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足利銀行譲渡先に野村連合は正しかったのか

2009-11-22 08:28:19 | Economics
Hiroshi Fukumitsu

2008年3月野村グループが足利銀行譲渡先に選ばれた
 2008年3月14日に金融庁(佐藤隆文長官、当時)は、2003年11月に経営が破たんして一時国有化されていた足利銀行について、野村グループ(野村連合)を、2003年11月に破たんし一時国有化されている足利銀行の譲渡先に選んだ。
 2005年3月期の不良債権残高は3983億円(前期比46%減少)。不良債権比率は12.5%(前期04/03は20.6%)。債務超過額は前期04/03は6790億円。1000億円以上減って5622億円。最終損益で1219億円の黒字転換。
 2007年3月期には不良債権比率は5.60%(前期06/03は7.64%)。債務超過額は2988億円(06/03は3832億円)。連結純利益779億円(06/03は1602億円)。
 金融庁は「地方銀行連合」を選ばなかった。選択の理由は有識者WGで確認され2006年11月の公募開始時に示された3原則によるとされる。
 すなわち①経営の持続可能性②地域での金融仲介機能の発揮③公的負担の極小化。
 野村グループの最終提示額(08年3月10日)は1200億円で、地方銀行連合の提示額1100億円(07年11月22日)を100億円上回った。また野村グループでは2008年7月にさらに1600億円程度の追加出資を行うので総投資額は2800億円とされる。
 野村側は、2007年11月末には2500-3500億円の間だが、3000億は超えたくないとしていた。当時の提示額は11月22日提示の1000億円。地銀連合の提示額は1100億円。総額では3150億円規模の投資を計画。金額的には地銀連合が有利とも一時伝えられた。
 この買収投資額は、国内における銀行の買収としては、アドバンテッジパートナーズによる2007年末の東京スター銀行買収の2500億円を上回り、過去最大級と2008年3月当時、形容された。

東京スター銀行買収(2007年12月20日合意)
 東京スター銀行は1999年に経営破たんした東京相和銀行が前身。ローンスターの傘下で経営再建。2005年10月に東証一部上場を果たした。日興コーデイアルGに売却の予定が日興の不正会計問題で崩れ、そのほかの売却先を2006年末から模索。
 応募した英HSBC、米RHJ(旧リップルフッド)、米TPG、日本の買収ファンドのアドバンテッジ4社の中で、価格面でもっとも有利な条件を出したアドバンテッジ(07年6月に優先交渉権取得)に1株36万円(ローンスター保有株は発行済みの68%,買収額はTOBで全株取得を目指し最大2520億円)売却に合意した。
 東京スター銀行は、住宅ローンで普通預金の残高に応じて返済負担を軽くする商品を開発。あるいは積極的な越境出店という独自の経営モデルで注目されている。しかし大手銀行やゆうちょ銀行とも競合。得意の不動産業向け融資も伸びは減少。
今後の成長には疑問符もある。

 このような地銀にとって厳しい市場環境のもとで2500億円という国内買収案件としては最大規模の投資の早期回収が可能か疑問もだされていた。足利は東京スターに比べはるかに規模が大きく、地元でのスタンスも大きい。またリストラも進み、採算は改善されてはいる。しかし地銀の経営環境の厳しさに変わりはない。それだけに足利銀行の買収劇で買収側がどのような長期の収益見込みを描いたかは気になるところである。(伝えられるところではM&Aの助言や上場支援など<専門性の高い>モデルを展開、2013年3月期の経常利益は400億円強と2008年3月期の8%上を見込む。さらに足利HD上場により最終的に10%以上の投資利回りを確保。この2008年6月時点の当初計画では2010年度中の再上場を見込まれていた。しかしこのビジネスモデルは証券会社そのもので地元企業に不安がでるのは当然。これは何を意味するのだろうか。)
 
譲渡にあたり債務超過解消義務・投資側は出資が必要
 足利銀行の債務超過額は2007年9月末で約2900億円。2008年6月末で2500億円程度の見通し。譲渡にあたり国側は債務超過の解消が必要だが、野村から受け取る1300億円を引いて残りの1200億円は、預金保険機構の拠出金でまかなう予定。新たな税金投入を避けることはできそうだとされた。
 他方、投資する側は国に支払う譲渡金額に加え、この銀行を経営するには、少なくとも規定されている自己資本を確保するだけの追加出資が必要。総投資額で、野村側は3000億円。地銀連合が3100億円。金額的には大きな差がなかったといえる。

わずか半年前には候補者は7人
 わずか半年前の2007年9月に、候補者は野村連合、地銀連合(日興シティグループ証券)のほか、栃木銀行グループ(大和銀行)、みずほ証券グループのほかに外資系グループも手を挙げなお7グループいたとされる。
 その中から外資については栃木県内の反発がつよく除外。さらに栃木銀行については、競争原理が働かなくなると地元の財界・経済団体は反対が影響して除外されたようだ。
 
野村が選ばれ地銀連合案が負けた理由はどこにあるのか
 最終的に地銀連合と野村が残され、競り合うことになったが、野村が選ばれた理由は不透明さが残る(当時の金融担当相は過激な市場原理主義的発言が多い渡辺善美)。渡辺は2008年7月1日に足利銀行の民間銀行への復帰を受けて<これからは最先端のビジネスモデルを発揮することも可能になる>と期待を述べている。
 野村の企業再建ノウハウが信頼されたのか。野村が乗り出すことで証券・銀行の融合のサインとなるとみられたのか。地銀連合が寄せ集めで、外資が入っている点が嫌われたのか。いずれも憶測の域をでない。
 選ばれた野村は、地銀連合の側にいた企業・銀行に対しても、投資に加わることを呼びかけている。そうなると、この選考のプロセスは、一体何を意味するのだろうか。
最終的な出資(足利HD、普通株1350億円の構成)は、野村FPが45.51%、ネクストCPが19.62%、ジャフコ5.55%など野村側が70.68%。これに地銀含む多数の金融機関が加わる形となった(足利HDが預金保険機構の足利銀行株を1200億円で取得。また足利HDは足利銀行に自己資本増強に1600億円を注入)
 形式的に足利銀行の譲渡金額を算定する価値評価がおこなわれ、それぞれのグループが企業再生のビジネスプランを描く。それらが競いあうその過程が大事だったのだろう。かかった時間は、各方面との調整に要した時間のように見える。企業価値評価が社会に定着してゆく中での一こまとして記憶してよい事件であるが、野村証券が果たして地銀の再生に成功するのか。その成否は今後の課題である。私は証券会社のモデルを地銀にそのまま持ち込むような考え方には違和感がある。金融庁が野村を選んだプロセスと結末は歴史の中で正しさを検証される必要がある。

足利銀行の低下する業務純利益
2007年3月期、08年3月期、09年3月期を並べると、足利銀行(単体)の業務粗利益は866億円、856億円、862億円。しかし実質業務純利益は465億円、440億円、375億円と下降している。純利益の低下が気になるところだ(07年3月期から08年3月期にかけて65億円減少している)。ただこれだけでは数値の意味や再建計画とのズレがよくわからない。
 足利HDの09年3月期の当期純利益は予想が43億円の黒字。しかし実際は実質業務純利益の減少幅と同じ65億円の赤字が計上されている。つまり予想値が意味するのは43億円の利益の上昇が想定されていたということではないか。いずれにせよこの足利HDをめぐる予想と実績のかい離の大きさ(108億円)から判断すると2010年に上場にたどりつけるかは疑問が多い。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
originally appeared in Mar.19, 2008.
corrected and reposted Nov.22, 2009.

