3月2日の参院予算委員会で弁護士、裁判官、検察官を歴任し、野田内閣下で法務大臣を務めた(「Wikipedia」)小川敏夫民主党所属参議院議員67歳が環境相丸川珠代の2月7日松本市講演での発言を取り上げて追及した。
2月9日の衆院予算委で既に民主党の緒方林太郎が取り上げて追及したが、他の議員も追及したのかもしれないが、気づいたのはこの2回である。
最初の緒方林太郎と丸川珠代の質疑を、《丸川珠代の「除染基準1ミリシーベルトに科学的根拠なし」に見るウソつきは泥棒の始まり、環境相の資格なし - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》と題して2月13日(2016年)にブログにしたが、そこで次のように書いた。
〈丸川珠代の答弁から窺うことのできる趣意は、ICRPが1ミリシーベルトから20シーベルトの間と勧告しているのに民主党政権が除染基準を1ミリシーベルトと決めてしまったから、除染がいつまで経っても完了しないと、そのことの不満と20ミリシーベルトにしたい願望である。
だったら、原子力規制委員会等に問題提起して変更を求めるべき問題であって、講演で話すべき問題ではないはずだ。〉――
3月2日の小川対丸川の質疑をNHK総合テレビの中継を聞いていて、この思いを強くした。但し話すべき対象は原子力規制委員会等の専門家や原子力関係の有識者から始まって、除染すべき最適切とすることができるミリシーベルトをきちっと決めてから、決まったイキサツと決まったミリシーベルトが健康を害する放射線量ではないことの説明を福島の被災者を話すべき対象として行い、納得を得なければならなかった。
いわば松本での講演で、話した内容が講演会場の閉ざされた空間で完結すると思ったのかもしれないが、その場にいた聴衆を話すべき対象とする発言内容ではなかった。
小川敏夫が緒方林太郎対丸川珠代の質疑を確認し、参考にしたかどうかは分からない。参考にしたていたなら尚更のことになるが、小川敏夫は弁護士、裁判官、検察官歴任の経歴にふさわしくない追及の仕方をしたことになる。結果、追及しきれずに質問を終えることになった。つまり丸川珠代に同じ答弁を繰返させただけのことで、巧妙に言い抜けさせてしまった。
どう追及すべきだったか。当然、話すべき対象の違いを指摘するだけでいいことになる。そして話すべき対象に話さなかった責任の不履行を問い詰めて、環境相の任にないことを迫って、辞任を要求すればいい。
小川敏夫自身、どのように追及したのか知って貰うためにご丁寧にも質疑を文字起こししてみた。
小川敏夫「丸川大臣、何か松本市内の発言を撤回されたそうですが、どんな発言をしたんですか」
丸川珠代「先ず2月7日に講演を致しました。発言について福島に関連する発言について撤回をさせて頂いたものです。発言の内容といたしましては、要旨を申し上げますと、ICRP(国際放射線防護委員会――民間の国際学術組織)の考え方では年間1から20ミリシーベルトの範囲内で地域の汚染状況等に応じて参考レベルを設定すべきだとされており、自発的見地から最も厳しい値が選択されたことや追加被爆線量年間1ミリシーベルト以上の地域について面的条件を実施する過程に於いて専門家の議論の場で具体的な数字についての説明がなかったことなどでございました。
いずれにせよ、私の発言については撤回をさせて頂きまして、福島を始めとする被災地の皆様方には多大なご心配をおかけして、まことに申し訳なく思っています」
小川敏夫「発言についての大臣の解釈を聞いているんじゃないんですよ。どういう発言をしたのか、発言のナマの内容を聞いているんです」
丸川珠代「地域被曝線量が20ミリシーベルトを超えている地域については除染の目標を先ず20ミリシーベルト、これご承知のように避難基準でございますけれども、これを目標にしましょうと決めました。
一方で20ミリシーベルト未満の地域では専門家が議論をして除染は面的に5ミリシーベルト、これまで遣りましょう、提案をしたところ、これは取り下げて、13ミリシーベルトのところまでのところまでやると決めました。
専門家の議論の中には取り下げについて具体的な数字の議論はございませんでした。その結果、受け止めが除染も含めて総合的な対策によって長期的に目指すべき追加被曝線量1ミリシーベルトが除染のみによって達成される目標でなければならないという認識が広がってしまったという趣旨の発言になったんです」
小川が発言した一字一句を聞いているのに発言に至る経緯の説明となっていることに納得せず座ったままでいると、他の委員が委員長席に抗議に行き、ほんの暫く中断する。結果、答弁の遣り直しとなった。
