本朝徒然噺

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松竹座七月大歌舞伎・夜の部(7/26)

2008年07月30日 | 芝居随談
7月26日(土)に観に行った、松竹座七月大歌舞伎・夜の部の観劇日記です。

役者衆にならって船乗り込みをし、「今井」でおそばを食べて、楽しい気分で向かった松竹座。

今年の松竹座七月大歌舞伎は、藤十郎さん、仁左衛門さん、我當さん、秀太郎さん、孝太郎さん、愛之助さん、進之介さんと上方勢が揃ううえ、菊五郎さん、田之助さん、左團次さん、團蔵さん、魁春さん、松緑さん、菊之助さんなどが参加する、まるで顔見世のような豪華な顔合わせでした

夜の部の演目は、「熊谷陣屋」「黒手組曲輪達引(くろてぐみくるわのたてひき)」「羽衣」「団子売」。

■熊谷陣屋

仁左衛門さんの熊谷、藤十郎さんの義経、秀太郎さんの相模、我當さんの弥陀六、孝太郎さんの藤の方、愛之助さんの軍次と、オール上方勢キャストの一幕。
そのため、山城屋ファン、関西歌舞伎ファンとしては、夜の部のなかでいちばん楽しみにしていた演目でした。

また今回は、「藤の方入り込みより」の上演となっており、それも注目の一つでした。

通常のやり方では、陣屋まできていた相模が軍次とともに熊谷を出迎えるところから始まり、熊谷が相模に向かって敦盛を討ったことを語ると、奥から藤の方が出てきて熊谷に斬りかかる、という流れになっていますが、今回は、

息子・小次郎の初陣が気がかりで、相模が陣屋を訪れる

出迎えた軍次に、相模が夫や息子の様子を尋ねる

そこへ、追手から逃げてきた藤の方が助けを求めて陣屋にやってくる

かつて宮中で藤の方に仕えていた相模は、藤の方との再会を喜び、藤の方を陣屋にかくまう

二人はしばし昔話に花を咲かせるが、相模の夫が敦盛を討った熊谷だと知った藤の方は、わが子の仇を討つため助勢するよう相模に詰め寄る

相模は藤の方をなだめて、奥の一間に藤の方を案内する

そこへ、熊谷が帰ってくる

という流れ。

そのため、熊谷が戻ってきた時に相模が慌てている理由(相模は、小次郎のことが心配で勝手に陣屋まで来てしまったため、夫に厳しく叱られると考えているのです。実際、叱られるわけですが)、藤の方が陣屋の中にいる理由、藤の方が熊谷に詰め寄る際、相模に向かって「最前の約束どおり助太刀せい」と言う理由などがより明確になり、わかりやすくなったのではないかと思います。

歌舞伎を初めて観る人にも筋がわかりやすくなるように演じるという配慮は、現代においては必要なことなのかもしれませんね。
特に義太夫狂言は、人物の心情描写が重要な位置を占めているものですから、筋が理解されていないと肝心なところが伝わりにくいでしょうし。
義太夫狂言を何よりも大切にする上方の役者さんたちの気概が伝わる構成でした。

お芝居の感想はと言いますと……、

個性豊かな上方勢だけあって、それぞれの役の存在感はあったのですが、全体の調和という点ではイマイチしっくりこない感じがしてしまいました。

いちばん最近上演された、幸四郎さんの熊谷、梅玉さんの義経、芝翫さんの相模、魁春さんの藤の方、段四郎さんの弥陀六という組み合わせが「マイベスト」になっているので(個々の存在感がしっかりとありながら全体のバランスがよくビシッとはまっていて、しかも泣けた)、それとついつい比べてしまったのがいけなかったんでしょうか……。

仁左衛門さんの熊谷は、どっしりとしていてすごくよかったんですが……、出家して旅立っていく自分に対して義経が「敦盛」(実は熊谷の一子小次郎)の首を向けたのを見た時の心情が、今ひとつ伝わってこなかったように思いました。
なので、「十六年は一昔、夢であった……」の台詞も、胸に迫ってこなくて、それがちょっと残念でした。

義経は、その首が小次郎のものであることもすべて察したうえで熊谷を見送っているわけで、小次郎の首を向けられた時に熊谷は、義経の気持ちに気づいてハッと胸を打たれると同時に、亡き息子に対する思いが堰をきったようにあふれてくるのだと思います。
その時、父親としては、さまざまな思いが複雑に絡み合い、身を切るような心情なのだと思います。おそらく、自らの手で小次郎を斬った時よりも。
あふれるような気持ちを抑えて絞り出す熊谷の「十六年は一昔、夢であった……」という一言に、観客は涙するのではないでしょうか。

何はともあれ、オール上方勢という、歌舞伎座ではなかなか見られない配役での「熊谷陣屋」を楽しめたので、よかったです

そうそう、梶原を片岡松之助さんがなさっていたのも、嬉しかったです。
これも、歌舞伎座では見られない配役なので……。
声がしっかりと通る松之助さんならではのどっしりとした梶原で、舞台が引き締まっていました

