横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

最近の文化放送の2番組から 〜数々のウソを公共の電波に乗せてしまってよいのか〜(寄稿)

2021年09月06日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
(BD3様より寄稿頂きました記事を以下に掲載致します。「地震を予測できる」と主張して有料メールマガジン「MEGA地震予測」でビジネスを展開する村井俊治・東大名誉教授がラジオ番組に出演した様子とその考察です。「MEGA地震予測」の実態が良く分かる考察となっておりますので、是非ご一読ください)


1. はじめに

東京大学名誉教授の村井俊治氏は、ご自身が取締役会長を務める株式会社地震科学探査機構のビジネスの販路拡大を目的として、最近はラジオ番組に頻繁に出演して同社の取り組みを紹介しておられます。先日Twitterで告知しておられた文化放送の以下の2番組


・おはよう寺ちゃん:8月23日(月)〜8月27日(金) 「寺ちゃんのビジネス探訪記」 6:57〜7:00前 tera@joqr.net
・文化放送報道スペシャル 長野智子 防災ステーション:9月1日(水) 13:45頃〜13:50頃 special@joqr.net


を拝聴してみました(話す側の立場から「拝聴してください」とは、敬語の使い方を間違えていますね)。

内容の多くが事実に反する村井氏の思い込みやウソばかり、という公共の電波で流すには相応しくないものでしたが、番組をお聴ききの中にはウソを真実と誤認された方々もいらっしゃる懸念があります。特に重要な箇所について、放送内容と、それに該当するMEGA地震予測メルマガ内容でファクトチェックした結果を紹介することとします。おそらく文化放送さんは、立派な肩書きやそれらしい会社名にコロリと騙されて、内容のファクトチェックをまるまる怠ってしまったのでしょう。あらためて自社の放送基準と照らし合わせて過ちを振り返っていただきたいものです。また、上に挙げた番組別E-Mailアドレスで意見を募っていますので、皆さんもご意見を送ってみられてはいかがでしょうか。


2. 予測手法とGPS以外に採用しているデータについて

寺島:画期的な技術なわけですね。なにか加えて最近予測するのに新たなテクノロジーも取り入れたって聞いたんですが
村井:今はやりの人工知能を入れて順位づけをしていますと、その他に、耳に聞こえないインフラサウンドとゆう、非可聴音といいますけど地震の前に全地球を走り巡ります。から気温でさえ変わります
(おはよう寺ちゃん 8/23)

村井:ここ数年間でさまざま研究してますと、地震というのはものすごい複雑で、いろんな前兆が出る、ということがわかっております。地殻変動もその一つ。だけど、理由はわかりませんけども、地震の前にはインフラサウンドとしまして、人間の耳には聴こえない地鳴りみたいなものです。
(防災ステーション)


人工知能を入れて順位づけ:MEGA地震予測2020年11月25日号から2021年6月30日号の約7ヶ月間、全国を14分割した地域に対し「ダイナミックAIによる危険度ランク上位5位」が掲載されていました。ところが2021年2月10日号のように、南西諸島の危険度が全国第1位にランクアップと騒ぎ立てる一方で、従来形式のランクは「要注意」を維持したまま「要警戒」に上げない、といったチグハグな扱いが続いていました。さすがにまずいと思ったのか2021年7月7日号のリニューアル後、ダイナミックAIの言及は、静かにそして完全に取り下げられて現在に至りますが、放送ではしゃべってしまったようです。

インフラサウンド:すでに世界の様々な機関で、地震発生時の地震波そのものや、地震発生後の津波を起源とするインフラサウンドを観測する取り組み(監視網)が存在しますが、地震前兆を起源とするインフラサウンドの存在を主張するのは一部の「自称」研究者だけです。MEGA地震予測2021年2月17日号では、2月13日に発生した福島県沖を震源とするM7.3最大震度6強の地震前兆のインフラサウンドを捉えていたと主張しています。ところが縦軸にも横軸にも目盛がなく、地震当日の地震波そのものの波形を欠いたグラフっぽい図形からは「村井氏の科学者としての資質の欠如」以外に読み取れる情報は何もありません。


MEGA地震予測2021年2月17日号より

気温:擬似気温とは、このブログで2019年7月に紹介 (https://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/9fc1330be58fde4f505f91b99ac23623)した、「白金測温抵抗体の異常値」のことです。MEGA地震予測2021年2月17日号では、2月13日の福島県沖M7.3の地震前兆として擬似気温が観測されたと主張しています。また「相関分析を3年近く行っています」と述べていますが、これはあらゆる学術界で一般的に通用している「相関分析」を指しておらず、村井氏が独自解釈でねじ曲げた稚拙な別手法を指しています(後述)。またグラフの縦軸は「擬似気温を示した測候所の個数」とのことですが、擬似気温か否か判定するには全国1,300箇所のAMeDASに人員を配置して、アナログ温度計の目視結果と比較する必要がありますが、彼らは一体どのような方法や基準で判定したのでしょうか。


