koshiのお部屋2

万年三歳児koshiの駄文のコーナーです。

ルドルフ・ケンペの忌日に9・・・

2014年05月11日 22時01分37秒 | 音楽

冒頭,C音の八分音符を刻むティンパニと低弦(コントラファゴットもか)の律動に乗って,左右両翼配置のヴァイオリンが高い音域のオクターブユニゾンでメロディを奏する。
チェロは三度上でハモるが,音域的には勿論下。
第1ヴァイオリンが極めて高い音域をとるのも,ブラームスの交響曲の特徴だろう。
推敲と熟慮を重ね,完成までに20年以上かかったという曰く付きの第1交響曲は,重々しいソステヌートで始まる。
つい一週間ほど前,隣町へ出掛ける際に,何気なくトレイに載せたCDから流れてきた見事な演奏に,一瞬我を忘れかけた・・・。
今の車のオーディオには殆ど手も金もかけていない故,サブウーファが無いので多少低音は薄めだが,フルレンジの4つのスピーカーとフロントドア上部に埋め込まれたツィーターは,キレも立ち上がりもよく,割と気に入っている・・・。
新緑の映える山々と,遠く残雪を戴く蔵王連山を眺めながらの快適なクルージングに,こうした演奏は実によく合う・・・。


ルドルフ・ケンペ(1910.-76.)。
エルベ河畔の古都,ドレスデン近郊のニーダーボイリッツに生まれ,チューリッヒに没したドイツの名指揮者である。
バッハからモーツァルト,ベートーヴェンを経て,ブラームスやR・シュトラウスに至る独墺音楽の正統的な解釈を示した音楽家として記憶されているが,レパートリーは意外に広い。
チャイコフスキーやドヴォルザークといったスラブ圏の音楽を得意としていたことは知られているが,ラテンものだとベルリオーズの幻想交響曲を皮切りに,ビゼーの「アルルの女」組曲とか,レスピーギの「ローマの松」もCD化されているし,ストラヴィンスキーの「火の鳥」とか,ブリテンの鎮魂交響曲,ショスタコーヴィチの第1と第5交響曲,さらにはコープランドの「エル・サロン・メヒコ」までカタログにあった。
毎年,彼の忌日であるこの日は,その演奏を偲ぶ一文を書いていたのだが,今年もその季節がやって来た・・・。


ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席オーボエ奏者として,音楽家のキャリアをスタートさせたケンペだが(指揮者がワルター,コンマスがミュンシュ,首席ヴィオラがコンヴィチュニーという凄い顔ぶれだったらしい),やがて指揮者としてケムニッツやヴァイマール,そして生地ドレスデンのオペラハウスの音楽監督を務め,バイエルン国立歌劇場(ミュンヘンオペラ)やメトロポリタン歌劇場(ニューヨークオペラ)の音楽監督を歴任,さらにはバイロイトやロイヤルオペラの常連でもあったケンペの音楽の本質が,独墺の作曲家と見事に合致していたのは紛れもない事実であろう。
上記ブラームスの第1など,その典型と言って良いかもしれない。


ケンペが指揮したブラームスの第1には2種類の録音が残されている。
59年にベルリンフィルを指揮したEMI盤と,晩年の74年に手兵であるミュンヘンフィルを指揮した盤である。
今日ここで採り上げたのは,前者-つまりベルリンフィルを指揮したステレオ録音初期の旧盤である。
何故なら,これは私が初めて自分の意志で聴いた同曲の録音だからである。
昨年物故した父のレコード棚にこのLPがあり,同曲に興味を持った時期(高校3年の秋だった)に,針を下ろしたものだった。
当時は,重厚にして晦渋な曲想が理解できず,終曲のコラールでようやく人心地・・・といった感じで聴き始め,やがてテンションの高い演奏(トスカニーニとか,ベイヌム,ベーム,バーンスタイン,ケルテス等)に惹かれていったのだが,今幾星霜を経て改めてケンペの演奏を聴くと,その見事な調べに舌を巻く。
概してドイツ系のオケは,ピッチが高めだと思うが,この見事に合った音程は何なのだろう。
特に上記冒頭の弦楽の厚みに圧倒される。
序奏が高揚し,アレグロの主部に入る前に奏でられる哀切極まりない,それでいて決して嫋々とならないオーボエの見事なソロはどうだろう。
多分名手ローター・コッホ(1935-2003)だろうが,ケンペ自身がオーケストラでのキャリアをオーボエ奏者として開始した故に,もしかすると厳しい注文があったのか,或いはツーカーだったのか・・・。
当時のベルリンフィルは,フルトヴェングラーからカラヤンが引き継いで数年,独のトップオケらしい重厚で渋い音色を残していたと思われる。
それを見事に引き出したケンペの手腕も,さすがと言うべきだろう。
第2楽章終盤,夏の終わりの野の黄昏を感じさせるような,ホルンに独奏ヴァイオリンが絡むくだりの美しさはどうだろう。
この楽章は,上述の通り推敲と熟考を重ね,その跡が色濃く残る部分が顕著であるが,一編の叙事詩を読むような感覚に満ちている。
Vn独奏は,コンマスのミシェル・シュヴァルベ,Hrは首席のゲルト・ザイフェルトだろうか・・・。
典雅な響きに満ち,中間部ではスケルツォ風のリズムも垣間見せる第3楽章も,特異であるが,冒頭の見事なB♭管のクラリネット独奏は,名手カール・ライスターだろうか・・・。
そして艶やかな歌と重厚な高揚感に満ち,最後はしなやかに力感が解放される終曲。
特別な仕掛けも無い代わりに,視聴後の充実感は比類無い。
作曲者が意図したのは,もしかするとこういう演奏だったのかもしれない・・・。


・・・ということで,数年ぶりでケンペの指揮したブラームスについて述べてみた。
ケンペには,上述の通りベルリンフィルとミュンヘンフィルを指揮した2種の交響曲全集が有るが(前者の第2と第4はモノラル録音),その他にはバンベルク響との第2,ロイヤルフィルとの第4が残されており,いずれも名盤として薦められる。
さらには,以前紹介したゲルバーとのピアノ協奏曲第2番(ロイヤルフィル),ギンベルを独奏者とした同第1番(ベルリンフィル),メニューインが弾いたヴァイオリン協奏曲(同)の他,ドイツレクイエム(同:確かフィッシャー・ディスカウが独唱?)と悲劇的序曲(同),そして2種の聖アンソニーヴェリエーション(ベルリンフィルとバンベルク響)が残されており,Vn協とドイツレクイエム以外は,何とか入手したところである。
そして本日,母の日ということで実家へ顔を出したついでに父のレコード棚を漁り,上記LPを発掘してきた。
オリジナルはステレオ録音だが,当時はモノラルとステレオの2種とも発売されたらしい。盤質も良く,もしかすると好事家にとっては垂涎ものかも知れないが,勿論そのまま保存しておくことにする。
国内初版かもしれないジャケットは貴重であろう。
たすきまで付いているし・・・。
それにしても,当時(1960年頃)の1,500円とは,今換算すると幾らに相当するのだろう・・・。
いずれにしても,公務員だった父の給料は高かったとは思われないので,やっとの思いで買って,大事に聴いたのだろう・・・。
 


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