発射に備えて警戒態勢を米韓両軍で行っているということであろう。ここに自衛隊の存在は記されていない。
だが、少なくともアメリカ政府からは連絡が入っていた。なぜなら、日本側は北朝鮮がミサイルを発射した際、その熱源を捉えて発射や方向、速度等を捕捉する米軍の早期警戒衛星情報(SEW)と共に米イージス艦が探知する航跡情報に依存していることは周知の事実となっているからだ。
依存していることは防衛相岩屋毅の午前8時半頃対記者団発言からも窺うことができる。
岩屋毅「北朝鮮が、何らかの飛しょう体を発射したと承知している。防衛省の関係幹部会議で情報を集約し、分析中だが、この段階で、わが国の領域や排他的経済水域への飛来はないと確認している。北朝鮮の軍事動向について、引き続き、アメリカや韓国などと緊密に連携しながら、情報の収集や分析に努め、警戒監視に万全を期していく。
数や種類、距離は分析中で、この段階で、確たることは申し上げられない。どういう形の発射であっても、もし、弾道ミサイルであれば、国連決議に違反しているわけで先般からの、飛しょう体の発射事案は、非常に遺憾だ」
もし自衛隊が韓国軍、あるいは米軍のいずれか一方と、あるいは双方とそれぞれに連携した飛翔体発射の情報把握であるなら、「北朝鮮が、何らかの飛しょう体を発射したと承知している」との言葉遣いは不可能となる。この「承知している」には間接的な伝聞の意味が込められている。自衛隊単独の、あるいは自衛隊が他国軍と共に参加した情報把握の場合は、国の安全保障に関わる国民の安心を得るためにその情報把握を前面に出すことになって、国民は防衛省発表という形で北朝鮮の飛翔体発射を知ることになるはずである。あるいは国民の安心を得る試金石となるゆえにそのような情報把握であることを否応もなしに前面に出すことになる。
2017年1月26日の衆院予算委員会で防衛相を務めたあとの小野寺五典が敵基地攻撃能力の必要性を訴える中で北朝鮮ミサイル発射の情報を米軍に頼っている発言を行っている。
小野寺五典委員北朝鮮がもし弾道ミサイルを発射した場合、当然、発射する場所というのは、北朝鮮の領土内にあるミサイル基地とか、あるいはミサイルの発射装置から発射されます。発射された後、当然、日本に飛んでくることをアメリカの早期警戒衛星で察知した場合、日本に通報があります。そして、それに対して、例えば日本のレーダーでこれを捕捉して、そして速やかに日本海にある日本のイージス艦からミサイルを発射して、弾道ミサイルでまず一義的に迎撃をする。万が一これが防げなかったら、今度は日本の国内にあります航空自衛隊が運用しますペトリオット部隊でもう一度迎撃をする。こういう二段構えで私どもは防いでおります」
日本に飛来するしないに関わらず、アメリカの早期警戒衛星はコース、その他を察知して、日本に通報することになるはずだ。いずれにしても、アメリカの早期警戒衛星やその他からの情報を間に置いた日本側の情報把握という形式を背景にして北朝鮮飛翔体発射に関わる日本側の発言や発表であることを読み取らなければならない。上記記事は政府と安倍晋三の対応を伝えている。
政府「わが国の領域や排他的経済水域への弾道ミサイルの飛来は確認されておらず、現時点で、わが国の安全保障に直ちに影響を与えるような事態は確認されていない」
安倍晋三(静養先の山梨県で午前10時過ぎに)「わが国の安全保障に影響を与える事態でないことは確認している。いずれにしろ、アメリカと緊密に連携していく」
日本独自の情報に基づいているのではなく、誰かからの間接情報を背景として自らの発言を成り立たせていると見なければならない。
早期警戒衛星は現在、米国とロシアとフランスが運用しているとネット上で紹介されている。韓国軍合同参謀本部は地の利を利用して、高性能のレーダーのみで北朝鮮のミサイル発射、発射方角、発射角度、到達高度、到達距離等々の情報を得ているのだろう。だが、このようなレーダーを以ってしても、初期段階で全てを把握はできていない。韓国側は当初は2発共に飛行距離は約430キロと発表していたが、2発目は約690キロ到達と訂正している。
「NHK NEWS WEB」記事の場合は「1発目がおよそ430キロ、2発目が690キロ余り」を韓国軍が「アメリカ軍と共同で分析した結果として、飛行距離は2発ともおよそ600キロだったと修正した」としている。
約690キロは日本に届く飛行距離だそうだから、「排他的経済水域への弾道ミサイルの飛来は確認されていない」とか、「わが国の安全保障に影響を与える事態でないことは確認している」と事実の表面のみを受け止めてばかりはいられない。韓国政府は新型の短距離弾道ミサイルだと分析しているというから、ミサイルの潜在的性能の脅威は増していることになる。
2発目の到達距離訂正について防衛相の岩屋毅の反応。「産経ニュース」(2019.7.26 11:09)
岩屋毅(2発目の飛翔体の飛距離が日本にも届く約690キロだったとの韓国側の見方について)「そもそも北朝鮮は日本全体を射程に含むミサイルを実戦配備してきた。現在もその状況は変わっていない。ミサイル防衛態勢を整え、抑止を効かせることが大事だ」
自衛隊側が直接的に把握した発射のデータを分析して、訂正した距離ではないから、分析と訂正について直接的には答えることができない。そこで一般的状況を説明することに代えた。このことはそのまま情報の他者依存の状況を示すことになる。
実際の発射に即して得たデータの分析が韓国軍と米軍によって行われて、そこに自衛隊が首を突っ込むことができなくて、情報だけを受け取る。アメリカ側と緊密な関係を維持しさえすれば、分析した情報は的確に受け取ることができるが、その分析には実際は韓国側も関わっている以上、韓国側の分析の恩恵を受けていることにもなる。そしてその恩恵が日本の安全保障に全然役に立っていないとすることも、今後の安全保障の役には立たないとすることもできないし、今後とも役立つ情報となり得る可能性は否定できない。
つまり日本の安全保障維持の必要不可欠な一事項となっているにも関わらず、安全保障に関わるそのような日韓関係を他処に日本の韓国に対する輸出規制は国際的に認められている安全保障上の必要な見直しだと、別の理由による安全保障維持の措置に出た。
このことが北朝鮮ミサイル発射の際の韓国側の日本向けの情報発信に悪影響が出ないとしても、日本側の韓国側に対する態度としては信義上の矛盾が生じることになる。矛盾を生じさせないためには話し合って、改めて貰うところは改めて貰うという態度に出るべきところをいきなり輸出管理の厳格化に出た。さらに日本の安全保障を理由に韓国向け輸出規制の強化を巡って輸出貿易管理上の優遇措置が適用される「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を8月2日に閣議決定する方針だと言うから、もしこの方針が決定されたなら、安倍晋三は韓国に対する信義上の矛盾を更に大きくするだけではなく、北朝鮮のミサイル発射に関わる韓国側情報の日本向けの発信に不確実性をもたらさない保証はない。
勿論、日本は北朝鮮のミサイル発射に関しての情報獲得は米軍単独依存でもやっていける。だが、その情報の把握と分析に韓国も関わっている以上、信義上の矛盾はゼロにはならない。安倍晋三にとって、そんなことはカエルの面に小便程度にも感じないだろうが、何らかのしっぺ返しを喰らわない保証はない。
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