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グーグル、中国本土での検索サービスから撤退(10年3月22日)

グーグルと中国政府
 2000年に中国語サイトを立ち上げ、2006年1月からは米国内の人権擁護派の反対を押しきって中国で広告事業を展開してきたグーグルが、2009年12月以来、ネット検閲で中国政府と対決姿勢を強めて注目されていたが、2010年3月22日、ついに中国本土でのネット検索サービス停止、香港経由サービスへの切り替えと、自主検閲撤廃を表明した。
 この問題は米中の経済摩擦の一つに浮上。かつ中国市場を完全に失うリスクにグーグルは直面した。2010年6月になってグーグルは、香港版への自動転送を中止。利用者が香港版への接続を自ら選ぶ仕組みとした。そのうえでグーグルは6月29日、中国の法律順守を約束してネット検索事業免許の更新を申請した。2010年7月11日、中国の工業情報化省は米グーグルの中国でのネット検索事業の免許を更新した。

 直接の契機は2009年12月中旬にGメールに対して中国政府関係者のものと思われるサーバーから、人権活動家のメール情報取得を目的にした攻撃を受けたこととされている。
 しかしネットの情報がどこまでも自由でよいのかについては、議論の余地がある。たとえば犯罪を助長するものはいけないという意見は日本に限らず強い。とするとどこまでの情報がよくて、どこからがいけないという物差しを誰がもっているのかということになる。グーグル自身が、自主規制しているものが実はないわけではない。その意味で中国政府による中国国内では中国の法律を必ず守る必要があるというのも全く間違った主張とはいえない。
 ブラウザー提供業者の自主規制は問題なく、政府の規制は問題ありとするのは、提供業者が正しい判断をするという前提に基づいているが、果たしてそう言い切れるか。またネットブラウザーが市場を独占している場合は、自主規制という名で業者が検閲しているのとなんら変わらないことになる。
 中国政府によるネット取り締まりは2008年3月のチベット騒乱を機にデモのよびかけなどを封じるために強化され(一説には08年末に中国共産党独裁を批判する08憲章がネットで流れたことを契機に強化され)、2009年3月からはyoutubeの閲覧が不可になり、2009年6月にはグーグル閲覧を一時ブロック。また2009年6月には、パソコンに検閲ソフト搭載の義務付け方針を発表したこともあるとされている(その後撤回)。
 中国政府は、金盾工程と呼ばれるネット監視システムにより内外のサイトを監視する一方(不適切なサイトへの接続を遮断しているとのこと)、五毛党と呼ばれる体制寄りの発言をネットの掲示板などに書きこむお雇い評論員を動員して、世論誘導も行っているとされる。
 
 グーグルの姿勢は、成長の早い中国市場を失っても理想を追求するという姿勢を明確にしたものとされる(しかし香港のグーグルのサイトをみると、明らかに中国本土を意識した作りになっている(また中国の法律順守の表明とネット検索事業の免許更新の申請は事業の継続を示すもの)、グーグルが中国市場をあきらめたと見るのは早計で、グーグルは掲げる理想と現実との妥協を図り、中国政府はそれを黙認したのではないだろうか)。
 中国のネット利用人口は2010年6月現在4億6000万人(推定)。2005年12月時点の1億1100万人から急増している。携帯電話の加入件数は2010年6月現在8億件超。携帯経由のネット利用人口は2億7678万人とのこと(普及率で人口の3割 日本は7割 今後の中国市場の成長余力は極めて大きい)。代表的ネット企業には、無料の簡易メールサービス(IM)QQを運営する騰訊(テンセント)、検索市場で7割シェアの百度(バイドウ)、企業間電子商取引の阿里巴巴網絡(アリババドットコム)などが知られる。

なぜウィキリークスはいけないのか
 このグーグルの動きを米政府は支持してみせた。ところが内部告発サイト「ウィキリークスWikileaks」に対しては批判している。グーグルはよくて、ウィキリークスは駄目である理由を説明していただく必要はありそうだ。
 11月28日に米国外交文書の一部の公開(米外交公電25万通とされる)が始まると両者の対立はエスカレート。前後から愛国者などによる同サイトへの大規模なサイバー攻撃が始まった。多数のコンピュータを使って一斉にサイトにアクセスして、サイト閲覧をできない状態にするなど。米政府の非難を支持するかのように、アマゾンはサーバー機能貸出サービスを中止(11月30日)、寄付金口座を運営していた米ペイパルは口座を凍結した(12月3日)。これに対してウイキリークス支持者は、ウイキリークスを攻撃した政府・企業へのサイバー攻撃を呼び掛ける一方、数100に及ぶミラーサイトを立ち上げたとされる。
 米政府は創設者ジュリアン・アサンジ容疑者が2010年12月7日、ロンドンで逮捕されたことにも関与している疑いがある。12月6日、スイスの郵政公社がアサンジ氏の口座を凍結、7日には米カード大手VISAが同サイトへのあらゆる資金支払いを一時停止した。

originally appeared in January 19, 2010
corrected and reposted in May 9, 2010 and December 20, 2010

参考文献
市川類「ネット検閲で表面化した自由と統制の政治文化の軋轢」『エコノミスト』2010延5月18日号, 34-35.
黒井文太郎「拡大する中国のサイバー部隊 ベールに包まれた「網軍」の脅威」同上, 36-37.
"Wikileaks: Read cables and red faces", The Economist, Dec.4, 2010, pp.15, 29-33.
"Dealing with Wikileaks: the right reaction", The Economist, Dec.11, 2010, pp.15, 61-62.

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