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Case Study: Shin-Etsu 信越化学

2016-04-15 16:46:14 | Economics

信越化学 塩化ビニール シリコンウエハーで世界トップ

 1990年以来社長として同社をけん引してきた、金川千尋氏が2010年6月29日付けで会長に就任。森俊三氏が副社長から会長に昇格。2016年4月 斎藤恭彦副社長を社長。森氏を相談役とする人事が発表された。金川会長のもと、2001年300ミリウエハーの量産化に成功。2004年には米国で塩ビ樹脂一貫工場を建設を決定。斎藤氏は2011年に米シンテック社長に就任。2015年には米国でエチレンプラント建設を決定。シェールガス由来の原料で低コスト生産を実現した(2018年にも稼働とされる 原料からの一貫プラントを実現)

 ブラジルなど中南米やアフリカなど新興国の上下水道 建材などの旺盛なインフラ需要を受けて急伸。米国の塩ビ子会社シンテック 2012年に米ルイジアナに新たに1000億円(もともと周辺の土地を拡張用地として確保。豊富な自己資金で建設資金賄う 同工場は2008年10月に稼働 2010年後半に完成 2012年に通年稼働 累積投資額は2400億円)を投じて原料工場を新設(→一貫工場化 自社原料比率を引き上げ:原料の自社比率を3割から6割強から7割近くに引き上げて つまり内製率引き上げで生産コストを引き下げ採算が改善 もともとダウケミカルから原料を長期調達契約で確保で事情の安定を図っていた シェールガス革命で原燃料の天然ガス価格の低下も米子会社の収益に貢献)。世界シェア1割 世界1位 シェールガスからエチレンの生産をして主力の塩ビのコスト競争力を引き上げる構想(2013年10月公表)があり、2014年4月に工場建設の許可申請をした。工場の完成は2010年代後半、建設には1000億円以上必要な大型プロジェクト。

  塩ビ樹脂や半導体シリコンなど7品目(2012年の世界シェア推計 合成フェロモン60%  液晶用フォトマスク基板40% シリコンウエハー30% ArF用フォトレジスト30%  塩化ビニール樹脂10%)で世界首位の商品をもち業績に安定感(2014年3月期予想売上高営業利益率16% 欧米の化学業界と比較しても高い利益率 圧倒的シェアを武器に高いコスト競争力と価格交渉力

相場変動が激しいcommodity化された商品を扱いながらいかに利益を上げるか。それを実践しているのが信越化学だ(売上高営業利益率201403期16% BASFは201312期6% ダウケミカルは同時期7%)。シェアとともに収益源の多様化がこの企業の強みになっている。シリコーン樹脂は世界シェア10%(2012年)で世界順位4位ながら、家電製品や自動車に幅広く使われていて今後の成長が期待される。シリコーンの上位メーカーにあるダウ・ケミカルとヂュポンが2015年に経営統合で合意。ダウがダウコーニングの完全子会社を目指すなど、シリコーンをめぐって化学大手の再編進む。

 半導体に使われるので スマホの需要伸びると半導体メーカー向けが増える。逆に2015年のよういスマホ需要の伸びが停滞すると出荷も停滞する。シリコーン(国内シェアは首位 世界シェアは1割程度)は化粧品にも使われる。シリコンは需要に波。塩ビは比較的安定。住宅ヤインフラなど。その塩ビでは世界シェア1位。

 業績下降局面でも巨額投資を継続 → 首位を生かして価格支配力を握り高収益確保(2011年3月期 純利益連結1001億円 単独445億円;2012年3月期 純利益連結1006億円 単独490億円 2013年3月期 売上高は1兆254億円で2%減 連結純利益で前期比5%増1057億円 連結営業利益前期比7%増1600億円強 3期連続増益)。複数分野に首位の事業があり収益を安定させている。景気後退局面でも積極投資を継続(米工場で生産能力拡大投資2013-2014 シェール革命で原料価格低下 さらにエチレンを米国で自社生産する構想を表明2013/10)、首位を追求する経営姿勢(生産能力を上げて製造コストの引き下げとシェア拡大の両面を目指す)。韓国サムソンに似たビジネスタイル。
世界的な塩ビ需要(住宅 インフラ 上下水道 建材 など幅広き需要 新興国向け需要拡大) スマホ タブレット向け 高性能半導体向けウエハー需要拡大。
 シリコンウエハー(半導体シリコンあるいはシリコンウエハー)から塩ビ レアアース磁石やフォトレジスト(感光性樹脂)等電子材料 シリコーンなど幅広く経営資源を投入。シェア向上に努めてきた。半導体シリコンウエハーに偏った体制から、塩ビ、シリコンなど利益のバランスを改善した経営力が評価されている。
 20138月には スマホ電池の容量を増やす新材料を開発していることが報道された。次世代電池の開発に信越が加わったことは、同社の次世代の商品開発としても注目される

 サムソン経営の特徴 垂直統合 自前主義 高水準の拡張投資
一般にはなじみがないが、塩化ビニール樹脂や半導体シリコンウエハーで世界首位企業(このほか液晶用フォトマスク基板 合成フェロモン ArF用フォトレジストが世界シェア首位 シリコーンは世界4位ながら国内では首位)。好調な塩ビ事業(中南米やトルコ向けあるいはアフリカ向け 上下水道・建材向け需要旺盛 北米向けも引き合い増えている)で半導体ウエハーの落ち込み(パソコン販売低迷で減る)補う。業績で安定感。米塩ビ子会社シンテックはフル創業。2012年にルイジアナ工場通年稼働(1000億円投資)。さらに追加投資(480億円)へ。
 このほかハイブリッド車やエアコンに使う希土類磁石。光ファイバー材料のプリフォーム。
 豊富な自己資金(2010年末で3000億円 2006年11月には5000億円ともされた)を能力増強投資にいかに生かすかが課題ともされる。しかし信越の設備投資計画規模をみると年間2000億円規模(2006-2008年)。高水準の投資といえる。
 この手元のキャッシュについてはシリコンウエハーの市況変化の大きさ。高い研究開発投資。生産能力投資が1000億円規模の投資となること。などを説明している。
 信越を率いてきた金川千尋さんの講演録によると、手元資金があるからM&Aをするという考え方はしないとする。事業の投資でまず考えるのは現在の事業への投資だとする。そして新規事業。最後にM&Aだとする。またバランスシートにのっていない、経営者従業員の質や能力は事業を成功させるうえで、大事な要素だとしている(2005年12月15日日本経済新聞)。常識的なことを言っているにも関わらず啓発的だ。

