台風15号大規模停電:安倍政権の真の意味で「国民の命と生活を守る」とは言えない自衛隊を停電復旧に活用しない危機管理

2019-09-16 11:51:07 | 政治

 台風15号が2019年9月9日午前5時前に風速25メートル以上の強風を伴って千葉市付近に上陸し、関東を北上、千葉県を中心に広い範囲で停電を引き起こした。
千葉市では最大瞬間風速が57.5メートルにも達したという。

 この地域を電力供給エリアとしている東京電力の情報として「NHK NEWS WEB」が2019年9月9日午後3時現在の停電戸数を千葉県で約61万3300戸、神奈川県で約7万7900戸、茨城県で約7万2400戸、静岡県で約2万7700戸、東京都で約2000戸、合計、79万戸余りだと伝えていた。

 「経産相世耕弘成記者会見」(経産省記者会見室/2019年9月10日午前10時41分~)

記者「台風15号の影響について伺います。現時点でも62万戸余りの停電が続いていると言われています。また、今日も猛暑で熱中症の懸念も指摘されております。大臣の現状の認識と経産省としての対応をお聞かせください」

世耕弘成 「まず、台風15号で被害に遭われた皆さんに、心からお見舞いを申し上げたいと思います。

東京電力は、今、昼夜を徹して復旧に向けた作業を行っています。ただ、これは一つ一つ、電柱を建て直し、電線を確認し、安全を確認して通電をするという手作業的なことになりますので、残念ながら今朝9時の時点でも、いまだに62万件の停電が残っています。そのうち千葉県が57万件ということになっています。

東京電力には、これは私も指示をいたしまして、小まめに復旧計画をしっかり出すようにと、今、市町村単位で今日復旧するのか、明日なのかというようなことは、今ある程度わかるようにホームページ、ツイッターなどでしてもらっていますけれども、今日中に配電設備の修復を進めることで、少なくとも33万件の停電が解消される見込みであります。

残り27万件分は、複数の電柱の倒壊や倒木による電線の切断といったことによりまして、復旧に少し時間が掛かるものと見られますけれども、東京電力は早期復旧に向けて、他の電力会社の協力を得ながら最大限の取組を進めていただきたいというふうに思います。

これは私も関西、地元和歌山で去年の台風で停電が長期化した経験がありますが、例えば倒木の処置とか、そういったことに関しては、例えば電力事業者の手に余ることがあれば、これは関係機関、自治体ともしっかり連携をしたいというふうに思いますし、経産省としても、その間を取り持って、ともかく早く回復できるように頑張っていきたいと思います。

 「NHK NEWS WEB」は9月9日午後3時現在で約79万戸の停電、世耕弘成は東京電力の情報として9月10日午前9時時点で62万件の停電と伝えているから、差引き17万戸の停電は解消したと見ることができる。復旧率は約22%。

但しその62万件のうち千葉県が57万件ということだから、「NHK NEWS WEB」が伝えていた9月9日午後3時時点での千葉県で約61万3300戸の停電数から57万件を差し引くと、約4万件の復旧ということになり、復旧率は約6.5%のみとなる。

全体の復旧率が約22%であることに対して千葉県に限ると、約6.5%のみの復旧率。この復旧の遅さの原因を世耕弘成は「電柱を建て直し、電線を確認し、安全を確認して通電をするという手作業的な」復旧工事になっているからだとしている。それだけ電柱や架線を巻き込んだ強風による倒木が多かったということなのだろう。大木の種類に入る背の高い樹木が山際の道路上に散乱しているだけではなく、倒木の直撃を受けた形で電柱が根本から折れて、道路上に横たわっていたり、架線で持ちこたえて、倒れずに済み、斜めの状態になった電柱、あるいは倒木が架線にもたれかかった状態で、架線自体を地面に近い高さに押し下げている場所、倒木に関係なしに単独で根元近くから折れている電柱、真ん中よりも高い場所で折れている電柱などをニュースなどで見かけた。

