本朝徒然噺

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歌舞伎座・八月納涼歌舞伎(8/18、26)

2007年09月08日 | 芝居随談
毎度遅まきながら……、八月納涼歌舞伎の観劇日記です。

秀山祭九月大歌舞伎も始まり、私の頭の中はその観劇のことと着て行くキモノのことでいっぱいになっているので(笑)、うすーい感想になってしまうかもしれませんがなにとぞお許しを……

納涼歌舞伎は3部制なのですが、私は第2部と第3部だけ観に行きました(第1部はパスしちゃいました……ゴメンナサイ!)。
観に行った順で、まずは第3部の感想から。

■裏表先代萩

第3部の演目は、通し狂言「裏表先代萩」。
おなじみの「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」に、世話物の要素を織りまぜたお芝居です。
当初は、8月18日(土)のみを予定していたのですが、人づてにチケットをいただいたので、前々日の8月16日(木)にも行ってまいりました。
ただし平日だったので、16日は仕事が終わってからかけつけて「御殿」からの観劇でした。
その時の「御殿」の印象は、「なんか全体的に間延びしてる……」ということ……。
役者さんをはじめ、義太夫も、御簾内(下座音楽)までもどことなく間延びしていた感じでした。猛暑の日だったからかなあ……

しかも、続く「床下」では、仁木弾正の動きがなんだか変だったし、荒獅子男之助はやたらと声を張り上げてるだけで台詞が全然締まってなかったし……(18日に観に行った時は、男之助はすごく良くなっていました)。
夕ご飯も食べずに駆け付けた私は、空腹のせいもあってだんだんご機嫌ナナメになってしまったのでした(笑)。

そんな私のご機嫌をまっすぐに戻してくれたのは、続く「問注所」の場で出てきた三津五郎丈の倉橋弥十郎。
「捌き役」と呼ばれる、知と情を兼ね備えた人物の役ですが、三津五郎丈は本当にこういう役が似合うなあ……と、ホレボレしながら観ていました。
台詞も肚から出ている感じで、舞台がびしっと引き締まる感じがしました。
大詰の「刃傷」の場でも、三津五郎丈扮する細川勝元がカタチよく扇をかざして「めでたい」とキメて幕切れとなるので、気分良く劇場を後にすることができました

18日(土)に観に行った時には、前々日と違って「御殿」も引き締まった感じがして、よかったです。この日は涼しかったからかな……(笑)。
でも、「床下」の仁木弾正の動きはやっぱり変でした……。「刃傷」の場での仁木弾正は結構よかったのに、もったいないなあ……。

続いて、8月26日(日)に観に行った第2部の感想です。

■ゆうれい貸屋

第2部の幕開きは「ゆうれい貸屋」。

5月の「泥棒と若殿」に続き、坂東三津五郎丈が山本周五郎の作品にチャレンジされました。
三津五郎丈は、怠け者で酒飲みだけれどどこかお人好しで憎めない桶屋・弥六を好演しておられました。

そんな弥六に惚れて世話女房を気取る芸者の幽霊・染次を演じたのは、中村福助丈。
福助丈の染次は、面白かったんですけれども……うーむ……
なんか、「笑いをとろう」とガツガツしているように見えてしまったのが、ちょっと残念でした……。

その辺りが、三津五郎丈の目指すところとちょっとずれているんじゃないかなあ……と、舞台を観ていてなんとなく思いました。二人のベクトルが交わっていないような、どこかしっくりしない空気があったように感じたのは、気のせいかなあ……。

「泥棒と若殿」の時のような「ほんわかと面白い喜劇」とはちょっと違う仕上がりになっていたんじゃないかなあ……というのが、正直な感想です。
今回の納涼歌舞伎ではこの「ゆうれい貸屋」に一番期待していただけに、ちょっと残念な気がしてしまいました、私は

菊五郎劇団の芝居で、「ガツガツしない人(笑)」を染次にして演ってみたほうが、作品そのものの面白みを出せるんじゃないかなあ……と、ちょっと思いました。時蔵丈とか菊之助さんとか。

弥六に尽くしながらも、弥六の怠け癖がなおるようにと心を鬼にして家を出て行く女房・お兼を演じた片岡孝太郎さんが、すごくイイ感じでした

弥六のことを諭す屑屋の幽霊を演じた勘三郎丈も、よかったです。
この手の「喜劇」を演じる時、調子に乗ってハメをはずしてしまう(当人にそのつもりはないのかもしれませんが、はたから見てるとそう見えてしまう)ことの多い中村屋さんですが、今回はそういうのがほとんどなくて(←「まったく」と言えないところがビミョーですが……笑)、ちゃんと空気を読んで芝居をしていた感じでした(笑)。
出番はそれほど多くないけれど、いいアクセントになって舞台を引き締めておられたと思います。

■新版舌切雀

第2部のもう一つの演目は「新版舌切雀」。
昔話の「舌切雀」を渡辺えり子さんが斬新にアレンジした新作歌舞伎です。

一言で言うと「感想が書きづらい芝居」でした(笑)。

はじめとおしまいのところで、この作品のテーマのようなものが語られるのですが、芝居の途中途中がそのテーマにうまく結びついていないというか……なんだか一貫性のない、つぎはぎのような芝居になってしまっていた感じでした

勘三郎丈扮する意地悪おばあさんの唯一の友達として「蚊」が出てくるのですが、この蚊が出てくる意味も、はっきり言って全然わかりませんでした。ただウケ狙いのために用意した役という感じで……。蚊を演じた中村扇雀丈が妙にハマっていたので、まあいいんですけど……(笑)。