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企業買収 買収防衛策をどう考えるか

2009-11-20 12:50:55 | Securities Markets
Hiroshi Fukumitsu

企業買収をどう考えるか
企業買収については、まずその多くが友好的企業買収friendly takeoversであり、企業再編や企業再生を目的にするものが多数を占めるとされる。敵対的(hostile takeovers)は少数派なのである。これは、敵対的買収では買収価格が上昇し過ぎるので、関係者ができるだけ合意形成に努めるからだとされている。
 企業買収については、投資ファンドのような立場と、ある事業分野に基盤のある企業とでは、発想が大きく異なってくる。
 後者では、既存事業とのシナジー効果(経費節約効果や規模の経済性など)の追及が指摘さえることが多いのではないか。投資分野は既存事業との親和性が重視される(1960年代の複合企業conglomeratesへの反省が指摘される)。投資先を保有するスパンが、事業会社はファンドに比べて長いことが背景にある。
 企業買収には、戦略展開の迅速性agilityを買う面、シェアを増やしてcritical mass(競争上必要なシェア)を実現する面がある。こうした点で事業展開のスピードを得る方法として、企業買収が近年重視されている。企業買収という方法での事業分野の拡大・再編は、企業戦略を多様化することになった。
 ファンドfinancial buyerの場合は、投資先をむしろ組み合わせて、安定的に高収益を確保することが目的なので、親和性よりは独立した採算性が重視される。

ファンドなどが企業買収市場に、投資や融資を行うようになり、企業買収が日常化すると、企業は企業買収の機会やリスクに備える必要がでてくる。そのために財務状態を良くしておくことの重要性(いざというときに財務状態が良ければ買収にのりだせる)、融資枠契約を活用することが指摘されている。
パナソニックによる三洋電機買収 
 投資ファンドは、市場に資金(リスクマネ-)を供給している点ではプラスの存在かもしれないが、企業経営を妨げるだけのファンドも少なくない。企業経営者がこうしたファンドを毛嫌いするのは当然である。しかし一部の人たちがこうしたファンドを肯定する発言を繰り返すのは、大変情けない。
 なお企業買収については、LBO方式で買収する側の資金に限界がなくなっていること、株式交換方式によって買収資金の節約が可能になっていることなどにも注意したい。

投資ファンド、スティールの抗告棄却(2007年8月)
ブルドックソースによる新株予約権発行による企業買収防衛策をめぐる裁判が、2007年8月7日に最高裁判所が米投資ファンドのスティールパートナーズSteel Partnersの抗告を棄却したことで結審した。
 ブルドック側は、1株に対し3株の新株予約権を全株主に交付(無償割当)。その後、スティールから新株予約権を強制的に買い取りその他の株主に新株を交付する。スティールのブルドック株保有比率は約10%から約3%に下がるというもの。
 もともとブルドックの企業買収防衛策(6月7日発表)は、6月24日の株主総会で特別決議により承認されていたもの。6月13日のスティールの差し止め請求に対しては、6月28日に東京地裁がこれを却下。スティールは即時抗告するも7月9日に東京高裁も抗告棄却。外資による批判にも司法の判断はゆるがなかった。
 企業買収をめぐっては企業価値の向上を迫るアクティビストファンドの役割が、企業経営への監視役の一つとして肯定されることがある。しかしながら企業買収ファンドの本来の役割は、買収した株をできるだけ短い期間で高値で売って利益を上げることにある。グリンメーラー(株式を買って経営に介入し、それをいやがる企業側に高値で株を買い戻させるもの)とアクティビストとの違いは、実際のところはむつかしい。
 司法が頼ろうとしたのは株主総会での株主の判断という基準である。今回のブルドックのケースでは企業買収防衛策に対して総会で80%を超える賛成が得られた。これが有力な判断根拠になっている。だがもしそうだとすると、スティールや買収防衛策に多くの比率をすでに買い占められたあとだとどういう結果になったろうか。形の上で特別決議の形で買収防衛策が通っていなければ、必ずしも多くの株主が買収防衛策に賛成していないとの判断を司法がする可能性もある。外国人株主の増加を、企業の国際化と思いこんでいた企業経営者は自らの軽率さにあわてているのではないだろうか。2007年の株主総会で買収防衛策を議決しようとした、外国人持ち株比率の高い会社は、高い反対票比率に冷や汗をかいた。外国人持ち株比率が39.6%の太陽誘電は反対票比率が45%、同34.9%の信越化学工業は反対票が40%弱でてしまった。
 今回、ブルドックに対するスティールの保有比率が10%強(10.52%)にとどまっていることが幸いした。スティールの保有比率は、アデランスでは24.69%。三精輸送機で24.57%。サッポロHDで17.965%。ノーリツで16.50%に達している(2007年6月12日)。また定時株主総会直前の5月16日にTOBの提案をしたことは判断ミスとされる。買収防衛策を株主総会で承認させる機会を提供してしまったのである。また買収後の経営について具体的な提案を用意せず、ほかの株主の質問に答えない態度も信じられないほど拙劣だった。
これに対してブルドックソース社長の池田章子さんの采配はさわやかであった。知人の紹介で入社。総務課のお茶くみからスタートして昇進して社長となり今回の事件という経緯であった。
 ブルドックの防衛策については、安定株主が多いのでTOBは成立せず発動が必要とはいえない、防衛策の発動でスティールに21億円、アドバイザーに7億円弱を支払い、08年3月期は赤字9億8000万円の赤字予想になるのはいかがなものか、などの批判がありえた。
 しかし社会はそして裁判所はブルドックを支持した。またこの赤字は、ブルドックは、実効税率4割として8億円余りの法人税支払いを免れたとの評価もあり、防衛コストはみかけよりは小さいようだ(その後2008年3月までにスティールがブルドック株をすべて売却したことでこの問題は決着した)。
 買収を正当な経済行為だというイデオロギーを信奉する人たちを除くと、スティールに対して日本社会は冷ややかである。今回の判決でスティールに対する包囲網は狭まったといえる。

サッポロHD株主総会(2007年3月)が前哨戦
 最初の攻防は2007年3月29日のサッポロHDの定時株主総会における新買収防衛策の提案をめぐってであった。これはすでに2006年3月に導入されていた事前警告型の買収防衛策(議決権の20%以上の取得を目指す買収者に情報開示を求め、取締役会の判断で新株予約権を利用した対抗措置が取れるというもの)について、取締役会の決議で1年ごとに継続できるとしていた点を毎年の株主総会での承認を継続の条件とするといった点に修正したもの。この変更は実はスティール側が2007年2月に出した株主総会での提案の一つではあった。スティール側の今一つの要求は、買収防衛策そのものの廃止であった。3月29日の定時総会でスティール側代理人は、反対理由を読み上げたあとは沈黙した。この態度は不評で、結果として行使された議決権の3分の2以上の賛成を得て会社側提案が承認された。注目してよいのは約2割を占める個人株主が会社支持に回ったことである。株主によってサッポロは救われた。

