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Entrance for Studies in Finance

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日産6工場が部品不足で3日間操業停止(2010年7月)

2010-07-30 10:35:15 | Economics

日産は調達コスト圧縮のためECU(engine control unit:エンジン制御ユニット)の購入を日立1社に絞っていた。その日立はECUにに使うカスタムIC(custom ic;asic, application specific circuit)*についてSTマイクロ(STMicroelectronics)からの供給に頼っていた。
 *custom icのcustomは、custom-madeのcustomと同じ意味だろう。custom-madeはお客様customerの注文に応じた、特別注文によるといった意味。住宅についてcustom-builtという言い方もある。tailor-madeと言い換えられる。対語はready-made。

欧州最大手(出荷ベースで世界6位)STマイクロは予定の8割強しか供給できないと、日立、日産に2010年7月2日に一方的に連絡してきたとされる。この理由については、リーマンショック後、他の半導体メーカーと同様に設備廃棄を進めたことが背景とも、半導体不足のなか、他の顧客を優遇したからとも噂されるが明確な理由は書かれていなかったとされる。これに対して日立は、特別仕様のカスタムICのため調達先を変更できなかったという。その結果、日立はエンジン制御ユニットを予定通り供給できず、最終的に日産の工場が操業停止に追い込まれた。
 これは部品メーカーとの信頼関係の上で構築されているジャストインタイム方式just in time method(在庫適時補充方式)が否定されかねない深刻な事態である。なお日立のECU取引の9割が日産向け。残りはホンダと富士重工業で、ホンダ、富士重工業への影響は限定的だった。

日産は7月12日(月)に国内4つの完成車工場を7月14日から3日間操業停止と発表した。また7月15日(木)には、国内4ケ所(7月14日から)に加えて、米国2ケ所の完成車工場の操業(7月15日から)を3日間操業停止を発表した。このような部品メーカー側に一方的通告による操業停止は極めて異例とされる。
なお同じ影響をうけたホンダと富士重工業は複数社からECUを購入していたため工場停止を免れた。

2010年7月28日(水) 日立はSTマイクロとの交渉の結果、8月以降十分な供給が可能になったと発表した。
カスタムICは、顧客の仕様に合わせて2-3年の開発期間をかけて作りこむので特定の半導体メーカーから全量調達が一般的ともされるが、1社調達のリスクが表面化した「事件」だったといえる。したがってリスク対策の面からこの事件は今後も記憶され参照されることになろう。
 また現在のところ供給不足を通知した背景が明らかにされないこともあり、STマイクロという企業に対して警戒感が残されたことも間違いないところだ。



サブプライム問題

2010-07-27 08:46:30 | Index

Intensive Lectures on the Subprime Problem
サブプライム金融危機について サブプライム危機後のアメリカ経済 サブプライム問題の展開(2008年3月以降-9月まで) サブプライム問題の展開(2008年10月以降) サブプライムで加速する金融再編 サブプライム問題:野村とみずほ
証券化の功罪
証券化の功罪:サブプライム問題を振り返る(本文)
証券化の功罪:サブプライム問題を振り返る(文献)
purpose of the securitization
政策的検討課題
時価会計の見直し 多くの課題があるCDS取引 証券化商品の開示規制強化 政策的論点の変化 regulation of commodity futures
金融規制に与えた影響
ストレステスト, May 18, 2009 金融規制の見直し, Aug.17, 2009
米金融規制改革法の成立
銀行課税の是非

サブプライム問題に関するvideo clips集
背景にある問題
ARS CDO CDS covered bondsナイトの不確実性とケインズの合成の誤謬
参照
証券市場論講義目次
行動経済学
市場原理主義(market fundalism)批判について 保険と正規分布
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.


米金融規制改革法の成立(2010年7月)

2010-07-25 05:43:21 | Economics
米金融規制改革法の成立(2010年7月)
福光寛(Fukumitsu, Hiroshi)

米国連邦議会で金融規制改革法案が可決成立した
 米国では、金融機関の事業や商品に関する包括規制を目指す金融規制改革法案(両議会の一本化案 ドッド=フランク法 DF法)が2010年6月末に米下院を、また7月中旬に米上院を通過し、7月21日オバマ大統領の署名を得て成立した。2009年夏に問題にされた点について米オバマ政権は、答案を仕上げたことになる。

2010年6月30日米下院が金融規制改革法案を可決
 米下院本会議6月30日可決(賛成237 反対192 共和党議員の一部に賛成を促すため、最終段階で大手金融機関に直接負担させる条項の撤回し不良債権救済プログラムTARPの資金の一部を回す妥協が図られた)。

 銀行の自己勘定取引の原則禁止・店頭デリバティブへの規制強化(銀行本体でのエネルギー、株式などに関連したデリバティブ取引の原則禁止、ただし自らの本業のリスク回避のための取引を本体に残すことは容認)自己勘定取引と、ヘッジファンド業務、PE業務のスポンサー等を、連邦セーフティネットから切り離すというのが当初案(ボルカ―ルール)。最終的にファンドへの投資を各ヘッジファンドの3%まで許容。
 自己資本比率規制で一定規模以上の金融機関については、中核的自己資本から優先出資証券を除外する。
 レバレッジ倍率規制 資産規模を資産の25倍以内(優良銀行は33倍以内)→15倍以内に厳格化 従来の自己資本比率規制(リスクアセット規制)は国債保有で巨大リスクを抱え込む恐れがあった

2010年7月15日米上院が金融規制改革法案を可決
7月15日午前米上院で審議打ち切り動議可決(定数100 賛成60 反対38)。その後米上院金融規制改革法案可決(60対39)。
 内容は確認すると。

