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人民元弾力化声明(2010年6月19日)

2010-10-31 11:13:12 | Area Studies
中国人民銀行が人民元弾力化声明(2010年6月19日)後の展開
 大幅な元高には輸出産業 輸出企業の利益を代弁する中国商務省が強く反対している。中国政府は元高が雇用問題への波及を恐れている。2010年6月19日の弾力化声明のあと2010年7月5日に1ドル6.76元台をつけたあと、相場は一時横ばいになった。その後、先進国の景気の先行き不安からの元高で8月4日午前の基準値は6.7715元(最高値更新)。一時6.7644元まで進行(8月9日)、元高になることを当局が警戒して元安誘導されたとされた8月13日には6.8035元。8月中旬に入ると元は元安の1ドル6.8元台に誘導されるようになった(輸出企業のドル売り需要があったが、かなり強力に介入がおこなわれた)。
 8月31日の基準値は6.8105元。
 9月に入ると米議会、米政府の批判に配慮して、中国政府は元高誘導に転換する。2010年9月15日(水)の上海外国為替市場は1ドル6.7452元で引けた(前日終値は6.7463元)。同日午前の中国人民銀行の中間値は1ドル6.7250元。いずれも2005年7月の切り上げ後の最高値。
9月15日そして9月16日開催の米議会上院銀行委員会公聴会に向けて元高誘導の姿勢を示した。
同日、日本では6年半ぶりに日本単独で円売り・ドル介入が行われた。米議会の上院銀行委員会委員長のドッドは、日本の単独介入を国際協調という理想とかけ離れたものと批判したのは、多分に中国の為替市場介入批判の妨げになることを意識しての発言だ。
 2010年9月16日(木)に米上院銀行委員会で証言したガイトナー財務長官は、6月の弾力化声明後の上昇幅がわずかに1%に過ぎないことに不満を表明した。しかし中国政府としては元相場上昇に対する国内の不満を考慮しながら、一層の元高に進んだ点を評価してほしいところだろう(16日の終値は6.7248元で4日連続の終値最高値更新 16日の中央銀行基準値は6.7181元。6月19日後の対ドルレート上昇率は1.5%弱に達した)。
 9月17日は6.7235元の最高値で取引が引けた。人民銀行の基準値は6.7121元となった。しかし米国での公聴会終了もあり、当局の元高誘導する動きは弱まるとみられている。
 9月21日には一時6.7元を突破。

 10月8日のワシントンでのG7財務省中央銀行総裁会議は、新興黒字国に為替レートの柔軟性の向上を求め、人民元の切り上げを促した。中国の人民元切り上げに向けて、先進国の不満は高まっているともいえる。しかしG7の主導力は弱まっており、焦点はG20に移っている。
 10月19日 中国人民銀行は2年10ケ月ぶりの利上げを決めた。これを受ける形で人民銀行は翌日の基準値を前日比0.3%安の1ドル6.6754元とした。これは海外からの投機資金の流入をけん制するため、一本調子の上昇を意思表示したもの。
 10月23日 韓国の慶州で開かれていたG20財務相中央銀行総裁会議は通貨安競争回避で合意。声明を発表して閉幕した。
 ところが元相場は10月下旬 下落に転じた。11月1日終値は6.7015元。そこから上昇。
 11月5日 上海外国為替市場終値6.6566元(4日連続の上昇)
11月10日 上海外国為替市場で一時6.6353元の元高(過去最高値)
 11月11日 ソウルでG20首脳会議始まる(ソウルで米中首脳会談)
 11月12日 中国人民銀行の12日午前の基準値6.6239元(最高値更新)
 11月末 現物相場は6.66前後 先物は6.50前後

2010年12月末 6.6元割れ
 12月24日午前の基準値6.6317元(久しぶり、ほぼ1ケ月ぶりの6.63台)
 12月28日午前の基準値6.6252元(1毛月半ぶりの6.62台)
2010年12月31日に中国人民銀行基準値1ドル6.5896元と切り上げ以降の最高値を更新(6.6元割れ 終値は6.5897元 終値の最高値更新は4日連続)。これは2005年7月以降の最高値。
 その後 年明け以降、市場では利益の確定売りがでて少し元安に戻す。一時6.63元台まで下落。1月12日(水)をみると午前中に基準値6.6128元の元高を記録。午後も6.61元前後。その後も13日(木)、14日(金)と最高値を更新(3日連続)。13日午前には基準値が6.5997元台。しかし17日(月)は小幅安。18日(火)午前は再び6.5891元と2005年7月以降の高値を更新した。(背景には胡錦濤国家主席の米国日程があるとされる。1月18日到着。1月19日午前 歓迎式典・米中首脳会談)元相場の引き上げには、国内のインフレ抑制の側面、為替介入による投機資金供給を停止したい思いがかさなる。

 中国人民銀行は、管理変動相場制への移行により輸出依存を軽減、内需重視への転換を目指している。中国政府は、2008年のリーマンショックのあと、製造業の輸出促進のためのドルペッグ制にもどっていたが、2010年6月に至って再び外圧をかわすため人民元弾力化を今回再スタートさせた。
 しかし中国経済体制は開放体制とは言い難い面を残している。たとえば株式市場は存在するものの公開されている株は資本全体の3割。株式市場を通じたコーポレートガバナンスは実現していない。また金利は自由化されておらず、金利による政策効果が遅いため、人民銀行はもっぱら窓口指導に頼っている。さらに外貨準備の増加に為替介入政策が現れている。国内には人民元供給の増加とインフレ懸念が生じている。
 為替変動を自由化して人民元切り上げることは、成長の果実を国民に享受させることにもつながると考えられる。しかしそのためには輸出依存経済から内需依存経済への転換。また企業の国際競争力の強化を急ぐ必要がある。

2010年6月19日(土) 中国人民銀行は「人民元の弾力性を高める」との声明を発表した(通貨バスケット参考の管理通貨制度へ復帰)。過去2年近くドルに固定してきた人民元相場について上昇を容認する姿勢示す(しかし今回の声明に、1日あたり上下0.5%以内という変動幅についての言及はなく、変動幅は現状を維持すると思われる)。
 6月26日からカナダのトロントで始まるG20に向けたパーフォーマンスとも評価される。
 当面中国当局の元切り上げ幅は小幅にとどまりそう(6月21日朝 人民銀行は取引基準値を18日と同じ1ドル6.8275元でスタート。同21日は終値6.7976元までの上昇を許した。翌22日は6.7980元が基準値、終値は6.8136元。さらに23日には基準値6.8102元に対し終値6.8124元と明らかに介入。大幅な元高は許さない意思は明確だった)。人民銀行は経常収支黒字幅の縮小傾向や、貿易収支が均衡に近付いていると指摘する。それでもわずかに切り上げるのは介入を減らしてカネ余りを是正する狙いもあるとみられる。
 他方でなお切り上げが予測される場合、元に熱銭が向かう。しかしこの熱銭について中国政府は、取り締まりを強化するとしている(大幅な元高は輸出産業 輸出企業の利益を代弁する商務省が強く反対しており雇用問題への波及の懸念もある。実際、7月5日に1ドル6.76元台をつけたあと、相場は横ばいになった。)。
 なお日本では、熱銭の取り締まりはむつかしく、元の大幅引き上げを期待する熱銭の大量流入を予測する声がある。

以下は2010年6月19日までの経緯
熱銭問題 輸出 輸出額の虚偽申告 地下銀行などのルートで 外国資金が流入
為替介入による外貨準備の積み上がり 介入は貿易など経常取引以外の流入対策、熱銭対策の面もある
 7割をドルで運用 2010年3月末で2兆4471億ドル 日本の2倍以上
                          2010年9月末で2兆6483億ドル
為替介入で放出された資金の吸収問題

2010年6月18日(金) 米大統領 G20首脳会議参加者に書簡 経常黒字国に輸出依存の是正 市場原理に基づく為替相場を求め人民元改革の必要性を示唆。同日、中国外務省次官は記者会見で人民元相場は中国の問題と発言。 
2010年5月11日 中国国家統計局が4月の消費者物価指数発表。前年同月比2.8%上昇。今年2月の2.7%上回り、政府の年間目標3%に迫る インフレ懸念高まる
2010年5月2日 中国人民銀行は5月10日から預金準備率を0.5%引き上げるとした(引き上げ後の準備率は大手金融機関で17.0% 前回引き上げは2010年2月その前が2010年1月)。景気過熱感のなか住宅バブルなどへの懸念が高まっていることに対応した措置。
人民元相場維持のための介入が金余りの一因。元切り上げ観測も短期の投機資金「熱銭hot money」を引きよせている。
2010年5月1日 上海万博開幕
2010年4月14日 中国国家統計局 3月の主要都市70都市の不動産販売価格 前年同月比11.7%上昇 10ケ月連続のプラス 伸び率は2005年7月以降で最大
2010年3月末 中国人民銀行の外貨準備高前年同期比25.3%増の2兆4470億8400万ドル(ドル買い介入のほか 投機資金流入を反映か)
2010年3月 オバマ大統領 演説で元の切り上げ促す
2009年12月 温家宝首相が米国による元の切り上げ圧力を批判
2009年11月末 中国欧州首脳会議で人民元改革求められる
2009年11月 訪中したオバマ大統領が為替制度の研究促す
2009年10月 米財務省 国際経済と為替政策に関する半期報告書で2009年4月に続き、中国を為替操作国との認定を見送り、人民元過少評価を指摘
2009年7月 東南アジア諸国連合との貿易で元建て決済認める
     ドル建てにたよることの危うさ
2009年7月 ワシントンで第1回米中戦略経済対話
2009年7月 ウルムチ暴動
2009年5月 ガイトナー米財務長官が訪中
2009年1月 オバマ米大統領就任
2008年11月 総額4兆元(54兆円)の景気刺激策発表(インフラ投資が8割強)
2008年9月 米国債保有高 中国が日本を抜き首位
2008年9月 リーマンショック
2008年夏 金融危機の影響をやわらべるため為替介入で6.8元台で固定

2008年7月以降 1ドル6.83元前後に再び実質固定(人民銀行が元売りドル買い介入実施) 金融危機に対応してドルペッグに回帰

2008年5月 四川大地震
2008年4月 人民元1ドル6元台突入
2008年3月 チベット騒乱
2007年5月 人民元変動幅拡大 
2006年2月 外貨準備高 中国が日本抜き世界首位

2005年7月21日 為替制度改革 それまで米ドルに事実上固定していた元相場を一定の幅で変動させる方式に変更」人民元を2%(2.1%)切り上げ 新通貨制度に移行 通貨バスケットを参考とする管理通貨制度へ移行を宣言 2008年9月のリーマンショックまでに18%の上昇を許すことになった。2005年7月 対ドルで2%強の切り上げ ドル連動制からの離脱 その後3年間で約2割上昇
 
2003年春 SARS流行
2002年 QFⅡ 適格海外機関投資家制度 導入
2001年12月 中国WTO加盟

originally appeared in June 26, 2010
corrected and reposted in September 23 and Oct.31, 2010

2010年9月8日 船長逮捕拘留で中国政府は態度を硬化させている

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通貨安競争回避で合意(2010年10月23日)

2010-10-29 18:39:32 | Economics
通貨安競争の回避をもりこんだ共同声明を採択して10月23日 G20財務相中央銀行総裁会議は閉幕した(2010年10月22日ー23日 韓国慶州)。

この会議は11月11日ー12日のソウルでのG20首脳会議に先立つものであり、共同声明は
「経済のファンダメンタルズを反映し、市場で決定される通貨制度に移行し、通貨の競争的な切り下げを回避」として
前半で中国に切り上げを促し、後半でドル安を批判。また「先進国は為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視」するとして
先進国に監視義務があること、つまり準備通貨を出す日米欧3国の責任を明確化した。

会議では米国に批判が集中
新興国側は急激な資本流入と自国通貨高は米国の金融緩和が原因と非難。
米国は輸出競争力強化のためドル安を容認しているとの批判

これに対して米国は経常収支の不均衡是正で数値目標案を出した。
経常収支の赤字または黒字を2015年までにGDP比プラスマイナス4%以内に
という数値目標(米側の事前提案受けて議長国韓国が22日夜調整にのぞむ
)⇒ドイツ(6%)、中国(4% 2010年の予測は5%弱とも)ガ猛反発 新興国も同調
 ⇒数値目標はぎりぎりで削除、参考となるガイドラインの表現にとどまる 

