安倍晋三は「テロに屈しない」を言うなら、「人命第一」を言うな。後者を言うなら、前者を言うな

2015-01-22 09:59:27 | 政治

 先ず最初に私自身の立場を明らかにしておかなければならない。「人命第一」の考えは取らない。

 その理由は「人命第一」が「人命第一」とならないからだ。今回の場合、2人の日本人が救出されたとしても、日本人の「人命第一」にはなるが、世界の人々の「人命第一」には決してならないからだ。

 テロに屈してテロ集団と取り引きをし、2億ドルを渡して2人の日本人を救出したとしても、その資金を元手に敵対する中東の国々の多くの市民を男女別なく、また老若別なく殺害したり、あるいは欧米の旅行者やジャーナリストを誘拐して殺害したりしたら、出発点の「人命第一」が禍(わざわい)の原因を成立させることになる。

 日本人だけ助かればいいとしたら、国際協調時代に於ける一国平和主義という自国ご都合主義の倒錯に迷い込むことになる。

 「イスラム国」は宗教少数派の信徒の女性や少女、少年を多数連れ去って、奴隷として売買の対象としたり、戦闘員、支持者らの強制的結婚相手、性的暴行や虐待の対象としているという。

 例え生かされた状態に置かれていても、基本的人権や自由及び幸福追求の権利を保障された、ごくごく自然な人間らしい状態で生かされているわけではなく、厳密な意味での「人命第一」を犠牲にした精神的奴隷状態を強いられているはずで、一人二人の「人命第一」が多くの「人命第一」の犠牲につながっていくだろう連鎖の現状を考えると、出発点の「人命第一」を断ち切り、犠牲にする決断を論理的なな答としなければならなくなる。

 イスラム過激派「ボコ・ハラム」は14、5歳の少女に「天国に行くには自爆テロを起こさなければならない。拒否すれば射殺する」と脅迫して爆弾を身体に装着させて人混みに行かせて自爆させ、少女の人命諸共に多くの人々の人命を犠牲にしている。

 何事もそうであるが、戦争にしてもテロにしても第一番は資金=カネを元手とする。カネが豊富なら、その豊富さに応じて強力な武器を大量に手に入れることができるし、優秀な人材を多人数集めることができる。

 テロ集団が人質を獲って身代金を要求して、その要求に「人命第一」の人道主義から応じた場合、その身代金がテロの新たな資金となって、新たなテロを生み出し、身代金を支払わせた人質の人数に数倍する、あるいは数十倍する犠牲者を出していく構図は否応もなしに身代金支払いに応じた「人命第一」とその人道主義そのものが導き出し、生み出した構図となる。

 テロの世界に於いては最終的には出発点の「人命第一」とその人道主義は否定される。

 この構図に気づいているのか気づいていないのか、気づいていて国民を欺くためにか、安倍晋三は「テロに屈しない」と言って、テロ集団と取引しないかのよう姿勢を見せているが、その一方で、「人命第一」と言って、テロ集団との取引に応ずるかのような姿勢を示している。少なくとも交渉自体はするかのような姿勢を見せている。

 だが、相手の要求が身代金の支払いであり、それをテロの新たな資金とする考えである以上、「人命第一」の実現は身代金支払いとイコールとしなければならないはずで、両方を言うことは明らかに「二つの命題が互いに矛盾し合う」という意味での二律背反の姿勢に他ならない。

 国民を欺くための詭弁でないとしたら、安倍晋三は自己矛盾を露呈していることになる。

 《安倍晋三内外記者会見》首相官邸/2015年1月20日)   

 「イスラム国」の邦人拘束を受けた訪問先イスラエルでの内外記者会見。

 ベイカー・エルサレム・ロイター通信支局長「過去にこうした状況で第3国がこの地域で身代金を支払うといったことがあった。そうしたやり方は今回の問題を解決する上で検討されうるか」

 安倍晋三「先ず、今回の事案については、我々人命第一に考え、各国の協力も得ながら情報収集に当たっております。今後も、人命を確保する上において、全力で取り組んでいく考えであります。いずれにせよ、国際社会は決してテロには屈してはならない、とこう考えております」――

 「日本は」とは直接的に言わずに、間接的な物言いを用いてテロには屈しない意志を示している。

 シリアにおける邦人殺害予告事案に関する関係閣僚会議》首相官邸/2014年年1月21日)  

 安倍晋三(冒頭挨拶)「昨日、ISILにより発出されたとみられる動画に映っている2名の男性については、行方が分からなくなっている日本人である可能性が高いことが確認されました。人命を盾にとって脅迫することは、許しがたいテロ行為であり、強い憤りを覚えます。

 改めて、2人の日本人に危害を加えることのないよう、そして直ちに解放するよう強く要求します。政府として、引き続き、人命第一で対応に全力を尽くしてまいります。厳しい時間との闘いの中で、徹底した情報戦を展開していく必要があります。

 私が昨日、パレスチナのアッバース大統領に直接協力を要請するとともに、急きょアブドッラー・ヨルダン国王、エルシーシ・エジプト大統領、エルドワン・トルコ大統領にも電話で協力を要請いたしました。ヨルダンには、中山外務副大臣を派遣しており、これまでの地球儀俯瞰外交で培ってきた中東各国との信頼関係、あらゆるチャンネルルートを最大限生かしながら、政府を挙げて手段を尽くしていく考えであります。

 いずれにせよ、我が国がテロに屈することはありません。国際社会と手を携え、この卑劣なテロとの戦いに万全を期してまいります。閣僚各位にあっては、引き続き、強いリーダーシップを発揮して、刻一刻変化する状況に臨機応変かつ全力で当たっていただきたいと思います」――

 ここでは「我が国がテロに屈することはありません」と、直接的に自国の姿勢を示している。イスラエルでの内外記者会見では動画で人質事件を知らされたばかりだから、テロ集団を刺激しないようにという配慮があったために間接的な物言いとなったのだろうか。

 「テロに屈しない」とは、直接的にテロと戦わなくても、広い意味としてはテロと戦う国への各種支援提供等を通して間接的にテロと戦うことをも含む。

 もし「人命第一」を言うなら、当然最優先の“第一”は人命であって、テロとの戦いではないばかりか、間接的なテロとの戦いをも放棄しなければならない。

 なぜなら、再び日本人が拘束されて身代金を再び要求されない保証はないからだ。常なる「人命第一」最優先主義は如何なる形でのテロとの戦いも放棄してこそ、成り立つ。

 だが、これも国際協調時代に於ける一国平和主義という自国ご都合主義の倒錯を選択することになる。

 「テロに屈しない」と言うなら、最優先の“第一”は様々な形でのテロとの戦いであって、人命ではなくなる。

 双方共に“第一”とすることは論理矛盾そのものであろう。

 双方共に追求して、二律背反とはならない論理的は方法を国民に説明すべきだろう。国際社会を裏切ることなく、国民を裏切ることのない二律併立の方法である。

 表向きは「人命第一」を追求している姿勢を演じながら、実際は陰の交渉でテロに屈しない姿勢を取り続けて、犠牲が明らかになってから、「人命第一」を貫くことができなかったことを「あらゆる手を尽くしたが、残念な結果になった」では、国民を欺き、愚弄したことになる。

 国家主義者がよく使う手ではあるが。


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