横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

「大地震の直前にラドン濃度が上昇する」は本当か

2018年12月26日 | 地震予知研究(その他)
 
かなり前から、「大地震の直前にはラドンが増える」という言説があります。最近では、2018年12月25日に発売された『日経サイエンス』2019年2月号に、「大気中ラドンが示す地下の異変」と題された記事が載り、

 「(近年報告されている地震前の電離層異常は)ラドンと電荷が震源域周辺で生じたためだと考えられる」
 「地震に先行して起きた地殻変動によって生じた可能性が高い」
 「ラドン濃度の変動が地震に先行して起きることが内外の研究で明らかになった」


…などと、大地震の直前に大気中のラドンが増えることがほとんど確実であるかのように書いています。ですが、実際のところはどうなのでしょうか? この『日経サイエンス』の記事の内容をもとに、調べてみましょう。


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この『日経サイエンス』2019年2月号には、ラドンと地震との相関を示すデータとして、下のグラフが紹介されています。札幌(上段)と福島(下段)で観測された、2000年以降の大気中のラドン濃度だと言います。

  
  (『日経サイエンス』2019年2月号より)


…一見すると、グラフの変動と、実際に発生した地震や火山噴火と相関があるように見えるかも知れません。しかし、以下に説明しますとおり、よく見てみるとそれはかなり無理のある主張であることがわかります。


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まず、下段の福島のグラフを見てください。このグラフを見ると、2003年~2007年(下の図で白丸を描き込みました)にはラドン濃度の異常もなく、大きな地震の発生も無かったかのように見えます。

ところが実際には、この期間、福島周辺ではM6.5以上の地震が4回も起きているのです(2003年5月宮城沖M7.1、2003年10月同M6.8、2005年8月同M7.2、2005年12月同M6.6)。なのに、このグラフには記載されていません。つまり、ラドンの異常がなかったにもかかわらず起きた地震が、意図的に隠蔽されているのです。

  
  (『日経サイエンス』2019年2月号の図に白丸描き込み)


さらに、このグラフを見ると、たしかに2011年3月11日の東日本大震災の直前に、福島で大気中のラドン濃度が上昇したようにも見えます。ところが、福島の周辺の宮城や栃木の観測点では、実はそのような観測データが得られていないのです(下図)。つまり、東日本大震災の直前にラドン濃度が上昇した福島のグラフだけを選んで紹介し、都合の悪い他の地点のデータを隠蔽しているのです。

  
  (「地震に先行する大気中ラドン濃度変動に関する観測」(東北大)平成25年度報告より)


さらに、上段の札幌のデータも良く見てみますと、ラドン濃度の異常は、地震や噴火の前ではなく、2000年の有珠山噴火の「後」や、2003年の十勝沖地震の「後」に観測されていることが分かります。「ラドン濃度の変動が地震に先行して起きる」と言っている本文の主張と矛盾しています。


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最近ではラドン濃度の観測を行う計測点が増え、多くの地点で常時観測が行われるようになったにもかかわらず、大地震を事前に言い当てた実績はまるでありません。むしろ、上記した宮城や栃木のデータのように、地震の前にラドンが増えていないことが分かってきているように思います。結論を出すのは早計であるにしろ、ラドン濃度が地震に先行して上昇することがほぼ確実であるかのような日経サイエンス誌の記事にも、大きな疑問を感じざるを得ません。

 

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3 コメント

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ラドンでは地震を予知できないのに・・・ (伊牟田勝美)
2018-12-27 22:56:50
御存知のように、地震の規模は、震源域の広さに比例します。
地震は、ある一点(震央)から破壊が始まり、歪みが少ない地点で破壊が止まります。破壊が止まった内側が、震源域です。
地震の規模を知るためには、破壊がどこで止まるかを地震発生前に知らなければなりません。

ラドンが大地震の前だけで増加していると仮定すると、ラドンの発生源は、未来に発生する地震で岩盤破壊がどこで止まるのかを知っていることになります。
これは、不自然です。

そもそも、一つの情報(ここでは大気中のラドン濃度)だけで、地震予知の三要素の全てが分かると考えてしまうところに、科学的なセンスの無さを感じてしまいます。
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地中から滲み出してきた気体の出生はいかに? (Unknown)
2018-12-30 23:54:05
地殻変動によって生じたとされるラドンを地上で観測してるのですよね。
日本列島付近ではたくさんのプレートがひしめき合っていて、特に関東地方では3層構造になっている。
すると同時多発的に3次元の広がりをもってラドンは発生していることになる。常識的には深い位置で発生したラドンが地上に滲み出してくるのには浅い位置のそれと比べて時間がかかってしまうと考えられる。
さらにラドンは水に溶けやすいそうなので、地下水に溶け込んだラドンは地上に滲み出して来るまでに水平方向にも移動してしまうことになる。
よって地上で観測されたラドンはいろんな出生を持ったものの混合ということになろう。
であるならばある地点で観測された個々のラドン原子?が私はこの緯度、経度、深さで、この時刻に発生しましたと言ってくれない限り地震の予知は不可能と言えるのではないだろうか。
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科学誌あらためトンデモ雑誌! ()
2019-05-18 08:15:06
横浜地球物理学研究所さんが検証・指摘された、
>ラドンの異常がなかったにもかかわらず起きた地震が、意図的に隠蔽
>都合の悪い他の地点のデータを隠蔽
>「ラドン濃度の変動が地震に先行して起きる」と言っている本文の主張と矛盾
などのムチャクチャな隠蔽編集・矛盾記事から、
「日経サイエンス」は科学誌どころか“トンデモ”雑誌です!
北大で物性物理を専攻された横浜地球物理学研究所さんの“解析・分析力”に、
機械屋(ローカル大機械科出)は感服した次第です。
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