中国に対し黒字縮小のタガをはめて間接的に切り上げを求めた

米国の超低金利
ドルを売って新興国の債券株券を買う動きが加速
ブラジル 2010年10月18日 金融取引税(海外から自国への債券投資4%⇒6%へ引き上げ)
             10月5日Ⅱ2%から4%に引き上げたばかり
タイ 外国人への債券売却益課税
韓国 インド いずれもドル買い介入を実施 

1985年9月  プラザ合意
1986年5月  東京サミット
1987年2月  ルーブル合意
1987年10月  ブラックマンデー
1995年4月  円が一時79円75銭
1997年7月  アジア通貨危機 タイバーツが暴落
1999年1月  欧州通貨ユーロの導入
2003-2004年 円高とデフレ 総額35兆円の円売り介入
2008年9月  リーマンショック
2010年4月  ギリシャ危機 


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中国企業による海外企業買収事例一覧

2010-10-29 14:41:39 | Area Studies
中国では2000年頃から走出去(外に打って出る)を掲げ、国内企業の対外進出を政府が支援推進している。最近では外貨準備の増勢を抑える意味合いも加わっている。
2008年の海外直接投資額は559億1000万ドル 07年の2.1倍 
なお2009年7月の外貨管理規制緩和。海外の利益をそのまま海外で再投資できるようになった。
参考 CITIC(中国系投資ファンド) 投資事例 

日本企業買収提携事例
2010年7月 中国繊維大手 山東如意科技集団(山東省 邱亜夫董事長) 東証一部 アパレルメーカー、レナウン(東京都 北原稔社長)の第三者割当増資で同社株式の41%を取得
2010年6月 東山フィルム(ポリエステルフィルム加工に強い)に対してCITICが投資、事業承継。
2010年4月 中国大手自動車メーカー 比亜迪(BYD 広東省 王伝福総裁 王氏は、米経済誌フォ-ブスによる2009年中国大陸出身者富豪番付で資産額396億元で首位 2009年に約49万台を販売 中国の乗用車でシェア6位 1995年設立の民営企業 もともとは電池メーカー 携帯電気用2次電池では世界的大手 2003年に国有工場買収して自動車事業参入) 日本の金属大手オギハラ(群馬県太田市)の館林工場(車体を構成する鋼板金型を製作)を買収  
2010年2月23日 ゴルフクラブの本間ゴルフ(東京都港区)をマーライオンホールディングス(北京の投資会社科端集団などが出資)が取得へ 出資2010年6月
 2005年6月 民事再生法申請
 2006年6月 日興アントファクトリー(現アントファクトリーパートナーズ)などがスポンサーになる
2010年6月 マーライオンHDが買収(株式の過半を取得するも経営はアントが続ける)
2010年1月4日 北京宇信易誠科技公司(ユーチュンテクノロジーズ)はNTTデータと合弁で天津市に宇誠聯融数据公司(資本金6000万元 8.4億円 出資比率49%-51%)を2010年2月上旬に設立。クラウド型のネットバンキングサービスを現地金融機関に提供へ。
2010年1月1日 中国最大の小売グループ全国華聯商厦集団(天津市)が携帯電話向けサイト構築大手のインデックスと提携(ネット上のショッピングモールの運営など)へ。
2009年12月16日 自動車部品メーカー寧波韻昇(浙江省 オルゴール製造で世界首位 上海証券取引所上場)が、いすず自動車系自動車部品(電装品)の日興電機工業(神奈川県秦野市 99年に会社更生法適用申請 上場廃止 2001年大和PIが出資)の発行済み株式の79.13%を11億7000万円で買収を発表(大和PIが仲介 取得は2010年1月下旬)
2009年12月16日 家電販売最大手 蘇寧電器(江蘇省南京市)がパイオニア(中国でのブランドは先鋒)と戦略提携契約書に調印。
2009年11月初 IT最大手聯想控股グループ(傘下にはパソコン大手レノボG、システム構築の神州数碼控股デジタル・チャイナ)がシステム開発のSJI(ジャスダック上場)を傘下に入れる決定
2009年6月24日 家電量販大手(国美電器と2強 国美電器は2008年秋に創業者が相場操縦容疑で逮捕され失墜 2009年中国チェーンストア売上高ランキングでは首位)の蘇寧電器集団(江蘇省南京市 孫為民総裁 張近東董事長 6月20日に28億元=394億円の第三者割当増資実施)が日本のラオックス(山下巌社長 09年3月期まで8期連続の最終赤字で経営再建中)の筆頭株主になると発表 蘇寧電器などを引受先に15億円前後の第三者引受増資を実施(8月に出資完了) 発行済み株式の27.36%が蘇寧電器(5730万元=8億円) 日本式経営ノウハウや日本の商品情報の入手が目的とされている。
2008年11月 伸和精工(長野県箕輪町 精密プレス部品加工)に対してCITICが投資 事業承継 
2008年4月25日 スポーツウエアのフェニックスを中国動向集団が買収 フェニックスは2004年に産業再生機構入り その後オリックスGが100%出資。中国動向集団は新株取得の形で5億円出資。債務は1円で継承。
2006年9月 鳴海製陶のMBOを中国系ファンドのCITICが支援
2006年8月 太陽電池大手 尚徳太陽能電力(サンテックパワーSuntech Power Holdings Co.江蘇省無錫市)による太陽電池モジュールメーカーMSK(本社 東京)買収。最大3憶米ドル(345億円)。この買収は中国企業によるこの時点での最大規模の日本企業買収として注目された。販路や技術情報の取得が目的とみられる。翌年(2007年)3月末で福岡工場閉鎖(その後の福岡工場は従業員による買収EBOのモデルケースとして注目された)。
2005年9月 ポッカのMBOを中国系ファンドのCITICが支援
2004年8月 大手機械メーカー上海電気集団総公司による工作機械メーカー池貝(茨城県玉造町 資本金1000万円 明治22年1989年創業 国産初の旋盤を作った老舗工作企業メーカー 発電用タービンや鉄道車両を加工する大型工作機械が得意 工作機械やプラスチックなどを成型する押し出し機が主力)買収。4000万に増資して3000万を出資とされていたが実際は新資本金4憶9000万円でスタートした。
 2001 民事再生法申請 国内スポンサー探すもみつからず
 2005年に上海に中小型工作機械製造拠点。
 120人ほどに一度縮小した従業員は中国50人 日本で200人まで回復。
2004年7月 シンクのMBOを中国系ファンドのCITICが支援
2003年10月 大手医薬品メーカー三九企業集団(広東州シンセン市)による東亜製薬(富山県上市町)買収。三九企業集団は2002年10月には日本の大手ドラッグストアのハックキミサワ(2003年8月にCFSコーポに商号変更)と提携。2003年10月からイオンG系のウエルシアストアーズ(CFSコーポ含む)と連携している。しかし三九集団は業務多角化が行き過ぎその2003年末に債務超過に陥った。2004年に債務再編を開始した。2007年末に香港の華潤集団に買収されて、現在では中国の国営企業ではなくなるという複雑な変遷を経ている。
2002年2月 大手機械メーカー上海電気集団総公司による印刷機製造メーカーアキヤマ印刷機(2001年3月倒産)の営業権取得。アキヤマインターナショナルとしての再スタート。

海外企業(日本企業以外)買収事例
2009年12月23日 ボルボの吉利への売却で基本合意成立と米フォードが発表している。この合意により中国自動車産業の国際的存在感が一段と高まると評価されている。吉利による一連の買収は、中国企業による海外買収の成功例になるのではとの指摘がある。
2009年12月 吉利、米自動車部品ジョンソン・コントロールズと環境対応車開発などで合意
2009年12月14日 北京汽車工業控股、GM傘下のサーブから一部設備と知的財産権買取で合意発表(なお自動車最大手の上海汽車も買い取りで交渉したとされる)
2009年11月 北京京西重工、米デルファイからブレーキ事業などを買収
2009年10月28日 大手民営自動車の吉利汽車を傘下にもつ浙江吉利控股集団による米フォード傘下の高級車「ボルボ」(スウエーデン)買収での優先交渉権獲得が発表された。買収額(メデア推定)は約20億ドル(約1840億円)。
2009年10月9日 重機中堅の四川騰中重工機械などによる米GMの大型車ブランド「ハマー」買収についての最終合意が発表された。売却額(メデア推定)は約1億5000万ドル(約135億円)。対象はブランド、知的財産権、デーラーとの契約など。
2009年6月24日 スイスの石油会社アダックス(シリア、イラク北部などで採掘権保有)、中国石油工集団(SINOPEC)による買収受け入れを発表 買収金額82.7億カナダドル(72.4億米ドル、約6900億円)で中国企業による買収として過去最大
2009年6月5日 中国アルミ(チャイナルコ)によるリオティントへの追加出資白紙に。中国企業による買収にオーストラリアで警戒感高まる。リオティントはBHPビリトンとの合弁事業を発表。
2009年6月 浙江吉利控股集団、オーストラリア自動車変速機メーカーDSI(2009年2月に経営破たん)を買収 買収額は7000万豪ドル(約50億円)
2009年6月17日報道 浙江吉利控股集団、ボルボ買収でフォードと暫定合意(なおボルボにつては北京汽車工業も関心示す)
2009年5月18日 中国五鉱集団によるオーストラリアのOZミネラルズ買収を中国国家発展改革委員会が承認。その後、6月11日OZミネラルズの株主総会が承認して確定。買収額は13億8600万ドル(約1357億円)。
2009年2月12日 中国アルミ(チャイナルコ) 英豪系リオ・ティントに195億ドル(約1兆7550億円)追加出資で合意。出資比率9.3%から18%へ。
2008年12月15日 中国石油化工(シノペックSINOPEC)によるカナダのタンガニーカ(エジプト、シリアで石油権益保有・採掘)買収を国務院が承認。買収額約130億元(約1900億円)。
2008年7月11日 大手資源商社 中鋼集団によるオーストラリア資源会社ミッドウエスト(オーストラリア西部の鉄鉱石鉱山の開発進める 2006年2月生産開始 全量を中国に輸出)に対する敵対的TOB成立(50.97%) 。2007年12月 買収提案。2008年2月 拒否回答。2008年3月14日 敵対的TOB実施発表。
2005年 中国海洋石油総公司(CNOOC) 米石油大手ユノカルの買収に動くも失敗
2005年 レノボグループ(北京市)が米IBMのパソコン事業を12億5000万ドルで買収

参考文献 金山隆一「中国資本に買収された企業の『順調なその後』」『エコノミスト』2010年11月2日, p.24

originally appeared in Dec.2, 2009.
corrected and reposted in October 29, 2010.


private equity firms

2010-10-20 19:28:56 | Securities Markets
private equity firms, PEFs

福光 寛

 企業を買収する買収ファンドという言い方が日本にはある。あるいはその買収ファンドをさらにてがける投資会社という言い方もある。後述するように企業再生ビジネスをてがけるところもあるので(買収ファンドという言い方を避けて)、再生ファンドという言い方もある。これらの買収ファンド、投資会社(投資ファンド)に対応する英語がprivate equity fundsあるいはprivate equity firms、あるいは単純にprivate equityである。
 日本語と英語とかなり表現が違っている。

 private equityというのは、非公開株式つまり上場されている株式ではない株式のことだが、非公開株式に投資されているお金や投資家を意味する場合もある。なおPEは証券会社の自己資金投資先(principal investment)としても注目されている。
 private equity (fund or firm)は公開株式には手を出さないかといえばそうではない。公開株式を取得してもそれを非公開化する(delistng)戦略が基本だという意味である。取得の仕方として、公開買い付け(TOB)もあるが、上場会社から第三者割当方式で取得する例が増えている(これをPIPE(private investment in public equities)という)。

またprivate equity fundsを管理する会社がprivate equity firmsである。fundはfirmに管理され、firmが決定した投資戦略にしたがっている。つまり買収ファンドがある企業を買収しましたというお話は、private equity firmがある企業を買収しましたというお話として報道されている。

