旅館24

2023-11-07 09:33:53 | 日記
夕美は、その日、思いきって祖父に聞いてみた。

「ね、おじいちゃん…。『いさみや』の前の旅館は、『かねみつ』って言ってたよね。その前は民家だった…って。」

「うん」

縁側で夕涼みをしていた祖父は少し眠たそうだ。

「あの旅館の元々が民家って…、かなり広いよね。お金持ちだったの?」

夕美は、どこから聞いたらいいのか分からず、とりあえず民家の住人について聞いてみようと思った。

「確か…夫婦と娘さんの3人家族って、言ってたよね。」

「あぁ…。」

「たった3人で暮らすには広すぎるよね。」

「…確かにな…。元々は地主さんの一家だったから、金持ちだったらしいけどな…」

「『かねみつ』はその人達がやったの?」

「いいや、家を売ったらしい…」

「…そうなんだ…その家族は、この町には住んでないの?」

「…いろいろあって、遠い所に引っ越した…って聞いたなぁ…」

「いろいろって…?」

祖父は遠い目をした。