横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

「“予測/予知が的中した”との答え合わせは本当か? 〜予測失敗を成功にすり替え、科学に背を向け続ける村井氏〜」(寄稿)

2020年05月03日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
(BD3様より寄稿頂きました記事を以下に掲載致します。今回も、「地震を予測できる」と主張してメディアに再三登場する村井俊治・東大名誉教授に対する鋭い批判がありますので、是非ご一読ください)


1. はじめに

MEGA地震予測のメルマガ先週4月22日号と今週4月29日号のコラムでは、村井氏が過去の予測内容と地震発生状況を突き合わせた答えあわせが披露されましたが、いずれも的中とする判断にはそれぞれ重大な問題があります。前回2020年2月の寄稿で予告した第三回「予測とは、そもそも何であるか」というテーマについて着々と準備を進めている最中でありましたが、さすがに二週連続の悪質な自画自賛、どうせ嘘をついても読者にバレないだろう、という甘い認識を放置するわけにはゆきませんので、そちらの手を止めて急遽号外の作成となりました。

直近二回のメルマガとその周辺にどんな事実があったのか、皆様もご一緒に振り返っていただけましたら幸いです。


2. 2020年4月29日号「予測は的中していたと言えるでしょう。」との結論は、事実と真逆

" 2019年5月10日に発生した日向灘地震(M6.3、震度5弱)の6か月前には宮崎県南部と鹿児島県は大きく沈降していました。 3か月前には一旦隆起しましたが1か月前には再び沈降しました。
一方、水平変動はほぼ1か月前の5月に入ると2週にわたって(5月1日号と5月8日号参照) 宮崎県南部と鹿児島県にまとまって異常が現れました。明らかに危険な状態でした。予測は的中していたと言えるでしょう。 "
(2020年4月29日号のコラムから引用。太字化は筆者BD3による。以下同)

該当の「九州南部」地域に対する三段階レベルの最高位「要警戒」の発令は、最新4月29日号でも継続中ですが、それがいつ始まったのか、バックナンバーを遡ったところ、なんと4年以上も前の2016年4月20日号からでした。この日付にピンと来る方はさすがです。その日のメルマガ冒頭には、2016年4月14日と16日に発生した熊本地震の予測失敗に対する反省の弁と、未来に向けた宣言が以下のように記載されたのです。

" JESEAではメルマガ「週刊MEGA地震予測」及び「nexi地震予測」にて3月30日発行号まで「熊本県」を地震予測エリアに入れて 参りましたが、4月6日発行号で地震予測エリアから外しました。 予測を取り下げる際には慎重を期すよう心がけておりましたが、その直後に地震は起きてしまいました。 改めて地震予測期間の精度を上げることが必要だと認識しております。 今年度中にNTTドコモの電子観測点が全国16か所に建てられJESEAの自社電子観測点と合わせて18か所で リアルタイムデータを用いた実証研究が本格的に始まります。 少しでも予測期間の精度が向上できるよう研究を進めて参ります。 "(2016年4月20日号冒頭から引用)

九州南部に対し、4年以上にわたるベタ塗り状態で「要警戒」発令継続中という今の状況は、警戒という言葉に宿る言霊、すなわち、人々に伝えるべき緊急性や希少性といった価値が完全に滅失したインフレ状態と同じことです。もうひとつ、当時神妙に宣言したはずの予測期間の精度向上が、4年経った今なお実現に遠く及んでいないことも意味します。

さて注目すべきは、今日まで4年以上続く「要警戒」ベタ塗り期間中、唯一の例外で「要注意」にレベルダウンしていた時期があったことで、それは2019年4月3日号から6月5日号にかけての2ヶ月間でした(←さらりと書きましたが、このたった2行を調べるのに投じた手間とバックナンバー購入費用をご想像くださいませ)。この4年間の特例中の特例とも呼ぶべきわずか2ヶ月の短期間に、まるで狙い打ちしたかのように発生したのが、問題の2019年5月10日、日向灘を震源とするM6.3、最大震度5弱の地震でした。

よりにもよってレベルダウン中に発生した地震ですから、誰の目にも明らかな「予測モレ」ですが、さらに注目すべきは、上に引用した2016年4月20日号太字箇所の失敗の経緯と反省です。3年前に反省した「予測をレベルダウンした場所/期間で発生」という失敗を繰り返したのですから、どんな人でも凹むはずです。でも自分を客観視できる研究者、すなわち研究者としての健全性を持ち合わせる人ならば、自分の失敗を糧に成長するものですから、二度の失敗を三度はしない、との新たな決意と覚悟で予測手法を見直す絶好のチャンスと気持ちを切り替えて奮い立たせるものです。

