横浜地球物理学研究所

YOKOHAMA GEOPHYSICS RESEARCH LABORATORY
地震予知・地震予測の検証など

有料地震予測は島根県西部の地震M6.1を予測していたか

2018年04月09日 | 地震予知研究(その他)
2018年4月9日01時32分頃、島根県西部を震源とする最大震度5強の地震が発生しました。地震の規模はM6.1(暫定値)で、大田市大田町で震度5強、出雲市や雲南市などで震度5弱を観測しています。

では、話題の有料地震予測サービスが、この地震を予測していたかどうか、検証してみましょう。


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村井俊治・東大名誉教授らが発行する「週刊MEGA地震予測」では、今年2018年からAIによる地震予測を取り入れています。国土地理院が設置する電子基準点で異常な変動があったあとに起きた国内での地震を、教師データとしているようです。

では、そのAIによる地震予測はどうだったのでしょうか。2018年3月22日の「週刊ポスト」紙で発表されていますので、以下に示します。今回の島根県西部の震源を、赤×印で重ねてみました。

  
  (NEWS ポストセブン 3/22(木)配信より)


・・・いかがでしょうか。ここまで見事に外すというのは、なかなか難しいと思います。日本中にほとんどくまなく地震予測を出している時点で、防災上ほとんど役に立たないのに、そのうえ島根県西部の地震をピンポイントで予測失敗しているのですから、事実上まったく使えない地震予測であると言って良いと思います。

なお、村井氏らが言う「電子基準点の異常な変動」は地震の前兆ではなく単なる測位ノイズであることや、これまでの地震予測もまったく当たっていないことについては、これまでも繰り返し説明しております。ぜひご参照下さい。



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有料地震予測としては老舗の部類に入る、「地震解析ラボ」はどうだったのでしょうか。以下に、島根県西部の地震の直前に出していた地震予測を示します。ここでもまた、今回の島根県西部の震源を、赤×印で重ねてみました。

  
  (地震解析ラボ2018年4月5日発表の地震予測)

・・・これもまた、島根県はまったくのノーマークです。地震解析ラボについても、日本中にほとんどくまなく地震予測を出しながら、M6規模の地震を予測できなかったわけです。地震解析ラボについても、これまでも大きな地震をまったく予測した実績がありません。詳しくはこちらを参照下さい。

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「電子数による地震予知」を疑う理由

2018年03月06日 | 地震予知研究(その他)
 
近年、「大地震の発生直前に上空の電離層で異常が起こり、上空電子数(TEC)が増える」と主張する研究があり、テレビなどメディアでも紹介されています。代表的なものには、日置幸介・北海道大教授や、梅野健・京都大教授による研究があります。

「夢の地震予知が実現か」と一部では期待されているこの研究ですが、個人的には私は非常に懐疑的にみています。その理由を、以下に幾つか挙げてみます。


 (1) 地震と関係がない場所でも電子数異常が起きている

梅野教授らは、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震や、熊本地震の直前に、上空の電子数が異常に増えたと主張しています。たとえば下の図は、東北地方太平洋沖地震の発生4分前の上空電子数を示した図です(地上の各観測点と、斜め上空の或る衛星と、の間の空域の電子数を示しているので、日本列島がずれたようなプロットになっています)。

  
  (http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/1/7/17114.htmlより。矢印は筆者による)


たしかに東北沖で電子数の増大(紫矢印)が起きているように見えますが、よくみると、ほかにも鳥取沖や日向灘といった震源とは全く関係ない場所にも、強い増大が起きている緑矢印)ことが分かります。

東北での大地震の4分前に、東北のみならず鳥取沖や九州沖でも異常が起きているのなら、6分前や8分前や10分前や・・・にも、日本のあちこちで異常が起きていたのではないかと想像できます。しかし、なぜかそのことは触れられません。なお、梅野教授は「2016年熊本地震の本震40分前に九州で異常があった」とも主張していますが、そのときの動画をみても、ほぼ同時刻に九州だけでなく北陸地方にも異常が出ていたことが見てとれます。

都合の悪い事実を隠蔽しているわけではないのでしょうが、震源近くの異常値だけを強調し、地震とは関係なさそうな場所でも異常値を示していることを黙殺するというのは、この種の研究としてはいささか不誠実だと思います。


