神奈川県は都に隣接する首都圏ですので、あまり自然が豊かなイメージは無いかも知れません。しかしながら、地質学的にみると、実は非常に面白い場所が数多くあり、その意味では特異な県だとも言えそうです。
県東側では、三浦半島に数多くある地層の露頭や、活断層などが挙げられます。県西側では、沸石で有名な湯河原や、箱根・丹沢といった、特徴的な地質や鉱物を多くみせてくれる地域もあります。隣県まで少し足をのばせば、静岡や山梨の富士山溶岩や火山灰、埼玉などの三波川変成体など、興味深い場所がたくさんあります。
そのなかで、今回は丹沢山地(特に東丹沢)でみられる特徴的な鉱物である、セラドナイト(セラドン石)を挙げてみます。
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セラドナイトは、理想組成式(Mg,Fe2+)(Fe3+,Al)[(OH)2 |Si4O10]の、青みがかった緑色が美しい鉱物です。特に綺麗なものは、翡翠のような宝石に近い外観のものもあります。それほど貴重な石ではありませんが、特殊な成因でできる石なので、ありふれた石という訳でもないようです。書店などで良くみかける「鉱物フェア」の類では、まず売られていません。ネット販売などでも、売っているのを見たことがありません。堀秀道さんの『楽しい鉱物図鑑』でも、ややマイナーな鉱物を紹介する第2巻で出てきます。
東丹沢では、このセラドナイトが、ざっくざっくと採れます。採れますというより、簡単に拾えます。

セラドナイト(神奈川県愛川町中津川産 横浜地球物理学研究所蔵)
(実物は石全体がもう少し綺麗な青緑色に見えるのですが…。茶色の部分はデイサイト質凝灰岩で、丹沢でのごく一般的な産出形状です)
神奈川県では、ごくごくまれにですが、「セラドナイトをみつけよう」といったツアー(イベント)があることがあります。色が翡翠に似ているので、勾玉に加工することもあるようです。そういったイベントで、丹沢の山奥に入って行ってセラドナイトをみつけたりすることもあるのですが、沢の上流にある大きな露頭を目指すものでない限り、東丹沢を流れる川の河原で当たり前に見つかります。ハンマーすら必要なく、転がっているのを拾うだけです。付近にお住まいの方は、ぜひ探してみてはいかがでしょうか。
上の画像のセラドナイトを採取したのは、中津川という川です。中津川は相模川の支流で、宮ケ瀬湖を上流に持ちます。特に、愛川町中津付近の中流域は、バーベキューを楽しむひとたちで賑わい、車を停めるところも広いので、便利です。その河原で、特に川の水が流れているところまで入ると、青緑色の石ころがあっと言う間に、簡単に見つかります(濡れているほうが目立ちます)。ここで綺麗な青緑色の石があったら、まずセラドナイトだと思って良いと思います。鉱物採集の「入門中の入門」として、おすすめできます。
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セラドナイトは、海底火山の噴出物が海底に堆積し、海水中の成分と反応することによって生成するのだそうです。つまり、丹沢で特徴的にセラドナイトが見つかるということは、丹沢山地がかつて海底火山であった証拠なのです。同様な起源を持つ伊豆などでも、セラドナイトは見つかるようです。詳しいところは専門家の方に譲りたいのですが、丹沢のセラドナイトは、おそらく1500万年以上前(古第三紀から新第三紀)に、海底で堆積しつくられたものだと思われます。
このような地質学的にも面白く、かつロマンあふれる鉱物が、ふつうに転がっていて簡単に採取できるのですから、神奈川県は(意外にも)おもしろいのです。