 ボルカ―ルールを導入する(銀行に対してヘッジファンド投資など危険性の高い取引を大幅に制限する)、ヘッジファンドなどへの投資は銀行の中核自己資本の3%までとする。
 金融派生商品取引を制限する。
 リスクの高いデリバ取引は銀行本体ではできない。
 公的資金での金融機関の救済をやめ、円滑に破たん処理する。金融当局に大手金融機関の分割権限。破産法を使わず円滑に破綻処理、費用は業界負担。
 証券、保険を含め大手金融機関の監督は横断一元的に米連邦準備制度理事会(FRB)が行う。(縦割り規制→AIGをFRBの緊急融資で救済したことなどへの反省)
 金融システムの安定に向けて各規制当局(財務省、FRB、連邦預金保険公社FDICなど)で構成する金融安定化監督評議会を設置する。
 一定規模以上のヘッジファンドは米証券取引委員会SECに登録を義務付ける。州政府にも規制権限。
 格付け機関もSEC通じ監視強化。 
 金融取引における消費者保護を強化する(FRB内に独立新組織消費者金融保護局を設置。住宅ローンやクレジットカードなどの取引をチェックする)。

 同法の具体的な運用のルール作りは各分野の当局に任せられたため、同法の理念がルールにどこまで生かされるか、疑問の声がある。

欧米とずれている日本の議論
 今回の金融危機の発信地が欧米であったこともあり、日本では今回の国際的な金融規制見直しで当事者意識が薄い。不勉強な国会議員の中にはなお規制緩和を進めようとする議論さえある。このような国際性の欠落は大きな問題であり、各国と協調して規制強化に務める必要がある。

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金融規制の包括的見直し(2009年夏)

2010-07-24 14:38:17 | Economics
金融規制の包括的見直し
福光寛(Fukumitsu, Hiroshi)

80年ぶりの抜本的改革ともされる米国の金融規制改革案が2009年6月17日に発表された。その内容を簡単にレビューしたい。
Comprehensive plan for regulatory reform, June 17, 2009
ブルームバーグ報道 2009年6月18日
この発表時点でポイントとされた点は私見では以下の3点である。
●大手金融機関の監督一元化(縦割りの規制を見直し重要な金融機関については一元的に監視監督する)
●資本に対する資産の倍率=レバレッジ倍率の上限規制と厳格化
●金融機関に対する自己資本規制を厳格化と資本の質の向上(普通株を中心にするコア自己資本)
2010年7月に成立した金融規制改革法でこれらの点は概ね実現している。

 最初は、大手金融機関の監督一元化(縦割りの規制を見直し重要な金融機関については一元的に監視監督する)である。
 →2008年9月のリーマンブラザースやAIGの経営危機が与えた影響を反省して大手金融機関の監督一元化踏み込むことになった。
 FRBの監督権限を強化する。銀行だけでなく証券 保険 ノンバンクも。金融大手への監督権限をFRBに一本化する。また金融監督協議会を創設し貯蓄金融機関監督局(OTS)は廃止する。(このほかヘッジファンド 連結対象外の投資業務のための会社SIVなどが検討課題)
 →一定規模を超えるヘッジファンドについては、SECへの登録と情報開示を求める
 →簿外のSIVが国内規制の抜け穴として利用された。SIVを使い短期資金が動員されてレバレッジ規制(20倍まで)といった規制の抜け道がつくられた。簿外取引をバランスシート取引に戻す工夫が求められている。(バーゼル銀行監督委員会でも同様の検討が進んでいる)

 このほか
 業務隔壁(fire wall)を強化する。具体的には銀行の傘下証券への融資制限、傘下証券との取引に担保を積むことなど。これは1997年の規制緩和を方針転換することを意味するが、転換見直しがどこまで広がるかが注目される。
 →日本では2007年金融審議会答申により2008年6月に、銀行と証券の間で取引先企業(法人顧客)の内部情報の共有ができるように規制を緩和した(法人顧客情報の共有の解禁)。これまでは、共有には同意書が必要だったが(オプトイン)、今後は拒否の意志表示がなければ原則的に共有できる(オプトアウト)。また役職員の兼務を認めた。日本政府(金融庁)は、銀行の優越的地位の乱用、顧客利益との相反など多くの懸念を、現状は欧米の金融機関に比べて競争面で不利だとして押し切った。
 また  
 金融消費者金融保護庁の設立
 店頭デリバティブ取引・証券化の規制強化。具体的には、証券化商品を組成したり販売したりする金融機関が、一定の損失リスクを負い続ける 債権の5%を金融機関に保有させるなど。
 さらに
 大手金融機関を迅速に破たん処理する制度を創設
 国際的金融規制・監督で各国と協調

 今一つの焦点は、資本に対する資産の倍率=レバレッジ倍率に上限を設ける点にある。これはこれまでも規制自体はあったが多くの抜け穴があった。たとえば簿外取引、あるいはトレーディング勘定などが抜け道になっていた。これまで銀行に比べ監視が緩い証券会社やファンドが負債をテコに過剰投資に走っていた。これらの抜け穴をいかにどれだけ塞げるかが課題である。
 →背景にはレバレッジをきかした自己勘定投資が行き過ぎたという反省がある(リーマンの場合、レバレッジ倍率は2003年末の23倍が2007年末には30倍になっていた)。
 →信用リスクの判断に格付けを用いる仕組みが裏目に出た。
→投資銀行には顧客の依頼を受けて行うエージェント業務と、自らリスクをとって行うプリンシパル業務とがある。投資銀行の収益が自らリスクをとるプリンシパル業務に過度に傾斜したという反省もある。このような行き過ぎの是正が今後進むと見られる(参照 御立尚資みたちたかし「投資銀行は原点回帰へ」『日本経済新聞』2008年10月17日)
 →トレーディング勘定は流動性の高い商品を短期で売買するという前提で規制がゆるかったが、投資銀行はここで借入で資産規模を膨らまして、低流動性商品に投資した。トレーディング勘定に対する規制強化が課題になっているといえる。
 →トレーディング勘定に対する規制強化で外資による日本の株式取引は縮小する可能性が高く、規制強化の影響は日本にも及ぶとされている。
 →これまで規制がゆるかったことを利用して拡大してきた投資銀行の優位性が規制強化で失われ、商業銀行と投資銀行の一体化が進むと思われた。しかし実際にはもっと劇的なことがすでに生じている。投資銀行の消滅である。
 以下その経緯を説明する。
 発端は2008年3月のベアスターンズの経営破たんでこのとき、ベアスターンズにはFRBが300億ドルの救済融資を行い、JPモルガンチェースが株式交換方式でわずか2.36億ドルでベアスターンズを救済合併する。そのご褒美なのか、2008年10月の公的資金投入ではJPモルガンチェースに250億ドルが注ぎ込まれる。
 他方で2008年9月15日にリーマンブラザースが公的支援を受けられないまま破綻させられ消滅する(韓国産業銀行による出資交渉に対してポールソン財務長官は公的資金の投入を一貫して拒否してリ-マンを破綻に追い込み、世界的金融危機の引き金を引く役割を演じた)。全く同じ日にメリルリンチはバンクオブアメリカにより買収される(440億ドル)。またAIGへの救済が決定される(当初850億ドル その後11月には約1500億ドルに拡大)。
 その後、メリルリンチを救済したバンクオブアメリカには2008年10月に250億ドル、翌1月にさらに200億ドルの際立って巨額の公的資金の投入が行われている。
 ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーシは2008年9月に金融持ち株会社への転換を行った。これには翌月の公的資金の受け入れを可能にする狙いがあったと思われる。ゴールドマンサックスはまず100億ドルの増資を行いその半分をウオレン・バフェット氏に仰いだ。そしてさらに公的資金100億ドルを受け入れた。これに対してモルガンスタンレーは三菱UFJから90億ドルの出資を受け入れ、さらに公的資金100億ドルを受け入れた。
 このようにして半年ほどの間にアメリカから投資銀行というビジネスモデルが消え去ってしまったのである。 
 
