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東日本大震災後の生産拠点の移動

2011-06-28 09:06:39 | Economics
震災と企業
 東日本大震災ではサプライチェーンの寸断が話題になったが、原発周辺では生産拠点の
移転が必要といった、企業の立地戦略の変更を意味するケースも散見される。
 今後 原発周辺地域、沿海部などへの企業誘致は困難になったことは 間違いないようだ。

原発至近距離企業の事例
 3キロと福島第一原発にもっとも近かったのは福島県双葉郡大熊の工業団地に工場を構える富山薬品。
 この工場は立ち入りはできず、生産再開は相当期間むつかしいと思われる。なお大熊工場での操業開始は
 1985年。原発から至近の距離に工業団地があり、そこの企業が被災したことをどう考えればいいのだろうか。
 原子力発電所近くの工業団地というのは、原発における大きな事故を想定していないわけだが、そこに
 立地するかどうかは企業のリスク判断になる。原子力発電所は危険な施設という
 前提であれば、この選択は誤っていたのかもしれない。
 電解液では三菱化学や宇部興産とならぶ大手だが非上場。顧客は他社に流れているとされる。
 2011年3月28日付けの同社広報では、埼玉県にある同社の生産技術センターで代替生産を行うとしているが
 同社の再建がどうなるか注目したい。

原発10キロ圏企業の事例
 東日本大震災では、はっきりしたことは原子力発電所の近くに工場を立地させることの危険性である。
 原発から3キロの富山薬品は極端な例だが避難対象地域にある日本ブレーキ工業の
 浪江日本ブレーキ工業(福島県浪江町 福島第一原発から11キロ)でも、
 操業再開のめどが立たない。親会社の日立化成では、
 他社に生産委託するとともに茨城県筑西市にある下館事業所に生産拠点を移すことになった。
  おなじ状況は藤倉ゴム工業の小高工場(福島県南相馬市 福島第一原発から11キロ)にもある。しかもこの
 工場は2011年に建設したてのもの。10キロ離れているので原発に至近距離にわざわざ立地させたとまでは
 言えないが、原発災害を想定しなかったかは疑問が残る。新設はセントラル自動車新本社工場(2011年に稼働)と連携
 した動きといえそうだ。
 震災後、操業を停止したが、デンソーとの話合いがまとまり、4月28日の両社の発表によれば、藤倉ゴム工業は、
 デンソーが福島県田村に建設した工場を、借り受けて生産を再開することになった。これは藤倉ゴムの製品について他社では
 代替生産がむつかしいとして、トヨタがデンソーとの関係をアレンジしたと伝えられる。
 このように原発に近い距離に位置していた企業はあいついで、その拠点の放棄、拠点の移動を迫られている。

東北圏移転の持続可能性
 では東北圏全体ではどうか。実は震災直前には、東北圏は企業の進出先として期待されていた。
 その象徴といえるのが、トヨタ系のセントラル自動車の本社工場移転である。
 2011年1月6日生産開始 宮城県大衡村
 神奈川県相模原の本社工場を移転 輸出用のヤリスセダン(日本名ベルタ)
 同工場の生産能力は年産12万台。なお2月16日に本格生産開始。
 震災前には4月にカローラアクシオの生産開始して宮城に全面移転の方針だった。

 震災による変更は、拠点の変更は伴わず最小限だった。震災により本社工場の閉鎖は3月末から4月末に変更された。
 しかし大衡工場でのカローラ生産は5月10日に開始。1ケ月遅れであるが予定通り本社工場の移転が行われた。
   河北新報 2011年5月10日
 なおこの工場を作るに際して、1993年に先行して東北に進出していた関東自動車工業
 岩手工場(岩手県金ケ崎工場)との相乗効果への期待が語られていた。藤倉ゴム工業の小高進出も
 東北に自動車工業を集積させるこうしたトヨタの戦略に沿ったものだったであろう。 

 操業の速やかな再開からみてこの方針は堅持されている。東北を小型車生産の基地として拠点化するこの構想は、大きく
 とらえれば国内生産拠点分散によるリスク分散効果もある。東日本大震災はその出鼻をくじいたことは確かだが、その戦略と
 しての正しさや、持続可能性の検証はこれからである。

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大震災により地震保険への関心高まる(2011年6月)

2011-06-27 15:52:17 | Economics
2011年3月11日の東日本大震災の発生後 地震保険についての関心が高まった。しかし
震災直後より個人向け企業向けとも新規の地震保険契約引き受けは停止 
現在(2011年6月)も大手損保は引き受け停止を継続中。
再開されたとして保険料の引き上げが不可避だそうだ。

加えて今回、地震保険をしていても、受け取れる金額は平均で200万円弱程度だったとのこと。
それでもないよりましとみるかは微妙だ。

 個人向け地震保険の仕組み
  火災保険に入ることが条件
      火災保険の保険金額の3-5割が地震保険保険金額の上限
      支払い額は1件あたり200-300万円にとどまる見込み
 損害保険会社の支払いは
 2011年6月21日時点で55万件 約1兆円 とされるがこのなかには
 自動車保険の特約も含まれていると推定される。

 1兆円は今後1兆1000億円程度にまで拡大する可能性があるが、保険会社の負担は
3000億円程度と推定される。政府が5000億円近くを負担。
 地震発生直後 保険会社が外貨資産を売って円資産を確保するとの観測が円高の
推測生んだ。しかし実際には地震保険については積立の形で資金は確保されている。