丸川珠代「撤回した部分はとりわけ私、今福島の仕事をしているから、本当に凄かったんだなと思いますというところから、そういった人が帰れなくなったことに未だ帰れなくなっている人が出てきているという部分でございます」
再び中断、抗議。答弁のやり直し。
丸川珠代「少々時間がかかりますが、全部読ませて頂きます。『とりわけ私、今福島でお仕事をしているから、本当に酷かったんだなと思います。私、何で福島の仕事をしているかと言うと、環境省の仕事をしていますから、除染の仕事をやっているんですね。
今まで環境省はエコだ、何だって言っていればよかったんですけど、震災から5年間ずっと除染の仕事をやっています。どれだけ除染をするかっていう議論があるんですね。100ミリシーベルトを下(くだ)ったとこ。年間100ミリシーベルトを下ったと言うのは基準がなかったもので、ずっと国際的にも20から100までの間のとこでいいとこで区切ってください(ということになっている)。
その現場、現場で何から線量を受けるかということは違いますから、森にいるとか、平地にいるとか、岩場にいるとか、海の傍にいるとか全然違いますから、地域地域に合った線量を決めてくださっていうのでやっていたんです。
ところがこの一番低い20ミリシーベルトになるように除染しましょうねと言っても、反放射能派って言うと変ですけれども、どれだけ下げても心配だという人が世の中にいるんですよ。
で、そうういう人たちが、ワア、ワア、騒いだ中で、何の科学的根拠もなく、このときの細野さんという環境大臣の1ミリシーベルトまで下げますって急に言ったのです。誰にも相談しないで何の根拠もなく。そう言った結果、帰れるはずの所に未だ帰れない人が出ている』。以上です」
想像を絶する酷さだったはずですと断定できる程の理解の程度ではなく、「とりわけ私、今福島お仕事をしているから、本当に酷かったんだなと思います」と距離を置いた推測程度の理解となっている言葉の感覚と、この理解の程度が表現することになる、「私、何で福島の仕事をしているかと言うと、環境省の仕事をしていますから」と、福島を環境省の仕事と結びつけた関係にのみ置いている事務的な感覚には人並みの血、温(ぬく)もりを感じさせない。
このことと対応しているのだろうか、どのような場面でも表情一つ変えずに無表情を押し通すことのできる能面さながらの顔は人並みの血も温もりもを感じさせないばかりか、逆に酷薄ささえ漂わしているようにみえる。ロボット仕立ての着物を着せたデパートの受付嬢の方がより人間的な表情をしている。
詭弁を弄して言い抜ける話術を本能のように備えている安倍晋三でさえ、ときにはプライドで顔を赤らめたりするが、丸川珠代にはそれがないようだ。顔を赤らめるだけの血を持っていないのかもしれない。
当然、福島に対するその程度の理解を背景とした発言ということになって、福島の被災者を話すべき対象とせずに松本の聴衆を話すべき対象としたことも、発言の内容が軽くなったことも理解できることになる。
だが、そのことを許したなら、環境相としての責任不履行まで許すことになる。
小川敏夫「大臣、お尋ねしますけどもね、1ミリシーベルトというものが何の根拠もないものと大臣は思っていたんですか」
丸川珠代「ただ今申し上げさせて頂いて恐縮ですが、ご指摘の点も含めて、私の福島に関する発言は撤回させて頂きました。なお私が『根拠もなく』というふうに申し上げています。科学的根拠もなく』という発言をしたというふうに私申し上げたとおりです。
この科学的根拠というのが疫学調査などの統計的分析に基づく客観的な裏付けを指しております。なお科学的根拠というものについては例えば平成23年7月8日の予算委員会の枝野官房長官のご答弁、『被爆した放射線量の100ミリシーベルト未満では放射線がガンを引き起こすという科学的根拠はない』ということでございます。
であるとか、あるいは平成23年7月26日の担当大臣の会見での発言ですが、『100ミリシーベルト以下については他の要因に隠れてしまって明確な影響は疫学的には出ていないというのがICRPを含めた様々な専門家の間の前提となっている』というものを踏まえて私なりに理解したものです」
もし事実上記二者の発言を踏まえた松本での講演の発言だと言うなら、尚更に専門家の間で地域地域の状況の違いに応じて除染のルールを決めて、それを政府認識として福島の被災者を話すべき対象として対話集会なりを開いて相手が納得できるまで説明するのが環境相としての責任であったはずである。