三津五郎丈が演じた「与太郎」がすごく良かったと思うのですが、劇中では与太郎をもう一歩生かしきれていない感じがしたのがちょっと残念でした。

自業自得で孤独になってしまった意地悪おばあさんに与太郎だけが理解を示すところは、本質を突いた与太郎の言葉が印象的でしたし、それに心を動かされながらも意地をはってしまうおばあさんの心情もよく表れていたと思います。
でも、ここに至るまでの与太郎の使い方がイマイチで(役者さんの演技ではなく、脚本が)、せっかくのこの場面が引き立たなくなってしまっていた感じがしました。

三津五郎丈は、二役で「森の賢者」も演じておられたのですが、この「森の賢者」の位置づけもなんだか中途半端だったのです(これも、役者さんの演技ではなく脚本が)。
無理に二役にせず、もっと与太郎を丁寧に描けばいいのになあ……と思いました。

全体的に、あれもこれもと詰め込みすぎて却って中途半端になってしまった感じで、残念でした。例えて言うならば、「ちょっとずつつまみ食いをしているうちにお腹いっぱいになってしまって、メインディッシュが食べられなくなってしまった」という感じでしょうか……。

テーマとか構成を見る限り、勘三郎丈が勘九郎時代の最後に演じた「今昔桃太郎(いまはむかしももたろう)」を意識しているのかな……という気がしました。
菊五郎劇団が「NINAGAWA十二夜」を再演したこともあり、中村屋でも「渡辺えり子さんの芝居を再演したい」という思いがわいたのではないかと……。
でも、「今昔桃太郎」は中村勘九郎最後の舞台のために作られたものだから今は通用しない、じゃあそれと同じようなテーマ・題材で別のものを作るか……という感じで作られたんじゃないかなあ……と思ってしまいました。うがった見方でしょうかねえ……。
「今昔桃太郎」をもう一度練って、汎用性のある作品に仕立て直したほうがよかったんじゃないかな……と、ちょっと思いました。

まあ、でも、新しいものを積極的に作っていこうという姿勢は評価すべきところだと思いますし、これからも楽しみにしています。

義太夫の方々が太棹でロックの旋律を弾いたり、箏曲の方々が「白鳥の湖」の旋律を弾いたりされていたのが、私にとってはすごくツボでした
御簾内(下座音楽)も、いろいろと工夫がなされていて楽しめました

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4 コメント

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深いです。 (agma)
2007-09-09 22:07:01
藤娘さま

うすーい感想?…とんでもないです!

うーむ、と唸りながら拝読いたしました。

「床下」の仁木弾正は私も何だか変に思えたのですが
私にはどこがどう変なのかが まだ分からなかったのです。
前回の成田屋さんの仁木弾正がとても良かったのでその印象が拭えないのかしらと思ったのですが…。

また、舌切雀での玉婆は息子の森彦の死を知らされても、「ふひぇー!死んだ?何で!」と流す感じで
《救われない人》にしか見えなかった私。
三階席で細かい表情が見えないので そう感じたのかもしれません。

また、与太郎のつぶやきは玉婆にちゃんと届いていたのですか~

どうやら私の拒絶反応が強すぎたようです。
もう一度思い出してみましょう。(笑)

逆に染次はあれで良いと思っていました。
そうかー、他の方の配役でまた観てみたいです!

藤娘さんの感想を読ませていただくと 
個人的な好みは夫々あるので それは別にして
全体を通してきちんとご覧になっているので
深いです。 参考になりますー。
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待ってました♪ (やっぴー)
2007-09-09 22:56:02
私は二部しか観てないので
他をご覧になってるみなさまの感想が楽しみなんです。
ほぉほぉ、なぁるほどぉ~とPC前で頷いております 
まだまだ木戸口に居る私は藤娘様やagmaさまの感想を
大いに参考にさせていただいてます。
(まだ、アレも楽しいコレも楽しいで違いが分からない)

秀山祭も昼の部を観に参りますの~キャハッ
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agmaさま (藤娘)
2007-09-11 00:45:10
ありがとうございます!

やっぱり、仁木弾正の動き、妙でしたよね……
遠くから見ると、なんだかスキップみたいに見えてしまいました(笑)。
團十郎さんとか幸四郎さんは、普通に悠然と歩いていたと思うんですよね……。
今回のは中村屋さんなりの工夫だったのだろうと思いますが、それにしても……って感じですよね

福助さんの染次は、楽しいのはすごくよかったと思うのですけれど、周五郎作品のイメージからはちょっと離れていたのかなあ……と

「舌切雀」で与太郎の言葉を聞いた時のおばあさんは、中村屋さんの表情や語調からは「与太郎の言葉に心を動かされたけれど意地をはっている」という感じが伝わってきたのですが、脚本が中途半端で肝心のところが伝わってこなかった感じが……
つくづく、芝居はホン(脚本)が大切だなあ……と思いました。
良いホンがあって、役者さんがホンを大切にしながら演じて、初めて良い芝居ができあがるんだなあ……と思った次第でございます
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やっぴーさま (藤娘)
2007-09-11 01:03:41
ありがとうございます!

私の場合は、独断と偏見で、思い付くままにつらつらと書いているだけなので、お恥ずかしい限りでございます……

秀山祭の昼の部、私も先日行ってまいりました!
どの演目も、なかなか見応えがありました~
ぜひぜひ楽しんでらしてくださいまし♪
やっぴーさまの素敵なお着物姿と観劇のご感想、楽しみにしております!
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