外相岸田文雄訪露から見える安倍晋三の小さな成功と大きな失敗

2015-09-23 10:00:56 | 政治




【謝罪】(2015年9月23日16:59)

 当ブログに外相の岸田文雄のプーチンの訪日と北方四島問題、その他を話し合う訪ロに対してアメリカから何の牽制もクギも刺されることもなかったことは安保関連法の成立をアメリカへの贈り物とした機会を安倍晋三が狙った「小さな成功」だといった趣旨のことを書いて、本日10時00分の時点でアップロードしましたが、9月23日10時22分発信の「NHK NEWS WEB」記事がアメリカ国務省のトナー副報道官の22日の記者会見の発言として「ロシアがウクライナ東部で停戦合意を守っていないことを考えれば、ロシアと通常の関係に戻る時ではないと確信している」と日本の対応を牽制していることを伝えていました。

 早トチリであったことを謝罪します。しかし安倍晋三が安保関連法をアメリカへの贈り物としたことを絶好の機会とばかりに狙って岸田文雄を訪ロさせたのではないかという推測はあながち否定できないと思います。  

 このことが安倍晋三にとって小さな成功でなくなれば、6回の首脳会談の信頼関係構築の失敗ばかりに目立つことになる(かも知れない)。

 外相の岸田文雄が9月20日からロシアを訪問、日本時間の9月21日夜、ロシアのラブロフ外相と会談し、北方四島返還問題と平和条約交渉、そしてプーチンの訪日問題について話し合い、22日午前(日本時間同日午後)、岸田文雄とシュワロフ・ロシア第1副首相共同議長の「日露貿易経済政府間委員会」で、経済協力問題を議論したという。

 岸田文雄の訪露で明らかになった安倍晋三の小さな成功とは訪露の目的が日露の経済発展やプーチンの訪日問題を含みながら、アメリカがその訪問について何ら牽制しなかったことである。

 周知のようにアメリカはウクライナ問題を巡ってEUと共にロシアに対して厳しい経済制裁を科している。2015年5月21日、欧米が渡航禁止の制裁を科しているが、日本は科していないプーチンの側近ナルイシキン下院議長が訪日の際、安倍晋三は側近と会談、プーチンの訪日を要請したとされている。

 対してアメリカは「現在の状況では、ロシアと通常の関係を持たないとする原則を守ると信じている」とラッセル米国務次官補を使って、プーチンの訪日と日露関係正常化を牽制した。

 だが、アメリカは今回の岸田文雄のプーチンの訪日問題や経済協力問題について話し合う訪露に対して何ら釘を差すことも牽制することもしていない。

 その原因は安全保障関連法の成立がアメリカへの贈り物となっていたからだろう。

 安倍晋三はアメリカの牽制を逃れるためにアメリカ側がその贈り物の有り難みが薄れない、まだホットな賞味期間内を狙って岸田文雄を訪露させて、プーチンの訪日のあらましのスケジュールを決めてしまおうとしたのではないだろうか。

 だが、日露外相会談の中身は芳しいものではなかった。

 どんな中身だったか、「NHK NEWS WEB」記事から見てみる。 

 岸田文雄「昨今の北方4島を巡るロシア側の一方的な言動は、日本の立場と相いれない。おととし4月の安倍総理大臣とプーチン大統領の首脳会談の際に発表した共同声明に基づき、双方が受け入れ可能な(北方四島返還問題に関わる)解決策を議論する必要がある」

 ラブロフ外相「対話は続けなければならない」

 記事冒頭で会談での発言を紹介しているのはこれだけだが、岸田文雄が「昨今の北方4島を巡るロシア側の一方的な言動は、日本の立場と相いれない」と言っていることは、日本の反対にも関わらずロシアの副首相が8月13日に、続いて8月22日にメドベージェフ首相が北方領土の択捉島を訪問したり、ロシアで対日外交を担当するモルグロフ外務次官が9月2日、インタファクス通信のインタビューに答えて北方領土について、「日本政府と島々の問題について、どのような対話も行っていない。この問題は、既に70年前に解決している」などと発言したり、あるいは北方領土を含む極東への移住を希望する国民に土地を無償分与する計画の発表もしている、立て続けのロシア側の動きを指している。

 上記記事が伝えている会談後の記者会見でのラブロフ外相の発言は日本側にはかなり厳しいものとなっている。会談でも示していたラブロフ外相の厳しい態度の記者会見に於けるそのままの反映と見なければならない。

 まさか会談では和気藹々の話し合いが進み、記者会見では一転して厳しい課題を突きつけたというわけではあるまい。

 岸田文雄「今回の会談は、日ロ関係を一歩前に進め、プーチン大統領の訪日につなげるうえで有意義なものになったと感じている」

 ラブロフ外相「具体的な日程は、ホスト国である日本が決めるのが前提だ。日本側から具体的な提案があれば検討したい。

 (但し)首脳会談を行うために前提条件をつけるのは非生産的だ。ロシア側は北方領土について議論していないし、我々の対話のテーマにもなっていない。議題となっているのは平和条約締結の問題だ。最近の日ロ関係は好意的とは言いにくく、両国は貿易、経済、投資など幅広い分野で関係を発展させることが必要だ。

