立憲民主党代表泉健太の2022年9月8日衆議院議院運営委員会安倍晋三国葬関連質疑を採点すると30点

2022-09-30 06:33:13 | 政治
 2022年9月27日に行われた7年8ヶ月の長期政権を築いた安倍晋三を国葬とすることの根拠、正当性等を巡り、前以って2022年9月8日に衆参両院の議院運営委員会で各党の質疑が行われた。7年8ヶ月の長期政権は消費税増税の2度に亘る延期と国民不人気の政策の争点隠しを駆使した選挙巧者であったこと、弱小野党のドングリの背くらべに恵まれて対抗しうる勢力が存在しなかった政治状況の賜物に過ぎなかったし、7年8ヶ月によって円安・株高の景気状況はつくり上げたが、その状況は企業利益増大と富裕層の所得拡大への貢献に大きく傾き、一般市民の生活を実質賃金低迷と円安からの物価の高騰で苦しめた。要するに安倍晋三は企業や金持ちの味方だった。結果として格差拡大社会を作り上げることになった。国葬とした理由の一端はここにあったはずだ。

 政治家は国民の負託を受けてその存在を成り立たせている以上、その政策能力だけではなく、人格の質も重要な要素として必要とされるが、政治がチームワークである関係上、例えカネの力やハッタリ、押しの強さ、巧妙な立ち回り等々で人を集める能力に長け、一定の勢力を築き、その頂点に君臨することになると、その集団に協力する政治家や官僚が出てきて、彼らが提供した政策アイデアがその政治家の政策として表に出ることになる場合があり、その政策が集団の頂点に立った政治家の政策能力の賜物しての評価となり、その評価が前面に出て、人格の質を遥か背景に退かせることが起こりうる。

 例えば2016年8月に唱えた「自由で開かれたインド太平洋」なる外交構想は安倍外交の最大の功績の一つとされているが、「自由で開かれたインド太平洋誕生秘話」(NHK政治マガジン/2021年6月30日)によると、現在、外務省総合外交政策局長(外務省北米局長)を務めている市川恵一(57歳)の発案が事の起こりだそうで、この外交構想の世界的な評価を前にした場合、モリカケ問題や「桜を見る会」等々の政治の私物化疑惑に見ることになる人格の質は影さも見えないものとしてしまうし、2014年8月の広島土砂災害時に多くの死者が予想されるさなかにゴルフに興じることができた国民の人命に対する軽視から窺うことができる人格の質にしても、見過ごされてしまうこととなり、現実問題としても見過ごされ、国葬という待遇を受けることになって、人格の質は国葬要件から完全に排除されることになった。

 確かに「自由で開かれたインド太平洋」構想は言葉そのものは高邁で素晴らしく、安倍晋三の評価を高めはしたが、その実現は海洋進出の行動を取る覇権大国中国の覇権主義からの転換によって果たすことができるのだが、転換に向けた姿勢を採らせるどころか、海洋進出への動きをますます強めている現状では構想は見せかけで終わっていて、成果は何一つ上げているわけではない。

 こういった見せかけを無視して安倍晋三の業績を国葬でどれ程に盛大に評価しようと、外国首脳を何人招こうと、弔問に国民が何人訪れようと、マスコミがどれ程の量で報道しようと、銃撃を受けてあの世に召されてしまった安倍晋三自身は儀式の一つ一つをもはや目にすることも、耳にすることもできない。できたなら、外国を何カ国訪問した、外国首脳と何回首脳会談を開いた、プーチンとの首脳会談は27回もこなしたと回数や人数を自慢の種にしてきたことからすると、弔問に外国首脳が何人訪れた、16億6千万円の盛大な国葬だと誇らしい気持ちになって、のちのちまでの自慢の種にもするだろうが、にこやかな写真でしか存在することができない。死者本人にとってどのような葬式か認識できない以上、所詮、葬式の名目、規模の類いはこの世に遺された政治的利害関係者の政治上の打算や家族や親類縁者の名誉心や世間体等を満足させる方便に過ぎない。大体が国民の6割方が国葬に反対、4割方のみが賛成ということなら、「故安倍晋三4割国葬」と名付けるべきが民意に対する等身大の受け止めとなるだろう。

 議院運営委員会質疑は立憲民主党代表泉健太の発言を取り上げ、思い通りの展開ができたのかどうか、採点してみることにした。質疑トップバッターは天下の東大法学部卒67歳、通産大臣や運輸大臣を務めた田村元の娘婿の比例近畿ブロック選出自民党盛山正仁。2番バーッターが立憲民主の泉健太。盛山正仁は多くの国民が国葬を批判しているが、「なぜ国葬儀としたのか」と尋ねている。泉健太は盛山正仁が聞いているからだろう、同じ質問はしなかった。だが、国葬に批判、もしくは反対しているのだから、「同じ質問になるが」と断って、改めて問い質すべきだった。同じ答弁だったとしても、答弁の一つ一つに反論を加えることによって国葬とすることの根拠、あるいは正当性に対する疑義を論理的に示すことができる。論理的であることは説得力を与える助けとなる。このような手続きを踏まなかったことは質疑の採点に芳しからぬ影響を与えることになる。

 では、泉健太の質問との兼ね合いを知るために盛山正仁の「なぜ国葬儀としたのか」に対する岸田文雄の答弁を見てみる。

 岸田文雄「国葬儀としたことの理由について御質問を頂きました。

 安倍元総理については、憲政史上最長の8年8か月に亘り内閣総理大臣の重責を担われました。日本国133年の憲政の歴史の中で最長の期間、重責を担われたということ。

 また、その在任中の功績につきましても、かつて日本経済六重苦と言われた厳しい経済の状況の中から、日本経済再生について努力を続けてこられた。また、外交においても、普遍的な価値や法の支配に基づく国際秩序をつくっていかなければいけないということで、自由で開かれたインド太平洋、またTPPの妥結にもこぎ着けるなど、様々な成果を上げられました。また、東日本大震災からの復興という大切な時期に重責を担われた、こうしたこともありました。こうした様々な分野で大きな功績を残されたこと。

