安倍晋三のHe For Sheレセプションでの「女性が輝く社会実現」の決意よりも今や成果を語るとき

2016-09-23 11:08:22 | 政治

 国連総会出席が目的でアメリカのニューヨークを訪れていた安倍晋三が日本時間2016年9月21日午前、ニューヨーク近代美術館で行われていたジェンダーの平等を促進するために男性の関与を呼びかける「He For Sheレセプション」に出席し、スピーチした。  

 「He For She」とはネットで調べたところ、ジェンダー(社会的意味合いから見た男女の性区別)の平等を訴えるキャンペーンだそうだが、勝手に解釈すると、女性は男性のための存在(She For He)で終わらずに、男性は女性のための存在(He For She)であることを同時に並立させてジェンダーの平等は成り立つということなのだろうか。

 そもそもからして明治時代以来の日本の古い家族制度を尊び、女性が自身の姓と名前を自分であること――自己存在性のアイデンティティーを表現する拠り所の主たる一つと見なして社会的な自律を図る選択的夫婦別姓に反対している安倍晋三にこのようなレセプションに出席する資格があるのか、甚だ疑わしい。

 安倍晋三「皆さんこんばんは。安倍晋三です。まず始めに、本会合の主催者であるニーニスト・フィンランド大統領とムランボ=ヌクカUN Women事務局長の男女平等及び女性のエンパワーメントに関する先進的な取組に敬意を表したいと思います。

 また、エマ・ワトソンUN Women親善大使のHe For Sheの推進における貢献に感謝を申し上げます。また本日は、たくさんのHe For She支持者が集まるこの会合に参加できることをうれしく思います。

 私はこれまで、日本の総理大臣として、インパクト・チャンピオンに選ばれ、『女性が輝く社会』の実現に取り組んでまいりました。

 G7伊勢志摩サミットでは、首脳会合のみならず、全ての関係閣僚会合でも必ず女性の問題を議題として取り上げるよう指示しました。これはG7サミットの歴史上、初めてのことであります。

 私は、『女性のエンパワーメントなくして日本経済の再生はない』と思っています。これまで女性の参画は社会政策という位置付けでありましたが、安倍政権では、これを経済政策と位置付け、アベノミクスの中心政策としてまいりました」――

 「女性のエンパワーメント」とは、「力をつけること。また、女性が力をつけ、連帯して行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えていこうとする考え方。」だと、Hatena Keywordが紹介している。

 安倍晋三が「私はこれまで、日本の総理大臣として、インパクト・チャンピオンに選ばれ」たと言っている「インパクト・チャンピオン」とは、UN Women 日本事務所(女性の地位向上を目的とした国連機関の日本事務所)のサイトで、「IMPACT 10x10x10では世界の10人の元首、10人のビジネス指導者、10人の大学指導者が、即時の変革をリードする影響力のあるリーダー、IMPACT Championとして選ばれています。これらのリーダーはHe For Sheを率先して支持し、核となる課題に取り組んでいます。」と説明している。  

 先進国の中でも日本の男の意識の中にある男女格差の反映、あるいは男尊女卑の名残りの反映としてある女性の社会進出が特に遅れている日本のリーダーが「IMPACT 10x10x10」の一人に選ばれている。

 多分、遅れを取り戻すためのムチの役目を担わせるために選んだのではないのだろうか。

 安倍晋三は「G7伊勢志摩サミットでは、首脳会合のみならず、全ての関係閣僚会合でも必ず女性の問題を議題として取り上げるよう指示しました。これはG7サミットの歴史上、初めてのことであります」と自慢している。

 いくら女性の問題を議題として取り上げようとも、議論だけでは何も進まない。議論を成果に結びつけてこそ、これこれを成し遂げたと自慢できるのだが、成果に結びつけることができるとは限らない議論だけを成果とすることができるのは安倍晋三が例の如く合理的判断能力を欠いているからだろう。

 自身の外交能力を誇るのに何カ国を訪問した、外国の首脳と何回会談を開いたと、その回数を基準としているところにも現れている合理的判断能力の欠如である。

 「He For She」がジェンダーの平等を実現することを目的としている以上、貧困や格差の問題と同じく社会政策に位置づけなければならない問題でありながら、安倍晋三はそのレセプションに参加、スピーチで「女性の参画」を「社会政策という位置付け」ではなく、「経済政策と位置付け、アベノミクスの中心政策としてきた」と、恥ずかしげもなく経済政策で把えている。

