11月10日(2017年)文部科学省の大学設置審議会が学校法人「加計学園」の獣医学部の来年2018年4月開学を認可するよう、文科相の林芳正に答申し、林芳正は11月14日、来年2018年4月の開学を正式に認可した。
大学設置審議会から答申を受けた11月10日(2017年)の林芳正の「記者会見」(文科省)
記者「獣医学部の関係ですけれども、審査が終わった、修正がいろいろかけられたものとして、それが特区に見合っているかどうか、専門教育課の方でチェックもされたというふうに伺っていますけれども、特区の中の4条件、いわゆる4項目というか、4条件。その中に、他の大学ではできないという条件も含まれているのですが、審査が終わったあとの内容として、他の大学ではできないという内容で出しているということなのでしょうか」
林芳正「今回の獣医学部の新設につきましては、これまで国家戦略特区を所管する内閣府を中心に、段階的にそのプロセスが進められてきたところでございまして、4項目につきましては、昨年の11月9日の『追加規制改革事項』の決定の際に、関係省庁において4項目が満たされているという確認を行っております。
今回の設置認可のプロセスにおいては、文科省として申請書の内容が4項目を満たしているか否かを確認したものではなくて、4項目を踏まえて進められた、国家戦略特区のプロセスの中で進められた『加計学園の構想』と適合しているか否かについて、確認を行っているところでございます。したがって、本年1月までの国家戦略特区におけるプロセスの判断が覆るものではないということが確認をされたところでございます」
記者は大学設置審の加計学園新設答申が2015年6月30日の政府閣議決定「日本再興戦略」改訂(抜粋)の獣医学部新設に関わる4条件に適合しているのか質問した。
対して林芳正は大学設置審は4条件を満たしているかどうかは確認しない、「昨年の11月9日の『追加規制改革事項』の決定の際に、関係省庁において4項目が満たされているという確認を行って」いて、この確認を踏まえて国家戦略特区のプロセスの中で進められた「加計学園の構想」と4条件が適合しているか否かについて、確認を行っている。従って、「本年1月までの国家戦略特区におけるプロセスの判断が覆るものではないということが確認をされた」としている。
先ず林芳正が言っている獣医学部新設に関わる2017年11月9日の「追加規制改革事項」について見てみる。
「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」(2017年11月9日) 先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置 人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国 際的に拡大する中、創薬プロセスにおける多様な実験動物を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するため、現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。 |
要するに4条件に適う「獣医学部の設置」の地域的条件を〈現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り〉とするよう制度改正を直ちに行うと提案している内容であって、4条件に対する適合性には何も触れていない。
2017年11月9日の「追加規制改革事項」は同日の「第25回国家戦略特別区域諮問会議」に同じ題名「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」の「案」――「資料3」としてそのままの文言で提出されている。
今治市が国家戦略特区での獣医学部新設を提案したのは2015年6月4日である。
「今治市国家戦略特別区域提案書」(2015年6月4日) ①国際水準の大学獣医学部の新設 これまでの国立大学の研究者養成、私立大学の臨床獣医師養成と異なる公共獣医事を担う第三極の国際水準の大学獣医学部を空白地域の四国に新設する。越境感染症や人獣共通感染症、国際的食の安全、バイオテロ等への危機管理と国際対応の資質を持った人材を育成する。 国際貿易自由化に伴う食品流通等で獣医学的支援の必要な水産、畜産、生物資源利用分野等との連携、創薬研究での医獣連携など分野横断型応用ライフサイエンスの研究・教育と人材育成を進める。 |
この提案書を受けて、今治市提案2015年6月4日から26日後の6月30日に4条件を閣議決定したのだろう。
「獣医学部新設4条件」 ①既存の獣医師養成でない構想が具体化すること、 ②ライフサイエンスなど、獣医師が新たに対応すべき分野の具体的な需要が明らかになること、 ③既存の大学・学部では対応が困難なこと、そして、 ④獣医師の需要の動向を考慮すること |
要するに経緯から見て、今治市の提案に対してこれこれの4条件を満たせば、獣医学部の新設を認めますよという内容にしているということなのだろう。