つまり停電復旧には倒木関連の不通箇所は倒木の撤去から初めて、電柱を建て直しし、倒木に関係しない単独で電柱が倒れた不通箇所は電柱の交換から、架線が切れた不通箇所は架線の交換から始めなければならないから、その数が多くて、早急には復旧はできないということなのだろうが、いずれにしても、9月10日中には「33万件の停電が解消される見込み」であり、残り27万件は「復旧に少し時間が掛かる」と東電は見ていた。「少し」という時間は電気なしの不便な生活を強いられる生活者の感覚からしたら、二、三日ということであるはずだ。二、三日が伸びたとしても、四、五日でなければならない。

「復旧に少し時間が掛かる」残り27万件は全体の復旧率約22%と比較して復旧率が約6.5%と低い千葉県が中心ということになるが、その復旧率の低さからみても、時間の「少し」が二、三日ではなく四、五日の日数と「手作業的な」復旧工事を頭に置いていたとしても、残り27万件の停電を解消できると計算していたことになる。

ところが、2019年9月11日付「NHK NEWS WEB」記事によると、東電は9月11日夜の記者会見で、9月11日午後11時現在の停電戸数は千葉県の約38万100戸で、千葉市を含むエリアは12日中、成田市と木更津市を含む残りのエリアは13日以降になるという見通しを発表したと伝えている。

 世耕弘成は9月10日午前10時の記者会見で、9月10日中には「33万件の停電が解消される見込み」であり、残り27万件は「復旧に少し時間が掛かる」と東電の情報を伝えていた。9月10日時点で33万件の停電解消・残り27万件の予定が9月10日と9月11日の2日をかけて千葉県では依然として停電戸数が約38万100戸も残っていて、9月10日時点の残り予定戸数27万件よりも約11万件も多い停電戸数となっている。

これは停電解消が早く片付くことを印象づけるために解消戸数を多めに言ったものの、現実はそんなに甘くなかったということなのか、単純にそんなに日数はかからないだろうと軽く見た見通しの悪さからの計算違いなのか、どちらとも取ることができる。

 いずれにしても「復旧に少し時間が掛かる」日数は四、五日以上ということになる。

記事は〈東京電力は当初、11日中の全面復旧を目指していた〉と解説しているが、この予定が世耕弘成の9月10日午前10時41分からの記者会見発言「今日中に少なくとも33万件の停電の解消、残り27万件分は復旧に少し時間が掛かる」に反映されていない食い違いに説明をつけるとしたら、台風上陸・大規模停電発生の9月9日の1日を経過させただけで、全面復旧の予定日を投げ出してしまったと見るほかない。投げ出した結果が、世耕弘成の9月10日午前10時41分からの記者会見での東電情報となって現れ、さらにその東電情報が修正されて、2019年9月11日付「NHK NEWS WEB」記事での東電情報となって現れた。
 
つまり東電は日を追うごとに自らの停電解消情報を訂正していった。勿論、いたずらに情報を訂正したわけではない。電気不通箇所の復旧工事にかかるたびに復旧の困難さに直面して、復旧の停滞を余儀なくされ、情報を訂正せざるを得なかったのだろう。

 と言うことは、最初に採用した復旧の工事方法を何らかの手を打たずにそのまま採用し続けたことになる。NHKテレビが架線に引っかかって、それを大きく垂れさせている倒木や抱き重なる形で電柱と共に傾いている倒木を高所作業車のバスケットに乗った電気工事業者が二人か三人がかりしてチェンソーを使って、レッカーのワイヤーで吊り支えた樹木を邪魔になる枝を伐り払い、頭方向から幹を順次短くしていく伐採作業の映像を流していたが、伐採班はそういった場所を一箇所終えては次の場所に移って、同じ手順で伐採を行い、伐採を終えた場所は別の班が損壊した電柱の撤去と新しい電柱の取り付けを行い、二箇所終えたところで、その間の破損した架線の撤去・取替を行って、そのような繰返しで前に進んでいく方法を採り、この方法が予想外に時間がかかったために復旧の遅れを生じさせたということなのだろう。