 政府負担の計算
  支払い額 1150億円まで民間が100%支払う
       2兆円弱(1兆9250億円)までは官民が折半 
       2兆円弱から5兆5000億円までは政府が95%支払う
       政府の支払いは地震再保険特別会計約1兆3000億円から
       日本地震再保険(民間の準備金は1兆円とも)を通じて損保各社に支払う

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中国証券市場略年史 (1976-2011)

2011-06-13 10:22:39 | Securities Markets
中国証券市場年譜(1976-2009)
(1949年 共産党政権誕生で上海証券取引所閉鎖)
1976年9月 毛沢東死去
1978年12月 三中全会 改革開放打ち出す 社会主義現代化建設(社会主義による経済の現代化)
1980年8月 広東省3都市に経済特区設置
1982年1月 生産請負制度導入(自作農の導入)
1989年6月 天安門事件 外貨投資冷え込む 
1990年12月19日  国有企業の経営再建資金確保を目的に株式市場開設(A株市場)
1992年   外国人投資家のためB株市場開設 外貨不足が背景 外貨の直接調達が目的とされる 
1992年1-2月 小平 広東省を視察 南巡講話     
1992年12月 中国共産党第14回党大会 社会主義市場経済目指す指針を決議
1994年1月 人民元相場統一 1ドル8.28元 約30%切り下げ
1994年   市場経済型の金融制度改革実施
1995年   国有銀行を商業銀行に転換 商業銀行法を整備 商業銀行(市中銀行)に意思決定の自主性を保証(ガバナンスに課題残す)  
1996年   朱鎔基首相 金融改革 行政改革とともに国有企業改革に取り組む
1997年2月 小平死去
1997年7月 香港返還 
2000年   中国証券監督管理委員会主席に周小川が就任 市場改革に取り組む
2001年   非流通株解消を試験的に行うも株価急落招く
2001年2月 B株市場を国内投資家に解放
2001年6月13日 最高値2242.42
2001年12月 WTOに加盟 海外からの直接投資が加速へ 市場開放には5年間の猶予期間  
2002年   周小川 中国人民銀行総裁に就任
2002年   共産党大会で走出去戦略が提起される 
2002年12月 適格外国投資家にA株を解禁 
2003年春 SARS重症急性呼吸器症候群 表面化
2003年   海外の証券会社や銀行が中国の株式を買える制度をつくり外貨の流入を促進
2004年5月 深圳取引所に中小板創設   
2005年   中国建設銀行が4大国有銀行で初の株上場
2005年4月末 中国証券監督管理委員会 非流通株解消に乗り出す 株式市場改革を実施 企業の新株発行を停止
2005年6月6日 上海総合指数 一時1000割れ
2005年6月末 中国証券監督管理委員会尚福林主席 非流通株解消加速を宣言
2005年7月21日 人民元2%切り上げ 管理変動相場制へ移行
2005年7月28日 国際金融公社とアジア開発銀行に人民元建て債券の発行認める(外国の企業や金融機関に人民元建て債券発行を始めて認める)
2005年8月 中国証券投資者保護基金 設立 基金への拠出開始は見送り
2006年4月14日 中国人民銀行が発表 適格国内機関投資家QDII制度創設 一定の基準を満たす金融機関に域外投資認める(外貨の海外還流が目的)企業の外貨建て銀行口座開設や個人の外貨購入についても緩和(年間2万ドルまで自由化) 4月20日からの米中首脳会談を前に柔軟姿勢を演出
2006年4月17日 新株発行再開方針発表
2006年4月29日 中国証券監督管理委員会 非流通株の3段階解消計画打ち出す
2006年5月23日 中国証券監督管理委員会 上場企業買収管理弁法改正草案公表(31日まで意見聴取 その後8月2日に9月1日付け施行を発表)
2006年9月 個人マネーにファンド経由での外国株投資を解禁
2006年10月27日 中国最大の銀行 中国工商銀行が香港・上海市場に同時上場 世界最大規模の資金調達に
2006年12月 中国 2001年のWTO加盟により市場の全面開放 現地法人設立を条件に中国人個人向け人民元取引の解禁 大口融資規制(資本残高の10%以下)は09年末まで、預貸率規制(75%以下)は11年末まで猶予 
2006年末終値 上海総合指数2675.474 
2007年3月 物件法 企業所得税法 制定(法律による私有財産の保護 民営経済の差別待遇撤廃)
2007年4月 中国証券投資者保護基金への拠出を2007年1月にさかのぼって納入することを証券会社に求めることになった。営業収入の0.5%から5%の範囲で。
2007年8月20日 中国国家外貨管理局 個人の香港株を手始めに海外株式への直接投資試験的解禁を発表(従来は個人による外貨購入は5万ドルまで)→ 通称「直通列車」香港株(ハンセン指数)続伸 その後中国政府は早期解禁に消極的になる
