この季節になると無性に見たくなるこの映画。ラストシーンの大切な小道具として、マルセル・プルースト著『失われた時を求めて 第7篇 見出された時』が登場します。そう、このブログ(とHP)のタイトルは、『Love Letter』でのこの著作のタイトルが意味しているものに感銘を受けたから拝借したものです。

1995年
監督・脚本・編集:岩井俊二(スワロウテイル、四月物語)
撮影:篠田昇
音楽:REMEDIOS
出演:中山美穂(渡辺博子、藤井樹(二役))
豊川悦司(秋葉)
酒井美紀(少女・樹)
柏原 崇(少年・樹)
范 文雀(樹の母)
篠原勝之(樹の祖父)
OPは中山美穂さんの横顔のアップ。以前『波の数だけ抱きしめて』の記事もアップしましたが、私はけっして中山美穂さんのファンではありません!(キッパリ) お気に入りの日本映画2本に主役として出演されているのは、全くの偶然です^^;
このOPの暗く冷たい音楽(サントラ1曲目の「His Smile」)が、雪の情景とマッチしていて素晴らしいです。何が始まるのか期待させてくれます。
OPの舞台は雪の神戸。中山美穂さん演じる「渡辺博子」の婚約者だった男の三回忌らしい。その男の父親役で、岩井監督縁の鈴木慶一さん(ムーンライダーズ)が出演されています。
婚約者の男=「藤井樹」の家で、博子は中学の卒業アルバムを見せられますが、よく見れば博子は女子の欄を探して樹の名前を見つけます。最初に見た時には気付かなかった~。
博子はペンを探して彼(実は彼女)の住所を腕に書き留めますが、このシーンの撮影と編集は細かくカット割りされていて、これだけのシーンが印象深いものになっています。撮影の篠田氏はほとんど手持ちで撮影し、不安定で流れるような美しい画(え)を撮っています。このシーンの音楽はサントラ8曲目の「Frozen Summer」で、急き立てられるようなリズムと不安定なメロディが、やはりこのシーンを印象深くしています。この曲は後に、病院の待合室で樹が少年・樹の記憶を呼び起こすシーンにも使われています。
続いてシーンは小樽へ。そして「藤井樹」の登場。雪の情景と中山美穂さんの二役、そして2人の「藤井樹」に、慣れないと混乱してしまいます^^; 郵便配達員との掛け合いのギャグにクスッとしつつ、彼が何度も「樹ちゃーん」と呼んでくれているので、博子とは別人であることが強調される配慮があります。
そこで受け取った手紙が、このお話の発端となります。小樽のシーンで流れるのはサントラ4曲目の「Letter Of No Return」。このメロディは「樹のテーマ」としてのモチーフなのでしょう。
舞台は再び神戸へ戻って、「秋葉」の登場。当時としては異色のイメージでトヨエツさんが演じられています。関西出身で、珍しく関西弁を話す役柄です。ん? 博子の出身地はどこなんだ?
ここでストーリーの第2のモチーフとしての「青い珊瑚礁」が登場します。
再び小樽に変わり図書館のシーン。後に語られる少女時代の思い出で、少年・樹とともに図書委員にさせられたことと関係がありそうです。忘れていたとはいえ、樹にとって少年・樹の影響は職業選択にまで及んでいたのでしょう。
この図書館には同僚(樹から「ぬし」と呼ばれています)として、長田江身子さんが出演されています。え?だれかって? TBS『世界ふしぎ発見!』で「ミステリーハンター」をされていた方です。
病院の待合室で居眠りをし、父の死の記憶とともに少年・樹のことを思い出す樹。夢の中で父を追って扉を開けるのと、最後に少年・樹と会った玄関の扉がシンクロし、また診察の順番を呼び出す「藤井さーん、いないんですかー? 藤井樹さーん」という看護婦の声と、入学式の日に初めての呼名で「同姓同名の男子」がクラスにいたことを知った時の記憶がシンクロするという二重構造の描写に感嘆! まさに「記憶の扉を開ける」という象徴です。