 そして、これに対して国内外から様々な弔意が寄せられている。特に、国際社会においては、多くの国で、議会として追悼決議を行う、政府として服喪、喪に服することを決定する、また、国によってはランドマークを赤と白でライトアップするなど国全体として弔意を示す、こうしたことを行った。

 さらには、先ほども申し上げましたが、選挙運動中の非業の死であったこと。

 こういったことを考えますときに、故人に対する敬意と弔意を表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し、海外からの参列者の出席を得る形で葬儀を行うことが適切であると考え、国葬儀の閣議決定を行ったものであります。

 特に、海外からの弔意を見ますと、合わせて1700を超える多くの追悼のメッセージを頂いておりますが、多くが日本国民全体に対する哀悼の意を表する趣旨であるということからも、葬儀を国の儀式として実施することで、日本国として海外からの多くの敬意や弔意に礼節を持って応える、こうした必要もあると考えた次第であります」

 盛山正仁は聞きっぱなしで、つまり岸田文雄に言わせっぱなしで、何らの賛意も反論も試みることなく、費用ついての質問に移る。岸田文雄に国葬とすることの正当性、その理由を披露させるために用意した質問に過ぎなかった。前以って示し合わせてそうしたのか、示し合わさなくても、阿吽の呼吸で正当性を演出し合ったといったところなのだろう。

 岸田文雄は盛山正仁に対して安倍晋三の「在任中の功績につきまして」と前置きして安倍晋三の政治活動のうち、功罪の“功”の部分のみを取り上げ、“罪”の部分はスルーさせている。世論調査で国民の半数以上が国葬に反対しているのは岸田内閣の意思一つの閣議決定で国葬と決めたことに対してだけではなく、人格が深く関わることになるその政治姿勢に問題点あると見ていることも原因しているはずである。要するに第1次安倍政権を加えて「8年8か月の重責」としているが、8年8か月の期間全てに亘って功罪のうちの"功"の部分のみで成り立っていたわけではない。先にほんの数例を挙げたが、"罪"の部分が相当程度含まれていた。この部分を無視したのでは安倍政権に対する厳格な評価・検証は不可能となる。

 海外から1700を超える多くの追悼のメッセージは「日本国民全体に対する哀悼の意を表する趣旨」としている。いわば外国からの哀悼の意は「日本国民全体」を対象に向けられているとの理由付けで、そのことに応えるために「葬儀を国の儀式として実施する」としているが、日本国民の半数以上が安倍晋三の国葬に反対しているということは外国からの哀悼の意は国民の全体的意識を必ずしも代弁していないことになり、国葬と決める理由とはならない。逆に国民の意識とのズレを示す事例となる。外国要人が日本政府の決定を優先させて、日本国民の意識とズレを生じさせたとしても、ある意味止むを得ないが、日本の首相が各種世論調査に接する機会がありながら、国民の意識とのズレを生じさせる姿勢は国民主権の民主主義を無視する出来事となる。

 もし泉健太が「なぜ国葬なのか」と改めて問い質して、岸田文雄の盛山正仁に対するのと同じような答弁を引き出すことができていたなら、ここに示したよう反論も可能となったはずだが、改めて問うことはなかった。

 泉健太の国葬に関する質疑の最初の部分を取り上げて、採点してみる。

 委員長山口俊一「次に、泉健太君」

 泉健太「立憲民主党の泉健太でございます。

 まず、党代表としても、安倍元総理に深く哀悼の誠をささげたいと思います。

 私も絶句をし、また嘆き、怒りを覚えました。この無念に党派は関係ございません。私は、事件後、奈良の現場にも向かわせていただき、手を合わさせていただきました。また、国会前でも霊柩車に手を合わさせていただきました。増上寺での御葬儀にも参列をいたしました。改めて御冥福をお祈り申し上げます。

 しかし、総理、この国葬決定は誤りです。強引です。検討せねばならぬことを放置しています。だから、国葬反対の世論が増えている、私はそう思いますよ。総理、そもそも、国葬は総理と内閣だけで決められるのか。こうした強引な決定方法に反発が起きています。

 総理、改めてですが、閣議決定までに三権の長に諮りましたか、あるいは各党に相談しましたか」

 岸田文雄「まず、今回の国葬儀につきましては、内閣府設置法及び閣議決定を根拠として実施することを決定させていただいたと説明をさせていただいております。

 こうした国葬儀、立法権に属するのか、司法権に属するのか、行政権に属するのか、判断した場合に、これは間違いなく行政権に属するものであると認識をしています。そして、それは、内閣府設置法第四条第三項に記載されている、こうしたことからも明らかであると認識をしております。その上で、閣議決定に基づいてこの開催を決定させていただいたということであります。

 委員の方からは、その段階までに三権の長に諮ったのか、説明が丁寧であったかということでありますが、根拠については、今申し上げたとおりであります。そして、説明が丁寧ではなかったのではないか、不十分ではなかったかということについては、政府として、こうした判断をすることはもちろん大事でありますが、国民に対する説明、理解が重要であるということも間違いなく重要だと思います。

 説明が不十分だったということについては謙虚に受け止めながら、是非、この決定と併せて、国民の皆さんの理解を得るために引き続き丁寧な説明を続けていきたいと考えております」

 泉健太「諮っていないんですよ。今、全然端的に答えていないですね、長くお話しされましたが。

 総理、これは、吉田元総理の国葬の際にだって他党に事前に言っていますよ。今回、全く言っていないですよね、総理はそれが必要ないかのように言いましたけれども。

 内閣葬というのは、内閣の行う葬儀として、それは内閣の権利でしょう。しかし、では、なぜ内閣葬ではなく国の儀式となっているのか。国というのは内閣だけなんですか。そんなわけないでしょう。国というのは、立法、行政、司法、三権あるじゃないですか。国権の最高機関はどこですか。その国会に相談もなく決めたのは、総理、戦後初めてですよ。その重さを分かっていますか。実は、とんでもないことをしているということ。

