ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

だから言ったのに(2)

2006-08-15 | だから言ったのに/ ケンタの舟
ある日、ケイは、一人で留守番することになりました。おかあさんとおねえさんは、買い物に行くのです。

「ケイ。おかあさん、あなたのお昼ご飯、もう作って用意してあるから。チンして、食べるのよ。」

ケイは、にっこり笑って、おかあさんに「いってらっしゃい。」を言いました。おかあさんは、玄関のところで「いってきます。」を言いました。

「ただ、料理は自分でしないこと。そうでないと、きっと大変なことになるから。」

おかあさんとおねえさんは、出かけてしまいました。家には、ケイがひとりいるだけです。いつもは、朝、テレビを見せてもらえないのですが、今は、一人です。ケイは、テレビをつけてみましたが、おもしろくないので消しました。今度は、歌を歌うことにしました。大きな声で歌を歌っても、「うるさい。」と言う人はいません。でも、これもすぐに飽きてしまいました。

ケイは、いろんなことをしてたくさん遊びました。そろそろ、おなかがすいてきました。

「お昼ご飯は、もうできてる、って・・なんやろう。」

食卓の上を見ると、おにぎりが2つ、たまご焼きと、昨日の晩御飯の残りのカラアゲでした。

「何、これ。超手抜き。」

ケイは、おかあさんの言ったことを思い出しました。

「料理は自分でしないこと、って言ったな。ほいでも、これやったら、私のほうが、もっと美味しいものを作れるわ。」

ケイは、自分でお昼を作ることにしました。おかあさんが料理していたことを思い出しながら、冷蔵庫から、いろいろ出して、洗って、切って、鍋で煮て、フライパンで炒めました。

「ほら、おかあさんのよりも、ずっと美味しそう。」


夕方になって、おかあさんとおねえさんが買い物から帰ってきました。

「ケイ。どうしたの。お昼食べてないじゃない。」

「ううん。ちゃんと食べたし。私、自分でお昼作ってん。」

おかあさんは、あわてて、キッチンに飛んで行きました。キッチンは、まるで竜巻と津波とゾウの大群が通り過ぎた後のようです。

「だから言ったのに。」

おかあさんは、次の日と、その次の日と、二日かけて、キッチンを掃除しました。おかげで、キッチンは、前よりもピカピカ、きれいになりました。

(つづく)