 そして3点目は金融機関に対する自己資本規制を厳格化、そしてあわせて資本の質の向上(普通株を中心にするコア自己資本)である。
 英FSAはコア自己資本4%を要請 米FRBもストレステストで4%を目安とした。また大手の金融機関にはさらに厳しい12%程度の規制をかける案も出ている。

 バーゼル銀行監督委員会では以下の点が議論されている。
 ①自己資本の質の改善 コアとして議決権のある普通株と剰余金。優先株や優先出資証券を除く。(→2009年夏にすでに市場は狭義の自己資本比率で最低4%を求めつつある)
 ②好況時に比率を上げて上積させる(景気拡大期に多額の自己資本の積み増しを求め、景気後退期には資本規制を緩める可変的規制の導入、別の視点からすると拡大期・後退期を通じた損失額に対応した必要準備額を設定することdynamic provisioning 景気変動増幅性pro-cyclicality批判へ配慮) 
 しかし最低自己資本比率を上げて達成できなければ配当制限など監督強化という強硬論もある
 ③補完的基準として資産を自己資本で割るレバレッジ比率(たとえば25倍程度)を導入する
 2009年9月下旬の20ケ国地域首脳会合(G20)までに方向性を出したいというのが事務局サイドの意向とされる。

 →日本の銀行は普通株が薄く、優先株などに頼っている。質(コア自己資本Core Tier 1)に加えて、量の面でも(8%から12%へ)日本のメガバンクが追い詰められ、大幅な資産圧縮が懸念される。また政策保有株は資産価値変動リスクとなっている。
 →自己資本比率規制の強化により日本の銀行は、国内融資の縮小に追い込まれる可能性が高い。
→もっとも自己資本規制が景気循環の振幅を増幅させたとするプロシクリカリティの議論と自己資本の質や自己資本比率引き上げなどの議論は矛盾している。 
 →同じことが時価評価の厳格な適用の是非の議論にある。市場での売買が活発でなかったり流動性がないとき(実際には売買できない)に、時価採用に疑問。時価会計を停止して理論値を採用するという考え方が広がっている。

 日本の現状は
 短期的な売買目的の有価証券 → 貸借対照表 損益計算書に影響
                 2001/03期から時価評価が義務化
 持ち合い株式など投資有価証券→ 貸借対照表に影響させる 
                 著しく下がると全額損益処理
                 時価が簿価を5割以上下回った場合
                 3割未満は貸借対照表にのみ反映
                 3割以上5割未満は銀行が選択   
 子会社株など        → 取得原価のみ時価評価しない
 企業買収時の評価損・評価益

預金保護策の拡大
 ところで今回、預金保険制度:保険料引き上げは困難な中、預金保護拡大策は延長された。アメリカでは預金保険料について2007年1月より4グループに分けて可変的保険料が導入されている。FDICの基金により、全預金に対して1.15%の資金確保が義務付けられているが、08年1-3月で1.19%まで低下して問題になっている。2008年1年間で25行が倒産したが、09年1-4月で33行が倒産している。
 FDICは不足資金を財務省からの借入で賄っている。2009年5月11日の予算教書でオバマ政権はFDICの財務省からの借り入れ枠を現行の300億ドルから1000億ドルに拡大することを提案した。背景には預金保護の財源が乏しくなるなか、預金保険料の引き上げには銀行の抵抗が大きいこと、また銀行の体力が弱っていることがある。

 その後、2009年5月20日に成立した関連法案により、オバマ政権は、借入枠の拡大(2010年までは5000億ドル)と、預金保護拡大の延長とを決めた。すなわち2008年秋の金融安定化法で導入された保護上限の拡大措置(10万ドルを25万ドル 2009年末まで)を2013年まで延長することにした。このような臨時措置が今後どのようなタイミングで解除されるのか、あるいは継続されるか、これはその財源と合わせ注目される点である。

Written by Hiroshi Fukumitsu.You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.17, 2009.
Corrected and reposted in July 24, 2010.