○シリコンウエハー事業
 近年はテレビやパソコン需要低迷で苦戦 2008年秋のリーマンショック以降 ウエハー価格が急落(直前に、需要のひっ迫から価格が上昇したこと、また信越とSUMCOの大型増産投資そしたことなども一因) しかしスマホやタブレット向けが伸びている:市況リスクが高い)(信越化学では、ウエハー設備の償却年数を2006年に5年から3年に短縮。減価償却を加速させている。固定費を一挙に下げる戦略。この積極償却戦略でSUMCOを圧倒 需要減でも利益を早く出す結果に→2011年3月の東日本大震災ではウエハーを生産する子会社の白河工場が被災したが7月には回復。世界シェア3割 世界1位
 なおシリコーン樹脂(2011年3月 白河工場が大震災で被災。在庫出荷と他工場での増産でシェアダウン避ける 2011年7月には震災前の水準に生産力を回復させる)は、高機能樹脂として自動車のエンジン周辺部材からパソコン 化粧品まで幅広く使われている。国内で5割 世界で1割のシェア
 (シリコーンについては2010年内に中国に江蘇省にシリコーン工場建設の報道。シリコーンは現地生産の利点が大きいとする。輸送費、関税などのコスト削減効果。納期短縮効果を見通す。)
 パソコンの販売低迷からシリコンウエハーの出荷価格低下。 2013年4-12月 半導体シリコンの需要の落ち込み(パソコン需要減少で伸びの減少)を、主力の塩ビ関連事業の好調が補った。 2014年4-9月 シリコン事業が、スマホ向けの半導体シリコン(半導体シリコンは再び増益基調に)、自動車や化粧品など産業用のシリコン樹脂のいずれでも伸びて、塩ビ・化製品事業の採算悪化(需要は堅調だが原料メーカートラブルでエチレン価格上昇し一時採算悪化)を補った。半導体シリコンは他社の増産もあり、市況の悪化(価格の低下)が続く。米国内の住宅需要に加えて中南米のインフラ需要もあり塩ビ、電子・機能材料に期待が高まる

○塩化ビニール樹脂事業(日米欧に生産拠点 塩化ビニールについては、依然として中国での生産拠点をあえて避ける戦略とっている 米国事業は2006年後半以降 米国の住宅需要低迷期にはその影響を受けた しかしその後 中南米など新興国需要で復活 他方 東ソーは中国広州市に生産拠点 信越は日本からの輸出で対応 震災で日本の鹿島工場が一時操業停止)

そのほかの事業
レアアースで鍛えられたリスク管理経営にも特色
○レアアース磁石(希土類磁石とも) 4割 1位 (日立金属とシェアを2分 ハイブリッド車に使うもののほか ハードデイスク駆動用 小型モーター用など 信越化学はレイアアースの工場を2013年にもベトナムで稼働させるとのこと またレアアースのリサイクル事業にも取り組んでいるなど 希土類の生産で世界の9割以上を占める中国でのレアアースの生産規制、輸出制限を早くから経験 中国の政治リスクをいち早く意識した経営も注目される)
 しかしこのレアアースの面でもレアアース合金工場を2012年に福建省に建設。2013年稼働開始を目指しているとのこと(2012年3月報道)。
 参考 2011年7月 価格下落に転じたレアアース
 このようなリスク管理経営は、2007年3月に新潟県の直江津工場でメチルセルロース(建材のほか薬の錠剤に添加する増粘剤)の製造部門で爆発事故があった際、同社が国内市場で9割以上ノシェアを握る医薬品原料のセルロース誘導体:錠剤を固める結合剤や錠剤の外部を覆う素材になっている、の供給に支障が出たことを反省。ドイツの拠点工場でも2009年4月から生産を開始する決定をしたところでも発揮されている(2007年9月発表)。

○合成フェロモン(農薬代わり)世界シェア6割 1位
○液晶用フォトマスク基板(液晶デイスプレー製造に使う) 4割 1位
○ArF用フォトレジスト(半導体の製造過程に使う) 3割 1位

シリコンウエハーの2番手 SUMCOの立て直し
(なおシリコンウエハーでは、世界2位メーカー:世界シェア2割メーカーとしてSUMCO(サムコ)がある 両社を合わせた世界シェアは6割強 SUMCOは1999年に住友金属と三菱マテの事業統合で誕生 原料のポリシリコンの値上がり 円高為替差損の計上 SUMCOは親会社の一つの住友金属の新日本製鉄との合併により経営再建を急いでおり赤字の太陽電池向けウエハー事業からの撤退 また過剰設備解消を目標に2工場閉鎖が2012年2月に報道 2012年3月報道では住友金属と三菱マテリアルに計450億円の優先株引き受けを求めたとのこと 2013年1月期の連結決算 売上高前期比16%減の2066億円 最終損益は34億円の黒字 前期2012年1月期は843億円の赤字。SUMCOの業績に悪化については、住友金属の責任も指摘されている。
 このSUMCOの経営については、まず住友金属と三菱マテリアルという2つの親会社をもつことが不透明感を感じさせる。加えて責任を指摘されている住友金属は新日本製鉄との合併を控えて、SUMCOに対応する力に限りがあった。そこで出てきたのは3メガに三菱商事などが加わったファンド運営会社JISジャパンインダストリアルソリューションズが150億 住金と三菱マテリアルがそれぞれ150億ずつ 計450億円の出資で、国内工場の閉鎖、従業員削減など構造改革投資を行う(14年1月期までに955億円の損失 自己資本の減少を450億円の優先株発行で補う 繰り延べ税金資産273億円の取り崩し 計682億円の特別損失の計上)いう案だ。
 信越と比較して業績が悪いのは、拠点数の多さ、人員の多さが足かせだというのが主張だが、高水準の投資に加え、不採算業務の太陽電池ウエハー事業が収益の足を引っ張っていた。工場の閉鎖(設備の毀損による減価償却費)、人員の削減(労務費たる人件費)は固定費削減効果が大きい。スマホやタブレット向けにウエハー需要拡大の恩恵はあるはずだが、SUMCOの業績見通しは不透明でさえないものだ。実はスマホ需要が高価格帯から中価格帯にシフトしたことで半導体需要が落ち込んだとのこと。
 2014年1月期の連結営業利益は2013年1月期の倍の220億円程度(2013年1月段階見通し)。2013年12月期(決算期変更に伴う11か月決算)連結営業利益(実績)は170億円(2013年12月段階 175億円程度:2014年2月段階)。シリコンウエハーの需要が次第に回復また、工場閉鎖や希望退職を実施。合理化効果の反面、合理化による特別損失、為替差損、支払い利息などが収益を圧迫している。同じシリコンウエハーでなぜ信越化学と大きな差がつくのかは、大変興味深いところだ。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
original edition in Jan., 2013 corrected and re-posted in Aug.15, 2016 
Area Studies Business Models Business Strategies  


Case Study: Asahi Breweries アサヒビール

2016-04-15 08:26:49 | Management

アサヒビール(傘下にニッカウイスキー)のM&A戦略 主力品ドライに集中 高い利益率 一番手集中戦略:キリンはブランド数多い。

2015年4月 インドネシア(2011Suntory ;2012 アサヒ; 2013 伊藤園 ;2015年3月にサッポロが参入)食品最大手と合弁で自社茶系飲料工場立ち上げ

2016年4月 英ビール大手SABミラー傘下の欧州ビール4社(イタリアのペローニ オランダのグロルシュほか)を26億ユーロ(3200億円)で買収する契約結ぶ 他方米飲料大手トーキングレインの5000億円規模の買収は撤回 ← ビール最大手のアンハイザーブッシュインベブによるSABミラー買収に伴うもの

民主党の失政によりひっそり始まったアサヒと頂新の資本業務提携(2010年10月)
 アサヒビールと頂新集団(中国食品最大手)への出資が2010年9月28日に正式に発表された。画期的なことだったが、民主党政権の失政により中日関係がもっとも緊張したときの発表になったのは残念なことだった。2010年9月7日- 日本 日本の巡視船と中国漁船衝突で対日関係緊張へ 外交に未熟な民主党は対中関係を緊張させる政策を結果として選択。対中、対韓とも人的信頼関係を欠き、結果として、対中、対韓関係を前例のないまで悪化させていった。とくに対中関係を、国交回復後、最悪とされるところまで悪化させた。
 これは2010年10月末に頂新ホールデイング(台北市)の第三者引受増資を引き受け6.54%を取得。すでに20%を出資している伊藤忠と連携して、中国での調達から販売まで広範囲な協力関係を築くというもの。この頂新の傘下に著名な康師傳(中国への即席麺の製造販売で急成長し即席麺で中国首位。海外の進んだ製品や技術を、現地の嗜好や購買力に合う形で中国に持ち込む「時間差経営」。即席麺で1999年からサンヨー食品 2009年に即席麺より大きな規模になった飲料ではアサヒG カゴメと組み。2012年4月からはスナック菓子でカルビーと組む。アサヒ以下は伊藤忠商事が仲介。また2012年4月にペプシコの中国飲料事業の運営の委託を受けたことでも話題を集めた)がある。
顶新国际集团
 2012年4月 カルビー食品の中国への進出にあたっても、この頂新グループ、伊藤忠との提携が出ている。
 なおキリンは、中国のビール最大手、華潤集団と提携している。この企業集団も巨大である。
华润集团

アサヒは青島啤酒(青島ビール)にも出資
 なおアサヒは1994年に杭州ビールに出資。2009年4月には青島ビールに約20%出資(640億円)。ビール事業では大きく中国への舵をきっている。しかし2011年8月 杭州ビールの全持ち分55%を華潤雪花ビールに売却するとした。2010年11月に華潤創業(雪花はブランド名 華潤雪花とも呼ばれる 北京 中国最大手 キリンの提携相手でもある)が公開入札で杭州の45%を取得。共同経営の話し合いがまとまらなかったもの。 
 非ビール事業(清涼飲料事業)の強化をビール各社は目指している。背景には若者のビール離れがある。

 青島ビールについてはサントリーが合弁の構想を明らかにしている(2012年6月5日)。サントリーが事業展開する上海と江蘇省で、青海と組んで合弁会社を設立。共同生産・販売するとのこと。サントリー、青島は、華潤雪花と、この2つの地域で激しい販売競争を繰りひろげているが、独力で市場開拓の限界から現地大手と組む選択をしたもの(中国のビールは華潤雪花21.6%:シェアは2011年の数値、青島14.3%、燕京11.5%(とくに北京ではよく飲まれる)、それにハルビンを2004年に買収した世界最大手アンハイザーブッシュインベブ11.8%までが4強。日本メーカーはサントリーが上海と江蘇省でtopシェアをもつが、全国シェアはそれでも1.6%)。