具体的名称でみると、著名なCarlyle Group、Kohlberg Kravis Roberts(KKR)、Goldamn Sachs Capital Group、Blackstone Group(1985年創業)などというのはいずれもprivte equity firmの名称である。米ベインキャピタル。欧州系フォルテイス。英系ペルミラ(欧州最大のファンド 2005に日本進出)。あるいは英系テラ・ファーマ(2002創業)。和製最大手はアドバンテッジパートナーズ(AP 1997年立ち上げ なお商社の丸紅がAPの資金を用意したとされる)。

こうしたfirmは投資家(年金基金や金融機関など)から資金(最低数百万ドル)を集めてファンドを組成する。外資系ファンドに日本の投資家のお金が入ることも逆に日本のファンドに外国の投資家のお金が入ることもある。したがってお金の出所という点では、外資系ファンドだから海外投資資金のファンドとは言い切れない。またファンドの目標利益率は20-30%と高い(ちなみに2006-2007年当時、投資家である年金基金のカルパースで15%。ファンドではトップのブラックストーンは30%とされたものだ)。しかし2007年後半以降、買収資金調達が困難化(買収資金コストが上昇 レバレッジ率低下7倍⇒5倍)。またリターン率が低下したことが問題になっている。
なお日本でこのファンドの苦境を象徴したのは、日本のprivate equity fundsの草分けとされるMKS Partners (松木伸男代表)が、2008年に新規のファンドの募集を停止して実質的に解散したとされる問題であろう。

ところでファンドは有限責任事業組合LLP=limited liability partnershipの形で組織され、法人税がかからない(投資家が主に年金基金だというのがいいわけ)。幹部の成功報酬(運用益の20%)も投資収益とみなして、通常のキャピタルゲイン課税(最高35%)より低い軽減課税(15%)になっている(2007年6月現在)。

なお買収ファンドが行なう企業買収の対象は成熟型企業が中心で、買収は支配権(強い経営への関与)をとるバイアウト型が中心。したがってバイアウト・ファンドという言い方がある。そして買収ファンドはビジネスモデルとして、企業価値が下がっている企業を買収して非公開化。再生して企業価値を高めて、買った企業を売却して利益を出そうとする。日本ではこうしたビジネスを企業再生といい、企業再生ファンド、再生ファンドと呼んだ。

 このようなprivate equityの投資には、さまざまな手法がある。そのもっともベーシックなものが企業再生型で、業績の悪化した企業(経営不振企業)を対象とするもの。あるいはスピンオフされた(資本関係から切り離された)企業を買収(大会社のリストラはファンドにとりチャンス)、非公開化したあと、企業価値を高めて再上場するというもの。このようなスピンオフでは優良企業が、非本業であるため(親企業とのシナジー効果が得られないとして)、親企業の本業の再建のため分離売却されることも多い。この場合は、スピンオフされた企業の成長のための道筋をつけることがファンドの役割である(MBO方式の買い取りなど)。

スピンオフ、カーブアウト、完全子会社化
 日本では親会社と子会社がともに上場しているケースがたくさんあります。この親子上場は日本的慣行だとされています。ところで親会社が子会社を初めて上場するとき親子の資本関係をなくすものをスピンオフspin offといいます。他方で親子関係を保ったまま上場するのがカーブアウトcurve outです。しかし隠れていた価値を具体化させると評価されたカーブアウトには批判が高くなりました。カーブアウトで得られる利益が一時的で、その後の成長にはマイナスだと考えられるほか、親とのシナジーがないならスピンアウトすべきである。逆にシナジーもあり成長分野ならその価値を社外に出すべきではない。むしろ完全子会社化して、経営の自由度を高めるべきであるとされるようになりました。こうしたことからいわゆる親子会社で両方が上場しているものの解消、連結子会社の完全子会社化が2000年代にはたくさんみられるようになりました。参照 光定洋介「議決権行使業務」三好秀和編著『ファンドマネジメントのすべて』東京書籍, 2007年, pp.105-108.光貞さんも指摘しているように、一般少数株主との利益相反、利害対立をリスクと認識した企業は、そのリスク回避の手段として、完全子会社化をめざすようになったのではないでしょうか。

なお(買収ファンドの言い分としては)買収後の企業再建をスムーズに進めるには従業員の理解は不可欠なので、労組と必ずしも対立する存在ではないとされる(実際には米国でも労組はファンドを警戒している)。買収資金の一部は借入でまかなわれる。借り入れ比率の高いLBOという手法も一般的である(金利負担が増えるとハイリスクーハイリターンとなりやすい)。日本の低金利はファンドにとっては魅力的環境と映っている*。
*他方で企業買収向け融資は、金融機関にとり高利を得やすい魅力的分野になっている。

企業価値の低下は、たとえば、競争力のある中核事業への集中の不十分さなどから生じている。対策としては中核業務への集中、委託か自前かの切り分けの徹底、生産・輸送の効率化などがよく指摘される。こうした対策をとるうえでは、経営の自由度を引き上げる必要があること(上場維持自体がコスト要因であることも大きい)、また企業再生後に、再上場という出口を用意できることなどから、上場企業については、非上場化が選択されることが多い。

この再生ファンドに対応する英語は、private equity fundでbuyout fundであるものということになる。再生ファンドに対しては、短期で結果を求めすぎるという批判があるがヘッジファンドに比べれば投資期間は長い。KKRは平均7年としているが一般には投資回収まで5-7年とされる。

しかしPEFには今一つのやりかたがある。それはそれほど強い支配権を求めないで、企業が成長するために必要な資金(自己資本)を提供するというもの。これはある程度規模がある企業の場合と新興企業の場合がある。
対象が新興企業の場合は、一件あたりの投資規模が小さいので、別の分類、別の世界といえる。すなわちそれがventure businessへの投資を行うventure capitalである。

 以上に対してアクテビストファンドというのは、(増配要求など)経営に口出しできる程度の比率(経営支配には至らない比率)をもって、経営戦略に関与してくるファンドというものである。このようなactivist fundは経営に緊張感を与えるというプラス面が指摘される反面、長期的に経営にコミットする意思がないので経営陣からしばしば、(高値で買い取りを迫る)green mailer扱いされる面がある。
 代表格はスティール・パートナーズである。このファンドは、ブルドックソース、アデランス、江崎グリコ、日清食品、明星食品、サッポロH、ハウス食品、ブラザー工業、ユシロ化学工業などで多数の企業で話題になった。このファンドについてはgreen mailerそのものだという批判が絶えない。
 またactivist fund型の運用では、企業経営側との接触がインサイダー情報に触れてインサイダー取引を犯すことになるリスクがあるとされている(企業に接触する担当者と運用者とを分けることが必要)。(再生型では非上場化しつぃなうのでこうした問題が起こらない)。
 activist fundに限らずインサイダー取引を犯すリスクは、ファンド関係者が自戒すべき点である。こうしたインサイダー取引で上げる利益は、ファンドに出資する投資家の損失となる可能性があり倫理的にも問題は深い。2009年11月に国内投資ファンドのユニゾンキャピタル元幹部に浮上したインサイダー取引の嫌疑(元幹部は強制調査当日、懲戒解雇され翌日自殺)を、業界関係者は自浄作用を強めるとするべきだろう。私自身はこのような企業では株式取引を原則禁止するべきだと考えている。

以下具体的にfirmごとの概要を述べよう。

KKR(1976 ヘンリー・クラビス氏、ジョージ・ロバーツ氏が創業 2006ユーロネクスト アムステルダム市場に上場 50億ドルを調達 2006年4月日本で業務開始)
1988年台食品会社RJRナビスコ買収(史上最大のLBO)で有名に。
1999 独シーメンス子会社買収
2005 トイザラスを買収 KKRなどファンド連合 82億ドル
2006年11月23日 病院チェーンのHCA KKR、ベインなどファンド連合 211.9億ドル(負債を含め360億ドル) ファンドによる買収としては過去最大

Blackstone Group(1985 ピーター・ピーターソンらが創業 2007年6月NYSEに上場 41.3億ドルの資金を調達 同時に中国政府からも30億ドルの出資を受ける 企業買収のほか 不動産投資 ヘッジファンドなども展開)
ヒルトンホテルズを買収(約260億ドル)
REIT大手の(米最大のオフィス専門不動産投資信託)Equity Office Properties Trustを230億ドルで買収(2007年2月)負債引受分含む買収総額360億ドル。LBO方式。

旧Ripplewood(NY, 1995 創業者テイモシー・コリンズ 2005年3月上場 RHJインターナショナルとして再出発 より長期投資可能に リップルウッドの一部が上場したという言い方もある)
新生銀行(1999秋旧日本長期信用銀行が破たん国有化 これを1999に買収 2000買収成立 2004再上場)
コロンビアミュージック
旭テック(自動車部品)
ナイルス
ユーシン
旧日本テレコム(現ソフトバンク 2003 買収金額2603億円)

Carlyle Group(創業者 デビット・ルーベンスタイン 不動産投資も展開)
キトー(旧ジャスダック 工場用クレーン大手) 2003年9月 MBO方式 カーライルが約8割を保有。2003年10月上場廃止。2007年8月9日再上場。
DDIポケット(現ウイルコム) 2004 京セラと一緒に買収
リズム(自動車部品メーカー)もとは日産自動車からJPモルガンパートナーズ(JPMP)が2002年に買収 2004年に200億円前後でJPMPから買収
フォードのレンタカー部門ハーツ 2005年9月 150億ドル
日月光半導体製造(台湾)を2006年11月買収合意 約6400億円 外資による台湾企業買収でこの時点では過去最大
タカラトミー 大株主は米系TPGと国内系の丸の内キャピタル
NHテクノ 日本板硝子に代わりHOYAと組んで液晶テレビ用ガラス基板のNHテクノの再建目指す(2008年中ば)
2009年6月末に日本の中堅企業向け投資を凍結 中堅企業向け投資は中国、インドに注力 日本では大企業買収、不動産投資に専念。

サーベラス・キャピタル・マネジメント
クライスラーを買収
あおぞら銀行
国際興業

ローンスター

Advantage Partners LLP(東京都港区, 1992に笹原泰助とリチャード・フォルソムが創立 2005に事業組合を設立 営業譲渡)
弥生 2003年2月投資
日本海水(製塩メーカー) 2003年11月投資 親会社の旭化成からの分離独立
ポッカ コーポレーション 2005年9月投資
クラシエHD(旧カネボウトリニティHD) 2006年1月投資 クラブデイール
レックス  2006年12月投資
ニッセンHD 2007年2月投資
東京スター銀行 2008年3月投資 アドバンテッジパートナーズが2500億円弱でTOBで買収 2009年9月中間は4400万円の経常赤字

ユニゾンキャピタルUnison Capital LLP(東京都千代田区, 1998設立  2005に事業組合に組織変更) 江原伸好代表 オリックスの宮内義彦氏が支援しているとされる
コスモスイニシア 2005年6月投資
クラシエHD 2006年1月投資 クラブデイール
コバレントマテリアル(旧東芝セラミックス) 2006年12月投資

Goldman Sachs(1999に上場 約250億ドルを調達) 

ベインキャピタル
病院チェーンHCA(2006年 330億ドル)
ベルシステム24の買収(2008 約1000億円)

ペルミラ
農薬事業大手アリスタライフサイエンス(売上の85%が海外)を買収(2007年10月末発表)。買収総額2500億円(過去最大級 ペルミラの最初の日本案件 サブプライム問題表面化後の案件が日本から出たことが話題になった)。米系ファンドのオリンパスキャピタルが100%保有していたものを買収。ペルミラは日米欧7金融機関から1500億円を調達。

資料の所在

originally appeared in May 29, 2010.
corrected and reposted in August 20, 2010.