MEGA地震予測2021年2月17日号より

いろんな前兆が出る:「これはもしや地震前兆なのでは?」と目をつけた事象に対し、本当にそれが地震前兆といえるか、発生のタイミングが偶然重なっただけで関係なし、なのかを判定するプロセスを科学と呼びます。研究に取り組む人は誰しも「自説の正しさの実証」を目標にするものですが、その判定〜検証プロセスに私情や想いを混入させると結果をゆがめてしまう弊害を伴うことがわかっています。そのため主観を排除する工夫や、自説に対する懐疑的姿勢というのが科学の根底にある哲学ともいえます。ある事象が前兆かどうかの判定であれば、「2x2分割表」という便利で簡単ですが強力なツールがあり、以下4パターンで拾った回数の値を突っ込むだけで、判定結果が客観的な計算値として導かれます。

前兆と目をつけた事象が…
A) …発生したあと、地震が発生した回数(的中事例)
B) …発生したあと、地震が発生しなかった回数(ハズレ事例)
C) …発生せずに、地震が発生した回数(空振り事例)
D) …発生せず、地震も発生しなかった回数(安全確認事例)

ネットに公開されている誰でも使えるツールに突っ込むだけなので、計算は一切不要です。こういった客観的手法を一貫して拒み続ける村井氏がいう相関分析とは、A)の事例だけ(より正確には「地震の発生後、前兆と目をつけていた事象の事前の発生状況」)拾って自説に不利なB)C)を無視し「過去の大地震X回のうち、その直前に問題の事象はY回みられたので、高い相関あり」とする極めて稚拙な方法であり、ご都合主義です。


3. ピンポイント予測について

寺島:ピンポイント予測というのが先生、あるんですね
村井:はい、最近始めました。予測は「いつ」「どこで」「どのくらい」の地震が起きるかを予測するのが予測の本流ですけれども、なかなか「いつ」といえるような精度が上がらなかったです。それが最近は、その衛星画像を使うことによって「いつ」というのが、大体一ヶ月以内ぐらいには言えるようになりましたね。で、場所もわかりますし、だいたいマグニチュード6、6.5、7ぐらい、プラスマイナス0.5ぐらいで言えるようになりました。それをピンポイント予測とゆうています。
寺島:これはどれくらいの確率で予測できるものなんでしょうか?
村井:えーと今までですね、検証8例しましたけど、約8割ぐらいの確率で思ってます。もちろん見逃しも空振りもありますけれども、まぁ8割ならばもうね、と思います
寺島:ええ、じゃ、かなり高い確率だとおそらくラジオお聴きの方もお感じだと思います
(おはよう寺ちゃん 8/25)

長野:MEGA地震予測のアプリに、ピンポイント予測、っていうものがあるんですが、これはどういうものですか?
村井:地震予測/予知っていうのは、「いつ」「どこで」「どのくらい」の規模で地震が起きるかってのを言い当てることです。今「いつ」っていうのが、だいたい一ヶ月以内、「どこで」っていうのが、まぁ東北地方とか関東地方くらいのレベル、それから「どのくらいの規模」っていうのは、マグニチュードで言えば±0.5くらいの精度で言いあてることができることをピンポイント地震予測、と言ってます。
長野:どのくらいの確率で予測できるんですか?
村井:今は会員に公表している事例では、8事例中6事例の捕捉率を持っています。約75%ですね。
(防災ステーション)


ピンポイント予測:MEGA地震予測メルマガのピンポイント予測配信は2021年6月2日号から始まり、これまで4事例(新規3事例、期間延長1事例)の予測が配信されました。予測の発出状況と結果コメントを拾って突き合わせてみました(ID番号はメルマガにはなく、筆者が独自に設定)。


その結果は、「延長表明1、取り下げ表明1、発生せずコメントなし1、経過観察中1」であり、番組で語られた「8割」や「8事例中6事例の捕捉率」は、根も葉もない真っ赤なウソでした。なお、たとえこの4事例の中に的中実績が含まれたとしても、それは村井氏の予測手法の成果ではなくトリックに過ぎませんので、それを見破る方法と根拠もついでに紹介しておきましょう。
「どこで」について、メルマガの図を拾ってみると以下の通り非常に広い範囲を対象としており、番組で語られた「東北地方とか関東地方くらいのレベル」より遥かに広く、「ピンポイント」のイメージともずいぶん違っているのではないでしょうか。