ところがどうでしょう。今週村井氏はそしらぬ顔で「予測は的中していたと言えるでしょう」と真逆の評価をされました。熊本地震の直後に誓った「予測を取り下げる際には慎重を期すよう心がけ」に反して2019年4月3日号で要注意にレベルダウンした最初の判断ミス、2019年5月1日号と5月8日号で「明らかに危険な状態」に気づきながら要注意から要警戒へのレベルアップを怠った二つ目の判断ミス、これらの事実とどう向き合えば、ここまで自分に甘い結論を導けるのでしょうか。

同じ失敗を繰り返した認識がないなら、この先何度でも繰り返すのは時間の問題です。JESEAの中にこれに気づいたスタッフが誰もいなかったなら、はっきり申し上げて研究機関としては腐りきっています(営利企業として、ならそれなりに成功していますが、それは別の話)。


3. 2020年4月22日号「地震予知レベルと言ってよい警告」「予知が的中したと言える」との結論に該当する当時の発信なし

" 2018年7月7日に千葉県東方沖を震源とする地震(M6.0、最大震度5弱、震源の深さ70km)が起きましたが、 10日前6月27日号の「MEGA地震予測」では次のような警告を発信していました。
「水平ベクトルは茨城県南部から千葉県にかけて南東方向に極めて大きく出ています。 今迄に見られなかった一斉異常変動です。危険な状態と言えます。」
発信2日前の6月25日(月曜日)の水平方向の変動分析で千葉県中央部から茨城県南部にかけて 約20地点がまとまって一斉に南東方向の大きな水平変動を起こしていました。その上千葉県中央部は沈降していました。 毎週月曜日に前週の電子基準点のR3データをダウンロードして高さおよび水平方向の変動分析を行い、 2日後の水曜日に会員に地震予測情報を発信しています。
 この時のように多数点がまとまって一斉に同じ方向に水平変動を示したのは極めて稀な事象でしたので強く警戒を呼びかけました。 地震予測レベルというより地震予知レベルと言ってよい警告でした。
果たして発信10日後に地震が起きたのですから予知が的中したと言えるでしょう。 "
(2020年4月22日号コラムから引用)

この答え合わせコメントに該当する箇所を2018年6月27日号から抽出したところ、以下がその全てでした。

冒頭の「地震予測サマリー」には

" ・水平変動は東北地方、北信越、千葉県が活発。特に千葉県はこれまでにない大きな変動。 "

と淡々と記述されていました。一方、本文詳細の南関東エリアには

" 水平ベクトルは茨城県南部から千葉県にかけて南東方向に極めて大きく出ています。 今迄に見られなかった一斉異常変動です。危険な状態と言えます。(別地域につき中略)R3データによりますと千葉県房総半島の中央部の沈降が進みました。 "

と同じく淡々と記述されていました。さらに「書かれなかった」事実として注目すべきは予知レベルの警告に不可欠な「発生時期」の言及がどこにもない点です。発生時期の言及なしに「地震予知レベルと言ってよい警告」と言い切ってしまえる稚拙さは、村井氏が地震被害の軽減とは何か、防災の基本を全くご存知ない事実と、地震予測研究者としての資質のかけらすらない事実の重要な証左であり、ぜひ皆様方にはこの点をしっかりご記憶にとどめていただきたく存じます。

書かかれたご本人の自画自賛以外に、この記述から「強く警戒を呼びかけ」「地震予測レベルというより地震予知レベルと言ってよい警告」であると読み取れた人は、実際にどれだけいらっしゃったでしょう。南関東に住む会員が、問題の2018年6月27日号の冒頭見出し

地震予測サマリ-
〇警戒レベルアップ地域
北海道北部:要注視(新規)
北信越地方・岐阜県:要注意→要警戒
〇警戒レベルダウン地域
なし


を見れば、だれもが「今週は先週から変化なし」と解釈するはずです。時間に余裕があって、しっかり読み込む人なら、その下に淡々と記述された「これまでにない大きな変動」「今迄にみられなかった一斉異常変動です。危険な状態と言えます」などが目に入ったことでしょう。でもこれを「強く警戒を呼びかけ」や「地震予知レベルと言ってよい警告」と解釈して、地震被害を軽減する行動変容に結びつけた、という方は誰一人いらっしゃらないはずです。