官房長官の菅義偉が9月12日午後の記者会見で今後の復旧の見込みと自衛隊の追加派遣、復旧の遅れに対する検証の実施を発言したと、2019年9月12日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えていた。

菅義偉「千葉市、八千代市、四街道市、印西市、市原市の一部などはきょう中の復旧を見込んでいる。他方、千葉東部の成田市周辺や木更津、南房総などの電線の損傷が激しい地域は、さらに時間を要する。

 きょう中に可能なかぎりの復旧を進めるべく、成田市、木更津市など復旧作業が難航する地域には、自衛隊を追加で派遣する。また、千葉県庁や県内22の市や町に経済産業省の職員を常駐させ、自治体との連携を強化している。今後も、東京電力とともに一刻も早い復旧に全力を挙げていきたい。

今は何よりも、一刻も早い停電の復旧が重要で、今回の停電や復旧プロセスについては厳格に検証を行ったうえで、正すところは正していく必要がある。初動対応も含め復旧プロセスはしっかり検証すべきだ」

 確かに初動対応を含めた復旧プロセスの検証は必要だろう。だが、「今は何よりも、一刻も早い停電の復旧が重要」と言っているとおりに基本は停電の一日も早い復旧なのだから、復旧を現在以上に加速させる自衛隊の追加派遣でなければならない。当然、そのことを念頭に置いた9月12日午後の記者会見発言なのだろうが、基本を停電の一日も早い復旧に置いている以上、停電発生当初の9月9日から復旧の遅れが生じているのに対して9月9日から4日後の復旧の遅れに対する自衛隊の追加派遣云々は後手の対応に見えてくる。

もしこの間、追加派遣を何度か行っていて、さらに追加派遣の必要性が生じたと言うなら、同じ手順の復旧工事を繰返した結果、復旧の進捗度が見えてきて、初めて復旧の見通しが立つようになった東電とさして変わらない、追加派遣の結果を見て、新たな追加派遣の見通しを立てることになる、その場を見て分かる政府の判断ということになる。

但し停電復旧加速化のために自衛隊の追加派遣を何度か行っていたとすると、迷彩服の自衛隊員と薄いブルーの作業服を身に着けた電気工事業者が混じって倒木の伐採撤去や電柱の建て替え工事をしているニュース映像やニュース記事を目にしてもいいはずだが、一度も目にしていない。自衛隊が単独で道路を塞いでいる倒木を撤去している記事とニュースはお目にかかっている。

果たして停電の一日も早い復旧に資する自衛隊の派遣、さらに追加派遣となっていたのだろうか。既に触れたように基本はあくまでも停電の一日も早い復旧なのだから、検証を云々する前に一日も早い復旧に資する方策を見い出すことを優先させなければならないはずだが、そのような方策に則った自衛隊の追加派遣ということなのだろうか。

 このことを検証できる2019年9月14日付の「NHK NEWS WEB」記事がある。
  
 国交相の赤羽一嘉が台風15号の影響で停電が続く千葉県南部の地域を視察し、館山市では金丸市長から台風による倒木が復旧作業の妨げになっていることや電柱や電線が壊れる被害が相次ぎ、停電が復旧するには約2週間かかるという説明を受けてからの視察後の記者会見での発言。

赤羽一嘉「倒木を撤去する建設業者が不足していて復旧作業ができないケースが起きている。経済産業省とも連携して電力事業者に建設業者を紹介するなど、スピード感をもって復旧を進めたい」

 同じ内容を扱った「asahi.com」記事には、〈復旧現場では倒木が電線に絡まっている場所が多くあ〉り、〈東電だけでは倒木を撤去できる装備がなかったり、逆に建設業者だけでは電線に触れることができず、片付けが難しかったりするケースが相次いでいて、国交省と経産省は東電と建設業者がそれぞれどこの現場で連携し合う必要があるか情報を集約し、連携を強める。赤羽氏は「東電と建設業者のマッチングを進め、倒木の処理を加速化できるように取り組む」と話した。〉と伝えている。

