6月7日、自民党本部で全国幹事長会議が行われた。自民党総裁の安倍晋三が挨拶に立ち、消費税率引き上げの再延期に理解を求めたうえで、参議院選挙では、安倍政権の経済政策・アベノミクスの是非を争点に位置づけて勝利を目指す考えを重ねて示したと、「NHK NEWS WEB」記事が伝えていた。
安倍晋三「G7伊勢志摩サミットでは、新興国経済に陰りがみられるなかで、G7がしっかり世界経済をけん引しなければならないという認識で一致した。だからこそ、アベノミクスをギアアップして吹かし、デフレ脱却に向けて速度を上げていかなければならないということで(再増税延期を)判断した。
(7月の参院選は)アベノミクスを前に進めていくのか、やめてしまうのかを決める選挙戦だ。アベノミクスは道半ばだが、やっとここまで進んできた道を後戻りしていいわけはない。後戻りすれば混乱の4年前に戻ってしまう。
民進党は、共産党とともに『平和安全法制』を廃止しようとしており、日本をしっかりと守っている日米同盟を危うくする挑戦だ。国民の命と幸せな暮らしを守る責任を果たしていくためにも、この選挙で絶対に負けるわけにはいかない」――
このブログのテーマには関係しないが、安倍晋三挨拶の最後のセリフ、「民進党は、共産党とともに『平和安全法制』を廃止しようとしており、日本をしっかりと守っている日米同盟を危うくする挑戦だ」
安倍晋三が「平和安全法制」を強行採決せずとも、日米同盟は日本をしっかりと守っていた。廃止したとしても、その状況には変わりはない。
安倍晋三が日本側にとってはアジアと限定していた防衛の対象範囲をアメリカの意向に従って世界に広げようとしているだけのことである。勿論、目的は経済大国と釣り合いの取れた日本の軍事大国化である。言葉を替えて言うと、戦前日本、大日本帝国の再興である。
6月1日の安倍晋三の消費税増税再延期の記者会見でも、「アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか。これが来る参議院選挙の最大の争点であります」、と言い、「この道を力強く前に進んでいこうではありませんか。4年前のあの低迷した時代に後戻りさせてはなりません」と言っていた同じ趣旨のことをここでは、「アベノミクスを前に進めていくのか、やめてしまうのかを決める選挙戦だ。アベノミクスは道半ばだが、やっとここまで進んできた道を後戻りしていいわけはない。後戻りすれば混乱の4年前に戻ってしまう」と、少し言葉を変えて言っている。
「4年前のあの低迷した時代に後戻りさせてはなりません」と「後戻りすれば混乱の4年前に戻ってしまう」とでは、前者は後戻りさせることはできないという政権としての、あるいは与党自民党としての意思表示の提示であり、国民に対する約束であるが、後者は後戻りすれば4年前の混乱に戻ってしまうという全国の幹事長に対するのと同時にマスコミの報道によって知らされる国民に対する警告であろう。
但し国民に対しては、だから、アベノミクスを支持すべきだ、支持しなければ、4年前の混乱に戻ってしまうという両面の意を含んでいる以上、警告は威しのニュアンスを帯びていることになる。
いわば4年前の混乱が厭なら、アベノミクスを支持しろとそれとなく威しをかけている。
一種の威しであることは2015年10月1日から消費税10%への引き上げを2017年4月に延期することを宣言した、2014年12月の総選挙前の2014年11月18日の「記者会見」の発言が証明している。
安倍晋三「あれから2年、雇用は改善し賃金は上がり始めています。ようやく動き始めた経済の好循環、この流れを止めてはなりません。15年間苦しんできたデフレから脱却する、そのチャンスを皆さんようやくつかんだのです。このチャンスを手放すわけにはいかない。あの暗い混迷した時代に再び戻るわけにいきません」
「あの暗い混迷した時代」にはその最後を占めることになった民主党政権の3年3カ月間が含まれている。
「このチャンスを手放したら、民主党政権も席を占めたあの暗い混迷した時代に戻ってしまいますよ」と、国民に対して一種の威しの意を持たせている。