「どこで」の範囲をこれだけ広げると、昨年末までの36ヶ月間(2018/1/1~2020/12/31)でM5.5以上の地震は、以下の通り21回発生した実績がありました。平均すれば年間7回の高頻度で発生した実績のある範囲ですから、予測期間を1〜2ヶ月程度に広げておけば、地震予測手法を使わず下駄を放り投げる占いでも、「的中」は、向こうのほうから勝手に転がり込んできてくる、というのが村井氏のトリックの種明かしです。みなさまくれぐれも騙されないようにしましょう。

(出典:気象庁提供データを用いた、東京大学地震研究所鶴岡氏の地震活動解析システムhttp://evrrss.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.html から、左「N-T図」、右「HYPO図」)


4. 「人の命を救う」という使命について

寺島:地震科学探査機構を作ったきっかけ、教えてください
(中略)
村井:もうひとつは人の命を救うと。ですから毎週水曜日、約4万人の会員に配信しております
(おはよう寺ちゃん 8/23)

村井:(ピンポイント予測の実績コメントの続き)それから一ヶ月から三ヶ月くらいの◯◯(聴き取れず)ですと約85%の補足率を確保しております。
長野:つまりその、日々観測したものを我々がキャッチして、ええっと備えられるということですね?
村井:そういうことです。それが命を救うっていう我々の使命、会社の使命に一番あってると思ってるわけです。
(防災ステーション)

寺島:政府は首都直下地震は今後30年以内に南関東でマグニチュード7クラスの地震が起きる確率70%と発表しています。村井さん、これはどうお考えでしょう
村井:国民はですねぇ、30年間に70%と言われても具体的に準備ができない、備えができない
(中略)
寺島:そうですか、あと南海トラフの方ですが、今後30年以内の地震発生確率60%から70%と言われています。こちら村井さん、いかがですか
村井:はい、もし、南海トラフが起きたら、30万人の犠牲者が出ると言われてますよね。国民の大関心事ではあるわけです。で、それで60%70%言われてもどうしていいか判らないわけです
(おはよう寺ちゃん 8/27)


人の命を救う:そのためにはまず地震災害の死因を知っておく必要があります。多くの死者を出した5つの地震の原因別死者数をまとめた資料をご覧ください。


自然災害科学J. JSNDS 35-3 203-215(2016)「平成28年熊本地震による人的被害の特徴」より

ここに計上されているのは、地震そのものが直接的な死因となった方々で、地震対策として一般にイメージされがちな防災グッズや非常食の出番の前に、すでに命が奪われてしまっていることに特に留意いただきたいです。短期的な発生予測によって地震災害から人の命を救う対策とは、倒壊/土砂/火災に巻き込まれない避難行動の発動を意味しますが、長野さんの「備えられる」というコメントや、MEGA地震予測のメルマガで毎回のように繰り返されて、もはや狼が来る少年状態に陥っている「警戒を怠らないで」「注意が必要です」「変動に異常値が検出されました」といった呼びかけを受けて、こうした避難行動を発動する人など、誰一人いないはずです。
人の命を救うことを目的とした「予測」であるためには、これら避難行動のトリガーとして使える精度で「いつ」「どこで」「どんな規模」の三要素が絞り込まれている必要があります(水害や土砂災害の避難情報をイメージするとわかりやすでしょう)。2021年7月7日号のリニューアル後でも、MEGA地震予測の発信内容は「マグニチュード6.0以上について、いつ=数週間〜1ヶ月/どこで=全国14区分」という粗い内容のまま精度向上は見送られましたし、放送で盛んに宣伝していた「ピンポイント予測」にしてもその化けの皮は上で剥がした通り、いずれも人の命を救える実用性には全く及ばない代物です。8/27の番組の中で村井氏がいみじくも述べられた「具体的に準備ができない、備えができない」「言われてもどうしていいか判らないわけです」という言葉は、ご自身が販売する情報の内容に対するご自身による評価として、謙虚にそして重く受け止めるべきでしょう。

気象庁のWEBサイト「日本付近で発生した主な被害地震https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/higai/higai1996-new.html」のリストから拾うと、2013年2月のMEGA地震予測のメルマガ開始以降、被害地震は38回発生し、負傷者4,353人、死者322人を数えます。人の命を救うことがJESEAの使命であるなら、その実力の実績として拾うべきは、この38回の被害地震において、メルマガ情報をトリガーとした事前避難行動によって死傷から救われた事例であって、上で正体を暴いたトリックまがいの「捕捉率」などではありません。そして、その実力/実績は、いまだにゼロである現実としっかり向き合うべきでしょう。