博子は秋葉の誘いで小樽へ行くことになり、そこで樹の家を訪問しますが、ここではお爺ちゃんが博子の姿を見ていないので、事態は解決しません(^o^)
樹に会わずに帰ることになり、タクシーを拾おうとする秋葉。ここで博子と樹はニアミスをします。樹を降ろした運転手はUターンして博子たちを乗せますが、彼は樹と博子が似ていることを強調し、その言葉に博子は何かを感じたようです。
小樽駅前で再びニアミスをする博子と樹。このシーンのトリックには、単純ながら騙されました(^^ゞ なるほど、後ろ向きで立っている方が怪しいですから。博子と樹の髪型が微妙に違うことに気が付きます。
神戸に戻ってから、自分と樹が似ていることを確認してしまう博子。この映画の中で唯一、博子が樹への嫉妬を露にするシーンです。
このシーンを最後に、「お山」の訪問までしばらく博子は登場しません。この映画の主役は樹だということなのでしょうネ。
この後の「飛び立つ飛行機」のシーンの後、何かを見上げている樹と母と阿部粕がまるで飛行機を見送っているのかと思わせる編集には笑わされました。博子のことを知らない彼らが、飛行機を見送るわけはないのですから(^^ゞ
ここから、記憶の中の少女・樹と少年・樹の物語が始まります。コミカルなサントラ5曲目の「Sweet Rumors」の後半部がモチーフとして使われます。管楽器が入らないヴァージョンの2曲目「Childhood Days」はラストシーン直前だけに使われています。
図書委員に選ばれるエピソードは、ラストに『失われた時を求めて』が使われる伏線であると同時に、泣き出した少女・樹をかばって喧嘩をした少年・樹へ心を動かした少女・樹、そして少女・樹に思いを寄せている少年・樹を仄めかしているシーンですネ。窓辺の陽射しの中で本を読んでいる、風に揺れるカーテンに見え隠れする少年・樹を見つめる酒井美紀さんがキュートで、また少年・樹役の柏原崇さんが理知的で素敵です。
「藤井樹 ストレート・フラッシュ」のイタズラも、ラストへの伏線となっていきます。
「テストの裏の落書き」は、ラストの絵の伏線ですネ。昼間の自転車置き場の出来事、特に告白してフラれてしまう女生徒のシーンは不要だと思います。全体の流れの中で浮いたシーンです。少年・樹のテーマは、サントラ10曲目の「He Loves You So」と13曲目「Soil Of His Tears」です。温かく、柔らかなメロディが懐かしさを引き出すシーンにマッチしています。
及川早苗(鈴木蘭々さん)が登場することによって、自分の少年・樹への想いを自覚していく少女・樹。「好きな人、いるの?‥‥いるの?」と言うセリフでは、最初の質問は及川早苗のため、そして2度目の「いるの?」は自分のためのセリフでしょう。こういうシーンに胸キュンです(^^ゞ そして「いねーよ!」と突っぱねるように言う少年・樹のセリフは、自分の気持ちに気付いてくれず、及川と自分の仲を取り持とうとする少女・樹への苛立ちですネ。
その返事に、不機嫌になる少女・樹。「好きな人はいない」ということは、「自分のことも好きではない」というように彼女は受け取ったのでしょうか。恋に不器用な2人はお互いに気の無い素振りをするので、とうとう最後までお互いの気持ちを知らずに別れてしまいます。ん~、もどかしい!!
この後は少年・樹の少女・樹への想いを描写するシーンはありません。一方、少女・樹の方は陸上大会で少年・樹の姿を見つけるシーンで、その想いの描写があります。カメラを覗いて少年・樹を見つけた時の目の演技が素晴らしい!
博子にポラロイドカメラを送られて、樹は校庭の写真を撮りに母校を訪れ、そこで「藤井樹探しゲーム」をしている在校生と出会います。彼女たちのお陰で樹は図書カードに出会えるのですが、そのきっかけを作ってくれたのは博子のカメラでした。
しかし、同時に樹は少年・樹の死を知ってしまいます‥‥。
樹は風邪をこじらせて病院に運ばれ、博子は少年・樹の眠る「お山」へ行きます。ここからが名セリフのラッシュ!
