横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

村井俊治氏の地震予測を信じてはいけません(3)

2015年01月09日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)

本サイトでは、週刊誌を中心に多く話題となっている、東大名誉教授の村井俊治氏(JESEA・地震科学探査機構)による地震予測を、デタラメだと批判しています。

これまでの2回の記事では、彼らが電子基準点データのノイズ変動を全く理解しておらず、実際に地殻変動が起きていると勘違いしているだけだという指摘をしました。

 村井俊治氏の地震予測を信じてはいけません(2)
 村井俊治氏の地震予測を信じてはいけません(1)

今回は、彼の地震予測が実際どれだけ外れているのか、実績をご紹介しましょう。

 ■

9月8日発売の週刊ポスト「異常変動全国マップ」に記載された、彼らが観測したという異常変動の地域と、本日1月9日まで(発売日から4ヶ月間)に発生した主な地震の震央を重ねあわせてみます。

彼らは、ほとんどの場合で1ヶ月前、巨大地震でも6ヶ月前には前兆変動が出ると主張していますので、この4ヶ月間の実績をみれば妥当な評価ができるでしょう。

JESEAのサイトによれば、村井俊治氏は「震度5以上」(おそらく震度5弱以上)の地震を予測するサービスを行っているのだと言います。また、その根拠として、「マグニチュード6以上」の地震162個について全て(!)に前兆となる変動を見出したので、地震予測ができるのだと言っています。

そこで、この基準(震度5弱以上、M6以上)を満たす、この4ヶ月間に発生した地震を列挙してみます。新しい順に、以下の3件です。

2014年11月22日 22時08分ごろ 長野県北部 M6.8 最大震度6弱
2014年10月11日 11時35分ごろ 青森県東方沖 M6.1 最大震度4
2014年9月16日 12時28分ごろ 茨城県南部 M5.6 最大震度5弱


それぞれの震央を、「異常変動全国マップ」に赤丸で重ねてみます。



…いかがでしょうか?

いかにも大きな地震が起きそうな地域に、広大な4つの警戒ゾーンを設定しながら、そのうち1つでしか該当する地震が起きていません。

 ■

これだけだと少し少ないですので、おまけとして震度4以上を含めて差し上げましょう。該当する地震は、以下のとおりとなります(上記3件とその余震、マップ外の震央で発生した地震を除く)。

2015年1月1日 22時57分ごろ 苫小牧沖 M4.4 4
2014年12月26日 22時30分ごろ 滋賀県北部 M4.2 4
2014年12月20日 18時29分ごろ 福島県沖 M5.8 4
2014年12月18日 3時45分ごろ 宮城県沖 M4.5 4
2014年12月11日 15時07分ごろ 山梨県東部 M4.3 4
2014年11月20日 10時51分ごろ 福島県沖 M5.3 4
2014年11月12日 9時53分ごろ 茨城県南部 M4.7 4
2014年11月3日 11時28分ごろ 胆振地方中東部 M4.6 4
2014年10月15日 12時51分ごろ 宮城県沖 M4.5 4
2014年10月3日 9時57分ごろ 岩手県沖 M5.5 4
2014年9月24日 22時30分ごろ 福島県沖 M5.2 4
2014年9月10日 10時09分ごろ 岩手県沖 M5.0 4


それぞれの震央を、今度は青丸で重ねてみます。



…悲しくなるくらい、全く相関がみられません。

以上の地震のうち、警戒ゾーン内で起きた地震はたったの2個だけです。それ以外の13個の地震は全て、村井氏が指摘した警戒ゾーン外で起きています。4つのゾーン以外にも、大きめの異常変動を観測したとする基準点が15個所ほどマップに挙げられています(マップの黒丸)が、長野県白馬村の1点を除いて、異常変動点と震央の分布にほとんど相関がないと言って良いことがお分かりになるかと思います。

つまり、村井俊治氏の地震予測は、ほとんど当たっていないのです。電子基準点に異常があったら必ず地震が起こるとする村井俊治氏の主張も、明らかな大嘘であることがわかります。

 ■

なお村井俊治氏は、1月に発売された最新の週刊ポスト誌において、4つのゾーンのうち、「首都圏・東海警戒ゾーン」、「南海・東南海警戒ゾーン」、「九州・南西諸島警戒ゾーン」の3つを、継続して警戒エリアだとして発表しています。つまり、4ヶ月の猶予期間をもっても予測が的中しなかったゾーンについて、さらに数ヶ月も期間を延長しているのです。半年以上も期間があるのですから、これだけ広大なゾーンのどこかに地震が起きても全く驚くべきことではなく、しかも1カ所でも当たれば週刊誌が「ズバリ的中!」と言ってくれるのですから、全く楽な商売です。