 (2) 電子数の増大が本当に「異常」かどうか疑わしい(※)

日置教授は、チリ地震や東北地方太平洋沖地震といった大地震の直前に、電子数が正常値より増えていたとして、以下のような観測結果を示しています。この図で日置教授は、それぞれの大地震の直前に、電子数の観測値(赤矢印)が、正常値(青矢印)より増え、地震の発生後に急激に戻ったと主張します。

  
  (地震予知総合研究振興会「地震ジャーナル」53号, 2012年より。赤青矢印は筆者による)


しかし、ここで大切なことは、電子数は季節変化も時刻変化もし、さらには日によって大きく変動のしかたも変わる、不安定なものであるということです。つまり、青矢印で示した電子数の「正常値」を表す曲線が、正しく仮定されたものであるかが分からないのです。

この点については、鴨川仁・東京学芸大准教授らが、日置教授が示す電子数異常は、単に正常値の計算方法が不適切であるための見かけの現象であり、日置教授の計算方法による正常値を使うと、地震当日だけでなく前後3日を見ても、同時刻には電子数が異常増大していることになってしまうと指摘しています(鴨川ら2013)。

  
  (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgra.50118/fullより)


鴨川准教授らはあわせて、大地震当日に、地震発生直後に電子数が急激に低下しているのは、地震の発生に伴って前兆が消えたからではなく、単に津波の発生による音響波が上空に届いた影響であろうとしています。

・日置教授が地震当日のデータしか出していない(※下記参照)
・地震の前兆で漸進的に増えた電子数が、地震後に「急激に」減るというのは、感覚的に受け入れられない(逆に津波の発生で音響波が上空に届いた影響というのは非常に受け入れやすい)
・日置教授が報告している、地震直前に電子数が増え地震後に急減する事例が、津波が発生した海溝型大地震に限られている事実を、津波発生による音響波で説明できる

・・・といった点からみても、鴨川准教授らの主張にはおおいに分があると思います。

※追記: いまや日置教授は上記のデータではなく例えばこちらのデータで議論しているとご指摘を頂きましたので、ご留意下さい。地震の前の電子数が、正常値よりも大幅に増大していたとする主張を事実上取り下げて、変動のグラフが折れ曲がっている、と見せ方を変えるものです。

  
  (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2015JA021353/fullよりFig.6)

ただし、そもそもこのような「後でごっそり取り下げて別の主張に変えなければいけないようなデータを提示して何年も地震前兆と主張していた」ということ自体も、疑う理由となり得ます。たとえば、「折れ曲がり」は「増大」とは限らないので、異常増大したとの主張が事実上極めて大幅にトーンダウンしています。それに、今後また同じようにデータの見せ方が総取替されるのではないかなどの疑念も抱かせるものです。実際、上に示した「地震ジャーナル」53号のグラフで、最も大きな電子数増大を示す「エース」のデータだったはずの2004年スマトラ島沖の地震の例は、「折れ曲がり」がないために、最近の論文では登場しなくなっています

また、新しいデータの見せ方でも今のところ地震と異常との相関を疑義なく納得できず(① Fig.6では、特定の観測点-衛星の組み合わせによる観測値を示しておられるが、震源上空をカバーする他の組み合わせ、震源上空をカバーしない他の組み合わせ、について考察が足りないため相関が議論できない、② Fig.6だけを見ても地震と関係ない折れ曲がりが多くみられる、③ 折れ曲がりだけでなく極大や極小などの特徴点も考え合わせれば無数に異常があったと言えてしまう、④「折れ曲がりは地震と関係なく10時間に1回はある」という新しい情報も出てきた等)、上記の津波の議論、および以下の(3)(4)についての感想は変わらないので、上記はそのまま残しておきます)



 (3) 研究結果の間に矛盾がある

そもそも「地震の前兆として電子数が増える」と言われ始めたきっかけとなった、古い研究結果が幾つかあります。しかしそこでは、電子数が異常を示すのは、地震発生の数日前だとされているのです。

  
  (「内陸地震に先行する電離圏変動:GPSによる検証」菅原守氏(北大)2010年より)


この図では、2008年の四川大地震(Mw7.9)の3日前に電子数の異常がみられたことを報告しています。これに対し、日置教授や梅野教授らの主張は、地震発生の直前の数十分から数十秒のオーダーという直前のタイミングで異常が起きるというものです。この不一致は、いささか納得できません。

