勉強で難関突破の最高学府東大野球部員たちの特別コーチ桑田真澄から考えることを求められる滑稽な倒錯

2013-06-08 09:53:15 | 教育

 東大野球部の特別コーチに就任した元巨人桑田真澄の部員たち対する指導方法を伝えた6月3日(2013年)月曜日放送のNHKクローズアップ現代『“最弱”チームは変われるか ~桑田と東大野球部~』は何よりも日本教育の姿を示唆している。 

 六大学野球の中でも他の大学と違って推薦入学がなく、勉強の力一つで日本の大学入試の中でも最難関中の最難関を突破して天下の東大に合格、野球部に入部した勉強のできる、言ってみれば日本の教育を最大限に活用し、その恩恵を最大限に体現している、それなりに頭脳優秀な部員たちに桑田真澄が“考えて野球をする”ことを求めているのだから、そのことが例え滑稽な倒錯を描いていたとしても、そこに自ずと日本の教育の姿が投影されていることになる。

 その他にも桑田真澄の自らの経験に基づいた数々の言葉はスポーツ指導はどうあるべきか、部員たちはスポーツにどういう姿勢で臨むべきか、さらには社会問題となっているスポーツ指導に於ける体罰問題等々、色々な示唆を炙り出している。 
 
 東大野球部は現在負け続けて56連敗、3年近く勝ち星がない状態だという。桑田真澄は原因の一つにピッチャーが打たれても悔しがらない、打者が凡退しても悔しがらない選手たちの闘志のなさ――悔しがらないことを当たり前としたプレーに置いている。

 要するに、頭の中で考えたことだが、ピッチャーが早い回早々に相手打者に鮮やかなヒットを打たれでもしたら、またか、と敗戦を予想して瞬間的に脱力し、打者の方も凡打に終わると、いつもの結末を予想して瞬間的に脱力する。既に負け試合を予想しているから、脱力が瞬間的なものであっても、そこから抜け出ることができずに自分の気づかないところで脱力が続くことになって、惰性で試合をこなしていく結果、いつまでも負け試合を繰返すことになる。

 いわば負けることを当たり前とする心理を染み付かせているということなのだろう。

 そこで桑田真澄はそれなりに頭脳優秀な集団である東大野球部員たちに一人ひとりが変わることを求めた。

 桑田真澄「みんな一人一人が変わらないと、100連敗すると思うよ。勝負の世界って厳しいよ。

 (他大学は)今年も東大には楽勝、負けないって思っているよ。アウトになって悔しがる人がいない。“よし打ち取ったぜ”、自信満々に降りてくる人がいない。

 そんなチームに誰が負ける?結果を変えるには誰が変わらないといけないんですか?」

 部員たち「自分です」

 このぐらいの答は分かるらしい。だが、問われて変わるのではなく、頭脳優秀な集団である以上、なぜ勝てないのかを自ら問い、自ら答を出していかなければならないはずだが、自らが受けた日本の教育の力を以てして、それができない。

 勿論、東大だけではないことは桑田真澄の言葉が教えてくれる。
 
 桑田真澄「野球界も脈々と受け継がれた伝統といいますか、常識がありまして、それがなかなか変えきれないんですよね。

 超管理野球といいますか、日本の野球って管理野球なんですね。

 指導者、監督、コーチが言ったこと以外をすると殴られたり、どなられたりするわけですよね。そうしますと、言われたこと以外やらないほうがいいわけですよ。

 ですから、考えなくてもこれやれって言ったら、ハイ、これやれ、ハイってやるのが日本の野球界の弱点でもあったんですね。

 でも実際僕、長年プレーしてきて、野球選手はどういう要素が必要かといいますと、自分で考えて行動できる選手じゃないといい選手にはなれないですね。

 なぜか日本の野球は指示待ちのスポーツだと皆さん思われてるんですけど、監督ができるのってメンバー決めてサイン出すだけなんですね。

 あと、グラウンドで考えて行動、動く、プレーするのは選手ですから、ふだんから自分で考えて行動できるという習慣をつけとかなきゃいけないんですね。

 これが日本の野球界の一番の弱点だと僕は思ってます」――

 「これやれって言ったら」、「ハイってやる」教育形式は日本の暗記教育の形式そのものである。知識・情報の伝達と受容が暗記教育の形式を取っているから、スポーツ指導の場面に於いてもそれが現れるのは極く自然なことと見なければならない。

 要するに日本の野球は、他のスポーツにも通じるはずだが、監督や指導者の指示を自身の運動神経や身体能力を介して忠実に反復していくことで成り立たせているということであろう。

 別の言い方をすると、日本の野球に必要な要素は監督や指導者の指示と指示に対する選手、部員たちの忠実な反復能力、自身の運脳神経と身体能力等であって、考える力を必要要素としていないスポーツということになる。