但し赤羽一嘉のこの発言には電気工事業者と共同して復旧工事に携わっている自衛隊員の姿は見えてこない。菅義偉が9月12日午後の記者会見で、「きょう中に可能なかぎりの復旧を進めるべく、成田市、木更津市など復旧作業が難航する地域には、自衛隊を追加で派遣する」とした発言は停電復旧工事の電気工事業者と連携させる意味での自衛隊追加派遣ではなく、自衛隊が単独で倒木や土砂撤去・処理を行う目的の、停電復旧とは関係しない「復旧作業が難航する地域」への追加派遣ということになる。

勿論、自衛隊でなくても、建設業者の派遣であっても構わないが、東電と建設業者の連携は9月15日以降ということになる。東電は全面復旧の見通しを9月27日に置いているそうだから、9月15日以降でも遅いとは必ずしも言えないが、もっと早くになぜ気がつかなかったのだろうか。気づいていたなら、全面復旧の見通しを9月27日よりも前倒しができる。

とは言っても、「倒木を撤去する建設業者が不足していて復旧作業ができないケースが起きている」状況からすると、停電復旧工事向けに建設業関係からの人手をたいして手当できないことになる。十分に手当できるなら、建設業者が不足していることと矛盾することになる。

電気工事業者と連携させる形で自衛隊員を派遣することをなぜしなかったのだろう。上記「asahi.com」記事は、〈東電だけでは倒木を撤去できる装備がなかったり、逆に建設業者だけでは電線に触れることができず、片付けが難しかったりするケースが相次いでいる〉と伝えているが、自衛隊はこれまでの災害派遣で重機を扱うことは勿論、チェンソーを扱った倒木伐採に従事していて、電気工事業者よりも倒木の扱いと伐採処理に手慣れているはずで、その技術力は自衛隊員の方が上であるはずで、建設業者の不足を云々せずに十分に人手を手当できるはずである。

 総務省消防庁発表の2012年12月から2013年3月4日午前7時までの雪の被害で死亡が89人、内69人が雪降ろし中の屋根からの転落、あるいは除雪作業中の転倒のケースで、全体の6割に当たる53人が65歳以上の高齢者という記事を見て、2013年3月6日の当ブログ、「ブログ」に豪雪時の東北・北海道の屋根の雪降ろしになぜ自衛隊を派遣しないのだろうかと書いたが、それ以降もその目的に自衛隊を派遣したという記事を目にしていないから、公共施設以外の住宅などの個人の施設には自衛隊の派遣は禁止しているのかと思っていたが、2019年9月15日付「NHK NEWS WEB」記事が9月15日夜から16日明日朝にかけて大雨が恐れがあるということで15日午前9時頃から自衛隊員と屋根修理の専門業者と合わせて30人程が連携して、台風で損壊した屋根にブルーシートを固定するための土嚢を運んだり、ブルーシートで屋根を覆ってロープで固定する作業に従事したと伝えているから、住宅などの個人の施設であっても自衛隊を派遣する発想があるなら、より公共的な意味を持つ停電復旧工事に電気工事業者と連携させる形で自衛隊を派遣する発想があってもいいはずである。

 もし最初から自衛隊を派遣して電気工事業者と連携させて停電復旧工事に当たっていたなら、このようにも復旧の遅れが生じただろうか。遅れが生じたなら、その場その場の臨機応変の対応で復旧を加速することも自然災害に関わる危機管理に入る。こういった危機管理は停電や復旧プロセスに関わる検証よりも優先させなければならない。

 いくら正確な検証ができたとしても、役に立つのは次の同様の、あるいはそれ以上の自然災害が発生してからで、現在の被災者の生活の不自由を少しでも和らげる足しには何もならないからである。

 安倍晋三は9月13日の閣僚懇談会で停電の全面復旧に全力を挙げるよう関係閣僚に指示したというが、その場その場に応じた臨機応変の対応で復旧を加速化させる発想を発揮できなければ、真の意味で、「国民の命と生活を守る」危機管理とは言えない。

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