2007年9月6日 上海総合指数5393.660 過去最高値を更新 
2007年9月6日 中国人民銀行 預金準備率を12.0%から12.5%へ引き上げ 引き上げは2007年に入り7回目
2007年10月 共産党大会 公有経済と私有経済について<法律的に平等保護><経済的に平等競争>という2つの平等原則を確認 
2007年10月 上海総合指数6092(最高値)
2007年10月23日 日本の大阪証券取引所が中国の株価指数に連動するETFを上場
2007年11月5日 ペテロ・チャイナ(中国石油天然気)の上海証券取引所上場 時価総額1兆ドル規模 世界最大の時価総額企業になる (香港でも重複上場 上海相場が価格差を考慮しても香港相場を上回る傾向がある 本土の投資家の海外資産への投資が制限されていることと本土株式市場の過熱を示す)
2007年12月 海外投資家(適格外国機関投資家QFII)による人民元建て株式への投資枠を現行の100億ドルから300億ドルに拡大方針伝える(米中戦略経済対話)
2008年
2008年2月25日 中国証券監督管理委員会(証監会) 上場企業の増資に対し資金の需給を崩す懸念を表明
2008年3月21日 中国証券監督管理委員会(証監会) 創業市場の草案公表
2008年4月下旬 印紙税を0.3%から0.1%に引き下げ
2008年5月12日 四川大地震 死者8万7000人
2008年5月 中国国家外貨管理局 国内機関投資家に対する海外投資枠新規認可(QDII)を凍結
2008年6月 外資系銀行に元建て債券発行解禁の方針を伝える(米中戦略経済対話)
2008年7月 中国証券監督管理委員会(証監会)と中国財務省 企業内部控制基本規範(中国版SOX)制定 2009年7月施行へ
2008年7月23日 中国共産党政治局会議 2008年後半のマクロ経済政策の目標 景気過熱の防止から転換 「物価上昇の抑制」を最優先事項としつつ「経済の安定的で比較的速い発展の保持」  
2008年8月 北京五輪開催
2008年8月 中国国務院 外国為替管理条例を11年ぶりに改正(国内企業や個人に外貨之国外持ち出しを認めて外貨獲得から海外投資に軸足移す) 投機資金流入監視の仕組みも盛り込む(背景:外貨準備2兆ドルに迫る)
2008年9月15日 中国人民銀行 商業銀行貸出基準金利引下げ公表 1年もの7.47から7.20%へ(9月16日実施) 預金準備率を9月25日から1%引下げ(一部大手行はのぞく)
2008年9月 株価急落懸念から新規株式公開(IPO)停止へ
2008年9月18日 中央金匯公司(政府系投資会社) 中国銀行や中国建設銀行など銀行株買い増しを発表 
2008年9月18日 中国政府 株式購入時の印紙税免除(現行は0.1% 4月に0.3%から引下げ)を公表(9月19日実施)
2008年10月  農民による農地使用権売買認める
2008年11月8日 中国政府 4兆元の景気対策打ち出す
2009年
2009年3月31日 中国証券監督管理委員会 新規発行株及び創業板上場に関する暫定管理法 2009年3月31日公布(5月1日施行)
2009年5月 深曙V証券取引所に創業板(ベンチャー企業向け市場)開設 上場基準を緩和 投資家 原則2年の投資経験 リスク許容度を店頭で審査 大企業と国有企業は上海に上場 主板(メーンボード)への上場はとだえ「中小板」中心 そこに創業板加わる
2009年6月 新規株式公開容認に転換
2009年6月 中国政府は国有企業に対して株式上場時に新規発行株の10%分を公的年金の財源(全国社会保障基金 ここから地方政府が手掛ける基金に資金を振り向ける)に拠出させる方針を決めた 社会保障基金の財源強化 安定株主作りの狙いか
2009年6月 全国社会保障基金(2000年に各地方政府が運用する年金基金を資金支援するため設立。運用総額は2008年12月末で5100億元 2008年の運用成績がマイナス6.8%と始めてマイナス。)はPEファンド(地方政府がPEファンドを相次いで設立している)への投資を拡大する方針
2009年6月下旬 HSBCと東亜銀行が香港で人民元建て債券を発行(人民元建て債券の発行解禁)
2009年6月末 新規株式公開IPO再開(2008年9月から中断)
2009年7月上旬 人民銀行 1年物の中央銀行手形発行を約8ケ月ぶりに再開(余剰資金の吸収に乗り出す)
2009年7月15日 中国国家外貨管理局 外貨管理の規制を緩和 中国企業の対外直接投資促進へ(8月1日から実施)
2009年7月15日 上海シンセンの時価総額 東京証券取引所(3兆2000億ドル)を一時抜く(3兆2500億ドル) 上海総合指数は年初来7割 シンセン総合指数は2倍弱急上昇 非流通株がなお約5割
2009年7月23日 中国共産党政治局会議 09年後半のマクロ経済政策の基本方針について、経済回復の基礎はまだ固まっていないとして「積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」の継続を決めた。