5. 最後に

村井氏はメルマガ読者数について2019年春の書籍で5万人と書いておられましたが、今回の放送では4万人と述べておられることから、この2年で2割近い解約者があった模様です。会社名に科学を含めながら、それに反して哲学なき科学から導かれた彼らのインチキビジネスの実態を見抜ける方々が増えつつある成果がここに現れていると考えられます。今後もそういった方々がひとりでも多く増えることを願ってやみません。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「電子数による地震予知」を疑う理由

2021年03月08日 | 地震予知研究(その他)
 
近年、「大地震の発生直前に上空の電離層で異常が起こり、上空電子数(TEC)が増える」と主張する研究があり、テレビなどメディアでも紹介されています。代表的なものには、日置幸介・北海道大教授や、梅野健・京都大教授による研究があります。

「夢の地震予知が実現か」と一部では期待されているこの研究ですが、個人的には私は非常に懐疑的にみています。その理由を、以下に幾つか挙げてみます。


 (1) 地震と関係がない場所でも電子数異常が起きている

梅野教授らは、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震や、熊本地震の直前に、上空の電子数が異常に増えたと主張しています。たとえば下の図は、東北地方太平洋沖地震の発生4分前の上空電子数を示した図です(地上の各観測点と、斜め上空の或る衛星と、の間の空域の電子数を示しているので、日本列島がずれたようなプロットになっています)。

  
  (http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/1/7/17114.htmlより。矢印は筆者による)


たしかに東北沖で電子数の増大(紫矢印)が起きているように見えますが、よくみると、ほかにも鳥取沖や日向灘といった震源とは全く関係ない場所にも、強い増大が起きている緑矢印)ことが分かります。

東北での大地震の4分前に、東北のみならず鳥取沖や九州沖でも異常が起きているのなら、6分前や8分前や10分前や・・・にも、日本のあちこちで異常が起きていたのではないかと想像できます。しかし、なぜかそのことは触れられません。なお、梅野教授は「2016年熊本地震の本震40分前に九州で異常があった」とも主張していますが、そのときの動画をみても、ほぼ同時刻に九州だけでなく北陸地方にも異常が出ていたことが見てとれます。

都合の悪い事実を隠蔽しているわけではないのでしょうが、震源近くの異常値だけを強調し、地震とは関係なさそうな場所でも異常値を示していることを黙殺するというのは、この種の研究としてはいささか不誠実だと思います。

※追記 2021年に、この梅野教授らの主張に疑義を呈する研究結果が出ましたので、追記しておきます。結論としては、梅野教授らが地震の前兆として観測したという電子数の変動は、地震のない平常時にも頻繁に観測されるものであり、有意な異常とは言えない、というものです。)


 (2) 電子数の増大が本当に「異常」かどうか疑わしい(※)

日置教授は、チリ地震や東北地方太平洋沖地震といった大地震の直前に、電子数が正常値より増えていたとして、以下のような観測結果を示しています。この図で日置教授は、それぞれの大地震の直前に、電子数の観測値(赤矢印)が、正常値(青矢印)より増え、地震の発生後に急激に戻ったと主張します。

  
  (地震予知総合研究振興会「地震ジャーナル」53号, 2012年より。赤青矢印は筆者による)


しかし、ここで大切なことは、電子数は季節変化も時刻変化もし、さらには日によって大きく変動のしかたも変わる、不安定なものであるということです。つまり、青矢印で示した電子数の「正常値」を表す曲線が、正しく仮定されたものであるかが分からないのです。

この点については、鴨川仁・東京学芸大准教授らが、日置教授が示す電子数異常は、単に正常値の計算方法が不適切であるための見かけの現象であり、日置教授の計算方法による正常値を使うと、地震当日だけでなく前後3日を見ても、同時刻には電子数が異常増大していることになってしまうと指摘しています(鴨川ら2013)。

  
  (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgra.50118/fullより)


鴨川准教授らはあわせて、大地震当日に、地震発生直後に電子数が急激に低下しているのは、地震の発生に伴って前兆が消えたからではなく、単に津波の発生による音響波が上空に届いた影響であろうとしています。