お爺ちゃん「歩きゃせん。走る!」
秋葉「邪魔せんときいや。今、いっちゃんエエとこや。」
少年・樹が最後に「青い珊瑚礁」を歌っていたのは、一つには彼の変人振りを示して「笑い」としての効果と同時に、「死」を待つ人の恐怖も感じさせます。そしてもう一つには、彼は実は松田聖子が好きで、好きなものを好きと言えない屈折した心境を表現しているというのは考え過ぎでしょうか。
博子が「お元気ですかー!? 私は元気でーす!!」と叫ぶシーンは、前の晩に「青い珊瑚礁」が少年・樹の最後の声だったことを知り、そしてまだ「お山」に樹が眠っていると聞かされたからの感情の高ぶりでしょう。
樹が病院に運ばれるシーンと交錯することで、初めて見た時にはこのシーンがこの映画のクライマックスだと思いました。
この後、少女・樹と少年・樹との別れの描写がありますが、最後に返し忘れた本を持ってきた少年・樹は、少女・樹が家にいなければ、つまり何らかの理由で学校を休んでいなければ会えなかったのですネ。そんな偶然の中でも、とうとうお互いの気持ちを確かめることができなかった2人‥‥。切ないです(T_T)
そして少年・樹の転校を知った少女・樹は泣くのではなく、イタズラで少年・樹の机に置かれた花瓶を割るという「苛立ち」の行動で表わしました。私はこのシーンが好きです。サントラ11曲目の「A Winter Story」のクレッシェンドで花瓶を割るタイミングでブチッとキレる、音楽と映像の長さを同期させた編集が見事です。
クラスメートを睨み、教室を出て行って、「最後の本」をそっと図書室の書棚に納める少女・樹。図書カードに書かれた「藤井樹」の名前を確認して‥‥。この時、なぜ彼女はカードを確認したのでしょう。この本を渡された時の、少年・樹との最後の思い出、自転車に跨った彼の最後の姿を噛み締めたのでしょうか‥‥。誰もいない明るい窓辺の、風に揺れるカーテンが切ない‥‥。
しかし、その「最後の本」こそが「初めてのLove Letter」だったとは! 当時は気付かなかったことを悔やむのではなく、数年経った彼の死後、そのことを知って喜んで涙する彼女の晴れやかなラストシーンに感動しました(^o^)
そして、私はこの「最後の本」のタイトルが『失われた時を求めて』という長編の『第7篇 見出された時』ということに数年経ってから気付き、さらに感動を深くしました‥‥。何て素敵なモチーフなのでしょう!
この映画のプロットはどこから発想されたのかと考えてみると、やはりラストの「本のタイトル」が原点ではないでしょうか。『見出された時』という本が実在するからこそ「過去の恋が時を隔てて成就する」ということが表現できたのだし、「図書カード」という「Love Letter」が生まれたのだと思います。最初は、私は「博子が天国の樹へ宛てた手紙」が『Love Letter』という映画タイトルの意味するものだと考えていましたが、これはダブル・ミーニングだったのですネ。
中山美穂さんが二役を演じられているのは、少年・樹が博子に恋をする理由が必要だったからですが、性格の異なる二役を上手く演じられていると思います。
また、同姓同名の登場人物という発想が、博子の勘違いを生むことと図書カードのイタズラの両方に活かされていて、素晴らしいアイディアだと感心します。
映画全体のテーマは「死」ですかネェ。しかし時を越えて、死をも超えて、「想いは伝わる」という前向きなメッセージが語られています。
これが映画デビューとなる酒井美紀さんが、「少女時代の樹」を好演されています。この映画は樹が主人公なのでしょうが、特に「少女時代の樹」が主役だと思います。酒井さんが非常に魅力的です(*^o^*)
先にも触れたように、手持ちカメラの撮影による流れるように揺れた映像が多く見られます。多くのアングルから撮影されたこれらの映像が、細かく繋ぐ編集で時間の流れを感じさせるシーンも素晴らしいのですが、全体に漂う日常感も上手く表現しています。
また全体に雪のシーンが多く、淡い色調が物語の儚さも感じさせます。