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商品取引と証券取引所

2010-07-18 10:24:34 | Securities Markets
国際的には商品取引規制の強化が話題になっている
投資マネーが入ることで商品先物市場の乱高下が激しくなった。2008年には原油価格が1バレル147ドルをつけるなど穀物価格や原油価格の乱高下に市民生活が脅かされるようになった。
 オバマ政権による金融規制案 ヘッジファンドが保有・出資などを禁止されるとファンド資金の流出、米銀の自己トレーデイングの減少。流動性が減り、値動きが荒くなる。市場機能(裁定取引やヘッジ取引など)の低下は、エネルギー分野への長期投資にも悪影響。
 2010年1月14日に持ち高規制案が発表された(4月から実施)。
 市場参加者者の対象を限定した(NYとロンドンに上場するWTI原油、天然ガス、ガソリン、暖房油の4品目の先物とオプション取引)建て玉(持ち高)規制が柱(市場が2万5000枚までは市場全体の10% あとは超過分に2.5%を加えるというのが米CFTC商品先物取引委員会が2010年1月14日に発表した規制案 ヘッジ取引には規制を免除する規定もある。従来は2万枚を超えるとCFTCに申請義務はあるが、持ち高規制はなかった。市場が予想した案より緩やかな案で安心感が広がった)。

商品取引と株式取引
株式取引との比較では、商品取引が株式取引とは異なる収益性を示すゆえに、代替投資alternative investmentの分野の一つとして議論されてきました。
08年前半 過熱する商品市場 2008年後半 暴落に転じた商品市場

アジアでは中国の商品先物取引所の伸びが著しい
上海先物取引所(上海期貨交易所 1999年12月設立 上海金属交易所 上海粮油交易所 上海商品交易所が統合されたもの)。会員数200社余り 全国に300余りの交易網を有する。取扱品目は金、銅、鉛、燃料油 天然ゴム(2008年末現在)。2009年の売買高は世界1.中国の需要家が上海とLME(ロンドン金属取引所)を比較することで国際市場に影響与える。LMEが安いと輸入。LMEが銅、アルミ地金などは国際指標価格提供。なお上海は2020年国際金融センターを目指している。
大連商品取引所(大連商品交易所 1993年2月設立 農業商品先物では中国最大の市場 大豆、飼料用大豆ミール、大豆油など 2008年末現在会員数189 2010年内にコークス先物を上場予定)
鄭州商品取引所(鄭州商品交易所 1990年10月に国務院により最初の先物実験市場として開設。1998年8月にやはり国務院により全国の3つの先物市場の一つとされた。世界順位第4位)高純度テレフタル酸(PTA)
中国の先物相場がアジアでの価格交渉のベースになりつつある
 中国商品市場の特徴の一つは株と連動性があります。これは実需を代表する企業、トレーダーに加え、株式市場でも活躍する個人と機関投資家が主体の市場であるため、株式市場の影響を強く受けるのだとされています。
 中国の市場の発展ぶりは日本市場の停滞と対照的です。日本には商品取引所は4つあり、その最大のものである東京工業品取引所ですら勢いはなく、海外の投資マネーを呼び込めていない。規模的には国際的にほとんど意味がない存在となっています。
 規模的には中国先物取引所に水をあけられている。中国市場は中国国内投資家向けだが、投資単位が小さく投機熱を受けてすでに巨大な市場に成長。中国の生産・消費両面での大きさから、国際市場にも影響を与える存在になっています。

日本の商品市場には勢いがなく停滞しています
株式市場に比べて格段に商品市場は規模が小さい。また個人投資家が主体の市場。その個人投資家が商品市場で消滅してきている。市場関係者は市場への規制強化が原因と主張している。現在、国内市場は4つあるが勢いの衰えは否めない。
いずれにせよ業者の間では、東京工業品取引所への統合を目指す声が強くなったいる。
証券取引所と商品市場、両方の取引所の一本化。総合取引所の議論も繰り返しでている。

 平成22年1月の取引高

国内売買高の減少
 国内商品取引所(東京工業品 東京穀物商品 中部大阪商品 関西商品の4つ)の売買高は2003年をピークに減少。2009年にはピークの4分の1。景気低迷で実需減少。投資家のリスク許容度も低下。前年比で東工取(国内商品取引の8割)で3割、東京穀物商品で4割 中部大阪商品で4-5割、関西商品で6割減少。4取引所では前年比33%減。
2009年夏以降少し戻る。東工取の金など。東京穀物商品の一般大豆など活発なものもある。

2005年 商品先物会社 電話や飛び込みの個人営業主体→その存在に社会的に批判高まる
 商品取引会社への営業規制強化 個人投資家屁の勧誘断られたら再び勧誘できないなど  機関投資家へのシフトを国が求める 個人投資家が売買の主体8割だった東京穀物商品取 引所(小豆取引で有名だった)は最悪の状況にある これに対して東京工業品取引所は
 個人シャア3割とされ状況が異なっている
 2009年 リーマンショック
 国は石油会社や機関投資家などが中心の市場への体質変換を求める
 2011年1月からは不招請勧誘の原則禁止も始まる
 商品取引所の再建のめどは立たず一部の会員からは解散による資産配分を求める声もでている。
 関西商品取引所 2009年12月10日臨時総会開催 連続5期赤字 東京穀物商品取引所との統合に前向き(一部会員が反対)→この提携の動きに証券界はほとんど関心を示していない

中部大阪商品取引所は解散へ 2010年5月18日
2010年5月18日 中部大阪商品取引所(名古屋市)が2011年1月末をめどに解散を決めた。同取引所は2007年1月に中部商品取引所と大阪商品取引所が合併して誕生。2009年秋に国内2番目の金先物市場を創設したが、売買低迷から抜け出せなかった。赤字4期。
2010年6月15日 東京工業品取引所が中部大阪商品取引所の石油市場の統合を決めた。東京工業品取引所(ガソリン、灯油、原油、軽油)の取引単位は50キロリットルに対し、中部大阪取引所(ガソリン、灯油)の取引単位は10キロリットル。のため、中小の石油販売業者の利用があったとされる。これにより国内の石油先物市場が東京工業品取引所に集約されることが決まった。
2010年6月23日 東京工業品取引所は中部大阪商品取引所から引き継ぐ石油取引の名称を「中京石油市場」として10月12日に開場するとした。