・日置教授が地震当日のデータしか出していない(※下記参照)
・地震の前兆で漸進的に増えた電子数が、地震後に「急激に」減るというのは、感覚的に受け入れられない(逆に津波の発生で音響波が上空に届いた影響というのは非常に受け入れやすい)
・日置教授が報告している、地震直前に電子数が増え地震後に急減する事例が、津波が発生した海溝型大地震に限られている事実を、津波発生による音響波で説明できる

・・・といった点からみても、鴨川准教授らの主張にはおおいに分があると思います。

※追記: いまや日置教授は上記のデータではなく例えばこちらのデータで議論しているとご指摘を頂きましたので、ご留意下さい。地震の前の電子数が、正常値よりも大幅に増大していたとする主張を事実上取り下げて、変動のグラフが折れ曲がっている、と見せ方を変えるものです。

  
  (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2015JA021353/fullよりFig.6)

ただし、そもそもこのような「後でごっそり取り下げて別の主張に変えなければいけないようなデータを提示して何年も地震前兆と主張していた」ということ自体も、疑う理由となり得ます(前の論文は取り下げて主張を撤回するべきではないでしょうか)。たとえば、「折れ曲がり」は「正常値からの増大」とは限らないので、異常増大したとの主張が事実上極めて大幅にトーンダウンしています。それに、今後また同じようにデータの見せ方が総取替されるのではないかなどの疑念も抱かせるものです。

また、新しいデータの見せ方でも今のところ地震と異常との相関を疑義なく納得できず(① Fig.6では、特定の観測点-衛星の組み合わせによる観測値を示しておられるが、震源上空をカバーする他の組み合わせ、震源上空をカバーしない他の組み合わせ、について考察が足りないため相関が議論できない、② Fig.6だけを見ても地震と関係ない折れ曲がりが多くみられる、③ 折れ曲がりだけでなく極大や極小などの特徴点も考え合わせれば無数に異常があったと言えてしまう、④「折れ曲がりは地震と関係なく10時間に1回はある」という記載もある)、上記の津波の議論、および以下の(3)(4)についての感想は変わらないので、上記はそのまま残しておきます)


※追記2 2020年に、日置教授らの主張に疑義を呈する研究結果が発表されていますので、追記しておきます。内容を要約しますと、上述の私の疑問①~④に関するもので、視野に入る別の衛星による観測値も考慮すると、日置教授が主張するような「異常」の頻度は(地震と関係なく)もっと高くなり、大地震の前に異常があったというのは偶然(換言すれば都合の良いデータを示した衛星を選んだことによりそう見えただけ)と言えそうだ、というものです。)


 (3) 研究結果の間に矛盾がある

そもそも「地震の前兆として電子数が増える」と言われ始めたきっかけとなった、古い研究結果が幾つかあります。しかしそこでは、電子数が異常を示すのは、地震発生の数日前だとされているのです。

  
  (「内陸地震に先行する電離圏変動:GPSによる検証」菅原守氏(北大)2010年より)


この図では、2008年の四川大地震(Mw7.9)の3日前に電子数の異常がみられたことを報告しています。これに対し、日置教授や梅野教授らの主張は、地震発生の直前の数十分から数十秒のオーダーという直前のタイミングで異常が起きるというものです。この不一致は、いささか納得できません。

さらに言えば、上に示した日置教授の電子数遷移のグラフと、梅野教授が示した異常のデータも、そもそも整合していません。日置教授のグラフによれば、電子数は地震発生前40分前から異常に上昇し、高い値を長時間保ち続けますが、梅野教授が示したデータでは、電子数が異常増大を示すのは地震の4分前、それもほんの一瞬のことです。


 (4) 上空の電子数が増える原因が考えられない

これを言ってはミもフタもないのですが、数キロから数十キロという深い地下や海底で地震が発生する前に、高い高い上空の電離層で異常が発生して電子数が増えるということ自体が、はっきり言って少々荒唐無稽に思えます。そのようなことを説明できる物理モデルがあるとは、残念ながら思えません。

特に、海底での大地震の前に震源で発生した異常が、厚い厚い海水をどう伝わって、電磁気的な異常として上空に到達するのか・・・と考えてみると、ほぼそんなことはありそうにないと思います(たとえば、電波が海中ではすぐ減衰して使えないことは有名ですし、雷が海に落ちても海面下の魚たちは全く無傷です)。

もし仮に、地震の直前に、はるか上空まで到達するような電磁気的な異常が起きるのであれば、我々が暮らしている地表や海面ではもっと大きな電磁気的な異常が起きるのではないかと思うのですが、そのような観測データはないように思います。