安倍晋三は他にも民主党政権を引き合いに出して、戻っていいのかと暗に国民に威しをかけて、それが成功している。
果たして安倍晋三にアベノミクスを支持しなければ、4年前の民主党政権の時代に戻ってしまうとそれとない威しをかける資格があるのだろうか。
6月7日、国家の金庫番財務相の麻生太郎の消費税増税再延期と社会保障政策ついての閣議後の記者会見での発言を「ロイター」が伝えている。
麻生太郎「(消費税を)上げるということを前提にして、(社会保障政策で)あれをします、これをしますということはできない。今の財政の中でできる範ちゅうのものしかできない。
財源に赤字国債を充てることはない」(下線個所は解説文を会話体に直す。)
麻生太郎と同じことを安倍晋三は消費税増税再延期を宣言した6月1日の「記者会見」で発言している。
安倍晋三「社会保障については給付と負担のバランスを考えれば、10%への引上げをする以上、その間、引き上げた場合と同じことを全て行うことはできないということは御理解をいただきたいと思います」――
要するに安倍晋三の発言も麻生太郎の発言も消費税を8%から10%へと増税しないのだから、増税したと同じような社会保障政策は実施できないとの宣言である。
だが、上げないことを決めたのは安倍晋三であり、安倍政権である。政権の一員麻生太郎は最初は反対していたものの、あっさりと承認に姿勢を転換させた。
自分たちが上げないと決めておいて、社会保障は上げない分不足が生じますよでは一方的に過ぎないだろうか。
上に挙げてある、最初の消費税増税延期を宣言した2014年11月18日の記者会見での安倍晋三の発言を見てみる。
安倍晋三「来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています」
アベノミクスの3本の矢によって2017年4月に消費税を8%から10%に増税できる経済状況を必ずつくり出すと固く固く約束した。
だが、固く固く約束したような経済状況を一向につくり出すことができないでいた。そして現在の世界経済が厳しいリスク下にあるわけでもないのに中国や新興国経済の陰りを理由に挙げて、「『リスク』には備えなければならない。今そこにある『リスク』を正しく認識し、『危機』に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべきだと考えます」と、まだ見えない将来的なリスクに前以て手を打つ形で2017年4月の消費税の8%から10%への増税を更に2019年10月までの再延期を宣言した。
元はと言えば、安倍晋三がアベノミクスを以てして約束した消費税を増税できる経済状況をつくり出すことができなかったことがそもそもの始まりである。消費税増税を来年4月に控えて、なかなか進まない景気回復を増税したなら、回復どころか、景気の現状をも打ち砕きかねない。だからと、増税の再延期を打ち出した。
つまりアベノミクスのエンジンを吹かし間違えたのか、あるいはエンジンが想定していただけの出力を元々備えていなかったのか、どうもそのようだが、満足に走らなかったことから安倍晋三と安倍政権の都合から発した増税再延期である。
国民の都合から発した再延期でも何でもない。
そこに国民への謝罪があるならまだしも、謝罪もせずに増税を延期する以上、増税したと同じような社会保障政策は実施できないと宣言する。
そのような宣言に押し付けがましい一方的な態度を見ないわけにはいかない。
いずれにしても消費税増税の再延期の口実が世界経済の将来的なリスクを回避するためだとしていたとしても、ここまでのアベノミクス3年半は世界経済が危機に瀕していたわけではない。
にも関わらず、アベノミクスが欠陥車だったからだろう、約束していたとおりに消費税を増税できる経済状況をつくり出すことができなかった。
そのための消費税増税再延期が正体なのは多くの識者が認めている。
自分たちの責任を棚に上げて増税を延期する以上、増税したと同じような社会保障政策は実施できないと一方的にに押し付ける態度と言い、安倍晋三にしても他の誰にしてもアベノミクスを支持しなければ、4年前の民主党政権の時代に戻ってしまうとそれとない威しをかける資格は何一つない。