選挙に勝ちさえすればいい計算高い安倍晋三が支持率が低いときに解散するはずはない。森友疑惑・加計疑惑を両手に花とばかりに抱え込んだ安倍晋三の内閣支持率は国会で安倍晋三の政治関与を厳しく追及されて下がり続け、その追及は6月18日の通常国会閉会で一応は打ち止めになったものの、その後遺症で7月初旬の世論調査では30%台半ばにまで落ち込み、7月10日午前の衆議院、午後の参議院、さらに7月24日衆議院、25日の参議院の共に加計疑惑閉会中審査で追及が再燃、疑惑を益々深めることになったが、2017年8月3日ゲン直しの内閣改造を行ったことが功を奏したのか、8月の世論調査内閣支持率は両手に花の森友疑惑・加計疑惑の完全払拭とまではいかなかったものの、6~8ポイント増の40%前後への回復には役立った。
この内閣支持率がマスコミの9月の世論調査ではそれまで逆転していた支持率が支持が上回り、中には50%前後にまで急回復した世論調査があるのは北朝鮮の脅威が貢献することになったからだろう。
北朝鮮は定期的に弾道ミサイル発射実験を続けていたが、日本時間の8月26日土曜日午前6時49分から午前7時19分までの30分間に短距離弾道ミサイル3発を発射した際の安倍晋三は(米軍は当初、3発共発射に失敗と発表したが、マスコミは夕方の時刻になって米軍が最初の発表を訂正、2発目は失敗したが、1発目と3発目は発射に成功し、北東方向に250キロ余り飛行して日本海に落下したと修正したことを伝えた直した。)午後2時近くから午後5時過ぎまでの約3時間、東京・六本木のホテル「グランドハイアット東京」の「NAGOMIスパアンドフィットネス」で生活習慣病予防のためなのか、優雅にエクササイズに励む程に北朝鮮ミサイルの発射を定期的実験の一環と見る程に余裕があったようだ。
ところが3日後の8月29日日本時間5時58分頃、北朝鮮が北海道上空を通過させて襟裳岬沖1180キロの太平洋上落下させる中距離弾道ミサイルを発射させると、俄然危機感を露わにして、危機感そのままにトランプ大統領と4回の電話会談を立て続けに行っている。
第1回目の電話会談は発射当日の発射時間から約3時間30分後、午前9時24分から約37分間。第2回目は翌日の8月30日の午後11時半過ぎから約30分間。第3回目は9月3日午前9時頃から約20分間。
4回目は北朝鮮が9月3日午後0時半頃に水爆実験に及ぶと、その日の夜11時3分から同13分までトランプと電話会談。
それぞれの電話会談の内容は北朝鮮の行動は「深刻かつ重大な脅威」であり容認できない、核とミサイルを放棄させるために北朝鮮に対して圧力を掛けていくことで認識を一致させたというもので、4回の電話会談後共に自身をマスコミに露出させることになるぶら下がり記者会見を開いて、同じように「深刻かつ重大な脅威」であることを訴えて、そのことを印象づけ、2回目の記者会見以外はそのような脅威から「国民の生命、安全を守る」ことを約束、その責任ある指導者像を演出している。
これまでの森友疑惑・加計疑惑一色からその色を遥かに薄めることになった北朝鮮脅威一色を受けた安倍晋三の「国民の生活と安全を守る」指導者像としてのマスコミ露出が9月の世論調査に現れた。
10月28日に召集する方針の臨時国会開催前に民進党は与党との国会対策委員長会談で加計学園問題審議の衆院予算委員会等の閉会中審査開催を要求していた。
閉会中審査が開催されようが開催されまいが、加計学園獣医学部新設に関わる安倍晋三政治関与疑惑の追及は臨時国会でも繰り広げられるのは目に見えていた。疑惑がそれ程根深いからであり、対して政府側の答弁は逃げの一手のみとなっていて、なお一層疑惑を深める役にしか立っていなかった。
こういったことが内閣支持率を下げる原因になっていたのであり、北朝鮮の脅威が前面に押し出されてきたことによって森友疑惑・加計疑惑を政治の背景に一時的に遠ざけ、逆に「国民の生命、安全を守る」指導者像のマスコミへの露出が功を奏して折角上昇線を見せ始めた支持率が臨時国会での再度の疑惑追及で再び下降線を辿ることは安倍晋三にしても十分に予想できていたはずだ。
衆議院議員の任期は2018年12月13日。落ちっぱなしの内閣支持率の状況下では選挙は戦うことはできない。北朝鮮の脅威のお陰で政治の背景に追いやることができた森友疑惑・加計疑惑が臨時国会で再び政治の前面に躍り出ることになって支持率を下げる前、支持率をある程度回復できた今こそ解散・総選挙の残された好機だと見たとしても、選挙に計算高い安倍晋三からしたら、極く自然な判断であろう。