さらに言えば、上に示した日置教授の電子数遷移のグラフと、梅野教授が示した異常のデータも、そもそも整合していません。日置教授のグラフによれば、電子数は地震発生前40分前から異常に上昇し、高い値を長時間保ち続けますが、梅野教授が示したデータでは、電子数が異常増大を示すのは地震の4分前、それもほんの一瞬のことです。


 (4) 上空の電子数が増える原因が考えられない

これを言ってはミもフタもないのですが、数キロから数十キロという深い地下や海底で地震が発生する前に、高い高い上空の電離層で異常が発生して電子数が増えるということ自体が、はっきり言って少々荒唐無稽に思えます。そのようなことを説明できる物理モデルがあるとは、残念ながら思えません。

特に、海底での大地震の前に震源で発生した異常が、厚い厚い海水をどう伝わって、電磁気的な異常として上空に到達するのか・・・と考えてみると、ほぼそんなことはありそうにないと思います(たとえば、電波が海中ではすぐ減衰して使えないことは有名ですし、雷が海に落ちても海面下の魚たちは全く無傷です)。

もし仮に、地震の直前に、はるか上空まで到達するような電磁気的な異常が起きるのであれば、我々が暮らしている地表や海面ではもっと大きな電磁気的な異常が起きるのではないかと思うのですが、そのような観測データはないように思います。

また、特に日置教授の示したデータについて言えば、どの事例をみても見事に共通して、地震の前兆としての電子数増大が、地震の約40分前に始まっています。つまり、電子数が増えはじめた瞬間に、これから起きる地震が大地震となることが予め決まっており、しかも地震が起きるのは40分後であることも決まっている、ということになります。地震が起きる場所も、深さも、規模もまちまちなのに、電子数の異常が始まるのは40分ほど前にだいたいそろうというのは、極めて不自然に思います。むしろ、電子数の正常曲線を不適切にとっているために、観測値が正常曲線から逸脱するタイミングがそろっているのではないか、と疑わせるものに感じます。(←※正常曲線との比較による議論は取り下げられているようですので、この記載も取り下げます)


 (5) 地震を予測した実績がない

日置教授や梅野教授の主張はいずれも、地震が発生した後になって、「実は地震の前に異常が起きていた」と言っているだけであって、発生する前に地震を予測をした実績は全くありません。仮に以上に示した(1)~(4)をクリアしたとしても、事前に地震を予測できなくては、まだまだ話にならないと言うべきでしょう。


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・・・以上のようなことから、私は「地震の前に上空の電子数が増える」という研究には、いまのところ極めて懐疑的です(というか、実は個人的には全く信じてません)。しかしながら、ぜひこれから客観的なデータを積み上がっていって、議論が進み決着がついて欲しいと期待しています。

※追記: 以上はあくまで「電子数異常が地震の前兆だという研究を、私が疑う理由」です。「この研究は間違っている!」となどと偉そうに指摘するものではありませんし、そのつもりもありません。個々の論点について具体的なご指摘は歓迎します(ただし具体的な指摘を欠く礼を失したコメントには返答しないかもしれません)。ご意見に応じて、上記の内容を書き換えることがあり得ますことをご了承下さい(履歴は残すつもりです))
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話題の地震予知研究者達は、鳥取県中部の地震を予測していたか?

2016年10月24日 | 地震予知研究(その他)
 
2016年10月21日(金)14:07頃、鳥取県中部を震源とする地震(速報M6.6)が発生し、倉吉市葵町、湯梨浜町龍島、北栄町土下で震度6弱を観測しました。巷で話題の地震予測研究者や、有料地震予測サービスなどは、この地震を事前に予測できていたのでしょうか。以下にみてみましょう。

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まず、電子基準点の動きで地震を予測する、村井俊治・東京大学名誉教授らの地震科学探査機構(JESEA)はどうでしょうか。

鳥取県中部の地震M6.6の直前・10月19日に発行された、彼らの有料地震予測メルマガ『週刊MEGA地震予測』で発表された地震予測を、以下に示します(※右側の地図は、この予測領域を日本地図に描いてみたものです)。

   