音楽は、この映画までの岩井監督作品には欠かせないREMEDIOSが担当しています。この方(? グループ?)の素性は全くわかりません。サントラにも詳しい情報は載っていません‥‥^^; 男性なのか女性なのかさえも不詳です。ただ、サントラから得た情報によると、これらの楽曲でピアノを演奏しているのは当時8歳だった牧野由衣さん。そう、現在放映中のNHK『ツバサ・クロニクル』で「サクラ」の声を演じている方です! スゴイ才能ですネ。現在は某音楽大学でピアノを専攻していらっしゃるようです。

1995年
監督・脚本・編集:岩井俊二(スワロウテイル、四月物語)
撮影:篠田昇
音楽:REMEDIOS
出演:中山美穂(渡辺博子、藤井樹(二役))
豊川悦司(秋葉)
酒井美紀(少女・樹)
柏原 崇(少年・樹)
范 文雀(樹の母)
篠原勝之(樹の祖父)
OPは中山美穂さんの横顔のアップ。以前『波の数だけ抱きしめて』の記事もアップしましたが、私はけっして中山美穂さんのファンではありません!(キッパリ) お気に入りの日本映画2本に主役として出演されているのは、全くの偶然です^^;
このOPの暗く冷たい音楽(サントラ1曲目の「His Smile」)が、雪の情景とマッチしていて素晴らしいです。何が始まるのか期待させてくれます。
OPの舞台は雪の神戸。中山美穂さん演じる「渡辺博子」の婚約者だった男の三回忌らしい。その男の父親役で、岩井監督縁の鈴木慶一さん(ムーンライダーズ)が出演されています。
婚約者の男=「藤井樹」の家で、博子は中学の卒業アルバムを見せられますが、よく見れば博子は女子の欄を探して樹の名前を見つけます。最初に見た時には気付かなかった~。
博子はペンを探して彼(実は彼女)の住所を腕に書き留めますが、このシーンの撮影と編集は細かくカット割りされていて、これだけのシーンが印象深いものになっています。撮影の篠田氏はほとんど手持ちで撮影し、不安定で流れるような美しい画(え)を撮っています。このシーンの音楽はサントラ8曲目の「Frozen Summer」で、急き立てられるようなリズムと不安定なメロディが、やはりこのシーンを印象深くしています。この曲は後に、病院の待合室で樹が少年・樹の記憶を呼び起こすシーンにも使われています。
続いてシーンは小樽へ。そして「藤井樹」の登場。雪の情景と中山美穂さんの二役、そして2人の「藤井樹」に、慣れないと混乱してしまいます^^; 郵便配達員との掛け合いのギャグにクスッとしつつ、彼が何度も「樹ちゃーん」と呼んでくれているので、博子とは別人であることが強調される配慮があります。
そこで受け取った手紙が、このお話の発端となります。小樽のシーンで流れるのはサントラ4曲目の「Letter Of No Return」。このメロディは「樹のテーマ」としてのモチーフなのでしょう。
舞台は再び神戸へ戻って、「秋葉」の登場。当時としては異色のイメージでトヨエツさんが演じられています。関西出身で、珍しく関西弁を話す役柄です。ん? 博子の出身地はどこなんだ?
ここでストーリーの第2のモチーフとしての「青い珊瑚礁」が登場します。
再び小樽に変わり図書館のシーン。後に語られる少女時代の思い出で、少年・樹とともに図書委員にさせられたことと関係がありそうです。忘れていたとはいえ、樹にとって少年・樹の影響は職業選択にまで及んでいたのでしょう。
この図書館には同僚(樹から「ぬし」と呼ばれています)として、長田江身子さんが出演されています。え?だれかって? TBS『世界ふしぎ発見!』で「ミステリーハンター」をされていた方です。
病院の待合室で居眠りをし、父の死の記憶とともに少年・樹のことを思い出す樹。夢の中で父を追って扉を開けるのと、最後に少年・樹と会った玄関の扉がシンクロし、また診察の順番を呼び出す「藤井さーん、いないんですかー? 藤井樹さーん」という看護婦の声と、入学式の日に初めての呼名で「同姓同名の男子」がクラスにいたことを知った時の記憶がシンクロするという二重構造の描写に感嘆! まさに「記憶の扉を開ける」という象徴です。