しかも、この最新の週刊ポスト誌では、さらに東北地方と北海道に、新たに2つの警戒ゾーンを発表しています(!)。つまり村井俊治氏らは、合計5つのゾーン、日本の国土のほぼ半分以上の広範囲に対し、半年くらいの猶予をもって地震予測を発しているわけです。こんな予測にいったい何の価値があるのか、週刊ポストの編集者に問い詰めたい気分です。

 ■

このように、異常変動を観測したのに地震がなかった例や、地震があったのに異常変動を観測していなかった例が、極めて多数あるのです。にもかかわらず、各週刊誌や村井俊治氏ご本人は、こうした事実に全く触れないでいるのです。

以上のように、電子基準点のデータも見方がデタラメである上に、地震予測も実際に全く当たっていない村井俊治氏らのサービスを、信じるべき理由は皆無であると断言できます。


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14 コメント

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Unknown (通りすがり(でもなくなりましたが))
2015-01-12 17:25:22
村井元教授の「予測」は、意味のないデータにもとづいているだけではなく、実際にほとんど当たっていないこともよくわかりました。ありがとうございます。

ただ、他の「地震予知」についてもいえることですが、騙される人はなにかにすがりたいのであって、その「予知」が真っ当かどうかなど、どうでもいいのでしょう。だから自分からすすんで騙され、一切の批判をうけつけないのだとおもいます。そうした人たちに対してなにをいってもとりあえずは無駄でしょう。

とはいえ、データにもとづいて自分で判断しようとする人たちもいることでしょう。そうした人たちにとって、このページでなされている諸批判はとてもありがたいものだとおもいます。これからも、学問の良心のようなものをしめしてくださるとありがたいです。
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枝葉末節なことを言いがかりにした中傷誹謗 (BD3)
2015-01-13 23:18:56
初めまして。

いつも具体的でわかりやすい解説ありがとうございます。

村井氏の2015年1月11日13:34のTweetによると「枝葉末節なことを言いがかりにした中傷誹謗」を受けているためしばらく予測に関するツイートをやめる、とのことでした。

その後、励ましのツイートが多数寄せられたため、撤回されたようですが、、、

「科学的アプローチ」と「非科学的アプローチ」を見分ける最も簡単な方法は、「間違いを正す仕組みの有無」と言われますが、今回の村井氏の一連のTweetは、彼のアプローチには「間違いを正す仕組みがない」ことを自ら宣言してしまった、大変残念なものでした。

村井氏は、東京大学の名誉教授という最高レベルの肩書きを持ちながら、イギリスの物理学者マイケル・ファラデーのこの警告の意味をご存知ないようです。
***
人間には、思い通りの証拠や結果がほしい、まずいものには目をつぶりたいという強い誘惑がある。人は、自分に賛同してくれるものを喜んで受け入れる一方で、反対するものはなかなか認めようとしない。しかし良識の教えるところによれば、まさにその反対のことをすべきなのである。
正当な批判は、われわれの糧なのだ。
***
「カール・セーガン科学と悪霊を語る(カール・セーガン著、青木薫訳、新潮社刊)」から引用。この書籍は、村井氏本人はじめ、上に紹介した「励ましのツイート」をする方々に一読いただきたい良書です。
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コメント有難うございます (横浜地球物理学研究所)
2015-01-14 09:35:26
>通りすがり(でもなくなりましたが)様
>BD3様

コメント、誠に有難うございます。

おふたりのご指摘のとおり、地震予知をする側もサービスを受ける側も、まさに「反対するものを認めない」という誘惑の罠にかかっているように思われます。

一方で、我々もこの罠に嵌る危険はいつでもあるわけで、すでに嵌っている可能性もあるわけです。ですので、ご指摘やご批判がございましたら、いつでも是非お願いします。

ところで、「枝葉末節なことを言いがかりにした中傷誹謗」というのは、我々の記事そのもののことではないでしょうね・・・。なお、村井氏ご本人からは、今のところこちらには連絡や反論などは何も受けていません。
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Unknown (Unknown)
2015-01-17 23:03:23
色々な地震予測をされている研究者方を誹謗中傷されているようですが、それが趣味な方なのでしょうか?

それだけ上から目線で、研究者方をバカにしたような記事を書いておられるようなので、相当な功績をお持ちなのですかね?

後、データ等の画像の掲載もされているようですけど、著作者側の許可は頂いているのですか?