商品先物振興協会が東京工業品取引所への一本化求める(2010年6月23日)
 2010年6月23日に開いた会員懇談会で、東京穀物商品取引所に解散を求めること、農産物は東京工業品に引き継ぎを要請。中部大阪商品取引所や関西商品取引所は解散を求めてゆくとした。(自主独立路線ヲ続ける取引所に会員の側が引導を渡す)

東京穀物商品取引所が東京工業品取引所に経営統合を申し入れ(2010年10月18日判明)
 東京穀物商品取引所(2009年度売買高3兆3002億円 従業員数30人)がようやく自主独立路線を捨てて経営統合の判断をした模様。改正商品取引所法により取引を断った顧客への再勧誘が禁止された影響が大きいとのこと。東工取は市場移管以外は受け入れられない旨回答。
 東京穀物商品取引所 コメの新規上場に積極的 2010年前半にも判断 2005年に上場申請するも不認可 2009年度の売買高はピークの2003年度の5分の1以下。2010年度約7億円の最終赤字 板寄せ方式 7品目上場 2011年1月にシステム統合。
農産物を統合した東京工業品取引所(2009年度売買高61兆4396億円 従業員数74人)は日本の商品先物市場の生き残りをかけた勝負に出ることになる。

東京工業品取引所
東工取の24時間化などが課題。現在も午前9時から午後11時までと取引時間長い。2010年9月に夜間取引時間延長(午前4時まで取引可能に)。東京工業品取引所と東京穀物商品取引所は2011年1月のシステム統合目指している
液化天然ガスLNGの上場を検討中(2010年3月)
●東京工業品取引所 2009年春に処理速度世界最高水準のシステム導入(105億円投入)
いつでも自由できるザラバ方式 → 内外の機関投資家の利用を期待 しかし年間売上が26億円の市場にとり過大な投資負担で経営は悪化。
機関投資家によるアルゴリズム取引で予想外の値動き。→ 実需家の投資手控えにつながる
●排出権取引(排出量取引) 2009年10月 東京証券取引所と東京工業品取引所が共同出資会社設立で合意
●2010年3月23日 東京工業品取引所 日経・東工取商品指数先物を上場開始 証拠金の約20倍規模の取引可能 決済期限が事実上ないので長期的視点の投資可能(決済に限月ない FXと似ている)。日経・東工取商品指数先物(原油33.465 金24.72% ガソリン11.92% 白金9.32% 灯油8.74% ゴム3.94% 銀1.06% パラジウム0.84% 以上8商品の指数に連動 2005年5月末を100として算出 エネルギー関連6割 貴金属3割)ロイタージェフリーズ指数に比べ貴金属の比率高い
指数投資 分散投資効果あり
●軽油先物 2010年5月6日 上場再開したものの取引不振 石油会社など元売りでは特約店・スタンド向けの卸価格の市場連動性の値決めに使いたい(軽油:取引急減のため2006年2月に取引休止。2008年10月に出光、新日本石油が導入。現在は民間調査会社査定のスポット価格:業者間転売価格だが透明性に批判あり 2009年6月に中部大阪商品取引所が軽油取引休止)。ところが実需が緩んでいて、軽油先物の動きが実需とかけ離れていてそのまま使えない(軽油先物は原油先物に連動して上がりすぎ、他方スポットは実需を反映して低いまま。)。卸価格の市場連動性そのものが、曲がり角。需要に比べて精製能力が多きすぎる現状の修正が先決と指摘される。

商品ファンドも急減中(ピークの2000年3月末には運用本数100本超え、運用残高も2800億円 2010年3月末に150億円程度)。大手銀行は販売から撤退(販売窓口は商取会社と一部の証券会社)。個人投資家の関心は投資信託に移る(ETFなど商品に投資する投資信託は増加)。新たな設定もない。
商品ファンド運用状況

商品ETF ほかのETFと同様に証券取引所で取引されるETF リアルタイム売買可能 金や原油など個別商品別のETFも登場している。商品取引では発行体の信用リスクがないとされる。市場が小さいため巨額取引に対応した流動性がないとも。ここで国内の商品取引所(東京工業品取引所)の指数と連携した商品も登場を始めている。


ドルの代替として特殊な商品。信用リスクのない実物資産。代替通貨の側面が依然無視できない。指標はNY先物(短期動向示す 相場 買いポジション)。上場投信(ETF)の代表はSPDRゴールドシェア(その残高は長期の投資資金の動向として参照されている 買い建て玉ー売り建て玉=買い越し残高 ヘッジファンド 年金基金など)。

国内では2007年に初めて登場 投資対象に商品を組み込むための手段となる
金ETF 保管コストかからない 盗難のリスクない 少額からできる
1)金価格連動型上場投資信託(大証)約3万円の少額から投資可能 金価格に連動する債券が投資対象 野村アセットマネジメント 2007年8月10日上場
2)SPDRゴールドシェア(東証) ロンドンの金現物価格に連動 日本で初めて現物商品の裏付け 裏付けとなる地金はロンドンにある。ただし金と交換するには10万口約9億8000万円必要 World Gold Trust Services LLC 2008年6月30日上場
なお最低投資金額約50万円50口でスタートしたが2008年9月からは1口単位に引き下げられた
3)ETFS金上場投資信託(東証) ETF Securities Ltd. 2009年8月24日上場
4)国内金先物価格連動型上場投信(大証) みずほ投信投資顧問 2010年2月15日