博子は秋葉の誘いで小樽へ行くことになり、そこで樹の家を訪問しますが、ここではお爺ちゃんが博子の姿を見ていないので、事態は解決しません(^o^)
樹に会わずに帰ることになり、タクシーを拾おうとする秋葉。ここで博子と樹はニアミスをします。樹を降ろした運転手はUターンして博子たちを乗せますが、彼は樹と博子が似ていることを強調し、その言葉に博子は何かを感じたようです。
小樽駅前で再びニアミスをする博子と樹。このシーンのトリックには、単純ながら騙されました(^^ゞ なるほど、後ろ向きで立っている方が怪しいですから。博子と樹の髪型が微妙に違うことに気が付きます。
神戸に戻ってから、自分と樹が似ていることを確認してしまう博子。この映画の中で唯一、博子が樹への嫉妬を露にするシーンです。
このシーンを最後に、「お山」の訪問までしばらく博子は登場しません。この映画の主役は樹だということなのでしょうネ。
この後の「飛び立つ飛行機」のシーンの後、何かを見上げている樹と母と阿部粕がまるで飛行機を見送っているのかと思わせる編集には笑わされました。博子のことを知らない彼らが、飛行機を見送るわけはないのですから(^^ゞ
ここから、記憶の中の少女・樹と少年・樹の物語が始まります。コミカルなサントラ5曲目の「Sweet Rumors」の後半部がモチーフとして使われます。管楽器が入らないヴァージョンの2曲目「Childhood Days」はラストシーン直前だけに使われています。
図書委員に選ばれるエピソードは、ラストに『失われた時を求めて』が使われる伏線であると同時に、泣き出した少女・樹をかばって喧嘩をした少年・樹へ心を動かした少女・樹、そして少女・樹に思いを寄せている少年・樹を仄めかしているシーンですネ。窓辺の陽射しの中で本を読んでいる、風に揺れるカーテンに見え隠れする少年・樹を見つめる酒井美紀さんがキュートで、また少年・樹役の柏原崇さんが理知的で素敵です。
「藤井樹 ストレート・フラッシュ」のイタズラも、ラストへの伏線となっていきます。
「テストの裏の落書き」は、ラストの絵の伏線ですネ。昼間の自転車置き場の出来事、特に告白してフラれてしまう女生徒のシーンは不要だと思います。全体の流れの中で浮いたシーンです。少年・樹のテーマは、サントラ10曲目の「He Loves You So」と13曲目「Soil Of His Tears」です。温かく、柔らかなメロディが懐かしさを引き出すシーンにマッチしています。
及川早苗(鈴木蘭々さん)が登場することによって、自分の少年・樹への想いを自覚していく少女・樹。「好きな人、いるの?‥‥いるの?」と言うセリフでは、最初の質問は及川早苗のため、そして2度目の「いるの?」は自分のためのセリフでしょう。こういうシーンに胸キュンです(^^ゞ そして「いねーよ!」と突っぱねるように言う少年・樹のセリフは、自分の気持ちに気付いてくれず、及川と自分の仲を取り持とうとする少女・樹への苛立ちですネ。
その返事に、不機嫌になる少女・樹。「好きな人はいない」ということは、「自分のことも好きではない」というように彼女は受け取ったのでしょうか。恋に不器用な2人はお互いに気の無い素振りをするので、とうとう最後までお互いの気持ちを知らずに別れてしまいます。ん~、もどかしい!!
この後は少年・樹の少女・樹への想いを描写するシーンはありません。一方、少女・樹の方は陸上大会で少年・樹の姿を見つけるシーンで、その想いの描写があります。カメラを覗いて少年・樹を見つけた時の目の演技が素晴らしい!
博子にポラロイドカメラを送られて、樹は校庭の写真を撮りに母校を訪れ、そこで「藤井樹探しゲーム」をしている在校生と出会います。彼女たちのお陰で樹は図書カードに出会えるのですが、そのきっかけを作ってくれたのは博子のカメラでした。
しかし、同時に樹は少年・樹の死を知ってしまいます‥‥。
樹は風邪をこじらせて病院に運ばれ、博子は少年・樹の眠る「お山」へ行きます。ここからが名セリフのラッシュ!