世界で進むインフラと環境のための鉄道整備

2010-10-19 07:17:33 | Economics
国内 N700系の大量投入
 JRでは国内新幹線は2007年7月に営業開始したN700系の大量導入を進めている。現在の10編成を2011年度までに96編成にして、時間短縮を進め、国内幹線輸送で航空会社との顧客獲得競争に勝利するとしている。国内で日本航空の足元を脅かしたのは鉄道の高速化だったのではないか。N700系は営業速度として時速300kmの水準を達成している(山陽新幹線部分 東海道新幹線部分は270km)。カモノハシのような先頭車両のデザインが特徴で、車両と車両の間は全周幌で覆われている。また表示装置がLED化されている。モバイルコンセントが窓側座席にはすべて確保され、座席クッションも改善されるなど、乗客から見た設備環境も全体に改善されている。
 製造は川崎重工業、日本車輛製造(車両のほか大型くい打ち機で有名)、近畿車輛、日立製作所など。

国内 リニアモーターカー普及へ
 つぎの課題は磁気浮上型(マグレブ型)リニアモーターカーの導入とされる。これはJR東海が技術開発したもので超電導磁石型とよばれる。超電導型は一般的な電磁石型に比べ浮上力が強く保守が容易。大地震時の安全性も高いとされる。JR東海の山梨リニア実験線では2003年12月に最高時速581kmを達成している。時速500kmで東京名古屋間を40-50分で結ぶ計画がある。その場合は現在の山梨リニア実験線を延長する形で事業費5兆1000億円を見込んでいる(07/12/25)。ただし新線に見合う需要拡大は見込めるのか疑問はなくはない。ただ新宿とか、東京の西に新幹線新駅ができるとすると、東京の町の発展としてはおもしろい。2025年開業。背景には1964年に開業した現新幹線が大規模改修な工事を必要としており、代替線を整備するという事情があるようだ(代替線がなければ、工事中の減収リスクが高いともされる。)。*
 *「リニアの可能性と限界」『エコノミスト』2010年1月12日号, pp.37-39.
さらに東京ー大阪の中央リニア新幹線構想もある。こちらは8-10兆円かかるとされる(09年9月に公表された試算では2兆円程度工事費上乗せで総額は8-9兆円 東京=大阪間を70分程度で結ぶことに 開業予定は2045年)。2010年代前半に着工、2025年東京名古屋間開業が目標である(ルート決定は2010-2011年度 着工は2014-2015年度とされる。建設費から判断して南アルプスルート=直線ルートにするのは当然。長野県をはじめとする一部自治体が迂回ルートで粘ったのは、感情的には理解できるが、後味が悪い。2010年10月20日 国土交通省の交通政策審議会中央新幹線小委員会で直線ルートが費用対計算で優位との当然の結果が示され、ルート問題は事実上決着した)。
 車両の発注先としては三菱重工業、日本車両製造。車両の開発には住友金属工業やフジクラなど。肝心の超電導システムには、東芝や三菱電機などが発注先として名前があがっている。
 海外では中国の上海と空港と市郊外とを結ぶ超電導型の営業運転の実績がある。ただしこちらは独シーメンスが開発したトランスラピッドというもの。
 また三菱重工業では海外の規格に合わせたリニアモーターカーの車両開発を進めている。ただしこれは高速のものではなく最高速度130キロの常電導型。磁気浮上型リニアモーターカーには振動や騒音が低い、摩滅が少ないという特徴もある。国内では常電導型は2005年の愛知万博の交通手段として東部丘陵線リニモで実用化。新交通システムの一つとして普及が見込まれる。
 なお2010年4月28日JR東海は景気低迷による鉄道収入予想の見直しを根拠にリニア中央新幹線(東京名古屋間)の開業を2025年から2027年に延期、14年度の着工を目指すと発表した(2007年策定計画の見直し)。
Japanese Maglev 2006
Shanghai Maglev Presentation 2006
 
海外での鉄道への関心の高さ 
 このような国内の鉄道展開は日本経済の低成長への移行で限界がある。ところが新興国ではインフラ整備・環境問題対応という点から、また先進国では、既存のインフラの高速化、そしてモーダルシフトという点から、新幹線に限らず鉄道への関心が日本以上に熱い。

 日本の新幹線システムを海外で始めて採用したのは台湾新幹線である。しかし当初は独仏連合が契約を結び(1997年9月)、その後一転して日本の企業連合が逆転受注に成功した(1999年12月)経緯から車輛などは日本製であるが、基本設計が欧州式のものに、日本側が合わせている。その結果、車輛は日本製だがシステムの一部に欧州のものが組み合わされている。そうした複雑さもあり2006年10月とされていた開業は遅れ、2007年1月に仮営業開始、3月にようやく正式に営業開始となった。
 台湾国民党政府はこの巨額工事を各国との関係作りに利用していたとされ、独仏連合の起用には政治的な意味があったといえる。ところがドイツのハンブルク郊外エシュデでドイツの新幹線が事故を起こした。多数の死傷者を出したエシュデ事故(1998年6月)である。その結果、ドイツ新幹線の安全性への疑義が台湾内で噴出した。さらに1999年9月21日の台湾大地震の発生(死者2000名越す惨事であった)で欧州の鉄道システムが地震対策を持たないことが表面化。かくして劇的な逆転受注となった。その翌年(2000年)、反日的分子を抱える国民党から親日派の多い民進党への政権の移動が生じているが、この新幹線問題もその間の論争の焦点の一つとなった。
 なお台湾で使われている車両は700系の改良型。車輛製造で川崎重工業、統括で三菱重工業などの名前があがる。
 台湾新幹線は、こうした多額の費用が要し完成に時間がかかるプロジェクトでは、当事両国の政治関係の安定が受注の大前提であることを示している。
Taiwan Shinkansen 2007

海外では既存鉄道網の高速化ニーズも イギリスで日立が大型受注に動く
 中国、インド、ロシアなど各国で鉄道網の高速化が課題になっている。そのほ中東、東南アジアなど世界各地に新線計画がある。また英国、フランスなど先進国では老朽化した鉄道の更新の問題もある。社会インフラ需要は安定している。ドーバー海峡連絡線の受注実績(174両約500億円)のある日立製作所が、2009年2月に英国運輸省から高速鉄道の受注にむけた優先交渉権を得たのは明るいニュースである。受注が決まれば、日本メーカーの海外受注として2002年の川崎重工業によるNY地下鉄車両受注(660両約1100億円)を上回る規模になる(最大1400両 総事業費約9500億円)とされていたが、2009年11月に正式受注の見通しとなった。
 日立は、ジョンライン(英ゼネコン)、英バークレイズ傘下の投資会社と組んで英運輸省からIEP(intercity express program)を受注する優先交渉権を得たものの、2010年5月―6月の総選挙を控えて正式契約を選挙後にする方針をイギリス政府は示した(『日本経済新聞』2010年3月1日)。そのためにわかに計画全体知への不透明感がたかまったのは残念だ。
 計画はリチウム電池とディーゼルエンジンを組み合わせたハイブリッド車両を導入するというもので日本企業の環境技術の高さが評価された。日立は全1400両の車両製造と保守、運行システムの開発を請け負うというもので総事業費1兆円の過半が日立の受注分とされる。
 なお日立は2010年6月下旬に三菱重工業と鉄道システムの開発・製造・調達で提携したとされる。
 日立と三菱重工業が鉄道システム協業で合意 2010年6月22日
 日立と三菱重工業、このほか三菱電機とも3社で、水力発電機の分野でも、開発・設計・販売部門の全面統合を予定している(発表2010年7月5日 新会社発足2011年10月)
 日立、三菱重工業、三菱電機 水力発電機事業統合で合意 2010年7月5日

中国本土の幹線鉄道高速化
 中国ではまず在来線を時速200-250キロに高速化する(2020年までに1万6000キロの高速鉄道網を整備する計画である(2012年までに約9000k建設。既存分と合わせ1万3000k。総投資額は9000億元、11兆9000億円)。(こうした実績を背景に輸出も急ぐ)
 2009年10月に川崎重工業が技術供与する南車青島四方機車車両が中国鉄道省から高速鉄道140編成を受注 北京ー上海 北京ー広州間で2011年にも「はやて型」車両が走行することになった。これはおよそ時速200キロ以上の高速で主要都市を結ぶもので、新幹線といってよいものである)。すでに上海ー南京間で日本の東北新幹線の「はやて型」が走行。このほかドイツのシーメンス。フランスのアルストム(パリーリヨン間のTGVが有名 開業1981年 日本の東海道新幹線は1964年開業)。カナダ・ボンバルデイアは世界鉄道メーカーの3強。
 2008年夏に開業する北京ー天津間高速線ではシーメンス型に加え「はやて型」が併用されることになった。独シーメンスの車両製造のスピードが2008年夏の開業に間に合わないという事情のようだ。2008年8月1日に営業開始した。両都市間をこれまで1時間のところを30分で結ぶ。川崎重工業ほか日本の6社が中国の南車四方機車車両(山東省)に技術を提供して南車が製造した。2009年12月には武漢―広州1069km間の高速鉄道が開通すると伝えられた。最高速度時速350km。これまで11時間かかっていたのを3時間で結ぶという。350kmで走るのドイツシーメンスが技術供与したCRH3型。250kmで走るのが川崎重工業が技術供与したCRH2型とのこと。
 北京・上海については高架軌道で結び時速300-350キロで走行させる計画もある。こちらはより高速なものを想定した計画で別件といえる。
川崎重工業では2007年2月に浮上した大連ーハルビン間の新幹線計画に積極的に取り組んでいる。国内の新幹線需要が成熟段階に達する一方、海外市場の開拓余地が大きい。日本側に有利なのは、台湾新幹線での実績や国内でのN700系の先進システムの実態を実地に見せることが可能な点だ。

新幹線だけでなく都市交通にも商機
 川崎重工業では2009年2月にシンガポールで地下鉄向け車両を受注している。シンガポールでは地下鉄の拡張が決まっている。なおこのような地下鉄はアジア各国で既存路線の延伸(シンガポールやマニラ)や新たな建設(ジャカルタ2016年開業予定やホーチミン2015年開業予定)が始まろうとしており、新幹線だけでなくこのような都市交通にも大きな商機がある。背景には交通渋滞の解消や環境意識の高まりがある。また川崎重工業では、環境意識の高まる米国での路面電車需要をにらんで、米国向けに路面電車の開発を急いでいる。
 2010年4月29日 川崎重工業はNY市交通局との間で地下鉄車両などの受注が決まったと発表した(約80億円分)。2002年に川崎重工業はNY地下鉄車両受注(660両約1100億円)をきめている。
日本のシステムの利点・優位性
 またすでにドイツの新幹線が重大な事故(エシュデ事故)を起こしたことをみたが、2004年4月に営業を開始した韓国高速鉄道(KTX)はフランスの技術と車輛(TGV)を導入したとされるが、運行の遅延など問題が多発している。欧州のシステムが、アジア的な厳密さとほど遠いことを中国に伝えることもできよう。
 中国本土も場所によっては震災が伝えられる。台湾の場合、日本の新幹線への切り替えは、台湾大地震が一つの契機であった。1995年1月17日の阪神大震災(死者は6000名を超えた)の悲劇を思い起こすまでもなく日本は震災国。
 震災に対する備えは欧州のシステムと違い設計思想の中に織り込まれている(地震波を感知するとすぐに送電が停止され車両にも非常ブレ-キかかるなど)。安全管理に優れた日本の新幹線システムは中国にも役立つはずである。
*新幹線システムはもともと動力分散方式である点で、動力集中方式に比べ車両重量を平準化でき、定員を大きくできるメリットがあった。また車両幅が大きい点でも定員数が大きい。「大量輸送、省エネルギーで優れる新幹線」『エコノミスト』2010年1月12日号, p.33.

