本朝徒然噺

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歌舞伎座 四月大歌舞伎(夜の部)

2006年04月08日 | 芝居随談
今月の歌舞伎座は、六世中村歌右衛門丈五年祭の追善興行です。

歌右衛門丈は、言わずと知れた名女形です。
今から5年前、平成13年の3月、桜の咲くなかを名残り雪が舞う日に他界されました。

今回の追善興行では、故人に縁の深い役者さんが勢ぞろいし、故人の当たり狂言が数々上演されました。
夜の部の演目は「井伊大老」「時雨西行」「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」です。歌右衛門丈五年祭追善の「口上」も行われました。


1幕目の「井伊大老」は、桜田門外の変前夜の井伊直弼と側室・お静の方の心の交流を通じて、人間の世の苦悩やはかなさを美しく描き出した作品です。
お静の方が歌右衛門丈の当たり役だったことももちろんですが、作品中で桃の節供の日(旧暦の桃の節供ですので、現在だと4月初旬、ちょうど桜のころです)に雪が降る場面が出てきて、歌右衛門丈の命日を思い起こさせるので、故人の追善には何よりのお芝居だと思います。

井伊直弼を中村吉右衛門丈、お静の方を歌右衛門丈のご子息・中村魁春丈が演じたほか、中村富十郎丈や中村歌江丈も華を添えていました。


2幕目は「口上」。
故人を慕って、大看板の役者さんがたくさん集まり、とても豪華な顔ぶれの口上となっていました。自らの研鑽とともに後進の指導にも尽力しておられた歌右衛門丈のお人柄がしのばれます。
一人一人、歌右衛門丈の思い出を交えながら、楽しい口上を披露してくださいました。
大道具も、歌右衛門丈が好んで演じておられたという「道成寺」にちなみ、釣り鐘と桜をあしらったものになっていました。

同時に、中村東蔵丈のご子息・中村玉太郎さんの六代目中村松江襲名披露、その息子さん(東蔵丈のお孫さん)の彩人ちゃんの五代目中村玉太郎襲名披露も行われました。
巻舌で元気良く「中村玉太郎です。よろしくお願いいたします」とご挨拶をする玉太郎くんが、かわいらしくて印象的でした。


3幕目は「時雨西行」。長唄の舞踊です。
西行を踊るのは、歌右衛門のご子息・中村梅玉丈、遊女・江口の君を踊るのは坂田藤十郎丈です。
諸国を旅する西行法師に宿を貸した江口の君は、西行法師の前で自分の身のはかなさを物語ります。
江口の君の話を聞く西行法師が目を閉じると、江口の君の姿が普賢菩薩となります。目を開けると、遊女の姿に戻っています。再び目を閉じると、また普賢菩薩の姿となり、西行法師に悟りの境地を教えます。
普賢菩薩の姿となって悟りの境地を教えてくれた江口の君に感謝し、西行法師はまた旅立っていきます。
梅玉丈、藤十郎丈ともに格調のある踊りで、見事な幽玄の世界が作られていました。藤十郎丈の江口の君は初役だったそうですが、遊女でありながらも普賢菩薩の威厳と品格をもつ役どころを見事に表現していました。思わず息を呑んで見入ってしまうような、幻想的な舞台でした。


大喜利は「伊勢音頭恋寝刃」。
伊勢・古市(ふるいち)の遊郭で起きた刃傷事件をもとに作られたお芝居です。

片岡仁左衛門丈演じる福岡貢が我を忘れて次々と人を斬っていく大詰の場面では、市川團蔵丈、片岡芦燕丈と、迫力のある立ち回りを披露していました。
歌舞伎の様式をふまえた、ゆっくりとした動きなのですが、鬼気迫る感じがとてもよく表れているのです。時代劇の殺陣(たて)のようなスピード感がなくても迫力が出せるというのは、すごいと思います。
團蔵丈が斬られて欄干から落ちるところなどは、アクション映画も顔負けといった感じでした。

歌右衛門丈の当たり役だった仲居・万野を中村福助丈が演じたほか、中村時蔵丈、中村東蔵丈、中村勘太郎さん、中村松江さんなど豪華な顔ぶれがそろい、故人への良き追善になったのではないかと思います。



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