本朝徒然噺

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御園座顔見世 昼の部・夜の部(10/4)

2008年10月06日 | 芝居随談
10月4日(土)に観に行った、御園座顔見世(昼夜)の観劇日記です。

昼の部の演目は「時平の七笑(しへいのななわらい)」「京鹿子娘道成寺」「金閣寺」。
夜の部の演目は「鶴亀」「修善寺物語」「河内山」「藤娘」「供奴」。

御園座顔見世の看板

昼の部はかぶりつき(最前列)、夜の部は「とちり」席(前から7~9列目)で観ました。

御園座は、前から5列目くらいまでが「特別席」になっていて、歌舞伎座の桟敷席のように1等席より2000円高くなっています(歌舞伎座で桟敷席になっているところは、普通の椅子席が2列並んでいます)。チケットのサイズも1等席のより大きくなっていたので、びっくりしました

普段は、舞台と花道が見渡せるように「とちり」より後ろの席に座ることの多い私が、なぜかぶりつきで観たのか、賢明な読者のみなさまはもうおわかりですよね(笑)。
そう、道成寺のアレです。
はたして、その顛末やいかに……!?

まだまだ興行が続いておりますので、物語の筋はここでは詳しく書きません。
作品説明など詳細は御園座ホームページをご覧ください。

■時平の七笑

時平を演じるのは我當さん。
2年前博多座で、同じく我當さんの時平で上演されたのを観て面白いと思ったので、今回楽しみにしていた演目の一つです。
上演時間も30分と短く、大きな盛り上がりもない演目なのですが、なぜか引き付けられます。
我當さんが演じておられるからいいのか、それとも、作品自体に魅力があるのか……、我當さん以外の時平で観たことないのでわかりません

太宰府に流されることが決まった菅原道真をなぐさめ励ましながら見送るまでの貴公子ぶりと、道真を見送った後一人になってからの豹変ぶりが見どころ。
我當さんの時平は、後半豹変してからも、時平の策略家ぶりをしっかりと表現しつつ、代々の摂家に生まれた貴族の「格」が保たれているようで、さすがだなあ……と思います。
終盤、時平が「道真思い知ったか」とでもいうように高笑いをするのですが、決して下品にならず、それでいて、時平の底知れぬ恐ろしさがよく伝わってきます。

この高笑いの場面では、階(きざはし)に座った時平が大道具ごとせり出すので、かぶりつきで見ているとさらに迫力が増しました

タイトルのとおり、劇中では時平のさまざまな笑いがみられ、最後は時平が高笑いをしているところで幕が引かれます。そして、幕が閉まってからさらにもう一つ、高笑いをします。
私は博多座で一度観ていたので、幕が引かれてからもそのまま席を立たずに最後の一笑を待ち構えていたのですが、後ろの列に座っていたおばさまたちは、立ち上がりかけて「まだあるの!?」と驚きの声をあげ、幕の向こうから高笑いが聞こえてきた時に自分たちも大笑いしてました(笑)。

菅原道真は、彦三郎さんが演じておられます。
老練な学者の静かな怒りがよく伝わってきて、さすがの貫禄でした

■京鹿子娘道成寺 道行より押戻しまで

30分の休憩の後は、お待ちかね、山城屋さんの喜寿記念道成寺。

今回は、3月の歌舞伎座の時と同じく、押戻しまで上演。
通常の鐘入で鐘の上にのぼった時の山城屋さんの表情が好きなので、鐘入まででも十分なのですが……。
でも、鱗四天の「とう尽くし」も御園座バージョンになっていて面白かったし、押戻しまでのフルバージョンで見られてやっぱりよかったです

山城屋さんは、歌舞伎座の時に比べるといまいちノリきってないような感じがしたのですが、初日が開いてまだ4日目で、長唄のメンバーも歌舞伎座の時とは違うので、しょうがないのかなあ……と思います。
でもやはりクドキはさすがで、山城屋ワールドに引き込まれました。

そのクドキの後の手ぬぐい撒き。
クドキに魅了されていた私のところへ、なんと、山城屋さんが投げた手ぬぐいが飛び込んできました!! しかも、ストライクゾーンに!!!
もちろん、しっかりキャッチしました~!
歌舞伎座だと座席の前に落下してしまうことが多いですが、御園座は舞台と最前列の客席との距離が短いので、それが幸いしたのかもしれません
山城屋さん手ずからの手ぬぐいをキャッチできて、大感激です!