また、特に日置教授の示したデータについて言えば、どの事例をみても見事に共通して、地震の前兆としての電子数増大が、地震の約40分前に始まっています。つまり、電子数が増えはじめた瞬間に、これから起きる地震が大地震となることが予め決まっており、しかも地震が起きるのは40分後であることも決まっている、ということになります。地震が起きる場所も、深さも、規模もまちまちなのに、電子数の異常が始まるのは40分ほど前にだいたいそろうというのは、極めて不自然に思います。むしろ、電子数の正常曲線を不適切にとっているために、観測値が正常曲線から逸脱するタイミングがそろっているのではないか、と疑わせるものに感じます。(←※正常曲線との比較による議論は取り下げられているようですので、この記載も取り下げます)


 (5) 地震を予測した実績がない

日置教授や梅野教授の主張はいずれも、地震が発生した後になって、「実は地震の前に異常が起きていた」と言っているだけであって、発生する前に地震を予測をした実績は全くありません。仮に以上に示した(1)~(4)をクリアしたとしても、事前に地震を予測できなくては、まだまだ話にならないと言うべきでしょう。


 ■

・・・以上のようなことから、私は「地震の前に上空の電子数が増える」という研究には、いまのところ極めて懐疑的です(というか、実は個人的には全く信じてません)。しかしながら、ぜひこれから客観的なデータを積み上がっていって、議論が進み決着がついて欲しいと期待しています。

※追記: 以上はあくまで「電子数異常が地震の前兆だという研究を、私が疑う理由」です。「この研究は間違っている!」となどと偉そうに指摘するものではありませんし、そのつもりもありません。個々の論点について具体的なご指摘は歓迎します(具体的な指摘を欠くコメントには返答しないかもしれません)。ご意見に応じて、上記の内容を書き換えることがあり得ますことをご了承下さい(履歴は残すつもりです))
コメント (3)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「関東大震災の直前に異臭騒ぎがあった記録がある」というのはデマです

2020年10月14日 | 地震予知研究(高橋学・立命館大教授)
 
2020年の6月以降、神奈川県の三浦半島や横浜で異臭の通報が相次いでいます。それを受け、一部では「大地震の前兆ではないか」という声が上がっています。なかでも、立命館大の高橋学特任教授は、異臭は大地震の前兆だと断定し、「内務省がまとめた文書に、関東大震災の直前に、三浦半島の城ヶ島と浦賀で異臭騒ぎがあったと記録されている」といったことを、週刊誌で何度も繰り返しコメントしています。

 地震頻発と異臭騒ぎに関連…“異常事態”の日本列島で何が?(日刊ゲンダイ 2020年9月28日)
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/279216
 「戦前の内務省の記録によると、1923年の関東大震災の直前、浦賀(横須賀市)や三浦半島南端の城ケ島で異臭がしたといいます」(高橋学教授)

 小泉環境相も関心、神奈川県内での異臭騒ぎの正体は(夕刊フジ 2020年10月6日)
 https://www.zakzak.co.jp/soc/news/201006/dom2010060009-n1.html
 「1923年の関東大震災の記録にも地震の前に三浦半島付近から異臭がしたという記述がある」(高橋学教授)

…しかし、実際にはそのような記録はなく、デマだと思われます。以下に説明します。

 


実は、今回の異臭騒ぎの前から、「関東大震災の発生後(発生前ではない)に、海底からガスが出ているのが観測された」という話は、よく言われていたのです。

内務省社会局が編纂した『大正震災志』という資料の附図に、「大正十二年九月一日大震後相模灘水深変化調査図」というものがあり、城ヶ島や浦賀の付近に「瓦斯噴出」「一時瓦斯噴出ス」と記載があるのです(下図、赤丸参照)。






…ここで注意すべきことは、まずこの資料は、「大震」という資料名からも分かるように、関東大震災が発生したに、地震による地殻変動を調査するために出した測量船による観測であるということです。1923年9月1日の地震発生から翌年の1月中旬までの測量成果であることも、きちんと明記されています。つまり、地震の「前兆」としてガスが噴出していたわけでは全くないということです。

また、この記録には「瓦斯噴出」とあるだけで、「異臭」がしたとは全く記載されていないですし、異臭「騒ぎ」があったなどということもどこにも記載されていないのです。


 ■

高橋学教授は週刊誌で、「内務省の記録によると」と「城ヶ島や浦賀で」異臭騒ぎがあった、と言っていますので、ほぼ間違いなくこの資料のことを言っていると思われるのですが、「地震の直前に異臭騒ぎがあった」と勝手に思い違いをして、よく確かめもせずに各週刊誌に吹聴しているようです。