…「鳥取県・島根県周辺」に、地震予測がでています。ですが、それ以外にも7カ所、日本のほとんど全国を網羅するように予測がでているのです。これでは、鳥取の地震を「ピタリ」と当てたとは到底いえず、むしろ下手な鉄砲が当たっただけのように見えます。

村井俊治氏らJESEAは、2014年の長野県北部の地震(神城断層地震)や、2016年の熊本地震を、いずれも見逃し(事前に予測できず)してしまい批判を浴びたため、見逃しを恐れるあまりに、極端に予測を乱発する傾向があるようです。上の地図のように日本中を網羅する予測を、もう2年くらいずっと出し続けているのです。これでは、地震「予測」としては、ほとんど用を為していないように思います。


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次に、電波の伝播異常などで地震を予測している、地震解析ラボはどうでしょうか。携帯電話用の無料アプリで概要を知ることができるのですが、鳥取県中部の地震M6.6の直前・10月20日に発表された彼らの地震予測は、以下のとおりです。

   


鳥取は完全にノーマークです。鳥取に近いのは伊予灘~日向灘にかけての予測ですが、予測規模はいずれも「M4.0以上(M6.0未満)」で、鳥取県で発生した地震の規模M6.6とは大きく違います。

なお地震解析ラボは、熊本地震の直前にも、ほとんど全く同じ伊予灘~日向灘に地震予測を出していて、熊本地震を予測したのだと主張しました。ほぼ同じ予測で、今度は鳥取を予測したと主張するのは、さすがに許されないでしょう。


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それでは、長尾年恭・東大名誉教授ら地下気象研究所(DuMA)の、「地下天気図」(地震活動の消長で地震を予測する)による地震予測はどうでしょうか。

彼らが発行する有料ニュースレターのサマリーをひととおり見ましても、鳥取に対する言及はないようです。公開されているもののうちでは、鳥取に最も近い領域に言及した地震予測は、以下のものだと思われます(2016年7月25日に発行されたニュースレターより)。

   

岡山南部~香川県に注意を呼び掛けている領域(青色)がありますが、鳥取からは大きく離れていますので、鳥取での地震を予測できたとは言えなさそうです。


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木村政昭・琉球大名誉教授による地震予測でも、以下のとおり、鳥取周辺は全くのノーマークでした(木村政昭ホームページより。ただし木村氏の場合は、M6台の地震は予測範囲外かもしれません)。

   


そのほか、地震解析ラボから分離独立した、早川正士・電気通信大学名誉教授も、鳥取周辺に対する特段の地震予測は何ら発表していません。串田嘉男氏も、事前に鳥取には地震予測を発表していません。

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以上のとおり、鳥取県中部での地震をピタリと言い当てたと言える研究者や有料予測サービスは、見当らないようです。

※ 率直に言うと、M6.6(Mw6.2)程度の今回の地震では、「規模が小さ過ぎて予測できなかった」と言えば良いように思います。ですが、もうすでに、上述した方々のうちの一部が「予測していた」と主張しているようですので、今回の記事を書いてみた次第です。

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一般社団法人地震予兆研究センターの地震予測について

2016年03月01日 | 地震予知研究(その他)

地震予測を発表している団体として、「一般社団法人地震予兆研究センター」(http://eprc.or.jp/)というところがあるようです。彼らの方法は、基本的には地殻変動を監視して地震予測を行おうというもの。国土地理院の電子基準点の動きに加え、ESUの地球観測衛星や、だいち2号のデータを使っているのだそうです。

では、実際にどの程度の予測精度なのでしょうか。以下に検証してみます。


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彼らは、facebookで予測情報を公開しています(https://www.facebook.com/eprcjapan/)。ところが、許可なく拡散するなとウェブサイトに記載されています(※)ので、ここでは引用できません。具体的な予測については、リンク先を参照ください。1月26日には、彼らは震度3程度の8つの地震予測を出しています。ここではfacebookに記載されている順(北から南への順)に、予測1~8とします。これを検証してみましょう。