道成寺の撒き手ぬぐい(御園座顔見世)

道成寺の撒き手ぬぐい(御園座顔見世)

順番が前後しますが、所化の「舞尽くし」の口上は、この日は上村吉弥さんが担当でした。
時々しどろもどろになりながら口上を述べる吉弥さんが、お茶目で楽しかったです(笑)。

押戻しの大館左馬五郎は、翫雀さんがつとめておられます。
藤十郎さん相手の翫雀さんだと、押し戻しきれずそのまま突っ切られてしまいそうな感じがしますが(笑)、ちゃんと押し戻せてよかったヨカッタ(←アタリマエじゃ!)
山城屋さんの喜寿記念道成寺の締めくくりに、押戻しで親子が並んで花道に立つと、観ているほうも感慨深いものがありました。

■金閣寺

今回の御園座顔見世は、中村錦之助襲名披露興行になっており、昼の部はこの「金閣寺」が襲名披露狂言。劇中の襲名披露口上はありません。

此下東吉を錦之助さん、雪姫を時蔵さん、松永大膳を三津五郎さん。
配役自体は悪くないと思うのですが、うーん……、なんだか小さくまとまってしまっているように感じられました。
時蔵さんの雪姫も、台詞は丁寧なんだけれどこちらに伝わってこない感じがしてしまって……。正直、ちょっと退屈でした。

彦三郎さんの十河軍平、亀鶴さんの鬼藤太、秀太郎さんの直信、竹三郎さんの慶寿院は、それぞれ役に見合う存在感があってよかったです。

■鶴亀

夜の部の最初は、祝儀舞踊「鶴亀」。
時蔵さん、梅枝さん、萬太郎さんによる親子競演です。
時蔵さんなので、帝は女帝の拵え。梅枝さんが鶴、萬太郎さんが亀。

ここでも、時蔵さんがイマイチ大きく見えなかったのが残念。
「女帝」に見えなかったんですよね……。

でも、おめでたくてきれいな踊りなので、楽しかったです

■修善寺物語

夜の部での錦之助襲名披露狂言。
富十郎さんもご出演され、襲名披露狂言を盛り立てておられます。

ここでも劇中の襲名披露口上はありません(岡本綺堂の新歌舞伎なので、さすがに入れられないですよね)。

富十郎さん演じる面打師・夜叉王、素晴らしかったです!
台詞の一つ一つが、非常に印象深く胸に響いてきて、岡本綺堂の作品の魅力が余すところなく表現されていたように思います。

時蔵さんは、鄙に育ちながらも女としての立身出世を夢見る自尊心の強い姉娘・桂を演じておられました。
ここでの時蔵さんは、とても良かったです

錦之助さんの頼家も風情がありましたし、姉の桂とは対照的に地道に暮らす妹娘・楓を演じる扇雀さん、楓の婿で誠実な職人の春彦を演じる翫雀さんも、それぞれとても雰囲気が出ていました。

夜の部では、私はこの「修善寺物語」が一番よかったと思います。

■河内山 質見世より玄関先まで

三津五郎さんの河内山。
うーん……、良くも悪くも「想定の範囲内」というか予想どおりの河内山でした
悪いほうの予想にたがわず、小さく見えてしまったのが残念でした(体が小さいとかいう物理的なことを言ってるわけではないですよ、もちろん)。
亀鶴さんの数馬も、錦之助さんの松江公も今ひとつ弱かった感じです。
河内山と松江公、河内山と数馬が絡むところは、正直、眠くなりました……

市蔵さんの北村大膳、我當さんの高木ご家老、彦三郎さんの和泉屋清兵衛は、さすがの存在感でした。

■藤娘 供奴

おしまいは、「藤娘」「供奴」の舞踊二段返し。
「藤娘」を扇雀さん、「供奴」を翫雀さんが踊ります。

一般的な構成の「藤娘」は、藤音頭の後に藤の花房の下へ行って扇子であおいだら、いったん藤の木の後ろに引っ込み、片袖脱ぎになって出てきますが、今回は、扇子であおいだ後「引き抜き」(上に着ていた衣装を後見が引き抜き、一瞬にして衣装を変えること)だったのでびっくりしました。
引き抜いた後の衣装は、白地にピンクと水色の藤の花が描かれたもので、きれいでした

翫雀さんの「供奴」は……、一生懸命、丁寧に踊っておられるのはすごくよく伝わってくるのですが……、旦那のお供をして奴さんが吉原へ行くのですから、廓らしい、どこか浮かれた、柔らかな雰囲気がもう少し出たほうがいいのかも……

「藤娘」も「供奴」も大好きな長唄舞踊なので(踊り自体もですが、特に長唄が好き)、楽しく一日を終えました。

◆◇◆◇◆

昼の部の幕間に、御園座に併設する名店街の地下で、きしめんを食べました。
五目あんかけ風になっていて、具だくさんで食べごたえがありました。

五目きしめん

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