 実は、無理やり国葬と国葬儀なるものを分けて言っているけれども、今これだけ世の中では国葬と言われていて、そして国葬には国の意思が必要だと言われていて、そしてその国の意思とは何かといえば、決して内閣の意思だけではないということ、これは内閣法制局も国葬を説明するときに使っている言葉なのに、それをやっていない。私は、これは大いに法的にも瑕疵があるということをまずお話ししたいと思います。今の総理の話でいくと、国葬の決定に国会の関与は必要ないんだというような話でありますが、これはとんでもないことだと思いますよ。

 さて、更に言えば、内閣法制局はこうも述べています。一定の条件に該当する人を国葬とすると定めることについては法律を要するというふうに法制局が言っているわけですね。

 総理、今、そういう法律はありますか。国に選考基準を記した法律はありますか」

岸田文雄「御指摘のような法律はありません。

 しかし、行政権の範囲内ということで、先ほど申し上げさせていただいた判断、法制局の判断もしっかり仰ぎながら政府として決定をした、こうしたことであります」

 泉健太「今、国民の皆様にも聞いていただいたと思います。選考基準を記した法律はございません。

 総理は、先ほど、戦後最長だから、数々の実績があるから、世界から弔意があるから、そして選挙運動中だったから、このような理由を挙げました。

 ただ、例えば、佐藤栄作元総理は、当時、戦後最長の在任期間だったんじゃないですか。ノーベル平和賞も受賞している。でも、国葬ではなかったですよね。なぜですかね。これは、吉田国葬の反省も踏まえて、法律もない、選考基準もなく、三権の長の了承が必要な国葬ということはやはり難しいと。この数十年間、元総理にどんな業績があっても、先ほど言ったようにノーベル平和賞を受けようともですよ、どんな業績があったとしても、自民党内閣は、内閣・自民党合同葬を行ってきたんですよ。

 その知恵や深慮遠謀を壊して、今回、国葬を強行しようとしている、これが、総理、あなたじゃないですか。違いますか」

 岸田文雄「まず、基準を定めた法律がないという御指摘がありました。

 おっしゃるように、今、国葬儀について具体的に定めた法律はありませんが、先ほど申し上げたように、行政権の範囲内で、内閣府設置法と閣議決定を根拠に決定したわけですが、こうした国の行為について、国民に更なる義務を課するとか何か行為を強要するということではない限り、具体的な法律は必要がないという学説に基づいて、政府としても、今回の件についてしっかり考えています。

 そして、明確な基準がないのではないか、このことについて御指摘がありました。

 一つの行為についてどう評価するかということについては、そのときの国際情勢あるいは国内の情勢、これによって評価は変わるわけであります。同じことを行ったとしても、五十年前、六十年前、国際社会でどう評価されるか、一つの基準を作ったとしても、そうした国際情勢や国内情勢に基づいて判断をしなければならない、これが現実だと思います。

 よって、その時々、その都度都度、政府が総合的に判断をし、どういった形式を取るのかを判断する、これがあるべき姿だと政府としては考えているところであります」

 泉健太の最初の質問は次の5点。

① 「この国葬決定は誤りである」  
② 「国葬反対の世論が増えている」
③ 「国葬は総理と内閣だけで決められるのか」
④ 「閣議決定までに三権の長に諮ったか」
⑤ 「各党に相談したか」

 「この国葬決定は誤りである」に対して「誤りである」と答えるはずはない。「なぜ国葬なのか」と聞いて、例え言い抜けさせることになったとしても、答えた理由一つ一つに自身が掲げた5点に添って反論を試みる方法を採用した方が聞く者に対して説得力をより強めに示すことができただろう。結局のところ、岸田文雄は「内閣府設置法及び閣議決定を根拠として行政権の範囲内で国葬を決定した」とするだけで、泉健太が問い質した5点全てに満足な答弁を与えていない。思い通りの答弁とすることができなかったのは泉健太自身の力量の問題であろう。

 岸田文雄の答弁全体を見ると、国葬決定を既成事実として、その既成事実の理解を得るために「今後とも丁寧な説明を行っていきます」という姿勢を言葉で示しただけで終えている。このことの格好の例は4番目の「閣議決定までに三権の長に諮ったか」に対して、「諮った・諮らなかった」のいずれも直接的には答えずに「説明の丁寧・不丁寧」の見極めや説明の継続にすり替える巧妙な答弁術の披露で終わらせている点に見ることができる。対して泉健太は「なぜ諮らなかったのか」とさらに踏み込むことはせずに自分から「諮っていないんですよ」と答えて終わらせている。自身の「なぜ」に対して相手の答を得ることができなければ、質問の意味も効果も失う。

 岸田文雄が掲げた国葬決定の正当性理論は"内閣府設置法及び閣議決定を根拠とした行政権の範囲内"というものだが、泉健太はこの正当性理論を想定した理論武装を前以って準備していなければならなかったのだが、その形跡を見ることはできない。その理由は述べる前に内閣府設置法第四条第3項33を見てみる。

 〈国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)〉と事務の執り行い、所掌事務を取り決めているに過ぎない。つまり国葬である場合、内閣は自らの行政機関の権限として内閣府設置法第四条第3項33に基づいて国葬の執行を閣議決定し、閣議決定に従って国葬とした儀式を執り行うことができるという意味を取る。

 内閣に於ける行政機関の権限としてのこの執行が岸田文雄の言う「行政権に属するもの」、あるいは「行政権の範囲内」に当たる。

 岸田文雄の国葬決定の正当性理論に対する泉健太の理論武装の前以っての準備の必要性は岸田文雄が2022年7月14日の記者会見で既に同じことを答弁しているからである。

 岸田文雄「安倍元総理におかれては、憲政史上最長の8年8か月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面する我が国のために内閣総理大臣の重責を担ったこと、東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績を様々な分野で残されたことなど、その御功績は誠にすばらしいものであります。

 外国首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けており、また、民主主義の根幹たる選挙が行われている中、突然の蛮行により逝去されたものであり、国の内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられています。