求められる良好な政治的関係
 しかしまた日本の新幹線にいかに利点が多くても、日中の政治的な関係の安定がこのような長期プロジェクトの展開ではなにより必要であることもいうまでもない。この点で小泉純一郎元首相(在任2001年4月-2006年9月 前任は森善朗 2000年4月-2001年4月 後任は安倍晋三)は、靖国問題で中国政府や韓国政府の反発を意図的に引き出してナショナリズムを煽り、アジア諸国とく隣国である中国・韓国との融和を無視する外交を繰り返した。隣国との緊張関係を高める政策を意図的に展開した。そのショービニズムchauvinism(極端な排外主義)の目的は、冷静に分析するなら小泉政権に対する国民的人気の維持だった。その結果、善隣友好関係が否定されて、日中関係、日韓関係が両隣国との国交正常化後、もっとも緊張するというあってはならない事態に至った。
 こうした馬鹿げたことが再び起こらないために経済界が一致して行うべきことは、ショービニズムに乗って政権を維持するような小泉のような政治家が政権をもつことを二度と許さないことだろう。
その意味で自民党政治の終焉にアジアとの新たな信頼関係の構築を期待した経済界は、尖閣諸島をめぐる民主党政権の対応(2010年9月)によって奈落に落とされた。中国政府が領土問題では妥協できないことは周知のことなのに、ナショナリズムを煽ることで自身の存在感を示すことに腐心する前原誠治氏が担当大臣として船長送検で粘るという愚かな対応をした。他方、官房長官の仙石由人氏は前原氏をけん制する決断を政治的にすべきところを弁護士として法治主義(官僚への丸投げ)を決め込んだと報道されている。
 2014年にワールドカップ開催が決まったブラジルではリオジャネイロオリンピックが開かれる2016年をめどにリオデジャイローサンパウロ間510km開通(建設費150億ドル)が求められている。
 ベトナムでは国家プロジェクトとして新幹線(ダナンーフエ80kmに2020年部分開業予定 ハノイーホーチミン間1560kmの南北高速鉄道をベトナム政府は強く希望 建設・運営・譲渡BOT方式)に取り組むベトナムなどが有力とみられている(2009年12月ベトナム政府が日本の新幹線方式採用を正式に決めたと伝えられる。2010年5月にも事業化調査(FS)。総事業費560億ドル、5兆円。ハノイとホーチミン間1560km現在30時間を6時間以下で結ぶ計画)。2012年着工。2020年一部運行開始。
 このほかインドにもニューデリーームンバイ間などで計画。2015年にも開業とも。

オバマ政権の高速鉄道整備計画
 鉄道には環境問題という追い風もふいている。温暖化ガスの排出量はトラックの6分の1だとされる(乗客1人あたりでガソリン自動車の9分の1)。交通手段を自動車や航空機から鉄道や船舶にシフトさせることはモーダルシフト(modal shift)と呼ばれる。 
 2009年4月米オバマ政権は地球温暖化対策(グリーンニューデイール政策)の一環として高速鉄道整備計画(5年間で130億ドル ロサンゼルスーサンフランシスコ700キロ ニューヨークーワシントンなど10路線 総事業費3兆円)を公表した。電力や集客での不安の大きな新興国向けに比べて米国での計画には安心感もあり日本企業の関心は高い(総事業費約500億ドルとも)。
 ドイツ、フランスのほか中国も車両輸出で参入をねらっている。新たな受注競争が始まっている。
California High Speed Rail 2008
Velaro Siemens

 Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Feb.8, 2008
corrected and reposted in Dec.14, 2009, Mar.8, 2010 and Oct.19, 2010

参照
中国と台湾の政治と台湾経済
必要な産業技術への関心
東アジア論
企業戦略例


漁船船長釈放決定(2010年9月24日)について

2010-10-18 20:57:54 | Area Studies
 2010年9月24日、那覇地検は「今後の日中関係を考慮」して、拘留してきた船長を処分保留のまま釈放すると発表した。検察が独自に判断したとの首相官邸(内閣府)側の主張に対して、検察に判断を任したのか、検察は裁量権を超えた決定をしたのではないか、背後で官邸の関与があったのではないか、などの疑問が出されている。この間、海上保安庁の石垣海上保安部、那覇地検(石垣支部)の行動は、領海を守るという点からは、正しいという指摘が多い。
 しかしいくら日本が領土問題は存在しないといっても、中国側が現実に領有権を主張している海域において、中国側漁船を追尾した上で船員を逮捕、拘留し国内法の手続きをすすめれば、中国側が硬化することはわかっていたはずである。それにもかかわらず、逮捕・拘留・拘留の延長などで日中関係を十分悪化させた上で、日中関係が悪化したから釈放するという那覇地検の対応はスッキリしないものを感じる。
 大方の理解はことは那覇地検が独断で進めたのではなく、日本政府(官邸)がなんらかの指示を出しそれが那覇地検の決定に影響しているというものだ。だとすれば、那覇地検ではなく日本政府に言いたいのは政府は、もっとはやく事態の収拾を図るべきであったということである。

対中関係悪化回避に向けて早期の政治的決断を行うべきだった
 2010年9月7日午前10時56分頃に尖閣諸島the Senkaku Islands(中国では釣魚台、釣魚the Diaoyu)近くで日本の海上保安庁の巡視船と中国の漁船が衝突した事件に絡んで、漁船(遊魚船)船長が公務執行妨害容疑で9月8日、第11管区海上保安本部(那覇)石垣海上保安部により逮捕された。事件を受けて内閣官房長官室で開かれた会議で海保側が逮捕を主張、外務省側の懸念が押し切られたとされる。この場合、海保が逮捕を主張するのは職責上当然。
 問題はこの時点で官邸側が政治的な判断を欠いたことにある。政治的決断で海保の判断を抑えるべきであった。官邸の黙認を受けて那覇地検石垣支部は那覇簡易裁判所石垣支部に10日間の拘留を申請。石垣簡裁は19日まで10日間の拘留を認めた。その後、那覇地検石垣支部はさらに拘留の延長を申請、石垣簡裁は20日にさらに10日間の拘留の延長を認めた。
 この拘留の延長により、両国の緊張が新たな段階に入ってしまった。漁船の船長は衝突の事実は認めている。時間的に考えれば、基本的な聴取は終わっているはずで、時間をかけるほど、両国関係が複雑になってゆくことはわかっていたはずだ。現場の人たちが、正義感でというよりは事務的に動けば動くほど、政治的には緊張が高まる構図にあった。
 もちろん停船命令を無視したとか、巡視船に体当たりで抵抗した(この点の疑問は後で述べる)など、あるいは違法操業の可能性など、保安部側(現場)の言い分は分かる。しかし中国側が領土・領海権を主張している場所での事件である以上、日本の国内法で司法処理を進めれば、中国側としても硬化して妥協余地がなくなるのは明白(事を構えるのであれば、中国側に妥協の用意がない以上、日中の交流の断絶を含む十分な準備と覚悟が必要である)。つまり覚悟があるかどうか。ないのであれば、偶発的な緊張を緩和するにはどうすればいいかを第一に考えるべきだった。
 この場合、日本政府として事実関係についての調査結果を公表するとともの領土(領海)問題について毅然とした立場を示すのは当然であるが、漁船の船長の身柄は、事実関係の調査が終わり次第すみやかに中国側に戻すべきであろう。領土問題では妥協すべきでないというのは正論である。しかし、中国としても同様に妥協できないことも明らか。そして緊張関係の高まりは望ましくない。これをルール通りで進めると、解決に時間がかかり、しかも両国関係が長期間悪化することは明らかである。日中経済交流など多方面に、この問題は波及する可能性が高い。
 現場は拘留が長引くことによる外交や経済への影響まで計算できないし、それを判断する立場にもない。このような現場や個々の組織の判断に対して、政治的な判断を下すのは政治の責任である。日中の外交関係をどうしてゆくのかという、基本的な姿勢が問われている。行動を起こしたあとで、中国政府に冷静な対応を求めても事態は収拾できない。

衝突の原因は本当はどちらにあるのか
現場海域での取り締まりでは、漁船が停船に応じない場合、海保側が進路を塞いだり、船名を確認するため接近したりといった事が生じている。2008年6月に台湾の漁船に海保側が接近をはかり、漁船と衝突して漁船が沈没する「事故」が生じている。しかしながら海上で大きな船が小さい船に接近しすぎると、小さい船が大きい船に引き寄せられて衝突することもあるようだ。今回の問題で、衝突があったから中国側に非があるという言い方があるが、必ずしもそういいきれないことが懸念される。
 衝突の原因について
 中国側の報道2010年9月8日(翻訳) この報道にみられるように漁船側が日本の巡視船から衝突を受けてというように、日本とはまったく逆に報道されている。

 私は、領土問題で主張は主張として行うことは正しいが、領土紛争があるところ(中国側が主張している事実はある)で捕捉した相手国国民を長く拘留することは、両国の関係を悪化させるだけだと考える。(わが国が領土としているところに不法に進入するものがあれば、これを拘束して国内法により取り調べることは当然であるが、その当該国と対峙する決意がないのであれば)政治的決断により、事情聴取が終わり次第、船長を早期に帰還させるべきだった。

 船長の祖母が急死 2010年9月9日
 "China and Japan Getting their goat"in The Economist, Sept.18, 2010, p.34.
ジョナサン・アダムズ「日中激突時代のプレリュード」『NEWSWEEK 日本語版』2010年9月22日号, pp.22-23.
"Deng's heirs ignore his advice" in The Economist, Sept.25, 2010, p.34.
「尖閣衝突事件」『エコノミスト』2010年9月28日号, p.14(小泉政権下の2004年3月の中国人活動家7人による不法上陸事件の折には、沖縄県警が逮捕したものの送検しないまま、その2日後、入国管理局に身柄を引き渡し、中国に強制送還したことを紹介している。今回、民主党政権下であるにもかかわらず、同様の緊張緩和に向けた政治的決断が官邸の仙石由人官房長官により取られないまま、前原誠治氏に代表される国際関係緊張させることをなんとも思わない人物のナショナリスト的主張に政府までがのって事態を悪化させたのは大問題だった。)
 小菅洋人「臨時国会で検証すべき尖閣領海内中国漁船衝突3つの論点」『エコノミスト』2010年10月12日, pp.72-73.
 「日中『尖閣密約』あった」『AERA』2010年10月25日, 12-15. 送検を推進する前原誠治氏を、本来はけん制する立場にある官房長官の仙石由人氏が法治主義を掲げるだけで政治的決断を避けたこと、省庁間のコミュニケーションが政治主導を掲げる民主党政権下で失われ、必要な情報が官邸に届かなかったこと、などを報道している。
 釣魚台(wiki)
 
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originally appeared in Sept.20, 2010
corrected and reposted in Oct.18, 2010