 だからこそ、「グラウンドで考えて行動、動く、プレーするのは選手ですから、ふだんから自分で考えて行動できるという習慣をつけとかなきゃいけないんですね」ということを求めなければならないことになる。

 インターネットで見つけた記事だが、《落合博満&桑田真澄の体罰に対する考えがスゴイ!殴ることで証明されるもの、指導者の力量不足》NAVER まとめ)に次のような記述がある。

 〈ドイツの子供たちは、試合前のミーティングで、コーチの指示に対して必ず説明を求めてきます。

 「なぜこのシステムで戦うのか」 「なぜこの戦術をとるのか」。

 それに対してコーチは、システムや戦術の意図をきちんと説明します。

 そうやって納得させないと、ドイツの子供たち(ヨーロッパの他の国の子供たちもそうなのでしょうが)は動かないのです〉――

 誰のいつの文章か、書いてない。

 ドイツの子どもたちは上から言われたことを言われたとおりに忠実に反復する形でコーチが説明したシステムや戦術の意図通りに動くわけではない。「なぜ」と問うこと自体が既に頭の中で「考える」行動を起こしていることを示しているからだ。

 「なぜ」と問い、答に納得した身体的行動(=プレー)はその答から最大限の成果を得るために一人ひとりが常に考えた行動を取ることになる。取らなければ、答に納得した意味を失うことになる。

 当然、意図しなくても集中力は自然と高めることになる。

 答に納得しない場合、考えたプレーを心がけたとしても、監督の意図と自身の意図との間に食い違いが生じて、チグハグなプレーとならざるを得ないはずだ。

 言われたことを言われたとおりにプレーして、例え試合に勝ったとしても、試合の中身、一人ひとりのプレーの中身を自ずと違ってくる。

 桑田真澄が練習に於ける効率性と集中力を求めたことも、考えることの要求に当たる。

 東大野球部員の1日の練習メニューは朝6時半から全体練習、午後はポジションごとのトレーニング、さらに自主練習が続き、1日12時間以上も肉体を酷使しているという。

 井坂肇投手(4年生)「前までの時間では勝てないんだから、もっとやるしかない。練習量イコール上達」――

 身につく練習と身につかない練習というものがある。如何に身につく練習をするか、練習を如何に実戦に結びつけるか、中身が問題となる。当然、効率性と集中力を課題としなければならないはずだが、頭脳優秀でありながら、そこまで考えないで、とにかく練習を沢山やることだけを考える。

 効率性と集中力を出すことのできる練習を編み出すに力となる教育でないなら、教育の意味を失う。そういった教育でありながら、個人的資質から教育の力を生かし切れていないということなのだろうか。

 だが、桑田真澄の言葉は個人の問題ではなく、全体的な問題であることを窺わせる。

 桑田真澄「みんな見ていると(練習を)やりすぎ。やり過ぎると内容が薄くなっていく。短時間集中型、超効率的な練習をしないと。東大なんだから」――

 「東大なんだから」、考えないとダメだと頭脳優秀を前提として言っているが、その前提を生かし切れていない滑稽な倒錯状態にあった。

 桑田真澄「練習やり過ぎて疲れて、普段から(体格で)劣るのにもっと劣る。疲労が抜けないで次の練習をしても上達しない」――

 桑田真澄「とにかく真面目すぎてですね、練習のやり過ぎっていう印象がありますね。本当に野球が好きで真面目なんだなって思いますよね」

 国谷裕子キャスター「どんな間違った練習をしていたのか」

 桑田真澄「間違いじゃないんですけど、常識を疑うということも…先ほども言いましたけど、野球界ではやっぱり長時間練習したらうまくなるという常識があるんですね。

 僕も2歳からずっと野球やってまして、長年やってますけど、じゃあ量と時間でうまくなるかっていうとうまくならないんですよね。どれだけ質の高い内容のある練習をするか、これがポイントだと思いますので、彼らは量と時間をすごく真面目でやってるんですけど、上達しないというのは何かが違うんじゃないかという話を彼らにもしましたし、僕ももう確信してるんですよね」――

 国谷裕子キャスター「体力的・技術的にも低いレベルだと人一倍練習するのは自然では?」 

 桑田真澄「そうですね。でもですね、野球っていうスポーツは、体力と技術だけの勝負じゃないんですね。

 頭も必要なんですね。頭を一番使える集団でありますから、この3つのバランスを取って戦っていこうということなんですね」


 国谷裕子キャスター「体力を消耗しているときに練習を重ねたりするとどうなるのか」

 桑田真澄「集中力がまずないんですよね。体が疲れてますので、全力でプレーするということができなくなるんですよね。そうすると、7分とか8分の力でプレー・練習しますから、それを脳と体が覚えてしまうんですね。