 こうした点を勘案し、この秋に国葬儀の形式で安倍元総理の葬儀を行うことといたします」

 そして質疑応答で記者の「国会審議というのは必要ではないのか」の質問にこう答えている。

 岸田文雄「国会の審議等が必要なのかという質問につきましては、国の儀式を内閣が行うことについては、平成13年1月6日施行の内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として、国の儀式に関する事務に関すること、これが明記されています。よって、国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます。これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。

 こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております」

 2022年7月14日記者会見の内閣府設置法及び閣議決定に関わる発言と2022年9月8日の衆議院議院運営委員会に於ける同趣旨の発言を併せて読んでみると、内閣府設置法第四条第3項33が内閣の行政権に属する事柄として国の儀式執行を取り決めていることから、この法律に基づいて安倍晋三の国葬執行を閣議決定したことは同じく内閣の行政権に属する事柄であり、行政が国を代表して国葬を行いうると意味させていることになる。

 しかしこの論理のみを見ると、国葬執行の前提として安倍晋三の追悼を国葬とするにふさわしいか否かの肝心要の決定が抜けている。順番としては何らかの諮らいに基づいたこれこれの理由によって安倍晋三追悼を国葬とするの決定が最初にあり、その決定を待って内閣府設置法第四条第3項33に基づいた国葬執行の閣議決定が続き、国葬実施という順番を取らなければならない。内閣府設置法第四条第3項33は国葬執行の前提として誰を国葬として追悼するか否かの決定については何ら関与していない。

 閣議決定にしても、最初から安倍晋三国葬ありきの内容となっている。文飾は当方。「岸田内閣閣議及び閣僚懇談会議事録」(開催日時:2022年7月22日(金))

 内閣官房副長官木原誠二「一般案件等について、申し上げます。まず、「故安倍晋三の葬儀の執行」について、御決定をお願いいたします。本件は、葬儀は国において行い、故安倍晋三国葬儀と称すること、令和4年9月27日に日本武道館において行うこと、葬儀のため必要な経費は国費で支弁することなどとするものであります。なお、本件につきましては、後程、内閣総理大臣及び内閣官房長官から御発言がございます」

 木原誠二自身の発言が「御決定をお願いいたします」と発言しながら、以下は国葬は既に決まったこと、既成事実として話を進めていて、国葬とするか否かの採決は一切取っていない。「後程」の岸田文雄の発言「先程決定された故安倍晋三元総理の葬儀に際しては、葬儀委員長は内閣総理大臣が務め」云々にしても、採決が行われたわけでもないのに安倍晋三国葬を決定事項とした話の進め方となっていて、このことの前提としなければならない安倍晋三を国葬とするとの決定に至る議論も採決も一切存在させていない。

 岸田文雄が安倍晋三追悼を国葬にするとの決定に至る議論の抜け落ちの不備をクリアするために用意した理論が議院運営委員会の次の発言である。改めてここに記してみる。

 「まず、基準を定めた法律がないという御指摘がありました。

 おっしゃるように、今、国葬儀について具体的に定めた法律はありませんが、先ほど申し上げたように、行政権の範囲内で、内閣府設置法と閣議決定を根拠に決定したわけですが、こうした国の行為について、国民に更なる義務を課するとか何か行為を強要するということではない限り、具体的な法律は必要がないという学説に基づいて、政府としても、今回の件についてしっかり考えています。

 そして、明確な基準がないのではないか、このことについて御指摘がありました。

 一つの行為についてどう評価するかということについては、そのときの国際情勢あるいは国内の情勢、これによって評価は変わるわけであります。同じことを行ったとしても、五十年前、六十年前、国際社会でどう評価されるか、一つの基準を作ったとしても、そうした国際情勢や国内情勢に基づいて判断をしなければならない、これが現実だと思います。

 よって、その時々、その都度都度、政府が総合的に判断をし、どういった形式を取るのかを判断する、これがあるべき姿だと政府としては考えているところであります」――

 「国民に更なる義務を課するとか何か行為を強要するということではない限り、具体的な法律は必要がないという学説」云々は対国民義務非強制の事項に関しては根拠法は必要としないとする、根拠法の不必要性の言及となる。誰の追悼を国葬としようがしまいが、根拠法は必要ではないとの断言である。だから、政府は「国民一人一人に弔意を求めるものではない」としたのだろう。だが、要請はしないものの、国の機関や自治体の半旗掲揚は弔意の一種であり、暗黙の強制のうちに入る。

 岸田文雄のいう“学説”に対して根拠法の必要性に言及している学説もあるのだから、より妥当な公平性を手に入れるための要件は国会に諮るという手続き以外にないはずだが、岸田文雄が安倍晋三を国葬で追悼すると発表したのが2022年7月14日の記者会見。衆参両院の議院運営委員会で国葬とすることについての疑義個所の説明に応じたのが約2ヶ月後のたった1回の2022年9月8日。しかも通常は昼の1時間の休憩を挟んで朝の9時から夕方の5時まで1日7時間の審議時間が衆議院議院運営委員会が1時間35分、参議院院運営委員会が1時間36分という丁寧とは程遠い簡略なもので、世論調査で「説明不足」、あるいは「説明に納得できない」が多数を占めている事態と同様に説明責任を果たしたと見る向きは少数派に過ぎないだろう。

 誰を国葬とするのかの「明確な基準」について、一つの行為についての評価は国際情勢や国内情勢によっても、時代時代によっても変わるから、時代や国内外の状況を超えた運用は不可能だとする理由で、「その時々、その都度都度、政府が総合的に判断をし、どういった形式を取るのかを判断する、これがあるべき姿」としているが、どのような理由により何をどう考えて決めたのかの具体的な手順とその公表に基づいた"政府の総合的な判断"であるならまらまだしも、"政府の総合的な判断"だからとの理由のみで政府だけの判断に任せて政府だけの専権事項としたなら、政府の判断を過ちなきものと絶対化し、政府の独断を招くケースも生じる。

