ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

だから言ったのに(3)

2006-08-16 | だから言ったのに/ ケンタの舟
ケイのおにいさんは、ギターを弾きます。ケイは、おにいさんから、ギターの弾き方を習っていました。最初は、指が痛かったのですが、毎日練習するうちに、だんだん、慣れてきました。でもまだへたっぴです。

ある日、おにいさんは、新しいギターを買ってきました。これまでのヤツは、木の箱みたいで、真ん中に穴が開いていました。(たしか、おにいさんは、アコースティックとかテイラーとか言っていました)。今度のヤツは、見た目は小さいのですが、重いのです。色は黒と白で、真ん中に穴はなく、その代わりに、出っ張ったものが3つ付いていました。(たしか、ストラトと言っていました。)

おにいさんは、新しく買ってきたギターを弾いて見せてくれました。ところが驚いたことに、音がとても小さいのです。ケイは心配して、言いました。

「おにいさん、このギター壊れてるんちがうん。取り替えてもうたら。」

おにいさんは、笑いながら、ギターに線をつけて、線の反対側を新しい箱につなぎました。(たしか、アンプと言っていました。)すると、今度は、とてもカッコイイ音がします。エリック・クラプトンみたいな音です。(内緒ですが、それは音のことで、おにいさんは、それほど上手ではありません。)

ケイが頼むと、おにいさんは、いつでも弾いていいと、言ってくれました。

「ただ、弾くときは、アンプにはつながんとって。そうせんと、きっと大変なことになるから。」


ケイは、一人で、おにいさんの新しいギターを弾いてみました。前のよりも、ずっと指が楽です。ケイは、いろいろやっていました。が、やっぱり音が小さいので、物足りません。

ケイは、おにいさんの言ったことを思い出しました。

「弾くときは、アンプにはつながんとって、って言っとったな。でも、これやったら、音がよーわからへんし・・」

ケイは、ギターをアンプにつなぐことにしました。線をつないで、アンプのスイッチをONにしましたが、音が出ません。たしかに、ランプがついているので、電気がきていることはわかります。

「たぶん、ボリュームが、小さすぎやねんわ。思い切って、全部フルテンにしてみよ。」

それから、ケイは、ギターのほうのつまみも全て全開にして、そして、ギターを力いっぱい弾きました。すると、アンプは、爆音を立てたかと思うと、煙を上げ、また、音が出なくなりました。

「ケイ。どないしたん。」

おにいさんが、その爆音を聞いて、飛び込んできました。

「私、自分の音が聞いてみたかってん。そんで、アンプにつないだら・・」

「ケイ、これは古いチューブ・アンプで、スイッチを入れても、しばらくせんと、音が出ーへんWWW・・・LLRREIJFOHOWIBOHFOGWUYOEWY・・・。」

その後、おにいさんが何を言っていたか、ケイにはよく聞き取れませんでした。たとえ聞き取れたとしても、意味がわからないことばが多すぎて、理解できなかったでしょう。とにかく、そのアンプは、使えなくなってしまいました。

しばらくして、おにいさんは、またアンプを買いました。(たしか、ツイン・リバーブと言っていました。)一番のお気に入りを、思い切って買ったそうです。

(つづく)