2009年7月29日 印紙税引き上げ(08年9月に購入時無税化)観測から株価急落 一時7%下げる 終値は前日比5%安の3266.432
2009年7月 中国建築工程 上海市場に上場へ
2009年8月4日 上海総合指数3471.442年初来高値
2009年8月5日 中国人民銀行レポート 金融政策運営の微調整に言及。株価急落のきっかけとなる。
2009年8月11日 中国人民銀行 7月の人民元融資 6月の1兆5304億円に対し7月は3559億円と急減→ 人民銀行が融資の伸びをおさえるように窓口指導をしているとの観測生む
2009年8月17日 上海総合指数 前営業日比5.79%安 今年最大の下落率(年初から60%上昇)
2009年8月18日 中国証券大手の光大証券が上海証券取引所に上場
2009年9月4日 中国国家外貨管理局 個別の機関投資家の購入できる元建て株式上限を8億ドルから10億ドルに引き上げる方針を表明
2009年10月1日 建国60周年
2009年10月  中国国家外貨管理局 2008年5月以来凍結していた国内機関投資家に対する海外投資枠新規認可を再開 2社に計15億ドル(これで58社になった 投資枠計559億ドル 289億ドルが香港株を中心に海外株等に投資されている) 
2009年10月9日 政府系ファンド中央 金公司が国有大手商業銀行の株式の市場での買い増しを表明
2009年10月13日 中国証券監督管理委員会 短期間で投資信託を売却する投資家に対して運用会社が投資金額の最大1.5%に相当する懲罰的手数料を導入できる規定を導入
2009年10月27日 中国工商銀行の非流通株すべてが市場で売買可能な流通株に転換される(→一部の機関投資家が含み益のある同株を売却する懸念あり)
2009年10月30日 深圳証券取引所で創業板取引開始(上場28社)28社のすべてで上場は初値が公募価格上回る(28社が30日に同時上場) 28社の調達規模は150億元前後(2000億円)と事前推定 30日 投機熱鮮明 全銘柄が一時売買停止 総売買高219億元(約2900億円)
2010年
2010年1月 中国証券業協会 国内証券会社106社の12月期決算を公表 純利益933億元(約1兆2400億円) 前年同期比94%増 営業収入 2050億元 64%増 手数料収入 61%増(2009年の上海証券取引所の株式売買代金は92%増)
2010年1月 中国国務院 信用取引の解禁に同意  
2010年1月 中国政府 創業者など未公開株式の保有者が上場後 株式を売却した場合に売却益の2割を所得税から徴収へ。1月から。
2010年3月24日 信用取引 口座開設受付開始
2010年3月31日 信用取引解禁 証券大手6社に通知 開設 最低で50万元(日本円で680万円)の預かり資産 対象は上海上場の50社(石油大手の中国石油天然気)。深センは40社(不動産大手の万科企業など)。流動性の高いものを選んだとされる。
2010年4月16日 株価指数(上深300指数)先物取引解禁 上海にある中国金融先物取引所で開始
2010年4月 中国政府 不動産価格抑制に本腰(2顕件目以降の住宅購入時の頭金の引き上げ)
2010年5月 中国人民銀行が2010年に入り3度目の預金準備率引き上げを実施
2010年7月 中国鉄鋼大手が相次いで鉄鋼製品価格引き下げ実施(背景には高水準の在庫)
2010年7月15日 中国農業銀行の新規株式公開
2010年8月5日 中国保険監督管理委員会 保険会社の運用指針 株式と株式投信の運用比率を総資産の20%を上限。不動産は10%まで。従来は明示されず不明確。実績より高い上限で相場の下支えと、上限明示による抑制効果狙う(事実上の基準緩和効果が大きい)。2010年6月末 中国保険会社の総資産は4兆5000億元 うち株式関連は13%強。
2010年8月12日 中国保険監督管理委員会 保険会社の運用指針 株式投資の上限を20%、株式投信など運用商品を含めて25%まで可能に変更。
2010年9月 漁船問題で日中間の緊張
2010年 日本の対中直接投資6278億円 ピークは2007年の7305億円 なお高水準
     一人当たりGDP(2010年推定) 日本 42, 431ドル。中国4412ドル
2010年10月末 創業板 上場企業数134社 市場規模6112億元(約7兆4000億円)に拡大(これまでの調達資金は1000億円元弱) 調達資金が活用されているかには疑問の声も出ている        
2010年12月 消費者物価上昇率 前年同月比4.6%増
2010年12月25日 本年 2度目の利上げを実施
2010年12月末 両取引所の上場社数2176社 純利益合計 1兆6654億円(前期比37%増加)
2011年
2011年1月 消費者物価上昇率 前年同月比4.9%増
2011年1月14日 中国人民銀行 預金準備率引き上げ
2011年4月29日 1ドル 6.5元を突破
2011年5月 中国証券監督管理委員会 裏口上場規制に乗り出す方針(改革案を公表)
2011年7月 中国共産党結党90年
2011年10月 辛亥革命100年

李永森「中国の創業板(新興市場)のリスクに関する考察」『季刊中国資本市場研究』2008年秋号 36-42.
範岳「中国証券市場における投資家構造の分析と改善案」『季刊中国資本市場研究』2008年夏号, 12-20.
神宮健「2007年の中国証券市場の回顧と今後の証券市場政策」『季刊中国資本市場研究』2008年春号, 28-39.
黒岩達也「中国証券市場の動向と市場改革の行方」『SCB内外経済・金融動向』No.20-1, 2008年4月23日, 1-18.
宮慧杰「中国証券市場の歴史と現状」『立命館経営学』40巻3号, 2001年9月, 129-136.
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in April 30, 2009.
Corrected and reposted in July 29, 2009.
Reposted in June 13, 2011

開講にあたって
証券市場論 証券市場論文献案内
東アジア論 PDF公開論文 研究文献目録



2011年以降の中国経済

2011-06-13 07:01:31 | Area Studies
中国証券市場略年譜
2010年末までの中国経済
2011年1月 中国政府 2軒目を買うときの頭金比率を5割から6割に引き上げるなど投機的な住宅購入規制を強化
2011年1月14日 預金準備率0.5%上げ
2011年1月20日 貸出預金金利0.25%上げ
2011年2月24日 預金準備率0.5%上げ
2011年3月25日 預金準備率0.5%上げ
2011年4月 中国国家統計局発表 3月のCPI  前年同月比5.4%上昇(危険水域の5%超え)
2011年4月 中国政府(国家発展改革委員会) 値上げ抑制の行政指導を強化 → 電力料金の抑制指導 石炭価格が高騰しているため発電会社の収益が悪化 電気供給が止まる副作用が一部で発生 企業は自家発電に走りその燃料の軽油が不足
2011年4月18日 中国商務省発表 1-3月に中国への直接投資 実行ベースで前年同月比29.4%増加の303億4000万ドル
          中国から海外は13.2%増の85億1000万ドル
2011年4月21日 中国人民銀行 預金準備率引き上げ(2011年に入り4回目)
2011年4月29日 1ドル6.5元を突破
2011年5月  各地で電力不足が深刻化
2011年5月  中国政府 石油会社に軽油などの増産と輸出停止を要求 国内軽油価格などの抑制で石油会社の採算悪化 石油会社は値上げ容認か補助金支給を求めている
2011年5月 人事社会保障省 2010年の農民工 前年比5.4%増の2億4223万 しかし沿海部では人手不足が深刻 操業停止に追い込まれる工場も相次いでいる 内陸部でも公共事業が活発化している
2011年5月1日 中国物流購入連合会 4月の製造業購買担当者景気指数 前年同月比0.5ポイント悪化の52.9 景況感の水準はなお高い
2011年5月6日 中国国家発展改革委員会 ユニリーバに対し消費者に値上げ観測をあおったとして罰金200万元(価格法 独占禁止法に違反)
2011年5月11日 中国国家統計局発表 4月のCPI 前年同月比5.3%上昇
2011年5月11日 中国国家統計局 4月の工業生産前年同月比13.4%上昇 3月の14.8%上昇を下回る
   3月ー4月 農村部を除く固定資産投資は前年同月比25.4%増と堅調                         
2011年5月12日 中国人民銀行 18日より預金準備率0.5%引き上げ(2011年に入り5回目) 大手行の標準で21%と過去最高水準を更新
2011年5月18日 中国国家統計局 4月の主要70都市住宅価格統計 前年同月比で価格が下落した都市が3つ 広州市はなお拡大
2011年5月末  長江流域で干ばつ被害広がる 例年に比べ降水量少ない 湖南 湖北 江西 安徽 江蘇の5省でとくに深刻
2011年5月30日 中国国家発展改革委員会 6月1日から湖南 重慶など15の省直轄市で工業用電力料金引き上げ 住民生活用は据え置く

中国 人民元が1ドル6.5元突破(2011年4月29日)

2011-06-13 06:57:53 | Area Studies
中国人民元 対ドル6.5元突破 2011年4月29日[金曜日] 上海外国為替市場終値で1ドル6.5元割れに。これは元高を
意味する。昨年の6月の弾力化声明時点で6.83元。時間はかかっているものの元高には着実に進んでいる。
2011年4月
2011年4月29日 一時1ドル6.48元 終値6.491元(6.5元突破)
      輸入物価上昇 元売りに伴う過剰流動性抑制
      投機マネー流入 5月上旬の米中戦略経済対話に備える
      反面 輸出競争力低下
      すでに2010年6月に弾力化 当時は1ドル6.83元(2008年9月のリーマンショック以降 一度は2005年7月に人民元切り上げ その後固定6.83元に固定 2010年6月に弾力化)
中国 人民元弾力化声明 2010年6月19日
      内需拡大への転換急ぐ
4月28日(木) 終値6.5015元
4月22日(金) 上海外国為替市場終値 1ドル6.5067元
      6.5元突破の可能性(3月末で外貨準備が3兆ドルを超えドル買いに限界)
      輸入インフレ抑制のため元高を容認する政府幹部発言
4月17日(日) 中国人民銀行 預金準備率引き上げ 21日(木曜日)より0.5%(大手行で20.5%)
      3月25日以来 今年4回目
      背景
      原油価格の高騰(中東情勢の混乱 東日本大震災の影響) 賃上げ(沿海部は人手不足)
      インフレ(沿岸部で20% 内陸部で10%強) → 賃金上昇 → インフレの亢進 消費に減速感
4月15日(金) 中国国家統計局発表  3月のCPIは前年同月比5.4%上昇(2008年7月の6.3%以来 2年8ケ月ぶり高い伸び)
                政府の抑制目標4%を6ケ月連続で上回る
        消費者物価指数 4.9%[2月] 5.4%(3月)
        工業生産者出荷指数  7.2% 7.3%
        工業生産    14.9%   14.8%
        社会消費品小売総額 11.6% 17.4%
                1-3月のGDP 実質年率9.7%増(小幅縮小)
                1-3月の貿易収支 10億2000万ドルの赤字 4半期の赤字は7年ぶり
4月14日(木) ワシントンでG20財務相中央銀行総裁会議で人民元問題が争点に
4月14日 中国人民銀行 3月末の外貨準備高 前年同期比24.4%増の3兆447億ドル(約250兆円)
      為替介入を反映
      金余り 物価や不動産価格押し上げ要因との指摘
             日本は1兆1160億ドルで2位  
      2006年2月 日本の外貨準備を抜き世界1に
      2009年4月末 2兆ドル突破
4月13日(水) 上海外国為替市場終値 1ドル6.5340元(2005年7月以降の最高値更新)
4月12日(火) 上海外国為替市場終値 1ドル6.5403元 
4月6日(水) 中国人民銀行  2010年10月以来4回目の利上げ(2月9日以来 発表は4月5日) 0.25%(4月5日発表)
      貸出基準金利(1年)6.31%
      預金(同) 3.25%
中国利上げに転換 2010年10月19日 2010年12月25日 そして2011年2月9日 加えて4月6日で計4回