 当然、このような事態を避けるためにもやはり国会に諮るという手続きを経る必要性が生じるが、岸田文雄は自身の特技を「人の話をしっかり聞くということだ」としている自らの言葉を裏切って国会審議に後ろ向きな姿勢を専らとしている。岸田文雄の答弁のみでは、安倍晋三の国葬追悼に正当性をとてものこと与えることはできない。

 決定の順番から言うと、岸田文雄側に好都合な“学説”と“政府の総合的な判断”に則った安倍晋追悼の国葬決定が最初にあり、内閣府設置法第四条第3項33に基づいた閣議決定による国葬執行の決定ということになるが、このような手順の決定自体からも、十分な国会審議を経ない説明責任の不十分さからも、政府の独断という姿形しか見えてこない。

 だとしても、岸田文雄は2022年7月14日の記者会見での内閣府設置法と閣議決定に基づいた安倍晋三国葬決定とするだけでは説得力に不安を感じたのか、2022年9月8日の衆議院議院運営委員会では根拠法不必要性の“学説”と"政府の総合的な判断"を持ち出す理論武装を行っているが、対する泉健太はどのような理論武装も試みていない。

 次に後半の質疑応答を見てみる。

 泉健太「今、総理、国際情勢、国内情勢とおっしゃった。しかし、だったら、なぜ多くの国民はこれだけ反対しているんでしょうね。その総理が挙げられた4項目が真に国民が理解できるものであったら、ここまで反対にはならないんじゃないですか。

 私は改めて思いますけれども、例えば、経済の再生とおっしゃられる。でも、実質賃金が下がり続けたんじゃないですか、アベノミクスのときには。その部分はどう評価されるんですか。

 あるいは、申し訳ないけれども、森友、加計問題で、まさにこの委員会の場で百回を超える虚偽答弁を行ったということも大きく問題になっているんじゃないですか。

 あるいは、後ほどまた詳しく話をしますが、統一教会の問題、まさに自民党の中で最もその統一教会との関係を取り仕切ってきた、そういう人物じゃないですか。

 その負の部分を全く考慮せずに、それは実績は何らかあるでしょう、しかし実績も大きく評価が分かれるわけです。だから、これだけ反対の声が起きているときに、国際情勢、国内情勢、私は、それでは到底、国民は納得しないと思いますよ。

 改めて、選考基準が今全くないということも含めて、私は、岸田総理が挙げた今回の四つの理由というのはお手盛りの理由であるというふうに言わざるを得ません。

 さて、統一教会問題や霊感商法被害、そして統一教会における多額の献金による家庭崩壊、生活破綻、さらには日本からの韓国方面への多額の送金、様々な問題が上がっています。そして、自民党との密接な関係も言われている。多数の議員が関係を持ち、安倍元総理は、元総理秘書官の井上義行候補を、今回、教団の組織的支援で当選させたわけです。

 この自民党と統一教会との関係を考えた場合に、総理、安倍元総理が最もキーパーソンだったんじゃないですか。お答えください」

 岸田文雄「まず冒頭一言申し上げさせていただきますが、本日、内閣総理大臣として答弁に立たせていただいております。自民党のありようについて国会の場において自民党総裁として答えることは控えるべきものであると思いますが、ただ、昨今の様々な諸般の事情を考えますときに、これはあえて国会の場でお答えをさせていただくということを御理解いただきたいと思います。

 そして、安倍元総理の統一教会との関係については、それぞれ、御本人の当時の様々な情勢における判断に基づくものであります。ですから、今の時点で、本人が亡くなられたこの時点において、その実態を十分に把握することは限界があると思っております。

 そして、今、自民党として、自民党のありようについて丁寧に国民の皆さんに説明をしなければいけないということで、それぞれの点検結果について今取りまとめを行い、説明責任をしっかり果たしていこうという作業を進めているところであります。

 いずれにせよ、社会的に問題が指摘されている団体との関係を持たない、これが党の基本方針であり、それを徹底することによって国民の皆さんの信頼回復に努めていきたいと考えております。

 岸田文雄「先ほども申し上げましたが、今日までの関係については、それぞれ既に点検するようにという指示を出しているわけですが、その点検の結果について、党としてしっかり取りまとめることが大事だということを申し上げています。その中で、党としてそれをどのように公表していき、国民の皆さんに説明をしていくのか、これが重要なポイントになってくると思います。

 御指摘の点については、安倍(元)総理がどのような関係を持っておられたのか、このことについては、御本人が亡くなられた今、十分に把握するということについては、限界があるのではないかと思っています。

 ただ、いずれにせよ、党として先ほど申し上げました方針に基づいて、党全体のありようについて、しっかりと取りまとめていくことは重要であると思いますし、更に大事なのは、当該団体との関係を絶つということ、従来はそれぞれ点検をし、そして、それぞれが見直しをするという指示を出してきたわけですが、それぞれに任せるのではなく、党の基本方針として絶つということを明らかにし、そして、党として所属国会議員にそれを徹底させるということ、これを今一度確認した、ここに大変大きなポイントがあるのではないかと認識しています。是非こうした点検の結果の取りまとめと併せて、これから当該団体との関係について疑念を招くことがないように、党として徹底していきたいと考えております。

 以上です」

 委員長山口俊一「泉委員、本日の議題は国葬の儀でございますので、それを考えながら……(泉委員「ええ、当然です。安倍総理に関わることについてお話をしていますので」と呼ぶ)

 泉健太「改めてですけれども、今の総理のようなお話が私はこの世の中の反発になっていると思いますよ。どう見たって、岸家、安倍家三代にわたってやはり統一教会との関係を築いてきたし、それを多くの議員たちに広げてきたというのは、もう多くの国民は分かっているんじゃないでしょうか。

 そういう中で、今、総理は、調査、点検とおっしゃった。安倍元総理御本人に聞くことはもうできない。でも、安倍元総理がどういうふうなスケジュールで動いていたか、これは事務所は分かっておられるはずでしょう、秘書だって分かっておられるはずでしょう。それであれば、なぜ、今回、党の調査では安倍事務所を外しておられるんですか。これはやはりおかしいですよ。