サッポロとアデランス
買収防衛策導入は2005年頃から事例がみられる。このサッポロのケースに見られるように、買収防衛策導入について、株主総会の承認を条件とすることがほとんどになったのは2007年の新たな傾向である。これはスティールだけでなく企業年金連合会など国内機関投資家からも、取締役会だけの判断では経営陣の保身につながりやすいとの批判を受けてのものである。2006年4月に企業年金連合会は買収防衛策導入にについての議決権行使の判断基準の中で、株主総会の承認を賛成する最低条件の一つに挙げている。
 2007年5月24日に株主総会を開いて買収防衛策を可決したアデランスの場合、スティールに同調する海外機関投資家もあり、賛成は行使された議決権ベースで55%。4割の否決票がでたとされる。
 ところで買収防衛策導入に対して、議決権行使助言大手のISSは、一般に経営陣が保身のため防衛策を発動することを防ぐため、取締役会に独立性の高い取締役を一定数加えることを求めている。ISSは、独立性の高い取締役が2人以上存在し、それが取締役会の2割以上を占めること。発動の判断は経営陣から独立した特別委員会が行うことなども求めている。
 アデランスでは外国人株主の賛成票を得るため、ISSの基準に従い取締役の構成を見直したほか、取締役の任期を短縮した。また持ち株会社化や会社買収による米国事業拡大など株主価値向上策を合わせて提示した。ISSではこれらの点を評価して、アデランスについては会社提案の支持を推奨した。ISSは、買収防衛策提案の多くについて、独立性の高い取締役導入などの要件が満たされていないとして反対を推奨している。サッポロのケースでも反対を推奨した。具体的にはサッポロの社外取締役はメインバンク出身で独立性に欠けるとして反対したと伝わる。このような経緯をみると、アデランスが努力をしてISSの基準を満たしたこと、そしてそれがISSの賛成につながったというプロセスは興味深い。
 2008年5月の株主総会で衝撃的な事態が生じた。アデランスに対する持ち株比率を29%に引き上げたスティールは経営陣の再任案を否決に回ったが、これに同調する株主が多く新経営陣再任案が否決されたのである。
 ところが会社の業績が悪化が続き株価も大幅に下落していたことから一般株主や機関投資家の一部までが否決にまわった。その結果、きわめて異例であるが現経営陣の再任案(9人の取締役のうち社外2人以外の7人)が否決されることになった。背景には株主構成の問題があり、アデランスの外国人株主比率は2月末時点でも49.9%と高い(この時点でのスティールは26%)。個人株主や機関投資家が反対に加われば、再任案が否決される状況だったのに、経営陣は油断して機関投資家に対する十分な根回しが行われなかったとされる。
 2008年8月に入って開かれた臨時株主総会は、スティールパートナーズが推薦する2人の取締役を含む9人の新経営陣を選任した。しかし経営の混乱から営業現場は混乱し客離れが生ずるなど、この経営の混乱は業績の改善にはマイナスだったと思われる。かつら業界の市場は成熟。アートネイチャーなど業者間の争い。医薬品などとの競合もある。
 なお2009年5月の株主総会でスティールは経営陣を抑えたものの社内は混乱。長期的に関与する意図がないファンドの経営介入は極めて無責任だ。
 アデランスと業界2位のアートネイチャ-の業績を並べて分析すると、男女かつらのいずれも景気低迷による買い控え、買い替えの延期により、売上の減少、利益率の大幅な低下が両社で共通している(かつらは高額商品である一方、必需品とは言い難い。消費手控えの影響が強いのは当然である)。スティールの主張である成長が見込める女性用ウイッグへのさらなるシフトが、当面の消費不況の打開策となるかは疑問がある。

スティールへの対応に疲弊するサッポロ
他方でサッポロは、株主総会では勝利したものスティールが大株主になるとともに、その買収提案(2007/02にTOBを提案)によって振り回された。しかしスティールが本気で買収して、従業員や顧客に責任のある経営をする意図があるようには見えない。このスティールの行動をみていると、ファンド資本主義なるものの皮相さが見える。はっきりしていることは、サッポロの経営陣がスティールの提案への対応に時間を取られ、経営改革のための時間を空費していることだ。もちろん企業価値をあげるための方策を、衆人環視の中で練ること自体は悪い経験ではない(2007/11買収後の企業価値向上策をスティールが゛提案 2008/2末 サッポロ 第三者の特別委員会への諮問を経てスティールに買収拒否回答)。
 日本経済新聞はこのスティールファンドの片棒を担ぐ記事を大量に流したが、本理は日本の経済界に利益を擁護する立場もわきめない恥ずべきことだ。サッポロがスティールへの対応に振り回されている間に、サッポロは本業のビールでの国内シェアを落としている。
 なおスティールは2008年に日本株を大量に売却した。江崎グリコ、ユシロ化学は売り切り、日清食品HD、リコーHD、シチズンHDなどでは持分比率を大きく下げた(江崎グリコや日清食品や投資指標でEV/EBTDAで8倍以上に該当すことによる利益確定、シチズンは損切りとみられる)。背景には運用成績の悪化で、投資戦略の見直し(日本株比率の引き下げ)を進めている面があるようだ。

買収戦略でのキリンの独走
 規模がまったく違うとはいえ、キリンHDは買収による成長戦略を加速している(サッポロの売上高規模は、アサヒの3分の1、キリンの4分の1である)。キリンは2006年のうちにメルシャンを傘下にいれ、キリンビバレッジを完全子会社化した。またテルモやヤクルトとも資本提携した。オーストラリアの乳業大手のナショナルフーズを総額2940億円で買収し、協和発酵への友好的TOBで同社を連結子会社とした。なおキリンはすでにキリンファーマという医薬品事業を有しておりともに抗体医薬で優れた技術をもつとされる。両社を合併の上、2008年4月に社名を協和発酵キリンとする。またオーストラリアではすでにビールのライオンネイサンに資本参加している。また乳業については、キリンは国内ですでに子会社に小岩井乳業を有する。
 ナショナルフーズの株式はその親会社であるフィリッピンのサンミゲルから買い取るが、サンミゲルのビール事業(フィリッピンでのシェア9割)にキリンは過半数の出資を交渉している。
 キリンはビール、清涼飲料水、医薬品の3本柱からなる事業体制そして海外売上高の引き上げに向けて走り始めた。投資額約6000億円。国内での売上高(06年12月1兆6159億円)は協和発酵買収で食品メーカーとして始めて2兆円をこえ、アサヒビール(06年1兆4463億円)、味の素(07年03月期1兆1585億円)を突き放した。
 サッポロも2006年にはカナダのビール会社を買収しているが、2007年は動きを封じられた形。

三角合併解禁をめぐって
 また2007年5月の三角合併解禁を受けて導入企業は一気に増加し上場会社全体の1割程度に及んだ。三角合併とは企業を買収する際に子会社に買収対象会社を吸収合併させる仕組み。これにより外国企業が子会社を使い、日本企業を買収することが可能になった。株式を対価とすることで資金負担が軽減される。
 2006年5月施行の会社法に盛り込まれていたが、産業界の反対で施行が1年延期になったが産業界の主張であった国内非上場の外国株の場合の特殊決議(株主数で過半数+総議決権の3分の2以上)はルール化(決議要件の厳格化)は実現しなかった。理屈としては非上場の株式は流動性が低く、国内株主が損失をこうむるというもの。通常の合併と同じく特別決議(出席した株主議決権の3分の2以上)で可決。また適格合併の要件として認定対象を国内子会社(事業所を構え従業員を雇用していること)としたので、ペーパーカンパニーは課税の繰り延べから排除された。この課税の繰り延べは吸収合併する日本企業の株主に適用されるもの。形式的にはこの株主は譲渡益がでたとみなされる。繰り延べによって課税は株式をうるときまで繰り延べられる。また外国企業に定款、財務、事業状況などの情報開示を義務付けた。なお国内企業保護の観点からのこのような規制は世界各国でとられている。
 →三角合併の最初のケース シティによる日興コーディアルグル-プ買収

ファンドやファンドで働く人間を信ずることはできない
 ファンドの評価について、日本の経営者はこれまで株主の方を向いて経営をしてこなかった。ファンドが登場して、たとえば増配要求をすることで、経営者の姿勢が変わったではないかとファンドの登場と役割を評価する意見がある。日本経済新聞はしばしばこうした意見で記事を構成している。
 しかし私は、ファンドは、決して投資先の企業を長期にわたってコミットし、その経営に責任をもつ存在ではないことを見据えるべきだと考える。ファンド資金の膨張とともに、ファンドは長期保有に姿勢を転換したと説く議論もあるが、ファンドによる資本主義に過大な期待を寄せることは誤りだと考えている。ファンドに対する規制を徹底して強化すべきだろう。それほどファンドを正当な存在とするイデオロギーが広がっている。このイデオロギーに対抗して、企業は長期保有の企業株主や個人株主とのリレーションシップを大事にする経営に転換することが、買収防衛策として大事だと考える。
 ブルドックソースはスティールへの新株予約権買取23億円と、弁護士や証券会社の支払などの費用で2008年3月期は10億円あまりの赤字になるとした。2007年6月12日 スティール代表のウオレン・リヒテンシュタインWarren Lichtenstein氏が東京都内で世界で初めてとされる記者会見をした。画面をみてだけの印象で語るのは失礼ではあるが、果たしてこの人がスティールが投資している多数の会社について、何を知り、どうすべきという判断をもっているかは疑問に思えた。
 私たちは買収ファンドの目的が、限られた時間スパンの中での収益最大化であるという現実を見据えてゆくべきであり、買収ファンドによる資本主義に過大な期待を寄せるべきではない。ファンドで働いている人たちが、自分たちの社会的機能を主張するのは当然である。新聞記者が不勉強なのは昔からだ。彼らの作文を信ずる必要はない。

このほかの買収防衛策
 なお買収を防ぐための条項はサメよけshark replantとか毒薬(poison pill)と呼ばれる。既存株主に新株を発行して買収者の出資比率を下げる仕組みをとくに毒薬と呼んでいる。経済界では、欧米にみられる複数議決権株式(創業者が保有して支配権を維持)、黄金株(重要議案に拒否権を発動できる)に強い関心が示されている。
日本では黄金株については2004年11月に国際石油開発(2004年東証一部上場)により石油公団に対し(その後 経済産業大臣が継承)発行された事例がある。2005年6月に成立、2006年4月から施行されている新会社法でも黄金株の発行は排除されていない。しかし、経営者の保身をはかる手段になる、M&Aの展開による企業価値向上を妨げる、特定の株主を優遇して株主平等の原則に反する、など乱用を危惧する意見が多くその後 日本では発行事例はない。鈴木芳徳「黄金株についての覚書」『証券市場と株式会社』白桃書房,2007年3月, pp.96-110.
しかし黄金株を用いた企業防衛を頭から否定する議論も行き過ぎているように考える。

 サッポロHDが2007年6月に発行した買収防衛効果のある早期償還条項付き普通社債も注目されている。これは議決権の過半を取得した株主が現れた場合や、合併・完全子会社化の対象になった場合、社債購入者が当初の設定期限より前倒しで償還請求できるというもの。投資家にとっては買収に伴う社債貸付け格付け低下リスクへの備えになるとともに、発行会社にとっては買収防衛効果が見込める。欧米ではめずらしくないが、日本での発行は初めて。
 買収防衛策は、買収者に買収後の計画について説明を求めるものを「事前警告型」。新株予約権を信託銀行にあらかじめ発行しておいて、買収者の出現と同時に株主に交付するものを「ライツプラン型」という。日本ではほとんどが事前警告型である。事前警告型は、株主総会が導入・発動を承認するもの、株主総会が導入を決めるが発動は取締役会が決めるものに大別され、取締役会が決定するものはさらに第三者委員会を設置して発動についてその判断を求める仕組みの有無がある。他方、ライツプラン型は、第三者委員会を設置して発動についてその判断を求めるものとなっている。現在のところは、ほとんどが事前警告型となっている。
 なおブルドックソースの財務アドバイザーを務めたのは野村證券。2006年の王子製紙による北越製紙に対するTOBで王子側について悪役を演じ世間から指弾された野村は、ここでようやく日本の証券会社として本来果たすべき役割を演じたのであった。

参考文献
企業買収防衛策
伊藤ほか 日本型コーポレートガバナンスが目指すもの(2003)
土屋守章 ファンド資本主義の現実(2005)

 Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. originally
appeared in Ag.29, 2008. correctd and repostd in Nov.20, 2009.

株主資本主義について
投資ファンドの増配要求
現代の金融システム 財務管理論
現代の証券市場 証券市場論

電子マネーの普及と楽天のEdy買収

2009-11-17 13:02:06 | Economics
Rakuten acquires majority interest of bitWallet
Hiroshi Fukumitsu

拡大する電子マネーexpanding electronic money
 少額決済の市場を大きく変えつつあるのは「前払い式の電子マネーprepaid card formed electronic money」である。決済時間が短縮化され、小銭が不要になる。現金のやり取りが省ける。「第二の財布」「第二の通貨」とも呼ばれる。利便性を覚えた高齢者にも普及し始めている。
 2001年にスタートを切ったのはソニー系のEdyだった。しかし弾みがつけたのは2007年の流通系カードの登場だった。
 2007年に相次いでスタートしたNANACOとWAONなど流通系ではポイントの付与が、利用促進を後押しした。2004年にSuicaで始まった交通系は2007年にPasmoがはじまり、さらにPasmo-Suicaの相互利用が認知されるとともに、移動手段にも使える利便性が支持されて、高い普及率を示すようになった。これもPasmoの登場は2007年のことだった。
 いずれも300円から500円程度の発行手数料がかかるが、流通系では利用金額100円ないし200円で1ポイントといったポイント機能がある。付与されているポイントが利用促進に役立っている。一般に値引きよりポイント付与の方が利用促進効果は大きいといわれている。

流通系 07春参入 ポイント制導入で魅力 09/08 7月の月間決済件数でEDYをwaonが抜いて3位に 流通系は発行枚数に比べて決済件数が多く決済に実際使われている特徴 nanaco加盟店1店あたり月間決済件数1350件(09/07)waon加盟店1店あたり月間決済件数859件(09/07) 
nanacoセブン&アイH2007/04/23開始入金上限1枚3万 発行手数料300円が足かせ セブンイレブン07/05末までに全国1万1700店で使用可 08/05イトヨーカ堂で使用可 全日空 JCB ヤフーと連携 507万枚07/10 900万枚09/09(3500万件)
WAONイオン2007/04/27開始ジャスコ ミニストップ 一部店舗から始め2008年度中にSCのテナントを含む23000店で使えるように ローソンと提携交渉07/04 日本航空と提携07/10 ファミリーマートで利用可能に09/10150万枚07/10 1130万枚09/09(2530万件)


 交通系ではポイント制はないものの移動手段としても使える利便性に高い支持が集まっている。

交通系 07/03 pasmoの導入とともにpasma-suica相互利用で利便性高い。急速に普及している。両者を合わせた決済件数は2008年3月にedyをまた2008年6月にnanacoを抜き、その後も急速に伸びている。
SuicaJR東日本2004年から電子マネー機能 07/06よりポイント機能 JR ファミリーマート1970万枚07/03 2254万枚07/10 2735万枚09/09(2837万件)
PASMO首都圏大手私鉄07/03/18導入 Suicaと相互利用可能116万枚07/03 227万枚07/04/02 577万枚07/10 1342万枚09/09(1228万件)


 2009年7月末でこれらの総発行枚数は1憶3000万枚を超え、月間の買い物決済件数は1憶件を超えるようになった。背景には決済端末の価格の低下による、端末の普及がある。2005年頃には20万程度したものが2009年8月には10万円弱程度となっている。
 現在の問題は多数の電子マネーが乱立して、それぞれが顧客を囲い込み、顧客からはどの規格がどこで使えるかわかりにくいことだろう。社会的には加盟店、利用者双方にとって重複投資になっている。決済処理・与信管理も各社ごとに多額の経費がかかっており、これらの経費が消費者の負担になっているとの批判がある。
 ところでカード会社の収益の仕組みは、カード発行会社に利用額の1%前後の手数料が入るというもので、小額決済の場合、1件ごとの利益は大変薄い。またクレジットカードの入金機能を付けると2%前後の手数料が入るというもの(3000円として60円)。現状ではどのカードも決済のところだけでは採算にのっていない。
 技術的にはソニーの非接触IC技術のフェリカは共通。お財布携帯なども同じ。これは非接触型認証(無線自動識別)(RFID:radio-frequency identification)と呼ばれる技術で、電子マネー以外にも様々な応用が可能。無線ICタグ(電子荷札)を使って商品管理・物流管理をするなど。自動販売機メーカーでは複数の電子マネーで購入できる自動販売機の開発を進めているが、非接触IC(integrated circuit集積回路)技術の採用は、新たな金融技術の面で大変興味深い。

ネット通販の順調な拡大を背景に楽天がEdy買収で進出
 電子マネーは種類が増えるとともに競争も激しくなり、とくにソニー系のEdyの不振がめだつようになった。Edyは全日空とのマイレージ交換が注目された以外は決め手を欠いていた。財務的にも破たんし資本不足も明らかだった(01年の開業以来、9期連続の赤字。赤字を度重なる増資で補って債務超過を回避してきた。この債務超過の理由は明らかで店舗におく端末費用の負担が積み上がる一方、手数料収入が伸びないため。事業としてはすでに破綻している)。
 救いの手を挙げたのは楽天。楽天は2009年11月5日にEdyの子会社化を発表した。2009年12月のEdyを運営するビッドワレットbitWalletの第3者割り当て全額約30億円を引き受け50%超を取得するとのこと(ソニー、NTTドコモの出資比率は低下)。
 楽天の狙いはネット市場の決済にEdyを活用することだとみられる。しかし楽天は自社のクレジットカード「楽天カード」をすでに持っている。ネット決済にはクレジットカードが適しているともされるので、外部からみる限り、楽天にとってこの投資は、全く無駄な重複投資にみえる。どうしようもないお荷物に見えるEdyを引き取った楽天の成算がどこにあるのかは外部からは理解不能である。

ビットワレット(2001年創業) ソニー系→楽天系へ 発行枚数は多く見かけの店舗網も大きいが、発行主体と関係付けられた店舗網ではないため、決済利用が進まなかった。スーパー、コンビニが独自カードに進んだことで、将来性は閉ざされた。発行された大半のカードのEdy機能が使われていない。加盟店1店あたり月間決済件数はわずかに174件(09/07)nanacoを進めるセブンイレブンで利用可能になり(09/10 ただしセブンイレブンはsuicaやpasmoの導入も展望している)、楽天の傘下に入り(09/12)さらに今後楽天市場で使えるようになることで復活は可能かは注目されるが、楽天はなぜこういう無駄にみえる投資を続けるのかは不明だが、背景には本業のネット通販事業が順調に拡大していることがある。
一般的に小売業は不況とされるなかで、楽天に限らずネット通販事業の売上高は2桁台(15%から20%)の伸び率で拡大している。背景には消費者の低価格志向があるとされる。加えてネット通販最大手の楽天市場に、有力ブランドの出店が続いている(手数料や人件費など出店コストが低い 全国から注文を受けられる 自社サイトのコストを削減できる)。
 店舗網と発行枚数は大きいので潜在力はあるものの、ネット市場ではクレジットカードが主流。電子マネーの1000円前後の利用単価のかい離は大きい。つまりEdyの将来も楽天の戦略もよく見えない。
Edyビットワレット(ソニー系)1枚の入金上限5万円 am/pm サークルKサンクス 郵便貯金と連携 発行主体と店舗とが無関係な点が弱点 09/10セブンイレブンで採用される 発行枚数多い 発行開始は2001年 2820万枚07/03 3430万枚07/10 5200万枚09/09(2500万件)


資料:「電子マネーに事業採算性はあるのか ビットワレットが迎える新局面」『金融財政事情』2009年10月19日号, 6-7.

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
0riginally appeared in Mar.6, 2008.
Corrected and reposted in Nov.17, 2009.

現代の金融システム
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日本航空再建問題の迷走(2009年9月15日から10月29日まで)

2009-11-15 15:37:03 | Economics
日本航空側再建案提示(2009年9月15日)から前原タスクフォース解散(2009年10月29日)までの議論の迷走について
Hiroshi Fukumitsu

日本航空の苦境と資金的逼迫
 日本航空は2009年3月末で約8000億円の有利子負債を抱え、資金調達に苦しんでいる(2001年の米同時テロ 2003年のSARS重症急性呼吸器症候群 燃料高騰など)。06年に公募増資で約1400億円、08年には優先株発行で約1500億円調達したものの09年6月末の自己資本比率は9%台に低下。
 09年6月末に政策投資銀行などと一部政府保証のついた1000億円の融資契約締結(国土交通省が再建を主導することを前提に600億円の危機対応融資 うち480億円は政府が保証)して一息ついた。
 とはいえ2009年8月7日に発表された2009年4-6月期の連結決算で過去最悪の990億円の最終赤字を記録(09年3月期決算で民営化後の初めての決算で約1300億円の最終赤字 2期連続の最終赤字が濃厚)。日本航空の赤字額は通期で2000億円規模に達しており、財務的にはすでに実質的破綻状態にあるとみられる。

日本航空が再建案提示 (2009年9月15日)
 2009年9月15日 日航(今年度内に2500億円の資金調達が必要だとされ、金融機関に1000億円の追加融資を要請中と報道されている)は、国土交通省の有識者会議(座長 杉山武彦一橋大学長)に再建計画素案を提示した。有識者会議は8月20日に続く2回目。
 国土交通省はおそらくは総選挙による政権交代があっても、この問題の判断は自民党政権と民主党政権で大きくは変わらない前提で決着を急いでいた。
 同日の会議で日航は赤字路線を内外すべてやめると表明。すなわち国内外16空港から完全撤退、50路線を廃止。グループ社員6800人を2011年度までに削減。営業経費を08年度に比べ3割削減するとした。しかし素案に対して金融機関側からは融資判断に耐えられないと厳しい指摘があった。
 なお航空連合スカイチームの米デルタからの出資の話が、この有識者会議当時あった。この出資受け入れを国土交通省は日航に勧めたとされる。日米航空交渉の妥結に、デルタの力が必要で国土交通省は日航を利用したとも指摘される。そもそも日航側は航空連合の乗り換えに消極的で現在のワンワールドの米アメリカンからの出資に期待したようだ。しかしこの出資は得られたとして数百億円で必要額に不足。これらの航空連合からの出資は日航の再建の議論にとって本筋のお話ではないと指摘されている。

前原国土交通相が有識者会議白紙化を発言(9月17日未明)
 9月17日未明 前原国土交通相が有識者会議を自民党政権下のものとして白紙化を発言して波紋を呼んだ。白紙化は、国土交通省の進め方に反発していた、日本航空、金融機関の双方にとって、歓迎すべきことだったのかもしれない。
 しかしこの問題の解決には、年金問題があり、その解決が容易でないことが、やがて見えくる。

 9月21日 主力行は新旧分離を要請していると報道された。これは採算路線など優良事業だけ引き継ぐ新勘定を分離。経営をスリム化、旧勘定は清算処理するもの。さらに公的資金投入のため特別立法で行い、民間金融機関の融資には政府保証求めるというもの。それを前提に返済繰り延べ、債務の株式化に応じるというもの。
新旧分離は不採算事業をかかえたままでは追加支援をしても、収益力は回復しないとの金融機関側の判断がある。
公的資金については日航の特別扱いへ疑問がでる

 9月22日 日航が廃止を検討している国際・国内線50路線の全容が明らかになる⇒路線廃止には地元との調整は難航も予想される

 9月24日 前原誠司国土交通相 西松社長と会談 西松氏は経営再建策(改正産業活力再生法による公的資金注入を要請)を説明 前原氏はその後、日本政策投資銀行など取引金融機関幹部と会談する。

 9月25日 前原誠司国土交通相が特別チームの設置を発表した。学者中心の有識者会議(座長に杉山武彦一橋大学長)を正式に白紙にした。特別チーム、すなわちタスクフォースは旧産業再生機構出身の高木新二郎氏、富山和彦氏ら5人。この実務に精通した専門家を日航に乗り込ませるとされた。
なお前原大臣は日本航空が破たんしているのに、現時点では法的整理を考えていないと繰り返し発言。政府の政策の選択肢を自らせばめてしまった。

 10月1日 日航は予定通り、整備子会社や空港子会社の統合を実施した。

タスクフォースが再建素案を公開(10月13日)
 10月13日に前原誠司国土交通省直属の再生タスクフォースの再建素案が発表された(銀行への説明が行われた。後述するように銀行側はさらなる支援要請に強く反発した)。その内容は自主再建を基調とするものだが、実際は政府の関与拡大を見越したもので以下のとおり。