勝手な使用は無断転載になります。

表現の自由もありますので、あなたが研究者方をバカにしようが勝手ですけど、こういった誹謗中傷ブログを掲載するようでしたら、鍵付きにして下さい。

このブログの内容は読んでいるだけで胸糞が悪くなるので、当人宛に通報しておきます
返信する
Re: Unknown (横浜地球物理学研究所)
2015-01-18 00:14:15
>Unknown様

コメント、誠にありがとうございます。

趣味というほどではありませんが、明らかに実績を誇張したり改竄したりしている地震予測研究は、後続の研究者に無駄な費用や労力をかけるなど、該当分野の科学の発展を阻害するものです。ですので、そうした研究を批判することは、地震予知の発展のための一助にもなると思っています。そういう思いは強いのですが、はずかしながら、たいした功績はありません。

なお、データ等の画像の引用については、著作権法で認められています(著作権法第32条)。無断転載であっても、批評目的の引用は合法です。そもそも、実質的にデータ自体にすぎないもので創作性のないものは、著作権法で保護される著作物ではありません(著作権法第2条第1項)。興味がありましたら、著作権法を勉強してみてください。

また、当人宛に通報して下さり、お手数をお掛けしました。有難うございます。何らかの反論がいただけるかもしれませんので、議論の元になると期待しています。いまだ本ブログには、当人や関係者からのみならず、第三者からも、論理的な反論が全く来ないので、残念に思っているところです。「胸糞が悪くなる」などの、感情的なコメントは良く来るのですが。
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誹謗中傷とはなんでしょうか? (ばーど)
2015-01-18 13:42:11
前にも似たようなことをコメントした記憶がありますが、誹謗中傷と批判、それを混同する意見がおおいですね。

私が考えるに、誹謗中傷というのは、Unknownさんのご発言だと思います。なぜなら内容に対してきちんとした批判がひとつもないからです。
私としては、「横浜地球物理学研究所さんの、この見解は間違っています。こういう考え方や理論から、このように考えるべきでは」と言うものが批判です。
「色々な地震予測をされている研究者方を誹謗中傷されているようですが、それが趣味な方なのでしょうか? それだけ上から目線で、研究者方をバカにしたような記事を書いておられるようなので、相当な功績をお持ちなのですかね?」等というのが、誹謗中傷というものです。
貴方はここのブログを読んで胸糞が悪くなるそうですが、私は当たってもいないのに、災害を予測したと称する研究者の発言を見て胸糞が悪くなります。

もしここで批判されている研究者の方の方が正しいとお考えなら、その実績を客観的なデータを添えて説明してみてください。私はそれを喜んで拝見させていただきたいと思います。その見解をもっともだと考えれば、その事をこのコメントできちんと書いて支持を表明したいと思います。

科学に批判を反証は当たり前、それを誹謗中傷としか思えないようなら、こう言う話に関わるべきではありません。なぜなら発言者同人に科学的な素養がないことを表しているからです。
科学とは信仰するものではなく、客観的に証明してくものです。
私の感想ですが、ここで批判されている研究者の方で、研究実績を客観的に証明しているお話しを聞いたことがありません。都合のようデータやこじつけを振り回しているばかりのように感じます。
それは批判されてしかるべきであり、それが科学の王道です。

最後に当人宛に通報されたのですか。それは興味深いですね。
私はその方々が、横浜地球物理学研究所様にどう反論されるか、とても楽しみです。そう言う議論を繰り返してこそ、科学は発展していくのです。
もしその方々が反論ではなく、「誹謗中傷だ」という反応しかしないのなら、それこそ表現の自由を盾に、科学を馬鹿にする似非科学者だと私は考えるでしょう。
それでは、ワクワクしながら反論が来ることを待ちたいと思います。
返信する
批判とは「わけること」、「分析すること」です (元通りすがり)
2015-01-18 16:08:21
誹謗中傷という語は「根拠のない悪口や嫌がらせで、他人の名誉を汚すこと」ですが、こちらのページでは根拠にもとづいた批判がおこなわれているだけではないでしょうか。

批判に対しては論理的な批判で応じるべきで、論点のすりかえや、感情的な反応は避けなければなりません。つまり、ここに挙げられているデータを精査しながら議論を構築していく必要があります。

地震予知にかぎらず、なにかが学問の客観性をもちうるために、批判は不可欠です。カント(リスボン地震の報に接し、地震を学問的に解明しようとした)は「自分で考えること」の重要性を説き、批判を思考の基礎におきました。18世紀なかばのことですが、わが国にはいまだに批判をうけつけない風潮があるのでしょうか。

相手が権威者であろうが、自由に批判し、よりよいものをお互いに構築していく開かれた場が、学問には絶対に必要です。
返信する
Unknown (大河)
2015-01-22 22:25:16
はじめてレスさせていただきます。