 国葬にふさわしいかどうかということの中に、今多くの国民が、統一教会との関係をやはり頭の中に入れている。そういうときに、まさにその御本人がどうだったかというのは、本人に聞くばかりじゃないですよね、調べることが可能じゃないですか。私は、是非、自民党は、岸田総裁はそれを約束するべきだと思います。

 もう一つ加えて言えば、これもお答えいただきたいですが、全国の自治体で、自民党の自治体議員が行政に何かを要請して統一教会系の団体の様々な会合に出るとか、そういうことが出てきています。自治体議員も外されていますよね、調査対象から。

 この二つ、約束していただけませんか」

 岸田文雄「まず一点目の御指摘については、先ほども申し上げましたが、具体的な行動の判断、これは当時の本人の判断でありますので、本人がお亡くなりになった今、確認するには限界があるという認識に立っております。

 二点目は、地方議員についてでありますが、党としては、今回、点検を行い、まずは党所属の国会議員を対象として取りまとめを行っておりますが、地方議員についても、今後、社会的に問題が指摘される団体との関係を持たないという党の基本方針を徹底していただくことになると考えております」

 泉健太「やはり残念ながら非常に後ろ向きである。

 今回しっかりとこの統一教会との問題を正すということ、これもやはり私は国民の理解に今つながっていると思いますよ。今、総理の姿勢では、限界があるとおっしゃったけれども、限界までいっていないんじゃないですか。限界までいっていない。まず、この調査をするべきだ。これは、安倍事務所も、そして自治体議員もそうである
と思います。

 そして、今、私たちは、この統一教会絡みの中で、実は、信者の二世と言われる方々から直接ヒアリングを行っています。その方々から聞くと、やはり、安倍元総理のメッセージによって励まされた、会場が大きく盛り上がった、そんなことをお話しされる方もありました。

 改めて、被害者救済ということ、今どうしてもこれを取り上げたい。実は、その当事者の皆さんからは、多額の献金や家庭崩壊で苦難を抱えていると。いたじゃなく、いるというのが今の現状です。だからこそ、私たち立憲民主党は、マインドコントロールによる高額献金を禁止する、規制する、こういう立法を作ってほしい、この求めに応じて、カルト被害防止、救済法案を国会に出そうと考えています。

 総理、こうした声、まだ聞かれていないと思うんですが、法整備が必要だと思いませんか」

 委員長山口俊一「議題に沿っての答弁で結構でございますから」

 岸田文雄「御指摘の点については、まず一つは、政治と社会的に問題になっている団体との関係という論点がありますが、もう一つの論点がまさに委員御指摘の被害者救済という論点であると思います。

 共にしっかりと対応しなければならないということで、政府としましても、社会的に問題が指摘されている団体に関して、私の方から既に関係省庁に対し、宗教団体も社会の一員として関係法令を遵守しなければならない、これは当然のことであるからして、仮に法令から逸脱する行為があれば厳正に対処すること、また、法務大臣を始め関係大臣においては、悪質商法などの不法行為の相談、被害者の救済に連携して万全を尽くすこと、この二点を指示を出しているところであります。

 これを受けて、法務大臣を議長とする「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議を設置し、この問題の相談集中強化期間を設定し、合同電話相談窓口を設ける、こうした対応を行う、さらには、消費者庁において、霊感商法等の悪質商法への対策検討会、こうしたものを立ち上げ、議論を開始する、こうしたことであります。

 そして、委員の方から法整備の必要性ということの御指摘がありましたが、まずは、私の方から出した指示に基づいて始めた取組、これをしっかりと進めていきたいと思います。それをまずやった上で、すなわち今の法令の中で何ができるのかを最大限追求した上で、議論を進めるべき課題だと思っております」

 泉健太「私は新しい法律も必要だと思いますが、今ほど、今の法令で何ができるのかというお話がありました。是非ここをやっていただきたいですね。

 なぜかというと、総理は8月31日の記者会見で、この旧統一教会を社会的に問題が指摘される団体として、党として関係を絶つ、そこまでおっしゃった。党として関係を絶つとまでおっしゃった団体であれば、相当な問題意識をお持ちだということだと思うんです。そのときに、党として関係は絶つが、政府としては何もやらなくていいということでは絶対ないですよね。総理もうなずいておられます。

 その意味では、まさに現行法に基づくこの団体の調査、そして解散命令、こういったものも検討せねばならないと思いますが、いかがですか」

 委員長山口俊一「泉委員、何度も議運の理事会で、議題を逸脱するような質問はないようにとのお話でありますから、気をつけてください」

 岸田文雄「今申し上げたように、政府としましても、問題意識を持ち、取組を進めています。

 今の法律の範囲内で何ができるのか、これをしっかりと詰めていきたいと思います。そして、その上でどういった議論が必要なのか、引き続きしっかりと取り組んでいきたいと思っております」

 泉健太「ありがとうございます。

 是非、この点は、今回、統一教会の問題をしっかり清算しなければ、またやはり被害者が多く生まれてしまう。残念ながら、今回の非業の死にこうして統一教会の様々な動きが絡んできてしまっていたということもあると思います。

 さて、改めて、国葬の問題でありますが、経費です。

 式典費の本当にコアのコアの部分で、最初、二・四九億円とおっしゃった。しかし、やはりこんなに少ないわけないんじゃないかという話で、次に出てくると十六億円ということになった。

 しかし、総理、今回発表した総額、例えば、来年のG7サミットでは、民間警備会社には十二・四億円かかる、こういう概算要求が出ております。民間警備会社の経費は今回の発表の額に含まれていますか」

 官房長官松野博一「松野国務大臣 会場等の民間警備に係る経費に関しましては、式典の経費の中に入っております」

 泉健太「会場だけではないと思いますが、全部含まれていますか。

松野博一「会場外の警備に関しましては、既定予算に計上されております警備、警察上の予算に含まれております」

 泉健太「先ほども話があったように、五十か国ぐらいから、いわゆる首脳だけではなく、外交使節団として来る。この経費も今の額ではとても収まらないんじゃないかというふうに言われている。こうして過小の試算でコンパクトな国葬に見せるということで、またこの後もし額が膨らめば、国民の不信はやはり募ると思いますよ。