2011年3月
3月25日 中国人民銀行 預金準備率0.5%引き上げる 大手行標準で20%か
3月14日 全国人民代表大会閉幕
      新5ケ年計画採択(金利自由化を明記 ただし具体的手順触れず なお中国では預金保険制度は未整備) 
人口13億3900万人(2010年香港マカオ除く 2000年比7390万増加 年平均0.6%増 1990年代野1.1%に比べ半減 反面高齢化進む 65歳以上の人口は8.9% 都市人口比率10年間で36.6%から49.7%に上昇 大卒人口10万あたり8930人10年前の2.5倍) 新卒大学生 2000年107万人→2010年630万人に急増 ネット人口4億5000万人
温家宝首相 周小川中国人民銀行総裁
第12次5ケ年計画(2011-15 経済成長率目標7% 2011年については8% 安定成長への移行はかる 前計画06-10の目標7.5%:実際は実績は11.2%を達成より下げる インフレ抑制を最優先 今年の成長率目標は8%程度(10年実績10.3%) 今年の消費者物価上昇率は4%程度(10年実績3.3%)貧富の格差是正 住宅価格急騰を食い止める 穏健な金融政策()マネーサプライ増加率16%として昨年日1ポイント下げる(10年実績19.7%)
戦略的新興産業7分野を指定(省エネ・環境保護 次世代情報技術 バイオテクノロジー 航空機・高速鉄道など先端レベルの設備製造 新エネルギー 新素材 新エネルギー車)
2011年度の全国財政支出前年度比18.6%増の10兆220億元(過去最大約125兆円) 財政赤字は9000億元(前年度比1500億元小さい)
       GDPに対する財政赤字3%弱から2%に低下見込む
2010年の自動車販売台数30%増の1800万台2年連続世界1(国際ブランドシェア3割)
2011年 上海市 重慶市で不動産税(日本の固定資産税にあたる)導入 背景 投機:誰も住んでいない住宅が数1千万戸あるとも

3月11日 中国国家統計局 2月のCPI 前年同期比4.9%上昇(政府の抑制目標4%を5ケ月連続で上回る)

2011年2月
2月18日 人民銀行 預金準備率引き上げ発表 2月24日より0.5%大手行標準で19.5%か
2月17日 終値6.5732元
2月10日 一時人民元基準値1ドル6.5849元 3日連続で最高値更新(2005年7月元切り上げ以降の) 終値は6.5865元
2月9日中国人民銀行  基準金利0.25%引き上げ(2月8日発表) 昨年10月以来3回目(10月 12月)
      貸出基準金利(1年)6.06% 
      預金(1年) 3.00% 普通預金金利0.4%引き上げは2007年7月以来約3年ぶり
      実質マイナス金利解消急ぐ 年間の物価上昇率約5%にくらべなお不足

2011年1月
1月14日 1月20日からの預金準備率引き上げ発表0.5%引き上げ(2010年12月20日以来)
1月19日 ワシントンで米中首脳会談
1月19日 上海外国為替市場 午前の基準値 1ドル6.5885元 2005年7月以降の最高値更新
2011年以降の中国経済

0riginally posted in May 2, 2011
Reposted in June 13, 2011

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自社株買いによる資本構成見直し戦略

2011-06-08 07:05:24 | Securities Markets
1.自社株買い制度の形成
 企業が既発行の市場にある株式を買い戻すことを自社株買い(stock buybacks or share repurchase)と呼んでいる。日本企業が行う自社株買いが近年急速に拡大して話題になっている。東京証券取引所の上場企業についての数値をみると、2004年度が1兆2201億円。2005年度が1兆6077億円。2006年度が3兆9800億円となっている。背景としては、2003年の商法改正で機動的な自社株買いが可能になったことや、企業買収の活発化によって、企業が買収防衛のため自社株買いをしていること、あるいは将来の株式交換など多様な目的に備えて戦略的に手元に置く自社株(金庫株treasury stock)を増やしていることなどが考えられる。
 もともと日本では、株式発行は自己資本の充実が目的であるという観点から、商法により自社株の取得が原則として禁止されていた。1994年にこの禁止が緩められ消却する場合に限って自社株取得が認められ自社株買いが解禁された。この解禁には株価対策の側面があった。このように1990年代の株価低迷期に自社株買いはまずは株価対策としてスタートした。
 そして1997年の商法改正で自社株取得目的にストックオプションが加わえられたあと、2001年10月の商法改正では取得した株式を目的を定めず保有することを認める金庫株(treasury stock)制度が導入された。この導入で主として念頭に置かれていたのはすでに1999年の改正で認められていた、株式交換方式での企業買収に金庫株を活用することであった。しかしその後、金庫株が乱用されている疑いが出ている。自社株を買い付けたものの、企業買収のあてもなく保有し続けるものも見られる。市場にとっては潜在的に市場に出てくる可能性のある株が増えることになる。株主への利益配分として自社株を買い付けたのであれば、消却するべきだという批判がそこで出ている。
 とうのも取得した株価よりも株価があがると、市場で売却するメリットがでてくるからである。しかしそれは、株主にすれば裏切りにもみえる。回復した株価を下げる可能性もあるからだ。過大な自社株保有に制限があってしかるべきだとの指摘もある。
 また2003年からは取締役会決議で自社株の買い付け時期や取得金額を決めることができるようになった。自らが筆頭株主という上場会社は2007年9月末時点で142社。2007年3月末の123社に比べ19社増えた。
 そしてさらに2003年9月の商法改正で、あらかじめ定款を変更しておけば、取締役会の決議で自社株の買い付け時期や取得金額を機動的に定めることが可能になった。そしてこの改正を契機に自社株買いは急に増えて今日に至っている。

2.自社株買い制度の経済的本質
 ところで自社株買いの経済的な本質は何だろうか。一つの見方は、企業の利益の使い方(処分方法)の一つだということである。利益処分の方法には、内部留保・配当・そして自社株買いなどが考えられる。大きくわければ企業に残すか、株主(市場)に返すか=社外に流出させるかである。
 実は最近まで内部留保は、企業価値を増やすとして、株主の立場からも肯定されていたが、近年は、一定の内部留保水準があり、かつ効率的に新規投資に使う予定がないのであれば、利益はいたずらに内部留保せず株主に返すべきだという考え方が強まっている。資本圧縮によりROEは改善される。
 手元余剰資金の処分策としての面である。資産効率改善のためにも余分なキャッシュは株主に還元するのが筋という考え方。日銀が2002年から2004年に銀行などから取得した株式を2007年10月から放出を始めたことも自社株取得を促すとみられる。
 まず内部留保には、企業経営の財務上の緩衝財としての役割がある。したがって一定の厚みは必要である。また企業が急速に成長する過程では高内部留保政策は、株主の立場からみて正しいこともある。それは資産を効率的に収益につなげることもできているからである。しかしそのあてがないのであれば、企業の財務上の安定に必要な範囲を超えて内部留保を進めることは肯定されない。
 内部留保の厚みは、企業の経営の財務的安定にとっては重要であるが、あまりにそれが厚いことは、却って経営者の緊張を弛緩させる。また企業買収をする側は、この厚みを企業を買収をしたときにすぐに利用できるキャッシュとみなすので、企業買収のターゲットになるリスクを高めてしまうという指摘もある。これらの指摘から、ある程度、内部留保水準があり、当面効率的な投資先がない企業は、利益は積極的に株主に返すことが正しいと近年は議論されるようになった。
 では配当か自社株買いかはどういう選択なのだろうか。まず対株主でみると、株主にとっては配当はまさに配当所得であるが、自社株買いは株価水準の引き上げを通じた株主への利益還元となる。自社株買いが株価水準の引き上げになる理屈はあとで述べるが、株主は株価水準による利益還元の方を好むという言い方もしばしば行われる。
 これもあとで述べるが、自社株買いで取得した株式には様々な利用方法がある。その利用方法からみると自社株買いの狙いは必ずしも株主対策だけではない。そのような自社株買いが、株主対策としても評価される。自社株買いが増える背景には自社株買いにより取得入手した自社株の戦略的活用という問題が見え隠れする。
 利益のうち配当に回す割合を配当性向(dividend payout ratio)と呼ぶが、利益と自社株買いに使ったお金を合わせたものの利益に占める比率を総還元性向(total return ratio)と呼んで、自社株買いを株主への利益還元の一部と理解することが増えている。一部の企業では、目標とする配当性向や総還元性向を宣言してそれを株主重視の姿勢の表明としている。
 なお自社株取得のためには、まず枠を設定し、つぎに購入の決定になる。枠(株数)を考えるといつそれを行うかの見極めが大事になる。当然株価がの急落時や下がりきったところを狙うことになる。そこで株価の不透明感が増すと取得意欲が衰える。

3.消却目的でない自社株買いは何を意味するのか
 自社株買いは、市場に存在する株数を減らすことから次のような効果(株価対策あるいは株主への利益還元の面)が考えられる。エクイティによる資金調達とちょうど逆になる。したがって一方で公募増資をして、他方で自社株買いをするのは資本政策としては矛盾している。しかし個人株主対策で自社株買いをして、他方で第三者割り当て増資をするという安定株主増加戦略はありうるところである。
 資本コストに与える影響も注目される。株主資本のコスト(期待収益率)は負債についてのコストより高いと考えられるから、自己資本比率の上昇は、財務の安定を高める反面、資本コストの上昇になるという言い方がある。だとすると自社株買いは自己資本比率を下げてこの数値を調整する意味がある(また自己資本を小さくすることには資本効率を高めるという表現もある)。
 まず第一に流通株数が減ることによる需給面の引き締まり効果(株価対策の側面 株主への利益還元)がある。株価が上昇する可能性は高くなる。確実に言えるのは、流通株数が減ることで、1株あたりの予想利益(EPS)が増えるということ。なお取得された株式が、金庫株として残され消却されないとしても、議決権はないし会社としても配当支払いの必要がないので、消却された場合も金庫株とされた場合も経済的効果は同じとみなせる。
 ただ面倒なのは、株価がどうなるかは、あくまで株式市場がどう反応するかという問題であるので、必ず決まった結果が保証されるものではないということである。配当に比べて効果は一時的側面があるともされる(株数が減るのだから継続的に効果があるともいえ、このあたりは議論の余地がある)。
 なお自社株買いで購入した株式を、消却して発行株数を削減するか、あるいは手元に残すかは選択の問題である。しかしこのような手元保有の自社株は、株主の立場からみると、取締役会の判断で市場に出てくる可能性があるので、潜在的に株主権を希薄化させるリスクのある存在とみなされる。株主は、自社株買いで購入した株式の速やかな消却を歓迎するものだといえる。つまり保有している自社株(金庫株)の消却は、株主から無条件に肯定される。