そのような責任を果たすつもりもなく、「反放射能派」だとか、「ワア、ワア、騒いだ中で」とか、「何の科学的根拠もなく」といった話を直接的利害者ではない松本の聴衆を相手にウケ狙いで、直接的利害者ではないからこそそうできるのだろうが、話す責任の軽さを見せる。
小川敏夫「そういうふうに大臣の発言は『何の科学的根拠もなく』時の大臣が決めたということで、1ミリシーベルトについてお話しされたわけですよね。ですから、その1ミリシーベルトということについて何の根拠もないと、このように認識していたんですか、発言当初」
丸川珠代「ですので、科学的根拠、つまり疫学調査など統計的な分析に基づく客観的な裏付けを指していることについては先程私がご答弁申し上げたような、先の民主党政権でも行われた答弁等を踏まえて私なりに理解していたということでございます」
既に繰返しの答弁を許している。繰返しの答弁を許す追及となっていることに気づかなければならない。
小川敏夫「何か後からつけた難しい答弁のように思いますがね。『この反放射能派と言うと変ですが、どれだけ下げても心配という人は世の中にいる』と。そういう人たちの声で1ミリシーベルトに下げたという趣旨に取れるんですが、そういう趣旨で発言されたんじゃないですか」
丸川珠代「先ずこの点も撤回させて頂いておりますけども、例えばICRPの考え方に於いて地域の汚染状況に加えて住民生活の持続可能性、住民の健康等の多くの要因のバランスを慎重に検討して、適切な相当レベルを選択すべきとされています。放射能についてこのような議論を受け付けずにリスクがどれだけ減っても、全くゼロではないと受け入れないという方々はこの中にはいらっしゃるということをイメージして申し上げたものですが、福島で被災されて放射線に対して不安を抱いていらっしゃる方々について申し上げたものではありません」
用意してあった答弁なのだろう。だが、話すべき対象はやはり松本の講演会場の聴衆ではなく、ICRPの考え方を参考にして許容放射線量はルールとして確立できる専門組織であり、そこで決めたことを福島の被災者を話すべき対象として説明する責任を負っていた。
だが、そうする責任を果たさないでいた。果たしていさえすれが、松本で余分なことを言わずに済んだだろうし、国会で追及されて、筋の通らない弁解に追われることもなかったはずだ。
小川敏夫「じゃあ、誰に対して申し上げたんですか」
丸川珠代「ですから、一般論として先程申し上げたけれども、放射能について参考レベルと言うものの考え方についての議論を全く受け付けずにリスクがどれだけ低くても、全くのゼロでなければ受け入れない方も中にはいらっしゃるということをイメージとして申し上げたものでございます」
除染の事務を司る環境相を務めている以上、全くゼロ派を話すべき対象として説明する責任を負っていたはずだ。その責任を果たすためには専門家組織の中で地域ごとに許容可能なレベルの放射線量を決めなければならない。
小川敏夫「そうした人たちがどうやって騒いんだんですか」
こそ泥裁判の検察官を務めているわけではない。相手は議員歴も大臣歴も短くても、自然にそうできるのか、顔に表情を見せないで無表情を装うことのできる海千山千の人間と見なければならない。言い抜ける意志を固めているのだから、発言自体を微に入り細に亘って突ついても始まらない。
丸川珠代「色々な所で色々なご発言があったと見られています」
自身が直接目にした情報ではなく、間接的な情報で逃げている。
小川敏夫「じゃあ、色んな所で色んな発言を幾つか例に上げて言ってください」
丸川珠代「私もつまびらかにどの方がどの時期にどのようなことをおっしゃったか、ことまで今、具体的に申し上げることはできませんけれども、当時の世論の中にそういう考えが大勢を占めていたと言うことを申し上げております」
と言うことは、多くのマスコミが伝えていたか、環境省の職員が福島を回って得た情報ということになる。でなければ、大勢を占めていた考えは知りようもない。
当然、大勢を占めていたということなら、あるべき除染線量のルールを確立して、徹底させる責任を負っていたことになる。
小川敏夫「まあ、全く納得のできる説明ではありませんね。持間がなくなったので――」
丸川珠代に対する追及のサジを投げて、司法取引について岩城法相相手に質問を移した。
繰返しになるが、丸川珠代は環境大臣として話すべきではない対象に話し、話すべき対象には話さない、その機会さえ設けない、不適切な責任の果たし方を見せた。
小川敏夫はこの点を突いて、環境相としての責任能力の欠如を暴く戦法を取るべきだったが、不完全燃焼の追及で終わらせてしまった。