本朝徒然噺

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南座顔見世へ(12/20、21)

2008年12月31日 | 芝居随談
12月20日(土)と21日(日)、京都・南座の顔見世を見てきました。

土曜の夜の部&日曜の昼の部という組み合わせが理想だったのですが、土曜の夜の部のチケットがとれなかったので、
12月20日(土)昼の部
  21日(日)昼の部&夜の部
の観劇となりました。
夜の部がハネてからだと最終の新幹線には間に合わないので、翌月曜に午前半休をとっておき、午前中の新幹線に乗って東京に戻りそのまま会社に行きました。まさに強行軍です(笑)。

今年の南座の顔見世は、海老玉コンビによる「源氏物語」が上演されるので、それをお目当てにしていたお客様が多かったようなのですが、私のお目当てはもちろん別のところ(笑)。
山城屋さんの「藤娘」、播磨屋さんの「石切梶原」がある昼の部に重点を置きました

「藤娘」「石切梶原」の絵看板

昼の部の演目は「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」「
八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)」「藤娘」「梶原平三誉石切(石切梶原)」「ぢいさんばあさん」。
夜の部の演目は「傾城反魂香」「大石最後の一日」「信濃路紅葉鬼揃(しなのじもみじのおにぞろい)」「源氏物語」。

■正札附根元草摺

愛之助さんの曽我五郎に孝太郎さんの舞鶴という、上方歌舞伎の花形コンビによる一幕。
「正札附」は、曲としても舞踊としても地味なほうですが(私は結構好きですが……)、このお二人くらいの年代の方がなさると、落ち着きと華やかさとのバランスがちょうどよくて、いい感じだなと思いました。

■八陣守護城 湖水御座船の場

「八陣守護城」の絵看板

加藤清正は、二条城での家康との対面後まもなく亡くなったため、家康方に毒を盛られたのではないかという俗説があります。
このお芝居はその俗説を基にしたものですが、時代設定や人物の名前は変えて作られています。

上演時間も短く、派手なストーリー展開はない一幕ですが、舞台いっぱいに作られた大きな御座船、毒酒を飲まされてもなお泰然としている「佐藤正清」の勇猛さなど、スケールの大きなお芝居でした。
十三世片岡仁左衛門が生前最後に演じられたというお芝居を、我當さん、秀太郎さん、進之介さん、愛之助さんという顔ぶれで15年ぶりに上演。
このような演目がこのような顔合わせで見られるのも、関西での公演ならではといった感じで、遠征のしがいがあるというものです。

我當さんの正清は、少ない台詞や動きのなかにも勇猛な武者の雰囲気がよく表れていて、さすがでした。小柄な我當さんから何とも言えぬ迫力がにじみ出ていて、圧倒されました。

■藤娘

5月の新橋演舞場で福助さん、10月の御園座で扇雀さん、10月の歌舞伎座で芝翫さん、そして今回の藤十郎さんと、4回も「藤娘」がかかったこの一年。
しかも、東の成駒屋と西の成駒屋(藤十郎さんは今は山城屋さんになってしまってますが)それぞれの親子競演となったので、全部見るとなかなか面白い「見比べ」ができました

10月に歌舞伎座で芝翫さんの「藤娘」を見た時、「5月に踊ったセガレよりカワユク見える!」と感動したのですが、今回も同様、「10月に踊ったセガレより若々しく見える!」と感激しました。まあ、それは想定の範囲内ですが(笑)。

芝翫さんの藤の精は、まだあどけなさの残る女の子がちょっとおませに恋を夢見ているような風情でしたが、藤十郎さんの藤の精は、それよりも少し「おねえさん」な感じでした。
芝翫さんのが可憐でカワユい感じなのに対して、藤十郎さんのはほんのりとした色香が漂う感じです。
客席に向かっておじぎをするところも、そういった違いが表れていて楽しめました。
藤十郎さんの藤の精は、この踊りの元々の題材だった「大津絵の藤娘」に近いイメージなのかもしれないと思いました。
もちろん、どちらもそれぞれの良さがあって、甲乙はつけられません。
同じ踊りでも、踊り手によってさまざまにイメージがふくらんでいくのが、楽しいです。

いずれにしても、傘寿、喜寿世代の方が息子世代よりも若々しく可愛らしく魅せてしまえるというのが、歌舞伎のスゴイところです

■石切梶原

久々の南座出演となる播磨屋さんによる「石切梶原」。
昨年の南座顔見世では、お兄様(高麗屋さん)が同じく「石切梶原」をなさいました。
2年続けて、しかも兄弟で同じ演目をなさるというのも、面白い試みですよね。
まあ、京都のお客さんにしてみれば「2年続けて同じ演目でなくても……」と思うかもしれませんが……

播磨屋さんの梶原平三景時、やっぱりカッコよかったです!
我當さんの大庭、歌昇さんの俣野という配役も絶妙でした! このお二人がガッチリと脇を固めておられたことにより、六郎太夫が出てくるまでの場面もダレることなく、緊張感が保たれていたように思います。
特に我當さんの大庭は独特の存在感があり、重厚な雰囲気で舞台が引き締まっていました。

どうでもいいんですが……、ラストの義太夫の詞章が、土曜日に見たときと日曜日に見たときとで若干違っていた気がしたんですが……、うーん、気のせいかな……

ちなみに、今月は歌舞伎座でも富十郎さんが石切をなさっていたので、東京・京都の両方で見ると型の違いも楽しめました(富十郎さんは、羽左衛門さんのやり方でなさっていました)。富十郎さんの梶原平三景時も素敵でした~。