今治市が千葉市、北九州市と共に国家戦略特区指定を受けるのは今治市提案から約6カ月後、閣議決定から5カ月半後の2015年12月15日の「第18回国家戦略特別区域諮問会議」第18回)のことであるから、今治市から獣医学部新設の提案を受けて、国家戦略特区に指定したことになる。
昨日、2017年11月15日に衆議院文部科学委員会が開催されて、加計学園獣医学部開学正式認可について林芳正が言っていた4条件を満たしているとしている発言の正当性に対する追及が行われたと11月15日付のマスコミが伝えている。
但し林芳正を含めて政府側は「国家戦略特区のプロセスの中で確認された」との答弁を繰返すのみで、具体的な経緯についての発言がなく、立憲民主党の逢坂誠二の質問の際は10回も質疑が中断したという。
要するに林芳正の11月10日の記者会見での発言をただ単に繰返すことで追及をかわそうとい戦術なのだろう。勿論、「確認された」が事実なら、何度同じ発言を繰返そうが構わないが、実際に「確認された」のか、関係する各国家戦略特区諮問会議の議事要旨を紐解いて見ることにした。
最初に今治市が国家戦略特区の指定を受けた第18回から獣医学部新設言及の発言を見てみる。18回当時は戦略特区担当は山本幸三ではなく、石破茂である。
「第18回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」(首相官邸/2015年12月15) 石破茂「国家戦略特区の第3次指定の対象となる区域といたしまして、広島県及び愛媛県今治市、千葉県千葉市、福岡県北九州市の3地域を考えております。 しまなみ海道でつながっております広島県と今治市を連携して指定したいと考えます。雇用ルールを明確化し、グローバル企業や家事支援人材を積極的に受け入れます。また、ビッグデータを活用し、民間主導の道の駅の設置や、ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野における獣医師系の国際教育拠点の整備については、6月の改訂成長戦略に即して行います」 竹中平蔵有識者議員「今まで中国・四国に特区はなかったわけでありますので、その点についても今回新たに入るということは意味があること。広島、今治が入るということだと思います。 今回、その中でとりわけ獣医学部等々を含むライフサイエンス系の問題にこの地域が取り組もうとしているところは、私は高く評価すべきであろうかと思います。この問題は成田で38年ぶりに医学部ができる。これは大変大きな話題、アベノミクスが進捗している象徴になったわけですけれども、獣医学部に関しては、それを上回る47年間新しいものがない。かつ、昭和50年、つまり約40年前から定員がふえていない。これは驚くべきことだと思います。そういう意味で、ここにぜひ獣医学部の問題も含めて、ライフサイエンスで頑張っていただきたいという思いがあります」 ・・・・・・・・ 石破茂「「御意見ありがとうございました。 いただきました御意見につきましては議長一任とし、国家戦略特別区域を指定する政令案及び区域方針に反映させたいと存じます。それでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」と声あり) 石破茂「それでは、異議がないということで扱わせていただきたいと存じます。 最後に、議長であります安倍総理から発言をいただきますが、ここでプレスを入室いたさせます。 (報道関係者入室) それでは、総理お願いいたします」 安倍晋三「全国で10番目となる国家戦略特区を、新たに決定しました。瀬戸内のしまなみ海道でつながった、広島県と愛媛県今治市です。 例えば、しまなみ海道の『道の駅』の民間による設置、ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野における獣医師系の国際教育拠点の整備など、観光、教育、創業などの分野で、国際的な交流人口の流れを呼び込み、地方創生を実現します」 |
広島県及び愛媛県今治市を国家戦略特区に指定したことと4条件を満たした獣医学部新設に対する期待とそのような新設の方針に言及しているのみであって、4条件を満たすかどうかの議論にまで至っていない。
第19回、第20回と今治市への獣医学部新設は取り上げていない。
「第21回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」(首相官邸/2016年4月13日) 石破茂「3月24日に、3次指定の千葉市及び北九州市を含めた東京圏など7区域の合同区域会議を開催し、30日には、広島県・今治市の区域会議を立ち上げ、合計36事業の申請がございました」 |
これ以外に言及はない。
石破茂が2016年3月「30日には、広島県・今治市の区域会議を立ち上げ」と言っていることは「広島県・今治市国家戦略特別区域会議(第1回)」のことで、今治市長の菅良二と前愛媛県知事の加戸守行、民間議員の八田達夫等が閣議決定の4条件に合致する獣医学部の新設の必要性を訴えているのみである。
