.
「
マグニチュード9クラスの超巨大地震の後には、これまで例外なく、近隣の火山が噴火している」などという報道を、良く見かけます(たとえばこちらのニュース記事
「大地震が噴火誘発?数年内に連動か」)。そして、2011年3月に巨大地震を経験した日本でも、近々大きな噴火が起きるだろう、という論調も目立ちます。
しかしながら、「巨大地震の後に火山が噴火した」というのが正しいとしても、「超巨大地震があったから近隣の火山が噴火した」というわけでは、必ずしもありません。とにかく火山というものは、世界中のあちこちで常に噴火していますので、たまたま超巨大地震の後に噴火が起こっても、何も不思議ではないわけです。
実際、少し調べてみますと、超巨大地震の後に噴火が誘発されたと思われるケースもありますが、そうとも言えないケースもあるようです。
■
近代のM9クラスの超巨大地震といえば、以下の5つがあります(東北地方太平洋沖地震を除く)。
・カムチャッカ地震 Mw9.0 (1952年)
・アリューシャン地震 Mw9.1 (1957年)
・チリ地震 Mw9.5 (1960年)
・アラスカ地震 Mw9.2 (1964年)
・スマトラ島沖地震 Mw9.0 (2004年)
では、それぞれについて、その直後の近隣の火山活動をみてみます。
1.カムチャッカ地震(1952年)
→カルピンスキ火山群が翌日に噴火。タオリュシルカルデラが1週間後に噴火。ベズイミアニ山が3年後に噴火。
カルピンスキ火山群は、このときの噴火しか噴火記録がないようです。また、地震から3年後のベズイミアニ山の噴火は、比較的大規模なものであったようです。ですので、このケースは、
たしかに巨大地震がある程度の噴火活動を誘発したと考えられそうです。
ですが、カムチャッカ半島には、カムチャッカ火山群と呼ばれる活発な火山が密集しています。なかには、クリュチェフスカヤ山のように、日本でいえば桜島のようにほとんどいつも噴火活動をしている火山もあります。シベルチ山という火山は、1854年、1956年、2013年と大規模な噴火を繰り返しています。近年最大規模の噴火は、トルバチク山という別の火山によるものであり、1975年から1976年にかけて起きたものです。前述のベズイミアニ山も、2010年に再び噴火を起こしています。
こうしてみますと、カルピンスキ火山群などの噴火については巨大地震に誘発されたと言えそうだとしても、
カムチャッカ火山群において、巨大地震直後に火山活動が特別に活発になったようには見えないという点にも、留意が必要と思われます。
2.アリューシャン地震(1957年)
→ブセビドフ山が4日後に噴火。
よく調べてみますと、ブセビドフ山のこの1957年の噴火は「questionable eruption」、すなわち噴火したか否かが疑わしい活動だそうです。噴火があったのだとしても、翌日には完全に活動が収まっていたようです。ですので少なくとも、
この巨大地震が大きな火山活動を誘発したとは言えないようです。
なお、大きな地震のあとに火山で噴火があったと「誤認」するケースは、これまで他にもあるのだそうです。地震による振動や鳴動、土砂崩れなどが火口周辺で起き、噴火と誤認することがあるようです。
3.チリ地震(1960年)
→コルドンカウジェ山が2日後に噴火。
あくまで主観的な印象ですが、
この噴火活動は地震と関係がありそうに思えます。コルドンカウジェ山が噴火を開始したのは、地震発生からわずか38時間後です。VEIが3と、比較的大きな噴火でもありました。また、この噴火以来、コルドンカウジェ山は2011年まで噴火していません。たしかにチリにも多くの火山がありますが、時間空間的にみても相関関係がありそうに思えます。
4.アラスカ地震(1964年)
→トライデント山が2ヶ月後に噴火、リダウド山が2年後に噴火。
トライデント山というのは、実は非常に噴火が多い火山で、1913年、1949年、1950年、1953年、1964年、1966年~1968年、1974年~1975年、1983年…と噴火しています(このうち規模が大きかったのは1953年)。リダウド山も、1881年、1902年、1922年、1966年、1989年~1990年、2009年と大きな噴火を繰り返しています。
他にもアラスカには幾つか火山がありますから、このうち地震の2ヶ月後や2年後に噴火があったとしても、ほとんど偶然と言って良いレベルだと思われます。すなわち、この
アラスカ地震の場合は、直後に噴火を誘発したとは結論できないと言えそうです。
5.スマトラ島沖地震(2004年12月)
→タラン山が4ヶ月後に噴火、メラピ山が1年3ヶ月後に噴火、ケルート山が3年後に噴火。
そもそも、説明するまでもありませんが、インドネシアは日本と同じで、大地震の有無にかかわらず頻繁に大きな噴火が起きている国です。タラン山を含むスマトラ島のバリサーン山脈では、ここ15年ほどだけ見ても、
ペイットセイグ山(1998年4月)、カバ山(2000年8月)、ペイットセイグ山(2000年12月)、マラピ山(2001年)、タラン山(2001年)、クリンチ山(2001~2002年)、クリンチ山(2004年8月)、マラピ山(2004年8月)、タラン山(2005年4月)、クリンチ山(2007年)、クリンチ山(2009年6月)、シナブン山(2010年8月)、マラピ山(2011年)、クリンチ山(2013年6月)、シナブン山(2013年9月~2014年2月)
…と非常に多くの噴火が起きており、このうちのひとつがスマトラ島沖地震から4ヶ月後に起きたのだとしても、単に偶然である可能性が高いということが言えると思います。つまり、
スマトラ島沖地震の場合も、噴火が地震によって誘発されたとは言えないと思われます。
メラピ山やケルート山にいたっては、そもそも震源のスマトラ島沖から離れたジャワ島の、しかも東部の火山です。しかも、ケルート山が大規模の噴火を起こしたのは、1919年、1951年、1966年、1990年、2014年と、地震の有無と関係なく何度もあります。
少なくともジャワ島のメラピ山とケルート山の噴火に関してはコジツケと言って良いのではないかと思います。
■
…以上のとおり、「これまでM9クラスの超巨大地震後には、必ず火山噴火が誘発されてきた」という説の真偽から、少々疑ってみたほうが良いと思われます。
特に火山列島日本の場合、近年だけをみても、大きな地震の発生とほとんど相関なく、多くの火山が噴火してきました。桜島は噴火し続けています。記憶に新しいところでは、大島三原山や三宅島などが噴火し、雲仙普賢岳も噴火し、浅間山も噴火し、有珠山の大噴火をはじめ北海道の各火山も噴火してきました。
震災からもう4年が経過していますので、ここで仮に今どこかで(たとえば東北の蔵王山や吾妻山で)大きな噴火が起きても、「巨大地震に誘発されたのだ!」と結論するのは、短絡的にすぎると思います。まずは「疑似相関かも知れない」と疑うことが真っ当な科学であり、地震予知詐欺に引っかからない秘訣にもなります。そもそも地震や火山噴火は、「地震があった、じゃあ噴火が誘発されるだろう」といったレベルの、単純なものではないとも思えるのです。
.