 ですから、いつまでたってもいい動きができない。全力で筋肉を使っていくってことを忘れてしまう。全力、そして集中してっていうことも大事なんですね。

 よく体で覚えろって言いますけど、僕は故障にもつながったり、70、80%の力で動いたのを覚えてしまうんじゃないかなと思ってます」――

 桑田真澄の発言はやはり「頭も必要なんですね。頭を一番使える集団でありますから」と、考える必要性の訴えとなっている。頭脳優秀な集団であるはずの東大野球部員たちの側からすると、その頭脳優秀に反して頭を使って考えることの必要性を桑田真澄から訴えられる滑稽な倒錯状態を呈していることになる。

 いずれにしても、桑田真澄は頭脳優秀集団の東大野球部員を相手とした考えることの必要性をこの番組の一貫したテーマとした。

 果たして東大野球部員は自分たちの頭脳優秀に応じて桑田真澄が提示したテーマに他大学と比較して劣る身体能力と劣る運動神経を武器に的確に答を出すことができるのだろうか。

 練習が効率性と集中力を眼目とすることができずに時間量に於いても運動量に於いても過ぎて体力を消耗することが集中力喪失の原因となる。当然、動きが練習でも実戦でも惰性となる。

 ただでさえ他大学と比較して劣る身体能力と劣る運動神経を尚更に自分たちから劣化させることになって、他大学との格差を広げることになる。

 このことを避けるためにはいくら激しい練習であっても、一つ一つの練習を短時間に集中的に行い、それらの練習の合間により短時間の休憩を取って、可能な限りの体力の回復を図り、次の練習にかかることが効率性と集中力の維持に欠かすことのできない要素となる。

 実は、〈これは主として特別な才能を持たない運動選手の体力と技術の底上げを目的とした練習理論である。野球で言えば、高校野球や大学野球、あるいはプロ野球の万年2軍選手に有効と思われる。

 この運動理論は最初に断っておくが、科学的根拠なし、経験からの理論付けのみ。経験からと言っても、プレーヤー、あるいはアスリートとしての経験・実績はゼロに等しいから、乏しい経験を基に頭の中で考え出した練習理論に過ぎない。既に誰かが以前から実践している理論であるとか、全然役に立たない可能性もあるが、だとしたら、悪しからずご容赦を。〉と冒頭前置きして、2007年2月13日――《運動に於ける新たな練習理論 :(<リズム&モーション>) - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》と題したブログ記事の中で、「集中力」と言う言葉は使っていないが、休憩が体力回復と精神的余裕の形成に欠かすことができないことを書いた。

 そしてその格好の例としてボクシングの試合を取り上げて次のように説明した。

 〈ボクサーが試合で3分のラウンドの間に1分の休憩がなかったなら、回を重ねるごとにステップはリズムを失い、打ち合いの殆どは威力もないパンチを惰性でただ単に繰り出すだけとなるのは目に見えている。1分の休憩があることによって、体力の回復が可能となる。ラウンドを重ねるごとに体力の回復は遅くなるが、それでも戦っているときの体力消耗を1分の休憩が僅かでも救うことになる。〉――

 体力を消耗すると集中力を欠き、精神的余裕も失っていくことは断るまでもない。

 上記ブログには書かなかったが、最近考えている弱小集団の野球部の練習は、1日は投手以外はボールとバットに一切触れさせないで、身体能力を向上させるウエイトトレーニングやランニング等のみを休憩を挟んで時間をかけて行う方法がある。

 一つの練習を時間をかけて集中的に行うことで身体にギリギリの負荷をかけてから休憩を挟むことで体力を回復させて、次の練習にかかる遣り方を用いて集中力の維持を図り、体力のみならず、精神的な忍耐力を養っていく。

 次の1日は練習時のような正規のフリーバッテイングやキャッチボール等は行わず、試合前の軽いバッティングや守備練習のみを行なって紅白試合に入る。

 少ない守備機会と少ない打撃機会が否応もなしに集中力を求めることになる。打者が1日満足な打撃を見せることができなかったなら、否でも欲求不満に陥ることになるだろう。

 当然、翌々日の紅白試合では一層の集中力を発揮しなければならないことになる。

 紅白試合を行う選手全員が試合を通して集中力を高め得たとき、紅白試合は他校と行う公式戦と変わらない濃密な内容の試合となるはずだ。

 このような1日置きの練習によって他者と劣る身体能力と運動能力の格差、そして集中力を可能な限り縮めていく。

 この方法が例え無効であっても、選手は自ら考えて、力の向上を図っていかなければならない。


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