つまりは、「関東大震災の前に異臭騒ぎがあったという記録がある」という高橋学教授の話は、デマだと思われます。本ブログでも何度も紹介しているとおり、高橋学教授はこれまでも週刊誌などでデタラメな話を繰り返しておりますので、少なくとも高橋学教授が別の何らかの一次資料をきちんと引用して提示しない限りは、「関東大震災の前に異臭騒ぎがあった」という話を信じる理由は何もないと思います。

なお、この高橋学教授は、立命館の文学部の教授で、災害リスクマネージメントがご専門であり、地震学が専門ではまったくないということも、付け加えておきます。


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

村井俊治・東大名誉教授のMEGA地震予測について(2020年10月)

2020年10月10日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
電子基準点の座標値の変動を見て地震を予測する「MEGA地震予測」なる有料メルマガを配信している、村井俊治・東大名誉教授という方がいます。2020年10月には、週刊ポストで「過去最大級の異常変動」が観測されたので大地震に警戒せよ、と恐怖感を煽っています。

MEGA地震予測で過去最大級の異常変動 5つの危険ゾーン(週刊ポスト2020年10月10日)
https://www.news-postseven.com/archives/20201010_1601282.html?DETAIL

このなかで村井俊治氏は、神奈川県の大井で9月中旬に9センチもの異常変動があったので、大地震に警戒せよと主張しています。ではこの「異常変動」とやらは、どんな変動だったのでしょう。実際のデータをみてみましょう。電子基準点のデータは、国土地理院のサイトに行けば誰でも無料で手に入ります。

 (画像出典:国土地理院)

9月18日の1日だけ、値が上にピョンと飛んでいて、次の日には元に戻っていることがわかります。もしこれが本当に地面の動きなら、わずか1日のうちに急に地面が約10cm盛り上がって、次の日にはシュっと元に戻ったことになります。地震も起こさずに。

実は、こうした電子基準点の短期的変動はすべて観測ノイズで、地面が動いているわけではありません。もちろん地震の前兆でもありません。9月18日には、この大井周辺では、線状降水帯が半日ほどかかり続けて強い雨が降っていたのです。大井の観測値の飛びは、おそらくこの影響によるノイズと思われます。


 (画像出典:tenki.jp)

この村井俊治氏は、「測量学の権威」などと持ち上げられていますが、専門は写真測量で、衛星測位の知識は全く素人レベルであることが著書の内容などでハッキリ分かります。GPSなどの測位衛星での測位に、気象などの影響で数センチのノイズが簡単に出てしまうことを、全くわかっていないのです(あるいはわかっていながら嘘をついているのかもしれません)。

もちろん、村井俊治氏による過去の地震予測も、全く当たっていません。また、熊本地震などの実際に起きた大地震を事前に言い当てた実績もありません。以下の記事も参照してください。


村井俊治氏の「東日本大震災の直前と同じ兆候出現」との主張を信じてはいけません
https://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/534a8d0741086ab97bdc56ff9d89b5cf

村井俊治氏の「MEGA地震予測」、大阪府北部の地震も予測失敗
https://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/a7bd3d581af7ae1395fba63c840a0263

村井俊治・東大名誉教授は、2016年熊本地震(最大震度7)を、全く予測できませんでした
https://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/a525982aff0851971b3774b45b7f2ce6

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地震予知に関する特許について

2020年09月06日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)

意外と思われるかも知れませんが、幾つかの団体や個人が、地震予知の方法についての特許出願を行い、そのうちの多くが審査を経て既に特許を取得しています

ためしに、特許検索サービス「J-PlatPat」で、適当なキーワードで検索してみるだけで、以下のとおり、登録された特許が幾つもヒットします。



  (J-PlatPatより作成)


たとえば、本ブログでもたびたび取り上げている村井俊治・東大名誉教授ら地震科学探査機構(JESEA)は、地殻変動の監視による地震予測法についての特許を取得しており(特許番号3763130「地震・噴火予知方法」)、「自らの地震予測方法は特許を受けた方法である」と強調して、サービスを展開しています。彼らの特許は、上のリストでは10番目のものです(※なお、この特許については、明細書に不備がある点などについて、以前の記事でもご紹介しています)。

このように特許として認められた方法ですと、多くの方が「地震の予測実績がある、信頼できる方法なのだろう」と思ってしまうのではないかと危惧しています。そこで、改めて強調したいのですが、実はこのような考えは全くの誤解です。

 ■


一般的に言って、特許出願は、同じような内容の発明が他者によって公開されていなければ、たとえ何の役に立たなくても、特許登録されるのです(もちろん、特許明細書に意味がわからない記載がある等の不備がある場合も拒絶されますが)。