興味深く読ませていただきました。とても分かりやすく合理的な説明に感銘を受けました。コメント欄に好意的な言葉が多いのも頷けます。

逆に残念なコメントもあります。
私には、何度読み返しても、コメント発言者以外
に、誹謗中傷している発言を見受けられません。

科学は快不快ではなく、正しいか間違いかを客観的に検証して判断すべきものです。

不快だ胸糞やるいだのいう感情論で語ることこそ愚論。

地学の知識が欠けている人には、まともな批判も誹謗中傷にしか思わないのでしょう。残念なことです。

そういう人の存在が、偽科学を蔓延らせるのは、由々しきことです。
そこで一つご提案ですが、地学や地震学、火山学の、入門書的なテキストをご紹介ください。
基礎知識がなければ、簡単に偽科学の商法に騙されます。

少しでもそれを防ぐためにも、初心者向けの入門書の紹介をお願いします。
返信する
Re: Unknown (横浜地球物理学研究所)
2015-01-23 10:46:42
>ばーど様
>元通りすがり様
>大河様

好意的なコメント、誠に恐縮です。有難うございます。

できるだけ客観的に記事を書いているつもりですが、批判対象のレベルがあまりにも酷いと、ついきつい言葉を使ってしまうことも多々あるようです。今後は気を付けたいと思っています・・・。

さて、大河様が「初心者向けの入門書の紹介を」、とのこと。当方も偉そうに紹介できるような立場でもないのですが、初心者向けという観点で良いかな、と思う本がひとつあって、意外に思われるかもしれませんが、

佃為成先生が著された
『地震予知の最新科学 発生のメカニズムと予知研究の最前線』 (サイエンス・アイ新書 39)

です。この本は、実は前半が地震学入門的な内容になっています。イラストつきでわかりやすくスッキリしていて、それでいてGR則や震源球の説明など一般向け書籍にしては踏み込んだ内容にまで至っており、良いと思います。

なおかつ、初学者はやはり興味を持つであろう地震予知研究が、後半に多く紹介されています。地殻の歪み、地下水位、ラドン、電磁気現象、地震直前の発光現象から、宏観異常に至るまで、さまざまな報告例とその検討が記され面白いと思います。また、これらを地震の前兆として良いのかを読みながら熟考することにより、統計学的な判断や、疑似科学を見破る練習にもなりそうです。
返信する
おすすめの書籍 (BD3)
2015-01-23 22:37:00
大河さん

一連の問題の本質は、地学や地震学などの専門分野や知識に依存するものではありません。データの扱い方や、二つの事象間の関連の有無の判定手法など、科学的アプローチの根幹がないがしろにされていることが最大の問題です。

・・・というと、科学の専門教育を受けた人以外には敷居の高い話に思えるかもしれませんが、実は以下のような簡単な話です。

もともと人間は誰しも、以下のような心理特性を持ち合わせていることが知られています。
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何もないところに何かを見る - ランダムデータの誤解釈
わずかなことからすべてを決める - 不完全で偏りのあるデータの誤解釈
思い込みでものごとを見る - あいまいで一貫性のないデータのゆがんだ解釈
欲しいものが見えてしまう - 動機によってゆがめられる信念
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「人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか」
トーマス ギロビッチ著
守 一雄/守 秀子訳
の目次より引用
(AmazonのWEBサイトで著者名「ギロビッチ」を叩いて検索し、カスタマーレビューをご覧になってみることをお勧めします)
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研究行為とは、ここに挙げた心理特性を除去するための客観的手法の実践と言いかえることができます。すぐれた研究者とは、自分の仮説に対して懐疑的な視点に立ち、より客観的な「除去処理」手法の模索や工夫に努力を惜しまない人です。

地震予知や予測の的中事例として世間で紹介される事例の大半は、これらの「除去処理」が全く行われていない、事実をゆがめたデータ解釈です。これは雨男や晴れ女といったジンクスと同次元の低レベルな話でしかない、ということを冷静に理解することが大切です。

先週、集英社新書から発売されたばかりの、村井氏の著書「地震は必ず予測できる!」を早速入手してみました。彼を突き動かしたのは、決して営利目的などではなく、災害を少しでも減らしたい、という純粋で崇高な信念であることは、痛いほどよく伝わってきますし、そこには強い共感も抱きます。ただ残念なことに、その思いが強すぎるあまり「人間の心理特性(思い込み)の除去」という研究の基本スタンスを置き忘れてしまっていることもまたよく読み取れる内容となっています。
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