※予測を公開しておきながら、わざわざこういう注意書きを掲載する時点で、彼らが検証されるのを嫌がっていることが如実にわかりますが…。


1月26日から2月3日の予測期間内に実際に発生した、震度3以上が観測された地震を、以下に挙げてみます。

2016年1月26日 20時37分ごろ 宮城県沖 M4.6 最大震度3
2016年2月2日 14時32分ごろ  岩手県沖 M5.7 最大震度4
2016年2月2日 20時00分ごろ  トカラ列島近海 M3.1 最大震度3
2016年2月3日 6時54分ごろ トカラ列島近海 M2.9 最大震度3
2016年2月5日 7時41分ごろ 神奈川県東部 M4.6 最大震度4
2016年2月7日 10時09分ごろ 茨城県北部 M4.3 最大震度4
2016年2月7日 19時27分ごろ 茨城県南部 M4.6 最大震度4
2016年2月8日 1時03分ごろ 福島県浜通り M3.8 最大震度3



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まず、予測1~8(facebook参照)のうち、予測1、2、6、8は、完全にハズレです(該当地震発生せず)。また、トカラ列島近海の地震の震源位置(宝島付近)を見ますと、予測7で彼らが予測した地域からも大きく外れており、これもハズレであることが分かります。予測4も、実際に地震が発生した場所とも規模とも少し違いますので、的中とは言えません。

的中と言えそうなのは、予測3(2016年2月2日、14時32分ごろ、岩手県沖、M5.7、最大震度4)と予測5(10時09分ごろ、茨城県北部、M4.3、最大震度4)くらいでしょうか。としますと、的中率は、2/8=25.0%となります。

なお、2016年2月5日、7時41分ごろ、神奈川県東部、M4.6、最大震度4の地震は、予測できていません。


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以上まとめますと、以下のようになります。


・予測8件のうち、的中は2件。

・的中したのはいずれも、「震度3」と言っておけばデタラメでも当たる、東北から関東にかけての太平洋側の地震だけ。それ以外に出した予測は全てハズレ。

・2016年2月5日、7時41分ごろ、神奈川県東部、M4.6、最大震度4の地震は、予測できず。



…いかがでしょうか。私は個人的には、この地震予測には有意な予測能力を読み取れないと言わざるを得ません。正直に言えば、頻繁に起こる震度3程度の地震を予測して的中率を稼ごうとしている時点で、そもそも有用さも誠実さも感じられません。

もちろん、この1回だけで断定してまうのも良くないと思いますので、機会があればまた検証してみたいと思います。


※3/2追記:最新の予測情報では、3月1日までに福島沖~茨城沖でM7の地震が起きると予測(2月22日発表)しましたが、これも空振りでした。また、同じく2月には房総半島でM6という予測も出していたよう(こちら)ですが、これもハズレました。やはり、全然当たらないようです。
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『地震前兆現象を科学する』(祥伝社新書)の内容について

2016年02月08日 | 地震予知研究(その他)
 
2015年12月に、『地震前兆現象を科学する』(祥伝社新書)という本が出版されました。著者は、織原義明氏と長尾年恭氏で、おふた方とも、地電流異常や宏観異常現象を含めた地震予知の研究で知られた先生です。

  

以下に、本書で検証されている3つの民間の地震予知研究についての内容を中心に、紹介してみたいと思います。


 ■ 民間地震予知研究についての検証について

本書では、村井俊治氏のGPSによる予測、串田嘉男氏のFM電波による予測、早川正士氏のVLF電波による予測が、以下のように検証されています(75頁~93頁)。ここで、「適中率」は予測どおりに地震が発生した割合、「予測率」は地震を事前に予測していた割合を示します。


村井俊治氏: メルマガ(2014/10/1号) 適中率11%、予測率33% 
         メルマガ(2014/12/17号) 適中率25%、予測率100%
串田嘉男氏: 適中率6%、予測率9%
早川正士氏: 適中率15%、予測率13%


…このように、一般に宣伝されているよりも低い数字が挙げられていて、地震予知を推進する著者らにしては客観的であると言って良いかも知れません。しかしながら、この検証には以下の意味で不備があり、村井氏と早川氏については、不当に甘い数字になってしまっています。

まず、村井氏のメルマガについては、予測精度が他と比べて高くなっているのが分かります。これは、公開されているメルマガのサンプル号のみを検証したものだからです。サンプルとして村井氏らが公開しているのは、予測どおりに地震が発生した号を、あとから宣伝のため選んだものですので、予測率等が高くなるのは当たり前です。これでは、意味のある検証とは到底言えません。また、串田氏や早川氏の予測に比べて、村井氏の予測は範囲も期間も非常に広いので、同じ尺度で検証したような数字で並べるのは公平さを欠きます。

