ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

放蕩息子Part2 (2)

2007-10-02 | 放蕩息子Part2
俺は、朝、誰よりも早く畑に出て、昼には、クタクタになった身を押して仕事を続け、夕方、もうこれ以上はできない、それでも体を打ち叩いて、誰もいない畑で独り働き続け、夜、放心状態で家路についた。
家に近づくと、音楽や踊りの音が聞こえてくる。何事かと思って、表にいた雇い人の一人に尋ねた。するとまったく予想もできない答えがかえってきた。あのどうしようもない弟が帰ってきたので、父が、肥えた子牛をほふらせて大祝宴を催している、というのだ。
この時ばかりは、さすがの俺も、感情を抑え切れなかった。たとえ日が西から昇ることがあっても、こんなことが許されていいものか。

なだめに出てきた父に、ついに俺は本心をことばにした。
「さあ、今ここではっきりさせましょう。長年の間、私は誰よりも真面目にお父さんのために仕事をしてきました。さらには、人前ばかりではない、人の目に付かないところでも、何の落ち度もなく生活してきました。お父さんは、その私をどのように評価しましたか。友だちと楽しめと言って、子ヤギ一匹下さったことすらないではないですか。
それであるにもかかわらず、あの役立たずが、大切な財産を湯水のように遊びに使い果たして、落ちぶれて帰ってきたら、肥えた子牛をほふる、これは、どうなっているんですか。」

父は静かに口を開いた。
「子よ。おまえはいつも私といっしょにいる。私のものは、全部おまえのものだ。だがおまえの弟は、死んでいたのが生き返ってきたのだ。いなくなっていたのが見つかったのだから、楽しんで喜ぶのは当然ではないか。」

父の答えは、答えになっていなかった。それは、俺には、まったく意味がない空虚なことばに響いた。
もうここでは生きていけない。この訳のわからない所から出なければ、自分がダメになる。俺はそう思った。

祝宴の続く家を離れた。暗闇の中を歩き始めた。後ろ髪を惹かれる思いはまったくなかった。かえって、何か清々しさすら感じられた。これからは、自分で自分のために生きられるのだ。

(つづく)