蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

外来語辞典

2005年09月25日 15時59分51秒 | 言葉の世界
とにかくカタカナ表記に悩まされている。原語の綴りを直接書いてくれたほうがよほどありがたい。それならばたとえすぐにわからなくともそれなりの辞書を引けば済むことだから。現代語ならインターネットでもっと早くわかるかもしれない。むかし学校に通っていたころ、ゼミで先輩からレジメを作れといわれた、何のことだか判らなかった。もちろんこれはフランス語の男性名詞résuméのことで「要約」あるいは「概略」を意味することは読者諸賢におかれては先刻御承知のことと思うが、馬鹿なわたしは当時そんなことも知らなかった。
同じような状況が、じつは今も続いている。いきなり「コンドミニアム」といわれてもなんのことだかわからない。これは"condominium"、なんのことはない「分譲マンション」という意味。原語の綴りさえ判ればあとは先ず英和辞典あたりを引いてみるとほとんど解決してしまう。それでだめだったら仏和辞典なり独和辞典を引いてみればよい。これでだめということはほとんどない。ところがいま流行の「ユビキタス」はちょっと手強かった。というのもわたしたちは「ユ」の綴りをとうしても"yu"と思ってしまうからだ。しかしこれでは英和辞典で「ユビキタス」を引くことはできない。つまりこれがラテン語起源の言葉だということを知らないととんでもない回り道をしてしまうことになる。英和辞典を引くと"ubiquitous"という綴りで項目が立てられていて「到る所にある」「遍在する」という意味が載っている(注1)。この訳を鵜呑みにしたのだろう、インターネットのサイトを検索するとほとんどすべてのページで「到る所にある」という説明をしている。あるいは「神のごとく遍在する」などという意味を載せていたりしてる。しかしこれはどちらかといえば特殊な用例だ。ウィキペヂアには「ラテン語に於ける ubiquitous の ubi は英語では where と訳され「どこで」を示し、ubique は、英語の everywhere に相当する「何処でも」を意味する。2004年現在、ubiquitous は「何処でも」の意味に加えて時間軸上における同時性または同時刻性を加味した使われかたをしている」とある。これでは"ubiquitous"とは本来どのような意味なのかという疑問にたいする説明を半分しかしていない。
ブロックハウスのドイツ語辞典を引くと"die Ubiquität"が載っていて、生態学、哲学、神学、経済における意味をそれぞれ紹介している。まず生態学における意味は"Eigenschaft von Tieren und pflanzen, nicht an einen bestimmten Standort gebunden zu sein"「特定の場所に結びついていない、動植物についての性質」。哲学、とくにスコラ哲学においては"Allgegenwart Gottes"「神の遍在」。福音主義神学では"Allgegenwart Christi"「キリストの遍在」。そして経済では"überall vorkommendes Gut"「到るところに存在する財」という意味になる(注2)。ドーデンにもほぼ同じ意味の説明が載っているが"vgl. frz. ubiquité"(注3)と書いてあったのでフランス語も参照してみた。大きな仏語辞典が手元になかったので小ぶりの辞典を引いてみると"ubiquité"の項に"État de ce qui est partout en même temps"とあった(注4)。「同時に到るところに在る、といった状態」というほどの意味だろう。どうもフランス語は苦手なので確認のため仏和辞典を見てみた。「henzai 遏遍:(Fog.) Avoir le don d'―, doko何処ni de mo doji 同時 ni oru 居る koto ga dekiru koto」なのだそうだ(注5)。
わたしははじめ"ubiquitous"とはラテン語で"ubi quitus"のことで、"ubi"は副詞、"quitus"は動詞"queo"「できる」の過去分詞、より正確には完了受動分詞として「どこでもできる」というほどの意味だろうと思っていたがどうもそうではないらしい。あくまで"ubique"なのだそうだ。"tous"の部分に注目しすぎて読み誤ったということ。というのもドイツ語の"die Ubiquität"にしてもフランス語の"ubiquité"にしても基本的に"ubique"だけから作られているからだ。
なんだか「ユビキタス」の語源探求みたようなことになってしまったけれど、わたしが言いたかったのはやったらめったらカタカナ表記をしてくれるなということだけ。そしてこのような状況のなかではどうしても外来語辞典に頼らざるを得ないのだけれども、本邦で出版されている外来語辞典で使用に耐えるものは残念ながらない。で、いまわたしの使用している外来語辞典というのが中国で出版されているものでこれが結構使える。『新編 日語外来語詞典』(注6)というのだが、中国の本なので説明は当然中国語なのだが、説明が簡単なので中国の簡体字に慣れればだいたい意味がわかる。わからなくとも見出し語のローマ字綴りを基に相当する言語の辞書をひけばそれで解決。わたしはこの辞書を主に綴りの確認のために使っている。
残念なのは出版されてから少々月日が経っていること。したがって最近のカタカナ言葉は載っていない。つまり「ユビキタス」も載っていないということ。

(注1)『ジーニアス英和辞典』1944頁 大修館 1994年4月1日改訂版初版
(注2) "Brockhaus Wahrig Deutsches Wörter Buch" Sechster Band s.356 F.A.Brockhaus Wiesbaden Deutsche Verlags-Anstart Stuttgart 1984
(注3) "DUDEN Das große Wörterbuch der deutschen Sprache" Band 6. s.2665 Dudenverlag 1981
(注4) "Dictionnaire Quillet de la Languefrançaise" p.2004 Librairie Aristide Quille Paris 1959
(注5)『マルタン仏和大辞典』1382頁 J・M・マルタン編 白水社 1974年11月25日7版
(注6)『新編 日語外来語詞典』史群編 北京商務印書館 1994年5月北京第4次印刷

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