お爺ちゃん「歩きゃせん。走る!」
秋葉「邪魔せんときいや。今、いっちゃんエエとこや。」
少年・樹が最後に「青い珊瑚礁」を歌っていたのは、一つには彼の変人振りを示して「笑い」としての効果と同時に、「死」を待つ人の恐怖も感じさせます。そしてもう一つには、彼は実は松田聖子が好きで、好きなものを好きと言えない屈折した心境を表現しているというのは考え過ぎでしょうか。
博子が「お元気ですかー!? 私は元気でーす!!」と叫ぶシーンは、前の晩に「青い珊瑚礁」が少年・樹の最後の声だったことを知り、そしてまだ「お山」に樹が眠っていると聞かされたからの感情の高ぶりでしょう。
樹が病院に運ばれるシーンと交錯することで、初めて見た時にはこのシーンがこの映画のクライマックスだと思いました。
この後、少女・樹と少年・樹との別れの描写がありますが、最後に返し忘れた本を持ってきた少年・樹は、少女・樹が家にいなければ、つまり何らかの理由で学校を休んでいなければ会えなかったのですネ。そんな偶然の中でも、とうとうお互いの気持ちを確かめることができなかった2人‥‥。切ないです(T_T)
そして少年・樹の転校を知った少女・樹は泣くのではなく、イタズラで少年・樹の机に置かれた花瓶を割るという「苛立ち」の行動で表わしました。私はこのシーンが好きです。サントラ11曲目の「A Winter Story」のクレッシェンドで花瓶を割るタイミングでブチッとキレる、音楽と映像の長さを同期させた編集が見事です。
クラスメートを睨み、教室を出て行って、「最後の本」をそっと図書室の書棚に納める少女・樹。図書カードに書かれた「藤井樹」の名前を確認して‥‥。この時、なぜ彼女はカードを確認したのでしょう。この本を渡された時の、少年・樹との最後の思い出、自転車に跨った彼の最後の姿を噛み締めたのでしょうか‥‥。誰もいない明るい窓辺の、風に揺れるカーテンが切ない‥‥。
しかし、その「最後の本」こそが「初めてのLove Letter」だったとは! 当時は気付かなかったことを悔やむのではなく、数年経った彼の死後、そのことを知って喜んで涙する彼女の晴れやかなラストシーンに感動しました(^o^)
そして、私はこの「最後の本」のタイトルが『失われた時を求めて』という長編の『第7篇 見出された時』ということに数年経ってから気付き、さらに感動を深くしました‥‥。何て素敵なモチーフなのでしょう!
この映画のプロットはどこから発想されたのかと考えてみると、やはりラストの「本のタイトル」が原点ではないでしょうか。『見出された時』という本が実在するからこそ「過去の恋が時を隔てて成就する」ということが表現できたのだし、「図書カード」という「Love Letter」が生まれたのだと思います。最初は、私は「博子が天国の樹へ宛てた手紙」が『Love Letter』という映画タイトルの意味するものだと考えていましたが、これはダブル・ミーニングだったのですネ。
中山美穂さんが二役を演じられているのは、少年・樹が博子に恋をする理由が必要だったからですが、性格の異なる二役を上手く演じられていると思います。
また、同姓同名の登場人物という発想が、博子の勘違いを生むことと図書カードのイタズラの両方に活かされていて、素晴らしいアイディアだと感心します。
映画全体のテーマは「死」ですかネェ。しかし時を越えて、死をも超えて、「想いは伝わる」という前向きなメッセージが語られています。
これが映画デビューとなる酒井美紀さんが、「少女時代の樹」を好演されています。この映画は樹が主人公なのでしょうが、特に「少女時代の樹」が主役だと思います。酒井さんが非常に魅力的です(*^o^*)
先にも触れたように、手持ちカメラの撮影による流れるように揺れた映像が多く見られます。多くのアングルから撮影されたこれらの映像が、細かく繋ぐ編集で時間の流れを感じさせるシーンも素晴らしいのですが、全体に漂う日常感も上手く表現しています。
また全体に雪のシーンが多く、淡い色調が物語の儚さも感じさせます。
音楽は、この映画までの岩井監督作品には欠かせないREMEDIOSが担当しています。この方(? グループ?)の素性は全くわかりません。サントラにも詳しい情報は載っていません‥‥^^; 男性なのか女性なのかさえも不詳です。ただ、サントラから得た情報によると、これらの楽曲でピアノを演奏しているのは当時8歳だった牧野由衣さん。そう、現在放映中のNHK『ツバサ・クロニクル』で「サクラ」の声を演じている方です! スゴイ才能ですネ。現在は某音楽大学でピアノを専攻していらっしゃるようです。
ロケ地として、坂道のある小樽や函館は北海道中でもイメージ作りにはうってつけの舞台です。今、辻仁成氏の『函館物語』『海峡の光』という函館にちなんだ作品に触れて、中山美穂さんつながりで、物語の舞台としての坂のある港町に強く惹かれています。