愛理は、電気掃除機を持って意気揚々と隣の部屋へと入っていきました。
ここは普段、チサトとマイが使っている部屋でした。
部屋にはボール紙でできたタンスと、ちゃぶ台が置いてありました。
床を見ると食べ物の包みや使えなくなった筆記用具、書き損じの紙などが置いてあり、他の部屋と比べると明らかに汚れていました。
愛理は腕をまくると
「しょうがないわねあの子達。よし、お姉さんにまかせなさい!」
と得意げな様子で独り言をつぶやきました。
実際は、チサトと同じくらいの年齢に見えましたけどね。
愛理は慣れた手つきで電気掃除機のスイッチを入れ、掃除を始めました。
すると、床に置かれた箱に目が止まりました。
その箱には『ラ・フランスとインゲンのカラシ醤油和えの香り』と書いてありました。
気になって取り出すとそれは、使いかけのアロマキャンドルでした。
マイが昨年の誕生日に次女のサキからプレゼントでもらったもので、もったいないからと毎晩、寝る前に1分間だけ使っていたのでした。
愛理は、勝手に使っちゃいけないと思いながらも『ラ・フランスとインゲンのカラシ醤油和えの香り』がどんな匂いなのか、気になって仕方がありませんでした。
一度は箱に戻しましたが、やっぱりどうしても気になり、横にあったマッチで火を付けてみました。
「くっせー」
愛理は思わず倒れそうになりました。
「この臭いは、アレに似ている。
そう、小さい頃、庭の石をひっくり返した時の、あの臭い。
ダンゴムシとハサミムシが混じり合った、あの臭い!」
愛理はなんとか臭いに堪え、掃除を続けようとしましたが、電気掃除機が何かに引っかかったようで、動きません。
思い切り電気掃除機を引っ張ってみると、タンスが倒れてしまいました。
「タンスに引っかかってたのか、やれやれ」
愛理がタンスを起こそうと近寄ると、焦げ臭い臭いがしてきました。
よく見るとボール紙でできたタンスは、『ラ・フランスとインゲンのカラシ醤油和えの香り』のアロマキャンドルの炎によって、燃えていたのでした。
焦った愛理は、またまた銭狸を呼び出しました。
タンスを見た銭狸はあわてて愛理の部屋へ行き、風呂敷から百均で買った2本入りキュウリの、残り1本を取り出しました。
そして火事の起こった部屋へ引き返すと、愛理にそれを食べさせました。
すると愛理は、頭に皿が表れ、手足に水かきが表れ、本来の姿へと変身しました。
「水神拳」
愛理が叫ぶと手から勢いよく水が飛び出し、タンスの火は無事に消えました。
安心した銭狸はカードへと戻り、愛理も人間へと姿を変えました。
しかし冷静になり、黒こげのタンスを見た愛理の顔は真っ青になっていました。
愛理は自分の部屋に戻り、落ち込んだ表情で風呂敷を担ぎました。
そして一階のテーブルの上に『サガサナイデクダサイ』と書いた紙を置くと、家を出ていきました。
(つづく)
ここは普段、チサトとマイが使っている部屋でした。
部屋にはボール紙でできたタンスと、ちゃぶ台が置いてありました。
床を見ると食べ物の包みや使えなくなった筆記用具、書き損じの紙などが置いてあり、他の部屋と比べると明らかに汚れていました。
愛理は腕をまくると
「しょうがないわねあの子達。よし、お姉さんにまかせなさい!」
と得意げな様子で独り言をつぶやきました。
実際は、チサトと同じくらいの年齢に見えましたけどね。
愛理は慣れた手つきで電気掃除機のスイッチを入れ、掃除を始めました。
すると、床に置かれた箱に目が止まりました。
その箱には『ラ・フランスとインゲンのカラシ醤油和えの香り』と書いてありました。
気になって取り出すとそれは、使いかけのアロマキャンドルでした。
マイが昨年の誕生日に次女のサキからプレゼントでもらったもので、もったいないからと毎晩、寝る前に1分間だけ使っていたのでした。
愛理は、勝手に使っちゃいけないと思いながらも『ラ・フランスとインゲンのカラシ醤油和えの香り』がどんな匂いなのか、気になって仕方がありませんでした。
一度は箱に戻しましたが、やっぱりどうしても気になり、横にあったマッチで火を付けてみました。
「くっせー」
愛理は思わず倒れそうになりました。
「この臭いは、アレに似ている。
そう、小さい頃、庭の石をひっくり返した時の、あの臭い。
ダンゴムシとハサミムシが混じり合った、あの臭い!」
愛理はなんとか臭いに堪え、掃除を続けようとしましたが、電気掃除機が何かに引っかかったようで、動きません。
思い切り電気掃除機を引っ張ってみると、タンスが倒れてしまいました。
「タンスに引っかかってたのか、やれやれ」
愛理がタンスを起こそうと近寄ると、焦げ臭い臭いがしてきました。
よく見るとボール紙でできたタンスは、『ラ・フランスとインゲンのカラシ醤油和えの香り』のアロマキャンドルの炎によって、燃えていたのでした。
焦った愛理は、またまた銭狸を呼び出しました。
タンスを見た銭狸はあわてて愛理の部屋へ行き、風呂敷から百均で買った2本入りキュウリの、残り1本を取り出しました。
そして火事の起こった部屋へ引き返すと、愛理にそれを食べさせました。
すると愛理は、頭に皿が表れ、手足に水かきが表れ、本来の姿へと変身しました。
「水神拳」
愛理が叫ぶと手から勢いよく水が飛び出し、タンスの火は無事に消えました。
安心した銭狸はカードへと戻り、愛理も人間へと姿を変えました。
しかし冷静になり、黒こげのタンスを見た愛理の顔は真っ青になっていました。
愛理は自分の部屋に戻り、落ち込んだ表情で風呂敷を担ぎました。
そして一階のテーブルの上に『サガサナイデクダサイ』と書いた紙を置くと、家を出ていきました。
(つづく)