国内では清涼飲料事業を強化
 アサヒは国内では2010年5月 ハウス食品から「六甲のおいしい水」事業を買収。さらに2010年12月にはカゴメから「六条麦茶」の
製造販売権の譲渡を受けることになったと報告された(譲渡金額公表されず)。アサヒは2011年4月から六条麦茶を発売している(なお
アサヒのブランドとしては十六茶があり、麦茶がなかったわけではない)。清涼飲料事業(三ツ矢サイダー バヤリースなど)は委託生産で事業を拡大できる半面、市場が過当競争で利幅が薄いことが問題。採算の管理、利益率の改善が課題とのこと。
 その後 アサヒは味の素からのカルピス買収を発表している(2012年5月8日合意発表 買収額は1000億円程度 2012年10月1日買収完了)。アサヒとしてはカルピスブランドは魅力。かつカルピス(2.5% 2011年実績)を加えることで伊藤園(11.2%)を抜いて清涼飲料業界(国内市場規模は横ばい)の販売順位で3位(12.4%)につける(1位コカコーラ28.4% 2位サントリー21.9%)ことは大きな意味がある(すでに2007年に自動販売機事業を共同化 今後は営業を一本化して販売力強化 販路拡大による増収 共通化によるコスト削減などを期待)。
 味の素としても相乗効果の薄いカルピス(1917年創業の老舗 2007年に味の素の100%子会社になり上場廃止 同年アサヒ飲料と自販機事業を統合)は売却対象。
 2012年4月 黒ビールのドライブラック発売
 2012年9月 フィリッピンでスーパードライを本格発売
 氷点下ビール(2013年海外展開始まる)
 キリンが一番搾りフローズン
 アサヒがスーパードライエクストラコールド
 ビール各社は販促費を1ブランドに集中。サントリーガプレモル伸ばす(2013年1-9月国内販売量順位 スーパードライ 一番搾り プレモル 黒ラベル ラガー エビス)。サッポロはエビスにサントリーはプレモルに集中(高級ビール市場の6割のシェアを占める)。結果として順位落とす。
 既存資産の有効活用 ローリスクローリターン経営 ⇔ 特定ブランドへの依存度の高まり 商品開発の柔軟性奪う問題
 2013年3月 クリアアサヒの派生商品としてプライムリッチ

  2016年1月1日付けでアサヒ飲料とカルピスを経営統合する。さらに食品事業はアサヒグループ食品にまとめる方針(2015年6月報道)

プレミアムビール(高級ビール 市場全体の7%程度)の販売で一矢
2013年6月 ギフト用ドライプレミアム発売開始 販売好調
 2013年12月 マレーシアでワンダの現地向け発売開始 提携先現地飲料大手ペルマニス(2011年買収済み)
 2013年12月期決算 連結経常利益4期連続過去最高を達成
2014年1月31日 アサヒHDの時価総額(1兆3603億円)が1949年の上場来 はじめてキリンHD(1兆3567億円)を上回った。
 2014年2月 ギフト用ドライプレミアム(アルコール分6%)を通年販売 高級ビールに参戦(先行はサントリーのザプレミアムモルツ:プレモル:2003年に発売開始火付け役になる。2012年3月中身を刷新 サッポロのエビスは1971年発売の古参 その限定品で琥珀エビス キリンがコンビニ限定でグランキリン2012年6月から)
 キリンは2014年1月に中元用商品として「一番搾りプレミアム」を6月から投入するとしたが、明らかに後多い。キリンは国際市場で頭が抜きでた分、国内では株価でも戦略でもアサヒに抜かれた印象だ。国内での競争に負けても国際市場でシェアを伸ばせるものか注目したい。
 なお 2012年にアサヒが買収したカルピスのタイでの事業。これは1997年に開始されたものだが2011年の水害で事実上停止していた。これをアサヒは復活させることにした。2013年にはまず委託生産開始。2013年内には自社工場の建設をはじめ2014年にも自社工場稼働の予定。

注目されるコンビニPB高級化とビールとの関係
 品質を重視した高級PB戦略をコンビニは取り始めたセブン&アイHDのPBセブンゴールド。現在20品目を2015年度には300品目に。
 2013年4月に売り出した「金の食パン」
 ビールの販路の1割ほど。
キリンーセブン&アイ 2012年6月 グランドキリン
 サッポローセブン&アイ 2012年11月 セブンプレミアム100%MALT
 サントリー(2009年からセブン&アイにPBザブリューを供給) 2013年6月 ザゴ-ルドクラス 
 アサヒーセブン&アイ  ザエクストラ
 アサヒーローソン 通常 クリーミープレミアム
 グランドキリンからゴールドクラスまで。コンビニ側が買い取ることで、いわゆるプレミアムビールより低い販売価格を実現している。

持ち株会社化で加速するM&A戦略
 アサヒは2011年7月から持ち株会社に移行(すでにサッポロは2003年 キリンは2007年 サントリーは2009年に持ち株会社化)。持ち株会社化はグループの経営戦略を素早く決定実行するのに有効とされる。2011年から2012年までの2年間で最大4000億円(この規模は2009/2010年のM&A資金の2倍にあたる 2015年まででは8000億円という)を投じて海外事業を強化する(海外売上高比率が30%近いキリンに比べて2009年9月段階では5%強と出遅れ)。2010年に約7%だった海外売上高比率を2015年までに20%以上に高める計画。
 既述のようにアサヒグループHDの2012年12月期の売上高は1兆5800億円 営業利益は1080億円 純利益は650億円の見通し(2012/12)。

中国のほかオーストラリアに照準
 アサヒは、海外では中国のほかでは、オ-ストラリア。その豪飲料のシュウェップス・オーストラリア(2009年に770億円を投じて買収 豪州2位)が好調。そこで2010年8月には豪州3位のP&Nを2010年11月に買収すると発表した(豪でのシェアは合わせて30% 首位はコカコーラグループ)。買収金額272億円。ところがこの計画に豪独占禁止当局(ACCC)が炭酸飲料と濃縮飲料の寡占化を問題にして反対を表明した(2011年3月9日)。そこでP&Nのミネラルウオーターと果汁飲料事業(つまりP&Nの事業の一部)を買収する合意が2011年7月に改めて交わされた(2011年7月4日)。買収金額は170億円とされている。
 2011年8月 アサヒはニュージランドの酒類大手インデイペンデントリカーの買収を発表した(10年度の売上高は日本円換算で243億円 営業利益53% 2011年度の売上高営業利益率は見込みで27%とのこと)。買収金額は976億円(約1000億円)で全株取得とのこと。投資ファンドなどから全株を取得とのこと。また9月中にニュージランドの飲料メーカー、チャーリーズ・グループを買収する。
 このほか2011年7月にはマレーシアの清涼飲料2位のペルマニス(本社クアラルンプール ペプシコの商品のマレーシアでの独占販売権をもつほか独自商品を販売)の買収も決めている(11月をめどに全株式取得 取得金額216億円)。こうした動向に合わせて2011年秋に、オーストラリアに事業統括会社を設立するとのこと(この段落は2011年7月記載)。
 2012年にはペルマニスのクアランプール郊外の工場の設備を増強、需要増に備えた。またインドネシアでは、大手財閥サリムグループの中核企業のインドフードと2012年9月に設立した合弁会社を通じて、まずは委託生産で清涼飲料水の生産販売を早ければ2013年夏に開始。その後、販売量が確保できた段階で自社工場を建設、2015年までに稼働という青写真を描く。
 カルピスと合わせて国内の飲料売上高を2015年に5000億円以上(2012年現在は4500億円)。2015年に海外売上高を4000億円(2012年現在は1000億円)にするとしている(日経2012年10月5日ほか)。
 13年12月期には海外売上高比率はなお11%(約3割のキリンとは明らかに劣る)。その81%をオセアニア事業が占める。現地通貨ベースで売上高が伸びていない背景には、大手との競争があるが生産物流への投資で収益化を急ぐとしている。アサヒは国内ビールは好調。国内最大手となった(スーパードライは国内販売量最多)。時価総額でもキリンを抜いた(2014年1月末)。高級ビールにも参戦(2014年2月ドライプレミアムを本格的に売出)。その利益を将来をにらんで国際事業に投資しているが、そこでの採算がわるい。
 インドネシアでは2014年内に清涼飲料の工場を新設。タイでは地元のオンサファと合弁でカルピス(1997年に進出していたが2011年の洪水で事業停止 2011年アサヒが買収)ブランドの商品を2013年夏から販売しているが、2014年6月から新工場稼働で増産へ。ベトナムではマレーシアのエチカデイリーズの拠点を買収(2014年6月買収完了)。拠点として活用方針。ミヤンマーへの合弁での進出も決定済み(相手はロイヘイン 発表は2014年3月)。など加速させ生き残りを図っている。
 コカコーラやネスレと戦えるグローバル企業が目標。連結売上高1兆7000億円。コカコーラはその3倍。ネスレは6倍。 
食品業界の他の企業の動き 味の素 伊藤園 カルビー サッポロビール
食品業界の大企業:味の素 
 飼料用アミノ酸リジン 加工用うまみ成分がかつては利益源 だが今は中国メーカーの安値合戦で08年か10年にかけ利益急減 食品で世界大手ノネスレに比べ大型商品持たない弱み 低カロリー甘味料 今後は機能性食品(健康増進効果のある特定保健用食品)か
 国内 女性の社会進出 高齢化 短時間で調理にもニーズ ネスレを意識してROEを重視した経営進める 目標14年3月期ROE8%(13年3月期7% ネスレのROEはおおよそ倍)総資産回転率向上(保有株式の処分も進めて総資産圧縮 保有の必要性検証)
 非中核事業の切り離し
 2006年12月 メルシャンウイスキーをキリンに売却
 2007年5月 カルピスをアサヒに売却(ダノンに譲渡する話もあったが)
 中核事業への経営資源集中
 2003年4月1/3出資33.4% 2006年5月子会社化 ギャバン(香辛料)
 2006年完全子会社化 香港アモイフードグループ(調味料 冷色)
 2007年3月1/3出資33.4% ヤマキ(削り節 めんつゆ)
 1999年 半導体基板用樹脂 ABFと呼ばれる樹脂で世界順位1位 特に絶縁フィルムABF。世界シェア9割 アミノ酸由来のものでは味の素に比較優位で利益率高い。
 
 味の素 冷凍食品 自宅で食事をとる内食傾向(合わせ調味料 自然解凍で食べられる冷凍食品好調) 主力工場建て替え(2014年9月までに) 冷凍デザート 少子高齢化に対応した新商品の生産を予定
国内で目立つのは単身世帯用需要(シニア 単身世帯 単身世帯は全体の3割超える コンビニの利用客の2割がシニア) 一人前ニーズ(包装かさみ 単価を上げても利益率低いことが問題)
味の素 新興国市場 小容量 現地の卸業者任せにせず営業マンが足で売る 低価格販売で需要堀り起こし。
 ブラジルでは日清食品と組んで即席めん事業(同国首位)。2013年12月 味の素と東洋水産はインド(日本の8割に相当する年44億食を消費。過去3年の平均成長率は22%)とナイジェリアで即席めん事業に共同で取り組むと発表。
 米国で冷凍食品事業強化のためウオルマートと組んだこと(2011年9月)をほうふつさせる。
  ウオルマートのルートの活用例。キッコーマン。米国の家庭用しょうゆの6割を占める一因。
  東洋水産。日清食品と米国進出で後れをとったがウオルマートと組むことで、米国で6割メキシコで8割。花王は中国都市部への進出は300のウオルマート店舗を活用した(2011年9月)。
  タイで1993年からカンコーヒー生産。2011年度シェアは7割。
  ペルーでは即席めん。2012年の同国シェアは9割。ブラジルでも即席めん(日清食品との合同事業)で6割のシェア。
 

 穀物高(大豆 小麦粉 2010年から2011年夏 11年夏以降は下落局面)円安(2013年後半から)は原料費(アルカリ 酸 食料油 輸入冷凍食品 カツオ 天然ガス)押し上げの逆風。コスト高を技術改良 効率化で補う。海外事業の収益。海外法人では外国人取締役比率を引き上げ(2012年1月の35%を2013年度までに50%に引き上げる)。営業、製造だけでなく経営企画、財務、マーケテイング、研究開発など中枢にも。他国派遣、本社への起用などを通じ帰属意識高める。(トヨタ 海外法人の幹部ポストの半分は外国人。パンソニックの海外法人の2割のトップは外国人)
 2014年4月からはエジプトに包装工場稼働。ブラジルで製造した調味料を運んで小分け包装。訪問営業開始とのこと。

食品では高い注目浴びる カルビー(2013年12月) 野心的なスナック菓子首位メーカー
従来は儲けに無頓着なオーナー経営とされてきたが、外部から松本晃氏を2009年に招いて以来(会長兼CEO)、評価が変わってきた。
 松本氏はつぎつぎと改革を実行した。材料調達一本化(本社に購買部門)。設備投資の基準(①顧客の安全安心②新商品などで売り上げ増③コスト削減④労働環境の改善 のいずれかを満たすこと)鮮度調査隊廃止し営業要員に(2011年)。不採算ライン廃止。経費削減以上の販売促進費積み上げ 値下げでシェアアップを達成(ポテトチップスで65%程度 2011-12年)。工場稼働率引き上げで値下げへ。さらにシェア上昇。
 国内スナック菓子で国内シェア3分の2以上が目標。さらに海外売上高(12年3月4%)を2021年3月までに3割に高める目標掲げる。
 2011年3月 東証一部上場(海外展開に必要な資金確保 経営と所有の分離 女性と障害者雇用 従業員の多様化 全社員が夢の共有 日本のネスレを目指す)
 工場というのは稼働率があがるとコストが劇的に下がるもの。コストが下がった分はまずお客さんにお返ししようと値下げしました。
 2009年海外事業強化のためペプシコから2割出資受ける。北米で共同事業展開へ(卸値の3-4割をペプシコがとる。しかし安いジャガイモ調達ルートの確保 生産の自動化で営業利益率10%狙えるまでに)。
 中国では康師傳Gと組んで事業展開。ベトナムやインドネシアでも販売力のある現地企業と組む計画。
食品の中では高い株価(PER27倍 平均は16倍 2012年12月)
 2013年4月から中国で「ジャガビー」などを製造販売。
2013年6月30日 株式を1株を4株に株式分割。
 2014年3月からインドネシアでスナック菓子を製造販売。

伊藤園
伊藤園は困っているようにも見えるが、主力の日本茶(おーいお茶)が強いほか(売り上げの半分以上は日本茶)、野菜飲料(野菜汁や果汁原料は海外から)、2011年5月買収のチチヤスと共同開発の「朝のYoo」が好調。子会社タリーズ(2006年買収)も増益基調。2009年にはタリーズブランドのコーヒー飲料の発売を開始した。これがブランド効果を上げてその後も好調だった。
 円安による原材料費や包装費の高騰に対して軽量ボトルへの移行進めている(軽量ペットはコスト軽減 輸送コスト軽減に幅広いメリットがある)。伊藤園ではこれを委託生産しているが、飲料メーカーによっては内製を進めている(事例 サントリー食品が天然水のペットボトル内製化)。内製するとコストがコストが半減するという。
 日本茶ではおーいお茶(伊藤園)、十六茶(アサヒ飲料)、伊右衛門(サントリー食品インター)、生茶(キリンビバレッジ)、綾鷹(コカコーラ)。高齢化で市場の縮小に向かうのか。健康志向でなお成長するかは微妙。限られた市場で顧客を奪い合う構図。

 こうした清涼飲料強化の動きは他社も同様でサントリーは2009年9月にニチレイからアセロラ事業買収。
 なおアサヒグループHDの2012年12月期の売上高は1兆5800億円 営業利益は1080億円 純利益は650億円の見通し(2012/12)。(酒類事業に区分されるが、ノンアルコールビールも好調 キリンフリーの発売開始は2009年4月。アサヒのドライゼロの発売開始は2012年2月)

サッポロ
 サッポロは2010年11月に乳業大手の協同乳業と業務資本提携(2011年に乳製品事業に参入予定)。続いて2011年2月にポッカ(2005年12月MBOにより上場廃止。2008年1月明治製菓の出資受入。2009年9月にサッポロと資本業務提携 サッポロの3倍の自動販売機網を持つ)を買収子会社化した(320億円)。2010年12月に長年 サッポロを苦しめてきたスティールパートナーズがサッポロの投資から撤退(アクティビストファンドの撤退は日本株の魅力が薄れた証拠という言い方は米証券会社のもの 日本の側からみれば本来の経営にようやく注力できる )。ようやくサッポロも動き始めたといえる。
 サッポロの注目される次の動きは2012年春(3月1日)、グループで運営するエビスガーデンプレイスの不動産について、2008年にモルガンスタンレーに売却した共同持分を405億円かけて買い戻したこと。また2012年秋、セブンイレブンと組んで業界初のPBビール(最後の聖域とされていた)「セブンプレミアム」の製造を始めたことだ。メーカーにとってPBを製造する利点は、工場の稼働率の上昇(製造コストの低下)、買い取り制のため広告宣伝費不要で安定収益となる(売上が増加する)ことなど、少なくない。小売り側は、他店との差別化に役立つことであろうか。今後は安売りしないで済む付加価値の高いPBが課題という指摘もある(こうした聖域を破る戦略がサッポロのような下位メーカーからでてきたのは示唆的である)。
 なお実は、この問題に先行したのはイオンのPBビール、バーリアルの発売(2010年6月)。1缶88円と100円以下。内容は韓国OBビール。確かにこの輸入ビールの衝撃の方が大きかったかもしれない。
現在350ml缶ビールのコンビニでの価格は215円(ネット価格は195円など)。セブンプレミアム100%MALT350mlの価格は198円。

 2006年にカナダのビール大手スリーマンを買収

 2011 ポッカコーポレーション(1977にシンガポール進出)買収

 2012年1月末 米飲料メーカー シルバースプリングシトラスの株式51%を豊田通商から2400万ドルで取得

 2012年4月 ポッカCとサッポロ飲料の統合にむけて新会社設立→統合 2013年1月 ポッカサッポロフードビバレッジ

 2014年に米飲料メーカー 北米の果汁飲料メーカー カントリーピュアフーズオハイオ州CPF)を1億ドルで買収 2016年にはCPFを通じて北米の氷菓メーカーリッジフィールズ買収 

 2014年8月 ポッカサッポロフードビバレッジ 2015年にもミャンマーで自社ブランド商品をヲライセンス生産へ

originally appeared in July 26, 2011
corrected in April 15, 2016

キリンビールのM&A戦略
ビジネスモデル 企業戦略論


US shale gas revolution: シェールガス革命 

2016-04-11 14:01:02 | Economics

シェールガスおよびシェールオイルの開発で水圧破砕=フラッキング(fracking, hydrofracking, hydraulic fracking:水の圧力で地層にヒビ割れをつくりガスが流れるルートをつくるもの)による地下水汚染(L字型の井戸に化学物質を含む特殊な水の高圧注入して頁岩(けつがん shale)層にヒビを入れてガスを採取する L字型というのは地下を垂直に2000メートル以上掘りさらに水平に2000メートル以上掘る:水平坑井とのこと 固い岩盤を水平に掘り進む)が問題になっているという記事を見て、昔の米国の金鉱山開発でも水圧を使った開発による環境破壊が問題になったことを思い出した。
 Pale Rider (1985 film)におけるhydraulic mining scene
Pale Rider (1985)についての私の解説
シェール井は寿命が短く開発から数年で生産量が急減する。業者がそこでつぎつぎに井戸を掘ることになる。テキサス州は全米で掘削中の井戸の半分がある。年2万件の新規掘削認可。

問題はこれは水道の水源である地下水を汚染する点にある。汚染水やメタンガスが地下水に流れ込む被害が各地で生じているとされる。アメリカではこのほか、鉛管を水道管に使っていたミシガン州フリント市で、水道管の鉛が溶けて水道管に流れ込んで深刻な被害をもたらしているとされる。1)財政難のためステンレス管への切り替えが進んでいないこと 2)水源を一時フリント川の水に切り替えたことで塩分濃度があがり、水道管の鉛が溶けだしたこと 3)降雪地域で冬に道路に塩をまくことも影響した、などとされている(選択2016年3月p.12-13)。

欧州ではフランス、ドイツでは地下水汚染の懸念が強いとされる。

shale gas revolutionとは以上のような問題をかかえながら、技術的進歩により、米国で2000m以上の深いところの頁岩(shale)層に閉じこめられていたガスの採掘利用が可能になったことを指す。これにより米国の天然ガス・石油の採掘量が飛躍的に増加したことを指している。

なお米国でのシェールガス革命の背景には全米のガスパイプライン網の存在があり、新設のガス田からの接続が容易だったこと。また米国では地下資源の開発権が地上の土地所有者にあって、このことが開発業者による権利の取得ー開発の流れを円滑にしたとされる。したがって、この革命は米国の条件でこそ可能だったという言い方がある。

採掘技術が進展した2005年頃から生産は急拡大(2005年を底に天然ガスの生産が増加)。2020年にはガスの純輸出国に。2040年には米国のガス産出の半分を占めると見られている。
米国では2008年以降 大幅に天然ガスの価格が低下している(基本的に国内の需給関係で決まる この米国産天然ガスの輸入は原子力発電所の事故により海外から割高な天然ガス輸入を行っている日本が強く希望している 日本をはじめアジア諸国では原油価格に連動して天然ガス価格を決めているため割高な価格で購入する羽目に陥っている。原油価格連動はもともとは安定供給を優先した合意によるものだが 2008年以降 米国や欧州での天然ガス価格に比べて』極端に高値にかい離するようになっている。2013年3月現在、米国の価格に対して 英国の指標価格は3倍余り 日本の価格は4倍余り。日本の輸入価格は常識では理解しがたい高値になっている。)。
結果として中東のガスが欧州に回り、ロシア(世界最大の天然ガス埋蔵量を保有するが生産量は2007年以降横ばい)の北西部のガスはアメリカに換えて東アジアへ(ロシアも天然ガス価格を原油価格と連動させているが)。天然ガス価格は低下へ。
 ガスとともに出る原油で2017年には米国が世界最大の産油国になるとの予測もある(これが輸出に回り原油需給が緩和するとみられている 2008年を底に原油生産が急増)。
 エネルギーコストの低下は、米国経済全体に大きなプラス要因になっている。発電 輸送 産業 などのコストを広く下げる効果が期待されるし、米国の製造業の競争力が回復するとの見込みもある(日本企業のなかにはまず商社などがガス田への権益確保に動いたほか、電力会社ヤガス会社は輸入を模索、化学業界では米国に進出してこの低価格のメリットを生産に生かそうとするなどの動きがある)。
 ロシアはガスの供給を東欧諸国を服属させる方策としていたが、東欧諸国にすればこれは「ロシアのくびき」。これによって親米路線を抑え込んでいた。有名な事件として2009年1月のウクライナに対する代金未払いを理由としたガス供給停止事件がある。東欧諸国では、そこで自前のシェールガス開発が課題になっている。
 他方で米国が中東など産油国への関心を低下させた空隙に、中国が進出を進めているとの報道もある。 

