地上では「騒音」で嫌われ、トンネルでは「水枯れ」で嫌われ、今度は40メートル以深の大深度地下でも「怖い」といって嫌われ、「三界に家無し」の体に陥るリニア中央新幹線。「リニア中央新幹線(品川-名古屋)の地下トンネル建設のため国がJR東海に地下40メートル以深の『大深度地下』の使用を認めたのは平穏な生活を送る権利や財産権を保障した憲法に違反するとして、東京の大田区、世田谷区、町田市の住民45人が国に認可取り消しを求めた訴訟の第1回口頭弁論が30日、東京地裁(品田幸男裁判長)であり、国側は訴えを退けるよう求めた」(2024/07/30 東京新聞)。
我が家の床から下は、どんどん潜って行って地球の中核に至る円錐状の全体積をもって我が家の土地かと思っていたら、この国では法律によって「私用」は限定されているという。それを規定しているのが「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」という法律である。
こんな物騒な法律を見る以前には、地下鉄を作るにあたっては公共が所有する土地の範囲でしか土地利用はできなかった。だから、地下鉄はすべからく公道の下とか河川や公園下の土中に作られるという強い制限があったのだが、この制限を一気に取り除いたのがこの法律である。これによって「お上」は自由にモグラ行為が可能になったというわけだ。結果、およそ40メートル以深の地下を目安に「大深度」なる「空間」が定義され、これより上に棲む地主の権利の及ばない公共空間となったのである。
冒頭の新聞記事は、こういう法制下にあって地中深い場所を走り抜けようとするリニア中央新幹線のガイドウェイを建設したいというJR東海の計画に合わせて大深度土地を解放しようというのがコトの起こりである。
天が落ちてくることを心配することを「杞憂」と言ったように、大深度の地下に穴を掘られると陥没が起こるのではないかという悩みに付けた「言葉」は未だ無い。無いのだが、上の訴人たちのように「地下版杞憂」という「現実」がいま起こっているのである。寝床の下に穴をあけられて、そこが陥没したり?、その穴道を騒音挙げて走る列車が床下から騒音をまき散らさないか?。
何にも心配することは無い、と上記法文を作った人々は考えていたようだが、現に都下調布市の東京外環自動車道建設現場で起こった陥没事故は、この法文作成者たちの無知と不実を天下に明らかにしたものである。上記の訴人たちはこれを「前車の轍」と見たがゆえにここに訴訟を起こしたものに違いない。
ひるがえって「杞」の若者が、天空が落ちてこないかと不安になった話は今や上空を様々な飛翔体が飛び回り、名うての米軍オスプレイなどのように「未亡人製造機」と揶揄されるようなものの跋扈する現実は、杞憂するに十分な根拠が有る。それと面対象の地下においてだって同じように陥没事故が起こる恐れは十分に有ると考えるのはムベなる哉である。