言い換えますと、特許登録されているからといって、信頼できる技術というわけでは全くなく、デタラメの理論であるかも知れないわけです。特許明細書に書かれているとおりに実際に発明が作用するかなんてことまでは、特許庁の審査官が個々に審査できないからです。また、明細書に書かれているとおりのことをやっても、絶対に地震がひとつも予測できない、と断言できなければ、審査官は地震予知方法の発明を拒絶できません。100万個の地震のうち1個でも予測できるかも知れないのであれば、審査官としては拒絶できないのです。

このように考えますと、「特許技術」とか「特許取得済み」などという宣伝文句は、商品やサービスの信頼性を全く保証しないことが、お分かり頂けるかと思います。実際、一流企業の商品などには、最近はこうした宣伝文句は使われなくなっています。こうした宣伝文句は、無名の二流企業の商品に付けられることのほうが多いのです(私などは、こうした宣伝文句があると、逆に商品の信頼性を疑ってしまいます)。


 ■

ところで上述の村井俊治・東大名誉教授は、著書『地震は必ず予測できる!』のなかで、自らの地震予測方法の特許出願について、以下のように記述しています。


 もちろん、特許出願もあきらめずに続けていた。一回、二回、三回と意見補正をしたが、すべて拒絶が来た。その拒絶理由の一つは、…(中略)…「地球物理学で有名な学者の本に、…(中略)…隆起して次に沈降する反転現象がすでに書かれている」というものだった。我々はその理解の浅さに閉口しながらも、根気よく説得した。…(中略)…

 しかし特許庁の拒絶は続いた。先方の拒絶はもはや難癖に近いものだった。二度目など、「三角網を使った地震予測など誰でも考えられる」という横柄なものであった。…(中略)…

 …(中略)…さすがに心ない三度目の拒絶が来たときは、私は…(中略)…敗北感に満たされた。おそらく地震の専門家が審査員なのであろう。それは大いに予想できた。…(中略)…私は地震学者と張り合うつもりはまったくなかったが、このときばかりはその料簡の狭さにため息が出た


(村井俊治著『地震は必ず予測できる!』(集英社新書)35~37ページ)

      
…いかにも、「権威にイジメられてきた異端の自分の武勇談」として書かれていますが、あまりにも的外れで、ため息が出るのはこっちだと言いたくなります。

まず、審査官が地震学者であることは、ほぼあり得ません。特許庁の審査は、審査専門の特許庁審査官が、基本的に1人で行います。地震学者たちが研究の合間に行うようなものではありません。地震学者が転職して特許庁の審査官になった、という話も聞いたことがありません。そういった実情を全く無視し、いかにも「異端な自分が、無能な正統派の地震学者たちにイジメられた」とでも言いたげな文章で、こういうのを読まされると本当にうんざりします()。


※実は、上記の特許情報プラットフォームでは審査記録も参照することができますので、村井氏らによる特許出願を担当した審査官の名前もわかります。1回目と2回目の拒絶理由通知は本郷徹審査官、3回目の拒絶理由通知は高見重雄審査官です。いずれも、特許審査第1部材料分析(当時)所属のようですので、地震学者とは全く関係ない審査官です。こうした情報は、そもそも拒絶理由通知書にきちんと記載されているのですが…。なお、村井氏の記述のなかにある「地球物理学で有名な学者の本」とは、審査記録をみると、力武常次先生の「破壊防止と安全の確保 地殻歪と地震発生予測」という非破壊検査学会(当時)の論文のようです。


また、おおむね半分以上の特許出願は、少なくとも1回は拒絶理由通知を受けるのです。それに対して意見を主張して、特許として登録される、という過程を踏むのは、ごくごく普通のことです。つまり、村井氏による特許出願のように、何度か拒絶されて、それに対して意見を主張して、ようやく特許登録される、というのは、極めて普通のことに過ぎません。なのに、いかにも「権力と戦って権利を勝ち取った」という書き方になっていて、本当にイヤラしいなと思います。

いずれにしましても、上記した2名の審査官による拒絶理由通知を、「難癖に近い」とか「横柄なものであった」とか「心ない」とか「料簡が狭い」などと、著しく不適切に誹謗中傷していることは見逃せません。彼らの名誉のためにも、村井氏の著書における上述の記載が極めて的外れであることを、ここで強調しておきたいと思います。そして、村井氏らの特許出願が登録されているからと言って、彼らの地震予測が信頼できるという証拠には全くならないのだということも、繰り返しておきます。
 
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする