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Entrance for Studies in Finance

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上場子会社の完全子会社化(親子上場解消)問題(2010)

2010-12-30 18:14:24 | Securities Markets
上場会社数の減少がとまらない
  2010年のIPOは22社にとどまる(過去最高の2000年の204社の10分の1 かつそのうち6社は大塚HD、第一生命保険など設立後の年数が多い大企業) 2009年の19社よりは増加するが 低調
  2010年1-6月 日本は12社 韓国取引所KRX新興市場コスダック30社 中国深圳証券取引所の創業板54社に比べ出遅れ
上場会社数  
2010年9月末       3649社 全国証券取引所(5証券取引所)
  2010年1-3月の非公開化は31社 うちMBOが7社 逆に同時期のIPOは7社 (レコフ調べ)
  2009年末上場会社数 NASDAQ:2852, AIM:1293, KOSDAQ:1026, JASDAQ:889, MOTHERS:185      
2009年度末の上場企業数 3704社 前年度比114社減 3年連続の減少 新規上場は19社
  2009年度のIPOは19社 完全子会社化に伴う上場廃止を発表したもの53件 前年度比で約2倍 過去10年で最多
  過去最多は2007年度の47件 レコフ調べ
  2009年の上場廃止企業数は戦後最多の163社 もっとも多い理由は親会社による完全子会社化57社
  経営破たんで上場廃止になったのは23社 帝国データバンク調べ
2007年9月末       3927社 年2回集計の場合の過去ピーク 
2007年6月末      過去ピーク 
2006年度末の上場企業数 3926社 年度集計の過去ピーク 
上場会社数の減少の要因 
親会社による上場子会社の完全子会社化 
 MBOの活発化で退出増加
 新規株式公開(IPO)の低迷         
 株価が割安であること 日本経済の構造的停滞も反映

●上場子会社の完全子会社化問題
          2006年には400社を超えていたが2009年12月末には360社超 その後も減少
上場子会社への批判 親会社への利益の流出
          配当の形で親会社以外に利益が流出することは資本効率が悪い 
          親子間の不適切取引 子会社との利益相反起こりやすい
          親会社向けの売上が高い場合は本体に取り込む方が意思決定早い
          子会社の少数株主の保護
          高く重複する上場維持コスト(上場賦課金 4半期報告書の作成 今後は独立役員の設置義務など 海外での投資家説明会等を合わせ年1億円以上かかるとも 年間数1千万はかかる)
          親会社によるガバナンスの不徹底
          グループ経営の求心力を高める(連結経営を重視)グループ経営の効率化 → 完全子会社化  
なぜ上場するか   投資の出口(エグジットexit) → スピンオフ(シナジーがない場合は完全な独立を許す)
          株式売却益の獲得 → カーブアウト 
          資金調達 人材獲得でメリット(子会社知名度向上)
          子会社の士気
          株価による業績評価
          株価による規律

●非公開化(delisting)のメリット
          短期の利益を求める投資家から解放される
          経営者が長期の視点で資本政策や事業戦略を見直せる

private equity firm 完全子会社化 カーブアウト スピンオフなどに言及している

2010年の大型上場として第一生命と大塚HDがあった。しかし年末の株価はいずれの銘柄も、売出価格、公募価格を割っている

 いずれも歴史が古く大きな会社の新規上場(こうした古い企業ではなく設立年数の新しい企業のための新興市場改革が行われたが、結果として設立後の年数が多い企業が公開する場所に証券市場は戻ってしまった)。新興市場を経ないもの。2010年の新規上場は22社(見込 社数が前年比で増えたのは4年ぶり 2007 2008 2009と毎年上場社数は減り続けていた)。新規上場による資金調達額は1兆2800億円(見込 1兆円を超えるのは2006年以来)。しかし調達額の92%が以下の2社によるもの。
中国市場での新規上場による資金調達が前年比2.5倍の5000億元(6兆5000億円)とされるのとは大きな差がついている。

 まず第一生命保険は上場は4月1日(木)。相互会社から株式会社への転換のモデルケース。株券は契約者中心に割り振られ150万を超す株主が誕生したとのこと。国内主幹事を野村、みずほ、メリルリンチ日本の3社が共同で勤めた。
 売出価格を14万円として1000万株を発行。初値は16万円(時価総額1兆6000億円)。4月2日には16万8800円の高値を記録し、最初の関門は通過した。しかしこれをピークに株価は下落した。もともと安定株主ではなかった、大量に生まれた株主が売りに転じたともみえる。8月26日には9万8800円の安値を記録した。その後、株価は低迷を続けたが、11月頃から値を戻し始め12月29日の終値はなお14万には届かないものの133,400円まで回復している(売出価格に対して-4.7%)。12月30日の終値は131,900円、前日比1500円安、売出価格に対して-5.8%となった。
 この上場の仕組みは、1兆6000億円の基金を700万を超える契約者に株式の形で割り振るというもの。そして現金での割当になるもの(株式)について、売り出すという手法をとったので、資金調達額が大きい割に、市場に与える影響は限定的だったと考えられる。
 第一生命 株式会社化の仕組み nikkei4946より

 大塚HD(2008年設立の純粋持ち株会社)の上場は12月15日(水)。こちらは上場に当たり8000万株を公募増資(国内2330万株 海外5670万株)。公募価格は2100円で、発行費用を除く調達額は約1600億円とされる。初日の初値は2170円、終値は2140円(時価総額1兆1937億円)で、初日に公募価格を上回る課題をクリアした。上場時発行済み株式数は5億5783万株。主幹事 野村証券。
 その後 株価は12月20日にかけて2000円割れを喫することもあった。そこから戻したものの、12月29日の終値はこれも公募価格には届かない2065円であった(公募価格に対して-1.7%)。12月30日の終値は2000円で前日比65円安、公募価格に対して-4.8%となった。

 大塚HDの上場は2007年のソニーフィナンシャルHD以来の大型上場として注目されるものだった。
 大塚HD傘下には、強いブランドをもつ企業が多い。大塚製薬(統合失調症薬エビリファイ ポカリスエット)、大塚製薬工場(輸液 オロナミンH軟膏)、大鵬薬品工業(抗がん剤ティーエスワン、チオビタ)、ニチバン(セロテープ)、大塚化学(オロナミンC)、大塚食品(ボンカレー)、アース製薬(ゴキブリホイホイ)など。

 なお12月10日(金)に、注目度の高かったポーラ・オルビスHDの上場も実施されている。主幹事はこれも野村証券。資生堂、花王、コーセーに次ぐ国内第4位の化粧品メーカー。化粧品の訪問販売では最大手とされる。上場に伴う資金調達額は67億円あまり。ところが売出価格1800円に対して、初値1693円、終値1779円で初日から売出価格割れした。この結果には、失望の声が流れた。株価はその後 16日には一時1700円割れ、21日に1800円に迫ったあと再び下落。12月29日の終値は1688円となっている(売出価格に対して-6.2%)。12月30日の終値は1683円で前日比5円安 売出価格に対して-6.5%となった。

 originally appeared in December 30, 2010

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中国人民銀行が本年2度目の利上げを発表(2010年)

2010-12-29 17:29:19 | Area Studies
中国人民銀行は2010年10月19日 利上げを発表し、公式に金融政策を転換した
Hiroshi Fukumitsu
 
 中国人民銀行は金融緩和政策を転換。2010年10月20日、利上げを実施した(決定発表は10月19日 貸出と預金の基準金利を0.25% 利上げは2年10ケ月ぶり)。その後、市場の関心は中国人民銀行が、いつ2度目の利上げを行うかに集まった。

2010年12月25日、中国人民銀行は本年2度目の利上げを発表した
 2010年12月25日(土)、中国人民銀行は2010年になって2回目、2ケ月ぶりの利上げを発表した(貸出と預金の基準金利を0.25% 26日から実施)。12月27日(月)の上海総合指数は午後に入って急落。終値は2781.402と2ケ月半ぶりに2800を下回った(先週末比1.9%安)。元相場は(利上げをすでに織り込んでいるとして)先週末比0.06%安(小幅安)の1ドル6.6308元で引けた(元相場は11月11日に2005年7月以降の最高値の6.6257元を付けている 2011年1月の胡錦濤国家主席の訪米を控え中国が元高を許容するとの観測がある)。
 背景には海外からの資金流入の加速でインフレ(11月の消費者物価上昇率は前年同月比5.1%上昇 2年4ケ月ぶりに5%台の高い伸び なお庶民の間では物価上昇の実感はこれを上回っているとの指摘がある)や不動産バブル(主要70都市の不動産価格は11月まで3ケ月連続で前月比上昇)の懸念が高まっていることがある。12月12日に閉幕した中央経済工作会議(党と政府によるもの)で金融政策の基本方針を「適度に緩和的」から「中立に近い穏健」に転換することが決まり、市場では早期に利上げが行われるとの観測が高まっていた(2011年7月に中国共産党は結党70周年を控え、中国は社会の安定を強く必要としている)。

2008年秋以降の金融緩和政策が転換された
 中国人民銀行は2008年秋以降、金融緩和政策を続けてきた。たとえば通常は金融引き締めに使う窓口指導を2008年秋以降、融資残高の目標を決めてうながすなど積極的な金融緩和で景気回復を演出した。また人民銀行は、2008年人民元の相場固定以降の相場維持のための市場介入を行うことで市場への資金供給を続けてきた。中国人民銀行はこの両面から市場に資金に供給してきた。
 こうした金融緩和政策は景気回復に役立った半面、株式不動産バブルなど副作用も顕著になっている。そこで2009年秋以降、中央銀行手形による資金吸収、窓口指導を通じた選別のほか。2010年に入ってからは、預金準備率の引き上げなど、人民銀行はすでに過剰流動性の吸収に乗り出していたとみられる。
 しかしこれが金利の引き上げまでゆくと、景気の中折れの懸念があった。そうでなくても今回の景気回復は、富裕層を中心とする高額消費の伸びであって、一般大衆の消費は落ち込んだままとされる。すなわち一般大衆の賃金が十分上がらないなかで、食料品などが値上がり。一般大衆は消費を抑制していると指摘される。だとすると一般大衆の賃金があがるところまで景気回復を持続させないと、つまり早い段階で景気が後退すると格差の拡大が広がる恐れが高かった。

利上げへの決定と実施(2010年10月19日決定 10月20日から実施) インフレ抑制に強い姿勢
 2010年10月の利上げ決定は、こうした懸念よりも、インフレ抑制が急務になったことを示している。背景にはCPIの年間の抑制目標値3%を7月8月と連続で超えたことと不動産価格上昇のきざしがあった。預金準備率引き上げに加え、政策金利の引き上げ(0.25% 従来は0.27%刻みだがこれを国際標準にしたとのこと)に踏み切り、不動産市場などでのバブルを抑え込もうとしたものである。
 2010年10月19日(火) 中国人民銀行は2007年12月以来、2年10ケ月ぶりの利上げを決定した(期間1年の基準金利 貸出が5.56% 預金が2.50%)。このタイミングは10月18日(月)に習近平国家副主席を次の最高指導者にする共産党人事が固まったこと(第17期中央委員会第5回全体会議 5中全会)を受けたものと考えられる。胡錦濤政権は「調和社会の実現」という課題を習政権に託することになった。

 2010年6月の元相場弾力化発表以降、ゆるかやな元高を容認して、輸入物価を通じてインフレの抑制を図っていた。中国共産党は10月27日に発表した第12次5ケ年計画(2011-15年)のなかで、成長と見合った家計の収入の増加、環境対策の推進などを打ち出した。中国は新しい経済成長モデルを提供しているとの評価があるが、民主化の停滞を中国の経済成長のリスクとしてとらえる見方も根強い。こうした中で、インフレの抑制により民衆の不満を抑えることが、重要な政策課題になってきたと考えられる。(インフレが国民の不満につながる面と、賃金が上がりコストが上昇して企業活動に打撃を与える面の両面を見る必要がある また賃上げには内需を高める側面もある)
 なお北京コンセンサスというのは、一部の中国研究者が、中国の経済モデルに付けた名称である。

 ワシントンコンセンサス (他国に対して) 民主化を促す 緊縮財政 市場経済化 
 北京コンセンサス(ステファン・ハルパー)(他国に対して)内政不干渉 (自国における)民主化の抑制 高成長の実現 専制体制のままで資本主義の利益を実現
 エコノミスト2010年5月8日の翻訳

2010年3月 不動産バブル、物価上昇などの行き過ぎが表面化 経済政策についての合理性重視
 2010年3月10日不動産価格発表。住宅バブルやインフレの懸念。2010年2月の主要都市70都市の不動産販売価格は前年同月比10.7%上昇 9ケ月連続の伸び1月の9.5%を超える。ここに景気過熱を抑制する意味で金利の引き上げ論が出てきた。
 2010年3月11日消費者物価発表。消費者物価の上昇率(2010年2月)が前年同月比で2.7%上昇(今年の目標の3%に近い 2009年11月にプラスに転じ4ケ月連続の上昇 上昇率は2008年10月の4.0%以来 食品の値上がりの側面 これは一般大衆にとって負担が重い。2010年2月の消費者物価上昇率は1年物の定期預金金利現行2.25%を上回っている。つまり金利が低すぎるのではないか。
 金利引き上げを許容するもう一つの理由は、2009年の経済成長率が一応政府の目標を達成したことにある。2009年の実質成長率は目標8%に対して8.7%となった。2008年秋の金融危機にもかかわらず、景気回復背景には2008年11月発表の4兆元の景気刺激策にせよ、人民銀行の金融緩和政策も貢献して目標は達成された。そこで金融緩和がバブル発生などの問題にいたっているなら、今が政策修正のチャンスだといえる。
 2010年3月の全人代でも8%前後成長の目標化掲げる状況で金利引き上げは個人消費抑制につながる不安がある。消費よりも貯蓄に流れるとも。こうした不安はとくに政府側に強いようだ。。
 2009年11月末の融資残高は39兆5900億元に対し、2010年の人民元融資残高の増加額の目標は7兆5000億元(約97兆5000億円 09年実績の9兆5900億元よりは抑制 09年当初目標の5兆元よりは大きい)と置かれているが、人民銀行はもっと小さな値を主張して政府側に押し切られた。つまり景気の先行きへの懸念を中国政府は強く抱き、人民銀行はそれに譲歩してきたといえる。
 それだけに2010年10月以降の金利引き上げは、人民銀行側の懸念が、政権内部でも共有されるようになったことを反映しており、中国の経済政策が、官僚により一定の節度をもって展開されていることを示唆している。 

利上げ転換前後の預金準備率引き上げ(10月 11月に2回 12月)
 2010年に入り人民銀行は余剰資金吸収のため預金準備率の引き上げを2回引き上げている(2010年1月12日0.5%引き上げ 大手金融機関で16%に:大手銀行に限定した引き上げとのこと。引き上げは2008年6月以来1年7ケ月ぶり。実施は1月18日から。続き2月12日にも0.5%引き上げ大手金融機関で16.5%になる)。 
 2010年10月12日 さらに一部の大手行を対象に預金準備率引き上げ(0.5% 10月11日発表)。その後、10月20日の利上げを経て、11月10日発表(16日実施0.5%:投機資金流入に対応)、11月19日発表(29日実施0.5%:今年2回目)、12月10日発表(20日から0.5%)にも預金準備率を引き上げた。背景には住宅価格の上昇、消費者物価の上昇率などが顕著であることがある(2010年10月は前年同月比4.4%上昇:2年1ケ月ぶり、2010年11月は前年同月比5.1%上昇:2年4ケ月ぶり 7月から5ケ月連続で政府目標の3%を上回る)。これを受けて銀行間金利(上海銀行間取引金利の上昇がみられた)。
 2010年12月3日の政治局会議で金融政策の方針を「適度に緩和的」から「穏健」に変更(その後、この方針は12月12日二閉幕した中央経済工作会議でも確認された)。また中国人民銀行では窓口指導での選別の指導も行った。こうした流れのうえで10月20日そして12月27日と2度にわたる金利引き上げが実施された。
 
 さらに中央銀行手形を発行して余剰資金吸収に努めている(市場オペ)。3月18日には1300億元(約1兆7000億円)発行。これは1日の発行としては過去最大。この手形には金利がつきこの金利の操作(変更)も一つのサインとみられる。
 3ケ月物。2010年1月に引き上げ。約1.34%→約1.37%

住宅ローンに対する規制(2010年4月と9月末)
 2010年4月半ば以降 個人が2軒目以降の住宅を購入する際の頭金比率を50%に引き上げ→投機目的の購入が一時期抑える効果があった(5月ー6月 伸び率4毛月連続で抑えられる)。
 2010年9月29日 不動産取引規制(頭金の引き上げ 1軒目で頭金30%以上 3軒目購入以降の住宅ローン停止)。しかしこの規制は4月の規制を強化しただけであったため、評価されなかったとされている。

 同じような状況に人民元の問題もある。
 現在、人民元相場は事実上固定されている(2005年から2008年にかけて2割元高へ。その後は金融危機で企業の業績悪化し1ドル6.83元前後に固定している。)。これに対して貿易不均衡を理由に海外から引き上げ圧力高い。ところが、中国は米国債の最大の買い手。(元高にすればドル建て資産の目減りを招くという中国の懸念に米国は正面から答えることができない。)そして相場を維持するための介入により国内に生まれた過剰流動性が、不動産バブル、インフレの温床になっている。これを受けて中国国内にも早期切り上げ論。
中国国内でも人民元切り上げ論あり。ところが中国国内では商務省が輸出企業の利害を代表して切り上げに強力に抵抗。妥協できない状況にある。2010年4月現在1日あたり5%以内としている変動幅拡大で米国と妥協の図る可能性が議論されている。
 つまり金融緩和政策にしても、人民元の相場にしても、中国国内の議論も割れており、人民銀行の選択肢の幅は極めて狭いものだった。
 その後、中国政府は、2010年6月に人民元の弾力化、そして2010年10月に利上げへの転換に踏み切ることになる。

 originally appeared in April 12, 2010
corrected and reposted in October 31, 2010, December19, 2010 and December 29, 2010

(2010年6月19日)中国 人民銀行による人民元弾力化強化
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リレバンかトラバン クレディットスコア

2010-12-28 19:04:55 | Financial Management


 銀行業務には2つのタイプがあるという。リレーションシップ・バンキングとトランザクション・バンキングである。
 日本では、中小企業向け融資では財務情報など定量的情報があてにならないことから、定性的判断(経営者の人となり ビジネスセンスなど)が重視されることから、リレーションシップが大事だという言い方がある。これに対して、対中小企業に対してもトランザクションバンキングが可能だということが、大手行の中小企業向け融資で喧伝され、財務諸表を用いたスコアリングモデル化が可能であるかに議論された。
 2005年4月に東京で開業した新銀行東京は、このビジネスモデル(トランザクションバンキング)の応用であったが、スタート時点からうまくゆかなった。これを推進した東京都、側面で支援した行政、旗振りを演じた経済学者たちの責任は重い。

リレーションシップバンキング 長期継続的な取引に基づく定性情報を重視した融資手法
トランザクションバンキング 財務諸表等の定量情報に基づき一時点かつ個々の取引の採算性を重視した融資手法


 なおrelationship bankingは辞書の上では次のように書かれていて顧客との関係のなかで顧客のニーズを発見してそのニーズを満たすことで積極的マーケッティングを行うこととされている。cross-sell(抱き合わせ販売)という手法に近い。したがってアメリカ人との会話において、長期継続的な取引に基づく定性情報を重視した融資手法をrelationship bankingというときは、独特の言葉の定義をしていることを断った方がよいだろう。
relationship banking: concept in financial services marketing whereby an account officer or customer service representative tries to meet all of a customer's needs, or to the extent permitted by regulation. relationship banking is an attempt to advance the sales culture in bank marketign beyond order taking to a more pro-active form of direct selling. instead of selling financial services one at atime, an account officer attempts to gain an understanding of the consumer's needs and offer services that fulfill those needs. 以下略 from Dictionary of Banking Terms, 4th ed., Barron's:2000, pp.385-386
 青木武「中小も大手もこぞってリレーションシップバンキング」『金融財政事情』2010年12月20日, pp.36-37

Dictionary of Bankingにはtransaction bankingの項目はなかったがPalgraveのDictionary of Financeにはtransactional bankingの記述がある。業務を分割して一件ずつは量が大きいことで採算が取れるという説明になっている。議論としては、証券業者をみるときに、投資情報も提供するfull serivice brokerと売買仲介に業務を限定するdiscount brokerとを分けることがあるが、そこと対応しているようにも見える。

A model of Banking where a financial institution focuses primarily on providing clients with specific transactional services and support, often attempting to be the low-cost provider on a volume basis of checking, deposits, tradeexecution, and lending. Dictionary of Finance, Palgrave Macmillan: 2010, pp.518-519

relationship banking: a model of banking where a financial institution attempts to provide its clients with a full range of products and services and to engage in a continuous and detailed dialog about business requirements in order to create  a long-term business relationship. A client choosing a relationship bank may expect rapid response, competitive pricing, and assistance as required. ibid., p.431 
 
