当時の古川康佐賀県知事が2014年12月2日公示、12月14日投開票の衆院選挙に佐賀2区から自民党候補者として立候補するために辞任、佐賀県知事選が12月25日告示、1月11日投開票で行われることになった。
蛇足だが、古川康は当選。見事衆議院議員第1期生となった。2011年6月、九州電力玄海原子力発電所2、3号機の運転再開に向けた経済産業省主催生放送の「佐賀県民向け説明会」で九州電力が前以て下請等の関係会社社員らに運転再開支持の電子メールを投稿するようヤラセを指示、そのキッカケが九電幹部が古川知事と会談した際の古川の「再開賛成の声を上げることが必要」との発言であった疑いが出たが、古川は「九電側の受け止めの問題。私の真意と違う形で受け止めたことで、私自身の責任は発生しない」と直接的指示を否定、九電側も、「知事発言の真意とは異なる懇談メモが発端となった」と、ヤラセ自体は認めたものの、知事の発言を受けた情報操作は否定。
何しろかくかように原発城下町を含めた選挙区を強い味方としていたのだから、自民党ブームがなくても当選したかもしれない。
問題は後任を決める知事選である。古川康への衆議院選での支持が県知事選では後任立候補者である自公推薦の樋渡啓祐にすんなりとバトンタッチされなかったようだ。対立候補の山口祥義が約4万票の差をつけて当選することになった。
12月25日の告示以来、自民、公明両党幹部や閣僚が続々と応援に入り支持を訴えたことが功を奏さなかった。具体的には稲田朋美自民党政調会長、菅官房長官、谷垣禎一自民党幹事長、太田昭宏国土交通相、茂木敏充選対委員長といった面々が現地入りしていた。
そしていつ頃から始めたのか分からないが、安倍晋三の肉声を録音した投票を呼び掛ける「総裁テープ」なるものを各家庭に電話して流す作戦が飛び入りすることになった。
どんな内容かと言うと、電話を受けた人たちの走り書きや記憶に基づく内容だとして、《佐賀県知事選 樋渡陣営電話作戦への疑問》(ニュースサイトHUNTER/2015年1月 9日 09:05)が紹介している。
〈佐賀県の皆さま、自由民主党総裁の安倍晋三です。
自民党は、武雄市長としてさまざまな改革を行い、実績を上げてきた樋渡啓祐氏を、自信と責任をもって推薦しました。
佐賀県ではこれまで、古川康さんが知事を務め、強いリーダーシップで大きく県政を発展させてきました。
地方創生を実現するため、国会で活躍する古川康氏からバトンを受け継ぎ、佐賀県をさらに発展させていけるのは樋渡啓祐氏以外にありません。
国と佐賀県、そして県民の皆さまでスクラムを組みましょう。樋渡啓祐氏を先頭に力を合わせ、(政権も)佐賀県の発展のために全力をあげて取り組んでまいります。
新しい佐賀県のリーダーとして、樋渡啓祐氏の支援いただきますよう心からお願い申しあげます。〉――
12月14日投開票でありながら、その4日前の「1月10日 10時26分」付の「日刊ゲンダイ」が「電話作戦は既に終了している」と書いている。ネット上で話題になり、批判の声も多かったから、急遽中止したのかもしれない。
自民、公明両党幹部や閣僚が現地入りして応援していながら、安倍晋三の投票お願いの肉声テープを仕込んだ電話を切り札として各家庭に掛けまくらなければならなかった。
誰もが読み取ることは自公推薦候補が告示前からの情勢分析で劣勢に立たされていて、選挙戦に入ってからも情勢は変わらなかったために自民党本部側として肉声テープが劣勢に立たされていた状況を逆転するだけの切り札となるという読みがあり、飛び入りを要請された安倍晋三にしても、その読みに同意したから、直々の肉声テープという形で飛び入りをお願いすることになったということであるはずだ。
安倍晋三の肉声テープまで飛び入りさせたのに落選ということになったなら、安倍晋三自身が笑い者になって恥をかくことになりかねないし、大体からして読みがないままに要請し、読みがないままに引き受けたとなると、情勢分析能力、あるいは情報分析能力の程度を曝すことになって、二重の笑い者となり、その分、恥を上塗りすることになる。
だが、読みに裏切られた。どのみち情勢分析能力も情報分析能力もなかったことになる。
情勢分析能力も情報分析能力もないままに自民党本部が劣勢逆転の切り札として安倍晋三に肉声テープの飛び入りをお願いし、安倍晋三にしても情勢分析能力も情報分析能力もないままに劣勢逆転の切り札として引き受けたことが誤った読みだとすると、ではなぜそのように誤ったのか、双方共に昨年12月の総選挙で自民党を大勝に導いた安倍晋三の選挙の力を過信していたとしか答を見つけることができない。
12月14日投開票の衆議院選からまだ間のない佐賀県知事選である。自民党大勝の効力を過信していたとしても不思議はない。だが、切り札とすることについての読みの誤りは、自民党党本部にしても安倍晋三にしても、安倍晋三の選挙の力を過信する余りの思い上がりがそこにあったと見るしかない。
思い上がりだとは気づかずに水戸黄門の誰もがひれ伏す印籠のような効力を電話を通した自身の「肉声テープ」に見たのかもしれない。あるいは思い描いたのかもしれない。
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