 1971年   金ドルの交換停止 ブレトンウッズ体制の終焉
 1979年12月 旧ソ連のアフガン侵攻
 1980年1月 当時の市場最高値850ドル
 1985年9月 プラザ合意
 1989年11月 ベルリンの壁崩壊 冷戦の終結 地政学リスクの低下
 2001年9月 米同時多発テロ
 2002年   シドニー証券取引所に金ETF登場
 2003年3月 イラク戦争開始
 2004年   NYSEに金ETF
 2005年1月  400ドル台前半 
 2007年夏以降 サブプライムローン問題表面化
2008年9月 リーマンショック 2008年末以降米国公的資金投入へ
       ドル相場の不透明感 NYダウ急落 → 金へ
 2009年10月 ギリシャの財政問題 ユーロからもマネー逃げ出す → 金へ
 2009年12月初旬 一時1220ドル台の史上最高値(12月3日1227㌦)09年末1096.2ドル
       景気刺激策による大量のドル供給 通貨価値希薄化懸念 
       発行国の信用リスクのない金 へ
       米国が平時に戻れば(金利上がれば)金相場は下落か   
 2010年に入って1100ドル台を維持(1月11日1150ドル台回復) 世界的な財政不安背景
 2010年4月 一時1170ドル(4月12日NY先物)
       1100ドル以下になるとアジアの実需、宝飾品需要45%が下支え 突出して多いのがインド、中国
 2010年5月 一時1235.2ドル(5月11日)、一時1249.7ドル(5月14日) 金ETFの8割占めるSPDR Gold Share 1220.15t(5月20日) 1267.63t(5月26日)
 2010年6月 一時1260ドル超え最高値更新 1266.5ドル(6月21日) SPDR Gold share の投資残高1300t超え(ロンドンの金庫に確保されている)1320.44t(6月29日) 3000兆円以上の資産をもつ世界の富裕層 そして年金基金 ヘッジファンド経由で金ETFに向かうものもある

原油
WTI原油価格連動型上場投信(大証)2009年8月3日上場 商品先物で運用する国内初のETF 運用はシンプレクス・アセット・マネジメント
 1口5000円台 1口単位から取引可能
 商品価格連動型投信に比べ維持コスト(信託報酬)が安い 0.89%
先物市場に比べレバレッジ取引でない分 損失小さい
 WTI原油先物を円換算したものに連動
  原油先物ETF 2010年5月17日東証上場

プラチナ ドルの代替資産として金と連動した値動き 自動車の排ガス触媒向け実需(プラチナ需要の4割)
2010年2月15日 大阪証券取引所 東工取の金、白金指数に連動する上場投信(ETF)を上場開始 NEXT FUNDS 日経・東工取白金指数連動型上場投信(大証)(野村アセットマネジメントが設定)
国内金先物価格連動型上場投信(大証) みずほ投信投資顧問 2010年2月15日

初めて裏付け資産を国内に保管したETFが上場(東証) 2010年7月2日
 金、銀、プラチナ、パラジウム 
 三菱商事が現物を調達 
 三菱UFJ信託が上場
 2006年の信託法改正で可能に 発行主体 投信会社でなく信託銀行
               組成は  商社
  商社(委託者)→信託銀行(受託者)→証券取引所   
 円建て グラム単位取引
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テスラとの提携(2010年5月)とリコール再燃(2010年7月)

2010-07-05 23:04:35 | Financial Management
トヨタとテスラの提携発表(2010年5月)
 トヨタとテスラとの提携が発表された(2010年5月21日)。
提携発表文(日本語)。トヨタがテスラに出資。両社は合弁会社を設立。NUMMI工場の一部を購入して「モデルS」(量産型ファミリーEV)を生産する。
 先行しているハイブリッド車での果実獲得にこだわるトヨタは、日産をはじめとする他社がEV車(電気自動車)に全力で取り組むのを悠長にも座視してきたとされる。そのためEV車で遅れをとりつつあるとされている。
 ハイブリッド車で先行したトヨタはEVでは、日産―ルノー連合に遅れていると指摘される。日産は、米国および日本でのEV車販売を2010年12月に日産リーフ投入により開始。2011年から、今度はルノーが3車種を市場に投入予定である。さらに日産ールノーは2010年4月にドイツのダイムラーと資本業務提携で合意。トヨタへの包囲網も敷いた。
 2010年5月26日に米テネシー州スマーナ工場=EV車用電池工場の起工式で会見を開いた、日産自動車のカルロス・ゴーン社長は日産はEV車の分野でリーダー宣言を行っている。
 EV車での立ち遅れに加えて、トヨタは2009年来のリコール問題でブランド価値を大きく毀損させとくに海外で販売不振に一時陥った。またトヨタの責任ではなかったものの、カリフォルニアではGMとの合弁解消の結果として、NUMMI工場を閉鎖し(2010年3月末)地元の反発を買うおまけがついた。
 2010年5月に発表されたテスラとの提携による旧NUMMI工場の再生は、このように悪化した感情を和らげ、EV車に取り組む姿勢をアピールすることでトヨタ再生の切っ掛けになるかもしれないと期待された。

リコール問題の再燃(2010年7月)
 ところがテスラとの提携により生じたプラスイメージを帳消しにする問題が2010年7月に入って表面化した。
 日本経済新聞は、7月1日、トヨタ自動車はがレクサスなど高級車など8車種を対象にリコールを届け出る方針を固めたと報じた(日本経済新聞2010年7月1日―2日)。見つかったのはエンジンバルブ部分のバネ部品の不具合で、該当部品の交換が必要とされた。この報道は正しく、その後7月5日に、トヨタは国土交通省に対して、8車種9万1903台(2005年7月から2008年8月の間の生産分)のリコールを届け出た。エンジンという車の中核部品での新たな不具合は、2009年トヨタ車へのリコール問題にさらに追加されたもので、トヨタ車への信頼を大きく損ねかねない。

トヨタ社長がリコール問題で初めて会見(2010年2月5日)