■黒手組曲輪達引

二幕目は、菊五郎劇団による「黒手組曲輪達引」。
「助六由縁江戸桜」のパロディとも言えるお芝居で、助六から「本歌取り」したさまざまなご趣向が楽しめます。

それに加え、菊五郎さんならではの「遊び心」たっぷりの演出もあって、理屈抜きで楽しめるお芝居です。

東京では2年前に歌舞伎座で上演されたばかりですが、大阪では昭和57年に新歌舞伎座で猿之助さんがなさって以来、なんと26年ぶりだそうです

2年前に歌舞伎座で上演された時は、カモの着ぐるみをかぶった菊五郎さんが出てきた後、黒御簾から「恋のダウンロード」(某携帯電話会社のCMで仲間由紀恵さんが歌ってらした曲です)が流れてきたのですが、今回はどんなふうになるのかなあ……と、楽しみにしておりました。

はたしてその「遊び心」たっぷりの演出とは……(千穐楽を過ぎたので、ネタバレを気にせず書かせていただきま~す)。

カモの着ぐるみを着た菊五郎さんが「未知との遭遇」のテーマにのってせり上がってくる(店の金を横領し新造白玉を連れて逃げようとした番頭が、白玉の情夫(まぶ)から不忍池に突き落とされるのですが、不忍池のカモに助けられるという設定なのです)ところまでは、前回と同じですが……、

そのカモ、よく見ると、黄色と黒の縞模様の鉢巻きをしめた「タイガース仕様」になっていました!
手には、タイガースの応援用メガホンを持って(笑)。

そこへ、ケン○ッキーフライドチキンのカーネルサンダース人形と、阪神のマスコットキャラ「トラッキー」が登場。
「今年は阪神が優勝するかもしれないので、道頓堀川に投げ込まれては困ると江戸へ逃げてきたカーネルサンダースを、トラッキーが連れ戻しにやってきた」という設定なんだそうです(笑)。

この二人をつとめた役者さん、どなただったと思います?

カーネルサンダースを團蔵さん、トラッキーを田之助さんですよ!!
トラッキーの着ぐるみを着た田之助さんを見られるなんて、貴重です!
これを見られただけでも、大阪に出向いた価値が十分あったかも(笑)。

7月8日までは「くいだおれ太郎」に扮していたそうなのですが、「くいだおれ」の閉店後はトラッキーに変わったようです。
阪神ファンの私にはトラッキーも嬉しかったのですが、田之助さんの「くいだおれ太郎」も見てみたかったなあ……。
こちらの記事でご紹介したように、太郎は「旅に出ている」そうなので、設定的にもちょうどよかったんじゃないかと思うんですが……。

團蔵さんのカーネルは、黒御簾で唄う「♪チャラチャッチャッチャラッチャ~」にあわせて、フライドチキンをマイク代わりに、ムーディ勝山のマネまでしてました
まあ、白のスーツを着ているところが共通項といえば共通項ですが……

その後、タイガースの応援ハッピを着た若い衆が出てきて、黒御簾からは「六甲おろし」が(もちろん、テープではなく黒御簾の方々すなわち長唄のみなさんが唄ってらっしゃるのですよ!)。
そして、若い衆が手に持っていたジェット風船(7回で阪神ファンが飛ばす、あれです)を飛ばし、虎ガモ姿の菊五郎さんを先頭に、カーネルやトラッキー、若い衆がにぎやかに花道を通っていきました。
花道に近い席に座っていた私は、近くで團蔵さんのカーネルを見ましたが、ほんとソックリでした……。あのまま店先に立っててもわからないくらい(笑)。

客席に意外と阪神ファンが少なかったのか(大阪だと、近鉄時代からの流れでオリックスファンとか、南海時代からの流れでソフトバンクホークスファンとか、結構いらっしゃると思いますから)、客席がイマイチ盛り上がってなかったのが残念でしたが……

プロ野球のシーズン中はケータイの待ち受け画像をトラッキーかラッキーちゃん(トラッキーのガールフレンド)にしている私には、十分楽しゅうございました

もちろん、こういう「お遊び」だけでなく、菊五郎さんの粋でいなせな助六、菊五郎劇団ならではの息の合った大立ち回りも存分に楽しめる一幕でした。

■羽衣、団子売

大喜利は、二段返しの舞踊で「羽衣」「団子売」。

「羽衣」は、菊之助さんの天人、松緑さんの漁師伯竜というコンビ、「団子売」は、愛之助さんの杵造、孝太郎さんのお臼というコンビ。

菊之助さんの天人は、とにかくキレイでした。
が……、前半、羽衣を返してほしいと伯竜に頼むところが、なんだか妙に生々しく感じられて、まるで「色仕掛けで羽衣を返してもらおうとしている」みたいに見えてしまったのが残念
あくまで、能の「羽衣」をもとにしたものなので、そう見えてしまってはいけないのだと思います。
まあ、振り付けのせいもあったのかもしれませんが。

松緑さんの伯竜は、キリッとしていて、舞台を引き締めてくれていた感じでした。

愛之助さんと孝太郎さんの「団子売」は、花形コンビならではの華やかさがあって、とにかく「見ていて楽しい」踊りでした
「団子売」を見て、幕が閉まる時に「もっと見ていたい~」と思ったのは初めてかも。
「もっと見ていたい~」と思いつつ、楽しい気分で劇場を出られて、いい一日の締めくくりとなりました

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