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Entrance for Studies in Finance

財務上の特約covenantsについて

財務上の特約covenantsについて

Hiroshi Fukumitsu


社債の世界では社債の無担保化が進んだ結果、償還のよりどころとして財務上の特約をつけることが広がった。また融資の世界では、キャッシュフロー・ファイナンスが普及し与信管理が、重要になってきたことが、財務上の特約の普及につながったと指摘されています。

 債権者と債務者の関係は代理関係に例えられます。そこで債権者は債務者を従わせるために、さまざまなテクニック(監視や契約など)を使います。このように代理関係があるゆえに発生するコストを代理コストagency costといいます。このagency問題を緩和する方策として(agency costを引き下げる方法として)債務契約にコベナンツ条項を織り込むことが増えてきました。この条項の付与は債権者の立場からするリスク管理の問題の一つとしても理解できます。 
 ところでコベナンツは次の二つの行為に別けられます。
positive or affirmative covenants ある資本構造あるいは収入の比率の維持など 何かをする約束(作為義務)
  negative covenants ある資産を第三者への担保に入れる、新たなローンを取り組む、株の買戻しなどある資本取引(equity transactions)行為の制限あるいは禁止(不作為義務)
 コベナンツを改めて説明します。債務契約において債務者が守るべき約束の取り決め全体をindentureといい、その中の個々の項目をコベナンツcovenantと呼んでいます。日本語では財務制限条項とか財務上の特約と呼ばれます(表1)。

表1 コベナンツ条項について

センサー機能純資産維持条項、利益維持条項、配当制限条項、自己資本比率維持条項、追加債務負担制限条項など
劣後性回避機能担保提供制限条項(ネガティブ・プレッジ条項)、担保切替条項
その外の企業活動制限セールアンドリースバック制限条項
、主要会社・子会社の処分を制限する条項、子会社株式譲渡制限条項、合併制限条項など

 
徳島勝幸「現代社債投資の実務 新版」2004,pp.102-103,107.
 コベナンツのうち一定の資産比率の維持を求めるものはリスク投資を制限する意味があります。資産内容の変更を制限するものも、リスクの増加を防ぐ意味がある。資産処分を制限するものは、資産の株主への移転や過小投資を防ぐ意味がある。借入を制限するものは、既存の債権者の権利の希薄化を防ぐ意味があります。
なおコベナンツのうち、出資者の出資比率の変更を問題にする条項をとくにCoC(change of control)条項といいます。

この条項に違背する事態になると、期限前償還義務など債権者の保護のための措置の実行を債務者は義務づけられています。一般にコベナンツに違反した場合の効果は、3層に分けられておりますが(表2)、期限前償還は中でも最も厳しい「期限の利益の喪失」にあたります。

表2 コベナンツ違反の効果

期限の利益の喪失即時返済義務など
融資条件の変更担保、金利条件の変更など
違反状態の治癒一定期間内の違反状態是正など


階猛・渡邊雅之『銀行の法律知識 第2版』2009年, p.125

 このような財務上の特約の有効性の差にも関心がもたれています。岡東務氏によりますと、財務上の特約の有効性には差があります。日本で発行された無担保社債および無担保転換社債を検討したところでは、利益維持条項と純資産維持条項の有効性は明らかに高く(実際に抵触例があり物上担保付社債に変更されて社債権者を保護した)、配当維持条項も有効性が高かった場合があるとのことです(岡東務「債券格付けにおける財務上の特約について」『証券経済学会年報』35号, 2000年5月,pp.23-35, esp.29, 34.)。その遵守状況を把握するためのモニタリングコストがかかり、担保と違って倒産時に一般債権者に優先しえないという限界があるとのことです(階猛・渡邊雅之『銀行の法律知識 第2版』2009年, p.126)
 この問題は、金融機関の側からだけとらえると問題があります。借り手側の動機付けに工夫をこらすべきで「違反を直ちに期限の利益喪失とするのではなく、状況に応じて、違反事由の解消策や融資条件見直しの協議をするなど、弾力的対応が求められるよう。また、コベナンツを遵守すればより有利な条件の融資取引への移行が可能であること、借換えの審査手続がスムーズに進むことなどをメリットとして用意することで、借り手側の理解をえやすくすることも必要であろう」高橋秀樹『融資の常識50考2版』きんざい, 2011, p.91.といった、借り手側の立場に立った指摘も見られます。
コベナンツ・ファイナンスの普及を受けて、つぎのようなコベナンツを定型的融資契約書に組み込むことが提案されています。(1)事業CFの入出金集中義務。(2)融資対象事業の継続義務。(3)融資対象事業に関する法令順守など。(4)事業計画・実績報告義務。(5)業績が順調でない場合の報告義務。(入道正久「コベナンツ類型化の有用性」『金融財政事情』2010年6月28日, pp.34-37)
 コベナンツのことを入道さんは「キャッシュフローを担保する仕組み」と表現していますが、これはなかなか適切な表現かもしれません(入道正久「中堅・中小企業に安定的な長期資金調達の道を開く」『金融財政事情』2010年4月5日p.25)。

 なお財務上の特約は特約をつけられる側からみれば、財務上の制約です。条件を付けられる側は、もちろん契約書を吟味して抵抗することになります。

 シンジケートローンではコベナンツが必ず登場します。その理由としてシンジケートローンではローンの譲渡が前提になっているため、「銀行取引約定書」が交わされない。そこで約定書に定めてある期限の利益の喪失など、銀行が取り立てで有利に建てる条項を、コベナンツという形で銀行は確保しようとしていると説明されることがあります。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
 Originally appeared in July 22, 2010.
Corrected and reposted in Aug.4, 2010 and Feb.7, 2012.

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