 第二は副次的効果として、市場に流通する株式が減ることや株価上昇には、企業買収への企業側の対抗手段の一つとしての面もある。企業買収のリスクをそれだけ下げると説明できよう。
 取得した自社株の使い方についてはさまざまな選択肢がある。消却だけが自社株買いの目的ではない。
 たとえば
 株式交換などM&Aの手段として戦略的に使うことができる。
 役員や従業員のストックオプションに使うことができる。
 特定の第三者に売却することで、その第3者との関係を強化することができる。
 任意の時期に市場に売却して改めて資金調達をすることができるなど。
 このような選択枝から逆に出発して考えると、まずM&Aという目的が実は先にあるかもしれない。あるいは特定の取引先に自社株の株主になってもらう問題が先にあるかもしれない。そのために、自社株をまず取得をする。ではなぜ自社株買いなのか。なぜ新株を発行しないのか。
 私は株価対策が意識されているからだと考える。これらの選択肢のために株を新たに出すと、株式価値の希薄化が生じてしまい、株式価値が下がりかねない。そこで自社株買いをする。自社株買い戦略は、企業買収、他企業との資本提携、ストックオプションの実施などを、株式価値には影響を及ぼさない形で実施する方策になる。かつ市場からは株主への利益還元として評価される。消却目的でない自社株買いはこのように複数の狙いで実施されるものだと考えられる。
 なお日本では自社株買いというと、市場で市場価格で買い集めるのが基本的なイメージである。しかし海外の解説では、公開入札(TOB:tender offer bid)による自社株買いをまず挙げて、市場での買い集めとの比較をしている。現在のところ事例は少ないがTOBを自社株買いで使うケースがある。今後、自社株買いにTOBによるものが増えるかもしれない。

4.資本構成見直し戦略(recaptalization)としての自社株買い
株価対策として出発した自社株買いは、いま別の視点から注目されている。
 それは一つは企業の資本コストを変化させるという積極的意味において。もう一つは資本構成を変化させることで、企業買収に対して負債の多い企業に変質させるという消却的意味において。
 まず前者。これは株式の資本コストが高く、負債のコストがそれよりも低いということが関係している。そこで自社株買いをする一方、負債で資金を調達。つまり資本構成を変化させることで、総資本コストを下げるという戦略が財務戦略として考えられる。自社買いと転換社債発行というのも同じである。
 つぎに後者。負債を意識的に一挙に増やしたり、巨額配当を払ったり、あるいは内部留保で自社株を進めたり、内部留保を流出させることで意識的に財務数値を悪化させるという手法がある。
 このような手法を資本構成見直し戦略(recapitalization)という。負債比率を上げる点に注目して負債水準を引き上げる資本構成見直し戦略(leveraged recapitalization)という。

5.株価低迷と自社株買い
株価低迷下での自社株買いは、株価対策(株安を放置すると企業買収のリスクも高まる側面もある)としてだけでなく、効率的に自社株買いをするチャンスとみることもできる。自社株は割安だというアナウンスメント効果(あるいはシグナル効果)もある(投資家の買い行動を誘発)。(→株式発行による増資が株価が割高、投資家の売りを誘発というシグナルになるのと逆である)。しかしこのシグナル以上に投資家が意識するのは、需給の好転や利益の株主配分かもしれない。
 自社株買いには、自己資本を圧縮することで資本効率を高める(自己資本比率を上げたくない)、配当と自社株買いをあわせたものを株主配分として、株主配分を手厚くする姿勢を示す(⇔総還元性向あるいは株主配分率の明示)、などの狙いもあるが、そのコストを考えても、株価が下がったときがむしろチャンス。株価が1株あたり純資産を下回ったときなどが目安。
 逆に自社株購入枠を設定して購入しないと投資家の信頼が失われる。
 購入した金庫株をためたままだと、再放出リスク(需給悪化懸念)がある投資家に嫌われる。保有したままだと株主配分政策としては不明確。→消却・活用(株式交換によるM&A、ストックオプション用など)が望ましいとの指摘がある。
 保有自社株(議決権なくなる 配当を支払う必要もない)。 
 他方で手元資金を自社株買いに使うのは、当面の資金繰りに不安がないこと(設備投資や企業買収などの予定がないこと)の反映ともいえる。資金の確保を優先する状況では、自社株買いは先送りされるだろう。

 2009年度 7303億円 前年度比8割減少
 2010年度 2011年3月8日までで1兆2581億円 前年度比7割上昇

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
2008年3月26日 投稿
2011年6月8日 修正の上 再投稿