電子基準点のデータを使い、『週刊MEGA地震予測』および『nexi地震予測』という有料の地震予測サービスを行っている、東京大学名誉教授の村井俊治氏(JESEA・地震科学探査機構)という方がいます。 2016年8月1日発売の『週刊ポスト』では、
南関東に大地震が起きると警告しています。
MEGA地震予測 南関東が初の最高警戒レベル5へ(週刊ポスト)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160801-00000005-pseven-soci
この記事のなかで、村井俊治氏らは、南関東が危険だと予測する根拠として、以下のように言っています。
(1)6月後半から伊豆半島、伊豆諸島を中心に天城湯ヶ島7.08センチ、三宅8.59センチと、7センチを超える大きな変動が続いている
(2)長期的な隆起・沈降のデータでも伊豆諸島の三宅島が隆起している一方、近くの式根島と神津島は沈降し、その高低差は拡大を続けている。境目には相当な歪みが溜まっている
(3)「水平方向の動き」でも、伊豆諸島の大島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島などがそれぞれ別々の方向に動いており、複数の場所で歪みが蓄積されている
…しかしながら、
これらの主張は、まったくのデタラメです。このようなデタラメによる地震予測を信じないようにご注意下さい。以下に説明します。
■ ただのノイズを地殻変動だと勘違いしている(偽っている)
上記した(1)で、村井氏は「天城湯ヶ島7.08センチ、三宅8.59センチと、7センチを超える大きな変動」と言っています。では、実際のデータを見てみましょう。天城湯ヶ島の電子基準点の座標値(高さ方向)の変動です(出典:国土地理院)。
村井俊治氏は、赤矢印で示した値の上下を「異常」と指摘していますが、まずこんなのはいつものことなのです。青矢印で示しましたが、昨年も同じような(むしろもっと大きな)変動があったことが分かります。昨年、この変動のあとで、南関東で大地震が起きましたか? 起きてませんよね?
このような短期的な高さ方向の変動は、ただのノイズです。GPSに代表されるGNSS測位では、高さ方向は大きな誤差が残ってしまうのです。大気中の水蒸気量などの影響で、数センチの値の乱れは日常茶飯事です。村井氏は、このようなノイズ変動を取り上げて、「地殻変動だ」「地震の前兆だ」と騒いでいるに過ぎません。実に低レベルです。
このグラフで見られる変動が実際に起こったとすると、ある日に地面が急に4センチも沈降し、次の日には8センチも急上昇したことになります。そんな変動があれば、すでに大地震が起きているはずです。地震も何も起こさずにこのような変動が起きたという荒唐無稽な彼らの主張は、信じないようにしましょう。
■ 三宅島の地殻変動についても総合的な判断ができていない
また、上記(2)では、村井氏は「三宅島が隆起しているが、隣の式根島と神津島は沈降していて、歪みが溜まっているので大地震が起きる」と言っています。
ですが、これは三宅島に前々から見られている、火山活動に起因する地殻変動の結果にすぎません。詳しくは、三宅島についての気象庁の資料をご覧ください。
「三宅島の火山活動解説資料(平成 28 年6月)」気象庁(PDF)
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/tokyo/16m06/320_16m06.pdf
つまり、三宅火山でマグマの移動によると思われる隆起が、ずっと以前から観測されているというだけなのです。当然、相対的に、周囲の観測点とは高さ方向の差が生じます。ですが、
だからと言って、そこで歪みが溜まって大地震が起きると主張するのはナンセンスです。ある火山でマグマが上昇してきて隆起がみられることは、よくあります(噴火に至らないケースも多い)。ですが、そんなとき、ほとんどの場合、その火山のまわりで大地震などは起きません。
■ 地殻変動についての知識がまったくない
きわめつけは、上記した(3)です。大島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島が、それぞれ別の方向に動いていると主張されています。ですが、国土地理院のサイトで参照できる、この1年間の地殻変動(水平方向)を見ますと、以下のとおり、
そんな事実は全くありません。
実は、地表面はプレート運動にともなって各点が動いているので、絶対的な基準点というものはありません。便宜上、ある点を固定点として、そこからの相対的な運動をみるしかないのです。以上の図は、福井県の越前を固定点にとったものですが、固定点を適当にとれば、任意の各点が別方向に動いているように見せることができるのです。村井氏らは、おそらく国土地理院から取得した数字をそのまま使って、たまたま伊豆諸島の各点がバラバラに動いているように見えたのでしょう。プレート運動による動きをより現実に即して見られるよう、海溝から遠い固定点をとれば、上図のように伊豆諸島の各点は同じ方向に動いています。
いずれにしても、「大島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島が、それぞれ別の方向に動いている」という主張は噴飯ものであり、
地殻変動の観測についての知識を、彼らが全く持ち合わせていないことを如実に表しています。
■
…以上のとおり、村井俊治氏らJESEAによる『週刊MEGA地震予測』は、とても科学的に正しい内容であるとは言えない、ハッキリ言って低レベルの子供騙しのような代物です。このような情報を、真に受けないでください。伊豆半島や伊豆諸島が、特別に危険であると言う事実はありません。もちろん、日本中どの場所にも地震の危険がありますので注意は必要ですが、そうした認識を持ったうえで、伊豆方面にも伊豆諸島にも気にせず出掛けて頂きたいと思います。
最後に、
村井氏らの『週刊MEGA地震予測』は、今年4月の熊本地震を全く予測できなかったことも、付け加えておきます。
村井俊治・東大名誉教授は、2016年熊本地震(最大震度7)を、全く予測できませんでした