安倍北朝鮮・トランプ貿易:首脳会談冒頭発言から見る両者の同床異夢の国益

2017-11-07 10:41:52 | 政治

 安倍晋三はミサイル開発・核開発を続ける北朝鮮の脅威を日本の国家安全保障上の「国難」と位置づけ、日米同盟の緊密化をバックに対北朝鮮圧力を方策としたミサイル開発・核開発阻止を主要な外交政策に掲げていて、その正当性を10月22日投開票の2017年総選挙の主たる争点に据えて選挙戦で盛んに訴え、選挙圧勝によって「国難」とする認識を多くの国民と共有することができた。

 トランプにとっても北朝鮮の動向はアメリカの国家安全保障上の脅威となっていることから、今回の日米首脳会談では安倍晋三もトランプも議論の主たる対象としていた。

 当然、11月6日首脳会談後の共同記者会見で安倍晋三がトランプと「あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致した」と発言したことは十二分に頷くことはできるし、トランプにしてもそのことに異論は全然ないだろうが、日米首脳会談の冒頭のみ、プレスを入れて行うそれぞれの発言を見ると、安倍晋三は北朝鮮問題に重点を置いているのに対してトランプは対日貿易に重点を置いていることを窺うことができる。

 いわば安倍晋三とトランプの政策に関する興味の優先度に違いがあって、同床異夢のそれぞれに異なる国益となっている。

 先ず「朝日デジタル」記事から、10月6日の駐日米国大使公邸で日米の企業経営者らを前に行ったスピーチ発言の主なところを拾って纏めてみる。   

 「日本との貿易は公平でなく、開かれていない。(赤字改善のために)我々は交渉する必要がある。

 両国に公平な貿易協定、貿易コンセプトを考えることができるだろう。迅速で友好的にできる。

 米国は日本との貿易赤字に何年も苦しんできた。年700億ドル(約8兆円)近い巨額の貿易赤字がある。日本から米国に多くの自動車は輸出されているが、米国から日本へは事実上輸出されていない。

 我々には世界で最高の軍需品がある。日本周辺で起きていることを考えると、(米国からのミサイルシステムや兵器等の防衛装備品の購入は)正しい

 米国の株価は過去最高水準だ。幸せな人はいる。(さらなる米国への投資を促して、米国投資の)トヨタ(自動車)やマツダはいるか?ありがとうと言いたい」

 そして記事は10月5日の安倍晋三との夕食前のトランプの発言を紹介している。

 「みんなが嫌がるほど貿易の話をし続ける」
 
 記事は、〈通商問題を重視する姿勢を示した。〉と解説しているが、この重視姿勢は先に触れたようにプレスを入れた日米首脳会談冒頭の発言にそのまま維持されている。尤もハンパでなく重視しているからこそ、重視する発言が度々口を突いて出ることになる。

 では、首脳会談冒頭発言を最初に11月6日付「ロイター」記事から見てみる。     

 トランプ「貿易不均衡の状態を是正するなど、そういったことについて実現できると確信している。

 (会談前のワーキングランチでは)殆ど貿易や北朝鮮問題について話をした。私たちは大いなる前進を遂げている」

 安倍晋三「国際情勢、経済問題、2国間関係について議論したい」

 安倍晋三が首脳会談では「国際情勢、経済問題、2国間関係」を議論の対象にしたいと張り切っているのに対してトランプはワーキングランチでは貿易問題と並べて北朝鮮問題を取り上げたことに触れているが、首脳会談で欲している議論の対象は貿易問題を取り上げたのみである。

 他のマスコミ記事が紹介している冒頭発言もほぼ同じとなっている。試しに同日付「中日新聞」を取り上げてみる。

 安倍晋三「北朝鮮を含む国際情勢、経済関係、二国間関係を議論したい」

 トランプ「貿易不均衡の是正を実現できると確信している」

 中日記事は両者の発言を紹介した後、駐日米国大使公邸で日米の企業経営者らを前に行ったトランプの発言を続いて紹介する記事内容となっている。

 上記「ロイター」記事はトランプ自身が紹介したワーキングランチーでの話題についての発言を記載していたが、次の11月6日付「朝日デジタル」記事が首脳会談冒頭、安倍晋三とトランプ両者がワーキングランチで何を話し合ったのかの発言を載せている。   

 安倍晋三「ワーキングランチでは北朝鮮問題、国際的な課題について深い議論ができた。首脳会談では引き続き、国際情勢、経済問題、二国間関係について議論したい」

 トランプ「(ワーキングランチでは)殆ど貿易や北朝鮮問題について話をした。私は特に貿易について強い信念を持っている。貿易赤字を減らし、公平な貿易を行いたいと思っている」

 安倍晋三はワーキングランチで議論した話題について北朝鮮問題を最初に紹介しているが、トランプは貿易問題を最初に挙げて、北朝鮮問題を二番目とし、そのあと、「特に」という強調語を使って、日米間の「貿易赤字を減らし、公平な貿易」関係への構築に向けた「強い信念」を露わにしている。

 誰がどう見ても、トランプの最大関心事は日米間の貿易問題であって、北朝鮮問題は二の次、貿易問題をトランプ自身の国益としていることが分かる。

 このことはある意味、当然なことと見なければならない。理由は北朝鮮問題を外交的に解決するか、軍事的に解決するか、アメリカが最終的な主導権を握っているのであって、安倍晋三が首脳会談でトランプと「あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致」しようとしまいと、日本はアメリカの解決方法に追随するだけの立場に立たされているに過ぎないからである。 

 安倍晋三が北朝鮮の脅威を「国難」とした以上、当たり前のことだが、北朝鮮の脅威の払拭、「国難」回避を日本の国家安全保障上の最大の国益としているのに対して共同歩調を取っていると安倍晋三が見ている米トランプは自国第1主義の思惑に外れることなく日米貿易不均衡是正を最大関心事、最大の国益としている。

 安倍晋三はゴルフや会食、首脳会談を通してトランプと信頼関係を深め、日米関係のより一層の緊密化に成功して、対北朝鮮では完全に足並みが揃っていると見ているようだが、トランプ自身の北朝鮮問題に向ける熱意は首脳会談冒頭の両者の発言を見る限り、安倍晋三のそれと差があり(北朝鮮問題は、多分、ロバート・ゲーツ米国防長官やティラーソン国務長官に丸投げしているに違いない)、両者にとっては同床異夢の国益となっているようだ。

 となると、拉致被害者家族とトランプとの面会も安倍晋三の顔を立てただけといったことで終わる可能性がある。

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