安倍晋三3・21防衛大訓示、自衛隊の「現場」偏重に見る軍部独走余地の提供と文民統制への危惧

2016-03-23 08:55:42 | 政治

 安倍晋三が2016年3月21日、防衛大学の卒業式に自衛隊の最高司令官として(自衛隊法第7条「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する」)「訓示」(首相官邸HP/016年3月21日)を行った。

 文飾は当方。

 その中でカギ括弧付きで「現場」という言葉を9回も述べている。自衛隊、あるいは自衛隊員にとって「現場」とは自衛隊員としての実務(実際の具体的な仕事)を担う場所を言うが、戦場の場合もあれば、戦闘区域の場合もあるし、PKOの活動区域や訓練地、あるいは災害救助地の場合もあって、幅広い。それらすべてを含めて自衛隊にとって、あるいは自衛隊員にとっての「現場」となる。

 その「現場」について、安倍晋三は訓示の中でこう述べている。

 安倍晋三「私は、『現場』の情報を、何よりも重視しています。自衛隊の運用状況などについて、統合幕僚長を始め安全保障スタッフから、毎週、報告を受けています。そして、多くの課題について、『現場』の情報に基づいて、議論し、判断を下しています。

 自衛隊が、いつ、どこで、どのような行動を行うか。諸君が担うこととなる『現場』の一つ一つの活動が、我が国の国益に直結している。そのことを肝に銘じ、これからの任務に当たってほしいと思います」

 自分が何を喋ったか気づいていると思う。気づいていないとしたら、バカと言うことになって、自衛隊の最高司令官としての資格を失う。
 
 ここで「統合幕僚長を始め安全保障スタッフから、毎週、報告を受けています」と言っている「安全保障スタッフ」とは断るまでもなくを統合幕僚長を筆頭とした自衛隊=背広組幹部を指す。

 そして彼らが発する「『現場』の情報を、何よりも重視する」と言っている。

 この言明は2015年6月10日に成立、6月17日公布の改正防衛省設置法第12条と関連する。

 改正前の第12条は防衛省の機関の一つである内部部局の役職たる官房長及び局長(いわゆる背広組)が陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部(いわゆる制服組)が作成した方針及び基本的な実施計画等に対する防衛大臣の承認を補佐、その承認を背広組に指示したり、一般的監督を行ったりして、いわば背広組の関与をそこに置くことで文民統制(=シビリアンコントロー)の実効性を保証させていたが、改正後は背広組・制服組が対等な関係で防衛大臣を補佐する仕組みに変えられた。

 関係は対等であるが、制服組は日々現場を経験しているから、背広組よりも現場知識に長けている。背広組の「俺たちは現場に経験のない背広組よりは現場を知っているんだ」という現場知識を振りかざした場合、“現場知識主義”とでも言うべき立場が優先され、幅を利かすことになって制服組(=軍人)の意見・主張が優位性を持つ状況を抱え込む可能性が生じることになる。

 実際に戦前の日本は海軍大臣・陸軍大臣共に軍人によって任命され、軍人の意見・主張が優先されて、軍部独走を許すことになった。ときには人材を出さないことによって内閣発足を妨害、内閣を総辞職に追い込むことまでした。

 そこへ持ってきて安倍晋三が「『現場』の情報を、何よりも重視し」、その「『現場』の情報に基づいて」安倍晋三自らが最終判断を下す。

 いわば“現場知識主義”を最優先させていると同時に間に防衛大臣や内部部局の背広組等の文民を置かずに“現場知識主義”最優先の自身の最終判断を絶対とする絶対者に位置づけている。

 “現場知識主義”最優先とはある意味制服組の“現場知識主義”に安倍晋三自身が侵されていることを意味する。侵されていなければ、「多くの課題について、『現場』の情報に基づいて、議論し、判断を下しています」との表現で、自衛隊の運用を含めた日本の安全保障政策に関わる「多くの課題」(=主たる課題)についての議論と判断の材料を「『現場』の情報」のみ、“現場知識主義”のみとすることは到底できない。

 断るまでもなく防衛大臣との議論やその判断、内部部局の背広組の議論や判断、さらには国民の考えをも、自衛隊のすべての運用を含めた日本の安全保障政策に関わる議論と判断の材料のうちに加えなければならないからだ。

 だが、“現場知識主義”を尊重・優先させて、安倍晋三自身が最終判断を下す。このことは“現場知識主義”に侵されていると言うだけではなく、防衛省関係の背広組を排除している点で独裁的態度の表示と見ることもできる。

 当然のこと、例え安倍晋三が文民であったとしても、こうまでも“現場知識主義”に寄りかかさっていたのでは、「現場」が独走する余地を提供することになって、担わなければならない自衛隊最高司令官としての文民統制(シビリアンコントロール)を危うくする危険性を見ないわけにはいかない。

 特に安倍晋三は戦前日本回帰を胸に秘めた国家主義者である。戦前の大日本帝国に理想の国家像を置いている。その時代の勇名を馳せた、実際には無能集団に過ぎなかったが、大日本帝国軍隊の復活を夢見る余り、“現場知識主義”への寄りかかさりが“現場知識主義”一辺倒となって、結果的に自衛隊に振り回される裸の王様になりかねない危険性を持った自衛隊最高指揮監督権者の実現ということも想定に入れておかなければならない。

 自衛隊という軍部の安倍晋三を介して“現場知識主義”で操った独走である。
 
 あるいは自らが“現場知識主義”に乗っかって自衛隊の独走を主導することもあり得る。

 参考までに。

 2015年3月7日記事――《安倍晋三の防衛省設置法改正・軍民対等での文民統制「首相が最高指揮官であることで完結」の危険性 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》 

 2016年2月22日記事――《自衛隊制服組の対背広組への防衛大臣補佐権限の大幅移譲要求は現場知識主義に基づいた文民統制への脅威 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》 


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