ところで、南関東では、2018年4月25日号から現在にかけて、2年以上にもわたって最上レベルの「要警戒」が継続中ですので、前章で紹介した南九州と同じくベタ塗りのインフレ状態です。警告レベルは現在

 要警戒(震度5以上の地震が発生する可能性が非常に高い)
 要注意(震度5以上の地震が発生する可能性が高い)
 要注視(震度5以上の地震が発生する可能性がある)

の三段階で運用されていまずが、かつて2017年8月16日号まではレベル5〜レベル1という5段階で運用されていました。現在の三段階は当時のレベル4〜レベル2に該当し、その上下に

 レベル5(震度5以上の地震の可能性が極めて高く緊急性がある)
 レベル1(何らかの異常変動があり、今後の推移を監視する)

が存在(※)した時期があったのです。

最上レベルの「要警戒」のベタ塗りインフレ状態で「頭が天井につっかえた状態」が継続中に、地震予知レベルと呼ぶべき高レベルの警告を要する予測が導かれた場合、読者に最も確実に伝わる発信方法は、誰もが一目でわかる「要警戒」より上位のレベル5を復活させる、いわばインフレ時におけるデノミネーションのはずです。「地震予知レベルと言ってよい警告」と言い切りながら、レベル5復活に踏み切る判断をせず、脅しのフレーズで煽るにとどめた事実とどう向き合えば、ここまで自分に甘い結論が導けるのでしょうか。

※:2017年8月23日号に、レベル5を廃止した理由の説明があります。一見それっぽい難解な説明が面倒で斜め読みして騙された方は多かったはずです。注意深く読むと「地震予測期間の精度向上に挑んだがハズレてばかりだったので、ハズレを出さないために絞り込みを緩めることにした」という呆れた内容です。言い換えると「実用性を伴う予測手法の確立はあきらめたので、今後は実用性のない的中にみえる錯覚で会員を欺くことにした」という驚くべき方針表明です。2016年4月20日号の「地震予測期間の精度を上げることが必要」「少しでも予測期間の精度が向上できるよう研究を進め」の宣言から、1年4ヶ月後の撤回宣言でした。関心のある方はバックナンバーを購入してご自分の目でご確認ください。


4. メルマガの予測内容は空っぽなのに、読者はなんとなく満足できてしまう騙しのトリックとは

メルマガの予測内容は空っぽで、村井氏はとんでもない発言ばかり繰り返しているにも関わらず、多くの読者がそれに満足できてしまえる理由はなぜなのか?それは、村井氏の巧みな騙しの手口にあります。

これから説明する一次データ(の特異値)〜予測手法〜予測内容の関係を図示するとこんな感じです。ちょっと面倒なので図と照らし合わせながら読んでみてください。



今回指摘している、直近2回のメルマガのコラムの中で、予測的中という誤った答え合わせの裏付けに利用されたのは、何やら小難しくご利益のありそうな専門用語で修飾された特異値への言及でした。ところがこれは予測手法に投入する前の一次データに特異値が含まれていたという客観事実の転写に過ぎませんから村井氏の予測手法や予測結果の成果ではなく、当然答えあわせの対象でもありません。一次データを予測手法に投入した結果として導かれた予測内容、すなわち先週からのレベルアップは不要とした誤判断こそが村井氏の予測手法と予測内容の成果であり、答えあわせの対象です。村井氏の答えあわせには、こうしてすり替えるトリックが巧みに使われますので、我々はそれに騙されないよう注意深く見抜く必要があります。

読者が会費を払ってでも手に入れたいのは、地震被害の軽減に使える予測内容です。自分の関係地域は、先週より危険を増したかどうかを知りたいのであって、予測手法に投入前の一次データの特異値を知りたいのではありません。警告のレベルアップ/ダウン時に、根拠として一次データを添えることには意味がありますが、主従関係はあくまでもそこです。MEGA地震予測のほぼ全体は、この主従関係を入れ替えた騙しのトリックで構築されています。毎週届くメルマガを眺める際は、この入れ替えトリックに騙されないよう気をつけましょう。

以下の観点で、試しにどれかひとつメルマガを注意深く読み返してみてください。そのトリックが見えてくるはずです。

予測詳細ともいうべき本文である「2.地震予測」には
・一次データの特異値ばかり掲載し、その解釈について村井氏は大半を放棄して読者に丸投げ、でも読者が考えなくて済むよう脅しのフレーズで煽っておくサービスは抜かりなく
・肝心の予測内容、いつ/どこで/どんな規模の地震が起きるか一切言及なし