新銀行東京の経営再建問題
 新銀行東京への追加出資400億円をめぐって、08年新春の都議会では厳しい石原都知事批判が行われた。その後、追加出資は実現したものの同行の経営再建のめどはたっていない。
 同行開設(正確に言うなら「中小企業の能力を引き出す銀行の創設」)は石原都知事の2003年春の都知事選での選挙公約。それだけに石原都知事は自らの責任については口が堅い。
 2005年4月に開業。2007年9月期の貸出残高は2218億円(中小企業向けは1300億円ほど)。預金残高は4465億円。預金者は9万7000人。しかし同期の不良債権比率は10%を超えている(全国銀行の平均は2.5%)。2008年3月期の累積損失は1016億円(不良債権比率は12.7% 全国銀行の平均は2.4%)。08年9月期中間期には不良債権比率17.0%。
 08年4月に東京都から400億円の追加出資を受け、08年9月末の自己資本比率は48.5%に改善しているものの経営黒字化のめどはたたない。金利が高いとされる同行は新規融資・保証の積み上げが景気の悪化で困難である一方、金融庁の査定(08年4月末に通知、資料分析後、5月半ばから6月にかけ立ち入り検査実施 検査は継続しているとして結果は公表されていない)により資産査定を厳格化した結果、不良債権処理が増加する恐れが高いからである。09年3月期の赤字が当初見積もりの126億円より増え追加出資分の一部が棄損すると考えられる。
 東京都は減資をして累積損失を解消することを考え、清算や破たんを避けるには追加出資が必要だとした。しかし減資をすればこの銀行の資本金の85%にあたる東京都の出資金1000億円が棄損する。08年6月30日の株主総会で1016億円の累積損失分の減資が決まった。855億円の棄損が確定し資本金は400億円の追加出資を合わせて572億円に減少した。

この銀行の誤りはどこにあったのか。

時期 不良債権比率  
06/03末 0.94% 最終赤字209億円
06/09 2.24
07/03 6.42 累積損失849億円
07/09 10.17
08/03 12.7% 累積損失1016億円
08/09 17.0%



旧経営陣批判
石原都知事は旧経営陣批判をおこなっている。また旧経営陣トップの仁司泰正氏(04/06-07/06)については、トヨタ自動車出身で企業の経理財務に経験が深いものの、銀行での実務経験がなく、経営者トップの経験もなかったとして、そもそも銀行経営のトップにふさわしくなかったという批判もある。

金融庁の責任
新銀行東京は、小口融資について実地調査(自己査定)を行わなかったのは、金融庁が検査マニュアルで簡易審査を認めていたからであるとしている。2007年夏まで実調は、5000万円超の案件(200件で総件数の2%)だけだったと信じがたい話もでている。つまり抜き取り調査もしていないということだが。そこで疑問がでてくる。
 マニュアルは最低限守るべき準則であり、新銀行東京のずさんな債権管理は批判されるべきであるが、小口融資中心という同行の新たな経営モデルであったことを考えると、もっと慎重な進め方が望ましかった。業務モデルの内容をみて、あるいはこれまでの経緯の中で、金融庁は、この銀行を指導あるいは検査する機会はなかったのだろうか。
 金融庁自身のクレジットスコアリング(credit scoring)についての考え方に甘い点があり、金融庁はこうした行政を進めた責任を取るべきであろう。

クレジットスコアリングへの疑問
 クレジットスコアリングモデルを使った中小企業向け融資は、金額が小さな中小企業向け融資を簡易審査でローコストに行うところにメリットがあった。
 ところが中小企業から零細企業にさらに踏み込む中でいろいろな問題が生じた。まず零細企業の財務諸表データがそもそも信頼性が低いという問題がある。データそのものが自主申告であるため虚偽記載を排除できないとされている。それを丁寧に審査するとコストがかかってしまう。またその後の債権管理に手間をかけるのも、ローコストと矛盾する。
 零細企業の財務データは毎年のブレが大きいという特性がある。過去データを中小企業と同様に扱うことに無理があるとされる。つまりクレジットスコアリングはそのデータが比較的信頼のおける、中堅・中小企業を対象としたときに成り立つ話。零細企業や新興企業にまで拡大してはそもそもいけないのであるが、どうもその歯止めを金融庁自身もかけていなかった疑いがある。
 スコアリングモデルについては、その時間的概念は1年が基本になっており、3-5年先といった長期の案件に対して、スコアリングモデルからの出力結果で与信調査を行うことは、モデル構築の前提と整合的でないとされる。また業種によってデフォルト判別力に差があるので、当たりの悪いモデルからの出力値は、保守的に扱うべきだとされる(八ツ井博樹「スコアリングモデルはなぜ当たらなくなったのか」『金融財政事情』2009年3月9日号, pp.25-26)。

東京都による計画批判
これに対して、旧経営陣は東京都が描いた計画に沿った経営を迫られたので、直接の責任は東京都、あるいはそれを推進した石原都知事にあるとの批判がある。とくに問題にされているのは開業3年で融資残高を6000億円にするという当初計画で、この計画が甘い融資審査、過剰融資の引き金になったという指摘である。

ビジネスモデルの失敗
 新銀行東京は銀行から融資を断られている「優良な」中小企業事業者に無担保・無保証で、かつ簡易な審査で貸け付けることを打ち出した。背景には金融機関による貸し渋り問題があった。
 これに対して新銀行では、財務指標で信用リスクを判定するスコアリングモデルを使い、融資判断を即決するとした。その代わり金利は7-8%とかなり高め。そして上限金額を5000万円と低く抑えた。
 ところがようやく2005年4月に新銀行東京が開業したときには、大手銀行は不良債権処理を終え体力も回復、競って中小企業向けの無担保無保証ローン(クイックローン)を開始していた。しかもそこでもリスク管理に使われたのはクレジットスコアリングモデルだった(なお金融庁は2003年3月に発表した「リレーションシップバンキングの機能強化に向けたアクションプログラム」において、スコアリングモデルの活用を促した。その結果、金融機関は、リレバンへの取り組み姿勢を金融庁に対して示すためにスコアリングモデルを採用することになった)。
 金利をリスクに応じて変化させ、金利や融資条件なども月単位で見直すなどリスク管理を徹底など、過去のノウハウが反映されてはいた。ところでクレジットスコアリングが使える前提は一定期間、財務諸表の信頼のできる数値が把握できるということ。ところが財務の数値が信頼できる優良な中小企業は、大手銀行からも借り入れが可能なように社会環境が変化していた。
 つまりノウハウの違いはあるがクレジットスコアリングでは差別性は出ず、大手行や中小企業専門金融機関に行けない層が、詰めて言えばスコアリングモデルで貸すにはリスキーな層が新銀行東京の貸出相手になった。

 それを安易に受け入れたのは、金融機関としてはモラルハザード(道徳の無さ)を示すもの。リスク管理の甘さを示す。不良債権が増え始めた段階でビジネスモデルを修正する機敏さが、経営者になかったことは批判されるべき。しかしクレジットスコアリングに対する金融庁自身の研究の不足も、こうした甘いビジネスモデルの放置につながった。
 経営トップがメーカーの営業の感覚で融資営業を取り組ませたこと、一般の金融機関が相手にしない企業を受け入れるということがこの銀行の売り文句だったこと、6000億円という融資目標なども現場の甘さにつながった。受け入れたリスクの違いが決定的だった。それは新銀行東京のビジネスモデルが破綻していることを意味した。
 2008年1月末までの無担保・無保証融資の実行額は1350億円。しかしそのうち210億円(15.6%)はすでに焦げ付き、4年後には450億円(33.3%)が回収不能になる見通しとされる。
 もともと首都圏は、金融機関が軒を並べるオーバーバンキング状態。加えて金融機関の姿勢の変化もあり、新銀行東京が開業したとき、相手にしたかった優良な中小企業の多くは既存の金融機関が抑えてしまっていた。
 そのことは、新銀行東京の金利からも伺える。貸出相手をかなりハイリスクな層に最初からせざるをえなかった。にもかかわらず、優良な中小企業に対するのと同じ簡易審査で貸し出してしまった。その結果、新銀行東京はハイリスクな創業期金融や、新規事業金融。あるいは破綻寸前の企業の金融、つまりスコアリングモデルに本来乗らないような金融に勢いすすむことになり、不良債権を積み重ねることになった。

2005年版中小企業白書での整理
 クレジットスコアリング型融資については、2005年(平成17年)の中小企業白書での問題整理が一般に使われている。これによると銀行融資の手法は、長期継続的取引に基づく定性情報をベースにしたリレーションシップバンキングと財務情報など定量情報をベースにして個々の取引の採算性を重視するトランザクションバンキングに大別される。
 後者の形態として、クレジットスコアリング型融資(クイックローン)とアセットベーストレンディング(ABL 不動産担保融資以外の資産担保融資)とを挙げている。つまりクレジットスコアリング型融資は、トランザクショバンキングの一つの形態であると整理されている。
 この2005年版白書の記述からは、2005年において、クレジットスコアリングを使う中小企業向け融資は、すでに珍しいものではなかったことがわかる。つまり2005年にクレジットスコアリングを言うだけでは、もはや新銀行東京はビジネスモデルの新奇性を打ち出せず、それだけでは既存銀行と競合し、優良な顧客を確保できなかったのである。
 なお白書の注記から読み取れるように、財務諸表中心の日本型クレジットスコアリングではなく、経営者本人の資産とか、経営者の個人情報を重視するアメリカ型のクレジットスコアリングを日本でも試してみるという余地はあるのだろう。

東京都民銀行と三井住友銀行がすでに展開していた中小企業向け無担保融資
 2005年で立ち止まることができたということを述べたがそもそも2003年の知事選の公約に掲げた時点で、新銀行東京のコンセプトが時代遅れであることは金融業界関係者の間では周知のことだった。つまり石原都知事のブレーンに、銀行実務に明るい人がいなかったことがこのような施策の強行につながったのではないか。
 クレジットスコアリング型融資の日本で最初の商品とされているのは、東京都民銀行が1998年11月から展開しているスモールビジネスローン(SBL)という商品(なお現在では東京都民銀行のSBLの商品メニューはさらに充実している)。
 SBLの当初コンセプトは、営業開始から2年以上経過、従業員30人以下の中小・零細事業主を対象。融資限度額500万以下。決算1期分で翌日回答。無担保。というもの。
 スコアリングモデルによる融資判断の迅速化、無担保。小口分散融資によるリスク管理といった要素はこの段階で成立している。
 また大手行による最初の商品とされているのは三井住友銀行が2002年3月から展開しているビジネスセレクトローン(BSL)という商品。
 年商10億円以下の顧客を対象に、無担保(期間3年以下)、第三者保証不要で、融資限度額5000万以下。というもの。
 ここでもスコアリングモデルを使った融資判断の迅速化、無担保。小口分散融資によるリスク管理は同様に共通している。
 こうした流れをみると、このBSLの登場からさらに3年以上経過後にスコアリングモデルを売りにした新銀行東京を立ち上げる経営センスは、まったく理解できないところである。

石原都知事と都幹部の責任
 実はこのこと=新銀行東京のビジネスモデルがすでに時代遅れであることは、新銀行東京開業の時点で、冷静に分析すればある程度予測できた。しかしその分析もせず開業に進んでしまったことは、行政上のミスだったといえる。準備に時間がかかるこのような事業では、計画の継続について見直しを含んでおく慎重さが必要なのではないか。ではなぜ事業が強行されたのか。これには2年前の選挙公約の実現を機械的に墨守した判断ミスがある。
新銀行東京は2005年4月開業。同じ2005年4月に首都大学東京も開学している。いずれも2003年春の知事選での石原都知事の選挙公約。様々な新たな試みを公約から2年後に形にするスピード感、実行力そのものは素晴らしいが、政治的スケジュールが優先されて、2年後の環境変化に合わせた計画の修正や見直し、現実との調整が不十分だったという批判は残る。
 首都大学東京についても、都立大学大学内部の自治が軽視されたこと、既存の学部組織が解体されたこと、教員の大量流出を招いたことなど、さまざまな問題を残した。ただ東京都のように国立・私立の大学数が多いところで自治体が大学を経営する意味は正直にいえば、そもそも理解できないところではある。
 なお新銀行東京をめぐっては、監督役の社外取締役を中心に構成された取締役会がきちんと機能していたかどうかについて、機能していなかったという批判がある。もしも取締役会が機能していなかったのなら、これらの役員の監督責任も追及されるべきであろう。

明るみにでた不正融資と金融庁の責任
2008年10月27日。警視庁捜査二課は、決算書を改ざんするなどして不正に融資を新銀行東京からだまし取ったとして、同行元行員など7人を逮捕した。融資を受けた業者との間には、暴力団関係者がブローカーとして入っていた。元行員はずさんな同行融資調査の仕組みを悪用した。借入金の一部をリベートバックさせたほか、6け月焦げ付きがなければ成果手当てが出ることも悪用。最初から9け月は支払うよう指示してこの成果手当も得ていた。
 新銀行東京では効率を重視した分業の結果、窓口は契約社員、回収は本部という中で、書類だけの審査が横行。実地調査、経営者との面談など、通常は金融機関が重視するダブルチェックのプロセスが十分機能しなかったため、不良債権がたちまち発生したとされる。逮捕された元行員は、大手銀行の勤務歴がある女性で56歳で06年1月に契約社員として入行。07年3月に退社。この間に23億円あまりの融資を担当した。
 背景には金融庁が金融機関に対して採用を求め推進したスコアリングモデルによる融資と、半年で10億円という融資ノルマ(達成すると特別手当)がある。今回のように書類の偽造が行われるとこのような紙の上のモデルは機能しない。06年には不良債権の累積から実地調査も重視されるようになったとされるが、元行員は自ら虚偽の実地調査報告書を作成して審査を乗り切った。
 しかしそもそもスコアリングのほかに帳簿を精査し、実地調査や面談などを重ねて慎重に融資するのでは、実はこれまでの中小企業融資と大きな差はない。とすれば、一連の問題の責任はスコアリングモデルによる融資を推進した金融庁にある。
無担保ローンをどう見るか
中小企業向け融資で担保や保証を取ることがまるで正当な行為ではなく、無担保ローンが正しいかに議論されたことがあるが、これはかなり乱暴な議論だ。業績が安定しない中小企業の場合、財務諸表分析だけで融資判断をするのは、金融機関にとってリスクが高すぎる。担保や保証を毛嫌いする議論の方が異常だ。なお消費者金融業の無担保融資が個人・中小零細企業の資金繰りに役に立っているとの議論がある(10年6月までに年収の3分の1を超える貸付を禁止する総量規制が実施される)

 04年03月 三菱東京FG(現三菱UFJFG)アコムと資本・業務提携
 04年06月 三井住友FG プロミスと資本・業務提携
 06年01月 最高裁が灰色金利(出資法29.2%-利息制限法15-20%)の受取をきびしく制限
 06年05月 アイフルに業務停止命令
 06年12月 貸金業法(上限金利20% 借り手の年収の3分の1を超える融資を禁止する) 出資法など改正 
 07年03月 オリコ(信販大手) 貸金業法改正で巨額引き当て 債務超過をみずほ 伊藤忠 などの増資2900億円引き受けで回避
 07年03月 プロミスの巨額損失が三井住友FGの損益に大きな影響
 07年09月 クレディア(東証一部) 民事再生法申請
08年09月 三菱UFJ アコムをTOBで連結子会社化
 09年02月 SFCG(商工ローン大手)  経営破たん
 09年09月 アイフル 銀行団に返済猶予要請方針発表
 09年10月 アイフル 債権者集会で銀行団に2011-06-09までの債務の返済猶予要請 金利の支払いは継続
 09年10月 プロミス 創業家は社長から代表権なき会長に 社長には三井住友銀行出身者が昇格決まる。

参考
財務管理論講義目次
小野有人『新時代の中小企業金融』東洋経済, 2007年
金融審議会金融分科会第二部会答申 リレーションシップバンキングの機能強化について 2003年3月27日
金融庁 リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム 2003年3月28日
 


日産リーフの発売開始(2010年12月3日)

2010-12-25 10:17:32 | Economics
日産リーフの国内発売開始(2010年12月3日) 
 2010年4月末 日米で予約注文受付開始。2010年6月7日に国内予約件数の6000台達成を発表。2010年11月半ばには受注が日米で2万台超える。
 2010年12月3日 5人のり電気自動車「リーフ」を12月20日から発売するとした。神奈川県追浜工場で生産。予約注文を受けている個人・法人に出荷を始めるとした。2010年度の発売予定は6000台。EV(電気自動車)専用車であることに特徴。NECグループと共同生産(神奈川県座間市にあるオートモーティブエナジーサプライで生産)するリチウム電池を搭載。1回の充電で200キロメートル走行可能(走行可能距離はガソリン車の3分の1程度)。価格は376万4250円から(国から最大78万円の補助。購入者の実質負担は298万4250円から)。充電状態の確認はスマートフォンで。また航続可能距離は社内モニターで確認できる。日産のデータセンターに走行記録等は送信される。日産で電池の劣化状況を把握できるなど、今日のIT技術が活用されているとのこと。 
 米国でも2010年12月中に。欧州では2011年1月に順次発売。日産はHV(ハイブリッド車)でトヨタ、ホンダに遅れたことからEVで巻き返す戦略。フランスルノーとともに総額5000億円のEV開発投資。世界の大手自動車メーカーの中でEV生産・販売で明らかに先行しており、その戦略が注目される。

充電器設置に残る課題
 しかしEVを活用するためには、家庭では専用線をひき充電用の200ボルトの電源を駐車場にとりつける必要(標準的工事費は10万円程度)。日産では全国に2200店ある販売店に普通充電器を設置。200店には急速充電器を設置。政府でも2020年度までに全国に5000基の急速充電器設置計画(普通充電器は2万基から200万基に増やす計画 位置上場を自動車に配信する計画も進む)あり(ガソリンスタンド全国4万とは格差)。レッカー車サービス(月額1500円)あり。

先行する三菱自動車
 国内で電気自動車ですでに販売実績があるメーカーとして三菱自動車と富士重工業がある。三菱自動車では2009年にアイ・ミーブの量産を開始(2009年7月法人向けにEV発売開始 2010年4月には個人向EV販売開始)している。
 富士重工業でも2009年7月に法人向けEV発売開始している。
 三菱自動車は電池についてはGSユアサ(社長は依田誠氏)と共同生産してきた。2010年夏に東芝が三菱への電池供給に加わることが明らかになった。現在の実質価格284万を200万前後にする(2012年には200万を切ることを目標にしている)
 リチウム電池の生産はこれまでは民生の電子機器向け。ハイブリッド車やEV車が普及するには、リチウム電池の供給力が不足しているという。EV車の価格の半分を占める電池のコストの引き下げにも課題がある。
 トヨタのプリウスが納車が遅れる事態を招いたのは、電池の生産能力の問題とされる。それほど電池生産がネックになっている。トヨタが電池生産で組んでいるのはパナソニック(静岡県湖西市に続き2010年1月に宮城県大和町に電池工場を稼働させた パナソニックEVエナジー:PEVE、パナソニックによる三洋電機子会社との絡みでパナソニックはPEVEへの出資比率引き下げを中国当局から求められ、PEVEの増資をトヨタが引き受けることで60%→80.5%この要請をクリアすることになった:2010年3月末)。
 三菱と商用車タイプEVの開発で合意しているのはフランスのPSA(プジョーシトロエンG)。2010年10月にはプジョー、シトロエン、それぞれのブランドで発売を開始した。
 
2010年にはEVで動かなかったトヨタ
 これに対して最大手のトヨタ(豊田章男社長 2009年に社長に就任)はEVになお懐疑的ともHVでの優位を生かす戦略とも伝えられ2010年にはEV発売などの動きは示さなかった。2009年5月 新型プリウス発売したがその国内販売は順調だった(エコカー減税・補助金の効果ともされる。乗用車で最大25万円受け取れたエコカー補助金は2010年9月に打ち切られた。自動車メーカー各社はこの打ち切りで大きな打撃を受けた。自動車取得税の減税は2012年3月末まで、また自動車重量税の減税は同年4月末まで継続)。 2010年の国内自動車販売をみると、トヨタのEV車プリウスとホンダの小型車フィットとで国内販売では首位争いを続けた。その後にダイハツのタント、スズキはワゴンRが続く。
 トヨタとホンダはEV発売は2012年としている。トヨタはプリウスをベースにしたハイブリッド車を2012に発売(プラグインタイプ 市販価格の目標は300万以下)、ホンダ(HVでインサイト 既存車のHV化を進める)も2012年に小型車とプラグインハイブリッド車を日米で発売するとしている。
トヨタは 1997年 ハイブリッド車HV プリウスを発売 世界累計で250万台を販売。ところが大量リコール問題(2009年から2010年にかけて内外で連続して生じた。2009年11月に大規模なリコールがあったほか、2010年2月9日にはプリウス等ハイブリッド車についてリコール発表 急加速とアクセルペダルの問題:北米トヨタの対応とくにプレスリリースは、米世論を十分に計算していない甘さがあった。また米運輸省と意思疎通を欠いておりトヨタのブランドイメージを毀損させた。米運輸省は2010年4月、トヨタが意図的に高速道路交通安全局NHTSAへの欠陥の通知を怠っていたとして制裁金を科す方針を示した。カローラのエンスト問題、レクサスGXの横転の危険性、レクサスの走行中のエンジン停止問題、ハンドル不制御問題など続々出てきた:このように問題が続く理由は開示姿勢を強めた結果であろうが、いつまでもリコールが続くようだと、開示姿勢ヲ評価する声だけでなく欠陥車を市場に出し続けるトヨタ之姿勢が問われるのではないか。トヨタ車の信頼は低下する一方ではないか。その後、電子制御にかかわる急加速問題については2010年8月米運輸省の中間報告により車両の欠陥でなく運転ミス説が強くなった)。リコール問題でブランドイメージを大きく損なったトヨタは、値引きやゼロ金利などの販促で消費を維持しようとしたが、同様の販促をかけるGM、フォードなどに押される結果となった。
 またNUMMIの閉鎖(2009年4月生産終了)でもUAWなどの反発を買い、トヨタのイメージは傷ついた(これは2009年6月に法的整理に追い込まれたGMが撤退を表明したあと、トヨタに期待が集まったため。2010年3月にトヨタは従業員に対し2億8000万ドルの財政支援金支払いで合意し、閉鎖委承認をとりつけた。2010年11月末にはトヨタが旧GMに対し損害賠償請求を連邦破産裁判所に申し建てていたことが分かった。内容は違約金7380万ドル)。日本のトヨタとして別の対応はなかったのか、疑問は残る。
 リコールとNUMMIの対応でトヨタと日本企業のブランドイメージは傷付いた。