 まず日航は2500億円規模の債務超過に陥っているとの認識を示した。これは実質債務超過にあり民間金融機関による新規貸し出しは不可能という意味。
 その上で
金融機関による
 債権放棄2500億円 債務の株式化300億円 などで3000億円の債務減額(債権放棄などで3000億円)
日航側は 
 1500億円規模の出資を含む最大4800億円の新規資本調達を10年3月末までに実施
 西松遥社長ら経営陣の退陣(10年1月末までに新たな経営体制に移行)
 退職者・現役社員ともに年金支給額半減で年金積み立て不足3300億円(細野祐二「まだある隠れた簿外債務 安易な救済は国民の負担大」『エコノミスト』2009年11月10日, 45-47は過大な割引率により積み立て不足が過少に計算されている可能性を指摘している。)を3分の1(1000億円)に⇒ OBの反発で合意取り付けは困難が予想される。しかしもしも日本航空社員の年金が公的資金で賄われることになれば、今度は国民の反発は必至である。
 人員削減3年で9000人⇒9000人~1万人への積み増し ⇒乗員を含む削減に労働組合の反発が予想される
事業再生ADRの活用
政策投資銀行による11月中の危機対応融資の実施
改正産業活力再生法に沿った危機対応出資
11月末をめどに再建計画を策定するというもの。
 ⇒銀行側は更なる支援に強く抵抗した。日本政策投資銀行 3メガバンク 本格的査定作業入り(09/10/14) 再建素案の3000億円のほかに追加融資が見込まれる。産業再生機構のもとで再建したダイエーに対する4400億円に迫る規模に金融機関の間にとまどいがあるとされる。

○タスクフォース内でも自主再建ではなく国の積極的介入が必要との認識が固まる(09/10/16)財務省と日本政策投資銀行は再建素案受け入れ困難と判断(09/10/17)タスクフォースと政府内で企業再生支援機構の活用案浮上(債務免除益が非課税になり、銀行側も機構が事業再生計画を認定すれば貸出金を正常先に格上げできる)。

○タスクフォース 日本政策投資銀行 3メガバンクと再建素案につき協議進める(09/10/18) 予定を早めて10月内に再建計画案策定することが明らかにされた。銀行団は新規の金融支援などに難色示したとされる。作業部会中核メンバーが11月1日をめどに日航入りで調整中であることがわかった。

10月20日 タスクフォースの修正素案が示された(公的資金含め3000億円の資本増強など)。素案 ⇒ 修正素案
 清算価値 最大で6000億円超の債務超過 金融支援で穴埋め 存続させれば債務超過額は2700億円程度に縮小。
 金融支援5500億円
  公的資金注入を含め資本増強 1500億円 ⇒ 3000億円
  金融機関による債権放棄   2500億円 ⇒ 2200億円
  債務の株式化         500億円 ⇒  300億円(主力4行)
 金融機関の融資3500億円
  つなぎ融資         1800億円 ⇒ 2000億円(11月中)⇒政府保証には特別扱いとの批判強い
シンジケートローン     1500億円 ⇒ 1500億円  
 リストラ(2014年度までに)
  45-50の不採算路線の整理 ⇔ 地元自治体・政治家が抵抗(これまでも日航は実行力なし 02年のJAS統合で不採算路線増える 組合も複雑さ増すなどの背景がある)
  小型化によるコスト削減
 (なお日本航空の経営スタイルはhub and spoke 小型機と大型機の組み合わせ。そのため機体の種類が増えて高コスト体質を生む。いま利益を出している航空会社はpoint-to-point といわれる新興勢力とされている。小型機で地方空港間を結ぶ。LCCとも呼ばれ機体の種類を絞り込み、経費を抑え低価格で顧客の支持を広げるのが特徴。なおLCCとはlow cost carrierのこと。以上の点は、日本国内についても、日本航空や全日空など大手航空会社が苦戦するなか、スカイマーク、エアドウ、スカイネットアジア、スターフライヤーなど新興航空会社が不況下で営業黒字(09/07-09)を計上したことでも確認される。機材の絞り込み、小さな本社機能、燃料の値下がり、旅客の価格志などが新興勢力に有利に働いているとみられる。)
  約290の子会社・関連会社半減
  約9000人(9月の日航案では6800人)の人員削減 ⇔ 労働組合が抵抗(これまでも日航に実行力がなかった問題がある)
 年金債務の削減(支給額半減とOBへの一時金一括払い 報道によればJALはの手厚い年金とは上乗せが月額25万ほど。合計額で月額48万ほど。年収が年金だけで580万ほどになるというもの。JAL-OBが年金死守に回ればJALを救済することなく倒産させるべきだという世論は間違い違いなく高まるだろう)。 
 年金積み立て不足(未認識債務)は現状3300億円 これを1000億円規模に縮小 ⇔ OBの反対抵抗で実現しない可能性があり実効性に不安があるものも政府は強く日航側に要請。日航側は抵抗している。受給者・待機者を含め対象は約9000人。実際は2-3割削減との見通しもある。3分の2以上の同意取れるか。
 銀行団による要請
  法的整理回避は合意
  しかし支援は今回が最後
  減資による株主責任明確化 ⇔ 株主の反対で実現しない可能性 株主総会で特別決議必要。可能か。
  つなぎ融資に対する政府保証
  空港使用料などの引下げ
  なお全日空との統合については全日空メーンの三井住友の抵抗があり実現がむつかしい。
 政府保証の仕方
  日本政策投資銀行による危機対応融資(原則8割までの政府保証)
  企業再生支援機構(資本金200億円 政府出資が100億円(当初50億円)でスタート。発足時50人程度(年末までに80人弱)。その後、100億円を130の金融機関から追加出資。資金枠1兆6000億円 政府保証の借入で業務 社長に西澤宏繁氏 人材や顧客など有用など有用な経営資源があるが、過大な債務を負った企業について、債務を減らし3年以内の経営再建を目指す。企業再生支援委員会委員長に瀬戸英雄氏) 出資 直接融資 銀行団との再建策の協議・調整 より踏み込んだ リストラ案 資産査定 ⇔ 一時検討された改正産業活力再生法(原則3年で企業価値向上を条件)から透明性の点で支援機構活用となったとされるが裏の事情(おそらく3年での再建は不能ということか?しかし再生支援機構も3年以内の支援完了を目指す)は伝わらない。反面、企業再生機構は発足後間がないの(2009年10月16日発足)で人員・出資枠(手持ち資金?)とも不十分との声も。

○前原国土交通相・藤井財務相のトップ会談もたれる(10月20日)⇒財務省側は、企業年金の積み立て不足額3300億円の穴埋めに税金が投入されるのでは、国民の納得が得られないなどとする。 

○首相官邸で首相も加わる政府最終調整でも調整できず(10月23日)⇒企業再生機構を枠組みとして使う案が浮上

○企業再生機構で再生計画仕切り直し、タスクフォースは解散へ(10月29日)
 金融機関(日本政策投資銀行 メガバンク3行) 関係省庁(国土交通省のほか財務省 厚生労働省)の調整つかず(財務省および金融機関がいずれも不同意)。
 日航の年金債務が焦点だが、年金の減額は財産権の侵害との批判もある。他面では法的整理に移行したときには年金受取が困難になる事態も考えられる。一部には法的整理の断行を主張する意見もある。
 日本航空が破綻状態にあることを明らかにしたことはタスクフォースの貢献だが、タスクフォース案にはもともと政府の介入拡大が想定されており、タスクフォース=自主再建、企業再生機構=政府の主導による再建という報道は、問題をわかりにくくしてはいないか。最終的に企業再生機構にバトンがわたったことで、国土交通省が打開の主導権をとれなかったこと、主導権が財務省に移ったことが読み取れる。事態は法的整理に向けて大きく動き出したといえよう。