なぜリコール問題が続くのか:田口メソッドを学ばないトヨタ
 思い起こすとわずか1年前の2009年春には、トヨタブランドの優位は隙がなく揺るがないかに見えたことである。それだけにその後のトヨタの落ち込みの激しさは驚くばかりだ。
 すべてのきっかけはリコール問題での初期対応のまずさにあった。なかでも欠陥の指摘を受けながら、車本体に欠陥はないと発表した北米トヨタの対応はまずかった。文書は残っており、言い訳はできない。NUMMIの工場閉鎖正式発表(2010年8月)での失望が残る中で、こうした対応は最悪のものではなかったか。
 しかしさらに問題であるのはその後のリコールの連続である。トヨタはこうしたリコール騒ぎから解放される手立て(品質管理の基本的な立て直し)を真剣に考える必要があるだろう。
 ところで日本発の品質管理メソッドとして田口メソッドがある。以下の論考は自動車各社のなかでトヨタだけが田口メソッド習得に励まなかったという興味深い指摘を行っている。この論考によるとトヨタは多変量解析ですべてを割り切ろうとして、それ以外のやり方を受け入れない。またトヨタの幹部が田口メソッド独自の用語を嫌ったというのである。実はこの指摘以外にも、トヨタと田口メソッドとの微妙な距離を指摘する文献が複数ある。
 田口メソッドが絶対唯一とまでは思わないが、もしそうだとすれば、トヨタにおけるリコールの連続には深い理由があることになる。自分たちのやり方だけを主張して、他者に謙虚に学ぶ姿勢がない会社に将来はないのではないか。欠陥の指摘に対して、頭から否定した北米トヨタ対応と似たものを感じる。
 私たちはトヨタの無謬神話が終わったことを認識するべきではないだろうか。

 なぜトヨタは田口メソッドを学ばないのか
 品質工学:田口玄一氏
自動車の将来

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戦後強制抑留者問題特別措置法成立(2010年6月16日)

2010-07-05 16:10:30 | Higher Education
第二次大戦の補償問題
 昔から分からないことの一つは右翼であるはずの自民党が政権を長年持ちながら、以下のような第二次大戦時の補償問題の解決に熱心でなかったことだ。なぜ放置し続けたのか、何もしなかったのか。その理由がよく分からない。
 自民党を支持する人たちはなぜこうした問題を自民党が放置したきたのか。説明する義務があるのではないか。

シベリア抑留者への未払い賃金補償問題
旧植民地出身の軍人・軍属への補償問題
旧日本軍収容所に収容された外国人捕虜への補償問題

 しかし今回、旧ソ連、モンゴルで強制労働を強いられた人々に特別給付金を支給する特別措置法が2010年6月16日に全会一致成立した。ところがこれを選挙対策のように批判するコラム記事(「金融財政事情」2010年6月28日, p.13)があり驚いた。記事を書く人の不勉強がこうした心ない記事につながったのではないか。
 政治の混迷をみれば批判も理解できないではないが、該当する人たちの高齢化が進んでいる。前回の法律の有効期限を考えると、タイミングは今しかなかった。

 おそらく講和条約などを締結するときに、国家間では賠償金を払うなどで補償問題を解決済みとすることが関係しているのだろう(ロジックとしては相手国とその国民の問題に転化)。しかし戦後直後の国力が疲弊していた時期とは異なり、日本の経済力はこれらの補償問題を解決できる程度には高まっているのではないか。
 この問題が典型的に現れたのは「従軍慰安婦」問題で、寄付などで「平和基金」を創設。この基金から「償い金」を歴代首相の手紙を添えて支給しようとしたが、国家による謝罪と補償を求める被害者の多くはこれに納得しなかった。
 戦時補償にはこれ以外の問題もあり、それらとのバランスの問題もあるだろう。たとえば戦災で死亡した民間人の扱いなど。色々想像がつくことはあるが、やはり結論として政府自民党の対応は分かりにくいものだった。政権を握っている間になぜ対応しなかったのか。

 なお調べた限りではドイツ政府の対応も日本政府と似ているようだ。相手国政府との間で賠償交渉は済ましたとして、個々人の賠償の申し立てへの対応には消極的であるようだ。
 この問題では、議会が動いて立法措置を行うことが被害者への救済への鍵になる。性格は異なるが、戦時下のアメリカで日系アメリカ人が収容所に強制収容された問題*については長年の名誉回復に向けた運動の末に、レーガン政権下の1988年に制定されたcivil liberties actによって、アメリカ連邦議会による謝罪と、生存者に対する2万ドルの補償金支払いが実現している。

*強制収容措置はアメリカ本土にいる日系人に対して1942年2月末から始まり1945年10月から11月まで及んだ。収容にあたり日系人は現住所からの立ち退きを迫られ、財産放棄を迫られた。また日系人の市民権は1952年6月まで回復されなかった。このような長期にわたる不当な拘束や人権侵害は、同じ立場にあるはずのドイツ系やイタリア系の市民に対しては行われなかった。第二次大戦中に日系人に対する同様の人権侵害は、オーストラリアやカナダ、ペルーなどでも生じた。
 なおこのような人権侵害が起きた背景の一つとして日本軍による空襲の問題がある。そもそも日米の開戦は、1941年12月8日未明の真珠湾攻撃に始まっているが、日本軍は1942年2月19日には多数の戦闘機を用いてオーストラリア北辺都市のダーウインの軍事施設に大規模な空襲をしかけている。死者は戦闘員が多かったものの市民の住宅にも多くの被害が出た。そしてその後オーストラリアに対しては43年11月まで断続的に空襲を続けたのである。アメリカ本土に対しても潜水艦に積載した飛行艇を使い、1942年2月24日にカリフォルニア州サンタバーバラにある石油施設に空襲をして被害を与えている。また1942年9月9日と9月29日の2回にわたりオレゴン州の山中に焼夷弾を投下している。これは自然鎮火して大きな被害を与えなかった。しかしアメリカ本土を空襲される事態は、米国内の排日的な議論の勢いを高め、日系人の強制収容政策を正当化させる役割を果たした。
 また時のアメリカ大統領フランクリン・D・ローズベルトは、日本人に対する蔑視的発言を控えなかった人物として知られる。少なくとも日本人については人種差別主義者であったことは公然の事実であり、それがこの強制収容政策にも影響していたと考えられる。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally written in Jan.16, 2009
Corrected and reposted in July 5, 2010

高等教育論

役員報酬の個別開示の開始(2010年6月)