 更に言えば、やはり国民生活が苦しいという声は今数多く寄せられています。そこにどれだけ税金を使うのかという話になっている。

 そこでいいますと、歴代の内閣葬では自民党が半額負担していましたよね、今回は自民党は負担をしないのですか、全額税金ですかという声を聞きます。総理、自民党は半額負担するべきじゃないでしょうか」

 岸田文雄「先ほども答弁の中で申し上げさせていただきましたが、世界各国の国挙げての弔意、様々な弔意のメッセージ等を国としてしっかりと受け止めさせていただく際に、国の行事としてこうした葬儀を行うことが適切であると判断したことによって、今回の決定を示させていただいたということであります。

 合同葬についても、もちろん国の税金は支出することになるわけです。しかし、何よりも大事なのは、国として、どういった形で国際的な弔意を受け止めるのか、日本国民全体に対する弔意に対してどう応えるのか、こうしたことが重要であると認識をしています。そのために、国葬儀という形が適切であると判断をした次第であります」

 泉健太「改めて、元総理の死というのは大変重たいものであります。その意味で、私は、内閣による一定の儀式というものは必要だと思う。だからこそ、これまで内閣葬というものが行われてきたと考えています。

 そういった意味では、今回、今ほど質問の中でも触れましたが、やはり特別扱いをするということについては大きく見解が分かれていると思いますよ。総理の方は安倍元総理はそれに値するというが、しかし、これまでも様々な元総理がおられて、様々な業績がある中で、我々からすれば特別扱いに見えるし、多くの国民もなぜ今回だけ国葬なのかという疑問を抱いている。私はそれをお伺いしましたが、やはりそこは、なかなか平行線、総理から納得いく答えは得られなかったと思っています。

 改めてですが、国会や司法も関与させずに、前例を変えて、内閣の独断で国葬を決めた、これは戦後初だということです。そして、三権分立や民主主義、立憲主義を旨とする我々立憲民主党からしても、こうした強引な決定や、あるいは選考基準がない状態を放置して、安倍元総理の負の部分を語らずに、旧統一教会との親密な関係そして膨らむ経費などを隠して、元総理を特別扱いしている、こんな国葬には我々は賛成できません。反対をします。

 二か月たってようやく国会の声を聞く場を設けましたが、これで、今日この場で、これ以降、総理が何も変えないというなら、この質疑の意味はありません。是非、独断の国葬や分断の国葬ではなくて、改めてですが、内閣葬とする。そして、私は、こうした論争を毎回起こすような話じゃなくて、今後も元総理は内閣葬とする、こういうシンプルで一定の基準をやはり作るべきだと思いますよ。

 改めてですが、総理には、是非、内閣法制局との再検討、そして統一教会に対する自民党の調査、また経費の更なる公表、これを行動で見せていただきたいと思います。その姿勢によって私も判断をしてまいります。恐らく国民も判断をしていくでしょう。

 質問を終わります」

 泉健太は後半冒頭部分で安倍晋三の在任中の活動のうち、功罪の“罪”の部分について尋ねているが、自分の方から問い質すのではなく、「岸田総理は盛山委員に対して安倍元総理の在任中の活動のうち、功罪の“功”の部分だけを並べましたが、“罪”の部分はなかったのですか」と岸田文雄の口から直接言わせるべく努力はすべきだったろう。泉健太が尋ねたアベノミクスの負の部分や「森友、加計問題」、「百回を超える虚偽答弁」について答弁無視しているが、「“罪”の部分はなかったのですか」と問い質して、何もなかったと答えた場合、それが虚偽答弁となることあ承知しているだろうから、「“罪” の部分は確かにあるが、それに遥かに優る“功” の部分は国葬に値する」とでも答弁するだろうが、こ手の答弁の妥当性は国民の6割方が国葬に反対している世論調査を持ち出せば、簡単に打ち破ることができる。その上で“罪”の部分を並べれば、国葬への疑義を一層際立たせることができただろう。

 泉健太はさらに安倍晋三と統一教会との関係を取り上げ、「安倍元総理が最もキーパーソンだった」と“罪”の部分を突きつけるが、岸田文雄は次のように答えている。

 「安倍元総理の統一教会との関係については、それぞれ、御本人の当時の様々な情勢における判断に基づくものであります。ですから、今の時点で、本人が亡くなられたこの時点において、その実態を十分に把握することは限界があると思っております」

 泉健太は「御本人がどうだったかというのは、本人に聞くばかりじゃない、調べることが可能だ。調査を約束して欲しい」と迫るが、同じ文言の"限界"で片付けられてしまい、何ら追及できずに、「やはり残念ながら非常に後ろ向きである」と切れ味効果のない一太刀を浴びせることぐらいしかできなかった。

 この"限界"という言葉は泉健太自身が質問で取り上げた2022年8月31日の記者会見中に既に用いているのだから、同じような質問を目論んでいたなら、同じ繰り返しを予想して、前以って理論武装していなければならなかったが、この点についてもその形跡を窺うことはできない。

 岸田記者会見質疑(首相官邸/2022年8月31日)

 石松朝日新聞記者「朝日新聞の石松です。よろしくお願いします。
 
 旧統一教会と自民党との関係についてお尋ねします。総理は、先ほどのぶら下がりで、旧統一教会との関係を絶つことを党の基本方針にするという説明がありましたが、旧統一教会との関係の中心には、常に安倍(元)総理の存在があったりとか、選挙の協力に関しては、安倍(元)総理が中核になっていた部分があると思いますが、今後、旧統一教会との関係を絶つ上で、安倍元首相との関係を検証するなり、見直すなどの考えは今のところございますでしょうか。よろしくお願いします」