串田氏については、近藤さや氏等による既存の評価(こちら)をそのまま紹介しているだけで、特に著者らが独自に検証した新しい内容はありません。

早川氏については、「早川氏らが的中と判定したもの」を「的中」として計算しています。つまり、ほとんど自己申告を信じて検証したものであり、甘い結果になっています。著者ら自身も、栃木県から愛知県を結ぶ内陸エリアの予測に対して、千葉県東方沖の地震を当てた地震としていることに違和感を覚える(92~93頁)と書いていますが、実はこれも「的中」として計算した数字なのです。もっと厳密に検証すれば、さらに低い数字が出るはずです。

そして、最大の問題は、彼らが提示するデータは実際の前兆を捉えたデータであるという前提を、鵜呑みにしてしまっている点です。著者らは、「GPSデータでとらえられる地殻変動も、FM電波やVLF電波の異常も、地震の前にみられる現象であると、筆者らは考えています」(94頁)と言っています。つまり、彼らが単に観測上のノイズを捉えているに過ぎないのではないかという点を、疑いもしていないのです。この点は、非常に物足りなさを感じざるを得ません。

しかしながら、以上のように甘い検証であっても、以上の3つの研究についてのまとめとして、「今の情報の出し方は世間に誤解を与えかねない」「疑似科学やニセ科学と言われてしまうかもしれません」(94頁)と厳しい書き方になっている点は、注目に値します。


 ■ その他、本書における違和感

ほかにも、気になる意見が散見されました。まず、地震予知は難しいとする大多数の地震学者を不当に批判するような書き方が、論理の妥当性を欠いていて、違和感を感じました。例えば、以下の記載です。

地震学者が使う観測装置の代表は地震計です。(中略)地震計は地震が発生しないと、動きません。(中略)そのため、地震学者の発言は「地震予知は極めて困難」ということになるのです。


また、彼らが地震前兆を捉えたと主張する、神津島での地電流観測の紹介にも違和感があります。58頁に、著者らが観測した地電流異常と発生地震とを時系列で並べた図があるのですが、「地電流異常後に発生した地震」が濃い実線で示されているのに対し、「地電流異常がなかったのに発生した地震」が薄いグレーの点線で表されており、意図的に目立たなくされています。上記した民間の3つの研究の情報の出し方を批判しながら、自身ではこのような図の書き方をするのは、フェアではありません。

また、東北地方太平洋沖地震(2011/3/11)の前に地下水位の異常が報告されていたとし、これは前兆現象である、前兆現象はたしかにあるのだ、という書き方になっていますが、これも疑問です。異常があっても地震がなかったケースや、異常がなくても起きた地震などが、精査されていません。また、昭和三陸地震の前には、井戸水のにごりが多数報告されている、としていますが、水位異常とにごりでは異なる現象ですし、またにごりが出ても地震がなかったケースの有無については同様に触れられていません。こうした偏った情報の見せ方は、著者らが最近研究しているという「RTM法」の説明についても、同様です。


 ■ 興味深かった点

一方、興味深く読ませて頂いたのは、一般の方を対象に行なったというアンケートです。詳しくは本書を読んで頂くこととしたいのですが、たとえば「動物の異常行動や、電気製品の誤作動が、地震前に起こる」と信じている人が、予想以上に多いのではないかと思わせるアンケート結果になっています。

また、上述したように、話題となっている民間の地震予測をわりと厳しく批判したうえで、「筆者らは、こうした姿勢の方々とは一線を画し」(158頁)などと毅然として言い放ち、あたかも「いま話題の出鱈目予知と筆者らの研究を一緒にしないでもらいたい」という意思表明と思われる記載があり、なかなか面白いと思いました。

著者らは「地震には前兆現象がある」と思い込んでいる(自らに思い込ませている)フシがあり、その思い込みの根拠が説得力のある形で提示されておらず、全面的に賛成できない記述も多いと言わざるを得ません。ただ、織原氏などは宏観異常現象にも手を出しながらも、いつも客観的に検証している(たとえばイルカやクジラの打ち上げと地震との相関検証など)印象がありますし、今後のご活躍に期待したいと思っています。
 
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