■ぢいさんばあさん

仁左衛門さんの伊織、玉三郎さんのるんという「美男美女」の組み合わせで、若いときの伊織・るんの夫婦はまさに絵に描いたような美しさでした
玉三郎さんのるんは、おばあさんになってからも作りすぎてなくて、さりげなくていい感じでした。

下嶋を演じたのは海老蔵さん。下嶋がちょっと冷血に見えてしまった感がありますが(下嶋は、決して冷血な人間ではないのだと思います)、仲間とうまく心を通わせることができない孤独な人間の苛立ちや悲哀がよく伝わってきました。鴨川沿いの茶屋での伊織とのやりとりにはとても緊迫感があり、舞台に引き込まれました。

■傾城反魂香 土佐将監閑居の場(吃又)

「傾城反魂香」の絵看板

2007年9月の中国公演で好評を博したという、翫雀さん(又平)・藤十郎さん(おとく)による「吃又(どもまた)」。
さすがに中国までは追っかけていけなかったので、今回南座で見られるのを楽しみにしていました!

藤十郎さんのおとくが良いのはアタリマエとして、翫雀さんの又平はどんな感じなのかなあ……と思っていたら、これがすごく良かったのでびっくりしました
どもる台詞のなかに、土佐の名字をなかなか許されない又平の悲痛な叫びがにじみ出ていて、胸を打たれました。
願いが聞き届けられないなら自分を斬ってほしいと師匠の前に進み出る場面、自害を決意して手水鉢に自分の姿を描く場面では、客席全体が息をつめてじっと又平を見守り、土佐の名前を許された場面では、又平を祝うような万雷の拍手が客席からわき起こりました。
本当に、感動的で素晴らしい舞台でした。もう一度見たかった……

■大石最後の一日

「大石最後の一日」の絵看板

真山青果作の新歌舞伎「元禄忠臣蔵」のラストにあたる「大石最後の一日」。
大石内蔵助を演じるのは、もちろん播磨屋さん。
堀内伝右衛門を歌六さん、磯貝十郎左衛門を錦之助さん、おみのを芝雀さん、荒木十左衛門を歌昇さんと、まさに吉右衛門劇団の総力を結集した配役です。

これまた、人物一人一人の存在感がとても大きく、一つ一つの台詞がしっかりと胸に響いてくる、重厚かつ感動的な舞台でした。
「吃又」とこの「大石最後の一日」を見られただけでも、京都まで行った甲斐がありました

■信濃路紅葉鬼揃

能の「紅葉狩」を題材にした舞踊劇ですが、既存の歌舞伎の「紅葉狩」や「鬼揃紅葉狩」とは異なる形で、昨年12月に玉三郎さんが歌舞伎座で初演されました。
初演のときは見ていないので、今回が初見です。

「鬼揃紅葉狩」と筋は同じですが、前半部分で能の様式を色濃く取り入れているのが特徴的です。
前ジテの上、ツレの侍女は、唐織に緋の大口袴と、能装束を取り入れた着付け。
舞も能の動きを取り入れたものになっていました。

試みとしては面白いと思うのですが……、うーん……、2階席から見下ろしていると、シテとツレが揃って舞っている様子が「能装束を着たラジオ体操」のように見えてしまいました……。

既存の松羽目物というのは、先人が工夫をこらして能を歌舞伎に消化し完成させたものだと思うのです。
それを見直してさらに工夫を加えること自体は、悪い試みではないと思うのですが、無理して能に逆戻り(?)させる必要は、果たして本当にあるのかなあ……などと、つらつらと考えながら見ていたのでした。

後ジテの鬼女に拵えを変えるまでのつなぎに出てくる山神(普通は若手がやることが多い)を、仁左衛門さんがなさっていたのが、顔見世ならではの「ごちそう」でした
あと、海老蔵さんの維茂の謡がかりの台詞が、意外に(と言っては失礼ですが……)しっかりしていたので、感激してしまいました。

■源氏物語

「源氏物語」の絵看板

「夕顔」の巻を題材にした舞踊劇。
光源氏を海老蔵さん、夕顔を扇雀さん、六条御息所を玉三郎さん、惟光を猿弥さん。
配役や構成はよかったと思うのですが……、六条御息所の生霊が登場する肝心の場面で、照明落としすぎで舞台がほとんど見えませんでした……。
2階席からだと、暗闇の中で何やら白いものがうごめいているようにしか見えない……(でも、1階席の反応も非常に薄かったので、たぶん1階席でも同じような見え方だったんだと思います……)。
これは演出ミスとしか思えないです……。
意図するところはわからなくもないですが……、見えなければ、伝わるものも伝わらないですからね。
それに、「明るくても暗いように見せる」のが歌舞伎なんじゃないかなあ、と……。

◆◇◆◇◆

今回は、洋服で出かけたので、「ちなみもの」は手ぬぐいのみ。
「藤娘」にちなんで、藤の手ぬぐいと「いとし藤」の豆手ぬぐいを持っていきました。

藤と「いとし藤」の手ぬぐい

1日目のお昼ごはんは、南座隣の「矢倉寿司」で調達したのですが、2日続けてだと飽きてしまいそうだったので、2日目は四条通り沿いにある餅菓子屋「丹波屋」さんで、おこわを買いました。
ここのおこわは季節によって具が変わるのですが、今回は「ごぼうおこわ」でした。

丹波屋のおこわ

1階ロビーには、南座の顔見世ならではの「竹馬」(ご贔屓から贈られるお祝い)が並んでいました。

竹馬

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