御嶽山の噴火を予測していたとして、琉球大学名誉教授の木村政昭氏が、最近ほんの少しだけ注目されているようです。彼の著作『東海地震も関東大地震も起きない!』(宝島社、2013年刊)の109~110ページにおいて、御嶽山の噴火を「2013年±4年」と予測していたというのです。
しかし、御嶽山は1979年、1991年、2007年と、
この30年余りで3回も噴火していた火山ですので、2009年~2017年という9年間も誤差をみた噴火予測が的中したからといって、何がすごいのかサッパリ理解できません。また、同書においては少なくとも雌阿寒岳、樽前山、有珠山、富士山、浅間山にも噴火を警告していますし、鳥島近海の超巨大地震なども警告するなど、予測を乱発していますが、いずれも今のところ的中していません。
そもそも、彼は以前から、地震や噴火の予測を、その著書において乱発してきたようです。では、それはどの程度的中してきたのでしょうか。少し調べてみましょう。
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19年前の1995年に重版発行された、木村政昭氏の著作『“日本列島”謎の噴火・地震 これから起こること』(青春出版社)をみてみましょう。
この本のなかで木村政昭氏は、国内の火山活動や地震の空白域にもとづいて、「1~2年先にも起こる巨大地震」として、以下の地域に2つの大地震を警告しています(11ページ、13ページ)。この2つの地震予測は、この本の約半分に亘って説明される、重大な警告となっています。
…ところが、1~2年どころか19年がすでに経過していますが、これらの房総沖と日向灘に巨大地震は起きていません。この本の発行後に実際に起きた大きな被害地震と言えば、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)、2003年の十勝沖地震(M8.0)、2004年の新潟県中部地震(M6.8)、2007年の新潟県中越地震(M6.8)、2008年の岩手宮城内陸地震(M7.2)、2011年の東北地方太平洋沖地震(M9.0)があるわけですが、房総沖も日向灘もカスリもしていません。つまり、
木村政昭氏の地震予測は見事に外れており、彼の地震予測は信頼できないことがわかります。
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また同著において、木村政昭氏は得意気に、彼の理論によれば「安全と思われる地域も明示できる」(14ページ)のだと自慢しています。そして、180ページ以降に、当面は噴火しない火山を予測し列記しているのです。ところが、この予測が見事なまでに外れているのです。
木村政昭氏はこの本のなかで、当面は噴火しない火山として、雌阿寒岳、十勝岳、有珠山、北海道駒ケ岳、秋田焼山、秋田駒ケ岳、鳥海山の7火山を挙げています。ところが、このうち5火山は直後に噴火しているのです! 以下に、本書における記述と、その後に起きた噴火を示しておきます。
・雌阿寒岳
「1993年の釧路沖地震でストレス抜きされている(中略)その意味では、この山は当分安心であるといえそう」(155ページ)
→本書発行の翌年、1996年に噴火。2006年にも噴火。2008年にも噴火。
・有珠山
「
この火山も、次の噴火は、火山の規則性から(中略)あと20年前後は大噴火は大丈夫」(168ページ)
→本書発行の5年後、2000年に大噴火。
・十勝岳
「
次に十勝岳が噴火するのはいつごろか。火山の規則性からいって有珠山の噴火の後(=20年後以降。上記参照)とみていいだろう」(156ページ)
→本書発行の9年後、2004年に小規模噴火。
・北海道駒ケ岳
「
93年の北海道南西沖地震でプレートのストレスが解消されてしまったため、当分噴火も予想しにくく」(180ページ)
→本書発行の翌年、1996年に水蒸気爆発。1998年、2000年にも噴火。
・秋田焼山
「
日本海中部地震が(中略)起きているので、すでにストレスは抜けたとみる。そうなると、焼山の再噴火までは今後もかなりの時間が必要だろう」(182ページ)
→本書発行の2年後、1997年に水蒸気爆発。
…このように、木村氏が「噴火しない」と自信をもって予測した火山が、直後にかなり活動的に噴火していることがわかります。イタリアだったら、裁判所が有罪と認定するかも知れません。
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その一方で、木村政昭氏は同書において、噴火の危険性がある火山も挙げています。知床硫黄山、岩手山、栗駒山、蔵王、吾妻山、那須岳、新潟焼山、草津白根山、浅間山、富士山の10火山です。ところがなんと、このうち予測通り噴火したのは、新潟焼山(1997年)と浅間山(2004年、2008年、2009年)の2つだけなのです。
つまり、木村政昭氏が
「噴火しない」と予測した7つの火山のうち5つが噴火し、「噴火の危険がある」と予測した10の火山のうち噴火したのは2つだけなのです。これは、逆の意味ですごい確率です。木村政昭氏の噴火予測が、全く当てにならないことがお分かり頂けるかと思います。
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まとめますと、地震や噴火を的中させたとしてたまに話題になる木村政昭氏ですが、要するに下手な鉄砲とも言える予測を何年も前から(少なくとも19年前から)くり返しており、たまたま当たったものもあるというだけで、ほとんどの予測は外れている、というのが実情のようです。
なお、彼の他の著作『富士山の噴火は始まっている!』の内容も、すでに当サイトでは信頼できないとして批判していますので、ご覧いただければと思います(
こちら)。
いずれにしても、信頼するに足るような予測実績は、木村政昭氏には全く見い出せまん。彼は富士山の噴火が今にも起こると警告していることでも知られていますが、上記のような噴火予測の実績しかない人物による、少なくとも19年前からされ続けている発言なのだとして、受け止めておくと良いかと思います。
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