2010-07-03 13:34:34 | Management
金融庁は上場企業に対し2010年3月期から、有価証券報告書に主な連結子会社の役員分も含め報酬額が年1億円以上の役員名と金額の記載を義務付けた(毎月の基本報酬、賞与、退職慰労金、ストップオプション、退職慰労金などに分けて開示する)。この義務化でこれまでベールに包まれていた企業役員に対する高額報酬の実態が明らかになろうとしている。
 この義務化に対しては、これまでも役員全員の総額については開示義務があり、株主総会の承認が必要だった(新たな情報は乏しく開示を進める必要性は低い)。個別開示により高額報酬を受けることが委縮する(弊害が多い)という意見が出た。他方で上場会社が公器とすれば役員全員の個別開示が望ましく、そこに進むべきとの意見がある。
 個別金額が明らかになることで、その人の職務(仕事ぶり)との関係で現在の報酬が適正かについては賛否の議論が起こる可能性はあるが、私としては役員報酬の議論をする上で個別報酬の開示は不可欠と考えていた。部分的にせよ開示が始まったことを歓迎したい。企業経営の透明度をあげるためには、各役員の報酬金額とともに役員報酬の決定方法について、各企業は詳細な開示をするべきだろう。
 今回の開示については、有価証券報告書で開始しても、株主総会では開示を完全に行わない企業も多かった(「特集 役員報酬のさじ加減」『エコノミスト』2010年7月20日号, pp.18-23.東京商工リサーチによるランキング表とその加工表がpp.27-31にある)。そもそも株主のために開示するという意識が希薄だったようだ。
 東京商工リサーチの調査によれば(『エコノミスト』2010年7月20日号,p.31)、東証一部で開示した113社のうち、連結営業利益が赤字であるのに1億円を超える役員報酬を支払っていた企業が5社(新生銀行、日本板硝子、富士フィルム、双葉電子工業、住友金属工業)あり、連結営業利益を役員報酬が上回った企業も1社(ワイエイシイ)あった。営業赤字であるのになぜ高額報酬を支払えるのか、なぜ役員報酬が営業利益を上回れるのか、いずれも説明しにくいことではないだろうか。

2010年3月期上場会社役員高額報酬一覧(単位 万円)
 
(商社)伊藤忠商事会長12,100 相談役11,500
(商社)住友商事社長18,600* 会長18,300* 副社長12,800*
(商社)丸紅社長13,500
(商社)三井物産社長13,500(基本10,900 賞与2,600)
会長13,200(基本10,600 賞与2,600)
前会長19,000(基本2,600 退職16,400)
(商社)三菱商事社長24,900(基本+賞与13,900 退職2,400 ス8,600)
(自動車・運輸機器)トヨタ自動車会長13,200 副会長11,400 副会長18,000 取締役12,400
(自動車・運輸機器)日産自動車カルロス・ゴーン社長89,100(基本報酬) カルロス・タバレス副社長19,800(基本報酬) 副社長17,600 COO13,400
(自動車・運輸機器)ホンダ社長11,500
(自動車・運輸機器)コマツ社長12,900*(うちス2800) 会長12,000*(うちス2800)
(金融)野村HD社長29,900* 副社長*25,200 会長19,400*
(金融)オリックス社長18,300
(金融)みずほ頭取11,400* 前会長11,000*
(金融)みずほCB頭取12,200* 前会長12,300*
(金融)三菱UFJG社長11,100 会長11,000 前会長10,500
(金融)スルガ銀行社長14,100* 副社長11,000*
(鉄鋼)新日鉄会長17,060 社長17,060
(鉄鋼)JFEHD社長13,394 前社長13,394 取締役11,595
(自動車用および建築用ガラスなど)日本板硝子社長10,400 CFO15,800 BP事業部門長12,500 前社長14,100
(高機能素材メーカー)信越化学工業会長53,500*(s2700) 社長19,700 副社長19,700 14,300 12,400
(記録デバイス・電子デバイスなど)TDK会長12,800 社長12,800
(情報通信機器、電子デバイスなど)京セラ取締役11,400
(コンシューマあるいはネットワークのプロダクツ・デバイスなど)SONYハワード・ストリンガー会長兼社長81,650*(基本31,000 業績連動10,000 ス40,650)
副社長21,500* 16,400* 13,565 12,739 
EUP 20,739 15,065
(総合光学機器メーカー)HOYACEO15,300 COO11,500 CFO10,100
(イメージング・ソルーションなど)富士フィルムHD会長36,100 事務執行役13,800 取締役12,600
(総合エレクトロニクスメーカー)パナソニック会長12,200 社長10,500
(電機機械器具製造など)東芝社長10,700
(総合重機重電首位)日立会長13,400
(総合重機トップ)三菱重工社長11,900*(うちス2,600) 会長11,900*(うちス2,600)
(薬品)アステラス製薬会長15,200 社長18,000
(薬品)
小林製薬
会長19,100 社長11,300
(薬品)
第一三共
前会長17,400 前社長17,400
(薬品)
武田薬品工業
社長22,300 前取締役55,100* 専務10,500
(化粧品)資生堂社長12,100 専務14,100 考え方(固定40% 業績連動60%)
(ベビーケア、フェミニンケア関連製品など)ユニチャーム会長15,200
(印刷)凸版印刷会長17,200
(ネット広告・電子商取引など)ヤフー社長15,900*
(通信・情報)ソフトバンク社長10,800 取締役10,800 10,800 10,200 15,900*
(音楽映像など総合エンタテイメント)エイベックス社長24,900 CSO 18,300 元専務13,300
(総合映像プロダクション)東北新社最高顧問67,500
(エンタテイメント)セガサミーHD会長兼社長43,500 副社長15,500 取締役10,800
(家庭用レジャー機器の製造販売)任天堂社長18,700 専務12,600 11,400 11,000 11,000 11,000
(教育・介護)ベネッセ社長10,800*
(ギフト商品販売など)サンリオ社長10,500*
(家電量販店)ヤマダ電機会長24,800 社長16,100
(調剤薬局)日本調剤社長47,726(うち基本報酬36,030)
(外食)コロワイド会長兼社長13,400
(外食)ゼンショー会長兼社長12,400

凡例:*スはいずれもストックオプションを含むことを示す。各種報道をまとめたものであり有価証券報告書での検証を行ったものではない。 

originally appeared in June 28, 2010
corrected and reposted in July 3, 2010

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