日本の淡水化技術と水処理ビジネス

2010-10-17 07:19:52 | Economics
海水淡水化そして排水処理
海水淡水化の英訳は、sea water purificationあるいはdesalinationとしておく。  
淡水化量は毎年10%以上のペースで増えており、今後も上昇が続くとみられる。温暖化による渇水や人口増加の問題がある。淡水化の技術として伝統的には蒸発法がある。これは海水を加熱して水に変えるものである。
 海水淡水化が重要であるのは地球上の水資源約14億立方キロメートルのほとんどが海水で淡水は1%未満であること。地球全体では人口増加が進み淡水需要が増加するなか、淡水資源は偏在していること。加えて新興国で淡水の汚染が進行しているなどの問題が背景として知られる。
 現在の主流は膜処理法。逆浸透膜reverse osmosis membrane(RO膜)と呼ばれる微細な穴が多数開いた膜でろ過する。1990年代以降、技術開発が進み処理コストが下がったが、ここで日本の技術が注目されている。
 海水淡水化技術は、原子力発電所や原子力潜水艦などでも使われているが、中東諸国が実際に大規模に活用されている事例として有名である。中東湾岸ではすでに生活・工業用水の8割を海水淡水化で確保するほど、淡水化に依存している。しかも中東地域は急速に人口が増えている。淡水化の巨大設備の建設が相次いでおり排水処理のニーズも高く、水処理ビジネスが活発に展開されている。深刻な環境汚染が伝えられ、産業排水や農業排水の浄化が課題となっている中国も水処理ビジネスの市場として注目されている。
海水淡水化におけるRO膜、排水処理におけるUF膜
逆浸透膜は、高分子化合物の特殊樹脂でつくられ、1ナノ以下の小さな穴(数マイクロナノから数ナノ ナノは10億分の1m マイクロは100万分の1)で海水を真水に変える海水淡水化プラントや排水処理の最終工程で使われる。米国のダウケミカルが最大手。しかし日本勢も強く、日東電工(RO膜で世界2位)、東レ(海水淡水化用RO膜で世界最大手)、東洋紡の日本の3社で世界の半分以上を生産しているとよくいわれる。このほか旭化成は浄水用精密ろ過膜で世界2位。西島製作所は海水淡水化用ポンプで世界シェア上位。三井物産はメキシコ、タイで上下水道運営事業。丸紅は中国や地理で上下水道運営事業。
 半導体の製造工程で大量の純水が必要でそのため水処理膜技術が1980年代の日本で発達することになった。
 海水を真水にするときに使う逆浸透膜はRO膜と呼ばれる。また業界関係者の間では、ナノ単位のフィルターが使われているということからNF膜nanofiltration membraneとも呼ばれている。
 東洋紡は中東(海水温が高く微生物が発生しやすい 東洋紡の製品は塩素への耐性が高く、微生物を塩素殺菌しながら飲料水を作れるとのこと)で50%以上のシェアをもっている。東洋紡は、伊藤忠商事、それにサウジの水処理関連企業と組んで、サウジアラビアのラービグ市にフィルター組みたて工場を建設して2011年3月に生産を始める。また工業排水を飲料水レベルまで浄化できるろ過膜を開発したとされる(2009年6月報道)。
膜式あるいは膜分離式活性汚泥法(MBR:membrane bio reactor)で使われるのはUF膜など廃水処理用膜(技術論文を読むと水質や環境による膜の使い分けが議論されている)。これは高度下水処理で使われるもので、排水中の有機物を微生物で分解しながら、直径o.4マイクロメートルほどの穴を通すもの。下水処理の一般的方式である活性汚泥法に比べて設備スペースが小さくてすむメリットがある。こちらの世界トップは水関連メーカーの買収を進めた米GE。そして世界2位が日本のクボタ。
 このように基幹技術の優秀さの半面、水ビジネスは管理運営のノウハウを含めた総合力が求められている。
 日本は淡水化技術では、世界的に高いシェアをもっているものの、上下水道の運営の受注では、GDFスエズ、ヴェオリア・ウオーター、テムズ・ウオーターなどの海外企業による寡占化が進んでおり(3社で市場の8割を抑えている)、運営にまでいかに食い込むかが課題になっている。米GE、ドイツのシーメンスが活発に買収を進めているほか、2009年には米IBMが水ビジネスへの参入を表明した。
急がれる総合力の強化
 インフラ投資のなかでも、水関連は最大規模の投資が予測されている(2025年に100兆円とも)。飲料水の不足、排水・河川の浄化、下水処理など課題は多い。日本の企業は技術はあるものの総合力が不足しているとされる。
 上下水道の整備は、発電、交通などの整備とともにインフラの整備、その事業はインフラ事業と呼ばれる。新興国の経済成長や人口増加とともに市場の安定した拡大が見込まれている。こうした水ビジネスは現在の60兆円(2005年推計)から2025年には100兆円規模に膨れ上がるとみられる。なお日本自身の水道も水道管の更新が必要で、自治体財政の圧迫・急激な料金引き上げが懸念されている。そこで日本の上下水道についても民間の力の活用やPFIが静かに進んでいる。ただ長期的にこのビジネスに食い込むには、運営面での受注が必要だとされる。
 日本ガイシと富士電機HDが2008年春に水処理事業を統合したり(メタウオーターの発足)、東レが排水処理技術に強い日立プラントと水処理事業で提携したり(2010年2月)、荏原の水処理会社(荏原エンジニアリングサービス)に日揮と三菱商事が出資する(2010年3月)のも、海外企業にならって総合力を強化することで、受注する力を上げようとするもの。水処理の設備の建設から運営までを請け負う総合力、コストを引き下げるうえでは特定メーカーと関係を固定しない柔軟性も求められる。
日本メーカーとしては在原は国内250ケ所で上下水道の運営管理で国内2位(1位は日本ヘルス工業)をてがけており、それは財産だが海外経験にとぼしい。三菱商事は国内20ケ所で上下水道運営管理をてがけるほかフィリピンで大手水道事業者に出資、日揮もシンガポールの水処理大手と組んで中国で海水淡水化事業をすすめている。
 三菱商事 日揮 荏原が合弁による水道事業で合意 2010年2月23日
 三菱商事による豪州水道事業会社買収(2010年5月11日)
 三井物産 ハイフラックス(シンガポール)が合弁で中国の水道事業に参入 2010年8月2日
 注目されているのは、日本の自治体に蓄えられたノウハウである。大阪市がベトナムの国営水道に水質浄化や漏水防止のノウハウを提供、川崎市がオーストラリアで水リサイクルのノウハウを、さらに北九州市がアジア中心に水道の運営管理ノウハウ供与など。こうした自治体のノウハウ提供が、日本企業の受注につながることが期待されている。
 
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Originally appeared in Nov.27, 2008.
Corrected and reposted in Oct.21, 2009, Mar.8, 2010 and October 17, 2010.

参考
「日東電工 膜で世界の水不足に挑む」『エコノミスト』2009.10.27, pp.34-35
"Silver threads of life" The Economist, Oct.23, pp.88-89

必要な産業技術への関心
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ウイルコムが更生計画案提出(2010年10月14日)

2010-10-16 06:42:06 | Economics
2009年9月 ウイルコム(カーライル 京セラ KDDI出資) 私的整理へ 
 競争激化もあり契約件数減少進む

(2010年1月27日 アップルによるiPadの発表 サンフランシスコ)

2010年2月18日 ウイルコム、東京地裁に対し会社更生法適用申請
 負債総額2060億円
 (社債含め負債総額1700億円という報道もあり)
 PHS 最大手 
 2004 カーライルG 京セラが買収 (KDDIの傘を離れて独立する意図)
 2005 業界に先駆け音声定額サービス導入 
   ソフトバンクの音声定額
   イ―モバイルの高速データ通信 
 2007 契約数466万ピーク(2010年1月末契約数424万人) 
 料金値下げ競争
 次世代PHS(XGP 現行携帯より早い)開発
  2009年秋 首都圏等に限定して投入
  次世代開始には5年間で1400億円の投資必要
社債を含めた負債1700億円 金融機関が新規融資に応じず行き詰まる
  →しかし2010年秋NTTドコモがさらに高速データ通信サービス開始
 財務体質急速に悪化
  電磁波弱いPHSは全国の病院5000か所で使用されている

2010年2月18日 格付け投資情報センターR&Iと日本格付け研究所JCRはウイルコムの発行体格付けをD(デフォルト)に引き下げた。ウイルコムは非上場。2012年6月に満期を迎える公募社債350億円を発行している。

2010年2月25日 企業再生支援機構が予定していた支援を正式決定をできず先送り(400万人を超す利用者が支援の理由付け 支援の枠組みをめぐりソフトバンクとAP間で意見が対立したため 公的支援に慎重論浮上)

2010年3月2日 ソフトバンクとAPが支援内容で合意

2010年3月3日 ソフトバンクが臨時取締役会でウイルコムを支援する方針を決定 
 分離される次世代PHS事業新会社に出資する (150億円の資本金のうち50億円を出資 APが50億円 残りは出資者をつのる)

2010年3月12日 東京地裁が更生手続き開始決定
 1月末の正社員数1058人。自然減と合わせて2011年3月末までに約230人削減予定(2010年3月14日判明)
2010年3月12日 企業再生機構(瀬戸英雄委員長 日航再建を主導)がウイルコム支援を正式決定を発表
 第3者委員会を開催して決定 
 カーライル 京セラ KDDI 出資分は100%減資
 AP(アドバンテッジパートナーズ)が新たに3億円出資
 銀行団などの債権カット額1145億円
 25億円以下の一般債権は全額保護
 機構から融資 最大120億円の融資枠 出資は見送る
 その後 次世代PHS事業で新会社設立(ソフトバンク30億円 AP優先株ふくめ50億円 事業者などから30億円出資集める)

企業再生機構が当初案作成
 その後 事業の毀損が想定より大きいことが判明

2010年8月2日 ソフトバンクが全面支援を発表
 事業家管財人も送り込む

2010年10月14日 更生計画案 東京地裁に提出される
 更生会社社長に宮内謙氏(1973年京都府立大学卒業 日本能率協会を経て1984年ソフトバンク)。
 投資ファンドのアドバンテッジパートナーズAPが3億円出資
 APがソフトバンクに同額で株式を譲渡
 ソフトバンクの100%子会社として約410億円の債務(金融機関などによる債権カット後の弁済総額)を今後6年間で均等弁済
 不足運転資金はソフトバンクが融資
 自己都合退職済みの100人以外の人員削減は行わない
 次世代PHS事業はソフトバンクがAPなどと設立するワイヤレスシティプランニングが引き継ぐ

加入者同士の通話が24時間無料になる(若者に人気があるものの加入者の純減続く 2010年9月末 契約数は380万件割れ)。コールセンターの効率化、基地局の削減しながら事業を継続して2014年3月期の黒字転換目指す(2010年3月期50億円強の最終赤字 2011年3月期は1100億円を超える債務免除益で大幅な黒字)。
 次世代PHS(XGP)を進めるなど技術開発に課題。ソフトバンクの狙いはXGPの周波数獲得と、PHS基地局の一部を携帯電話の基地局に置き換え、通話品質の向上に役立てることにあるとの指摘もある。

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武富士の会社更生法適用申請(2010年9月28日)

2010-10-16 00:17:37 | Economics
武富士が会社更生法の適用を東京地裁に申請した(2010年9月28日)
顧客への過払い金の返還負担が重く自力再建を断念した。
会社更生法により債権者の抵当権行使を完全に停止
東証 整理銘柄に指定 10月29日付けで上場廃止決定
東京、ロンドンとも上場廃止へ。

現経営陣の一部が残るDIP型会社更生法手続き
社長と創業家の副社長は退任へ
    ↓
過払い金を抱える顧客に通知
今後4ケ月間過払い金返金額精査(4ケ月以内に届け出なければ債権者としての地位を失う)
 完済後10年以上経過は時効で請求権消滅
 完済後10年未満か返済中
 借入期間5年以上
 2007年より前の利用
 返還請求により同一業者からのさらなる借入は困難になる
返還は1年以上先
返還額は大幅なカットの可能性
    ↓
スポンサー探し リストラ実施
2000人を超える社員をどうするか
    ↓
2011年7月に会社更生計画案作成認可目指す

過払い金の返還請求
現在は約11万人(1700億円)
可能性としては200万人が請求
2兆5000億円が負債に加算の恐れ
武富士の現在の負債4000億円超(2010年6月末に4300億円)
どこまで負債が膨らむかは
顧客が債権を届けるかどうかにかかっている

武富士会社更生法適用申請の影響
→中小零細企業の資金繰りに警戒感(無担保・無保証ローンとして利用されている)
→消費者信用株に警戒感
→国内公募債SB300億円等(8月末社債発行残高は内外で926億円)が債務不履行に。国内公募SBの債務不履行は2010年2月のウイルコム(350億円)以来。→社債市場に影響

現在貸金業者3000社ほど(2000年代はじめには3万社ほどから縮小)

経緯
2006年1月の最高裁判決 
 グレーゾーン金利(旧出資法の上限29.2%以下と利息制限法の年15-20%の間)を課すことを事実上認めない判断示す
 上限金利の無効→過払い金返還訴訟 過払い金の支払いが貸金業者の経営を圧迫
2006年 改正貸金業法全会一致で成立
 上限金利の引き上げ 
 年収による貸付量制限
 2010年に完全施行を予定
2007年以降年1000億円前後の過払い金支払い
2007年3月期 1998年上場以来初めての赤字転落
2009年3月期 2561億円の赤字
2010年3月期 45億円の黒字
総資産 6869億円 店舗数786
従業員数 2103人(いずれも2010年3月末現在)
2008年秋のリーマンショック後
社債市場での資金繰り悪化
スポンサー探し急ぐ状況に 
改正貸金業法の完全施行(2010年6月)
 上限金利引き下げ 
 融資額の上限を年収の3分の1にする
2010年6月18日 改正貸金業法の完全施行 貸出(貸金業者からの借入総額)は年収の3分の1以内=総量規制
 年収証明書類必要
 専業主婦は配偶者の同意必要
 個人事業者には激変緩和措置(借入金額100万以下は簡略な事業計画書の提出で
 またつなぎ資金も例外措置 金額が大きいものは事業計画書提出で例外扱い)
 成約率低下 2009年末に20%台後半 完全施行後 6月24%(協会) 7月25%(大手4社)
 大手4社の成約率 1998年度72% 2005年度59% → 2009年度 29%程度
 背景 過払い金返還で各社の手元金減少
 業者の転廃業もあいつぐ6月末3313社は前年同月比40%減 
 なお 住宅ローンは対象外
    銀行も対象外(→無担保カードローンを相次ぎ拡充 銀行は金利が15%未満 貸金業者の18-20%の上限金利より安い)
     貸出上限額の引き上げ 審査期間短縮 カード発行手数料・繰り上げ返済手数料の廃止などなど 
    2009年3月末 消費者金融 カード信販あわせて約16兆円
          銀行のカードローン 現状4兆円を7兆円程度に増やしたい 
            