 (10月8日の外務次官級での平和条約交渉再開予定について)両国の立場には大きな食い違いがあり、交渉は容易ではないが、両国の首脳の指示に従って、双方が受け入れ可能な解決策を模索することを確認した。

 日本が戦後の歴史の現実を受け入れて初めて、問題を前に進めることができる」――

 「戦後の歴史の現実」とは、記事が解説しているが、「北方領土が第2次世界大戦の結果、自国の領土になったというロシア側の主張」を指す。この主張は以前から日本に突きつけている主張であって、今回が初めてではない。

 この主張を受け入れろということは、北方四島はロシア領であることを認めろということであるが、日本側が北方四島の領有権を諦めることによって日ロ関係を発展させることができると言っているに等しい

 日本にはロシア側がこういった厳しい態度を取るのはウクライナ問題で日本が欧米に同調してロシアに経済・金融制裁を科していることに対する牽制だという見方があるが、ロシアの以前からの北方四島に対する積極的な開発姿勢を見ると、北方四島に対する領土的執着は感じ取ることはできても、日本から経済制裁解除を獲ち取るためだけのために厳しい態度を見せているようには見えない。

 ここでロシアが日本に北方四島を返還するつもりがあるのかないのか、メドベージェフ首相の8月22日の択捉島視察1カ月前の7月23日の発言によって占うことができる。
 
 「島々はロシアの国境を守る役割を果たしてしいる」(NHK NEWS WEB

 ソ連が崩壊し、米ロ関係はかなり改善したが、ウクライナ問題を巡って再び米ロ対決、新冷戦時代が到来したと言われている。プーチンはウクライナのクリミアをロシアへ併合した際、ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)との全面対決という事態に備えて核兵器の使用を準備していたことを明らかにしている。

 プーチン、あるいはロシアの政治家はロシアが国家間の戦争や国家間の関係の友好・対決の変遷の歴史を繰返してきたことから、国家間の友好な関係は永遠ではないことを学んでいるはずだ。

 当然、友好関係にある国家に対しても軍事的備えをしつつその友好関係を維持することになる。ロシアにとってアメリカは対決時代を迎えた場合の最大の軍事的脅威国となり、最も気をつけなければならない大国であって、現在、決定的な一触即発の険悪関係にまで至っていないが、新冷戦時代到来とも言われているかなりの対決時代を迎えている。

 そして日本はアメリカと軍事同盟を結んでいるロシア以上の経済大国であり、それなりに軍事大国でもある。今後アメリカとの間に関係改善が進んで友好関係の時代を迎えることがあっても、それがまた対決時代に変わることもある歴史の変遷を考えたとき、北方四島を返還した場合、そこに日本が軍事基地を設ける危険性を安全保障上の危機管理としないはずはない。

 対決時代に於ける米に対する軍事的備えの必要性から言っても、同時に行わなければならないアメリカと軍事同盟を結んでいる日本に対する軍事的備えから言っても、「ロシアの国境を守る役割」を負わせるべく、そのために軍事施設の建設を進めている北方四島を返還することがあるだろうか。

 最初に取り上げたNHK NEWS WEB記事は、日露外相会談の際岸田文雄が安保関連法について「地域と国際社会の平和と安定に積極的に貢献していくものだ」と説明したのに対してラブロフ外相は「日本の憲法解釈の変更に周辺国が懸念を示していることを注視している」と発言したと伝えている。

  ラブロフ外相は間接的に「周辺国」と言ったが、ロシアも入れいている「周辺国」であるはずだ。

 例え日本が返還された場合の北方四島に軍事基地を設けないと約束しても、ロシアはその約束を信じないだろう。かつてソ連が通告もなく日ソ不可侵条約を破って満州に攻め入ったことを日本の場合に当てはめて学習するだろうからである。

 岸田文雄訪露から見える安倍晋三の大きな失敗とは、今回の日ロ外相会談によって安倍晋三があれ程までに首脳会談を重ねてプーチンとの間に築いてきたと誇っていた信頼関係が何の役にも立っていないことである。

 2014年7月19日、安倍晋三は地元山口で開催の長州「正論」懇話会1周年で講演している。 

 安倍晋三「プーチン大統領とは 1年半で5回、首脳会談を行いました。ロシアには、責任ある国家として国際社会の問題に建設的に関与して貰わねばなりません。そのためには、私はプーチン大統領との対話を続けていきます。1日も早い平和条約の締結に向けて粘り強く、交渉していきます」(首相官邸HP)

 この発言の約4カ月近くあとの11月9日、APEC首脳会議出席のために訪問中の中国・北京でプーチンと6回目の首脳会談を行っている。

 安倍晋三自身は領土返還問題に有効だと信じて、せっせと信頼関係を築いていた。今回もプーチンを訪日させて、新たに信頼関係を重ねようとしていた。

 プーチンは返還を期待させる幻想を餌に付けて日本の経済協力や技術移転を釣り上げることだけを狙っているように見える。

 ロシアが北方領土は第2次世界大戦の結果、自国の領土になったと主張するなら、その論理を破る以外に手はないのではないだろうか。


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