 岸田文雄「先ほども申し上げましたが、今日までの関係については、それぞれ既に点検するようにという指示を出しているわけですが、その点検の結果について、党としてしっかり取りまとめることが大事だということを申し上げています。その中で、党としてそれをどのように公表していき、国民の皆さんに説明をしていくのか、これが重要なポイントになってくると思います。

 御指摘の点については、安倍(元)総理がどのような関係を持っておられたのか、このことについては、御本人が亡くなられた今、十分に把握するということについては、限界があるのではないかと思っています」

 だが、理論武装せずに似たような答弁で遣り過させる収穫を手に入れただけだった。

 泉健太は「岸田総理はなぜ旧統一教会との関係の絶縁を自民党の基本方針にすると決めたのですか」と質問するところから入るべきだった。8月31日の記者会見では岸田文雄は「政治家側には、社会的に問題が指摘される団体との付き合いには厳格な慎重さが求められます」との理由のみで関係を絶つことを求めている。当然、「社会的に問題が指摘される団体だからだ」との答弁が予想されるが、「どのような問題が指摘されているのか」とさらに突っ込んで聞かなければならない。「委員もご存知のはずです」と応じたなら、「総理の口から直接お聞きしたい」と言えばいい。

 関係の絶縁を自民党の基本方針にすると決めるについては旧統一教会を相当に悪質な反社会的集団(一般社会の秩序や道徳、倫理観から著しく逸脱した集団)だと評価していなければ矛盾が生じる。官房副長官の木原誠二が2022年7月29日の記者会見で旧統一教会を「政府として反社会的勢力ということを予め限定的かつ統一的に定義することは困難」と述べているが、岸田文雄がその線に添って同じように答弁するようなら、「反社会的勢力と定義づけ困難なら、今の段階で関係の絶縁を自民党の基本方針にすることは罪が確定しない被疑者の段階で犯人扱いするのと同じようなもので、人権問題に関わりはしないか」と追及できる。

 あるいは1997年に最高裁が霊感商法や高額献金勧誘に対する損害賠償請求訴訟でその違法性と勧誘信者に対する教団側の使用者責任を認め、教団側の敗訴が確定しているが、使用者責任は教団側そのものに対する連帯責任の認定であって反社会的行為の主体と位置づけ可能となり、反社会的勢力を意味しないかと迫ることができる。

 反社会的勢力であるとの認識に持ち込むことができたなら、安倍晋三の旧統一教会との関係性の悪質さだけではなく、旧統一教会と接点を持った国会議員106人のうちの8割に当たる自民党国会議員に関しても、同じ悪質さを炙り出すことができる。もしかしたら、安倍晋三の旧統一教会との関係性の悪質さを炙り出されることを警戒して、定義づけ困難説を持ち出した可能性は疑うことができる。炙り出されでもしたなら、安倍晋三が一人で歴代最長任期を成し遂げたわけではなく、自民党一丸となってのことだから、歴代最長という金字塔を傷つけるだけではなく、同時に自民党という政党そのものの評価を泥まみれにしかねないことと、これらのことが来春の統一地方選に悪影響を与えかねないこと、ただでさえ低下している内閣支持率にさらに低下の打撃を与えかねない先行きを考え、何としてでも安倍晋三の経歴を守ることを最優先事項にして岸田文雄は、いわば本人死亡による実態把握可能性限界説を持ち出したということも考えることができる。

 旧統一教会は反社会的勢力であるとの答弁に持ち込むことができなかった場合は社会一般が反社会的勢力と見ている認識を拝借して、「社会一般は安倍元首相がそのような反社会的勢力と深く関係していたと見ていて、そういった見方が国葬反対の意思となって現れているのではないのですか。例え本人が亡くなっているにしても、両者の関係を検証しない限り、過半数以上の国葬反対の国民は納得しないでしょうし、例え時間が経過して、国葬問題が風化したとしても、岸田総理が安倍元総理と旧統一教会との関係の究明に後ろ向きであったこと、あまりにも消極的であったことはネット等に何らかの記録の形で残るでしょうし、そのことは総理の評価に跳ね返ってくるでしょう。もしかしたら、岸田総理は安倍元総理の旧統一教会との関係究明に関するご自身の後ろ向きの姿勢から世間の目を逸らすために同じく関わりのあった、安倍元総理の関係から比較したら大したことはない自民党国会議員を調査・公表し、絶縁を迫って話題をこちらの方に向ける一種の生贄の羊に仕立てたということですか」といった質問に持っていくことができたなら、岸田文雄の調査拒否に対抗して旧統一教会と代表格の立場で関係を持った安倍晋三自身の悪質性を強く印象づけることができる。

 かくこのように岸田文雄が8月31日の記者会見で安倍晋三が亡くなっていることを理由に旧統一教会との関係を調査することには限界があるからと既に発言しているにも関わらず、泉健太がその発言に何ら理論武装することなくほぼ同じ質問をしてほぼ同じ答弁しか引き出せなかった点はかなりの減点を見込まないわけにはいかない。

 泉健太は結局のところ、質疑全体を通して思い通りの展開に持ち込むことができなかった。

 泉健太「改めてですが、国会や司法も関与させずに、前例を変えて、内閣の独断で国葬を決めた、これは戦後初だということです。そして、三権分立や民主主義、立憲主義を旨とする我々立憲民主党からしても、こうした強引な決定や、あるいは選考基準がない状態を放置して、安倍元総理の負の部分を語らずに、旧統一教会との親密な関係そして膨らむ経費などを隠して、元総理を特別扱いしている、こんな国葬には我々は賛成できません。反対をします」

 岸田文雄の内閣府設置法及び閣議決定とその他を根拠とした国葬実施の論理を打ち破ることも脅かすこともできなかったのだから、何を言っても犬の遠吠えにしかならない。質疑全体の採点はせいぜい30点程度にしかつけることはできない。30点にしてもつけ過ぎかもしれない。

 この30点を妥当な線と見るかどうかは数少ない読者の判断にかかることになる。

 立憲民主党のみならず、他野党の政府に対する追及力不足が「立憲は批判ばかり」、「野党は批判ばかり」の評価を手に入れることになっている。

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