いかがでしょうか。予測内容は空っぽなのに、一次データの特異値と脅しのフレーズさえ駆使すれば読者を不安にさせることに成功し、読者はなんとなく不安感を抱けたことで満足できてしまう、そうして騙されたことに気づかせないWin & Winが成立する高度な騙しのテクニックです。このような実態なき不安感を抱くことに会費を払う価値はあるのでしょうか。さらに種明かしすれば、漠然とした脅しの単語をほどよく全体に散らして煽っておく効果として、今回のメルマガのコラムのような答えあわせのときに的中実績としてカウントできて便利、というこれまた巧妙なトリックがあります。よくぞここまで消費者をバカにできたものです。経営理念に地震被害の軽減を掲げる営利企業として、これが誠実な態度といえるでしょうか。

一次データにせよ予測内容にせよ、「強く警戒を呼びかけた」や「警戒を怠らないで」などの脅しのフレーズで煽ってみせる村井氏のワンパターンスタイルは、ふだんからメリハリ無く繰り出しては空振り、を何年も継続した実績が充分蓄積されました。蓄積の効能として、メルマガ会員はイソップ寓話の「狼が出たぞ〜」さながらに、すっかり慣れっこなってしまった実態があります。いつ/どこで/どんな規模の地震が起きるかを発信しない限り、地震被害を軽減する行動変容を起こす人など誰一人もいない現実について、村井氏本人および村井氏を支持される皆様はいかがお考えでしょう。脅しのフレーズで煽られ抱いた不安感だけで地震被害が自動的に軽減されることは決してないという真理に一日でも早く気付いていただきたいものです。もし、いやそんなことはない、自分またはその周囲に、地震被害を軽減する行動変容を起こした、という方がいらっしゃいましたら、どの地域の方が、何号のメルマガのどの記載から、いつどんな行動変容をしたのか、教えていただけましたら幸いです。


5. また会う日まで

誤解を避けるために補足しますと、予測を外したこと自体について、私は全く問題視しません。当たることもあれば外れることもある、それが予測として当然のことだからです。

私が問題視するのは、外れたケースの取り扱いかたと、巧みな騙しのトリックの2つです。後者は上で十分述べましたので、前者についてあともうほんの少しだけお付き合いください。

予測を外した失敗と向き合うことで得られる学びは、未来の予測技術の向上に繋がる貴重な糧です。失敗と認識できた材料が多いほど、より適切な成果への軌道修正の糧も多くなる、とポジティブに受け入れて改善してゆくプロセスのことを科学と呼びます。どんな研究にも大なり小なり失敗は必ずつきまとうものです。しかし失敗の多くを成功だとゆがめてしまうMEGA地震予測ではその改善プロセスがほとんど機能停止しています。つまりこんなことは地震学うんぬん以前に、そもそも科学ではありません。私が最も批判するはこの点です。ハズレをハズレと認識しない予測研究開発の現場では、予測技術も予測精度も決して向上しません。的中したようにみえる錯覚の正体は、地震被害の軽減に使えないくらい予測内容を曖昧にぼかしたおかげであり、答えあわせは今回紹介した手口でうまくごまかしているだけです。

東京大学名誉教授という肩書きをお持ちですから、こんな簡単な科学の基本は当然ご承知であり、釈迦に説法のはずです。にもかかわらず、大事な分岐路に立つたびに、目先のメンツばかりにこだわるのかどうか知りませんが、予測技術の向上のチャンスをみすみす無駄にする道ばかり選択するという科学への背信の態度を公にしながら、地震被害の軽減に一切結びつくことのない金儲けにのみ邁進する姿勢は、極めて残念でなりません。

最後になりましたが、読者の皆様方におかれましては、今回もまた長文におつきあいいただき、ありがとうございました。もともと予定していた「予測とは、そもそも何であるか」という、さらに一層根幹に斬り込むテーマについても、興味深いおどろくべき材料が揃ってきました。こちらもSTAY HOME GW中の仕上げを目指して鋭意準備中ですので、ご期待ください。
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “科学的根拠”とは? 〜正反対... | トップ | 地震予知に関する特許について »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (通りすがり)
2020-06-13 08:55:03
性善説が根付いた日本で、
いまや、メディアや政治家、そして学者を性悪説で見ないといけない時代が来た
返信する

地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)」カテゴリの最新記事