政府が「日本航空の再建に向けての方策」発表(2009年11月10日)
 「方策」は、企業年金削減は不可避としたうえで(公的資金が年金支払いに充てられに、企業年金削減に関し法的措置を検討が冒頭に)、資金繰りについて新たな法的措置の検討を明言している。
 具体的には、政策投資銀行がつなぎ融資(適切な信用補完に関する予算および法的措置がとられるものと認識)。1000億円程度の資金枠を11月末までに設定。
3メガバンクが国際協力銀行の100%保証で250億円程度融資(機材更新資金)。
日本航空は事業再生ADRを申請して金融機関への支払いを停止へ。

日本航空OBが年金削減特別立法に反対を表明(2009年11月11日)
 日本航空の退職者でつくる「JAL年金改定について考える会」が、特別立法に反対する要望書を前原大臣宛てに提出した。しかしこれは、筋書きに乗ったと同然の動きであり、OBへの国民の同情は期待できない。OBが政治的に動けば動くほど国民の反発を引き出すだけだろう。
 制度設計上は、年金の減額は、厳しく制限されている。OBが抵抗を続ければ、日本航空は存続自体が否定されるところまで国民の議論はゆくだろう。日本航空という企業とその従業員に対して、同情的な国民が極めて少ないということにOBたちは早く気づくべきだ(この点で法的整理に消極的な前原大臣の世間とのズレも相当に大きい)。

09年4-9月期決算発表 事業ADR申請(2009年11月13日)
 この連結決算で日本航空は、過去最大の1312億円の最終赤字を計上。9月末の純資産は1592億円(3月末から375億円減少)。注記で「借入金の返済条項の履行に困難がある」ことを認める。
 また事業再生ADR(裁判外紛争解決制度)を申請。
 受理されれば、債権者に対して債権回収や担保設定の一時停止を要請できる。

originally appeared in Oct.22, 2009. corrected and reposted in Nov.15, 2009.

日本航空、会社更生法申請(2010年1月19日)へ
メインバンク制度の崩壊と事業再生ADR
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big four banks or major banks

2009-11-13 05:04:07 | Economics

big four banksは各国の金融機関の大きなものを指す。

アメリカでいえばJPMorgan Chase & Co.(2000年にChase Manhattan Co.がJPMorgan & Co.を合併 本店はNew York), Bank of America(2008年にMeril Lynchを合併 本店はCharlotte, North Carolina), Wells Fargo(本店はSan Francisco, California), Citigroup(1998年にCiticorpとTravelers Groupが合併 本店はNew York)の4つ。これらはmoney center banksと呼ばれることもある。

イギリスでいえばBarclays, HSBC(1992年にMidland Bank:本店Birminghamを買収), Lloyds Banking Gr., Royal Bank of Scotland(2000年にNatWest Bankを買収 NatWestは1968年にNational Provincial BnakとWestminster Bankが合併したもの RBSの本店はEdinburgh。現在も 1£券を印刷している)の4つ。これらはmajor clearing banksと呼ばれることがある。
 2007年夏に表面化したノーザン・ロック銀行の破たんを、イギリス政府は国有化により乗り切った(2008年2月-3月)。しかしその後もイギリスの金融の動揺は収まっていない。2009年11月3日に発表されたところでは、議決権のない優先株、および普通株への政府保証の組み合わせでロイズとRBSへ公的資金投入を行う。この結果、イギリス政府の出資比率はロイズで6割、RBSで4割に達する。つまりロイズは実質的に国有化されることになった。

中国では、中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行の4つである。

韓国では、ハナ銀行(ハナ:一つの)、国民銀行(2001年に住宅銀行と国民銀行が合併)、新韓銀行(1982年に在日韓国人資本により初めての民間資本銀行として設立 2003年に老舗の朝興銀行を合併)、ウリ銀行(ウリ:われわれの 1998年に韓一(ハニル)銀行と韓国商業銀行が合併してハンビット銀行設立 2002年にウリ銀行に改称 ハンビット:一つの光)

日本ではメガバンクという言い方。しかも3グループに集約されているのが特徴。三井住友FG(2001年4月 住友銀行とさくら銀行の合併による)、みずほFG(2000年第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行がみずほFGを形成 2002年に3行が合併再編してみずほ銀行 みずほコーポレート銀行[興銀を主体にほかの2行の法人事業部が合体]に別れる)、三菱UFJFG(2001年4月に東京三菱銀行、三菱信託銀行、日本信託銀行の3行で三菱東京FGの形成 2006年1月に三菱東京銀行がUFJ銀行を合併して三菱UFJ銀行)。

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メインバンク制度の崩壊と事業再生ADR

2009-11-05 06:30:34 | Economics
Hiroshi Fukumitsu

american depositary receipts:ADR(アメリカ預託証券)
 海外で証券を発行するとき、その国の有価証券の様式を取っていないと、流通しない。そこで登場するのが預託証券(DR)である。本邦の証券の預り証であるが、その国の有価証券の様式を取っている。これがアメリカで出ればアメリカ預託証券。日本でなら日本預託証券(JDR)となる。
 JDRは2007年10月に解禁された。2008年4月にはインドのタタ自動車が2008年4月にもJDR方式で2008年6月にも東京証券取引所に上場するとの報道が流れて、市場活性化策として注目された。しかしその後、内外の株価は急落。2008年12月に至ってタタ自動車が東証上場を無期延期の決定を行っていることが明らかになっている。
 それでは、上場している外国株式はどうなっていたかだが、これは日本株と同様の様式を求められていた。 

alternative dispute resolutions:ADR(裁判外紛争解決制度) 金融ADR
 金融取引に絡む、顧客と金融機関の間の紛争について、簡易・迅速 納得感のある解決 時間的、労力的、経済的な負担の軽減のため、裁判以外の紛争解決制度ADRが話題になっている。
 そのような制度が機能するには、当事者間で、中心的指導理念の共有 価値規範 行動規範(苦情処理のルール)の透明な確立が前提との指摘がある。
 行動規範については、まず当該機関自身の紛争解決努力を行い、一定期間内に対応できない場合 すみやかに第三者の紛争解決機関を紹介するなどが一例。
 この制度についての目標は、金融関連分野をまたぐ横断的な単一ADRだが、日本では業界団体の自主的な苦情処理・紛争解決の取り組みを活用するとされている。しかしこのような分立型がいいのかは疑問が出ているし、業界団体依存型は第三者機関とはいえないという疑問がある。
 金融ADRは2010年10月1日から始まった。銀行・保険については、全国銀行協会、生命保険協会、日本損害保険協会などがそのまま紛争解決機関となった。証券については、証券・金融商品あっせん相談センターという有料の紛争解決機関が立ち上げられた。有料であるが弁護士費用に比べれば安く、迅速な処理になる見込。弁護士司法書士など紛争解決委員が双方の言い分を聞いて、和解案を示す。業者は原則として受け入れ義務があり、利用者は納得できないときは裁判で争える。