トヨタ マツダにハイブリッド装置供給で合意(2010年2月29日発表)
 フォード傘下にあったマツダは、2009年春にハイブリッド装置(大容量電池 走行用モーター 発電専用モーター 制御ユニットなど)の供給をトヨタに要請した。自社開発を目指していたものの(2015年に市場参入をめざしていた)、市場への参入を急ぐため基幹装置の供給を依頼したもの。トヨタとしても生産規模を拡大してコスト削減につなげるメリットがあるが、本格的な供給はこれが最初。これによりマツダは2013年にも国内HV市場参入(北米では2012年参入目指す)をめざす。

トヨタ テスラとの提携を示す(2010年5月20日)
 2010年5月20日になって、トヨタはEV車の開発販売をするアメリカのVBであるテスラモーターズとの資本業務提携を発表している。
 テスラモーターズは2003年設立 2008年に2人のりロードスター発売 専用電池でなく汎用電池を使用する特徴 欧米で1000台以上の実績 2010年6月ナスダック上場 2011年にモデルXのコセプトモデル発表予定 2012年に量産型セダン、モデルSの発売を予定。このテスラトトヨタはと資本業務提携を5月20日発表した。
 トヨタが5000万ドルを出資。共同開発したEVをNUMMI(トヨタ、GMの合弁事業として1984年生産開始 トヨタ GM双方にとって相手の生産方式を学ぶ意義があった)の跡地で生産するとした。現地に主導権を譲り、本社技術陣は関与しないという。新車の研究開発を本社主導で進めてきたトヨタの伝統的体制を崩すモデルケースとされる。トヨタの同様の現地化の試みは、インドや中国でも始まっている(インドでは現地生産比率を上げることで低価格化が実現できる)。また海外拠点で現地法人への権限委譲、現地の人材の要職への登用を加速している。
 
GMがトヨタに先行するが
 トヨタがEVで動かないなか、GMが2010年12月にEV発売でトヨタに先行したことは、GMの復活を印象つけた。 
 GM(アカーソン最高経営責任者)は2010年11月30日デトロイトの向上でEV車シボレー・ボルト野発売記念式典を開いた。12月中にも顧客への引き渡しが始まるとのことなのでリーフとほぼ同スピード。
 生産コストの高さが課題とされ1台4万1000ドルとのこと(生産コスト=販売価格で儲けはないとも)。初年度300-500台の販売とされ、販売を急いだことが伺える。2011年の販売計画は1万台。3年目に4万5000台。ドイツでオペルブランドのもと「アンペア」の車名で販売。なおボルトについては当面、日本での販売計画はない。


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debt financing + capital structure+covenants

2010-12-24 00:09:30 | Financial Management

debt financing そして capital structureに関する諸学説(+covenants

Hiroshi Fukumitsu

debt financingcovenants
債務の魅力という議論を紹介する。後述するようにレバレッジ効果のほか、節税効果、借入金額の柔軟性などの議論がある。これだけでは債務をできるだけ増やすという議論に陥る。しかし債務を増やすことは倒産リスクを高める。そもそも債務は返済が必要であり確定日付けで利息の支払いも必要となるからであり、債務額を増やすほどこのような確定債務が増加する。手法には
 短期貸付  手形割引(商業手形 単名手形) 証書貸付
 (元金の返済方法にはrepayment methods:分割払いin instalments 一括償還bullet payment) 理論上は元本を返済しない永久債perpetual(irredeemable) bondsもある。

 債務の増加の限界はどのように画されるのか。最適な債務比率は存在するのだろうか?

債務あるいは借入には、担保や(債務支払)保証、財務制限条項など債権者保護の仕組みの議論がある。
 担保collateral or security 不動産担保貸付(mortgages);(債務支払)保証
 財務制限条項covenants これらはいずれも債権者を保護する仕組み
 債務契約(借り入れ 社債発行)は担保や保証を要求することが一般的。
 さらにコブナンツが交わされることが増えている。これはコブナンツが、企業経営を監視して、債権者を保護する役割が認められてきたからである。しかし適切な監視の仕組みがなければならないし、企業側の行動がコブナンツによって制約を受けることも目立っている。債務契約や債券発行が担保をベースとせず、キャッシュフローベースで判断されるようになってきたことも背景である。

Covenantsとは以下のような財務上の約束を債権者に対してすることである。
 protective covenants (他の貸し手への資産などについての優先権の付与)
positive covenants 何かをする約束 (一定の財務比率の維持 物理的資産の維持保全 定期的な最新の財務情報の提供)
 negative covenants 行為の制限あるいは禁止  (重要な資産の売却 役員報酬の支払い 配当の支払い)
 D.R.Myddelton, Managing Business Finance, Pearson Education:2000, pp.104-108

コベナンツ(財務制限条項)について
 債務契約において債務者が守るべき約束の取り決め全体をindentureといい、その中の個々の項目をcovenantと呼んでいる。財務制限条項とか財務上の特約と呼ばれる。一般にこれらの条項では、その項目に違背する事態になると、期限前償還が債務者に義務つけられている。

なおコベナンツのうち、出資者の出資比率の変更を問題にする条項はCoC(change of control)条項という。
 コベナンツのうち一定の資産比率の維持を求めるものはリスク投資を制限する意味がある。資産内容の変更を制限するものも、リスクの増加を防ぐ意味がある。資産処分を制限するものは、資産の株主への移転や過小投資を防ぐ意味がある。借入を制限するものは、既存の債権者の権利の希薄化を防ぐ意味がある。
コベナンツの普及の背景として、対象事業のキャッシュフローベースが普及し与信管理が、重要になってきたことが指摘されている。つぎのようなコベナンツを定型的融資契約書に組み込むことが提案されている。(1)事業CFの入出金集中義務。(2)融資対象事業の継続義務。(3)融資対象事業に関する法令順守など。(4)事業計画・実績報告義務。(5)業績が順調でない場合の報告義務。(入道正久「コベナンツ類型化の有用性」『金融財政事情』2010年6月28日, pp.34-37)

財務上の特約covenantsについて

社債の世界では社債の無担保化が進んだ結果、償還のよりどころとして財務上の特約をつけることが広がった。また融資の世界では、キャッシュフロー・ファイナンスが普及し与信管理が、重要になってきたことが、財務上の特約の普及につながったと指摘されている。

 債権者と債務者の関係は代理関係に例えられます。そこで債権者は債務者を従わせるために、さまざまなテクニック(監視や契約など)を使います。このように代理関係があるゆえに発生するコストを代理コストagency costといいます。このagency問題を緩和する方策として(agency costを引き下げる方法として)債務契約にコベナンツ条項を織り込むことが増えてきたと解釈されている。この条項の付与は債権者の立場からするリスク管理の問題の一つとして理解できる。  
 コベナンツは次の二つの行為に別けられる。
1)positive or affirmative covenants ある資本構造あるいは収入の比率の維持など 何かをする約束(作為義務)
2)negative covenants ある資産を第三者への担保に入れる、新たなローンを取り組む、株の買戻しなどある資本取引(equity transactions)行為の制限あるいは禁止(不作為義務)
 改めて説明する。債務契約において債務者が守るべき約束の取り決め全体をindentureといい、その中の個々の項目をコベナンツcovenantと呼ぶ。日本語では財務制限条項とか財務上の特約と呼ばれます(1)。

1 コベナンツ条項について

センサー機能

純資産維持条項、利益維持条項、配当制限条項、自己資本比率維持条項、追加債務負担制限条項など

劣後性回避機能

担保提供制限条項(ネガティブ・プレッジ条項)、担保切替条項

その外の企業活動制限

セールアンドリースバック制限条項
、主要会社・子会社の処分を制限する条項、子会社株式譲渡制限条項、合併制限条項など

 徳島勝幸「現代社債投資の実務 新版」2004,pp.102-103,107.

 コベナンツのうち一定の資産比率の維持を求めるものはリスク投資を制限する意味があります。資産内容の変更を制限するものも、リスクの増加を防ぐ意味がある。資産処分を制限するものは、資産の株主への移転や過小投資を防ぐ意味がある。借入を制限するものは、既存の債権者の権利の希薄化を防ぐ意味があります。
なおコベナンツのうち、出資者の出資比率の変更を問題にする条項をとくにCoC(change of control)条項といいます。
 この条項に違背する事態になると、期限前償還義務など債権者の保護のための措置の実行を債務者は義務づけられています。一般にコベナンツに違反した場合の効果は、3層に分けられておりますが(2)、期限前償還は中でも最も厳しい「期限の利益の喪失」にあたります。

2 コベナンツ違反の効果

期限の利益の喪失

即時返済義務など

融資条件の変更

担保、金利条件の変更など

違反状態の治癒

一定期間内の違反状態是正など

階猛・渡邊雅之『銀行の法律知識 第2版』2009年, p.125

 このような財務上の特約の有効性の差にも関心がもたれています。岡東務氏によりますと、財務上の特約の有効性には差があります。日本で発行された無担保社債および無担保転換社債を検討したところでは、利益維持条項と純資産維持条項の有効性は明らかに高く(実際に抵触例があり物上担保付社債に変更されて社債権者を保護した)、配当維持条項も有効性が高かった場合があるとのことです(岡東務「債券格付けにおける財務上の特約について」『証券経済学会年報』35号, 2000年5月,pp.23-35, esp.29, 34.)。その遵守状況を把握するためのモニタリングコストがかかり、担保と違って倒産時に一般債権者に優先しえないという限界があるとのことです(階猛・渡邊雅之『銀行の法律知識 第2版』2009年, p.126)
 この問題は、金融機関の側からだけとらえると問題があります。借り手側の動機付けに工夫をこらすべきで「違反を直ちに期限の利益喪失とするのではなく、状況に応じて、違反事由の解消策や融資条件見直しの協議をするなど、弾力的対応が求められるよう。また、コベナンツを遵守すればより有利な条件の融資取引への移行が可能であること、借換えの審査手続がスムーズに進むことなどをメリットとして用意することで、借り手側の理解をえやすくすることも必要であろう」高橋秀樹『融資の常識50考2版』きんざい, 2011, p.91.といった、借り手側の立場に立った指摘も見られます。
コベナンツ・ファイナンスの普及を受けて、つぎのようなコベナンツを定型的融資契約書に組み込むことが提案されています。(1)事業CFの入出金集中義務。(2)融資対象事業の継続義務。(3)融資対象事業に関する法令順守など。(4)事業計画・実績報告義務。(5)業績が順調でない場合の報告義務。(入道正久「コベナンツ類型化の有用性」『金融財政事情』2010年6月28日, pp.34-37)
 コベナンツのことを入道さんは「キャッシュフローを担保する仕組み」と表現していますが、これはなかなか適切な表現かもしれません(入道正久「中堅・中小企業に安定的な長期資金調達の道を開く」『金融財政事情』2010年4月5日p.25)。

 なお財務上の特約は特約をつけられる側からみれば、財務上の制約です。条件を付けられる側は、もちろん契約書を吟味して抵抗することになります。

 シンジケートローンではコベナンツが必ず登場します。その理由としてシンジケートローンではローンの譲渡が前提になっているため、「銀行取引約定書」が交わされない。そこで約定書に定めてある期限の利益の喪失など、銀行が取り立てで有利に建てる条項を、コベナンツという形で銀行は確保しようとしていると説明されることがあります。

つぎに債務の効果あるいは長所を考える
 1)債務のレバレッジ効果 leverage effect
 ROE=(R/A)×(A/E)=ROA+ROA×(D/E)   なおA=E+D
      D/E debt to equity ratio  D:debt  E:equity
ROI>iであるかぎり債務D/Eが大きいほどROEが大きくなる=債務のレバレッジ効果
  債務の逆レバレッジ効果reverse leverage effect
 D/E の増加によりROEの振幅が大きくなり真逆の効果が生ずること。
しかし債務を増やすことで 倒産リスクが増加して債務コストが増加する
債券保有者は利払いと元金払いを受ける法律的な権限を得ている
  倒産リスクと事業リスクの増加により資本コストが増加する
2)節税効果tax benefits;tax relief;tax saving;tax shield effect
利払い額分だけ課税対象所得が減るので利払い額×税額だけ課税額減ること
この効果は税金が高い国ほど大きい
節税額を考慮した債務コスト i-i×t=i×(1-t)
                  =i(1-t)
節税額を考慮した加重平均コストの計算式
             WACC=i(1-t)(D/V)+r(E/V) 
 3)柔軟性flexibility
株式発行による自己資本調達に比べて柔軟性がある 当座貸越や融資枠契約などでは企業側の判断だけでの調達も可能。 
 4)債権者によるモニタリング(監視)による効率の改善
これは議論の余地があろうが、借入によってたとえば銀行によって監視されていることで、経営者の行動における効率性が改善され、企業の株主価値が改善するという考え方がある。同様に高い債務比率にある経営者は、経営の改善に向けて高い緊張感のもとにあるという言い方もある。

過剰なキャッシュへの批判(free cash flow hypotheses: FCFH)
最後に述べた負債のモニタリングと関係がある議論に、キャッシュフローに余裕のある企業は、そのキャッシュをムダ使いし勝ちだという考え方=FCFHがある。これは経営者というものは自立度が高いほど、無駄な投資(支出)を行いがちだという考えかたであり、負債によるモニタリングが望ましいという発想と近い。
 この考え方では当面使う予定のない過剰なキャッシュは、市場での自己株式取得(による株価改善)や配当支払いなどで、株主に返すことが望ましいとされる。しかしこうした考え方は短期的な企業価値最大化を目指すファンドの意向に沿った主張だと思える。企業経営者は、高いキャッシュを抱えていることで、金融機関や資本市場の情況にかかわらず自らの判断で企業買収などさまざまな戦略変更余地をとりうる自由度を好むものなのではないか。

では自己資本の魅力とは何か
 自己資本といっても株式を発行して調達する部分と利益の内部留保による部分とがある。
 内部留保retained profit 配当負担がない(したがってコストがないようにみえる 確定支払いが不要ということ)
自己資本に共通するのは、経営上のリスクを負担する資本だということ。その意味は2つある。
 残余利益residual profitの受け手として不安定な収益に甘んずるということと、そして実際に損失が発生した場合は対応する減失を受け入れるということである。しかし長期的には、自己資本を出す側はそのリスクに見合ったリターンを要求するものであり、リターンが確保されなければ、資本を引き上げるため、事業の休止・売却・解散などを求める存在でもある。
資本構成比率(capital structure)の決定
 ここで資本とは使用総資本。資本構成比率とは、債務と自己資本の構成比率のこと。この構成比率に最適の数字が存在するという考え方がある。
 その前提は企業経営の目的は、株主にとっての企業価値(わかりやすく考えれば株価)の最大化にあるという考え方にある。もちろん、このようにいうことは過度の単純化を含む。
 資金調達には、このように資本の最適構成比率を探そうという議論の建て方がある。
 また他方で、資金調達の手法間で序列があることを説明しようという議論の建て方がある。
 前者で用いられる学説はtrade-off theoryという。trade offというのは、一般に相反する関係のことを述べる学説である。この前者の学説のもう一つの呼び方はagency cost hypothesisである。後述するように、この学説では資本コストの大きさに注目するが、この資本コストの大きさをagency costが基本的にきめていると考えるからである。これに対して序列を説明する学説をpecking order hypothesisという。歴史的に古いpecking orderから説明しよう。

trade-off hypothesis and pecking order hypothesis
 債務を増やすほど、自己資本利益率も上昇する。企業価値もあがるが、やがて倒産コストが増加して負債コスト(i)が上昇し自己資本利益率は減少に転じ企業価値は減少する。

      ROE=(R/A)×(A/E)=ROA+ROA×(D/E)   なおA=E+D      
それゆえ企業価値を最大化(極大化)する比率(債務ー資本比率 最適資本構成比率)が存在するという仮説をtrade off hypothesisという(トレードオフとは相反する関係をいう。例 資本コストと倒産コスト双方の減少 完全雇用と物価の双方の安定)。
 ここで仮定されるのは、企業価値を最大化することが事業経営の目的だという考え方。事業からの収益を仮に一定とすると、問題は資本コストの大きさを最小化する資本構成ともいえる。
 このときの資本コストは加重平均資本コストweighted average capital cost 
債務コストiと株式コストr それぞれの構成比率を加味(加重)して合計したもの
             V=D+E
             WACC=i(D/V)+r(E/V)
 iについては、risk free rateに個別のrisk premium。rについては株主の期待収益率が影響すると考えられてきた。このWACCを最小化する構成比率が求める比率とされる。

資本コストとエージェンシーコスト
実はiやrなど資本コストの大きさには、エージェンシーコストなるものの大きさが主に反映していることがわかっている。株主と経営者という代理(エージェンシー)関係もあれば、債権者ー経営者という代理関係もある。このようなコストがiやrの大きさに影響している。

agency costs(代理コスト)は債務契約の本質理解に役立つ
 大規模企業では専門性、個々の株主の持ち分が小さくなることなどの理由から、株主と経営者との間で代理関係が生じる。
 経営者は自身の利益を追求するので、株主と経営者の間では利益相反(conflicts of interests利害の対立)が生じる。またもう一つの要因は情報の非対称性information asymmetries。この非対象性を乗り越えるために要するコストの大きさがagency costである。つまりすでに述べたことは、まさにこのコストを最小化する点を発見するということ。
 経営者を悪者にするのは日本的な発想にはないことだが、アメリカでは経営者は、威厳付けのための拡大をし勝ち。価値破壊的投資。過剰人員。価値を増やさず規模が増える拡張が
しがちととらえる。こうした行為は、代理関係がもたらした損失(コスト)。対策として、経営を監視するための監視コストmonitoring costが必要だとする。
 つまりagency costには、代理関係から生ずる情報の非対称性を乗り越えるためのコスト、さらに、経営者を監視するためのコストが含まれている。
 それを最小化するコストに対応した資本構成が存在するという問題の立て方自体はagency cost hypothesis(ACH)あるいはtrade off hypothesis(TOH)の世界でもある。
 さらにagency costには実際生じてしまった経営者の誤った経営や資金使途に伴うコストの問題がある。
agency costs; selfish investment strategy
  ハイリスク投資への誘惑taking large risk
  行うべき収益改善投資の放棄underinvestment
  過剰な配当支払いの誘惑milking the property
  利払い負担の増加による企業価値の喪失
 つまりagency costの大きさは常に変化しているのだと思われる。そして最悪のケースが企業が破たんして企業価値が大きく損なわれる場合である。

財務的困窮financial distress;倒産コストbankruptcy costの内容
indirect cost
  事業継続能力の喪失あるいは事業能力への信頼の喪失
  投資の余裕がなくなることによる投資機会の喪失
direct cost
清算及び再建に伴う法律的・管理的コスト

経営者 株主の代理人
 役員会 経営判断の承認
 株主
 債権者(債務保有者) 

 債務についてもエージェンシー問題が生じている。そこから後述するコブナンツ(財務制限条項)の問題や、さまざまな債務奢保護の仕組みが生じる。
 独立監査人による監査も債務者保護の仕組み一つ。
 債権者との関係では経営者は株主の利益を優先する傾向がある。
債権者と経営者の意見が対立する点
 配当の支払いの仕方(収益から支払われるべきで資本から払われてはならない)
 株式の買い戻し価格(買取り価格)
 資産の処分
 清算時の資産処分権限の所在 
 新たな債務の増加
 経営リスクの増加(リスクの高い資産の増加)

以上の最適資本構成比率という考え方に対して、企業はそもそも資金調達方法に順位付けをもっており、内部資金に依存することを本来望んでいるという仮説がある。pecking order hypothesisペッキングオーダー仮説pecking-order hypothesisである
 この仮説では、投資家側の安全性への懸念(逆にいえば経営者の有する情報を判断するのにコストが必要だとしてそのコストの大きさから)から外部資金調達にはそもそも困難がある。また企業経営者は、経営の自由度を確保したいので、外部資金の調達より内部資金の調達を好むと考えられる(以下で>は選好の大きさを示す)。
 内部資金>外部資金。
 外部資金の中では、節税効果が働く債務が優位にたつ。
  内部資金>債務>株式
 債務の中では、企業と継続的取引関係にあって、企業情報をつかんでいる銀行が、債券よりは優位とすれば(企業としても企業情報が漏れにくい銀行取引を好むとすれば)
  内部資金>銀行借入>社債>株式
(以上のpecking order仮説の説明は大村敬一『ファイナンス論』有斐閣, 2010年, pp.288-289を見ながら書き改めたものである。)

 このようなPOHでは構成比率がどうなるかを説明できない問題があるが、内部資金への傾向は説明できる。序列関係を固定的にとらえていることも疑問として残る。なお収益支払いを留保できる点からは、内部資金>株式>債務 という場合も考えられる。

