横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

非科学的な地震予知を信じてしまうのは、人間の本能的な錯覚です

2012年04月27日 | 宏観異常現象
宏観現象や電磁波異常による地震予知という似非科学に、なぜ、ひとびとは騙されてしまうのか。それを説明するのは、とても簡単なことです。

たとえば、ハーバード大の心理学者であるクリストファー・チャフリスおよびダニエル・シモンズ著の『錯覚の科学』(文藝春秋社)に、次のような例が挙げられています。

(1)「雨の日には関節リウマチが痛む」と訴える17人の患者を15ヶ月間にわたり実際に調べてみた結果、天候と関節リウマチの痛みとの間に、相関関係は全くなかった。

(2)「モーツァルトを聴いた後には頭の回転が良くなる」という俗説を否定するに十分な実験成果が数多く得られているのに、この説は未だに信じられている。「幼児期にモーツァルトを聴くと頭が良くなる」という説にいたっては、これを実証する検証例が皆無であるにもかかわらず、広く信じられている。


まず(1)は、実際には相関がないことを関連づけてしまう、人間の本能的な錯覚です。実際には雨が降っていないときにもリウマチは痛んでいるのに、雨が降ったときにリウマチが痛んだことが強く記憶に残ってしまい、雨と痛みを相関づけてしまうのです。このような錯覚を、「選択的マッチング」といいます。「赤い月をみた後に地震が起こった、だから地震の前には月が赤く見えるのだ」などと考えてしまうのは、まさにこの典型です。夕焼けと同じで、条件があえば月が(地震に関係なく)赤く見えることがよくあります。

そして(2)は、神秘的でかつ自分に都合のよい俗説を、人間はつい信じ込んでしまうのだということを示しています。モーツァルトを聴くだけで楽に頭が良くなる、そんなことが「あったら良いな」という思いが、「あるに違いない」という考えにすり替わるのです。宏観現象や電磁波異常で地震予知ができると信じてしまい、当サイトで紹介しているような否定的事実を見逃してしまうのです。

…これらの錯覚は、要するに、たとえば壁に3つのシミがついただけで、「神様の顔が浮かび上がった!」と騒いでしまうのと同じことです。電磁波を使う方法を含め、いま巷で話題にされている地震予知研究は、全てこの「壁のシミ」レベルなのです。

こうした錯覚は人間の本能に近いので、このような錯覚に陥ってしまうこと自体は、仕方のないことかも知れません。ですが、人間はもう少し、賢くなることもできるはずです。巷にはびこっている疑似科学的な地震予知を、盲信することなく疑うことができるひとが、増えてくれることを願っています。
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地震雲は存在しません

2012年03月23日 | 宏観異常現象
阪神淡路大震災(1995年1月17日)の直前に撮影された1枚の写真が、「地震雲」をとらえたものとして非常に有名になっています。写真家の杉江輝美氏が撮影したもので、1995年1月9日の17時ころ、神戸の垂水港から明石大橋に向かう方向に見えた雲です。

夕景に、煙のようなひと筋の雲が立ち上っているように見え、渦を巻いているように見える写真です(こちら)。

あまりこのような雲を見慣れていない方には、奇妙な雲に思われるかも知れません。ですが、これは明らかに飛行機雲です。



このような形の雲を地震雲だとする方々は、飛行機雲との違いとして以下のような根拠を主張します。

(1)垂直方向に伸びている
(2)飛行機雲は10分以内に消えるが、地震雲は消えない
(3)渦巻き状を呈している
(4)高度が5000mほどと低い

しかし、いずれも簡単に却下できます。

(1)飛行機の航跡の真下から見ると、飛行機雲は垂直方向に立ちのぼるように見えます。
(2)水蒸気量が多いときには、飛行機雲は10分以上消えないことが普通です。
(3)飛行機雲は、形成直後から渦巻き状になることが多々あります。
(4)飛行機雲は短距離の国内線が飛行する高度5000m前後でも形成されます。



本研究所がある横浜市戸塚区は、羽田空港から西日本へ向かう旅客機や、厚木の航空基地で離着陸する軍用機が、真上を頻繁に通ります。ですので、「垂直方向に伸び渦巻き状の飛行機雲」を、我々は実に頻繁に見ています。杉江輝美氏の写真を地震雲だと信じているひとが多いことに、逆に驚いているくらいです。



本研究所付近で撮影したこの写真では、2機の航空機が手前(右上)から奥(左下)へ向かって飛行しています。その航跡が、上空の複雑な風によって広がりながら流され、まるで煙が上がってたなびいているようになり、場合によっては渦を巻いているように見えるわけです。

実際、航空図を見ると明らかなのですが、垂水港から明石大橋に向いた、まさにその上空を、伊丹から高知などに向かって国内線が通っています(嘘だと思われる方は、JALやANAの機内誌で確認するか、お手元の日本地図で伊丹と高知を直線で結んで見てください)。

また、東日本大震災の直前に、神奈川県川崎市で地震雲が見られたと報告されていることは、宏観異常現象に興味がある方ならご存知かも知れません。なぜ、震源から遠く離れた川崎だったのか。それは単に、羽田や成田で発着する飛行機が川崎上空をよく飛ぶからです。



ほかにも、空一面を覆うような筋状の雲や、虹のような光が見える雲などが、地震雲の例として挙げられることがあります。ですが、これらも気象学的に典型的な雲に過ぎません。

前者は偏西風の影響で生じるものであり、後者は彩雲といって頻繁に見られるものです。機会があればまた説明したいと思いますが、詳しくは雲の分類などを示した書籍や写真集をご参照ください。



以上のとおり、いま世間で「地震雲」だと騒がれているもののほとんどは、地震雲ではありません。

少なくとも、阪神淡路大震災のときも、東日本大震災のときも、普通の雲とは違うといえる雲は全く観測されていません。これだけ未曽有の大震災でも現れてくれないのですから、地震雲というものは存在しないと考えて、まず間違いないのです。
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