事業再生ADR
ADRのなかで最近注目されているのは事業再生ADR。会社更生法や民事再生法とは違い、訴訟手続きによらず、企業の再生をめざすのもの。そこで認定を受けて紛争の仲介役として登場したのが、JATP。JATPが仲介役として金融機関と協議しながら再生計画をつくる。
2009年9月24日にアイフルとウイルコムはそれぞれADR(裁判外紛争解決)手続きを利用した事業再生に乗り出すと正式に発表した(両社とも認定を申請して受理された)。事業再生ADRは2008年11月に運用が始まった。すでに利用した企業に日本アジア投資(2009年5月)、コスモスイニシアなど。アイフルの債務総額は3100億円前後で、事業再生ADR利用は過去最大規模。なおウイルコムの債務総額は1000億円前後。実務は事業再生実務家協会(JATP 経済産業省認定の第三者機関)があたる。
 取引金融機関(アイフルの場合は住友信託銀行754億円やあおぞら銀行413億円など09/3末)に対して、債務残高の維持と返済期限の延長を求めながら、会社の再建を進める。第三者機関が仲介役になって、金融機関と協議して再生計画を作成、債権者会議を開催して、再生計画への同意を得るプロセス。
 アイフルの経営悪化の最大の要因は利息制限法の上限(15%-20%)を超える過払い金の返還請求の急増、高止まり。そのため資金繰りがゆきづまった。
 再生計画で経営者が残ることが仮にきまるとすると、社員のリストラや金融機関に返済猶予を求めること(金融機関にすれば債権を不良債権化させること)とのバランスで経営責任を明確にしないことへの疑問の声が残る(債務免除なら経営責任を追及しやすい)。取引先企業では保有する売掛債権について会計処理のルールが定まったいないことに当惑の声が広がっている。他方でCDSを購入している一部の銀行は、クレジットイベントに該当させて保険金の支払いを受けたいのが本音かもしれない(倒産であれば確実に該当する)。
 ADRはこのようにその扱いがまだ確定していないスキーム。従来の民事再生や会社更生に比べて訴訟手続きのよるのに比べて迅速・柔軟な再建計画策定が見込める反面、その定着への関門は多く、その今後はハイブリッドファイナンスと同様に流動的だ。

メインバンク制度の崩壊と事業再生ADR
 ではなぜ第三者機関が必要になったのか。メインバンク制度の崩壊が関係しているとされる。もしメインバンク(融資債権順位でトップの金融機関)が存在して機能していれば、そもそも銀行は企業に対してモニタリングを行って適切な段階で経営改善を働きかけ、そして破綻した場合も事業再生はメインバンクが主導して進む。ところが企業と銀行との関係が変化してメインバンクを持たない企業が登場し始めた。まだメインバンクが存在する企業でも、銀行は企業経営に対して距離を保つことが必要になっている(⇔利益相反の防止)。そこで銀行としても、事業再生ビジネスを紹介して企業に自助努力を促すことになる。
 ところでメインバンクをもたない企業は、事業破綻とともに事業再生の調整にたちまち行き詰まる。リスケジュール(債務の再調整 減額・支払い延期など)に下位行(債務額の小さな金融機関)が応じてくれず、メインバンクが肩代わりなどの調整機能(再生計画をつくり、他の債権者からの同意をとりつけるなど)を発揮しないからだ。メインバンクがいないと、すべての金融機関が債権者衡平、プロラタ方式(債権額に応じた権利)を主張して、企業は再生の機会を失うことになる。
 事業再生ADRはメインバンクのいない企業の「駆け込み寺」になっているという評価があるが、だとすれば他方で、メインバンクの機能を企業の側そして銀行の側双方で再評価する必要がある(メインバンクとしてモニタリング機能を果たし、債権者間の調整して、企業再生のための努力をすることは、結果として銀行にとっても自身のリスク管理になり、最終的な債権回収可能性を高める)との指摘がある。

特集「メインバンクの将来」座談会「<失われた10年>後のメインバンク」ほか『金融財政事情』2009年11月2日号, 10-28.

参考
民事再生手続きと会社更生手続き 民事再生と会社更生は、破産・特別清算・銀行取引停止(6ケ月以内に2度の不渡り手形)と同様に倒産に数えられる。つまり倒産は、いわゆる破産の方向に進むものと、事業再生の方向に進むものとがあるが、いすれにせよ、それらの手続きにはいることはこれまでの事業の「倒産」である。
 ADR受理を「倒産」としていいかが、現在のところは曖昧である。再生、更生、それに事業再生ADRは、事業再生手続き。その中でADRは、訴訟手続によらないことが特徴となっている(事業再生ではスピードが重視される。会社更生法は1-2年に対して民事再生は半年程度。事業再生ADRでは3-5ケ月を見込んでいる。もうひとつは資金繰り。手続き中の融資は優先的に弁済されるので、金融機関にすれば融資に応じやすい)。  
。解釈によっては「倒産」直前に債権者との間で、債務の猶予について合意が成立するケースとみえる。
 財務上の数字からは、営業CFの赤字の解消が見込まれない状況は経営上の破綻を示している。また資産を売却してなお負債を返済できない状況も同じである。これらは「実質的」倒産状態とはいえる。
 ADR受理が、CDSのクレジットイベントに該当するかどうかも、議論の焦点。①倒産(破産)、②支払不履行、③債務返済の条件変更。現在のところ受理はその③をお願いしている状況でクレジットイベントではないとされている。債権者会議で事業再生計画が承認(決議)されれば、③に該当して、クレジットイベントに認定され、CDSが決済される(CDSの買い手は保険金を受け取り元本の保証を得られる)と予想されている。
 資料:「アイフルの事業再生ADR CDS市場に与えた波紋」『金融財政事情』2009年10月12日号, 6-7.
「運用開始から1年 課題が浮き彫りとなる事業再生ADR」『エコノミスト』2009年12月1日号, 15.
 
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Mar.3, 2009.
Corrected and reposted in Nov.5, 2009.

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プルサーマル発電

2009-11-05 05:33:44 | Economics
2009年11月5日、九州電力は玄海原発3号機(佐賀県玄海町)でプルサーマル発電の試運転が始めた。臨界後、8日から発電を開始する。
九州電力では、フランスの原子力大手アレバに委託して、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出したあと(プルトニウムは使用済み燃料に約1%含まれる)、プルトニウムにウランを混ぜたMOX(mixed oxide混合酸化物)としたもの(MOX燃料)に加工、これを原料にして発電を行う。プルサーマル発電は、ウラン資源を1-2割節約につながることから、各電力会社で計画がある。
中部電力では浜岡でまた四国電力でも伊方で2010年にも実施予定。
反面、わざわざフランスで加工したことに示されるように国内に再処理工場(青森県六ヶ所村の施設は2012年の完成が延期)、MOX燃料工場(2015年度までに作る予定)がないなど、核燃料サイクル(別名は軽水炉サイクル)は未完成なまま。
これら3社以外の電力会社のプルサーマル発電は遅れている。背景にはデータ(検査記録)改ざん、臨海事故など電力会社側がトラブルを繰り返し、国民の信頼を損ねたことが指摘されている。

プルサーマルはプルトニウムplutoniumと現在の原発である軽水炉thermal reactorとを組み合わせた和製英語とされている。

宏碁(エイサー)の躍進

2009-11-01 23:14:48 | Economics
 台湾のパソコンメーカー宏碁(エイサー グループCEOに王振堂)が7-9月期の世界パソコン出荷台数で米デルdellを抜いて世界2位に浮上した。トップは米HP20.2%。3位にデル12.7%。4位がレノボ8.9%。5位に東芝5.3%である(米IDC調べ 2009年10月14日)。
前年同期比ではエイサー2.6%増、HP1.3%増、レノボ1.2%増、東芝0.3%増、デルは1.3%減だった。
 不況で法人需要が低迷するなか、低価格ノートパソコン(画面サイズで10型以下。08年6月にHPが、続いて08年8月にエイサーが参入)が大きくシェアを伸ばした。同社はモバイルPCに資源を集中する戦略。販売はダイレクト販売(セイキュアなウェッブサイトの構築と運用が必要、配送システムの構築必要)を行わず、店頭売りに集中している。09年6月にはバッテリー駆動時間8時間を実現したAspire Timelineシリ-ズを市場投入した。
2009年10月30日のエイサーの発表では、7-9月期の連結売上高は前年同期比5.3%増。最終利益は14.0%増。2010年にノートパソコン市場で世界シェア1位になる目標を示した(従来は2011年までにノート型で世界1を目指すとしていた)。台湾には2位にアスース(華碩電脳)がいる。アスースは2007年にネットブックを初めて市場に投入したメーカー。2011年にノートパソコン市場で世界第3位になる目標を示した(日本国内ではアスースと日本エイサーの2者がほぼ市場を2分割している 2008年BCN調べ)。

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