債務か株式かの選択をearning streamの安定性が決定するという考え方
債務構成比率については、その時点のcash flow あるいはearning streamの安定性に対応した資金調達構成があるという考え方もある。この発想では起業時など不安定な時期は、自己資本や内部資金が高いことが望ましいことになる。
 事業収益のリスク(不安定性)が高いほど、困窮及び破産コストdistress and bankruptcy costが大きいので、元利払いを約束する債務debtの比率は小さくなる。株式保有者は残余収益の契約者でありその不安定性は高い。
earnings streamの不安定性
 債務保有者ES<営業ES<株式保有者ES
 維持できる債務(支払い請求の大きさ)は収益の安定性にもとづく信用の格付けにかかっている。
 現在の債務比率(すでに高ければ自己資本の強化へ)→経営者は景気後退期にも耐えられる債務比率までを選択するべき
 収益の安定性(不安定な企業は債務による資金調達に不向き 逆に内部資金の安定している企業は債務調達に向いている)
 現金が手元に豊かな企業は債務返済しやすい
 生産ラインの陳腐化リスク(確実な大きな支出)を抱える企業は債務の過剰を避けるべき
 不確かな大きな支出(訴訟リスク、企業買収など)を抱える企業は追加的に債務を増やす能力をもつべき 
金利の変化の見通し(長期借入か短期借入か)
 インフレ率の見通し(高ければ債務返済は実質的に軽くなる)
 担保上の制約(担保を用意できるか)
 返済期日の集中は避けるべき

 過剰債務のシグナル
  金融機関の側が貸付に慎重になる
  投資銀行も借り入れ以外の資金調達をアドバイスする
  株式市場が上がるなか当該企業の株価が下げる 
  同業他社に比べ債務比率が高い カバレッジレシオが小さい
  格付けが下がる

このCash Flowの安定性の違いの議論は、現実の債務比率の違いを説明するのに有効であり、以下のような疑問への答えを出しやすい。
a) 現実の企業は低い債務比率を好み、しばしば無借金企業が存在する。
 b) 産業ごとに債務比率に違いがみられる。
 c) 多くの企業は目標とする債務比率をもっている。
    i)節税効果を反映して課税対象所得の大きい企業は債務比率が高い傾向がある。 
   ii)有形資産の大きい企業は破産時のコストが小さいので債務が大きい傾向がある。
   iii)営業所得が不安定でない企業ほど債務が多くなる傾向がある。

債務比率の決定に影響する要因
 1)節税効果 高減価償却・高研究開発費などの節税要因をもつ企業は、債務の節税効果を高く評価しない可能性もある。
 2)利払い費用という圧迫的コスト 収益が不安定な企業、あるいは資産価値が大きく変動する企業は、高い債務比率を避けるかもしれない。大企業は、このコストが相対的に小さいので、債務を好むかもしれない。
 3)無形資産と成長の選択肢が大きい企業は、担保資産の処分は困難で、リスクの性格が変わりやすい。債務のエージェンシーコストは大きいので債務比率は小さくなるかもしれない。
 4)成長機会のある企業は、融資枠のような便宜による債務への需要を有するだろう。

資本市場にとってのシグナル効果(signaling effects)仮説 経営者は企業の内部情報をもち企業の状態を外部より正しく判断できると仮定すると、経営者の資金調達についての判断は資本市場にシグナルになるという仮説がある。これをシグナル仮説という。

 株式発行のシグナル効果  経営者は経営実態について投資家より情報を持っていると仮定すると、株式を経営者が発行するのは、株価が過大評価overvaluedになっているからだという仮説がある。そこで株式が発行されると、市場は従来の過大評価を修正するので株価が下がるという理解がある。
 だとすると株式の発行は、株価の過大評価のシグナルになり、それを契機に株価が下がるというのである。この考え方では、こうしたシグナル効果を避けるためにも、債務調達により資金調達をするべきだという結論になる。
 なお私自身は株が追加で発行されれば、需給要因から考えて株価が下がるとみるが。シグナルでもあるが、現実に需給でみて株式の供給が増えればそれは株価の押し下げ要因である。

 債務増加のシグナル効果 逆に考えると債務増加が、投資家にとっては、株価の過小評価のシグナルになることがあることになる。それは収益見通しについての経営者の強気の判断を示すからである。 そこから企業によって、投資家を欺く目的で、債務の増加に踏み切るものがいるとされる。 シグナル効果:情報の非対称性に着目 経済行為が情報のシグナルとなるとする仮説
Corrected and reposted in Aug.19, 2010 and Dec.24, 2010.

 
財務管理論講義 証券市場論講義 


ノンリコースローン そしてリースの種類と役割

2010-12-23 23:40:36 | Financial Management


non recourse loan

非遡求型融資non-recourse loan責任財産限定型融資とも呼ばれる。一般財産への履行請求権なし。通常の貸付はrecourse loanである。責任財産の範囲を限定しない。その意味は借り入れた本人(個人あるいは法人)に返済義務があり、本人の所得あるいは本人が保有するさまざまな資産からの弁済が求められるということ。債務者の全財産を対象に履行請求できる。
(つまりrecourse loanでは責任財産が限定されていない)
 これに対して非遡求型では、担保は特定限定される。特定事業(不動産)を担保とするとき、返済は、その事業(不動産)からの収益に限定される。遡求型に比べてリスクが高くなる分、金利はめ(たとえば大企業向けプライムが年1%台のときに年2-3%)。もちろん借り手が債務不履行することもある。ノンリコースローン普及の背景には、ローンの転売に問題がある。転売したときに、リコースローンでは権利関係が複雑になるとされている。
 金融機関としては、この担保となる事業の収益性分析力が問われる。
 逆にこの融資では、債務者が返済に行き詰まり、債権者が担保権を実行して担保不動産を差押えたあと、債務者の側は未払の債務残額について債権者から請求を受ける恐れはなくなる。
債権者の側は、そのあと競売換価しても、債権残額を回収できる保証はない。しかしノンリコースとはそういうことなのである。
 金融機関は、そうした未回収債権が発生するリスクへの目利きを求められる。大手行残高。06年9月末で5兆円台。07年9月末6兆円台。マンション開発や都心部の開発で幅広く利用。不動産価格は適切か。貸し付ける側が不動産価格(市場評価)をベースに何割かをカットした
金額を融資額の上限にすることでリスクを抑えている。大規模開発から小口融資に広がる。
また貸し付ける金融機関側は融資を証券化して販売することでリスクを転嫁しつつ資金を得てビジネスを自己資金を超えて拡大する。
 アパートローン。地主向け。投資目的の賃貸物件購入向け。中小企業むけ対象不動産の賃料担保の融資。借り手の信用力と切り離して審査可能。不動産ファンド、商業施設、ホテル向けなど。融資側は出資も組み合わせて利ザヤ確保。時間がたつと建物老朽化。入居者の減少・賃料の引き下げも。
 ところでサブプライムローンの議論と絡んで、アメリカでは住宅ローンがノンリコースで行われているという主張があるが、それは誤解で、金融機関側が費用(訴訟費用)に見合わないと自主的に債権放棄して実質的にノンリコースになっているだけだとの指摘がある。江川は、住宅ローンでは、債務者の返済能力を審査するのが当然で、不動産自身が生み出すCFが配当原資となる商業用不動産とは違っているとしている(江川由紀雄『サブプライム問題の教訓』2007, 47-48。小林正宏・大類雄司『世界金融危機はなぜ起こったか』2008, 59-60)。
 これも違和感がある。アメリカの文献によれば、アメリカの一部の州では、住宅の一次購入についてはノンリコースローンが実施されている。その結果として、近年話題になる戦略的デフォルト(戦略的債務不履行)strategic defaults生じている。ノンリコースローンのように金融機関から延々と返済を追及されるリスクがないので、住宅ローンについて早めに、つまりまだ支払い余力があるのに債務不履行を選択する人が増えている。なおアメリカの住宅ローンについては、州によって違いがあり、リコースの州とノンリコースの州とがあるという言い方が正しい。
under water loan; negative equity loan; strategic defaults について
originally appeared in October 8, 2008
corrected and reposted April 21, 2011

リースとリース会計

 設備投資の入手方法として、購入、リース(leasing)、賃貸(レンタルrental agreement)の違いはしばしば議論されるところです。コスト的にはこの順番に安いはず。というのもリース料や賃貸料には、リース業者や賃貸業者の利益が加算されているからです。(一般論としてはレンタルが割高だが、中古商品を利用することでレンタル料をリースより抑えることが可能。レンタルはもちろん資産計上の必要はなく、利用料をそのまま損金にできること、途中解約ができることなど、使い勝手はいい)手元資金が潤沢であれば、リースやレンタルは割高です。またリース契約には、資産ごとに適正年数などが税務上定められており中途解約が難しいものがあります。フレキシブルな契約が可能なのは賃貸(レンタル)です。一時的にだけ必要なものはレンタル契約が合理的です。ではリースが選ばれるのはなぜでしょうか。
 しかし一つは導入経費の分割効果です。5年リースなら5分割。というように。予算制約を意識する企業や官庁は、単年度の出費を減額するためリースを選択する場合があります。なお借入が困難な場合でも、リースは、借入より契約が成立しやすい特性がありますこのようなリースは、設備を購入するために必要な資金を信用力の高いリース会社が立て替えているとみることができるものでファイナンス・リースfinancial or capital leaseと呼ばれます。リース期間修了時点で、償却は終わっています。なお日本では契約終了時点で所有が移転しないものについて、資産計上しないでよいという例外規定がありました。資産計上しないことで、資産を保有することに伴う原価償却会計などを回避するメリットもあり、このタイプのリース(日本型ファイナンスリース)が普及しました(またリース料は100%損金とできたのに、減価償却費の損金算入はなぜか95%までとされていました)。しかしリース資産の計上をしないことが、企業の実態開示の障害になっているとの批判が強まり、まず2009年3月期からファイナンス・リースについて、資産計上が義務付けられました(リース料と減価償却費の損金計上の食い違いは、2007年度の税制改正で廃止されました)。
 その結果、一時はオペレーティング・リース( operating or service lease契約期間修了後、償却がのこるもの)は資産計上の必要がなく、中途解約が可能なので、オペレーティング・リースが日本でも普及するのではないかと議論されました。しかしその後、議論はオペレーティング・リースについても、資産計上する方向に進みました。こうしたオペレーティング・リースは、たとえば航空機、船舶、車両のようにどちらかといえば購入資金が大きいものについて見られます(契約年数はファイナンスの場合より長くなる)。なおチャーターサービスというのは運営あるいは操業(オペレーション)サービス付きで時間単位で貸し出す(あるいは借り入れること)です。車をチャーターする、飛行機をチャーターするというように使います。

リース(ファイナンス・リース)とレンタルの比較 リースとレンタルの比較(リコー)
なお英語としてみるとleasingは賃貸契約を広く指しており、歴史的には農地の賃貸に語源があります。そして単にrentといえば賃貸料を指し、日本語のレンタルにあたるのはrental agreementとみてよいでしょう。leasingのうち、契約期間の短いものがrental agreementだという言い方でよいのではないか。
 リース契約とレンタル契約の違いを英文で確かめましょう。以下の英文の引用にあるように、リース契約というのはたとえば6ヶ月といった比較的長い期間契約し、契約期間中の契約条件の変更は借り手・貸し手双方とも原則としてできないもの。これに対してレンタル契約はたとえば1ケ月ごとといった短期の契約で、契約期間満了日には、借り手・貸し手双方が契約条件の見直しを言い出せるものと。以下の英文の説明を参照してください。
difference of leasing agreements and rental agreements 

 もちろん賃貸するよりは、購入が費用(コスト)的にはもっとも安いのですが、購入という方法を取れるかは購入資金の調達が可能か(購入資金が手元にあるか)どうかにかかっています。また生産設備を購入して資産として計上すると、減価償却などの面倒な会計処理が必要になります(リースの場合、減価償却会計はリース業者側の問題になります)。なお、日本で民間設備投資に占めるリースの比率は1割程度。アメリカでは3割程度だというのですが、この数字の違いは興味深いですね。

 専業リース大手7社 2010年3月期実績 売上高 経常利益 億円 
 東京センチュリーリース(みずほFG系 2009年4月 旧第一勧業銀行系2社が合併 株主に伊藤忠商事 みずほFGは2002発足) 7,586 334
 三菱UFJリース 7,470 258
 芙蓉総合リース 3,820 236
 興銀リース 2,635 121
 NECキャピタルソルーションズ 2,373 76
 リコーリース 2,285 113
 日立キャピタル 953 133
 リースの増減にはつぎのような要因が関係していると思われます。
 売上の見通し:企業の設備投資意欲
 経費の見通し:資金調達コスト・経費節減などの圧力、貸倒費用の増減
 低金利は資金調達コスト減になるのでリース会社にはプラス。貸し倒れ費用
を下げることは大事。

リース料の構成
リース料をリース期間で減価償却が終わる場合(ファイナンス・リース)について考えると、その構成はつぎのようになるでしょう。つまりリース料にはリース業者の信用力で決まる金利や、リース業者の利益の大きさなどが反映しているのです。理屈で考えると、リース業者よりも信用力の高い大企業がリース契約をするのは(そのリース業者の信用力が高い)、あるいはリース契約にコスト以外の別のメリットがあるからと理解できます。
 逆にいえば、資金調達力に問題がある企業が新規設備を導入するとき、リースで導入するという選択には合理性があります。企業の資金繰りが悪くなるとリースが伸び、逆に資金繰りが緩和されるとリースが停滞するという循環もありえます。
 
リース料率=
 (物件の総額+金利+保険料+利益)÷リース期間 5年契約が標準的
 リース料率はリース業者間の競争もあり、長期プライムレートにやや遅れて動いている。
長期プライム1.50% 年1.92-1.95% (08/03/07)
1.85% 年1.935-1.965% (08/03/10)

リースの種類
 リースには、大きく分けて、リース期間終了時にその設備の減価償却が終わっているもの(ファイナンス・リース)と、終わっていないもの(オペレーティング・リース)があります。日本ではファイナンス・リースが大きな比重を占めてきました。
 ファイナンス・リースは、中途解約がむつかしく(つまり購入と実質的に異ならないので)借り入れの代替の側面が強いとされています。したがって、このようなリース資産については資産計上するべきだとの議論はもともとありました。そもそもリース契約期間終了後、所有権がリース契約者に移転するものと移転しないものがあり、この移転しないものについて、日本のリース会計は資産計上しない例外規定を認めてきました。
093月期 リース会計基準変更
 ところが2008年4月から適用の新リース会計(07年3月発表 09年3月期決算から適用とも表現される)により資産計上しなくてよいとする例外規定がなくなり(ファイナンス・リースについては購入とみなすことになり)、リース会社に大きな打撃を与えています(リース会社の再編が進んでいる)。ではどのように変わったのでしょうか。 

リース資産の扱い
 これまではリース資産を計上しなくてよい例外規定があったが、国際的な会計基準の統一の議論のなかで、リース会計基準の変更でファイナンス・リースについては一律計上することになった。ROA(総資産利益率)などの数字が悪くなる。リースを使うメリットが減少する。逆に計上を求めるのは資産に計上されていないと実態がみえないため。しかし減価償却という面倒な会計処理が必要ということが実はより大きいメリットで、それが資産計上で失われることが問題だったともされる。
 もちろん国際会計基準の共通化というメリットもある。
 影響が大きい企業として、航空会社(日本航空など航空機)、飲料会社(伊藤園など自動販売機)など。しかし多くの上場企業で例外規定が活用されてきたので議論を呼んだ。
 リースの利点として初期費用を節約できることと、減価償却会計の煩雑さを逃れられることがよく指摘されるが、大垣さんはファイナンス・リースには、税法上の耐用年数と、それより短い経済上の耐用年数とのキャップを埋める効果があるとする(大垣尚司『金融と法』有斐閣, 2010年, p.164)。
 企業が設備投資資金の調達が困難な場合、リース会社が事実上は代わりに資金を調達して設備を貸し出す仕掛けといえる。しかしそれ以外のメリットがいくつかあった。日本では資産に計上しない扱いが例外として認められていたことで、ROAなどの数値を引き上げる効果があった。また資産に計上しないことで(実質的保有者はリース会社)とすることで①減価償却など面倒な会計を免れることができた。②リース料を損金計上したとき、損金繰り入れの限度があった減価償却費に比べて100%損金とできるメリットもあった。

資産計上されることによるリース料の扱いの変化 
 現在はリース料として損金に計上しているが、資産計上されれば減価償却費として計上が必要になる。他方でこれまでは、使用中の固定資産の減価償却については損金に計上できる減価償却費が95%までとされていたが、2007年度の税制改正で100%に引き上げられたため、リース料として計上するメリットはなくなった(リースの税務上のメリットが後退した)。
 すなわち企業は購入するかリースにするかを純粋にコストの大きさとして比較することになったが、リース料にはそもそもリース会社の利益が入っている。購入企業が信用力のある大企業の場合、リース会社を通すメリットは消滅した(自社購入が増える)とも言われている。

オペレーティング・リースへのシフト
 日本ではファイナンス・リースが主体で、オペレーティング・リースの比重が低いことが特徴とされたが、それはこれまでの会計上の扱いが影響していたともいえる。新しいリース会計の導入によって、少なくともファイナンス・リースは減少せざるを得ないようだ。とくに大企業では、購入せずにリースにする明らかなメリットが見出せないからである。
 まして金融機関が積極的に融資すれば、リース会社は不利になる。リース会社間の競争でリース料が下がる問題もある。
 だとするとリースは、依然として資産計上の必要がないオペレーティング・リースoperating lease(中途解約が可能で会計上も資産計上の必要がない)が主体になるようにゆるやかに変化してゆくのではないか。
 たとえば航空機などの分野では購入代金が大きいため、航空会社間でリース契約を利用した航空機の入手が盛んに利用されている。需要が拡大しており中古市場も形成されているため、リース期間終了後、転売先や別のリース先を探しやすいとされており、オペレーティング・リースの有力な分野と考えられる。船舶、車輛(貨車・機関車)などもオペレーティング・リースの活用余地が大きい。

オペリースについても資産計上の議論が浮上
 ところが国際会計基準IFRS作りの現場では、オペレーティング・リースについても資産・負債計上の議論が登場している。これは依然としてリース会計の透明化を求める声が強いことを反映している。オペかファイナンスかの区分けをなくして、リース契約をした時点で今後契約期間に支払うリース料の総額が資産・負債に計上され、減価償却されることになる。
オペリースを多用してきた業界に海運業界がある。船主から船を借りる時、オペリース方式をとっている。資産にリース物件の使用権利、負債にリース料支払い義務が計上されることで、海運各社のバランスシートが拡大してしまう懸念が出ている。結論は2011年とされるが、リース債務内容の詳細な開示が求められていることは間違いない。

航空機リース
 航空機リースでは、機体を購入するための会社を設立して出資者を募り(機材価格の約3割)、残りを金融機関からの融資でまかなう。世界ではGEとか米AIG(American International Group)などが大手で1000機以上を保有。国内では三菱商事、住友商事など。船舶でも同じである。
航空機のように高額な商品の場合、リース業者が単独で出資者となることはリスクが高いためリース業者lessorは出資額を一部に抑えて、外部の出資者を募ったり、金融機関lenderから資金融資を受けるようになった。これがレバレッジドリースleverage leaseと呼ばれるものである。従来の日本のレバレッジドリースは、すでにみたファイナンス・リースに近いもの(契約期間後、航空会社が買い取るもの)であった。
 これに対して、リース需要や中古航空機需要の高まりを背景にオペレーティング・リース(契約から10年後に見直す権利がつくというもの)が航空機分野でも始まっている。オペレーティング型が発達するうえでは中古市場が活発に動いている必要があることがこのことからもうかがえる(B373の月当たりリース料は3000万円台とのこと)。つまりオペレーティングの方が契約期間(12-13年)が終わったら航空会社が買い取るといった場合(日本型レバレッジドリース)は、売却リスクが少ない分、投資家を集めやすい。これは中途解約がむつかしく、航空会社の買い取りを予定するものであった。これに対してリース料を8掛けで、契約から10年経った時点で契約の続行か航空機の購入かを決める日本型オペレーティング・リースJOLが始まって注目されている。中古航空機の需要が増えていることがオペレーティング方式を後押ししている。
航空会社にすれば、リースを活用すると単年度投資額を抑えながら、燃料節約効果の大きな新型機を導入することができる。大手が燃料高への対応を急いでいるほか、格安運賃を売り物にする航空会社や新興国航空会社の台頭により、リース利用の拡大が予想されている。
 航空機リースはかねて三菱商事、住友商事、双実等商社が航空機リースを手掛けている。2010年には丸紅が航空機リースに本格的に参入することが明らかになった。
 2012年1月 三井住友がRBSから航空機リース事業の買収を決めたが、そこで注目されたのは航空機リース会社の収益率の高さ。

リースバックsales-and-leasebackとベンダーリース
 リースバックleasebackは昔からある手法で、「顧客が保有資産をいったんリース会社に売却し、ただちにその資産を賃借するもの」北山桂「経済成長とともに発展遂げるリースビジネス」『金融財政事情』2009.7.20, p.30)。運転資金や設備資金の必要に迫られた企業が、保有資産を売却して資金を得る一方、物件の継続的使用を行うもの。
 資産証券化asset securitizationの原型ともいえる手法である。
securitization and structured finance
purpose of securitization
 ベンダーリースvendor leaseは、機器(建設機械 工作機械など)の販売の手法として、機器を販売する側がリース会社と提携するもの。顧客は、購入する代わりにリースで機器を導入する方法もありますと説明される。

 また借りたものをさらに転貸するものはサブリースsub-leaseという。
   → サブリース契約 不動産会社が賃貸の空室リスクなどを肩代わりするもの
 では話をリースの利点と欠点を最後にまとめてみましょう。
リースの利点
貸し手はリース料が払われない時はリース物件を回収することで対抗できる
 したがってリース契約は貸付契約に比べて成立しやすい 
 借り手は設備の陳腐化リスクをリース業者に回すことができる 短期間で陳腐化する場合このリスクは大きい
 大きな初期投資がいらなくなる
 設備をすぐに導入したいというニーズに対応している
 通常は契約期間修了後時に割引価格で購入できる選択権がある
 中小企業者は設備投資資金借り入れに困難から、リースを選択することがある
 リース業者(貸し手)はリース物件をレンタルに回すこともできる
 リース業者は契約期間後、リース物件を転売もできる
 リース業者は減価償却費を立てることができる

リースの欠点
 長期的に経費でみれば購入するよりリースは割高である
 リースの金利は通常の借入より高い
 借り手は減価償却経費をたてることができない
 借り手は陳腐化した設備を保有し続けるリスクがある
 借り手は貸し手の許しなく、改善を加えることができない
 借り手はリース契約が更新されないリスクがある そのときの購入価格は割高である
 借り手は回収価値(salvage value 中古の機械を売却することでの回収価値)を得られない 
 貸し手は回収価値の大きさが確定しない

リース需要の停滞
 リース会計の変更に加え景気低迷に伴う設備投資の停滞により、日本国内のリース需要は低下が続いている。2008年から2010年 4年連続でリース取り扱い高減少。2010年は4兆6359憶円。前年比9.8%減少。そこで中国をはじめ海外への展開が、リース会社の成長のカギになっている。
 海外展開の場合 工作機械 印刷機械 産業機械 建設機械 自動車(新車・中古車)
         自動車については販売金融:所有権は顧客

参照
Joe K.Shim and Joel G.Siegel, Financial Management, Barron's:2000, pp.243-249
A.A.Groppelli and Ehsan Nikbakht, Finance, Barron's:2000, pp.317-336

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
Originally appeared in May 8, 2009.
Corrected and reposted in July 15, 2010, November 30, 2010 and December 23, 2010.


