あまり話題にならなかったが、2015年4月19日付「ライブドアニュース」が《麻生氏、会見で海外メディア嘲り「爆笑」 世界に恥さらす》と題して記事を配信していた。
どんな恥を曝したのか。〈筆者は会見に出ていないので、これは李さんから見せてもらった録画の内容だ。〉と断り書きを入れているから、事実から外れた麻生太郎の態度というわけではあるまい。
4月3日の記者会見で、〈問題のやりとりは、香港・フェニックステレビの李ミャオ記者との間で交わされた。手を挙げて、自分の所属を告げると、麻生氏は「あ? フェニックス?」と言って大爆笑。記者や財務省の官僚も一緒になって笑い、その場で問題視する記者はいなかった。〉とその嘲笑の発端を伝えているが、偉い人が笑うと、下の者がその笑いの程度に応じた笑いで以って機械的に追従笑いするのは日本人が上が下を従わせ、下が上に従う権威主義的な行動様式を習い性としているからで、態度の合理性に正当性の判断を置いて笑うわけではないから、何の不思議もない。
但し麻生太郎を筆頭に一緒になって笑った連中は記者が女性であることに敬意を表していなかったことから起きた態度であるのは事実だから、安倍内閣の「女性の活躍」も案外身についた女性尊重の立場からの心からの願望ということではないらしい。
李ミャオ記者はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本が参加しないことに野党から批判が出ている点についてコメントを求めた。
麻生太郎「うちは野党が何でも言う。うちは共産党ではないから。共産主義ではありませんから。中国と違って何でも言えるいい国なのです、日本は。それでパクられることもありませんし、いい国なのだと私は思っていますよ」
このような前置きのあとで、不参加の理由を述べたという。
果たして麻生太郎の言うように言論や表現の自由に関して「いい国なのです」と断言できるのだろうか。安倍晋三は自身が気に入らないマスコミの情報発信に対して陰に陽にあれこれと言論の圧力や情報統制を試みている。
いわば安倍政権下で日本の言論の自由・表現の自由は非常に危うい状況になっている。にも関わらず、麻生太郎は「中国と違って何でも言えるいい国なのです」と言う。
李ミャオ記者はこの遣り取りの動画をSNCに投稿すると、麻生の失礼な態度に中国のネット上で話題を呼んでいるという。
記事だけでははっきりしたことが分からないから、財務省のHPにアクセスしてみたところ、4月3日の記者会見が掲載されていた。
《麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要》(外務省/2015年4月3日)
HPでは「問)」とあるところを「李ミャオ記者」に替え。「答)」とあるところを「麻生太郎」に替えた。
李ミャオ記者「AIIBのことについてお尋ねしたいと思います。先日大臣が日本の立場が極めて慎重な態度を取らざるを得ないとコメントがありましたけれども、今AIIBの参加表明の国が50カ国を超えています。そして日本の中でも、野党から批判の声があります。例えば維新の党の江田代表が、これが日本外交の完全な敗北だと。共産党の志位委員長が参加すべきだというふうにコメントしています。大臣どのように見ていますか」
麻生太郎「うちは野党が何でも言うのですよ。うちは共産党ではありませんからね。共産主義ではありませんから。中国と違って何でも言える国ですから、いい国なのです、日本は。直ちにそれで逮捕されることもありませんし、いい国なのだと、私はそう思っていますよ。
しかし問題は、私がこれまでもずっと言っていることは同じで、1年半ぐらい前ですかね、これが始まって。大分前からこの話は来ていたと思いますけれども、私共はガバナンスをはっきりしてくれと。どういう基準で貸すのか、理事会の構成はどうするのだ、案件の審査は誰がするのだ、いつやるのだということを教えてくださいと。そういうことをしない限りは、我々はそれに対してガバナンスがしっかりしない限りはとてもではないけれどもそれに参加することはできない、それが1つ。
ほかにもいろいろ言ってきましたけれども、同じようなことで、我々としてはインフラストラクチャーの投資によって環境にどういう影響を与えるかとか、いろいろなことを全部調べた上でADB(アジア開発銀行)も世界銀行もみんな同じルールでやっているのですから、それと同じルールでやられるのですかということを申し上げて、言い続けていますけれども、返事はまだもらったことは1回もありません」・・・・・・
以上以外にも参加しない理由をいくつか挙げている。
要するに、「確かに参加を表明していないことについて野党から批判が上がっていますが」と前置きした上で、現状では参加表明ができないことは正当だとする自らの理由を述べれば済むことを、全体的な解釈としては社会の矛盾や政治の矛盾は共産主義国家のみに存在し、民主主義国家には存在しないかのような非合理的な、しかもここで問題となっているわけでも、問題としなければならないわけでもない言わずもがなの趣旨のことを言って、冷静な発言で応じるべきところを問題外のことに言及する大人気ない態度に走った。
一般的には言わずもがなのことを言うについてもそれなりに理由があるはずだが、「香港・フェニックステレビの李ミャオ」だと自身の所属と名前を告げた時点で、いきなり〈「あ? フェニックス?」と言って大爆笑。〉したとなると、中国なるもの自体に不快感を感じていて、そのことに触発された失礼な態度の可能性がある。
AIIBが中国主導であること。例え日本が参加しても、中国主導であることに変わりはないこと。日本の参加がAIIBの信用性や利用価値、さらにはその存在感を高めたとしても、最終的には創始国としての中国を利し、中国の存在と名を確かなものとすること。
いわばただでさえ日中のGDPの差は広がっていて、面白くないと思っているだろうところへもってきて、日本がAIIBに参加しても参加しなくても、ここはと言う肝心要の美味しいところは中国の取り分となって、中国の名誉とすることになる。
こういったことの不快感が麻生太郎の腹の底に欲求不満となって渦巻いていたところへ女性記者が質問に立ち、所属と名前を告げたことで中国人と知っただけで、本人とは関係ないのに大笑いして、「うちは共産党ではありませんからね。共産主義ではありませんから」といった言わずもがなの大人気ない失礼な発言を曝してしまった。
長い政治生活の中で各大臣を歴任しながらのこの人間的な軽さは今に始まったことではないが、客観的な合理性を持たせた発言ができない大物政治家という逆説はなかなか説明をつけることはできないに違いない。
最後に一つ、「ライブドア」記事は「中国と違って何でも言えるいい国なのです、日本は。それでパクられることもありませんし」と麻生太郎の発言を伝えているが、〈筆者は会見に出ていないので、これは李さんから見せてもらった録画の内容だ。〉と断りを入れいる以上、事実その通りに発言したはずだが、財務省HPには「それでパクられることもありませんし」の発言はなく、「直ちにそれで逮捕されることもありませんし」と、「パクられる」が「逮捕される」に変えられている。
確かめようとして動画を探したが、探すことができなかった。但し麻生太郎が高名な政治家でありながら、言葉の汚さも有名となっていて、「パクられる」という言葉を使ったとしても、何の違和感もないが、「パクられる」を大臣の品性を考えて口にしたわけでもない「逮捕される」に入れ替えたとしたら、正直な姿を隠蔽する情報操作に当たる。
決して小さなことではない。