大体が事業主体として計画している新設獣医学部が4条件を満たすことができるかどうかの判断は先ず事業主体として名乗り出て、その事業主体が計画している新設獣医学部の規模・内容等の、いわゆる「構想」を議論の対象にしなければ、如何なる判断もできない。
2016年5月19日の「第22回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」では今治市への獣医学部新設に関わる発言なし。
「第23回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」 民間有識者議員八田達夫「例えば、獣医学部の新設は、人畜共通の病気が問題になっていることから見て極めて重要ですが、岩盤が立ちはだかっています。その他にも、クールジャパンの『外国人材』の受け入れとか、『シェアリングエコノミー』へのさらなる拡大など、厚い壁で守られているものばかりです。強力に解決を推進したいと思います。 今回の内閣改造により、山本大臣が、『国家戦略特区』と『規制改革』の双方を一体的に担当されることになりました。また、先日発表された規制改革推進会議の委員に、特区ワーキンググループの八代・原両委員が任命されました。 こうした新体制によって、岩盤規制改革が格段に進むことを期待したいと思います』 |
これ以外に獣医学部に関わる発言はない。獣医学部新設を含めた岩盤規制改革の進捗への期待を述べているに過ぎない。
次の「第25回」会議で上記の「国家戦略特区における追加の規制改革事項について(案)」として「資料3」が提出される。
「第25回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)(首相官邸/2016年11月9日) 山本幸三「引き続き、特区ワーキンググループなどで、関係各省と議論を煮詰めてまいります。 続きまして、資料3を御覧ください。 前回の会議で、重点課題につきましては、法改正を要しないものは直ちに実現に向けた措置を行うよう総理から御指示をいただきましたので、今般、関係各省と合意が得られたものを、早速、本諮問会議の案としてとりまとめたものであります。 内容といたしましては、先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置、農家民宿等の宿泊事業者による旅行商品の企画・提供の解禁となっております。 これらにつきまして、各規制を所管する大臣より御発言をいただきます。 まずは、松野文部科学大臣、お願いします」 松野臨時議員「文部科学省におきましては、設置認可申請については、大学設置認可にかかわる基準に基づき、適切に審査を行ってまいる考えであります。 以上です」 山本幸三「次に、山本農林水産大臣、お願いします」 山本有二農水相「産業動物獣医師は、家畜の診療や飼養衛生管理などで中心的な役割を果たすとともに、口蹄疫や鳥インフルエンザといった家畜伝染病に対する防疫対策を担っており、その確保は大変重要でございます。 近年、家畜やペットの数は減少しておりますけれども、産業動物獣医師の確保が困難な地域が現実にございます。農林水産省といたしましては、こうした地域、家畜やペットの数は減少しておりますけれども、産業動物獣医師の確保が困難な地域が現実にございます。農林水産省といたしましては、こうした地域的課題の解決につながる仕組みとなることを大いに期待しておるところでございます」 ・・・・・・・・・ 麻生太郎「松野大臣に1つだけお願いがある。法科大学院を鳴り物入りでつくったが、結果的に法科大学院を出ても弁護士になれない場合もあるのが実態ではないか。だから、いろいろと評価は分かれるところ。似たような話が、柔道整復師でもあった。あれはたしか厚生労働省の所管だが、規制緩和の結果として、技術が十分に身につかないケースが出てきた例。他にも同じような例があるのではないか。規制緩和はとてもよいことであり、大いにやるべきことだと思う。しかし、上手くいかなかった時の結果責任を誰がとるのかという問題がある。 この種の学校についても、方向としては間違っていないと思うが、結果、うまくいかなかったときにどうするかをきちんと決めておかないと、そこに携わった学生や、それに関わった関係者はいい迷惑をしてしまう。そういったところまで考えておかねばならぬというところだけはよろしくお願いします。以上です」 八田達夫「獣医学部の新設は、創薬プロセス等の先端ライフサイエンス研究では、実験動物として今まで大体ネズミが使われてきたのですけれども、本当は猿とか豚とかのほうが実際は有効なのです。これを扱うのはやはり獣医学部でなければできない。そういう必要性が非常に高まっています。そういう研究のために獣医学部が必要だと。 もう一つ、先ほど農水大臣がお話しになりましたように、口蹄疫とか、そういったものの水際作戦が必要なのですが、獣医学部が全くない地方もある。これは必要なのですが、その一方、過去50年間、獣医学部は新設されなかった。その理由は、先ほど文科大臣のお話にもありましたように、大学設置指針というものがあるのですが、獣医学部は大学設置指針の審査対象から外すと今まで告示でなっていた。それを先ほど文科大臣がおっしゃったように、この件については、今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった。 麻生大臣のおっしゃったことも一番重要なことだと思うのですが、質の悪いものが出てきたらどうするか。これは、実は新規参入ではなくて、おそらく従来あるものにまずい獣医学部があるのだと思います。そこがきちんと退出していけるようなメカニズムが必要で、新しいところが入ってきて、そこが競争して、古い、あまり競争力がないところが出ていく。そういうシステムを、この特区とはまた別にシステムとして考えていくべきではないかと思っております」 「本日は、『獣医学部の設置』や『地域主体の旅行企画』についての制度改正を決定しました。このスピード感で、残された岩盤規制の改革にもできるものから着手し、そして実現していきます。山本地方創生・規制改革担当大臣と民間有識者の皆様には、引き続き、私と一緒にドリルの役割をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします」 山本幸三「御意見をいただき、ありがとうございました。 それでは、資料3につきまして、本諮問会議のとりまとめとしたいと思いますが、よろしゅうございますか。 (「異議なし」と声あり) 御異議がないことを確認させていただきます。ありがとうございます。 それでは、本とりまとめに基づき、速やかに制度改正を行いたいと思いますので、関係各大臣におかれましても、引き続き御協力をお願い申し上げます。 以上で、本日予定された議事は全て終了しました」 |
「資料3」が謳っている4条件に適う「獣医学部の設置」の地域的条件、〈広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。〉ことを「『異議なし』と声あり」で決定しただけのことであって、新設獣医学部の事業主体が計画しているその「構想」が4条件を満たしているかどうかを議論しているわけでもないし、当然、議論していないのだから、満たしているとの確認が行われたわけではない。
ところが、文科相の林芳正は11月10日の記者会見で「昨年の11月9日の(「第25回国家戦略特別区域諮問会議」での)『追加規制改革事項』の決定の際に、関係省庁において4項目が満たされているという確認を行」い、「4項目を踏まえて進められた、国家戦略特区のプロセスの中で進められた『加計学園の構想』と適合しているか否かについて、確認を行っているところでございます」と、さも4条件適合の確認を行っているかのように偽っている。
前のところで事業主体として計画している新設獣医学部が4条件を満たすことができるかどうかの判断は先ず事業主体として名乗り出て、その事業主体が計画している新設獣医学部の規模・内容等の「構想」を議論の対象にしなければ、如何なる判断もできないと触れたが、加計学園が事業主体として名乗り出たのは2017年1月4日の内閣府による「広島県・今治市 国家戦略特別区域会議の構成員(特定事業を実施すると見込まれる者)の公募」、いわゆる事業主体公募に対して加計学園が6日後の2017年1月10日に応募したときである。
応募用紙に事業主体として学校法人加計学園の名前と「事業を実施する場所」とか、定員等の「事業の規模」、4条件が掲げている内容に合致する「事業の内容」等が初めて顔を出している。
そして2017年1月20日の「第27回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」で、加計学園が新設獣医学部の事業主体として「『異議なし』と声あり」で認められている。
安倍晋三はこの「第27回」まで加計学園が事業主体であることを知らなかったと国会答弁しているが、その真偽はともかく、安倍晋三が議長である国家戦略特区諮問会議で新設獣医学部が閣議決定の4条件を満たすかどうか議論の機会を持たなかったことの明確な証拠となる。
当然、国家戦略特区諮問会議が加計学園が計画した獣医学部の4条件適合性を議論していない以上、大学設置審議会がその適合性を審査しなければならないことになる。
だが、林芳正は、と言うよりも、政府は「今回の設置認可のプロセスにおいては、文科省として申請書の内容が4項目を満たしているか否かを確認したものではない」として、大学設置審議会を4条件適合性の審査から外している。
国家戦略特区諮問会議も審査しない、大学設置審議会も審査しない。だが、諮問会議で4条件を満たしていると確認したと言っている。
ここにインチキ、極まれり。国民をバカにするにも程がある。要するに安倍晋三が政治関与して決めた加計学園獣医学部新設認可だからこそ、こういった不一致を曝け出すことになるのだろう。