 今回の開発方法については、地下水の汚染のほか、1本の井戸にプール5杯と形容される、大量の水を使うこと自体も問題になっている。これに対して使用する地層を溶かしたり摩擦を減らすために加えられる化学薬剤の開示を義務付ける動きがあるほか、対策としては廃水の保管施設の整備、再利用。飲用に適さない地下層の水を破砕水に利用することなどが進められている。
 シェールガスの普及で米国では天然ガス価格が大幅に下がった(2013年1月16日付けのBPの予測では、2013年にも米国がサウジを抜いて世界最大の産油国になるとみられている 原油価格維持のためサウジは減産中。2013年の2位はロシアと予測される。2035年までに米国はエネルギー自給が可能になるとも。もともと米国は世界最大の産油国で原油輸出国でもあった。1970年代に国内油田の生産がピークに達し、石油輸入依存度が上昇。2011年の石油消費の輸入依存度は60%。)。シェールガスの埋蔵量は北米やアジアに多くて中東依存のエネルギー地図を塗り替えるとされている。(中国 米国 アルゼンチン 南アフリカ オーストラリアなどで大きな埋蔵量がわかっている→エネルギー資源を政治的武器として使ってきたロシア、ベネズエラ、イランでは切り札の価値が低下。米国では中東への関心が低下するとの観測もある)。
シェールガス革命により米国では輸入ガス需要は低下。またガス料金が低下(2012年4月には2008年の高値の6分の1以下まで一時低下。エネルギー価格の下落はインフレ率を抑えほか、新興国にとってプラスに働くとされる)。製造業の国内回帰が促されているとも。
 シェールガスから得られるエタンを原料とするエチレンプラントなどの計画が続々と発表されている。天然ガスで鉄鉱石を還元する直接還元炉新設の動きがある。石炭火力に代わるガス火力発電の動きがある(さらに電力コスト抑制→電炉の競争力上昇)。天然ガスを燃料とするCNG車(ガソリン車より排ガスがクリーン)発売の動きがある など
 中国は米国技術導入によるシェールガス実用化を急いでいるとされる(2009年の推定埋蔵量は中国、米国、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ、豪州、カナダの順。ただし中国の埋蔵はゴビ砂漠など開発の難しい地域に分布。中国や欧州については地層についてのデータの蓄積が不十分で開発は単純ではないとも。)。

なお日本でも2012年10月4日 石油資源開発が秋田県で採取実験に成功して話題を呼んだ。ただし秋田の埋蔵量は県全体で日本の原油消費量の1ケ月程度(1億バレル)。技術の蓄積に主眼はあるようだ。

原発の発電停止で発電燃料の一つである天然液化ガスの消費量が日本では急増している(震災前に比べて輸入価格は2倍近くまで高騰している。背景には原油価格の価格がそのまま反映される価格方式の問題がある模様 日本は世界最大のLNG輸入国(2012年で世界の輸入の32% 2位は韓国の15%)。韓国や台湾も輸入量が多い。輸出国はカタール、インドネシア、マレーシア、豪州など。ポーランドでも開発が盛んとも。なお日本の輸入先は多様化が進んでいる。2011年はマレーシア18.2% カタール17.2% インドネシア9.5% ロシア9.3% ブルネイ7.4% アラブ首長国連邦6.8% オマーン5.1%など。日経新聞2012年5月29日)。そこで日本はこの米国産天然ガスの輸入を切望している(輸入価格と米国ガス価格との価格差は7倍 米天然ガスは輸送費を入れても輸入価格の半値で収まる)。米国のエネルギーメーカーは輸出に積極的。しかし米政府は価格上昇を懸念する米国内化学メーカーや国内世論への配慮から、このガスの輸出に消極的とされる(輸出は許可制で限定的 日本が輸入を開始できるのは早くても2016年からとみられている)。
ここで一見無関係なFTA(自由貿易協定)問題が絡む。米政府はFTAを結んでいない国への輸出を厳しく制限していたが、米国との信頼関係を欠く民主党がようやく政権から降りて安倍政権に変わったことで事態は進展(2013年5月17日 米エネルギー省は天然ガスの対日輸出解禁を発表した)。背景には生産増に対して国内需要がおいつかず価格が低迷している矛盾がある(13年4月には開発会社の経営破たんが伝えられた 一方では開発ブームで鉱区の権益価格が高騰 他方でガス価格の低下で開発会社の経営は悪化しているとされる)。

シェールガス革命の効果は多面的だが 原油貿易赤字の縮小を通じたドル高効果も注目される。北米でガス開発に絡んだ投資が世界的に進んでいることも注目点だ。生産拠点を米国に呼び戻す効果も期待されている。日本では天然ガスの調達コストが下がることへの期待が高い・・・ということはますます原発に頼らなくよいはずだけど。

資源輸入が減りドル高によって輸出が不利になるとも。資源輸出の拡大が裏目にでる。オランダ病ともよばれる。アメリカ、ブラジル、豪州が経験。

他方で、米国は輸出に消極的であっても、米国のLNG輸入量が低下することで、国際的にはLNGあるいは石炭に過剰感が生まれ、これらの価格を下押ししているとのこと。インドネシア、豪州、カタール、ロシアなどLNG輸出国の戦略にも、シェールガス革命は大きな影響を与えている。→このことを利用して原子力発電に頼らず発電コストを引き下げにつなげられる可能性がある。

なお2011年6月下旬から上昇を続けていた原油価格(ロンドンの北海ブレント価格 NYのWTIともに なおシェールガス革命や安全保障上の理由からの輸出制限、パイプライン計画の遅れによる国内過剰在庫などがありNYのWTI価格の国際指標性が低下している)は2012年3月頃をピークに下落。イランに対する経済制裁(7月から欧州連合は前面禁輸するとのこと)を受けたOPECのサウジなど穏健派加盟国の増産(原油が高騰すると石油離れが起こることを警戒している 脱石油の顕著な例は自動車における電気自動車 このほか船舶でもLNG 太陽光 リツウム電池の導入等の動きがある 航空機の分野ではジェット燃料にバイオ燃料を加える また米国では自動車の燃料に天然ガスを加える動きが盛んである)の動きも影響しているとのこと。なお日本ではこの影響は円高である程度相殺される(他方 ユーロ圏ではユーロ安で原油価格の上昇が重くのしかかっている)。ガス価格が低下したことで、油田メーカーはシェールオイルの生産にシフト。またガス価格の低下により、ガスを燃料にした石油代替燃料GTLも話題。

originally appeared in June 2, 2012
corrected and re-posted in April 11, 2016

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