グーグル、中国本土での検索サービスから撤退(10年3月22日)

2010-12-20 00:35:25 | Economics
グーグルと中国政府
 2000年に中国語サイトを立ち上げ、2006年1月からは米国内の人権擁護派の反対を押しきって中国で広告事業を展開してきたグーグルが、2009年12月以来、ネット検閲で中国政府と対決姿勢を強めて注目されていたが、2010年3月22日、ついに中国本土でのネット検索サービス停止、香港経由サービスへの切り替えと、自主検閲撤廃を表明した。
 この問題は米中の経済摩擦の一つに浮上。かつ中国市場を完全に失うリスクにグーグルは直面した。2010年6月になってグーグルは、香港版への自動転送を中止。利用者が香港版への接続を自ら選ぶ仕組みとした。そのうえでグーグルは6月29日、中国の法律順守を約束してネット検索事業免許の更新を申請した。2010年7月11日、中国の工業情報化省は米グーグルの中国でのネット検索事業の免許を更新した。

 直接の契機は2009年12月中旬にGメールに対して中国政府関係者のものと思われるサーバーから、人権活動家のメール情報取得を目的にした攻撃を受けたこととされている。
 しかしネットの情報がどこまでも自由でよいのかについては、議論の余地がある。たとえば犯罪を助長するものはいけないという意見は日本に限らず強い。とするとどこまでの情報がよくて、どこからがいけないという物差しを誰がもっているのかということになる。グーグル自身が、自主規制しているものが実はないわけではない。その意味で中国政府による中国国内では中国の法律を必ず守る必要があるというのも全く間違った主張とはいえない。
 ブラウザー提供業者の自主規制は問題なく、政府の規制は問題ありとするのは、提供業者が正しい判断をするという前提に基づいているが、果たしてそう言い切れるか。またネットブラウザーが市場を独占している場合は、自主規制という名で業者が検閲しているのとなんら変わらないことになる。
 中国政府によるネット取り締まりは2008年3月のチベット騒乱を機にデモのよびかけなどを封じるために強化され(一説には08年末に中国共産党独裁を批判する08憲章がネットで流れたことを契機に強化され)、2009年3月からはyoutubeの閲覧が不可になり、2009年6月にはグーグル閲覧を一時ブロック。また2009年6月には、パソコンに検閲ソフト搭載の義務付け方針を発表したこともあるとされている(その後撤回)。
 中国政府は、金盾工程と呼ばれるネット監視システムにより内外のサイトを監視する一方(不適切なサイトへの接続を遮断しているとのこと)、五毛党と呼ばれる体制寄りの発言をネットの掲示板などに書きこむお雇い評論員を動員して、世論誘導も行っているとされる。
 
 グーグルの姿勢は、成長の早い中国市場を失っても理想を追求するという姿勢を明確にしたものとされる(しかし香港のグーグルのサイトをみると、明らかに中国本土を意識した作りになっている(また中国の法律順守の表明とネット検索事業の免許更新の申請は事業の継続を示すもの)、グーグルが中国市場をあきらめたと見るのは早計で、グーグルは掲げる理想と現実との妥協を図り、中国政府はそれを黙認したのではないだろうか)。
 中国のネット利用人口は2010年6月現在4億6000万人(推定)。2005年12月時点の1億1100万人から急増している。携帯電話の加入件数は2010年6月現在8億件超。携帯経由のネット利用人口は2億7678万人とのこと(普及率で人口の3割 日本は7割 今後の中国市場の成長余力は極めて大きい)。代表的ネット企業には、無料の簡易メールサービス(IM)QQを運営する騰訊(テンセント)、検索市場で7割シェアの百度(バイドウ)、企業間電子商取引の阿里巴巴網絡(アリババドットコム)などが知られる。

なぜウィキリークスはいけないのか
 このグーグルの動きを米政府は支持してみせた。ところが内部告発サイト「ウィキリークスWikileaks」に対しては批判している。グーグルはよくて、ウィキリークスは駄目である理由を説明していただく必要はありそうだ。
 11月28日に米国外交文書の一部の公開(米外交公電25万通とされる)が始まると両者の対立はエスカレート。前後から愛国者などによる同サイトへの大規模なサイバー攻撃が始まった。多数のコンピュータを使って一斉にサイトにアクセスして、サイト閲覧をできない状態にするなど。米政府の非難を支持するかのように、アマゾンはサーバー機能貸出サービスを中止(11月30日)、寄付金口座を運営していた米ペイパルは口座を凍結した(12月3日)。これに対してウイキリークス支持者は、ウイキリークスを攻撃した政府・企業へのサイバー攻撃を呼び掛ける一方、数100に及ぶミラーサイトを立ち上げたとされる。
 米政府は創設者ジュリアン・アサンジ容疑者が2010年12月7日、ロンドンで逮捕されたことにも関与している疑いがある。12月6日、スイスの郵政公社がアサンジ氏の口座を凍結、7日には米カード大手VISAが同サイトへのあらゆる資金支払いを一時停止した。

originally appeared in January 19, 2010
corrected and reposted in May 9, 2010 and December 20, 2010

参考文献
市川類「ネット検閲で表面化した自由と統制の政治文化の軋轢」『エコノミスト』2010延5月18日号, 34-35.
黒井文太郎「拡大する中国のサイバー部隊 ベールに包まれた「網軍」の脅威」同上, 36-37.
"Wikileaks: Read cables and red faces", The Economist, Dec.4, 2010, pp.15, 29-33.
"Dealing with Wikileaks: the right reaction", The Economist, Dec.11, 2010, pp.15, 61-62.

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キャッシュフロー計算書(cash flow statements)

2010-12-18 18:27:56 | Financial Management

cash flow statements: CFS

Hiroshi Fukumitsu


cash flow分析の重要性と意味 
 販売・支払と実際のcashの動きにはズレ、乖離がある(通常は不足する)。財務担当者は資金調達によってこのズレを調整する必要がある。そのためには、実際のキャッシュの動きを把握する必要がある。それを表にしたのがキャッシュフロー計算書(cash flow statement)である。 cash flowが重視されるようになったのは、制度的な問題から数値が変動しやすい会計的利益から離れて企業を分析する必要がでてきたというグローバル化に伴う問題、あるいは、投資家の視点から企業価値を分析する上で毎年のフリーキャッシュフロー(定義は後述するが、その意味は経営者が当面自由に使える手元資金である)を正確に測定する必要がでてきたことや、企業社会のありかたが、投資ということを基準に組み立てられるようになった問題などが絡んでいる。金融機関にとっては「企業をCF中心に診ることは、担保に頼らない融資発掘のための有用な集団である。CF分析により企業の将来のCF状況を予測できれば、融資の安全性はそれだけ確保される。」高橋俊樹『融資の常識50考2版』きんざい、2011, p.45
もちろん個々の企業レベルでの資金繰り管理もキャッシュフロー管理の問題の一つであり重要であるが、資金繰りの管理問題は、キャッシュフロー計算書が登場する前からも存在したことで、新たな問題ではないと考える。

貸借対照表や損益計算書とcash flow計算書
 貸借対照表や損益計算書は、発生主義(accrual basis or accrual principle)という考え方で記帳されるので、実際お金の流れとは食い違ってくる。加えて、固定資産における減価償却会計が、費用負担の時間的分散という問題を持ち込んでいる。
 つまり貸借対照表や損益計算書は、採用した会計基準の影響や、会計独特の計算方法の影響を免れない。また経営者の将来予想の影響も受ける(例 貸し倒れ引当金における回収可能性を見込んで引当金を計上する行為、繰延税金資産:将来の収益見込を前提に将来損失として処理するものを繰延税金資産として計上する行為)ので、その時々の正確さにも疑問がある。
 これに対してCF計算書は実際のお金の動きをみているので、客観性が高い。
 CF計算書の表示の仕方には直接法と間接法とがあり、企業会計審議会の『作成基準に関する意見書』(1998年)により、両者の選択が認められ、多くの上場会社は、発生主義会計との対照が可能な間接法を採用している。中野一豊・清水克益「キャッシュフロー計算書の構造と問題点」『豊橋創造大学論集』10巻, 2006年, 1-18 

①基本basics:cash flow に影響する現実のcashの動き

cash in cash out
株主の出資 株主への配当
借入 利払い・返済
製品在庫以外の資産処分収入 営業資産・非営業資産の購入
製品・サービスの売上収入 製造経費・営業経費・税金



Balance Sheet
Income Statement
Sales
Expenses
Net Income
Cash Flow Statement
Opeartions
Investing
Financing
Net Change in Cash

Cash Flow Statement

②損益に影響する債権債務の増減とCFの動きの違い
 債権債務の増加がいわゆる信用取引による限りはCFに直接は影響しない。しかしたとえば、販売がその前提として仕入れがあるとすればcash outの状態から現金販売であればcash inになるところ。信用販売つまり現金での支払いを猶予すれば、cash outの状態が続いていることになる。 

売掛債権accounts receiveble↑ cash flow不変 cash outの継続 将来のcash in↑



 販売の約束はなされたが入金していない(資金は回収されていない)。ここは売り上げの計上がなされていると形式的には利益が出ていることになる。ところがキャッシュはまだ入っていない(損益などには影響するがCF上は影響しない。ただしCF上はかつての支出が回収されていない状態という意味でcash outが増えた状態のまま 製品在庫が減って売掛債権に置き換わった形)。
反対に支払いの約束(買掛債務)では、支払いの約束はしたが出金していないことが生ずる(CF上は変化がない。在庫は増えているが支払われていないのでこれはまだ債務の状態。)。

在庫inventories↑ cash flow不変 cash outの継続 将来のcash in↑

 

買掛債務↑ cash flow不変 将来のcash out↑



CFの動きと損益の動きを狂わせるものには以下のようなものがある。  

信用での購入・売却 不良債権・不良在庫の償却 減価償却 損益に影響するがCFには影響しない。
債権・債務の支払い受取。借入。増資。元利払い・配当の支払い CFに影響するが損益に影響しない。



③減価償却費とCF
 減価償却はもともと固定資産の物理的な損耗を会計上の費用として認識計上。固定資産の更新投資に備えるものである。
 しかし物理的損耗と会計上の損耗とはずれがある。
 また物理的損耗のほか、技術革新などによって時代遅れになってしまう社会価値的損耗の問題がある。
 最初の支出を時間をかけて売り上げから回収するということが一つの意義(費用負担を長期間に分散させる)。そしてやや長期的には更新投資replacementに備えるという意味も大きい。このような会計操作を固定資産に対して行うことが減価償却depreciationである。 現実の企業はこの減価償却の計上によって大きな影響を受ける。損益の面では計上するほど利益が減って見える。減価償却の方法には定額法と定率法とがある。減価償却と実際の資産の損耗とには食い違いがある。
 損益計算書のレベルでは、減価償却費を費用として売上収入から計算上抜くと損益計算に影響する。しかし減価償却費の支出は計算上のものだから、CFの対外流出は生じない。cash flowは変化しない。cashは要するに社内に残っている。つまり減価償却depreciationという会計操作は、cash flowに影響しない。ただし減価償却費を大きくとればとるほど、社外流出がないことで大きな現金留保が生まれている。これが減価償却という会計の特徴である。
 他方で建物・機械設備などの購入(投資)のためには、支出(CFの社外流出)が生じる。
 減価償却の計上と物理的損耗との間にさまざまなケースを想定できる。
 expanding  投資額>物理的損耗額
 maintaining 投資額=物理的損耗額
 divesting or under investing 投資額<物理的損耗額 

アモチゼーションについて
 アモチゼーションは日本語にしにくい外国語の一つである。
 減価償却をパテント(特許権)など無形資産に対して行うことをamortizationという。つまりamortizationの定義の一つは、①減価償却depreciationという会計操作を無形資産について行うことだというものである。なお借入れの元金の返済の計画もamortizationと呼ばれる。すなわちamortizationの今一つの定義は、②債務元本の支払いを一定期間にわたって分散して行うことである(investopedia)。
1)the paying off debt in regular installments over a period of time
 2)the deduction of capital expenses over a specific period
 自然資源が消耗することはdepletionという。

free cash flowについて
 後に企業価値をDCF法(discounted cash flow method)で算定するときに使うfree cash flowは、cash flow statementから求めることができる。free cash flowの定義は、論者により微妙な差異があるが、経営者が裁量により支出先を変更できる余剰cash: free cashとみればよいのではないか。EBITDAから、税金、経常的に必要な運転資金と設備投資の双方を差し引いた金額とここでは考えておく。
free cash flow(valuebasedmanagementnet.com)
free cash flow(quickmba)
 FCFを基礎にした企業価値評価法(DCF法)について
 企業価値評価の考え方・読み方(DCF中心)

 企業の適正市場価値=株主と債権者への税引き後期待キャッシュフローの現在価値
 また 企業価値 = 株主資本価値 + 負債価値
    株主資本価値 = 企業価値 - 負債価値
 株主と債権者への税引き後期待キャッシュフロー=フリーキャッシュフロー
 フリーキャッシュフロー=EBIT×(1-t)+減価償却費-投資
          EBIT:税利息支払い前利益 
 ロバート・C・ヒギンズ グロービス訳『ファイナンシャル・マネジメント』ダイヤモンド社, 1994年, pp.214-215.

 井出・高橋はフリーキャッシュフロー(ネットキャッシュフロー)は事業からのキャッシュフローから投資のキャッシュアウトフローを引いたものだとしている。
 事業のキャッシュフロー=営業利益(1-法人税率)+減価償却費
 投資のキャッシュアウトフロー=運転資本需要+設備投資額
 ネットキャッシュフロー=営業利益(1-法人税率)+減価償却費ー運転資本需要ー設備投資額
 井出正介・高橋文郎『経営財務入門 2版』日本経済新聞社, 2003年, pp.104-105.

 一般には
 企業価値=フリーキャッシュフローの現在価値
 しかし日本の企業のように金融資産価値が多い場合は
 企業価値=フリーキャッシュフローの現在価値+金融資産価値

 参照 井出正介・高橋文郎『経営財務入門 2版』日本経済新聞社, 2003年, pp.367-368; 津森信也・阿部正樹『企業財務』東洋経済新報社, 2001年, pp.138-139; Reuben Advani, The Wall Street MBA, McGrawHill, 2006, p.67

フリーキャッシュフローFCFを重視する(あるいは企業経営者は外部資金への依存を嫌う)ということでは共通の理解がある。しかしそのつぎにその範囲に投資を収める、あるいは投資に必要なFCFを企業は稼がねばならないとする、日本発のキャッシュフローマネジメントの議論と、アメリカの財務論でみられる稼いだCFは、使う予定がなければ増配や自社株買い戻しを通じて株主に返すべきで、外部資金に頼った方が企業の規律が保たれるとする、FCFが多い企業はそれを浪費しがちだというアメリカ発の議論とは、経営者の行動についての想定が真逆になっている。この点はリスクのコントロールとファイナンスで再述する。

economic value added 経済付加価値
どれだけの価値を作り出しているかを新たに作り出したかを評価する問題である。  
 economic value addedというのは資本コストつまりその投資家にとって市場で同じリスク(コスト)に見合っているリターンに比べて、どれだけより多くの価値を生み出しているかを問題にしている。つまりevaはfcfのつぎの(より精査した)レベルでの問題である。EVAを理解する鍵となるのは資本コストの問題だ。スターンスチュアート社の商品名だという理由から、当初は限られた教科書に取り上げることが遠慮されたが、現在では一般的に使われるようになった。

economoc value added(valuebasedmanagementnet.com)
経済付加価値EVA
EVA導入による価値創造経営の意義
経営管理指標の変遷・使い方
投資の採算性分析(MSI新規事業開発ツール) 投資の採算性分析で使われるハードルレートの考え方やIRR法と、EVAの考え方との比較は有益だと思われる。

EVA=Net Operating Profits after Taxes - (Capital Used × Cost of Capital)
 NOPAT:Net Operating Profits after Taxes
Finance for Managers, HBS Press, 2002, p.168

EVA=税引き後営業利益 - (投下資本 × 資本コスト)
『財務力』講談社, 2003年, p.174

 EVA=(総資本利益率ー総資本コスト)×投下資本
   =(ROC-Cost of Capital)×(Capital Invested)
 野間幹晴・本多俊毅『コーポレートファイナンス入門』共立出版, 2005年, p.59

EVA=投下資本×(ROIC-WACC)
 ROIC=投下資本利益率
 WACC=加重平均資本コスト
 EVAスプレッド=ROIC-WACC
石野雄一『ざっくり分かるファイナンス』光文社新書, 2007年, p.118

参照 Reuben Advani, The Wall Street MBA, McGrawHill, 2006, pp.104-105; 井出正介・高橋文郎『経営財務入門 2版』日本経済新聞社, 2003年, pp.370-379; 津森信也『財務部』日本能率協会マネジメントセンター, 2001年, pp.158-163

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Feb.27, 2008.
Corrected and reposted in May 20, 2009 and December 18, 2010.

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BNPパリバ(東京支店)への行政処分(2008年11月28日)

2010-12-16 08:39:38 | Securities Markets
2008年のアーバンコーポ倒産とは
 アーバンコーポレーションは2008年6月26日BNPパリバを割当先とする300億円の転換社債型予約権付き社債の発行で資金調達をすると発表した。調達資金は短期借入金など債務返済に使うとされていた。実際にはスワップ取引(株式が下限価格に達するまでは転換した株式の評価額の9割を逐次入金する)とセットだったこの資金調達計画について、パリバはスワップ取引とその内容を開示しないことを求めた。
 その結果、投資家は300億円の資金調達が行われたと判断したが、実際にはアーバンはパリバに300億円をすぐ払い戻し(名目上は保証金として差し入れ)、最終的にアーバンに払われたのは転換された株式の一部売却益91億円に過ぎなかった。
 パリバはスワップ契約を市場に秘密にした上で、アーバンの株を空売りした。その目的はこの2つあったと考えられる。アーバンについての内部情報を利用して空売りして株価を下げて儲けること、そして、スワップ契約にある下限価格より下まで株価を押し下げて、契約に従い支払を免れることだった。これはインサイダー取引そのものだ。パリバの支払はとまりアーバンは8月13日に民事再生法の適用を申請し倒産した。
 金融庁や証券取引等監視委員会がこの証券会社をどう扱うか注目されたのは当然だ。金融庁は2008年11月28日 BNPパリバ証券に対して金融商品取引法に基づく業務改善命令を出した。

パリバ証券東京支店の名前がほかでも頻出
 BNPパリバ証券は2002年にも他社株転換社債の販売をめぐって、顧客保護に反する点があるとして業務改善命令を受けている。このアーバンの事件と同時期に駒澤大学を相手に金利スワップ取引で、駒澤大学に多額の損失を与えたほか(2008年11月19日各紙報道)、サイゼリアを相手とする通貨スワップ取引(07年10月には78円で、また08年2月には69円90銭で、それぞれ豪州ドルとの円通貨スワップ 08年11月で140億円の評価損)で、サイゼリアに対して多額の損失を与えた(2008年11月21日同社発表)。なぜBNPパリバの名前だけがほぼ同時期にこれほど頻出したのか。同社の営業の考え方に基本的な間違いがあったとの疑いをぬぐいえない。
 金融庁の処分を受けて、パリバ側では安田雄典代表が退任した。安田氏は1970年に東京大学経済学部を卒業。日本航空に入社後、ハーバードビジネススクールを1978年に卒業。日本に帰国後、しばらくして、BNPパリバの日本代表に就任した。20年余りトップの座に君臨したということは、この間のパリバ東京支店の一連の不祥事への責任は否定できないだろう。

強い疑問が残る日本証券業協会の対応
 アーバンコーポ事件の顛末はパリバの外部検討委員会が明らかにした(2008年11月11日)。なおこのとき外部検討委員会の報告をまつことなく日本証券業協会は、現行ルールには違反していないとして早々と協会として処分をしない方針を明らかにしたが、この方針決定は早計であり世間感覚とずれた決定だった。その後、金融庁は11月28日 BNPパリバ証券に対して金融商品取引法に基づく業務改善命令を出し、協会は自主規制団体としての面目と立場を完全に失った。失態といえる。
 日本証券業協会は現行ルールには違反していないとしてBNPパリバへの処分を見送る方針を極めて早い段階で出したが(2008年10月7日報道 この段階でパリバの外部検討委員会が立ち上がっており、決定はこの委員会の判断を待たずにできるだけ早めに判断しようとしたものとみられても仕方がない)、この決定にみられる証券業協会の世間感覚とのズレは驚くべきものでかつ決定が早過ぎた。これほど騒がれた問題で処分がないままとすれば、協会は、自主規制団体として機能しているとはいえない。結果として1年後に協会は処分を決定するのだが、この決定は今度はあまりに遅過ぎた。これは業界内の感覚で、処分を考慮したことが反映しているのではないか。
この問題に関連して、郷原信郎氏は以下のように述べているが賛成である。
 「経済社会における不正な行為をいちいち具体的に規制することは不可能であり、市場の公正を確保するためには本条(金融商品取引法第157条)のような包括規定を活用してある程度柔軟に対応する必要がある」郷原信郎「アーバンコーポ/BNPパリバ取引 疑惑の核心」『金融財政事情』08/11/24, p.29.
 ルールのあるなしではなく、不正があったか、あるいは公正に対する侵害があったかを判断基準とすべきだった。
その後さらに1年近い時を経て日本証券業協会は2009年10月13日に至って、その後の情報を踏まえ、パリバに対する日本証券業協会会員権の6ケ月間停止と1億円の過怠金、そして日証協会員権の6ケ月停止を規律委員会で内定することになった(同月10月21日の自主規制会議で正式決定)。

2009年10月に再び問題が表面化 再度の行政処分(2009年10月23日)
 2009年10月15日、朝日新聞が証券取引等監視委員会が、パリバ東京支店がソフトバンク株について、取引終了間際に大量の高値の買い付け注文をだし、意図的に売買の成立を遅らせるなど「作為的相場形成」を行った疑いを調査中との報道を流した(2008年11月5日に市場取引が終わる15分前から計20回にわたり計1350万株の買い注文を出し、取引を意図的に発生させない作為的相場形成を行った。『金融財政事情』2009年11月2日号, 8)。
 委員会は10月16日に金融庁に対して行政処分を勧告。金融庁はこの勧告を受けて、2008年に業務改善命令を受けたことと合わせて、2009年10月23日、パリバに厳しい行政処分として、すなわち株式・派生商品取引部門の2週間(10営業日)業務停止 法令順守など内部管理体制の再構築などの業務改善命令を出した。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Dec.10, 2008.
Corrected and reposted in Oct.27, 2009 and Dec.16, 2010.

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ジョインベスト証券の行政処分(2008年11月12日)

2010-12-15 19:04:35 | Securities Markets
 野村證券系のネット証券であるジョインベスト証券が2008年11月12日に金融庁から行政処分を受けた。事件の概要は以下のとおりである。

 日経平均が大きく上げた10月14日(月)の取引では値幅制限の上限に達した銘柄が多数生じた。このようなストップ高の場合、比例配分という形で受け付けた注文の一部が執行される。そこで多数の顧客がその比例配分という形での株式の取得を期待して買い注文を出してきた。ところがジョインベスト証券ではその手続きに手間取った。顧客に対しては、<失効>と表示された。多くの顧客にとりこの表示は売買の不成立と誤認識させるやり方だった。
 売買成立の連絡は10月15日(火)深夜になったと伝えられる。結果として多数の顧客は売買成立の認識がないまま10月16日(水)となった。ところが16日に今度は株価が大きく下げた。その結果、ほとんどの顧客が高値つかみをした結果になり損失を抱えることになった。
 当然のように生じた顧客からのクレームに対して、ジョインベスト証券は約定の取り消しを拒否した。同社のHP上で失効表示の意味を説明したというのが弁明だった。またネット上に現れた同社を批判する書き込みを何者かが削除して回ることまで続いた。
 問題が発生してから10日以上経った10月25日(土)になってようやく同社は方針を転換。約定の取り消しに応じるとともに、顧客の売買代金の返還に応じるとした。対象となる取引は225銘柄、件数で1000件超とされる。このようなジョインベスト証券の対応は同社とその親会社である野村證券に対する信頼を著しく損ねた。
 2008年10月18日付けブログ記事

 2008年10月14日について他のネット証券が問題を起こさずに乗りきったところを見ると、ジョインベスト証券の内部体制が極めて貧弱だったのかもしれない。またそれ以上に問題だったのは事件後の顧客対応のまずさである。この点で弁解の余地はないだろう。ジョインベスト証券は巨額の赤字垂れ流しを続けた末に野村の評判を落とす結果を残して、2009年11月23日、野村證券に統合された。
 この事件を起こす前の2008年6月に手数料の値上げをやや急に実施して顧客の不満を招いていたことが下地にある。同社は2006年5月に1年以上の準備期間を経て営業を開始。業界最低水準の手数料を売り物にしていた。しかし財務的には、巨額の赤字を抱え、その赤字を小さくするため手数料引き上げに走ったのだった。その上で起こしたのが10月14日のトラブルだった。
 社長の福井さんは東京工業大学の経営工学を1980年に卒業。大学院を経て野村総研。そこからジョインベスト証券社長という転身だった。研究所から社長業への転身というのは準備期間があったとしても大変だったのではないだろうか。

 ジョインベスト証券が手数料値上げ 発表2008年6月13日 実施2008年6月30日 
金融庁による行政処分 2008年11月12日
 金融庁処分についてのジョインベスト証券の告知文(2008年11月12日)
 ジョインベスト証券による福井正樹社長の退任(2009年3月31日)の発表(2009年3月12日付け)
ジョインベスト証券について 4期連続赤字(2006/03, 2007/03, 2008/03, 2009/03)
 事件から1年後、ジョインベスト証券は野村證券により統合されることになった。発表2009年9月18日。合併2009年11月23日。

originally appeared in November 16, 2008.
corrected and reposted in December 15, 2010.

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ラップ口座 wrap account

2010-12-15 14:12:18 | Securities Markets
概論  
Hiroshi Fukumitsu

証券会社各社がラップ口座に力を入れているとされて久しい。ラップ口座(wrap account)は2004年4月に証券会社・信託銀行に解禁された。解禁当初から団塊世代の退職金運用に狙いがあるといわれていた。
 ラップ口座とは、リスク許容度など投資の大まかな方針を顧客が決め、売買のタイミングや銘柄選択を金融機関に一任するもの。機動的運用がしやすい反面、金融機関との信頼関係が大事になる。預かり資産に対して投資顧問料1-2%プラス運用成績があがると成功報酬(もちろん付随して売買手数料)も証券会社に入る。
 証券会社にとり「おいしい」商品。顧客にとって運用コストの高い投資商品の側面がある。ただし顧客にとっては、自ら運用するより高い成果が得られるなら文句はいえないところではあるが。
ちなみにこうした説明は、投資信託やヘッジファンドと似ているといえば似ている。ヘッジファンド(hedge funds)は、最低運用金額がラップの場合より大きく(いろいろな言い方があるがラップが1000万円単位とすれば1億円単位とか・・・これは報酬金額でみると年間で10万円単位の報酬か100万円単位の報酬かという違いである)、運用手法や対象も、ラップの場合は日本株といった限定がつくのに、ヘッジファンドは商品や不動産などさまざまな投資対象、投資方法に及んでいる。
 投資信託は、ラップに比べても小口。しかし投資信託の商品も増えるとそのなかから適切な投資信託を選択したり、組み合わせてリスクを減らしたり適切な売買タイミングを選ぶことは困難だといえるかもしれない。そこでラップアカウント、ファンドラップの登場となる。しかし投資信託に対して手数料の多さが指摘されているとすれば、さらに手数料を取るこの商品は顧客にとって本当に有利な商品なのだろうか。
ヘッジファンドについて
投資信託について 

分類 
 個別株や債券などに投資するものをSMA(separatory managed account)という。ここで先行したのは大和証券で個人富裕層や中小企業オーナーの資金の取り入れに成功して残高を伸ばした。
大和SMAの説明 5000万以上500万円単位
 これに対して主に投信で運用するものをファンドラップと呼ぶ。
 ファンドラップは、投信が1万単位で購入できることから最低投資金額を小さく設定できる。また日本株低迷で日本株中心の運用に限界。またその意味でも海外にも投資できるファンドラップに人気が移行する(2006年~2007年)。おりから団塊世代の退職金運用問題も浮上。
 ここで伸びたのが日興コーディアル、野村など。
 しかし2007年秋からは金融商品取引法の施行と相場環境の悪化から、各社とも安易に受け入れを伸ばせない面もでている。
 なおファンドラップは通常のラップ口座が数千万円から数億円からの運用であるところ、1000万からあるいは500万に最低受け入れ額の敷居を下げることで、個人の小口資金を吸収しやすいとされ各社の参入が続いている。
 ファンドラップは投資顧問料プラス投信の管理費用が証券会社に入る。投信そのものに比べさらに運用コストが高いとの批判も知られる。
 
各社のラップ口座の状況
 大和証券はSMAガ主体 残高は2200億円(07/03末) 2600億円(07/06末) ラップ契約残高で業界最多 業界内シェア5割。SMAは個別株で運用 最低額5000万円というもの。大和SMAの説明 5000万以上500万円単位
2007/10 野村に1年遅れてファンドラップ参入 500万から 
 新光証券  1000億円(07/06末)ラップに熱心な新光証券と知られたがファンドラップで出遅れる。08/04参入か
 野村證券は最低運用額3億円で富裕資産層に限定したSMAを展開。
野村SMAの説明
 2006/10 ファンドラップに参入 最低1000万円 ファンドラップ残高1000億円ほどまで急成長させる(07/06-07/10) 2008/03 最低投資金額を500万円に下げた商品を発売。
野村ファンドラップの説明  
 日興コーディアル ファンドラップ残高2000億円ほどでファンドラップ取り扱いでは先行している(07/06-07/10 ) 日本株ラップを08/03中止 今後はファンドラップ(最低1000万から)に注力する 
 このほか東海東京証券は最低1000万と岡三証券は最低2000万でそれぞれファンドラップに2007年6月参入
ラップ口座の比較 

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Aug.27, 2008.
reposted in Dec.15, 2010.

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大手証券会社の業務概況(2010年6月末)

2010-12-10 21:12:47 | Securities Markets
Hiroshi Fukumitsu

伝統的には 
 ブローカー業務(委託売買)
 ディーラー業務(自己売買)
 引受(アンダーライティング)業務
 売り捌き(セリング)業務

この4つの区分だが、私自身は、株式市場を念頭において、どこから収益を稼いでいるかで分けた方がよいと考えている。順に委託売買手数料、売買損益、引き受け手数料、売り捌き手数料である。

(ブローカー業務とディーラー業務を証券会社が兼業することは顧客との関係で利益相反の恐れがあるというのは昔から指摘される論点である。この問題に関連して、辰巳憲一さんは『日本の銀行業・証券業』東洋経済, 1984年刊行のなかでしかし「継続的に営業している証券会社にとってディーラー業務は顧客間の証券売買をあわせ持つことも注意しなければならない。売買をしようとする顧客が市場の売買の相手をさがせないとき、証券会社が一時的にその相手となって売買を成立させ、後に証券会社自身が売買の相手をさがすことにより、市場における売買を円滑にしているからである」と述べている(p.30)。またディーラーにはマーケット・メーキングという公共性があるとして、あらかじめ定められた「すべての債券について売値と買値を市場に提示し、その価格で顧客からの売買注文に応じるのがディーラーのマーケット・メーキング機能である。そのためにはいつでも顧客の注文に応じられるように品揃えし十分な在庫をもつことが必要になる。価格付けされたどのような価格ででもどれだけの量でも売買に応じるというディーラー業務の必須条件はいってみればディーラーの公共的性格を構成する」(p.31)とされた。この辰巳さんの指摘は、まず債券市場を念頭に置いたものであること、証券会社の機能区分をどこから利益を得ているかではなく、どのような経済的機能を果たしているかで区分していることなどを指摘できる。そのために債券ディーラー間の売買にまで、ディーラーがマーケット・メーキング機能を負っているかのように、また表示された価格でどこまでも売買に応じるといった、現実にはありえないディーラーの姿が描かれている。
同じように証券会社の機能を考えるときに、債券市場を念頭に置き、証券会社の機能を説明しているものに丸淳子の『証券市場』新世社, 1990年がある。同書は教科書だが、多くの図版を用いて、数量的に証券市場の営みを紹介している点が優れている。つぎのように述べている。「ディーラーが積極的に取引仲介を行うのに対して、ブローカーは消極的に仲介する。すなわち、ブローカーは潜在的な取引を探知して、取引の成立を促進させるが、自己勘定で在庫を保有して取引の流動性を与えるということはしない。投資家が各自で取引相手についての情報を集めるにはかなりのコストがかかる。ブローカーによる探知に必要なコストが割安であれば、投資家は喜んでブローカーを利用し、探索コストである売買手数料を払う」(p.10).この丸さんの言い方には疑問が残る。ブローカーの手数料の本質は取引相手を探す探索コスト?なのだろうか。「ディーラーも投資家の売買を成立させるために行動するが、投資家の売買を成立させるために行動するが、ブローカーよりさらに積極的である。債券売買のように、売買注文が連続的でないとき、投資家は瞬時に売買できないばかりか、待ち時間中に生じる価格変動リスクも負担しなければならない。ディーラーは投資家の注文に対して、取引相手が見つからないときは、自分が相手になって取引を成立させる。このためには、デイーラーは自己勘定を保有している。」「ブローカーやディーラーのサービスは投資家による迅速な取引を提供するから、投資家はこのサービスに対してのフィーを支払う。ディーリングフィーの方がブローカレッジフィーより高いのはディーラーが在庫保有などに必要なより高いコストを負担しているからである」(p.107)この丸さんの書き方だと、ディーラーとブローカーの区別は、在庫をもつかどうかだけのようだ。またディーラーの収益源泉はそのフィーだとも取れる。
この丸さんの場合も証券会社の機能を債券市場からみるために現実とのかい離が生じていること、業務内容を経済的機能でまとめようとしたためブローカーとディーラーとの区別性が曖昧になっていること、など辰巳さんと共通する問題点を指摘できる。
近年のテキストから川北英隆さんの『テキスト 株式・債券投資 第2版』中央経済社, 2010年の説明は以下のとおりである。
「ブローカレッジとは、投資家からの有価証券注文を受け取り、取引相手を見つけ出す業務である」「ブローカーは売買が成立したときに委託売買手数料を受け取る。」(p.140)
「ディーリングとは、投資家から有価証券の売買注文に対して、業者が直接、相手方となる業務である。...債券店頭市場での取引、株式の取引所外取引はディーリングの形態をとることで成立する。」(同前)
「ディーリングでは、投資家が売りを注文した場合、それを買い取る必要が生じる。買い取らなければ機能の発揮ができない。逆に、投資家が買いを注文する場合、それに応えるためには買い注文の出そうな証券を日頃から保有しておかなければならない。逆に、投資家が買いを注文する場合、それに応じるためには買い注文の出そうな証券を日頃から保有しておかなければならない」(同前)
丸さんと川北さんの説明に共通する疑問を整理しておく。それはブローカーではなく、注文した投資家が探索していると思われること。そしてブローカーが提供しているのは、探索の手段(場所)であって、ブローカーが相手を探してくるわけではない、と私には思える。川北さんは別の株式流通市場の個所では、投資家の注文を証券取引所に伝達する証券会社の機能について「この証券会社の注文伝達機能はブローカレッジ機能と呼ばれる」と説明している(p.111)。この説明の方がブローカレッジの説明として、私には理解しやすい。またデイーリングでは、ディーリングする側の意思が問題であるはずなのに、まるでマーケットメーカーのように注文に応じることが義務であるかに説明されるのはどうも納得できない。川北さんの場合も債券市場から証券会社の機能をみるところがある。辰巳さんの指摘にもあったが、債券市場で証券会社は、自己勘定をもって顧客に向き合い、ディーラーとして顧客に金融仲介サービスを提供している。
「伝統的な債券店頭市場は電話回線で形成されている。投資家のほとんどは銀行や機関投資家などのプロである。その投資家が特定の債券を売買したいと思ったときには、複数の証券会社に電話をかけ、最も有利な値段を提示した証券会社と売買を約定する。
 一方、証券会社は投資家の買いニーズの多い銘柄を自己勘定で保有している。同時に、投資家が売却したいと希望した銘柄を一時的に自己勘定で購入することも多い。債券店頭市場における証券会社は、自己勘定を用い、顧客の売買注文に応じるデイーラーとして金融仲介機能を提供していることになる。」(p.127)他方で証券会社がほかの証券会社を相手にするときはbroker's bokerと呼ばれる仲介を専門にする証券会社が多用されているとのこと(pp.127-128))

ka
最近では
 マーケット業務
 投資銀行業務
  M&Aのアドバイザリー(助言)
  プリンシパルインベストメント 

トムソンロイターのリーグテーブル

野村證券組織機構図(2011年12月1日現在)
金融市場本部 エクイテイ本部 企業金融本部 業務管理本部 グローバルリサーチ本部
大和証券組織図(2011年10月1日現在)
管理系10部1室 商品本部 営業本部 ダイレクト本部 SMA本部
  ⇒ラップ口座 SMA 
三菱モルガンスタンレー証券本店組織図(2011年11月24日現在)
事業法人部第一部~第七部 金融法人部 公共法人部 事業法人営業部 法人営業部 公共公益法人部 
  営業部第一部~第四部 お客様サービス部 プライベートバンキング部 総務管理部 

2010年6月末 証券会社の数は302社 そのうち取引所参加者は117社 資本金で100億円以上は27社 本店を含む店舗数は2236ケ所。従業員数は94,186人であった(日本証券業協会統計情報参照)。
主要5社という言い方がある。これは野村、大和、三菱UFJ、みずほ、日興コーデイアル。このうち三菱UFJと日興コーディは非上場である。この5社では野村の存在感は大きい。営業収益でみると大和、三菱UFJ、みずほの倍近く。日興コーデはさらに大和などの半分。2008年秋 野村がりーマンのアジア太平洋部門と欧州中東部門を買収したこと(資産を引き継がず、雇用を引き継ぐ形で人的資産を買収したことは興味深い 前者が3000人 後者が2500人 IT関係の人材を含めると8000人が合流し、野村の社員数は1.4倍に膨れたとされる)、またやはり2008年秋に三菱UFJとモルガンが組んだこと、2009年秋には日興コーデが三井住友の傘下に入ったこと、など、大きな変化が相次いで起こっている。

4-6月期の推移(2008年 2009年 2010年)
2010年については 投資銀行業務 個人営業 有価証券売買の主要3部門が不振だった。
社名、営業収益(各年)、最終損益(各年)の順。単位は億円
社名200820092010200820092010
野村2,5783,6352,598-756 114 23
大和1,6531,321 71658 178 -11
三菱UFJ* 1,4341,028 664-69 132 227
みずほ1,471 953 553511,295 4
日興コ―デ*855 424 55068 82 102
岡三150 188 1577 17 16
SMBCフレンド*138 190 14227 51 20

*非上場 上から5社が主要5社である。2008年のみずほは旧新光と旧みずほの合計。ネット証券はこれらの主要証券より下位になる。ネット証券はネットを通した個人ビジネスが中心。営業収益水準でみると、外資系証券は主要証券の4分の1程度の規模のものとして、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレーの各日本法人。5分の1程度の規模としてドイツ証券、UBS、メリルリンチ、リーマンブラザース、クレディ・スイス、JPモルガンなどがある。その特徴はM&A、不動産ファンド、証券化業務など投資銀行業務を中心とする点。外資系では2007年後半以降2008年にかけて大幅な人員削減があった。このうちリーマンが2009年9月に破綻したのであった。
 株式低迷 投資信託の収入が株式の委託売買手数料より大きくなっている(主要5社では投信の手数料は株式の手数料の1.6倍)。ネット証券ではFX関連の収入が株式委託売買手数料の伸び悩みを補っている。しかし投資信託の販売は2010年7-9月に入ると低迷。投信に依存した収益にも限界が出てきた。そこで外国為替証拠金取引に取り組む動きはあるものの、投資家の株式離れが深刻な状況にあるとの認識が広がっている。

2010年4-6月期の手数料収入 単位:億円
社名投資信託株式
野村678621
大和302160
三菱UFJ25864
みずほ100105
日興24370


  2009年の公募増資 2008年の10倍強 
  2009年の普通社債 11年ぶりの高水準 

上場会社における主幹事企業数
社名2008末2009末
野村 1,416 1,389
大和 810 772
日興 694 624
みずほ 308 307
三菱UFJ 246 259


主幹事証券
 大和証券 三井住友との合弁解消(2009末)による負の影響 大和は三井住友の出資比率引き上げの申し出を断り合弁解消へ 信用力低下 顧客離れ 大和の読みは銀行と証券を分離する規制強化 大和の読みはその後 アメリカの規制強化によりあたったものの合弁解消による法人事業の弱体化が目立つ 大和CMは独立系として再出発→発行企業に有利な低い利回りで主幹事証券を得ようとと努力 危機感あり 2010年5月 香港 インド シンガポールで増資を実施。韓国でも2010年度内に増資予定。   
 日興コーディアル証券 2009 シティGによる売却方針
 2009年10月三井住友FG傘下に入る 関係薄かった三井住友系を開拓 三井住友の支援を得て、欧米アジアに再進出(日興は旧トラベラーズG:現シティGと提携後、順次海外から撤退した)。公募増資や債券発行では海外の投資家からも資金を募るほか、債券引き受け 円建て債起債支援のほか、日本企業の海外企業の買収などで仲介助言を行ううえで海外展開は不可欠。2010年10月にロンドンの拠点を12年ぶりに復活。2010年度中に香港、NYに拠点設置へ。
               三井住友FGの公募増資で主幹事獲得   
               三菱系から離れる
 みずほ           2009年5月 新光証券と旧みずほ証券が合併
               2010年夏 インドに現地法人設立とも

金融庁の孤立した業務分野規制緩の継続姿勢
2009年6月 金融庁は、サブプライム危機後の環境のなかで、既定方針に従い、銀行と証券の兼職規制を緩和、顧客から拒否されなければ銀行証券間の情報の共有(1999年には包括同意書を前提に情報共有を認めた 共同訪問も解禁)を認めた。
 これは2004年に銀行に証券仲介業務を解禁。1998年の金融持ち株会社解禁、1993年の相互参入解禁などと並ぶ、金融証券の業務分野規制緩和の歴史的な一歩ではあるが、サブプライム危機後、金融機関に対する厳しい視線を全く考慮しない決定といえる。
 欧米では金融危機を踏まえて、資本規制と業務分野規制のいずれも強化の方向にある。狭義の自己資本比率は現状で2%に対し、7%。大手行に対してはこれより厳しい規制を上乗せすることは確実。日本の銀行の自己資本比率は、依然として国際的にみて低い。金融機関に自助努力を促す国際的動向とこのようにかい離していると、日本は金融機関に自助努力を促さず、公的資金で救済するつもりなのかと批判を浴びかねない。加えて業務分野規制をなお緩和しようとする金融庁の姿勢には、違和感が強い。
 金融庁の業務分野緩和方針を受けて、みずほは、2009年7月 兼職制度を導入 みずほコーポ内の営業に兼職者(ダブル・ハット)を配置した。三菱UFJはこの情報共有制度を採用した。しかし銀行と証券の間の情報の共有に対して企業側には抵抗感がある。また米国で進展した規制強化と金融庁の規制緩和方針は正面からぶつかっており、金融庁との規制緩和方針は、金融機関の国際的展開と齟齬を生ずる可能性も高い。 
 たとえば三菱UFJ証券。2008年秋 三菱UFJがモルガンに90億ドルを出資 当初 モルガンの日本国内の証券子会社を三菱UFJ証券と全面統合する計画を立てた。しかし監督規制の点で問題が生ずることがわかり、結局、2010年5月に、三菱UFJモルガンスタンレー証券とモルガンスタンレーMUFG証券とを発足させた。前者や個人向け+投資銀行業務、後者が法人向けだが、顧客と業務の重複を懸念されている。しかしこのような矛盾が露呈した一因は、規制強化が流れを無視して安易に統合の利益を追求した点にあるのではないか。

証券市場論講義 財務管理論講義 サブプライム問題 経営学講義 現代東アジア論講義

キャリー取引・外為証拠金(FX)取引そして為替相場

2010-12-10 16:06:41 | Securities Markets
Hiroshi Fukumitsu

ドルキャリー取引とデフレ傾向
 2009年に入って以降、デフレ傾向が続き(消費者物価指数、国内企業物価指数、企業業向けサービス価格指数は2008年夏以降下落)、政府日本銀行の警戒感は高まっている。背景には2008年9月のリ-マンショック以降の消費の低迷がある。マクロ的にも大きな需給ギャップの存在(年40兆円規模)が指摘されている。
 企業行動や家計行動が、抑制の連鎖を続けることが懸念される。企業は値下げ競争に陥り、消費者は消費の抑制に。設備投資に加え、雇用を控え、賃金の抑制(収入の減少)・失業の増加につながっている。量産効果や調達先への圧力で切り抜けられる大企業に比べて中小企業が苦しい。
 デフレスパイラル(物価下落と景気悪化の悪循環)から低成長のワナにおちいることが懸念されている。
 問題を錯綜させたことの一つは、資源価格の変動である。2008年の高騰とその後の急落がデフレ傾向を強めている。
 もう一つの背景が円高である。円高は日本の輸出のブレーキ(国内総生産の下押し)になるとともに、輸入物価を押し下げるので、デフレ圧力になるという理解がある(重原久美春「日銀 円高への警戒強めよ」『日本経済新聞』2009年10月12日)。2008年9月のリーマンショックのあと、1ドル108円程度から急激な円高が生じた。2009年1月頃には1ドル90円前後となった。2009年3月頃には100円前後まで円安に戻した。その後は、10月-11月に向けて90円前後にまで円高となっている。
 そして現在の円高については米国の金融緩和政策の影響が指摘されている。低金利のドルを元手に高金利通貨などに投資するドルキャリー取引currency carry tradeが活発化しているとされる(日本銀行が量的緩和政策をとった2000年代半ばには円キャリー取引が話題となった)。円は「高金利」ではないが、ドルよりは金利は上についている。米国の景気停滞長期化(=景気対策の持続)の観測が高まるとこの傾向が続くことになる。
 円高傾向は輸出企業のリスク対策としての円買いや、個人の投資目的での円買いを促し、さらに円高圧力を高める面がある。そして日本銀行(ゼロ~2%上昇程度の上昇という物価安定の目安)に対しては現在の超低金利政策(事実上のゼロ金利政策 政策金利を年0.1%前後に置く)に加えて、さらに追加の政策を要求する圧力が高まっている。

為替相場についての学説
 そもそも異種通貨の交換レートである為替相場は、市場で自由に変動するときはどのような理由で変動するのだろうか。伝統的にはまず購買力平価という考え方がある。通貨の需給の大きな要因を、通貨で買える商品やサービスの格差に求めて、交換されるレートのところで、購買力がバランスしているとみる。この考え方では貿易収支の不均衡や、それぞれの国の物価水準の動きに注目する。
 もう一つは金利平価という考え方。金利収益がバランスすることろで、平価はバランスしているというもの。この考え方では、国と国との金利格差の変化に注目する。
 かつて30年近くまえに大学の講義で、私は、為替相場について、長期的には購買力平価説purchasing power parityが成り立つが、短期的な変動については金利格差の変化が説明要因として大きいと説明した。つまり短期的には金利水準の変動が為替の変動に大きな影響を与えるが、長期の動きについては貿易収支の変化が依然として重要だと説明した。短期的には、現物相場・先物相場は、現物・先物それぞれの金利収益をバランスさせるように変動する傾向がある。こうした考え方を金利平価説interest parityと、呼ぶ。まとめていえば、短期的には金利平価、長期的には購買力平価が妥当するとした。こうした古典的ともいえる為替相場の学説は、現在も大きくは変化していない。
 熊野英生さんは購買力平価説、フローアプローチ(国際収支説)、アセットアプローチを為替学説として説明している。そしてアセットアプローチが最も現実に合うとしている。私は、アセットアプローチは金利差を理由とする資本移動で、為替需給を説明するもので、金利平価説と同内容だと考える。熊野さんは、実質長期金利差より名目の長期金利差の方があてはまりがよいとしている(参照 熊野英生「現在の主流はアセットアプローチ」『エコノミスト』2010年10月26日, pp.30-31)。

学説から考えられる基調
 貿易収支については黒字基調が続いている。長期的な購買力平価説に従えば、これは円の需要を高め、円高基調を促すと考えられる。ドル相場をみるときに対米の貿易収支でみるか、米国に限定せず貿易収支全体をみるかは議論の余地がある。
 米国からみた対日貿易収支は2005年2006年と過去最大の赤字だった。2007年には前年比6.5%減の827億ドル。この問題が目立たなくなっているのは、対中国の赤字がその2~3倍規模に膨れ上がっているためである。2007年には前年比10.2%増の2562億ドル。貿易収支の赤字計は、ドル安転換による輸出拡大もあり6.2%減の7116億ドル。米国の貿易赤字は2002年から2006年まで拡大したが、2007年は6年ぶりに縮小した。
 日本の国際収支。注目される変化は、日本企業のグローバル化もあって、貿易収支に比べて所得収支の黒字が大きく伸びていることだ。つまり円に対する実需で考えたとき、投資(直接投資・間接投資)に伴うものが大きくなってきているということだ。
 2007年の経常収支黒字は前年比26.0%増の25兆円。所得収支黒字が18.4%増の16.27兆円。貿易収支は30.8%増の12.37兆円。輸出・輸入とも過去最大で対米の鈍化をアジア・欧州などへの輸出が補ったという。
 他方では、日本では低金利が続いたのに2004年の後半あたりから海外の金利は上昇し、2007年にかけて内外金利格差が拡大した。これは金利平価説からみて、海外通貨への需要を高め円安要因になった。

固定相場制と介入操作
 次に為替相場制のあり方は大きく分けると固定相場制と変動相場制の2つ。この両者の中間にあたる相場制度もある。たとえば固定相場であるが、一定の変動幅(バンド)は許容するもの。固定相場制に近いほどその水準を維持する介入操作問題が浮上しやすい。
 固定相場制は、国際的に取引によく使われる基軸通貨との関係で表されることが多いが、とくにドルに自国通貨を結びつけるもの(対米ドル交換レートを維持しようとするもの)をドルペッグ制という。ドルが国際的に圧倒的だった時代は、ドル高に伴い自国通貨の相場も上がるメリットがあった。しかしアメリカの国際的な退潮とともにドルペッグを維持していると、ドル安とともに自国通貨の相場も下落するリスクが表面化。ドル離れの傾向も生じている。

円安の進展と円借り(キャリー)取引
 低金利で借りた円を売って米ドルや豪ドルなど金利の高い通貨を買い、金利差の利益を得る投資手法。ヘッジファンドが活発に行ったとされ円安進行の一因とされた。この投資では、円安が進行するほど円建てでみた収益は大きくなる。
 このような投資は日本の低金利(そして円安)が持続する条件で拡大し、日本の金利が上がりそう(円高になりそう)になると減少する。日本の低金利が続いた背景には2001年以降のデフレ傾向がある。その中で、日本政府としては財政出動余力乏しく日本銀行に金融緩和を求めざるを得なかった。
 また2004年3月 為替相場への介入停止(国内景気の回復 ブッシュ政権からの介入への否定サイン)は市場に相場を委ねることを意味したが、金融緩和に加え2005年以降は米国の金利引き上げによる金利格差が拡大。
個人も外貨へ投資を増やした(外貨預金 外貨投信 外国為替証拠金FX取引)。これらも円安を進めた。このようなFX取引など個人投資家の動きも無視できない要因になっている。
 なお円借り取引の規模については、広くとらえると残高規模10兆円から20兆円台(1500-2000億ドル)といわれる(ドイツ銀行やシティグループの推計 JPモルガンは40兆円とした)。世界全体の外国為替市場の取引規模が1日に70兆円規模(6000億ドル)に十分大きな影響力をもちうる大きさだというのである。なお東京外国為替市場の規模は1日110億ドル規模(1兆円規模)である(以上の数値は2007年前半のもの)。
 為替の変動で利益を出そうという動きは、株価の動きと関係があるともされる。株安が進行すると株の評価損を為替の評価益で補おうとするというのである。
 やがてより高い収益を求めて配分の変化(外貨預金→外貨建て投信 外国為替証拠金取引へシフト 07/01末外貨預金6兆5957億円:2005/08 9兆円近くから以来減少 外貨建て投信:01/07 4兆円弱以来増加)。2006末の段階で個人の外貨資産残高は40兆円を超え、生命保険会社の残高の39兆円あまりを超える。個人の資産運用の動向はいまや為替相場決定の無視できない要因である。

円借り(キャリー)取引の解消
しかしもし円安から円高への反転が予想されるとどうなるか。円高が進行すると、外貨での運用は円建てに戻したとき損失を抱える。そこで損失を回避するため
外貨資産を売って円に戻す、逆の動きが生ずる。これは円借り取引、外貨運用の解消につながる。解消は円買いでもあるから、円高の進行をさらに加速する。
 円安の進行は日本の輸出を促す効果があった。新興国経済の活発化もあり貿易収支の黒字幅が2007年には拡大した。2007年後半からは、サブプライム問題の表面化もあり、海外の金利は急速に引き下げられた。2006年6月に5.25%あった政策金利の日米金利差は2008年1月末には2.5%まで縮小。これらはいずれも円高反転要因であり、2007年後半に入って円は急激な円高を経験した。2005年以来の円安局面は2007年6月に底(124円)を打ち円高に転じた(08年1月23日には104円台)。

円相場の動きと企業収益
円安が進行すると輸出企業(自動車 電機 海運など)では、円で見た利益金額がかさ上げされる増益効果がでてくる。また国内経済が不振の場合は、経済を再建軌道に乗せるのに円安は役立つ。円高の場合は逆である。外貨建てのコストは上昇するが、外貨建ての売り上げの効果が大きくでる。正確には期初の想定レートを実際のレートが上回った分が、利益の上乗せになってくる。
 しかし企業はこのような変動の増益を単純に喜べない。むしろ利益変動要因として警戒している。海外の顧客に対して優位にある企業の中には、輸出代金を円建てに変えるところも少なくない。円高など為替リスクを回避できること、交換手数料を節約できることなどメリットは少なくない。
 このような為替変動に対して為替予約を入れて円ベースでみた損益を確定するというのが短期的にみたリスク管理の基本である。中長期的には海外生産や海外調達の拡大が、リスク管理に役立つ。
 しかし円安の進行はこの動きに制約となる。外貨で受け取ったほうがとくになるからだ。
 貿易の伸張という点でも円安は有利。しかし日本企業が国際化し、海外拠点を増やしているので、事態は複雑である。海外拠点での生産・輸入・輸出。円安の与える影響は、複雑になっている。

為替の季節変動
 日本企業が決算期を控える時期(2-3月、8-9月)は円買いが増え円高傾向。逆に米企業の決算期(12月)は円安傾向。新年度入りの時期(4-5月)は、国内機関投資家の新たな外貨投資で円安傾向とされる。

デフレ傾向とドルキャリー取引
 2009年に入って以降、デフレ傾向が続き(消費者物価指数、国内企業物価指数、企業業向けサービス価格指数は2008年夏以降下落)、政府日本銀行の警戒感は高まった。背景には2008年9月のリ-マンショック以降の消費の低迷がある。マクロ的にも大きな需給ギャップの存在(年40兆円規模)が指摘されている。
 企業行動や家計行動が、抑制の連鎖を続けることが懸念される。企業は値下げ競争に陥り、消費者は消費の抑制に。設備投資に加え、雇用を控え、賃金の抑制(収入の減少)・失業の増加につながっている。量産効果や調達先への圧力で切り抜けられる大企業に比べて中小企業が苦しい。
 デフレスパイラル(物価下落と景気悪化の悪循環)から低成長のワナにおちいることが懸念されている。
 問題を錯綜させたことの一つは、資源価格の変動である。2008年の高騰とその後の急落がデフレ傾向を強めている。
 もう一つの背景が円高である。円高は日本の輸出のブレーキ(国内総生産の下押し)になるとともに、輸入物価を押し下げるので、デフレ圧力になるという理解がある(重原久美春「日銀 円高への警戒強めよ」『日本経済新聞』2009年10月12日)。2008年9月のリーマンショックのあと、1ドル108円程度から急激な円高が生じた。2009年1月頃から2月上旬には1ドル90円前後となった。その後2009年3月頃には100円前後まで円安に戻したが、10月-11月に向けて90円前後にまで再び100円割れ90円前後の円高となっている。
 現在の円高については米国の金融緩和政策の影響が指摘されている。低金利のドルを元手に高金利通貨などに投資するドルキャリー取引が活発化している(日本銀行が量的緩和政策をとった2000年代半ばには円キャリー取引が話題となった )。円は「高金利」ではないが、ドルよりは金利は上についている。米国の景気停滞長期化(=景気対策の持続)の観測が高まるとこの傾向が続くことになる。
(資源国や新興国では保有や決済の面でドルから離れるドル離れが生じている)
 円高傾向は輸出企業のリスク対策としての円買いや、個人の投資目的での円買いを促し、さらに円高圧力を高めている。そして日本銀行(ゼロ~2%上昇程度の上昇という物価安定の目安)に対しては現在の超低金利政策(事実上のゼロ金利政策 政策金利を年0.1%前後に置く)に加えて、さらに追加の政策を要求する圧力が高まっている。

円相場の動きへの投機・リスクヘッジ 
 為替相場の進行の方向を読み取って、利益を得ようとしたり、損失の回避やヘッジをする動きが重なる。このような動きも進行を加速する。
 輸入業者は円安が進行するもとでは為替予約(先物の円売り)を入れてリスクヘッジをするが、円高に変化すると今度は輸出業者が受け取りドルの目減りを避けようと為替予約(先物のドル売り)を入れる。業者としては、相場にかかわらず半年ほど先まで半分ほどは予約を入れてあらかじめヘッジしている。それを増やすかどうかである。
 リスクヘッジの動きは、相場の基調をバランスさせる(円高なら円高を修正し、円安なら円安を修正する)ように働く。

外国為替証拠金取引の規制強化を怠る無責任な金融庁
 ところでこのような円相場の動きに、さきほども述べたが個人の投資が一定の役割を演じている。外貨預金、外貨建て投信、外貨建て債券などへの投資と外国為替証拠金取引を通じて。しかし為替相場の変動リスクは大きく、とくに証拠金取引はリスクが高い。FX取引に個人を巻き込んだことに私は批判的である。
 1998年の外為法改正で解禁された外国為替証拠金取引FX: foreign exchange margin tradingは、個人投資家にも証拠金取引の機会を提供した。証拠金に対する取引金額の比率がレバレッジで、レバレッジの比率は2倍から40倍程度まで(やがて数百倍といったサービスを提供する業者も登場した)。証拠金倍率規制を段階的導入。2010年8月1日から50倍、2011年8月1日からは25倍が上限。
証拠金に対してこの倍率の大きさのドル(円に対応したドル)が買える。
なお証拠金の一定割合を超える評価損が生じた段階で取引を停止して清算する契約(自動ロスカット契約)を結ぶこと、レバレッジの比率を低めに抑えることは、リスクを抑える役割がある。なお高金利通貨を買うと金利差がスワップポイントとして証拠金につみあがってゆくこともメリットとして喧伝される(逆の場合は支払いが必要)。円安にふれればもうけが出るので、円高から円安にふれるところが試すべきポイントになる。しかし円安にふれると思っていたら円高がさらに進行すれば大損である。
 外国為替証拠金取引forex margin contractsは、解禁当初から予想されていたとおり、市場にいかがわしい業者があふれ、多くの個人投資家を巻き込むことになった。
そこで2005年7月施行の改正金融先物取引法では、FX業者の登録制度を導入、問題業者には業務停止命令を出すことになり、400以上あった業者は100社強に減少したとされる。希望しない人への電話勧誘や断定的判断による勧誘を禁止し(取引所取引の勧誘や訪問勧誘は解禁するなど矛盾した面もある)、登録を資本金5000万円以上の株式会社と金融機関に限定。自己資本規制比率を120%以上とした。
 登録制度はそれまでの野放しよりはましだが、登録業者で取引したから投資家は為替変動リスクから解放されるわけではない。業者は、顧客の預かり資産を分別管理するように規制されたが、「信託保全」により顧客の預かり資産の全額保護を行っている業者はなお大手に限られた。業界全体で基金などを作って顧客の保護をするといった制度も存在しない。金融庁の態度は極めて無責任なものだった。
 07年度のFX売買金額は、金融先物取引業界分(相対取引)が694兆円、東京金融取引所が運営する外為証拠金取引「くりっく365」(05年7月取引開始)が46兆円。あわせて740兆円の巨額に達している。同時期の3取引所株式取引取引の個人投資家分235兆円の3倍に達している(しかしレバレッジを考慮すると、外為証拠金取引で動いている個人投資家の資金はなお株式取引で動いているお金よりはるかに小さい)。(2009年7月には大阪証券取引所がFX市場開設)
 取引所取引は倍率は20倍以内。取引通貨は、米ドル、ユーロ、ポンド、豪ドルの4つ。取引事業者5社でスタート。取引は土曜、日曜、元日を除く24時間。証拠金は取引所に預託されるので証拠金保全は相対取り引きより進んでいる。
 ちなみに2006年3月末の外為証拠金の預かり残高は約6000億円で1年前の1.6倍(03年3月末の4倍以上)。08年3月末のFX口座数は約105万口座で5年前の20倍(矢野経済研究所推定)。
 これは個人投資家が極めて高い倍率で(教科書では初心者は2倍に抑えろというが実態は高倍率で投機的)、小さな値動きでの短期売買を繰り返していることを反映している。
 他方で企業が外為証拠金取引の利用を拡大している。これは24時間ネットで取引できること。銀行の外貨両替に比べ外貨との交換手数料が5分の1程度と安いことが理由利用だとされる。そうだとすればますます、取引業者には財務の健全性や、顧客資産の保全への配慮が求められる。