対策 手続きを簡便にして実施
←→中小零細企業の資金繰りに警戒感(無担保・無保証ローンとして利用されている)
日本政策金融公庫 低利融資セイフティネット貸付
商工組合中央金庫 危機対応貸付

リボルビング 顧客にとり残高管理がむつかしくなる 年15%程度の手数料がかかる

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エフオーワイ(FOI)粉飾疑惑(2010年5月12日)

2010-10-13 12:47:34 | Securities Markets
2010年5月12日 証券取引等監視委員会が強制調査
虚偽内容記載の有価証券届出書を提出した疑い
   創業1994年
   2005年3月期 約31億円
2009年3月期 119億円の売上 実際は5億円程度(3億円とも)
   2009年11月20日 マザーズ上場
   2010年3月期は130億円と発表予定
   ニセの発注書 検収書 など外部書類を偽造
   海外の取引先企業の協力者に謝金 問い合わせにつじつまを合わせた解答
   韓国や台湾に実在する半導体メーカーの名前を使用
   偽造の注文書を海外に出張して海外からから送付 
   取引先を海外とすることで発覚を隠す狙い
2010年5月16日 粉飾の事実を認めるコメント公表
2010年5月21日 東京地裁に破産手続開始申し立て
2010年5月31日 破産手続き開始 負債92億円
2010年6月15日 上場廃止
2010年9月29日 被害株主らが証券会社などを相手どって約2億8000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁で起こしている。
2010年10月6日 さいたま地検 売上高を水増しした決算内容を記した目論見書で新規株式募集をしたなど、偽計取引容疑(金融商品取引法違反)で同社社長を再逮捕
        また同日 社長と専務と同社を、有価証券届出書の虚偽記載罪(金融商品取引法違反)で起訴。また証券取引等監視委員会は社長らを同地検に告発。

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FOI 粉飾事件 2010年5月12日 東証 みずほインべスターズ証券の責任を質す質問あり
東証の説明責任 2010年5月13日
東証 齋藤社長記者発表 2010年5月18日 東証の審査はルール通りにおこなわれた、ルールにのっとり、きちんと対応した とのこと。
みずほインベスターズ証券の記者発表 2010年5月24日 遺憾であり、大変重く受け止めているとのこと。
被害株主らが東証などを提訴 2010年10月1日

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2006年8月の敵対的M&A以降の製紙業界

2010-10-09 10:34:09 | Financial Management
北越製紙買収に失敗した王子製紙の孤立
 楽天とともに敵対的企業買収で企業イメージを悪化させた典型は王子製紙である。このとき王子側を指揮した野村も傷付いた。
 この事件は、野村の企業イメージを回復が困難なほど悪化させた。一般に企業買収では、外資証券が乗っ取り側、日本の証券が防衛側という戦いの構図がある。ところが野村は2006年8月の王子製紙による北越製紙買収事件(表明7/23 開始8/1 日本製紙の対抗取得判明8/3)では、王子側とともに社会的反発を見定めず国内企業同士の敵対的企業買収案件を押し進め王子とともに敗北した。
 この案件では北越側のアドバイザーにクレディスイスが就任。日本の証券会社の野村がこともあろうに敵対的買収をしかけ、外資証券がその防衛策を練る展開になった。クレデイスイスが防衛側になった背景には、北越に最初依頼を受けた「みずほ証券」がみずほGの王子との関係への配慮から、助言役を逃げたことがあった。みずほは、野村に対抗して日本の企業社会で自らの評価を上げる絶好の機会を放棄した。
 この事件では王子が業界内の協調を無視して暴走。結果として業界内で孤立した。その背景には、製紙業界の生産設備過剰問題があるが、王子による市場支配強化への反発は予想を超えるものだった。需要者側である印刷業界が製紙業界で王子の寡占が強まることに警戒感を示した。2006年6月 日本印刷産業連合会は王子と北越の統合に反対する声明を発表した。もともと製紙業界内に王子への反発があった。その背景は2004年の王子が家庭紙で市況対策を放棄したフル生産・フル販売騒動があった。王子が北越に対して新潟工場への新鋭設備導入をやめるように圧力をかけたのもその前後の話。そこには王子の身勝手な論理があった。加えて今回の買収騒ぎで王子は強い反発を受けた。
 製紙業界の売上高(2006年3月期)で王子製紙がトップの1兆2138億円だった。日本製紙Gが1兆1521億円。大王製紙とレンゴーが3位で各4022,4021億円。5位が三菱製紙で2284億円、6位が北越で1536億円、中越パルプが1110億円となっていた。紙の種類でシェアは違う。2005年の印刷情報紙のシェアでは、日本製紙28.8% 王子製紙23.3% 北越製紙8.4% 大王製紙8.4% 三菱製紙7.6%などとなっている。
 この王子の動きに大して北越は三菱商事に第三者割当をして、三菱の出資比率を24%強に高めて抵抗した(三菱商事が筆頭株主になった)。王子が差し止め訴訟をなぜかためらう間に、日本製紙が業界の秩序維持を明分に北越製紙株を市場で9%弱まで買付け、王子のTOBは失敗が確定した。その後、大王製紙(日本製紙とは仲が良くない)と北越製紙が相互出資へ。王子は、需要家から反発を受けただけでなく業界で孤立するに至った。
 王子そして、背後で敵対的TOBを操った野村も、敵対的TOBをしかけたことで企業イメージを自ら悪化させた。王子以外の製紙メーカーは反王子で結束した。敗北後、王子―野村の両社幹部はそれぞれ強気の発言を繰り返したが、この失敗は両社の経営に大きな汚点を残した。

 製紙業界では、市場の成熟の中で各社が生き残りをかけて高効率の生産設備を導入、旧設備の廃棄が課題になっている。新鋭設備が設備過剰ー低収益につながっている。加えて2000年代後半、中国の需要もあり古紙、木材チップ、原油(工場稼動・物流のコストに影響)が高騰。さらに円安により原燃料コストが上昇。2006-2007年と利益は圧迫された。理屈では輸出であるが、単価が安い紙で利益を出すのはむつかしい。
 しかしだからといって、強引な買収による生産調整は従業員や取引先企業の反発を招き企業イメージを悪化させるだけで得られるものは何もない。まして地域社会を敵に回した段階で、日本社会全体と敵対したに等しい。それを王子はあえて強行した。
 なお原油や古紙の高騰もあり、2007年7月から9月にかけて製紙業界は原材料の値上がりを理由とする製品値上げをなんとか実現させた。なお2006年には利幅がうすくなった上質紙の値上げを実施しているが、2007年の値上げは全品目にわたり10%以上という本格的なもの。なお紙の値上げとともに需要家は軽量紙にシフト。従来紙の値段は重さではかっていたためであるが。そこで製紙業界では、軽量になるほど高い新たな価格体系を提案して、印刷会社と交渉に臨んでいる(07年10月)。
 業界の構図は住友商事を背後とする日本製紙グループと最大手の王子製紙とが拮抗する状況。2007年8月には日本製紙が段ボール最大手のレンゴー(2004年のシェアはレンゴー24.5%王子製紙が24.4%トーモク6.9%日本製紙系5.3%など)と生産統合(2006年11月発表)、2007年10月には、三島製紙の完全子会社化(2008年2月)と国内生産拠点3箇所の閉鎖(2008年9月末)を発表。さらに2007年11月には台湾の製紙大手永豊餘造紙との業務提携を発表した。日本製紙側のOEM、輸出とされる。
 日本製紙はレンゴーへの出資比率は5%。提携範囲も部分的で事業ごとの提携。北越とは印刷用紙。レンゴーとは段ボール関連。そして提携の背後に商社(住友商事)。住友とすれば紙パルプでの丸紅がダントツで2位伊藤忠。この体制を崩す好機。
 王子は北越買収の後遺症に苦しんだが、2007年10月積年の課題であった中国現地生産に向けて中国政府の合弁会社設立認可がおりた。これは総投資額2000億円という大規模プロジェクト。工場の能力は当初80万トンで最終的な生産能力は120万トン。しかし2003年の計画発表から工場の着工に要した年数から、今後の中国ビジネスの展開に不安は残している。王子はもともと北越を買収することで国内の競争を緩和し、中国に進出する戦略だった。
 結果として北越買収は王子包囲網を強めただけだった。
 王子は2007年11月、三菱製紙との資本業務提携にこぎつけた。今回の三菱ー王子の提携は、ノーカーボン紙と感熱記録紙という分野を限った提携で双方側が出資(王子側が多い)。市場縮小にあるノーカーボンについては三菱側に集約。双方がOEM供給するというもの。反王子の三菱商事側と思われた三菱製紙が王子と提携したことは注目される。三菱製紙は2000年に北越と業務資本提携したものの破談。その後、中越パルプと合併話を進めてこれも破談(2005年5月)し三菱商事の連携に頼った経緯がある。三菱製紙は基盤が脆弱で、独立政策には困難が大きいということであろう。業界で孤児となった王子製紙、独立にこだわって提携相手と破談を繰り返してきた三菱製紙。この両者が組んだ。

敵対的TOB失敗後の製紙業界
 王子(―野村)による北越製紙に対する敵対的TOBが失敗したのは2006年夏。この事件によって王子製紙と野村證券は「悪者」になった。そのイメージはしばらく改善されないだろう。王子製紙と野村證券がこの敵対的TOBによって失ったものは少なくないが、企業イメージの悪化が最大のもので両社は無形の貴重な財産を失ったのではないか。
 買収の背景には、製紙業界の慢性的設備過剰がある。そのことへの社会の認識が進んだことがこの騒動のプラス面だろう。

買収失敗の原因
 王子が提示した800円台のTOBが、北越製紙の600円台の第三者割当増資に負けたのは、王子と野村が、今後の三菱商事あるいは三菱グループとのビジネスに配慮した結果との見方がある。資本市場の論理が貫徹されていないと。投資家の利益が犠牲になっていると。しかし私は王子ー野村が、北越の地元自治体を敵に回したときから勝負は決まっていたと考える。私見では、買収の強行が、地元自治体の支持を受けていないことが明らかになった段階で、王子ー野村は買収中止の筋書きをむしろ必要としていたと考える(参照 上村達男・金児昭『株式会社はどこへゆくか』2007, 15-16, 20.)。

2007年から2008年への展開
 2007年には輸出の拡大によって、稼働率を維持しようとする動きが各社でみられた。2008年秋になって中国経済の減速が明確になってからは、各社とも減産によって値崩れを防ごうとした。
 その間、2007年から2008年にかけては、原油、木材チップ、古紙など製紙の原材料が高騰した。そこで製紙業界はコストの価格への転嫁を進めようとした。その途中で全く別個の問題が生じた。再生紙偽装問題である(2008年1月)。そのほとぼりを待つかのように2008年春以降、敵対的TOBによる騒動を忘れたかのように業界は一丸となって、価格の再引き上げに努めることになった。
 ところが2008年夏頃から業界を取り巻く状況は再度変化を始めた。原油の価格が下がり始めさらに2008年秋になると頼みの中国市場の減速がはっきりしてくる。古紙市場が下落を始めた。かくして製紙各社は減産に努めるようになる。この減産は、敵対的TOBでの騒動を忘れたかのような王子を含めた協調体制となっている。これも、TOB失敗がもたらしたひとつの財産かもしれない。TOB失敗により危機感が共有されたともいえるからだ。
 王子の北越へのTOBは、三菱商事が第3者割当で24.09%を取得したことで失敗が確定した。このことで三菱商事が製紙業界再編で役割を果たすのではとの観測もあった。その後、三菱は特殊東海HDへの持分も引き上げた(07年5月)。しかし三菱はここで動きを止めた。商社のなかで今一つ製紙業界に食い込んでいるのは、日本製紙とレンゴーに出資している住友商事であるが、住友商事もボール紙の分野を超えた業界再編の意欲はなさそうである。

 その後製紙業界は景気後退で王子製紙と日本製紙の大手2社の2強体制が強まった。2009年3月。製紙7位の北越製紙が2009年10月をめどに10位の紀州製紙買収(株式交換方式)をすると発表した。不況のなかで生き残りをかけて生産設備の再編を進める動きとされた。紀州は書籍パンフなど高級紙、北越はチラシ、カタログなどにに注力。両社で ラインの整理をすすめるとした。

王子の中国工場の稼働(2010)
王子の中国南通工場(中国江蘇省 紙パルプ一貫工場 年生産能力40万トンの製紙設備 さらに70万トンのパルプ生産設備でパルプ設備は中国で最大 2007年着工)が2010年7月下旬に試運転をはじめ、2010年内の稼働のめどがたった。総額20億ドル(約1800億円)の大規模プロジェクトである。これに対して日本製紙は2009年に6億豪ドル約360億円で豪州製紙のオーストラリアンペーパー(豪州3位)を買収。2010年6月には中国の理分造紙公司(中国ダンボール原紙3位)に12%約420億円出資したとのこと。またレンゴーは2009年に中国にダンボールの新工場を稼働。大王製紙は2010年内にタイに紙おむつ工場を建設する(当初投資額30億円)。
 国内紙市場は2000年をピークに減少にむかうなか、日本の製紙メーカー各社は輸出を含め海外シフトを急いでいる。しかしアジア各国には欧米メーカーがすでに進出しており、日本メーカーは後追いともされており、スピード感のある展開が必要になっている。

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楽天によるTBS敵対的買収事件(2005-2009)

2010-10-08 11:19:50 | Financial Management

IT企業としてもっとも革新的なブランドイメージを保っているのはグーグルではないか。ではそのイメージはどこからきているのだろうか。またIT企業としてもっともイメージで問題を抱えているのは楽天ではないか。楽天の強引なイメージを決定づけたはTBSに対する敵対的企業買収事件(2005-2009)だったのではないか。敵対的企業買収とは、経営者に敵対するものによる買収を意味している。日本では敵対的企業買収はイメージがよくない。敵対的企業買収をした企業は企業イメージの低下に悩まされる。北越製紙に買収をしかけた王子製紙(2006年7月)は、回復不能ともいえる社会的イメージの悪化を被った(この買収を助けた野村証券の責任は重い)。TBSに買収をしかけた楽天も同じである。敵対的企業買収をする側は、社会に対して自分の行動の合理性を説明する十分な備えが必要である。それができないなら日本では敵対的買収は避けるべきだ。

TBSへの敵対的企業買収の強行でイメージを落とした楽天
 楽天の強引なイメージを自ら強めたのが、TBSに対する敵対的企業買収事件(2005-2009)である。
 楽天は企業イメージを、2005年10月のTBS株大量取得とその後のTBSへの経営統合申し入れで、自ら悪化させた。
 放送局を私企業や個人が支配することに伝統的に批判が強い日本社会で、TBSという全国放送局の買収をTBSサイドの合意がないまま楽天は強行した。
 2005年2月から4月にかけてニッポン放送株をめぐるライブドアとフジテレビとの騒動で、ライブドアが批判を受けた記憶が残るなかでの買収劇だった。社会的批判が高まることを覚悟して行ったとしか思えない展開に唖然とせざるを得ない。しかもTBS側との十分な意思疎通を欠いた敵対的企業買収には、正直驚かざるを得ない。楽天という企業の傲慢な印象を社会に流布させたことはことは失態といえる。楽天は地上波のTV局にこだわらなくても、IPTV(Internet Protcol Television)を展開できるはずとの指摘もある。
 楽天がTBS株取得に要した1000億円以上の金で時間は、コストに見合わないとの指摘は多い。2005年11月末に両者の間で休戦協定が結ばれたが、三木谷社長がTBS側の議決権凍結という交渉延長条件に応じなかったことからこの休戦は2007年2月末に失効した。そこで休戦の失効に合わせてTBS側は買収防衛策を導入発効させた。
 これに対して楽天は4月に入ると20%超まで買い増す意向を表明し両者の緊張は再び高まった。2007年6月の株主総会での多数を占めるべく楽天側はプロキシ-ファイト(委任状争奪戦)を展開。対してTBS側は質問状を繰り返し楽天に出し、企業防衛策発動に向けて楽天が濫用的買収者であることを証明しようとした。07年6月28日の株主総会で、楽天側が出した楽天の三木谷社長ら2名を取締役に選任する案と買収防衛策を特別決議で導入する会社側の案は共に否決された。他方、会社側による普通決議での買収防衛策は88%の圧倒的賛成票で可決された。この間、TBSは持合い関係の強化に努めてきた。それが功を奏したといえるが、一般株主も楽天側につかなかったといえる。楽天は社会という目に見えない存在を敵に回したといえる。
 他方、楽天側はこの持合いの強化に会社資金が使われたことを問題にして、帳簿閲覧権を行使してこれを実証しようとした。これに対してTBS側は閲覧の目的が明確でないとして閲覧を拒否。これを不満とする楽天の申し立てについて、東京地裁は、3月現在の株主名簿の謄写本も交付されていることから著しい損害が生ずる緊急性はないとして、6月15日にこれを却下した。楽天は即時抗告したが、6月27日に東京高裁は、両者は実質的に競争関係にあるとして、TBS側の閲覧拒否を正当とした。
 理解できないのは、この対応に突き進んだ楽天の企業統治のあり方である。どうもこの買収の判断が、トップの三木谷氏の意向だったために止まることができなかったことが感じられるのである。
 楽天の株価は、この問題での展開が膠着していることと、連結子会社楽天証券の業績悪化などのため、下落した。
 楽天の後ろにいるのはゴールドマン・サックスと大和証券SMBC。TBSの後ろには当初は日興プンリンシパルインベストメント(NPI)と野村證券がアドバイザーとして名前があがる。
 08年12月16日の臨時株主総会でTBSは、放送法上の認定放送持ち株会社への移行について株主の承認を得た。同持ち株会社では、一つの株主は33%までしか保有できない。三木谷―楽天―ゴールドマンサックスの買収戦略は行き詰まったとみていい。他方、TBS側はこの間、楽天への対応で経営陣が本来の経営に集中できなかったとされている。

買い取り価格で粘る楽天(2009-2010)
 2009年3月31日 楽天は保有するTBS株の買取をTBSの請求したことを発表した。4月1日にTBSは特別株主による株式大量保有(33%超)を制限する認定持ち株会社に移行する。ここでようやく楽天は引き下がった。問題はこの間にTBS株が大幅に下落したことである。購入の平均単価は約3100円、投資額は約1200億円で19.8%取得。しかし30日の終値は1361円。評価損約650億円の計上を2008年12月期決算ですでに計上済みである。
 その後、楽天とTBSはこの買い取り価格について争いを続ける。
 TBSとの話し合いが不調だったため楽天は東京地裁に買い取り価格の決定を求めた(2009年5月1日)。そこで審理ののち、2010年3月5日東京地裁は1294円、買い取り価格489億円という数値を出した(楽天の評価損失は投資額を1200億円とすれば711億円)。ところが楽天側が控訴。2010年7月7日に東京高裁が再び1294円を示した。しかし楽天側は特別抗告(7月9日)。これが認められ(8月16日)、問題は最高裁にまであがることになった。楽天側は1800円程度を主張しているようだ(なおこの間にTBS側の申し出により、裁判の審理とは切り離して買い取り価格の一部400億円がTBS側から楽天に支払われている)。

革新企業としてのグーグル
 米グーグルはネット検索では世界的には6割以上のシェアを持ち急速に成長している。PCのネット利用者に検索やメールを提供。さらに無料ソフトの提供拡大で顧客を増やしている。その革新性はネットの無料サービスを拡大していることで強まっている。批判があるとすればその結果としての独占状態についてである。
 独占に対する批判への配慮があるからだろう。無料ソフトやコンテンツ拡大によって支持を増やしている。この戦略は成功している。Googleは独占者としてより革新者として記憶されている。ネット広告収入が順調に拡大。支持者を増やすための各種費用を吸収している。2007/7-9 Sales 4.231 billion $前年同期比較57%増.net profit 1.07 billion $。前年同期比46%増。07/9末の従業員1万5916人。
 検索の世界シェアで6割以上とほかを圧倒。米だけでは5割超。2004年8月上場。
動画共有サイトvideo hosting serviceのユーチューブ買収16.5億ドルなど買収戦略も活発だが敵対的買収がみられないことも特徴だ。
 世界の主要大学図書館や出版社と提携して「電子図書館」サービスを始めており最大1000万冊を電子化する。2004年にすでにスタート。2007年7月アジアの大学としては初めて慶應義塾と提携している。
 2007年4月 ネット広告大手のダブルクリックの買収発表31億ドル。またラジオ最大手のクリアチャンネルコミュニケーションズと広告仲介で提携。
 2007年8月 サンマイクロシステムズの業務用ソフト「スターオフィス」の無償開始。
 2007年11月携帯ソフトの無償で無償ソフト「アンドロイド」提供。2008年後半以降、無償ソフトを搭載した携帯出る。従来より1割安くなる。これまでのソフト業者はノキア:高機能機OSでは7割以上。英のシンビリアン社など。

なぜ楽天のイメージは悪いのか
 グーグルと違って楽天のイメージはよくない。なぜだろうか。 
 2006年末に公正取引委員会が、ネット上の仮想商店街を運営する楽天、ヤフー、DeNAの3社に対して、出店社に対して優越的地位の乱用など独占禁止法違反にあたる行為をしている可能性を指摘する報告書を公表した。
 ネット取引では取引が特定のサイトに集中することが起こりやすいが、そのサイトを運営する側がその有利な立場を利用して、出店者に法外な手数料や手数料の値上げなどを要求することは十分考えられる。
 ネット取引市場は順調に拡大している。2006年度に3兆8200億円の個人向けネット通販市場は、2011年度末には6兆4300億円に拡大する見通しである。PCの普及に加え、携帯電話を通じた取引の拡大が予想されている。すでにケータイを通じた音楽配信の急拡大がこの拡大の十分な予兆となっている。また個人間の競売市場であるネットオークション市場も2005年度ですでに1兆円を超える規模に成長しており、2010年度には2兆8000億円にまで拡大するとされている(2008年当時の予測)。その中で楽天は出店料の値上げを繰り返した。楽天の前身であるエム・ディー・エムの創業は1997年2月。楽天のサービス開始は同年5月でまさにこの事業の草分け的存在である。ところが楽天は2002年3月に出店料について一律5万円の定額制をやめ(この定額手数料も高すぎるとの批判があったが)、売上高100万円を超える部分について2-3%の従量制に変更した(売上高100万円未満の無料化)。その後、2004年12月には2005年から2006年にかけて、売上高100万以下について無料の方針をやめて4%を取るように変更した。また2005年7月には宿泊予約サイトについて、手数料を従来の宿泊料の6%から7-9%に同年9月から引き上げるとした。これらの値上げは、値上げについて話し合いや交渉の余地はなく一方的な通知だったとされている。楽天については、このような強気のビジネススタイルへの不満が、その評価を下げる面があったのではないか。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
0riginally appeared in Mar.7, 2010.
Corrected and reposted in October 8, 2010.
鈴木謙也 株式取得価格申立事件の審理についての一考察 東京大学法科大学院ローレビューVol.9 2014年10月
大崎貞和 日本企業の買収防衛策における独立委員会の機能 資本市場ウィークリー2008年winter
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