選挙の勝敗が首相としての進退に影響する。勝てば、その進退は保証されるが、負ければ、進退の保証は失われる。野党第1党の民進党は新体制となったばかりである上に離党者が続いていて、足許が揺れていることも解散に傾いた理由の一つだと、誰もが見るはずだ。
9月17日付マスコミが安倍晋三が10月28日招集臨時国会冒頭に衆院解散の見通しと報道すると、民進党代表の前原誠司は党本部で記者団に「自己保身解散だ」と批判した。
前原誠司「「北朝鮮が核実験やミサイル発射を行う状況の中で、『本気で政治空白を作るつもりなのか』と極めて驚きを禁じえない。『森友問題』や『加計問題』の国会での追及から逃げるため、国民の生命・財産そっちのけで、まさに『自己保身解散』に走っているとしか言えない」(NHK NEWS WEB)
疑惑追及を覚悟して内閣支持率下落を取り、解散・総選挙の好機を狭めるか、支持率が高いうちに解散・総選挙を取って、選挙での勝利に期待を賭けるか、自身の進退を最優先に考えてのことだから、前原誠司が言うようにまさに「自己保身解散」である。
総選挙となると、安倍晋三はこれまでも人間が生活の生き物であることを利用し、それが選挙勝利の最大要因となってきたように再び生活に訴えて、国民の支持を得る作戦に出るに違いない。
2016年7月の参院選挙では各地の応援演説で「アベノミクスは失敗していない、だが、道半ばだ」と繰返し発言、道到達こそが国民の生活向上の最善の選択肢とばかりに訴えて、参院選に勝利した。
2016年7月3日の千葉市内街頭演説。
安倍晋三「アベノミクスは失敗していない。しかし、道半ばだ。やめてしまえば逆戻り。前に進もう。雇用を増やした。千葉県の有効求人倍率は1・13倍ある。給料も上がっている」
2016年7月5日の新潟県十日町市街頭演説。
安倍晋三「アベノミクスは決して失敗はしていないが、まだ道半ば。やるべきことは、この道をしっかり前へ力強く進めることだ。ギアを2段も3段も引き上げる」
7月8日選挙活動最終日の東京都中野区街頭演説。
安倍晋三「国民を豊かにするために経済を成長させていく経済政策に全面的に取り組んできた。アベノミクスは決して失敗はしていない。でも道半ばだ。私たちの政策がまだ不十分であることは率直に認めなければいけない。しかし、だからといって、この政策をやめてしまえば、あの暗い時代に逆戻りだ」
2017年8月3日内閣改造後の同日記者会見。
安倍晋三「最優先すべき仕事は経済の再生です。安倍内閣は、これからも経済最優先であります」
要するにいつまで経っても「まだ道半ば」から一歩も出ることができないアベノミクスでこれからも行くことの何度目かの宣言となっている。
2012年12月26日に第2次安倍内閣発足以来、4年9カ月も経つにも関わらず、この間2015年10月の10%への消費税増税予定を2017年4月に1年半延期、さらに2019年10月に2年半延期までして、尚且つ公共事業費を増額して景気対策に手を打ちながら、さらにデフレが日本の「失われた20年」と称する経済低迷の最大原因だとしてデフレ脱却を掲げ、「アベノミクスによって『デフレではない』という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です」と何度も同じことを言い続けていながら、今以ってデフレ脱却を宣言できずにいる、その程度のアベノミクスである。
アベノミクスがこのような体たらくだから、自民党から離党した東京都知事の小池百合子に「アベノミクスは成長の実感を伴わない」(2017年9月16日発言)と批判される始末となる。
安倍晋三が解散した場合の総選挙で「アベノミクス」の進捗の必要性を選挙の争点として最前面に掲げたとしたら、必ず掲げるだろうが、憲法改正問題等は特定秘密保護法や新安保法制のときと同じようにウラ争点にして目立たない遣り方で発言する(選挙に勝てば、これまでのように憲法改正問題も信任を得たと前面に押し出してくる。)柳の下に何匹目かのドジョウ作戦を繰返すことになるに違いない。
同じ手に乗るのか、同じ手に乗らないとしたら、森友疑惑・加計疑惑にまみれた指導者安倍晋三の続投は是か非か、成長実感ゼロのアベノミクスは経済政策として失格か否か、その双方を争点とすべきだろう。
先ずは安倍晋三の指導者としての資質を問題としなければならない。