ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

カプセルTARO(5)

2008-09-27 | ハナコの家出/ カプセルTARO
ある日、風邪を引いた。
だんだん熱が高くなる。
寒気もするし、体の節々が、ひどく痛い。
もちろん立ってなんかいられない。
ベッドに寝ていた。

お母さんが、心配して、部屋に入ってきた。 
「だいじょうぶ。お薬持ってきたわよ。
 病院に行ったほうがいいんじゃないの」

「うるさいな。だまってろよ。
 そんなキンキン声出すと、頭が痛いのもわからないのか」

「ごめんなさいね。氷枕、する?」

「がたがた、がたがた、言うなって。
おまえなんか、じゃまんだよ。
優しいフリなんかして。
本当は、オレが苦しんでるのを、喜んでるんだろ」

「お母さん、本当に心配してるのよ。
 頭に、冷たいタオル乗せたら、楽になるんじゃない」

お母さんが、僕の頭に氷水で冷たくしたタオルを乗せようとしたが、
不思議なことに、どんなにしても、お母さんは、僕に触れることができなかった。
あの膜が厚くて、じゃまをしているのだ。
お母さんが、心配して、優しくしてくれるのは、本当はうれしかったが、
口から出てくるのは、悪いことばばかりだ。
悪いことばを出すたびに、膜はますます厚くなった。
お母さんの声は、だんだん聞こえなくなった。

僕は、透明な膜に完全に閉じ込められたのだ。
もう自分であって、自分ではなかった。

例の声が聞こえた。 

『うまくいったな』
『うまくいったよ』


(週末は、このストーリーから、人生の知恵をまじめにウンチクります。)