予想されていた混乱と金融庁の無責任
 最初から予想された混乱を行政がなぜあえて引き起こしたのか、そして最低限の規制強化だけで必要な規制をなぜ後回しにているのか。理解できないところだ。金融庁も外国為替証拠金取引を宣伝した記事を掲載した新聞や雑誌も生じた結果に対してあまりにも無責任である。
 2008年1月FX取引の9割を占める店頭取引に対しても、税務署への支払調書提出が義務付けられた。これまでは取引所取引だけに義務付けられ、店頭FXは実質的に野放しの脱税の温床になっていた。常識では考えられないことだが、金融庁、国税庁ともこの脱税市場を長年にわたり放置した。この市場をこのように放置して育成することに、どのような政策目的があったのかは不明だ。
 2009年8月。ようやくFX取引規制の順次実施が決まった。主な内容は3点。①証拠金を信託銀行にあずける区分管理の導入(金銭信託 既存業者は半年の準備期間を置き2010年2月から義務化)。②証拠金倍率規制を段階的導入。2010年8月1日から50倍、2011年8月1日からは25倍が上限。③顧客の損失がある水準に膨らんだ時点で強制的に取引を終えるロスカットルールの整備・順守義務化。

主流のFX店頭取引に残る疑惑:ストップ狩り
 FX市場は、店頭取引と取引所取引に別れている。主流の店頭取引は競争が激しく売買注文手数料が無料のところが多く、売買スプレッドも1ドル当たり2銭程度と低い。他方、取引所取引は手数料は店頭より高いが、税制上、取引所の方が有利とも言われる(申告分離課税か総合課税か 株価指数先物・オプション取引との損益通算が可能、損失額は翌年からの3年間にわたり繰越控除可能 他方 店頭FXは給与所得2000万以下でFXの利益が20万以下でほかに雑所得がなければ申告不要というメリットもある)。
 取引所FXの代表格が東京金融取引所の「くりっく365」(マーケットメーカー5社が提示した買値・売値から投資家にとり最も有利な水準を取引所が提示 投資家は手数料を払う)。2008年5月には大証もサービス開始。
 なお注文処理の過程で相場が変わり約定価格が注文価格とずれることをスリップページと呼んでいる。こうしたスリップが起きるのは注文の出し方と関係がある。指値の注文ならその値段でだけの売買になる。しかし逆指値といってある値段になったら買い(あるいは売り)という注文なら、その指値より上のところで買い(売り)注文が成立する可能性がある。これは逆指値では指定した値段を超えると成行注文になっていると理解できる。このようなスリップをコントロールするには許容できるスリップの範囲を指定することが有効だとされている。
 指値注文limit order
成行注文market order
逆指値注文stop order or stop-loss order
業者の側は、買値(売値)を一瞬動かして、安値で外貨を取得して、それをすぐに転売して儲けます。こうした手法をストップ狩りといいます。これは疑惑ですが、問題はこうした取引を業者側がする余地があるのが現在のFX店頭取引だといえる。
 最近では証拠金倍率を1として、実質的な外貨預金としての利用も広がっている。外貨預金に比べた売買コストの安さ(外貨預金が1ドルにつき往復手数料ネット銀行50銭からメガバンク2円のところ、1-4銭程度)が注目されている。ただしFX口座から外貨を引き出すには多くは別途手数料が必要だから使い勝手は外貨預金と全く同様とはいえないのではないか。
 
 なお外貨への交換手数料を安くして外貨建て金融商品に誘う例は、ドル建てMMFなどでもみられる。逆に外貨預金や投資信託購入を条件にセットの円預金の金利を引き上げる手法もある。
 外貨預金は通常は1ドルにつき為替手数料を日本では片道1円とる。往復で2円。つまり円預金より2%擦り減る計算だ。だから少々金利が高くてもそれが2%程度であれば、実はお話にならない。
 
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
originally appeared Ma.24,2009.
correctd and repostd Nov.25, 2009 and Dec.10, 2010.  

現代の金融システム 財務管理論
現代の証券市場 証券市場論

ネット証券 online brokers

2010-12-10 12:30:53 | Securities Markets
Hiroshi Fukumitsu


2007年には個人売買の9割がネット経由に
 インターネットを通じた証券売買を仲介する証券会社をネット証券と呼んでいる。ネット証券は1999年に登場(背景には1999年10月の株式委託売買手数料自由化)。格安手数料を武器に成長した。米国ではonline discount brokersという言い方がある。米国では1970年代後半に、投資のアドバイスまでするfull service brokerに対して、discount brokerがまず登場し、続いてインターネットの普及とともにonline discount brokersが登場する。
 2007年度上期07/04-09)をとると個人売買代金に占めるネット経由売買比率は90.4%(135兆円のうちの122兆円。06年度下期06/10-07/03は87.4%)であった。またネット投資家の2割ほどは携帯で取引しているとされている。
 大手証券でも手数料を店頭より安くして、個人については明らかにネットへの誘導を図っている(07/04-06。大和で8割 日興で75% 野村で57%という)。(09/04-06では大和86% 日興82% 野村61%)

ブロードバンドの普及
 もちろんこの背景には、ブロードバンド(高速大容量)通信の普及がある。2007年6月末のブロードバンド(毎秒数メガビット 100万が1メガ)の世帯普及率は全国平均で52.5%に対し関東一都七県では61.8%(前年同期56.2%)でいずれの数値も半数を超えている。なかでも東京都は70.1%(64.1%)、神奈川県は64.5%(59.0%)などと高くなっている。また光回線の普及率は、全国平均が18.7%に対して関東一都七県では23.7%(16.0%)となっており、超高速の光回線が全国平均でも5分の1の世帯にすでに普及している。
 国際電気通信連合ITUのブロードバンドの定義では毎秒256キロビット以上で人口普及率をとっている。2007年末でデンマーク36.0%、韓国30.5%、ドイツ23.7%、オーストラリア23.3%、米国23.0%に対して日本は22.1%。なお中国は5.0%。
 韓国と日本は高速(毎秒100メガビットの光回線の比率がおよそ半分と高い。ドイツやイギリスはDSL[ADSL:電話回線を使ったデジタル高速回線]の比率が高い。米国やオランダはケーブルの比率が高い)。

スマートフォンの普及
 スマートフォンの普及もネット証券取引の拡大にはある程度寄与するであろう。
 スマートフォン(主要メーカーはフィンランドのノキア、ブラックベリのカナダのRIM research in motion、iPhoneのアップルなど 台湾のHTC 韓国のサムソン電子が追う スマートフォンの普及によりデータ通信利用が増えるとみられる 国内はシャープ、パナソニックモバイル、富士通、NEC、京セラの順 なおNEC カシオ 日立が携帯電話事業を2010年4月に統合 NECカシオモバイルコミュニケーションズは発足時国内2位になる予定)の普及(日本では2008年7月にソフトバンクがiPhone3G発売したことが画期 2005年のiPOD上陸によりネットコンテンツ市場が拡大 2007年のネットコンテンツ市場の規模は約1兆円 また2008年の携帯ビジネス市場の規模は1兆3524億円)とともに高速無線通信網(次世代高速無線技術WiMAX:KDDI系UQコミュニケーションズが2009年7月開始では毎秒受信で40メガ、送信で10メガビットで接続できるとのこと ただしエリアになお問題残る 2010年後半以降 光ファイバーなみの毎秒100メガビットの受信が可能なLTElong term evolution:3.9世代携帯3.9Gも射程に入っているがこちらも基地局の整備が課題)の整備が課題になっている。
第2世代G2 デジタル方式
第3世代G3 音楽・映像もやりとりできる 2001 NTTdocomo FOMA
 光ファイバー自体の大容量化技術も開発が進んでいる。KDDIなどは現在の9倍の容量のものを開発、2012年の実用化を目指している。

口座数などの変化
 ネット証券の大手5社とされるのはSBIイートレード証券(07/10 SBI証券を吸収合併)、楽天証券(楽天と連携)、松井証券(三菱UFJの出資15%を受け連携へ07/07)、カブドットコム証券(三菱UFJ系 2011年10月中にも私設取引終了に。投資家の利用が伸び悩んだとのこと)、マネックス証券(2004年に旧日興ビーンズを統合 2010年10月に旧オリックス証券を完全子会社化 2011年4月 米国のネット証券トレードシテーションGを4.1憶ドル、339億円で買収へ)の5社。
大手5社の2007年度上期の売買高は89兆9200億円であった。ネット売買に占める大手5社の占有率は73.7%である。2008年1月末の5社の口座数は447万6000(07年10月末で442万口座 07年3月末で406万口座 07年2月400万超え400万8000 06年2月末300万超え318万7000 20005年12月末で267万口座 05年6月末200万超え)。その後、口座数は08年11月末には485万。09年3月には500万を超えた(証券売買が実際に発生する口座は2006年以降あまり変化がないとされる)。その他の証券会社分を合わせるとネット口座数は2009年3月末で1500万口座を突破している。

ネット証券は格安手数料で支持されている
 これらの中で手数料の点でSBIイートレードが支持を集めているとされる。2007年の個人売買代金265兆円9.6%減のうち、SBIイートレードは92兆円4.1%増。24.8%(4.6%増)。口座数は07年末で154万(06年末135万口座)。2位は13.7%の楽天証券。(2010年の個人株式売買シェアはSBIが35%、楽天が15%、松井が8%、マネックスとカブコムがそれぞれ7% 大手5社の株式券の中でイートレードに支持が集まるのも業界最低とされる手数料率にある。大手5社の株式売買代金のピークは2006年でおよそ200兆円。それが2009年には半減。2010年には2006年の57%減の86兆8000億円余り。)
 SBIイートレードは現在は圧倒的だが、松井が三菱の出資を受け入れたことから、松井とカブコム(三菱UFJ系)が一体化してイートレードを追撃する可能性も排除できなくなっている。SBIイートレードとカブコムがぶつかっていることを示す今一つが、夜間取引市場をめぐる両社の綱引きである。
 ネット証券全社が扱うのは、現物株のほか、外貨MMFそしてFX。松井は、投信や外国株は扱わず、コールセンターを充実させるなど、顧客の中高年を意識した体制。カブコムは売買注文で最も多数の注文種類を並べている。カブコムは投信は扱うが、外国株、海外ETFは扱わない。SBI,マネックス、楽天は、投信、外国株、海外ETFのすべてを扱う。
 投信の販売については、大手と顧客の奪い合いをしている。
ETS(PTS)について 

  5社平均料率
2002年度 0.125%
2005年度 0.074%
2006年度 0.058%


社名 2006年度の料率
マネックス 0.107%
松井 0.091%
カブコム 0.079%
楽天 0.045%
イートレード 0.033%



 なお2006年の個人売買代金は321兆円19%増であった。
 口座開設は容易であるので当然ながら複数のネット証券に口座を持つ人が多い。2007年5月におこなわれた調査によると平均口座数は2.5。

2007年にネット証券は売買高の減少を初めて経験した
 この間、大手5社の株式売買代金(売り買い合計ベース)は毎年伸びてきたが、2007年は2006年比で8.3%減の185兆円(2006年は202兆円 2006年度も2.5%減の187兆円)。初めての減少は注目される。このような売買代金の変化の中で、収益源の多様化が、ネット証券についても求められる。たとえば信用取引による金融収益。投信の販売手数料など。信用取引では株下落時も収益のチャンスがあるとすることで、下落時に売買を促すこともできる。投信は販売手数料が得られ、その後は信託報酬を得られ安定収入となる。


逆風下での業績格差
 2007年度上期の連結業績をみるとマネックスと楽天が減収減益。イートレード、松井、カブコムが増収増益と業績格差が顕著にでた。イートレードととカブコムは株式売買の落ち込みを投信販売で補った。イートレードは信用取引で自己融資の比率を上げたことで金融収益を改善し、カブコムは投資有価証券売買益も利益に加えた。松井は投信を扱っていないが、2006年9月に行った信用取引の手数料無料化を2006年12月に有料に戻した結果、増益を確保した。
手数料で劣位にあるマネックスは個人売買の減少の影響が大きく、楽天はシステム関連損失(システム障害が多発しているにも関わらず適切な防止策をとらず金融庁から行政処分を2度にわたって受ける失態を演じ評価を落とした)が大きく、それぞれ減益となった。

2009年夏の手数料値下げ競争の再燃
2009年7月13日午前に業界2位の楽天(シェア1割超)が値下げを発表(2009年8月3日から最大58% 7月11日報道)。これは業界1位の(シェア4割超)ぼSBIに対抗して顧客を囲い込む作戦とされた。これに対して同日午後業界1位のSBIがさらに低い料率を提示した。再度、楽天は引き下げ方針を示すと、7月16日、一段と低い料率を打ち出した。これは業界最低水準の手数料という看板死守を図ったもの。
 この動きに対して、松井は静観の構え。また株式売買のシステム契約を見直して利益率の改善を図った。
 これに対しカブコムは2009年9月1日から信用取引の手数料無料とする範囲を、前営業日取引残高あるいは新規取引額が9000万以上から8000万以上に引き下げ、信用取引に焦点をあてて顧客囲い込みの作戦に出た。

2010年度前半 減益に苦しむネット証券
しかしながら株式売買が低迷したこともあり、2009年から2010年にかけて、ネット証券は減益に苦しむことになる。収益源として外国為替証拠金(FX)取引や投資信託の販売の収入などの拡大が貢献したものの、株式委託手数料の減少の影響を補いきれなかった。外国為替証拠金取引については2010年8月からの規制強化により取引が減少したことも響いた。
 2010年4-6月期、大手ネット証券5社は株式売買の低迷がたたり、営業利益で黒字であるが松井を除く4社は前年同期比で減益。純利益では純利益で黒字であるが、SBIと楽天を除く3社は前年同期比減益だった。
 2010年7-9月期、株式売買低迷の影響は続き、営業利益、純利益ともに5社すべてが前年同期比減益となった。
 ネット証券各社では、投資信託、外国為替証拠金取引、デリバティブなど株式売買以外の取引の強化に取り組んでいる。

ネット証券での月間売買高は2005年12月の25兆円をピークに減少。2006年1月のライブドア事件は投資家を離反させた。08年8月には8兆8400億円と3年3ヶ月ぶりの低水準。口座を開いたものの、株安で様子見で取引しない個人投資家が増加する結果になっている。その後月10兆円台が平均。しかし2009年9月には7兆円台、さらに2009年11月に売買は6兆5597億円まで落ち込んだ。その後2010年3月に8兆5082億円まで回復しものの2009年度売買高は106兆5350億円(2009年は106兆3605億円)と低水準。
 この状況でネット証券は収益事業分散のためFX(個人外国為替証拠金)取引仲介を広げている。また野村証券がジョイベスト証券を2009年11月に吸収。2010年5月にはマネックス証券(3位)とオリックス証券(7位)が合併するなど(SBIに次ぎ業界2位へ 3位が松井 4位が楽天 5位がカブコムに変化)、再編も進んでいる。株式売買低迷の原因としては、円高による企業業績の悪化、企業による公募増資の強行で、株価が落ち込んだことが大きい。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Mar.13, 2008.
Corrected and reposted in May 1, 2010 and Dec.10, 2010.
 
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櫻川昌哉『金融立国試論』光文社, 2005

2010-12-06 07:44:17 | Economics

櫻川昌哉『金融立国試論』光文社, 2005

Hiroshi Fukumitsu

 金融立国論はサブプライム問題のあと、金融立国の一つのモデルとされたヨーロッパの国々が行き詰まるなか評判が悪い。そこで金融立国という議論とはどういうものだったか。改めて調べるつもりになった。早速、金融立国を検索して最初に出てきたのが櫻川昌哉氏のこの光文社新書(2005年)だ。

 読んでみて気になったのは、まず金融の発達といったときに株式市場の発達に注目していることだ(第1章、第8章)。
 株式市場の発達が金融立国の眼目であるかのように記述されているのは、私は納得が行かない(文献を引用して銀行システムでは破綻するべき企業まで救済してしまうとしているex.p.34)。したがって確かに銀行システムの問題は指摘されているが、現実の株式市場がそれほど理想的には思えないので、この基調には疑問が残る。

 2008年以降、金融立国が破綻したアイスランド、アイルランドとも国の経済に比較して過大な銀行部門の形成。低い法人税による企業の誘致といった共通した特徴がみられる。国の経済規模に比して大きな銀行部門の形成は何を意味するのだろうか。考えられることの一つは、国内経済へのバブル的な影響である。もう一つは、アイスランドの銀行、あるいはアイルランドの銀行といいながらその活動が海外中心に展開されるということである。それがそれぞれの国の金融監督規制の不十分さと結び付くと、そこに不良債権の山を築く要素があるのではないか。
 アイスランドが非常事態宣言(2008年10月6日)
   アイルランドへの金融支援決定(2010年11月26日)
 アイスランドとアイルランドの違い

 これをもって櫻川氏の予見が正しかったと言えるだろうか。しかし株式市場を中心にした金融立国なら成功するともいえない。まず株式市場を中心にした金融立国には、一定の経済規模が必要なのではないか。そうでなければ、その市場で上場しているのは海外の企業ばかりという状況になるのではと思える。また櫻川氏の主張は、一種の断言であって、論理的なものではない。

 なお櫻川氏の理屈らしい指摘として技術システムのペースの速い遅いと金融システムのタイプを比較しているところがある。以下のようにされている。

先進技術の模倣期遅い(企業内に蓄積された継続的知識)銀行システム
技術パラダイムの
転換期
早い(経営者の経営努力)市場型金融システム


櫻川(2005)pp.34-35

 こうした枠組みを作ったうえで、今は技術の転換期であるから銀行システムはうまく機能しない、市場型金融システムへの転換が望ましいと櫻川氏は議論している。しかしこの枠組み自体が創作されたもので、これは主張ではあっても、証明とはいえない。

池尾氏(2003)と類似しているが劣っている
 このような枠組みは池尾和人『銀行はなぜ変われないか』(2003)にもあった。そこでは経済がキャッチアップの過程にあるときと、そこを完了した後とでは、金融システムのあり方が違ってくることが示唆されていた。

銀行中心の
金融システム
大口債権者大株主がvoice型のガバナンス産業の発展の方向が
わかっている場合は有効
資本市場中心の金融システムexit型のガバナンス企業支配権の市場が存在産業構造の組み換え 
産業部門を越えたダイナミックな資本移動といった課題に有効

池尾(2003)p.90-92

この限りでは両者に大きな差はないのだが、池尾氏はつぎのような理論的整理を加えている。すなわち金融仲介には、非対称情報問題の解決と、リスク分担機会の提供という2つの基本機能があるが、経済の発展段階が違ってくると、それらの中でどのような側面が求められるかがまた違ってくるとする。これは論理的な説明といえるものだ。池尾(2003)p.120-124

情報の非対称性問題の解決

事後資金調達後の行動の監視
モニタリングコストの重複を避ける 
産業銀行モデル
事前資金調達に値するかの見極め
資金提供に値するプロジェクトの発見


リスク分担機会の提供

通時的なリスクリスクプール機能のある銀行が機能を発揮
共時的なリスク資本市場中心の金融システムが分担に優れる


 このような池尾の議論をみたあとでは、櫻川の議論は理屈がなく物足らない。なぜ株式市場がそれほど良いものなのだろうか。さらにその株式市場が、銀行システムよりも優れたものだと無批判にいうこともできない。

 これに対して櫻川氏は、銀行システムに対して、預金保険制度によってオーバーバンキング(=預金過剰)が生じていると預金保険制度を批判する(櫻川(2005)p.166以下)。預金保険制度によって、預金者が金融機関を精査しないモラルハザードが生じているとする。しかし預金保険制度により、信用や信頼が薄らいでも資金の退蔵hoardingが防いでいるプラス面もある。預金保険制度は、金融システムの安全弁のようなものではないか。マイナス面とプラス面とどちらが大きいと評価するべきだろうか。マイナス面が大きいなら銀行システムではなく預金保険制度をやめればよい。しかし近年進行したことは預金保険制度の拡充だったこととこの主張はチグハグだ。

 櫻川氏はつぎのように批判する。<金融の社会主義化を推し進めるようなことを無意識のうちにやっていながら、金融がちっともよくならないと嘆いているのである>櫻川(2005)p.221。預金保険制度の拡充には私は社会的な合意があったと理解している。しかもその安全弁を外して、株式市場を育成する必要がどこにあるのだろうか。なぜそこまで株式市場を信仰しなければいけないのか。また逆に預金保険制度はなぜそこまで批判されなければならないのか。信仰にも批判にも証明はない。

証明がない主張の羅列
 結論として、この本の中には、主張は書かれているが証明らしい証明は書かれていない。現実の株式市場の分析が欠如したまま株式市場への信仰が語られている。現実の株式市場が果たしてそれほどの信仰に耐えるものなのか。預金保険制度への批判についても同じだ。学問的には主張をきちんと証明することと、その証明の精査が必要なのではないかというのが本書の読後感だ。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in January 25, 2009
corrected and reposted December 6, 2010

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