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魚住昭

ノンフィクション100冊選考にあたり
「戦後」の息吹に魅せられて


 本田靖春さんの『不当逮捕』について語りたい。この本を読んだのは、共同通信の検察担当になって間もないころだ。検察担当は社会部記者にとっての正念場だから、私は必死になって取材をした。
 しかし、最初の数ヵ月はどうあがいてもうまくいかなかった。夜回りで何の収穫も得られず、その焦りで帰宅後もなかなか寝付けなかった。どうせ眠れないのなら、検察関係の本を読もうと思い、記者クラブの本棚にあった何冊かの本を借りて自宅に持ち帰った。そのうちの一冊が『不当逮捕』だった。
『不当逮捕』の主人公は読売社会部のかつての検察担当記者・立松和博さんだった。その立松さんの物語を読み進むうち私は夢中になった。主人公の魅力もさることながら、自由と希望と熱気をはらんだ「戦後」という時代の息吹が私を虜にしたのである。
 以来、私の興味は戦後史の一点に絞られることになった。それほど本田さんが描いた「戦後」は強烈な印象を私に与えた。
 それから二年近く検察取材を続けた。それはそれでとても面白い体験だったが、私の内部では少しずつ不満が募っていった。自分の書く記事が、たとえ大特ダネであっても『不当逮捕』の深みや輝きに到底及ばないという事実に直面させられたからである。
 自分も『不当逮捕』のような作品を書いてみたい。叶わぬ夢とは知りながら、そんな思いが年を経るごとに膨らんでいった。
挙げ句の果てに私は共同通信を中途で辞めた。他にもいろいろ事情はあるのだが、『不当逮捕』の感動が私をフリーライターへの道に進ませたことだけは間違いない。
 そういう意味で私は『不当逮捕』をベスト1に選んだ。まだお読みでない方がいらっしゃるなら是非読んでほしい。もっと多くの読者と感動を共有したい。そして、それがノンフィクションの再興につながるなら、天国の本田さんも喜ばれるに違いない。

魚住昭 ノンフィクション100選
※コメントは選者ご本人によるものです

開高健全ノンフィクション VOL 1 (1)
開高健全ノンフィクション VOL 2 (2)
開高健全ノンフィクション VOL 3 (3)
開高健全ノンフィクション VOL 4 (4)
開高健全ノンフィクション VOL 5 (5)
開高健
文藝春秋/1977年
自然であれ、社会であれ、世界は驚きに満ちているのだということを私に知らしめてくれた作品群

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)
佐藤優
新潮文庫/2007年
とてつもない知力。とてつもない表現力。この作品を読んだときの衝撃は今も忘れない

敗れざる者たち (文春文庫)
沢木耕太郎
文春文庫/1979年
取材対象との距離感の絶妙さ! すごい才能の書き手が現れたなと驚いたことを覚えている

被告人田中角栄の闘争〈1〉―ロッキード裁判傍聴記 (1981年)
闇将軍田中角栄の策謀―ロッキード裁判傍聴記2 (1983年)
軍団総帥田中角栄の反攻―ロッキード裁判傍聴記3 (1983年)
政治家田中角栄の敗北―ロッキード裁判傍聴記 4
立花隆
朝日新聞社/1981年
立花隆氏の優れた作品群の中ではこれが最も充実している。ジャーナリズムの武器は「論理」なのだと教えられた

遠い崖〈1〉―アーネスト・サトウ日記抄 (1980年)
萩原延寿
朝日新聞社/1980年
近代国家日本の成り立ちを知るうえでの必読書。著者の長年にわたる地道な努力に敬意を表したい

■『松川裁判』(上中下)
広津和郎
中公文庫/1976年
司法ノンフィクションの白眉。冤罪の構図をこれほど見事に解明した作品はない

■「新しい『ペン部隊』について」
辺見庸
角川書店/2000年
短いが、最も鋭いメディア批判。「顔を取り戻せ、言葉を取り戻せ、文体を取り戻せ……」という言葉に震えた。表題論文は、『私たちはどのような時代に生きているのか』(辺見庸、高橋哲哉著)に所収

不当逮捕 (講談社文庫)
本田靖春
講談社文庫/1986年
共同通信の検察担当記者だったとき、この本に出合った。読み終えるまでの時間の何と幸せだったことか。戦後ノンフィクションの金字塔

誘拐 (ちくま文庫)
本田靖春
ちくま文庫/2005年
被害者と加害者。その両方に注がれる著者の優しく、透徹した眼差し。ノンフィクションの最良の教科書

死刑弁護人 生きるという権利 (講談社+α文庫 (G175-1))
安田好弘
講談社+α文庫/2008年
事実をひたすら追い求める弁護士の手記。刑事弁護のバイブルになるべき本


「和書その1」に続く
魚住昭
○ノンフィクション作家
Profile
うおずみ あきら
1951年生まれ。一橋大学卒。75年共同通信社入社。検察担当記者時代にリクルート事件で数々のスクープを放つ。96年よりフリーで活躍。2004年、『野中広務 差別と権力』(講談社)で講談社ノンフィクション賞受賞。ほかに『特捜検察』(岩波新書)、『渡邉恒雄 メディアと権力』(講談社文庫)、『テロルとクーデターの予感ラスプーチンかく語りき2』(朝日新聞出版、佐藤優氏との共著)どの著書がある

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「特にないが、調べものでは国立国会図書館HP、本を探す際に『日本の古本屋』を利用する」



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