 だから、「女性の社会参画」と言わずに、「女性の参画」と表現したのだろうか。

 「女性の参画」という言葉の意味は「女性が事業・政策などの計画に加わること」ことを言う。「女性の社会参画」の意味は、女性も労働やその他の活動を通して社会の一員として男性と平等に社会の形成に加わり、社会の発展に寄与すること言う。

 いわば男女平等によって成り立ち可能となる。

 要するに安倍晋三は女性を労働力としてのみ把えて、労働力人口の減少を働いていない女性で補充し、アベノミクスの経済戦士にしたい思惑でHe For Sheのレセプションでスピーチを行った。

 と言うことは、管理職等の指導的地位に占める女性比率の国際比較で日本が最下位近くに低迷していることに対して安倍政権は「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」と、とても到達不可能な目標を掲げているが、世界に顔を向けた世間体からの止むを得ない目標であって、この目標以上にアベノミクスの成功のために女性の労働参加をより重視していることになる。

 このような意識の持ち主に「IMPACT 10x10x10」に選ばれる資格はない。

 安倍晋三は2013年9月25日のニューヨーク証券取引所でも同じ趣旨のスピーチ首相官邸)を行っている。  

 安倍晋三「ここニューヨーク証券取引所の初の女性会員は、ミュリエル・シーバートさんです。46年前の出来事でありました。ミッキーの言葉が頭をよぎります。

 『アメリカの経済界は、女性役員こそが、人口の半分の男だけに頼っている日本やドイツに対抗する上で、強力な競争力向上の武器になることを気づくだろう』

 まさにその言葉を、身を持って証明し、アメリカにおける女性の活躍をリードしてきたミッキーが、先月お亡くなりになったと聞きました。ご冥福をお祈りするとともに、これまでのパイオニアとしての活躍に、深い敬意を表したいと思います。

 そして、『人口の半分の男だけに頼ったせいで』閉塞感に直面している日本を、私は、大きく転換してまいります。

 日本には、まだまだ高い能力を持ちながら、結婚や出産を機に仕事を辞める女性がたくさんいます。こうした女性たちが立ちあがれば、日本は力強く成長できる。そう信じます」――

 ニューヨーク証券取引所の初の女性会員であるミュリエル・シーバート女史にしても、安倍晋三同様に女性を経済戦士仕立てに扱っている。

 だが、アメリカに於ける管理職等指導的地位に占める女性の2011年の割合をネットで調べて見てみると、全就業者の43.9%であって、日本2012年は先進国の中でも僅か11.1%に過ぎない。

 43.9%のアメリカ女性のうち、多くが自らの地位上の役目を通して様々なチャリティーパーティー等の社会活動や、あるいは自らの思想・心情に基づいた政治活動等、社会参画を試みているはずだ。

 しかし日本では指導的地位に占める女性が11.1%に過ぎないとなると、指導的地位に応じた社会参画に与えるインパクトは自ずと限られてくる。

 但し労働力の面から見た安倍晋三の女性観であったとしても、「『女性が輝く社会』の実現」を約束したのである。

 ニューヨーク証券取引所での2013年9月25日のスピーチから3年も経過している。その3年後に「He For Sheレセプション」でスピーチをして、「『女性が輝く社会』の実現に取り組んでまいりました」と自らの仕事ぶりを誇っている以上、取り組んできたことの成果をそろそろ語るときではないだろうか。

 成果があれば針小棒大とまでいかなくても、得々と喋らない安倍晋三ではない。成果を語らないということは取り組んできたにも関わらず、成果がないからこそであろう。

 女性の社会参画はあくまでも社会政策と位置付け、その中で男女平等(=ジェンダーの平等)を打ち立てなければ、いくら経済政策と位置付けて女性の雇用を増やそうと、女性の指導的地位へのチャレンジは頭を抑えられることになる。

 当然、女性の社会参画にも悪影響を与えることになる。

 こういったことを考えずに安倍晋三はジェンダーの平等を訴える「He For Sheレセプション」でスピーチをした。

 滑稽な限りではないか。


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