蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

威尼斯客死

2005年03月25日 19時26分25秒 | 言葉の世界
今わたしの手元にDas Werk Thomas Mannsという320頁どの本がある。Hans Burginという人がWalter A.Reichart及びErich Neumannとの共同作業によって作成したトーマス・マンの作品目録である。1959年にフランクフルト・アム・マインのS.Fischer Verlagから出版されたものだが、めぐりめぐって極東の貧乏労働者の所有となったのも何かの縁とでもいうのか。第四章を翻訳書のリストに当てていて、世界各国、といってもヨーロッパと南北アメリカがほとんどなのだが、加えて東洋では中国と日本での翻訳ものが挙げられている(因みに中国は1冊、日本は56冊で最も新しいものは1955年出版のもの)。で、面白かったのは邦題の付け方。いまでは『Der Tod in Venedig』は『ベニスに死す)』が定着しているが、1933年春陽堂版では『ベネチア客死』、『Lotte in Weinar(ヴァイマルのロッテ)』は1941年新潮社版では『ロッテ帰りぬ』、『Konigliche Hheit(皇太子殿下)』にいたっては、1949年というから終戦まもなくの版で『薔薇よ香りあらば』、『Tonio Kroger(トニオ・クレーゲル)』はさすがに『トニオ・クレーゲル』。なにか時代が感じられて面白い。『ベネチア客死』は確かに間違いではないけれどもなんだか任侠映画のタイトルみたいだ。やはりマンの世界は佐伯清よりルキノ・ビスコンティのほうがいいよなあ。『皇太子殿下』と『薔薇よ香りあらば』の関係については、わたしが『皇太子殿下』を読んだことがないので那辺から薔薇の香りが出てきているのか見当もつかない。そういえば昔の洋画はよく原題とは異なる題名をつけていたものだ。最近はヤッタラメッタラカタカナ題名が多くて原題なんだか日本で付けたカタカナなんだか判然としないから困ったものだが、つまるところ『薔薇よ香りあらば』もこの洋画題名を付ける乗りで命名したのかもしれない、がもっと突っ込んで考えると1949年という年がキーとなるのではないか。つまり皇族を連想させるような文言を意図的に避けたのではないかとも思えるのだが。
さて『Der Zauberberg』を『魔の山』とした邦題は正解だったと思う。これの英訳は『The Magic Mountain』で、英語を母語としている人間はこの題名からどのような印象を受けるのだろうか。英語センスのまったく無いわたしは、とりあえずディズニーランドのアトラクションを連想してしまう。

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